孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  LTTE壊滅の先に民族融和があるか・・・

2008-01-19 14:20:10 | 国際情勢
スリランカでは16日、政府と少数派タミル人の武装組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」の間で02年に結ばれた停戦合意が失効しました。
“停戦合意”とは言っても、06年7月から実質的な内戦状態に入っていたことは12月21日の当ブログでも取り上げたところです。(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071221

戦況は政府軍に有利に展開しているようで、LTTEは10日、“停戦協定を復活させる準備は整っている”と、交渉を仲介していたノルウェー政府に対し和平への努力を継続するよう求めていました。
一方、政府側は2日の閣議での停戦破棄の決議以降も、「LTTEが武装解除しない限り、対話には応じられない」との姿勢を崩しませんでした。

最大の支援国である日本の政府も平和使節として元国連事務次長の明石康政府代表をスリランカに派遣。
13日から3日間の日程でスリランカ入りしましたが、戦闘で優位に立つスリランカ政府の強硬姿勢は変わらず、16日の失効に至りました。

この間、戦闘は激化しており、北西部マンナール県のLTTE支配地内で5日、LTTE軍情報部トップが政府軍の地雷の爆発により死亡。
8日には、コロンボ近郊でダサナヤケ国家建設相の車両を狙ったとみられるLTTEの仕掛けた路上爆弾が爆発し、同相は搬送先の病院で死亡しました。報復目的のテロだった可能性もあると見られています。

更に、停戦が失効した16日朝には、スリランカ南東部モナラガラ県ブタラ付近で路線バスが爆弾により爆破され、
乗客26人が死亡、64人が負傷。
LTTEが停戦終了の日を狙って起こしたテロと思われます。
コロンボでは車両検問や通行止めなどの厳戒態勢が敷かれており、市民の間には「追いつめられたLTTEがテロを起こすのでは」との不安が広がっているとも報じられています。
また、17日には、政府軍は北部キリノッチで会合を開いていたLTTE幹部の潜伏先を爆撃し破壊。
攻撃とテロの応酬が激化しています。

現在、スリランカ政府軍は「LTTEを壊滅する」と強硬姿勢を示しています。
政府軍は昨年7月、LTTEの東部の拠点を制圧。その後、LTTEの本部がある北部のキリノッチを目指して、攻勢をかけている段階です。
政府軍は長年LTTEを抑えきれずにいましたが、ここにきてようやく力で“押し切る”状況が生まれています。

(これまで決着がつかなかったのは、LTTEと政府の双方が紛争から利益を得ており、ともに決着させる意思がなかったからだという意見もあります。
政府は政策の失敗も何もかも、「紛争のせい」と言い訳をする一方で、政治家たちはあいかわらず私腹を肥やしている。政府軍もまた、紛争状態のおかげで多くの予算を獲得し、武器をLTTE側に横流しして金を儲けている・・・そのような話もあるようです。http://www.asiavoice.net/awc/n200008.html )

この情勢の変化の背景には、06年にEUが、米国などに続いてLTTEをテロ組織に指定し域内の資産凍結を実施し、欧米のタミル人社会を主な資金源にしてきたLTTEの戦力が低下したことがあるようです。
LTTEの支配地域を直撃した04年のインド洋大津波も弱体化の要因となったとも言われています。
政府側には、多数派シンハラ人の民族主義政党の支持を得るため、強硬姿勢を維持せざるを得ない事情もあるとか。
【1月16日 毎日】

もちろん、仮にこのまま政府軍がLTTEを軍事的に押し切ったとしても、問題が解決する訳でもありません。
根深いシンハラ・タミル間の対立が一朝一夕に消えることもありませんので、むしろ今後戦局の終盤に向かって、あるいは軍事的には決着がついた後も、テロなどによる市民生活の不安は高まることも予想されます。

この両者の対立を緩和するには政府の時間をかけた施策が必要になります。
スリランカ政府は23日に、民族問題の政治的解決のための権限移譲案をまとめるそうです。
タミル人の多い北部や東部に自治権限を与え、多数派のシンハラ人優位の政治への不満を解消するのが狙いと伝えられています。
また、ウィクラマナヤケ首相は9日、「LTTEが唯一のタミル人代表ではない」と述べています。
これは、移譲案を材料に交渉する相手はLTTE以外のタミル人政党で、LTTEについては戦闘やテロをやめない限り交渉相手にしないことを示唆したものとみられています。

LTTEがタミル人社会でどのように受けとめられているのか、LTTE以外にタミル人を代表する組織があるのか(カルナ派と呼ばれるLTTE分派で政府軍寄りの組織があるということは聞いたことがありますが)・・・そのあたりの実情はよくわかりませんが、LTTEを軍事的に排除し、LTTE以外の組織を相手に民族融和を進めるという、これまでスリランカになかった新たな流れが動き出すようです。

先ずは、23日の“権限委譲案”の中身、それに対するタミル人社会の反応が気になります。
イギリス殖民地政策の問題もありますが、民族対立の激化は、1956年にバンダラナイケ政権が憲法を改正して仏教の国教化、シンハラ語の公用語化などを盛り込み、「シンハラ・オンリー政策」を断行したことから始まっていると言われます。
過去の教訓に鑑み、融和が期待できる内容の“権限委譲案”であってもらいたいものです。

コメント
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