(08年2月 アメリカのケニー大使(左女性)と会談するMILFのムラド議長(右男性) 当時はアロヨ政権下で和平合意への交渉が行われていましたが、同年8月に最高裁差し止めで頓挫しました。 “flickr”より By jdomingo7772004 http://www.flickr.com/photos/10484270@N06/2755490133/ )
「歴史的な会談だ」】
フィリピンのアキノ政権は、南部ミンダナオ島を中心とする反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」との和平交渉を模索していましたが、4日夜、日本の成田近郊のホテルでアキノ大統領とMILF議長の会談が行われ、和平に向けた取り組みが始動したそうです。
****フィリピン:アキノ大統領、反政府組織議長と極秘会談****
フィリピンのアキノ大統領は4日夜、成田国際空港近くのホテルで、フィリピン南部ミンダナオ島で自治権を求め武装闘争を続ける反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」のムラド議長と、極秘会談した。
フィリピン政府によると、両者はMILFとの和平交渉について、アキノ大統領の任期中(16年まで)に和平合意に達し、合意内容を実行に移すことを確認したという。また、MILF側がフィリピンからの独立や分離を求めていないことを確認した。
MILF幹部によると、日本での会談はフィリピン政府からの要請で実現。日本は、英国やサウジアラビアなどとともに、09年11月から和平交渉のオブザーバー役を務める国際交渉団のメンバーになっており、安全上の理由から日本が会談の場に選ばれた。
MILFの議長が大統領と直接会談するのは、97年の交渉開始以来初。MILFのジャファー副議長は電話取材に対し「和平交渉が加速することを期待する」と話した。一方、政府側は「歴史的な会談だ」とした。【8月5日 毎日】
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【アロヨ政権下では、最高裁が合意を差し止め】
反政府組織が根強い活動を続けるミンダナオ島は、キリスト教徒中心のフィリピンにあっては少数派のイスラム教徒が多く暮らしており、フィリピン独立以前から植民地支配国への独立闘争が行われきました。
フィリピン独立後は、ミンダナオ島への国内移民の流入によって人口の多数をキリスト教徒が占めることになり、貧困に加えて社会の主導権を奪われたイスラム教徒側の怒りもあって、モロ・イスラム解放戦線 (MILF) や新人民軍 (NPA) など、さまざまな反政府組織とフィリピン国軍との内戦が頻発する状況となっています。
08年には、当時のアロヨ政権のもとで、一旦はMILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれた合意がなされましたが、一部政治家らが「国の中にもう一つ国を作るようなものだ」、「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁が和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下しました。
このため、08年8月21日、アロヨ大統領は和平合意を破棄することを発表、和平は実現しませんでした。
このあたりの経緯については、
08年8月23日ブログ「フィリピン ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080823)
08年11月12日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島 戦闘激化で引き裂かれる暮らし」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081112)
で取り上げています。
【強硬派が分裂するMILF】
アキノ政権は和平に向けた意欲は示していましたが、これまでは成果を得るには至っていませんでした。
11年1月27日ブログ「フィリピン 進まない南武装組織との和平交渉 新人民軍(NPA)、モロ・イスラム解放戦線(MILF)」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110127)
そうしたなかでの今回会談ですが、MILF側も政府との交渉に否定的な勢力が分派行動をとっていると言われており、今後の対応が注目されます。
****フィリピンの反政府武装勢力が分裂 和平交渉に暗雲****
フィリピン南部で反政府武装闘争を続ける「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」から、来週半ばに予定されるフィリピン政府との和平交渉を不服とする強硬派グループが分裂したことが4日わかった。30年以上続く紛争の解決は厳しくなり、和平を優先課題とするアキノ政権にも痛手となりそうだ。
比政府関係者によると、ミンダナオ島の中部を本拠とするMILFの有力者の一人であるカト司令官が配下とともに主流派からの離脱を宣言した。離脱したグループの勢力などは不明。
MILFは9、10の両日、マレーシアで比政府と直接対話を行う予定だ。MILFが長年求めてきた比からの独立を棚上げする形で政府との歩み寄りを図る、との観測があり、MILF内部で主に若手の強硬派から交渉への反発が出ていると指摘されていた。カト司令官は「我々は死ぬまで政府との闘いをやめない」と話しているという。【2月5日 朝日】
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また、MILF以外の組織は未だ政府との闘争を続けています。
先月もイスラム過激派「アブ・サヤフ」と国軍の交戦が報じられています。
****イスラム過激派の掃討作戦で比軍兵士7人死亡****
フィリピン南部ホロ島で28日、政府軍とイスラム過激派「アブ・サヤフ」が交戦し、AP通信などによると軍兵士7人が死亡、21人が負傷した。
兵士約30人がジャングルにあるアブ・サヤフ基地の掃討作戦を始めようとしたところ、激しい戦闘になったという。【7月28日 読売】
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