孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  反政府行動弾圧の手を緩めないアサド政権

2011-08-16 22:21:43 | 中東情勢

(8月13日 1週間に及ぶハマでの弾圧を終えて移動する戦車の車列 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6039032128/in/photostream

【「次の段階に進むことが望ましい」】
反政府デモへの弾圧が続くシリア情勢については、7月12日ブログ「シリア  米仏大使館襲撃で、米国務長官は“アサド大統領の退陣は不可避”との認識」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110712)で取り上げたところですが、その後も、どこそこの街で何人が死亡・・・といった記事が毎日流されるだけで、これといいった大きな動きがないまま推移しています。

8月4日には、これまでのバース党による一党支配体制から複数政党制へ移行する新政党法を承認する大統領令が出されましたが、抗議行動にも、弾圧にも変化は見られません。

****シリア:民間人死者2000人に 安保理報告****
国連の安全保障理事会は10日、アサド政権による反政府デモ弾圧が続くシリア情勢について会合を開き、担当事務次長補から報告を受けた。報告によると、弾圧開始以来の民間人死者数は約2000人に達し、英国のパラム次席大使は「対シリア圧力を強めるため安保理は追加措置を検討しなければならない」と強調した。

パラム次席大使は会合後、「政府側による人権侵害は続いており、改善は見られない」と指摘。ライス米国連大使も会合で「国連が危機の解決に向けてシリアに特使を派遣するなど、次の段階に進むことが望ましい」と述べた。

報告によると、シリアでは弾圧が始まってから約2000人の民間人が死亡。約3000人が行方不明となり、1万3000人が拘束されている。これに対して、シリアのジャファリ大使は「国連の報告と安保理の見解は事態を誤って伝えている」と反論した。【8月11日 毎日】
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【「我々の忍耐は限界だ」】
大きな動きがない中で、情勢変化を敢えてあげれば、弾圧を止めようとしないシリア・アサド政権に対する近隣アラブ諸国の批判が強まっていることでしょうか。
サウジアラビアのアブドラ国王は8月7日、「殺人マシンをやめよ」「シリアでの出来事を容認できない」と強い調子でシリアを批判し、「手遅れになる前に熟考し、改革を実行すべきだ」とアサド大統領に要求すると同時に、駐シリア大使の召還を明らかにしました。
その後も、クウェートとバーレーンが大使召還を決めています。

****シリア:周辺国から非難…バーレーンなど大使召還相次ぐ*****
シリア政府による住民弾圧で、サウジアラビアに続きクウェートとバーレーンが8日、シリアからの大使召還を決めた。さらにアラブ連盟(22カ国・機構)が懸念を表明するなど周辺地域からの相次ぐ非難にアサド政権の孤立が深まっている。

シリアの友好国トルコのエルドアン首相も「我々の忍耐は限界だ」と批判。9日にシリア入りしたトルコのダウトオール外相はアサド大統領と会談し、弾圧中止を強く求めた。
またペルシャ湾岸のアラブ6カ国で作る湾岸協力会議も6日、「即時に暴力を中止し、改革と人権保障を進めるべきだ」との声明を発表。イスラム教スンニ派最高権威機関アズハル(カイロ)の指導者、タイエブ総長は8日、「アラブの悲劇に終止符を打つべきだ」と声明で訴えた。(後略)【8月9日 毎日】
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【「アサド大統領がいない方がシリアの利益になる」】
世界中の民主化の守護神であるアメリカや、リビアへの積極的な介入を実行した欧州各国は、シリア・アサド政権への批判は行っていますが、実効ある対抗措置は取れずにいます。

****米、シリアに追加制裁 近くアサド大統領に退陣要求か****
米政府は10日、シリアに対する経済制裁の強化を発表した。世界各国にも圧力の連携を呼びかけ、同国の包囲網を狭めている。オバマ大統領は近く、アサド大統領の明確な退陣要求に踏み切るとの観測が強まっており、米国の対シリア政策は転換点を迎えつつある。

米財務省が10日発表した制裁対象は、シリアの国営銀行と同国最大の携帯電話通信会社など。資産を凍結し、米国関連の取引を禁じる。実質的にアサド政権の反体制派弾圧に対する制裁で、大統領本人らの資産凍結に続く追加措置だ。

カーニー米大統領報道官は10日、「アサド大統領がいない方がシリアの利益になる。国際社会は日増しに団結して、非難の声を強めている」と表明。最近のサウジアラビアなどによるシリアからの大使召還や、トルコのダウトオール外相による9日のシリア訪問などの動きに米政府が関与していることを示唆した。【8月11日 朝日】
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クリントン米国務長官は7月11日の時点で、シリアの首都ダマスカスの米国大使館と米大使公邸がアサド大統領支持派のデモ隊に襲撃されたことを受け、「アサド大統領は正統性を失い、(改革の)約束を果たすのに失敗した」と述べ、アサド大統領の退陣は不可避との認識を示していますが、“アサド大統領の明確な退陣要求”は特段の変化があるのでしょうか?
いずれにせよ、アメリカが退陣要求したところで、アサド大統領がそれに従うことは考えられません。

中東のパワーバランスを考えると、イランなど周辺国や、ヒズボラ・ハマスなどの過激派組織に大きな影響力を持つシリア・アサド政権が崩壊して空白が生じることをアメリカは本音としては望んでいない・・・と見られています。
また、欧州各国がリビアを持て余し、アメリカはイラク・アフガニスタンを抱えている状況では、シリアへの軍事介入という選択肢はありません。
そうした事情が、欧米各国の腰の重さの背景にあります。

モスク破壊、艦砲射撃?
そうした国際社会の及び腰を見透かすように、アサド政権の弾圧は激しさを増しています。
TVニュースで観た、モスクのミナレットが戦車からの攻撃で崩れおちる様子が衝撃的でした。
モスクが反政府行動の集合場所などの役割を果たしていることから、各地でモスクを狙った攻撃がなされているそうです。
イラクやアフガニスタンで外国勢力があんな攻撃を行ったら、イスラムへの冒涜として大変な騒ぎになりますが、同じイスラムであるアサド政権側は躊躇がないようです。

もっとも、“同じイスラム”とは言っても、世俗的な傾向が強いアサド政権は人口の1割のイスラム教アラウィ派(シーア派の一派)を支持基盤としているのに対し、現在反政府行動を行っているのは、人口的には圧倒的多数派である地方の保守的なスンニ派が多いという宗派的な事情はあります。


****シリア:民衆に艦砲射撃、住民25人死亡 政権は強硬姿勢****
アサド政権が民衆蜂起の武力弾圧を続けるシリアで14日、北部ラタキアを軍と治安部隊が海上の艦船などから攻撃し、反体制団体などによると、少なくとも住民25人が死亡した。艦砲射撃は3月に民主化要求デモが始まって以来初めてと見られ、政権側の強硬姿勢がさらに強まった形だ。

一方、アサド大統領の退陣を求めるデモは同日も北部アレッポや中部ホムス、首都ダマスカス周辺部などで発生。事態収拾の糸口も見つかっていない。

シリア国内の反体制団体「地域調整委員会」によると、政権側はデモが続いていた海岸沿いの地区などに13日から戦車や装甲車を配置。女性や子どもを除く住民の出入りを厳しく制限し、インターネットや電話の接続を切った上で、14日未明に大規模攻撃を始めた。

住民の一人はロイター通信に「2隻の船が砲撃するのを見た」と証言。政権支持派の武装集団が車で回り、住民に発砲するなどしているという。ラタキア南部に住む弁護士は毎日新聞の電話取材に「軍は激しく撃っている。夜8時ごろまで銃声が続いた」と語った。

一方、シリア国営通信はラタキアの状況について「機関銃や手投げ弾で住民を脅かす武装集団の掃討を行った」とし、治安要員2人が死亡、41人が負傷したと伝えた。海上からの攻撃は否定した。また、「多数の知識人らが外国の介入に反発している」とし、武力弾圧の中止を求める国連やアサド政権幹部への制裁強化を図る米欧をけん制した。【8月15日 毎日】
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【「弾圧をやめれば多数派の報復を招きかねない」】
海上からの“艦砲射撃”には驚きました。殆んど市民への無差別攻撃になりますが、本当でしょうか?
こうした攻撃の手を緩めないアサド政権について、“アサド政権が弾圧を続ける理由について、アルアハラム戦略研究所(カイロ)のハッサン・アブタレブ副所長は、アサド一族を含む人口の1割のイスラム教アラウィ派が、多数派のスンニ派住民を統治する構造を指摘。「弾圧をやめれば多数派の報復を招きかねない。政権は弾圧を続けるしかない」と話す。 反体制派も強力な指導者がいるわけではなく、アサド政権には、「今のうちなら反乱の芽を潰せる」との判断も働いているようだ。”【8月16日 朝日】といった指摘があります。

当分、抗議行動と弾圧が繰り返される状況が続きそうです。

コメント
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