(マラウイ “魔女”のキャラクター “flickr”より By Arjen P van de Merwe http://www.flickr.com/photos/arjenvdm/3095378854/ )
【「年寄りはみんな、まじない師に違いないと思われている」】
アフリカ南部の小さな国マラウイ・・・と言っても、場所が分かる方はあまり多くないのではないでしょうか。私も、地図が必要でした。
アフリカ大地溝帯に沿った国と言えば、大体の場所の見当がつきやすいかも。
世界最貧国の一つであり、国土の90%の地域には未だ電気が通っていないとも言われています。
この国にはまじないに関する風習が今なお根強く残っており、“まじない師”や“魔女”とみなされて逮捕されることがあるそうです。
****まじないで逮捕、迷信深い大衆と人権団体との戦い マラウイ****
孫が夜中に鼻血を出したことが事の発端だった。この凶兆に腹を立てた両親は、祖母にあたるカントゥカコ・スパウンヨロ(82)さんが息子にまじないをかけたと決めつけ、警察に通報した。
「なぜ自分の孫にまじないをかけなければならないの?」と訴え続けたスパウンヨロさんだったが、高齢の友人2人とともにまじないをかけた罪で有罪となり、それぞれ33ドル(約2600円)の罰金刑を言い渡された。ただし、マラウイの人口の62%がそうであるように、1日2ドル(約160円)以下で生活している彼女たちにとっては、目の飛び出るような金額だ。罰金刑が払えない3人は、代わりに首都リロングウェの悪名高い刑務所に収監されてしまった。
これを知った地元の人権団体は、罰金を立て替えて3人を救いだした。スパウンヨロさんの72歳の友人は、「マラウイでは年寄りは嫌われるんです。年寄りはみんな、まじない師に違いないと思われているんです」と話した。
■根強く残る迷信
英国の植民地だったこの国では、まじないに対する迷信が今なお根強く残っている。不可解な死、エイズ感染の拡大、干ばつ――あらゆることがまじないのせいだと広く信じられている。
そんな中、まじない師であるとの理由で差別を受けた人々を守るための人権団体「Association for Secular Humanism(ASH)」が昨年結成された。同団体によると、現在、まじない師であると決めつけられて刑務所に収容されている人は50人程度にのぼっており、最大で6年の刑に服している。まじないを行ったという理由で逮捕され、有罪になる人はこのところ増加傾向にあるという。
団体によると、子どもにまじないをかけたとしておい(62)とともに有罪になった女性(83)が、3年の刑期を終えて出所したものの、社会から受け入れられずに生活が困窮したという事例があった。そのため食糧と生活資金を援助したという。団体の責任者は、「(まじない師の烙印を押された出所者は)高齢で、病気がちで、治療も早急に必要とされている。社会から拒絶された彼らは絶望的な状況に陥っている」と話した。
■本来は「訴える行為が違法」
まじないを違法とする根拠となっているのが、1911年に英国植民地時代にできた法律だ。ただしこの法律は、誰かをまじない師だと決めつける行為、または誰かがまじないをかけたと決めつける行為を違法だと明記している。しかし、まじない師だと訴えた人よりは訴えられた人の方が刑務所行きとなっているのが、現実なのだ。
警察は、まじない師だと訴えられた人が刑務所に入ることについて、「正義感に駆られて暴力を振るおうとする暴徒たちから保護する意味合いもある」との見方を示した。
現在、ある政府系組織が、被害者、特にまじない師の烙印を押されることの多い女性や子供を守るために、法の見直しを進めているという。
なお、容疑者の多くがまじない師であることを否定するなか、昨年、まじない師であることを法廷で公言する男性が現れ、国中を驚かせた。【6月7日 AFP】
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どの社会にも人知を超えた“呪術的なもの”に関する風習は存在しており、そうした呪術的なものを“文化的に遅れたもの”“非合理的なもの”としてすべて否定することは誤った対応だとは思いますが、そうした風習によって暴力が惹起されるとなると放置できません。
上記記事にある人権団体「Association for Secular Humanism(ASH)」は、ノルウェー大使館からの資金援助を得て、こうした“魔術”に関連した暴力の実態調査を開始したと報じられています。
****今も続く「魔女狩り」、実態調査開始 マラウイ****
アフリカ南部マラウイで、魔女と名指しされ差別を受けている人々のために活動する人権団体が20日、「魔術」に関連した子ども、女性、年配者への暴力の実態調査を開始したと発表した。
「Association for Secular Humanism(世俗的ヒューマニズム協会、ASH)」が行う調査には、ノルウェー大使館が7万1000ドル(約545万円)の資金援助を行った。同団体によると、魔女に関連した暴力は同国で深刻な問題となっており、窮地に立たされた人々の人権は危機に直面している。同国ではこれまで、この種の暴力に焦点を当てた調査が皆無で、対処の仕方も検討されてこなかった。
調査は、同国28地区のうち魔女がらみの暴力事件が発生した8地区を対象に、来月まで行われる。暴力への最善の対処法について勧告を行う予定で、被害者の人権を守るための新たな法律も提唱していくという。(後略)【8月24日 AFP】
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【「魔女狩りキャンペーン」】
“魔術”“魔女”に関する迷信による暴力はマラウイだけの話ではありません。
西アフリカのガンビア(セネガルに周囲を囲まれた国)では、政府が支援していると見られる「魔女狩り」が数か月間行われたとの記事を以前目にしました。
****ガンビアで大々的な「魔女狩り」、政府が支援か****
西アフリカのガンビアでは、政府が支援していると見られる「魔女狩り」が今年の初めから数か月間続き、全土を震え上がらせた。魔女狩りが終わって7か月が経過するが、深刻な健康被害に苦しんでいる人がいまだに大勢いると、病院関係者が13日語った。
魔女狩りが明るみになったのは、今年(09年)5月。ガンビアで自称「呪術師」らが1000人以上の村人たちを誘拐・拘束した事実が明らかになった。これら「呪術師」らには、政府の命令により、武装した男たちが護衛についていたという。
誘拐された村人たちは、幻覚剤のようなものを飲まされたという。そうした薬を飲まされて意識がもうろうとなったところを「呪術師」にレイプされたとする報告もいくつか寄せられている。幻覚剤の影響で腎臓や胃に障害が起きた被害者も多い。
こうした「魔女狩りキャンペーン」は既に終わっているが、今も精神的・肉体的な後遺症に苦しんでいる人は多い。これまでに幻覚剤による腎臓障害で死亡した人は、少なくとも8人にのぼっているという。
ガンビアのメディアは、魔女狩りを行っているのはギニア人たちで、今年始めにヤヤ・ジャメ大統領のおばが死亡した直後に呼び寄せられたと報じている。ジャメ大統領は、おばの死を魔女のしわざだと話していたという。
アフリカ大陸で最も面積が小さいガンビアは、1994年の無血クーデターで政権をとったジャメ大統領が、現在も政権の座にある。ジャメ政権は近年、政敵や自身に批判的な人物への拷問や違法逮捕といった人権侵害を日常的に行っているとして、人権団体などから激しい槍玉に上がっている。【09年11月17日 AFP】
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【アルビノ1体で7万5000ドル】
マラウイに隣接するアフリカ東部のタンザニアやブルンジ、ウガンダなどでは、アルビノ(先天性白皮症の人)の体の一部がお守りとして高価で取引されており、アルビノ殺害が後を絶たない・・・という話題は以前も取り上げたことがあります。
****止まらぬアルビノ殺害、今月だけで被害者3人 アフリカ****
アルビノ(先天性白皮症の人)の殺害事件が相次いでいるタンザニアとブルンジで、今月に入って新たに3人の被害者が出たとカナダのNGOが6日、明らかにした。殺害の目的はアルビノの体の一部をお守りの材料として高値で売ることで、国際社会からの圧力にもかかわらずいまだに売買が後を絶たない現状が改めて浮き彫りになった。
NGO「セイム・サン」が地元警察の話として報告したところによると、タンザニアとの国境に近いブルンジのCendajuruで2日、アルビノの28歳の女性と4歳の息子が武装した9人組に殺害され、手足と臓器が切り取られる事件があった。止めに入った男児の祖父にあたるアルビノではない男性も殺害されたという。
セイム・サンによると、タンザニアでは今年2~4月にアルビノの殺人が1件、殺人未遂が4件発生している。2007年以降の殺害件数はタンザニアで57件(未遂6件)、ブルンジでは14件に上るが、あくまで報告に基づいた数値で実際ははるかに多いと見られる。過去2年間だけで100件を優に超えているとの予測もある。
法の裁きも遅々として進んでいない。タンザニアでは、この2年間に有罪判決を受けたケースはたった2件。一方ブルンジでは、14件中12件で既に有罪判決が下った。
07年から始まった一連のアルビノ殺害事件では、アルビノの体の部位がすべてそろったもの(手足4本と1対の耳、性器と鼻と舌が含まれる)が7万5000ドル(約670万円)で取引されているとタンザニア警察は推定している。
タンザニアの人口3500万人のうちアルビノは約15万人。アルビノの赤ちゃんが産まれた場合、差別を免れるために、親が故意に殺すこともあるという。【10年5月7日 AFP】
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コンゴでは、キリスト教原理主義に基づく新興宗教の教会が、「魔女狩り」サービスで収入を得ているそうです。
****「魔女狩り」で収入を稼ぐ教会、コンゴ民主共和国****
コンゴ民主共和国の首都キンシャサ(Kinshasa)には、キリスト教原理主義に基づく新興宗教が数千あるが、これらの教会は「魔女狩り」サービスで収入を得ている。
子どもが悪魔に取りつかれていないかを有料で調べる。悪魔に取りつかれた子どもの悪魔払いには別途料金がかかる。その方法は、何日間も食事を与えず、殴る蹴るの暴行を加えて悪魔を退散させるというものだ。
なお、魔女に認定された子どもの多くは、家族から見捨てられている。
人口約1000万人のキンシャサにはホームレスの子どもが2万人以上いるが、うち3人に1人以上が魔女と名指しされ、迫害を受けている。【10年12月24日 AFP】
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【「悪魔に率いられたデモ」】
話をマラウイにもどすと、マラウイでも民主化を要求する反政府デモと治安部隊の衝突が7月に起きています。
****アフリカ・マラウイで反体制デモ、18人死亡 大統領は退陣拒否*****
アフリカ南部マラウイで20、21日の両日、ビング・ワ・ムタリカ大統領(77)の経済政策の失敗と民主的権利の侵害に抗議する反体制デモが暴徒化し、2日間で18人が死亡した。
首都リロングウェと経済の中心地ブランタイヤでは治安部隊が展開し、2000人余りのデモ隊を鎮圧。ムタリカ大統領は21日、国営ラジオで演説し、「悪魔に率いられたデモは敗北する」などと述べて退陣を強く拒絶した。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、死者のうち少なくとも8人は北部ムズズで治安部隊の銃撃によって死亡しており、また子ども6人を含む44人が銃傷を負って病院で治療を受けているという。【7月21日 AFP】
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「悪魔に率いられたデモ・・・」というムタリカ大統領の発言は、表現上の比喩ではなく、文字どおりの意味なのかも。