孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア紛争から3年  親露独立派2地域を事実上支配するロシアへのアメリカ・グルジアの反発

2011-08-08 22:27:21 | 欧州情勢

(グルジア紛争当時のグルジア側の犠牲者 もちろん南オセチア側にも同様の犠牲者が出ています。“flickr”より By lavanda_m  http://www.flickr.com/photos/29584935@N06/2762714939/ )

ダブルスタンダード(二重基準)】
めまぐるしい世の中にあってはかなり記憶も薄れてきましたが、2008年8月8日未明、グルジアが親ロシア独立派地域の南オセチア自治州を再統一しようと攻撃を開始し、ロシアが「自国民保護」を掲げて報復する形で“グルジア紛争”が勃発して3年が経過しました。

グルジア紛争では、南オセチア及びロシアの発表によれば、南オセチア民間人2000名が死亡、また、グルジアの公式発表によると少なくとも228名のグルジア民間人が死亡したとされていますが、実際のところはよくわかりません。難民については15万人とも23万人とも言われています。
“少なくとも158,000名の民間人が移住を余儀なくされた。その内、3万人の南オセット人がロシア北オセチア共和国へ、5万6千人のグルジア人がゴリからグルジアへ、1万5千人のグルジア人が南オセチアから国際連合難民高等弁務官事務所に保護された。一方、グルジア人による人道支援団体によると、難民は最低でも230,000人である。”【ウィキペディア】

EUの調査委員会が09年に出した報告書は、紛争はグルジア側の攻撃で始まったとしている一方で、ロシアが南オセチア住民にパスポート(市民権)を与えるなど武力衝突の素地を作ったともしています。

****グルジア紛争3年、犠牲者を追悼 南オセチア****
旧ソ連グルジアからの独立を主張する南オセチアをグルジア軍が総攻撃し、ロシアが軍事介入したグルジア紛争から3年。南オセチアの中心都市ツヒンバリでは7日、グルジア軍が総攻撃を仕掛けた午後11時35分に合わせて犠牲者の追悼行事が始まり、教会前の広場に数千人が集まった。

インタファクス通信によると、南オセチアのココイトイ大統領は、攻撃を仕掛けた親米グルジアのサアカシュビリ大統領はハーグの国際司法裁判所で人道に対する罪で裁かれるべきだと主張。コソボなどの独立を欧米が認めていることを念頭に「もし欧米がダブルスタンダード(二重基準)をとらないなら、サアカシュビリ大統領はハーグで裁かれたバルカン諸国の犯罪者と同様に服役すべきだ」と述べた。

ロシア外務省によると、南オセチアでは軍事攻撃で民間人ら約1600人が犠牲となり、3万人以上が難民化した。ロシアはグルジア紛争後、南オセチアとアブハジア自治共和国のグルジアからの独立を承認し、グルジア軍の再攻撃を予防する名目で両地域にロシア軍を駐留させている。【8月8日 朝日】
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もっとも、“ダブルスタンダード(二重基準)”云々で言えば、ロシアもコソボ独立を認めるべき・・・との言い方もできます。

【「リセット」と称される米露関係の改善にも影
軍事介入したロシアは、アブハジアと南オセチアの親露独立派2地域の独立を一方的に承認して、同地域に軍事基地を設け、事実上の支配下に入れています。

****グルジア紛争3年 2地域独立めぐり応酬 譲らぬ米露、雪解け遠く****
ロシアと旧ソ連の親欧米国、グルジアが交戦した「グルジア紛争」の勃発から8日で丸3年となる。双方は自らの行動を正当化する主張を崩しておらず、両国関係は膠着(こうちゃく)状態が続いている。紛争後のロシアがグルジアの親露独立派2地域を事実上の支配下に入れている状況には米国も非難を強めており、グルジア問題が「リセット」と称される米露関係の改善にも影を落とす。
                   ◇
ロシアのメドベージェフ大統領は露メディアのインタビューで「紛争の全責任はグルジアのサーカシビリ大統領にある」とし、サーカシビリ氏との対話は拒否する考えを強調。ロシアが紛争後、グルジアの南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を一方的に承認したことも、両地域を防衛する上で「完全に正しかった」と述べた。

ロシアはこの紛争で欧州連合(EU)との和平合意に署名し、部隊を戦闘前の位置まで撤退させることを約束した。しかし、その後は「独立承認」を盾に両地域に軍事基地を構え、EU停戦監視団の立ち入りも認めていない。

米国上院は先月末、アブハジアと南オセチアを「ロシアに占領された地域」とし、ロシアが「グルジアの領土保全」を尊重して和平合意を履行するよう求める決議を採択した。
メドベージェフ大統領は和平合意と2地域の独立承認を別問題とし、米上院決議には「根拠がない」と批判する。
ロシア以外で両地域の独立を承認しているのはニカラグア、ベネズエラ、ナウルの3カ国にとどまる。

両国関係の「リセット」をうたう米露は2月、新戦略兵器削減条約(新START)の発効にこぎ着けたものの、米ミサイル防衛(MD)計画をめぐっては対立が和らいでいない。
ロシア内務省幹部らの大規模不正を告発したマグニツキー弁護士が2009年に獄死した事件をめぐり、米国が先月、事件に関係する役人ら約60人の入国拒否を決めたことについてもロシアは強く反発、対抗措置の準備に入った。

グルジア紛争から3年の節目は、米露間のこうした暗雲をさらに濃くしている形だ。露科学アカデミーのカフカス地域専門家、アレシェフ氏は最近の公開討論会で「グルジア紛争をめぐって米露には譲れない一線があり、『リセット』には明確な限界があろう」との考えを語った。

グルジアではサーカシビリ大統領が開戦責任を回避して政権を保持している。グルジアは、米国が総論で支持するロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に反対しており、これも米露関係を複雑化させる要因になっている。【8月8日 産経】
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ロシアのWTO加盟問題を外交カードとして利用するグルジア
アブハジアと南オセチアの独立、あるいは将来的にはロシア編入を既成事実化しようとするロシアですが、少々頭が痛いのは上記記事最後にもあるWTO加盟問題です。

****ロシア、WTO加盟へ正念場 申請18年、交渉大詰め****
経済飛躍へ期待感
ロシアの2010年の国内総生産(GDP)は1兆4798億ドル(117兆円)で世界第11位(世界銀行調べ)。WTO非加盟国の中で最大の経済大国だ。

WTO加盟でグローバル化の波にのれば、ロシア経済はさらに飛躍するとの見方は強い。世銀の元主任エコノミストのデビッド・タール氏によると、加盟直後に毎年GDPを3.3%押し上げる効果が見込め、長期的には最大11%の上昇が期待できる。国際的な「お墨付き」を得ることで、国際的な信用が増すためだ。
さらに外資系企業が進出すれば、良質な労働力となる中産階級が豊かになり、自由化で金融などのサービス業拡大も見込める。

経済の「現代化」を旗印に掲げるメドベージェフ政権にとっても加盟は不可欠だ。昨今の原油高にもかかわらず、ロシアからの資本流出額が今年は300億ドル(約2兆4千億円)を超えるとの見通しもある。司法への不信、汚職体質や官僚主義が投資環境を阻害している。市場の信用力を高めるためにも、WTO加盟を実現したいのが本音だ。

WTO体制に巨大な市場を抱えれば国際経済のパイが膨らむ期待もあり、「ロシアは最後に残った大物。大きな経済効果を生む可能性もある」(WTO関係者)。現在約190社ある日本のロシア進出企業も増加が予想されるが、北方領土問題が支障になれば日本が出遅れる可能性もある。【7月29日 朝日】
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大枠としては、ロシア加盟に向けてアメリカの了解も取り付けてはいますが、各論になると、自動車組み立てや肉などについての市場開放で未だ未解決問題があります。
そうした“中身”の問題のほか、WTO加盟国であるグルジアがロシア新規加盟に同意するかという問題があります。

これまで、WTO新規加盟国はすべての既加盟国の合意を取りつけてきました。
従って、ロシアはグルジアの同意も必要としていますが、グルジア紛争が尾を引く状況で、グルジア側は、ロシアの支配下におかれている南オセチア・アブハジアとロシアのあいだの国境の税関を、グルジア税関の管理下におくよう主張し、それが満たされないあいだは交渉に応じないとしてきています。
両地域の独立を認めているロシアにはとうてい認めがたい条件です。グルジアは、ロシアのWTO加盟問題を外交カードとして利用しています。

アメリカは、ロシアとの“リセット”後、グルジアに対してさまざまな援助プログラムや対欧州貿易交渉の支援、(ロシアが2006年からグルジアに対して禁輸してきた)ワインやミネラルウォーターの禁輸措置がロシアのWTO加盟によって解除される、などの「アメ」を並べながら、ロシアのWTO加盟を認めるようグルジアに圧力をかけているとも言われています。【7月12日 SYNODOS JOURNAL】
当然、ロシアはグルジアに譲歩を迫っています。

****露大統領:WTO入り反対のグルジア非難 譲歩迫る****
 【モスクワ田中洋之】ロシアのメドベージェフ大統領は4日、08年8月のグルジア紛争開始から3年になるのを前にロシアとグルジアの一部メディアと会見した。大統領はロシアの世界貿易機関(WTO)加盟に反対しているグルジアを非難し、グルジアが態度を変更すれば両国の国交回復に道が開けると譲歩を迫った。大統領がグルジア紛争後にグルジアのメディアと会見するのは初めて。

ロシアは年内のWTO入りを目指しているが、現加盟国のグルジアの反対が最大の障害になっているとされ、大統領は「グルジア指導部が(反対を撤回する)賢明さを示せば、貿易・経済関係の再開や、さらには外交関係回復につながるだろう」と述べた。【8月5日 毎日】
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グルジアの反対に対し、“WTO協定によれば加盟国の3分の2の承認をとればよいとされており、これまでの慣例には反するが、ロシアはグルジアの承認が得られなくとも論理的にはWTO加盟できる”という主張も出ています。

また、バイデン米副大統領とサーカシビリ大統領の会談で、サーカシビリ大統領がロシアのWTO加盟を無条件で支持することに同意したとの情報もあるようですが、真偽はよくわかりません。
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