(本文朝日記事の“密輸ビジネス”は、クルド人が背負ったりラバに積んだりして標高1600メートルの山岳地帯を越えて運び込む・・・といったオーソドックスな“密輸”ですが、写真は、イラクのクルド自治政府が制裁を無視して大規模にイランへ石油を輸出している“密輸”の様子 国境線をはさんだイラク・イラン双方ともクルド人居住区ですから、“密輸”でも何でもなく、国境線の方が間違っている・・・ということでしょうか。
“flickr”より By kurdistan-kurdstan http://www.flickr.com/photos/52377962@N02/4861888710/ )
【続く経済制裁】
最近、イラン関連のニュースをあまり目にしません。
中東・北アフリカの民主化運動、あるいは混乱を横目に、思いのほか静かな対応です。
自国への波及のほうが気になるのでしょうか。
核開発疑惑に関する経済制裁は相変わらず継続していますが、ロシアが「段階的解決案」なるものを提案しています。
****イラン:核問題でロシア「段階的解決案」 「土台となる」*****
タス通信によると、イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は16日、テヘラン訪問中のロシアのパトルシェフ安全保障会議書記と会談後、イラン核問題でロシアが提示した「段階的解決案」について、国連安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツの6カ国との協議を再開するための「土台となる」と評価した。
「段階的解決案」はイランの協力と引き換えに6カ国側が制裁の一部解除などに応じる内容とみられる。イランのサレヒ外相は16日、モスクワ入りし、段階的解決を発案したラブロフ露外相と17日に会談する予定で、核協議再開に向けた調整が本格化する。【8月16日 毎日】
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【密輸ビジネスで空前の活況】
経済制裁が続けば密輸が横行する・・・というのは自然の道理でもあり、イラクとの国境は、密輸ビジネスで“空前の活況に沸いている”とのことです。
北朝鮮のような統制経済のもとでの違法闇市場が社会にとって必要不可欠なものになるのと同様、経済制裁下でのイランにおいても、違法“密輸”が社会全体を支える重要な役割を担っているようです。
****「テヘランより安い」イラン国境、密輸品で活況*****
イラン北西部の町が、空前の活況に沸いている。国境を接するイラクから大量に入ってくる密輸品のおかげだ。家電製品を中心に価格は都市部よりも安く、国内各地から買い物客が訪れる。核開発をめぐる国際社会の制裁で経済が停滞するなか、ここだけは別世界のようだ。
「テヘランよりも断然お買い得!」。そんな宣伝文句が躍るショーウインドーを、家族連れが食い入るように見つめる。イラク国境から約40キロ離れたイラン北西部バネ。中心部の市場には家電製品や台所用品、衣類などを売る数百軒の店がひしめきあう。
人気なのは韓国製の42型液晶テレビで、850万リアル(約6万600円)。1千万リアルの米国製エアコンも売れている。すべての商品が首都テヘランより2~4割も安い。視聴が禁じられている衛星テレビのチューナーも、店頭に堂々と置いてあった。
「5時間かけて来たかいがあったよ」。北西部の町から車でやって来た会社員エフサンさん(27)は液晶テレビが入った段ボール箱を手に満足顔だ。結婚を控えたカップル向けにテヘランの旅行社が売り出した2泊3日の「バネ買い物ツアー」が人気で、40人の定員はたちまち埋まる。ツアー客は1千万~2千万リアルをバネで消費するという。
イランとイラクの密輸は2000年ごろから、両国に暮らす少数民族クルド人の間で細々と始まった。クルド人を弾圧したイラクのフセイン政権が03年に崩壊すると規模は一気に拡大した。
密輸商人によると、商品はアラブ首長国連邦ドバイを経由してイラク南部に陸揚げされ、国境地帯に運ばれる。地元のクルド人が背負ったりラバに積んだりして標高1600メートルの山岳地帯を越え、イランに運び込む。運び屋の稼ぎは月3千ドルほど。バネの人口は11万7千人だが、「3割は密輸がらみの仕事をしている。当局も黙認だ」という。
産業もなく貧しかった国境の町を潤す「密輸ビジネス」。羽振りのよさは、住宅の新築や改築があちこちで進んでいるところにも見て取れる。
国連安全保障理事会は昨年6月、4度目の対イラン制裁決議を採択。米国や欧州連合(EU)なども独自制裁に乗り出した。外国企業はイランとの取引を控えるようになり、通貨リアルは下落し、正規の輸入品が割高になった。国際社会がイランへの制裁を強めたことが、密輸品の需要を高める結果になった。
密輸はイラク以外にも、ペルシャ湾を挟んだ対岸のオマーンやアラブ首長国連邦ドバイとの間を船で結ぶルートもあり、イラン国営通信は、周辺国からの密輸入額が年間100億ドル(約7658億円)に達すると伝えた。
アフマディネジャド大統領は7月、密輸の撲滅を指示。さらに、地元紙によると「税関や国境警察の職員はわいろを取り、腐敗している。信頼できる人物に交代させるべきだ」と述べ、関係当局を批判した。
ただ、医療関係者によると、経済制裁で入手が難しくなった外国の高価な医薬品は密輸されたものを買わざるを得なくなっているという。強権支配に対する国民の不満を抑えるためにも、政府はある程度、密輸に目をつぶっているようだ。【8月20日 朝日】
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【“制裁で進むイラン経済改革”の皮肉】
“面白い“のは、イランを敵視する欧米諸国による経済制裁が、結果的にイラン経済の経済改革を促し、石油収入をあてにした補助金ばらまきの経済体質を改善しつつあるとのことです。
財政改革が進まず困難に直面している欧米諸国にとっては、なんとも皮肉な結果です。
*****イラン:制裁が経済にプラス? IMFが異例の改革評価*****
制裁がイラン経済にプラス?--国際通貨基金(IMF)は3日、イランのアフマディネジャド大統領による経済改革を高く評価する報告書を発表した。イランは核開発問題を巡り国際社会から経済制裁を受けているが、報告書は「補助金改革の成功などで、今年の経済成長率は3.2%」と予測している。
イラン政府はイスラム革命(79年)以降、電気やガソリン代、食料価格などを低く抑えるため莫大(ばくだい)な補助金を導入してきた。しかし、国連や欧米からの相次ぐ制裁による石油収入の減少などで財政が逼迫(ひっぱく)。大統領は昨年12月、国会多数派の反対を押し切り、国内総生産の15%に当たる600億ドル(約4兆7000億円)の補助金を削減した。
一方で、報告書は制裁による負の影響も考慮しながらも、「補助金改革がイラン経済の効率性、競争性を高め、経済成長を促す」と肯定的に評価。原油価格の上昇も踏まえ、今年4月の報告書では0%としていた経済成長率の予想を上方修正した。
大統領は補助金削減と同時に各家庭への現金給付も実施しており、これが「物価上昇の影響を軽減し、貧富の差の解消にもつながった」と分析した。経済制裁によって核問題で譲歩を引き出したい米欧にとっては、予想外の結果になっている。【8月7日 毎日】
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【「イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」】
“面白い”と言えば、イランにおける当世ネット恋愛事情についての話題もなかなか面白いものでした。
****イラン:「ネット恋愛」を宗教指導者が容認****
イランのイスラム教シーア派最高権威(大アヤトラ)の宗教指導者、マカレム・シラジ師は28日までに、インターネット上で若い男女が知り合うことについて、容認するファトワ(宗教見解)を出した。結婚前の自由な男女交際や大勢のパーティーすら禁じられる同国で「ネット恋愛」にゴーサインが出るのは異例。
イラン学生通信などによると、同師はネット上の恋愛について「さまざまな人々がネット上で相手を探し、一部は成功しているようだ。イスラムの原則を尊重し、信用できる人々の監視下にあれば問題ない」との見方を示した。
同国では高校まですべて男女が分離され、互いに知り合う場が少ない。反政府デモへの警戒からイラン当局は交流サイト「フェイスブック」などの閲覧を禁じているが、サイト上では多くの男女が交友関係を広げているのが実態だ。
家族の役割を重視するイスラム教国のイランでは早い結婚が奨励され、アフマディネジャド大統領は昨年11月、「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」と語った。しかし、女性の高学歴化や男性側の資金不足などで、現実には結婚平均年齢(女性24歳、男性26歳)は上がる一方。こうした現状に宗教界も頭を痛め、ネットを通じた恋愛が結婚を促すとして容認したとみられる。【6月29日 毎日】
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「女性は16~17歳、男性は19~20歳で結婚するのが望ましい」という伝統的価値観を背景にした、現代的「ネット恋愛」と保守的宗教指導者のファトワの組み合わせが面白い話題です。
イラン社会も変化しつつあるようです。