孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  住宅価格高騰に対して広がる抗議行動 住宅難打開策として入植地住宅建設承認?

2011-08-12 21:05:59 | パレスチナ

(イスラエル・テルアビブの目抜き通りに出現した抗議のテント村 “flickr”より By Shachar Laudon pics http://www.flickr.com/photos/45712602@N07/5959221151/

【「所帯を持つことを想像できない」】
中東・北アフリカの民主化要求運動に触発される形で、イスラエルでも民衆の抗議行動が起きているそうです。
イスラエルの場合、要求の中心は住宅価格高騰への不満があるとのこと。

****イスラエル:住宅価格高騰に抗議のテント村****
イスラエルの住宅価格高騰に抗議する若者が7月中旬、テルアビブの目抜き通りの緑地帯でテント暮らしを始め、インターネット交流サイト・フェイスブックで仲間を募った。所得格差への不満を持った、民主化要求運動「アラブの春」に触発された中間・低所得者層が賛同、税負担や教育費の軽減を求める広範な運動になっている。

緑地帯はテント約400張りの村になり、今月6日には各地で計約30万人がデモ行進。テルアビブのビデオ編集者、ジュリアンさん(29)は「所帯を持つことを想像できない」と憤る。自身の月収は多くて6000シェケル(約13万円)だが、アパート家賃はその半分。年金など社会保障とも無縁だ。

ネタニヤフ首相は対応を約束しながらも、財政支出は拒んだまま。テント村は当面、存続しそうだ。【8月10日 毎日】
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【「住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はない」】
これだけの話であれば、取り立ててどうと言うこともない記事ですが、こうしたイスラエルの住宅価格高騰が中東和平交渉にも関係してくる可能性があります。

イスラエルとパレスチナ自治政府の中東和平交渉は、イスラエルが入植地への住宅建設を止めないことで頓挫しており、パレスチナ自治政府は直接交渉を見限る形で、9月の国連総会でパレスチナ国家を承認する決議案の採択を求める方針で動いています。イスラエルは、こうした一方的行動は和平のためにならないと反発しています。

そうした一方で、和平交渉の差し当りの障害となっているイスラエルの入植活動について、イスラエル政府は、新たに東エルサレム入植地で1600戸の住宅を建設する計画を承認しました。

****東エルサレム入植地に住宅1600戸の建設を承認、イスラエル****
イスラエルのエリ・イシャイ内相は11日、東エルサレムの入植地ラマトシュロモに、新たに1600戸の住宅を建設する計画を承認した。内務省報道官によると、東エルサレム内の2地域に計2700戸の住宅を建設する計画も、近く承認する見通しという。

ラマトシュロモの住宅建設計画は2010年3月に発表されたが、中東和平協議の地ならしとしてジョゼフ・バイデン米副大統領がイスラエルとパレスチナを歴訪したタイミングでの発表だったため米国が不快感を示し、両国の外交問題に発展した経緯がある。

今回の発表を受け、パレスチナ側は強く反発。パレスチナが国家承認を得て国際連合への正式加盟を目指すなか、中東和平協議再開への道を模索する国際社会からの反発も必至だ。

一方、イスラエル内務省は今回の承認について、あくまで経済的な理由によるものだと説明。国内で数週間前から続く住宅価格・生活費の高騰に対する住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はないと強調している。【8月12日 AFP】
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“住宅価格・生活費の高騰に対する住民の抗議デモに応える政策で、政治的な意図はない”という説明が、どこまで実態を表しているのか、イスラエル政府の国際批判を避けるための単なる口実にすぎないのか・・・そのあたりはよくわかりませんが、入植地居住者は、宗教的背景を持った強硬なユダヤ教徒というよりは、単に経済的に入植地の方が住宅取得が容易だからという理由の者が多いという話は以前から聞いています。

いずれにしても、パレスチナ側が強く反発している入植活動ですから、仮に“政治的な意図はない”にしても、結果はすこぶる政治的です。

【「入植費用が、税金を押し上げているのは確かだ」】
イスラエルにおける住宅価格などの物価高、その背景にあるとも言われる税金の高さについては、巨額の安全保障支出のせいにされることが多いようですが、ヨルダン川西岸への入植費用や、ユダヤ教超正統派への福祉予算の膨張、非競争的な産業構造に原因があるとの指摘もあります。

****イスラエル 物価高に抗議の嵐吹く****
それは数人の大学生が住宅価格や家賃の上昇に抗議して、テルアビブの目抜き通りにテントを張ったところから始まった。食料品やガソリンなどの価格高騰に不満を募らせた人々がそれに加わり、デモ参加者の数はついに2万人に達した。

中東での騒乱になぞらえて、これをイスラエル版「アラブの春」と呼ぶ者もいる。ネタニヤフ首相は最初こそ事態を軽く見ていたが、後に長期的な改革を約束。だが、抗議者たちを解散させることはできなかった。
労働者総同盟ヒズタドルートのトップは、政府が物価を下げて低中所得者層の生活を守る努力をしなければ、全国規模のデモに踏み切ると迫った。

数年前まで、テルアビブの物価は世界的にみればそこそこの水準だった(主要都市の物価ランキングで40位近辺)。だが03年以降、順位は次第に上がり、昨年はある調査で19位に。東京やモスクワよりは安いが、ニューヨークよりも高いという。

イスラエルでは巨額の安全保障支出のせいで税金が欧米より高いからという説明が一般的だ。なかでも悲惨なのは自動車で、100%の購入税がかかるため新車はアメリカの2倍も高い。
しかし、国防予算は70年代以降激減し、昨年はGDPの6.3%程度にとどまっている(アメリカは約4.7%、フランスやイギリスは3%未満)。

一方でヨルダン川西岸への入植費用や、ユダヤ教超正統派への福祉予算は膨らんでいる(労働年齢にある超正統派の男性のかなりの数が、国から生活費をもらって宗教を学んでいる)。
イスラエル経済に関する著書もあるデービッド・ローゼンバーグは、政策に圧力をかける強力なロビーの存在を指摘する。「入植費用のはっきりした数字は分からないが、税金を押し上げているのは確かだ」

国が小さく人目が800万弱と少ないため、主要産業にほとんど競争がない点を理由に挙げる経済学者もいる。その結果、ビジネスは少数の者に牛耳られる。「15~20ほどの一族がイスラエル経済をほぼ支配している」とバルイラン大学の経済学者ダニエル・レビは言う。

デモ参加者たちの要望をかなえるには経済の抜本的な改革が必要だ。しかし金利は歴史的に低い水準にあり、不動産価格や賃貸料は上昇を続けるだろう。デモによる需要の伸びに応じて、テントの価格まで上昇中だ。    【8月10日号 Newsweek日本版】
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