孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド、“ネール王朝”4代目に向けた動き加速  アジアにおける世襲政治

2011-08-11 22:30:25 | 南アジア(インド)

(ソニア・ガンジー国民会議派総裁(右)と長男のラフル・ガンジー幹事長(左) アメリカ“ケネディ王朝”と同様に、暗殺の悲劇がつきまとう“ネール王朝”でもあります。 “flickr”より By pressbrief.in  http://www.flickr.com/photos/28101929@N08/3844315377/ )

核兵器根絶への思いを込め黙祷
インド下院では、広島と長崎の原爆投下日である8月6日か9日には、毎年黙とうが行われているそうです。

****インド下院 原爆の日に黙祷****
長崎で66回目の原爆の日を迎えた9日、インド下院(定数545)は広島と長崎での原爆犠牲者に対する黙祷(もくとう)を行った。インドは英国から独立した1947年以降、原爆が投下された8月6日か9日に、核兵器根絶への思いを込め黙祷を続けている。

クマール下院議長は審議の冒頭、「核兵器根絶を誓い、下院は世界の平和を守るための全努力を心から支持する」と述べた。続いて、全下院議員が起立して1分間の黙祷をささげた。
日本からは斎木昭隆駐印大使が、長年の黙祷への謝意を示すために議場で傍聴した。【8月10日 産経】
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“核兵器根絶への思いを込め”とありますが、インドは言わずと知れた核保有国であり、米ロなどがまがりなりにも核軍縮を行っているなかにあって、パキスタンとともにその保有数を増加させていると言われています。
また、現在のところ核管理体制の根幹である核不拡散条約(NPT)にも、条約が制定時の核兵器保有5か国にのみ核兵器保有の特権を認めそれ以外の国には保有を禁止する不平等条約であるとして加盟していません。

そうしたことで、インドの核問題に関してはいろいろ突っ込みどころがない訳ではありませんが、それはそれとして、原爆犠牲者へ哀悼の意を表してくれることに関してはありがたいことです。

ネール王朝
ところで、インド政界のシン首相を凌ぐ最高実力者は、イタリア生まれながら、最大与党である国民会議派総裁のソニア・ガンジー総裁(64)です。ネール元首相の孫である故ラジブ・ガンジー元首相の妻でもあります。
そのソニア氏が手術のため渡米(インドメディアは、手術を受けたのは米ニューヨークのがん専門病院だったと報じています)していますが、自身が不在の間は長男のラフル・ガンジー幹事長(41)ら4人に党務を任せると表明しています。
このことで、ネール王朝4代目として次期首相候補と目され、国民的人気も高いラフル氏が党内ナンバー2の地位についたことになり、首相待望論も加速しているそうです。

****ラフル・ガンジー氏、「4世代首相」着々と前進****
インドの「ネール・ガンジー王朝」の後継者で、政界きっての“サラブレッド”として知られる最大与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長(41)への首相待望論が高まっている。清廉なイメージで国民の人気を集めてきたシン首相(78)が、汚職事件をめぐり指導力を発揮できずに支持率を落とし、次世代リーダーのラフル氏に期待が集まっている格好だ。

ただ、ラフル氏の政治的手腕は未知数。国内最多の有権者を抱え、来年春にも実施される北部ウッタルプラデシュ州議会選で会議派に勝利をもたらすことが、次期首相就任の必須条件となる。

 ◆41歳・若者に浸透
インドメディアが8日発表した、シンクタンクの世論調査(約2万人対象)結果によると、次期首相としてラフル氏の名前を挙げた人は19%に上り、前回調査(2009年)の約3倍増。初めて、シン首相と、母親で会議派を率いるソニア・ガンジー総裁(64)を抜いて次期首相候補のトップに立った。シン首相、ソニア・ガンジー総裁はともに10%で2位だった。(中略)

ラフル氏に関しては、シン首相も後継者と位置づけているほか、会議派重鎮からも同様の声が相次いでいる。また、米国で手術・療養に専念するソニア氏に代わって先週、ラフル氏が党務を担当することになり、事実上、会議派ナンバー2に浮上した。

党内では、ラフル氏が党勢を失った会議派復活の原動力になるとの期待が強い。実際、ラフル氏のてこ入れで学生・青年層の党員数が急増。インドの人口12億人の57%は15歳から59歳で、41歳のラフル氏ならこの世代にアピールできるとの読みがある。

党内の一部には、来年夏にも大統領の交代がありうることから、次期大統領にシン首相を推し、ラフル氏をシン氏の後任の首相にすえるシナリオが浮上している。だが、14年までに実施しなければならない総選挙を控え、選挙管理内閣の首相としてラフル氏のパフォーマンスが悪ければ、本格内閣の可能性が絶たれることから慎重な見方も強い。

 ◆予断許さぬ選挙
肝心のラフル氏は首相ポストへの意欲をまだあらわにしていない。7月には学生との会合で「首相になることを考えたこともない」と発言したとされる。だが、会議派筋は「シン政権のように連立を組む政党から揺さぶられないようにするため、次期総選挙で安定多数を確保した環境での首相就任を望んでいるのではないか」とみている。

とはいえ、ラフル氏の首相就任には前提がある。来年春にも行われるウッタルプラデシュ州議会選で会議派が勝利することだ。
マンモス選挙区である同州議会選は、次期総選挙の趨勢(すうせい)を占う重要な選挙。同州は「ネール・ガンジー王朝」の地盤でもあるが、現在は低カースト出身のマヤワティ氏率いる大衆社会党(BSP)が支配する。

現在、同州で選挙運動の先頭に立つラフル氏がBSPから州議会を奪還できれば、次期首相候補としてお墨付きを得ることができる。インド人記者も「ラフル氏が党の勝利を導けば、問題なく次期首相の要件を満たす」と指摘するが、マヤワティ氏の支持率は高く、予断を許さない。(後略)【8月10日 産経】
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ウッタルプラデシュ州議会を現在支配する大衆社会党(BSP)を率いるマヤワティ氏は、“ダリット(被差別民)の女王”とも呼ばれる女性政治家で、先の総選挙では、結果次第では選挙後のキャスティングボードを握ることも想定され、「インド4千年の歴史で初めてダリットの支配者が誕生するのか」とも報じられていました。
結果的には、国民会議派との争いに敗れた形で、党勢は伸び悩みました。
(09年5月17日ブログ「インド総選挙  与党連合“大勝”、過半数には届かず 「第3勢力」大幅減」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090517)参照)

遠いインドの地方選挙ではありますが、名門ネール王朝の若きプリンスであるラフル・ガンジー氏とダリット(被差別民)出身のマヤワティ氏の争いは興味が持たれます。

再三“ネール王朝”という表現を使用していますが、ネール元首相の長女インディラ・ガンジー氏、孫ラジブ・ガンジー氏が首相職を歴任したことからそのように呼ばれています。ラフル・ガンジー氏はひ孫に当たり、ラフルが首相になれば4世代連続で首相を輩出することになりますので、これはりっぱな“王朝”でしょう。

エリートから権力を受け継いだ男女のエリートたちが権力を独占
日本でも政治家が“家業”として2代目、3代目、あるいは配偶者へ引き継がれることは、ごく普通の現象です。近年の首相職の殆んどがそうした2代目世襲政治家で占められています。
ただ、日本の場合は、さすがに最高権力が直接2代目に引き継がれるということはありませんが、アジア地域ではそうした最高権力の親族継承も珍しくありません。

その結果として、女性の権利が十分に保証されているとは言い難いアジアにあって、インディラ・ガンジー元首相やソニア・ガンジー総裁のような女性がトップを占めることも往々にしてあります。
タイにおけるインラック首相もその一例でしょう。

****アジアで台頭する女性指導者、背景に世襲政治*****
タイ初の女性首相に就任したインラック・シナワット氏。アジアでは家族のつながりから国の指導者になる人物が多く、シナワット氏もその長いリストに名を連ねることになった。専門家は、アジアに女性元首が多いことについて、男女平等の考えだけとは言い切れないと指摘する。

インラック・シナワット氏は、タイで強い影響力を持つタクシン・シナワット元首相を兄に持つ。ほとんど無名だったインラック氏は、タクシン氏に「私のクローン」と呼ばれ、タイ貢献党の党首に推薦されたことを受けて、わずか数週間のうちに首相選に勝利するまでになった。
インラック氏の彗星のごとき登場と同様の出来事は、アジア全土で見られる。一族の名を背負った女性が、特に前任者の死をきっかけに、権力の座に就くのだ。

夫の暗殺を受けて、スリランカのシリマボ・バンダラナイケ氏は1960年に世界で初めての女性首相となった。その20年以上後には、フィリピンの主婦、コラソン・アキノ氏が大統領となった。
インドではインディラ・ガンジー氏が、父のジャワハルラール・ネルー氏から権力の座を受け継いだ。
パキスタンでも同じくベナジル・ブット氏が、インドネシアではメガワティ・スカルノプトリ氏が権力を継承した。アウン・サン・スー・チー氏も、独立の英雄だった父親の跡を継ぐはずだったが、ミャンマーの軍政が1990年の総選挙結果を否定した。

この現象について専門家たちは、男女平等の進展というよりも、アジアの政界に広がる世襲に関係が深いと指摘する。
タイ、パヤップ大学の研究員、ポール・チャンバース氏は、伝統的に「マッチョな」父権社会のアジアでは、女性が「政治指導者になるはずではない」と述べる。だが、政党の「発展が進んでいない」ことから、富裕な一族による政党支配が可能となり、最終手段として女性にも機会が与えられるという。
「政党指導者は親族を信頼しがちで、党権力を一族内にとどめておきたいと考えるので、世襲が重要になる。男性指導者に男性の親族がいないとき、娘に白羽の矢が立つ」と、チャンバーズ氏は説明する。

 一方、シンガポール経営大学の政治学研究者、ブリジット・ウェルシュ氏は、ブット氏の夫、パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領など、男性も同じ方法で権力を手に入れていることを強調する。
「重要な点は、このシステムでは、エリートから権力を受け継いだ男女のエリートたちが権力を独占しているということ」と、ウェルシュ氏は指摘した。【8月10日 AFP】
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現在、世界における最大の問題のひとつとなっているシリアのアサド大統領も、父親からの世襲で権力の座についています。北朝鮮の金王朝もあります。
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