(18日 現場で手当てを受ける、テロ攻撃により負傷したイスラエル軍兵士 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6057526575/in/photostream )
【「イスラエル市民を攻撃する者には、高い代償を払わせる」】
イスラエルが封鎖を続けるパレスチナ・ガザ地区の情勢が急速に悪化しています。
発端となったのは、18日、イスラエル南部エイラート近くで起きたテロ事件でした。
****イスラエル:南部で連続テロ、5人死亡****
イスラエル南部エイラート近くで18日午後(日本時間18日夜)、走行中のバスと乗用車に向けて対戦車砲が発射され、乗っていた5人が死亡した。その1時間半前には、多数のイスラエル軍兵士を乗せて走行中の路線バスが、追走してきた車から銃撃され、兵士ら10人が負傷した。軍は付近を捜索し、銃撃戦の末、容疑者3人を殺害した。軍は連続テロ事件とみて調べている。【8月18日 毎日】
*****************************
イスラエルのバラク国防相は事件直後に「事件の背後にはガザがある。我々は報復する」との声明を出し、また、ネタニヤフ首相は18日夜、テレビ演説で「イスラエル市民を攻撃する者には、高い代償を払わせる」と述べ、イスラエルへの攻撃には、直ちに報復すると警告しました。
実際、イスラエルはガザ地区への報復攻撃を行っています。
****イスラエル:ガザ地区を空爆、少年ら7人死亡****
イスラエル空軍は18日夕から19日未明にかけて、パレスチナ自治区のガザ地区各地を空爆。ガザを拠点とする武装組織「パレスチナ民衆抵抗委員会」(PRC)の幹部ら5人のほか13歳と2歳の少年を殺害した。パレスチナのマアン通信などが報じた。軍は18日午後にイスラエル南部で起きたバスなどへの銃撃事件にPRCが関与したとみており、報復目的の攻撃となった。
ネタニヤフ首相は空爆後にテレビ演説し、「テロ行為をした組織の幹部を除去した軍と治安当局を称賛したい」と語った。これに対し、PRCは銃撃事件への関与を否定した。【8月19日 毎日】
*****************************
イスラエル軍によると、ガザの武装勢力は少なくともロケット弾12発をイスラエルに向けて発射してイスラエルの攻撃に応戦。イスラエル中部アシュドッドの住民10人が負傷したと発表しています。
イスラエル側がテロ事件を起こしたと指摘してるガザ地区の武装組織「パレスチナ民衆抵抗委員会」(PRC)は、2000年ごろの結成で、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから資金援助などを受けているとされるグループです。
【エジプト側にも死傷者 イスラエルに抗議の方針】
今回のイスラエル側の報復攻撃では、シナイ半島でイスラエル及びガザ地区に接するエジプトの軍兵士にも死傷者が出ています。
****ガザ境界でエジプト軍兵士ら2人死亡 イスラエル誤射か****
エジプト国営中東通信などによると、シナイ半島北東部のエジプトとパレスチナ・ガザ地区の境界付近で18日、エジプト軍の兵士ら2人がイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した。イスラエル軍は、同国南部エイラット近郊でのバス襲撃事件に関与した武装勢力を追跡中に、エジプト軍兵士らを誤射したとみられる。
シナイ半島では2月のムバラク政権崩壊後、エジプト政府がガザ地区とエジプトの出入境制限を緩和する一方、治安機関の弱体化でイスラム過激派が流入。エジプトからイスラエル向けの天然ガスパイプラインが何度も破壊されるなど、不安定な状況が続いている。
シナイ半島の主要都市アリーシュでは同日、覆面をした男たちが、検問で治安部隊を銃撃、逃走した。【8月19日 朝日】
****************************
エジプトの国営テレビは、18日の襲撃事件の実行犯を追跡していたイスラエル軍の攻撃ヘリの銃撃により、イスラエルとの国境警備にあたる治安当局者3人を含むエジプト人5人が死亡したと報じています。
****イスラエル襲撃、空爆に報復 非難の応酬、高まる緊張*****
・・・・詳しい経緯は不明だが、イスラエル軍によってエジプト人が殺害されるのは異例で、AP通信は19日、エジプトがイスラエルに抗議する方針と伝えた。
イスラエルは、襲撃事件の実行犯らがガザからエジプト領のシナイ半島を経由してイスラエルに侵入したと指摘、エジプトの国境管理がずさんだと批判していた。イスラエルとエジプトはシナイ半島で約180キロにわたって国境を接しているが、大部分は砂漠で、柵などは設けられていない。【8月20日 産経】
****************************
ムバラク前大統領のもとでイスラエルと平和条約を締結したエジプトですが、もともと反イスラエル感情が強い土壌がありますので、民主化・ムバラク政権崩壊後、反イスラエルの風潮は強くなっています。次期大統領選挙においても、反イスラエルを主張するムーサ氏(アラブ連盟事務局長)への強い支持が目立っています。
今回の事件は、仮に誤射としても、アラブ世界におけるイスラエルの唯一の支援国エジプトとの関係に大きく影響する可能性もあります。
【全パレスチナ武装組織に対して、イスラエルへの反撃を呼びかけ】
また、ガザ地区を実効支配するハマスの軍事部門(テロ担当組織)カッサム旅団は19日、イスラエルとの休戦を「破棄する」と発表しており、今後、報復の応酬が拡大することが危惧されます。
ただ、ハマス報道官はこの発表について、「公式な立場ではない」と説明しているそうです。
****ハマス:「休戦破棄」宣言 イスラエル軍の空襲受け****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの軍事部門・カッサム旅団は19日、イスラエルとの非公式な休戦を「破棄する」と系列ラジオで発表した。18日にイスラエル南部エイラートで起きた路線バスなどへの銃撃事件を機に本格化したイスラエル軍のガザ空爆に報復を宣言した形だ。空爆による死者は15人に達した。
イスラエル軍によるガザ侵攻が09年1月に終結した際、ハマスは非公式な休戦を宣言した。ガザからの情報によると、カッサム旅団は19日夜、この休戦を破棄すると発表、全パレスチナ武装組織に対して、イスラエルへの反撃を呼びかけた。ハマス報道官はロイター通信に発表は「公式な立場ではない」と説明している。
ロイター通信によると、18日のエイラートでの銃撃事件ではイスラエル側8人が死亡。イスラエル軍の報復空爆によるガザの死者は少年3人を含め15人に上った。ガザの武装勢力は18日夕以降、イスラエル領へロケット弾計24発を撃ち込んだが、ハマスは銃撃事件とロケット弾攻撃への関与を否定している。
ハマスの内部には、イスラエル軍の攻撃激化を恐れて、休戦を維持したい勢力もある。だが、カッサム旅団はガザ住民の不満の高まりなどを受け、休戦破棄を宣言せざるを得ないと判断したとみられる。【8月20日 毎日】
******************************
イスラエルとしては、国内に住宅価格高騰などへの抗議行動を抱えていますので、パレスチナとの衝突は国民の不満を外へそらす好機となります。
ハマスのカッサム旅団は、対イスラエルのテロ工作などを行う組織ですので、イスラエルとの緊張は組織の存在感を高めることにもなります。
そうした事情が、衝突拡大を懸念させます。
【遠のく交渉再開】
なお、パレスチナ自治政府のマルキ外相は、9月20日にパレスチナの国連加盟を申請する方針だと明らかにしています。国連加盟ついては安保理理事国のアメリカの拒否権行使も予想されていますが、加盟が失敗しても、国連総会でパレスチナ国家樹立を支持する決議案採択を目指すなど、国際世論の喚起を狙っているとされています。
ただ、“パレスチナ側は、国連加盟を求める姿勢を見せながら、国際社会がイスラエルに交渉再開への圧力を強めることも期待している。中東和平を推進する米国と欧州連合(EU)、ロシア、国連の4者は交渉再開に向けた協議を続けており、アッバス議長も交渉再開の可能性を否定していない”【8月13日 読売】とも報じられていました。
最近のイスラエルの入植地における住宅建設許可、そして今回のガザ地区での応酬ということで、交渉再開はますます遠のいた感があります。