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(8月8日 ロンドン・ハックニーの暴動 “flickr”より By bobaliciouslondon http://www.flickr.com/photos/bobaliciouslondon/6024080948/ )
【国外で夏休み中だったキャメロン首相、急きょ帰国】
イギリス・ロンドンで警官による住民射殺事件を発端に6日に発生した若者らの暴動は市内各地に飛び火し、3日目の8日も商店の略奪や放火が相次いでいます。
また、暴動は英国第2の都市バーミンガムにも拡大しており、“警察は封じ込めに有効策を打てず、国外で夏休み中だったキャメロン首相やジョンソン・ロンドン市長らが急きょ帰国する異常事態になっている”【8月9日 毎日】とか。
暴動の発端となったのは、4日夜、ロンドン北部トットナムで警察官らが地元の黒人男性(29)が乗車するタクシーを停車させた際、銃で撃ち合いとなり、男性が死亡したという事件です。
イギリスでは、警官が銃火器を携行しないのが通常でしたが、銃犯罪の増加を受け、近年は銃を携行したパトロールも一部で実施されるようになっています。
今回事件については、警察官による発砲事例を調査する警察苦情処理独立委員会(IPCC)によると、銃を所持する特殊警官が、事前に逮捕状をとった上で、タクシーを停車させたとのことです。この計画には、黒人コミュニティーの銃犯罪取り締まりを専門とするトライデント部門の要員も同行しています。【8月7日 AFPより】
“IPCCは、「発砲があり、タクシー乗客だった29歳の男性が現場で死亡した」と述べ、「警察官による発砲は2発。現場からは、警察が支給したものではない拳銃が回収された」と説明した。男性と警察官の間では、発砲の応酬があったとみられている”【8月7日 AFP】とのことですが、“英紙ガーディアンの報道によると、現場で警察官の無線から発見された銃弾が、弾道テストの結果この警察官によって発射されたものであることが判明し、これまでの警察側の説明に疑問が生じているという。”【8月8日 AFP】と、事件の全容については不明な点もあります。
【「単に便乗した盗みと暴力」】
****ロンドン暴動:市内各地に拡大 略奪や放火 220人逮捕****
・・・・暴動の発生はロンドン市内で10カ所を超えた。ロンドンでは8日、来年のロンドン五輪のメーン会場に近い東部ハックニー地区や南部クラップハム、クロイドン地区などで数十人から数百人の若者らが暴徒化。デパートや商店の略奪や、建物や車両への放火を繰り返している。
警察はこれまでに220人以上を逮捕。各地で機動隊と暴徒が衝突しているが、若者らは携帯電話やソーシャル・ネットワークを使って襲撃先を移し、警察は後手に回っているようだ。
6日に最初の暴動が起きたロンドン北部トットナム地区では、警官が逮捕しようとした29歳の黒人男性を射殺したことへの抗議デモが暴徒化。しかし、その後の暴動では略奪や破壊行為自体が目的になっている模様で、若者らは覆面をし、放火した車両の前で記念撮影する姿も見られる。
暴動拡大の背景には、失業や緊縮財政のしわ寄せへの若者の不満も指摘される。一方で「暴徒に怒りの表情はない」との指摘は多く、クレッグ副首相は「単に便乗した盗みと暴力」と断じている。
事態の深刻化を受け、キャメロン首相は急きょ帰国し9日に緊急対策会議を開く。【8月9日 毎日】
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例年のオリンピック開催を控えた五輪メーン競技場に近い地域でも略奪・放火が起きています。
****ロンドン暴動、各地に拡大 五輪競技場近くでも略奪****
警察官による黒人射殺事件に端を発した若者による暴動が8日、ロンドン市内各地に拡大。ロンドン五輪のメーン競技場に近い東部ハックニーなどで店舗の略奪や車への放火が起きたほか、英中部のバーミンガムやリバプールでも店が壊された。五輪開催まで1年を切っており、治安への懸念が高まるのは必至だ。
五輪メーン競技場から2.5キロのハックニーでは8日夕、フードで顔を隠した数百人が集結。店やトラックを壊して商品を略奪したり、バスや警察車両などに放火したりした。南部ブリクストンやペッカムなどでも放火や略奪があり、路上の車への放火はロンドン市内全域で起きている模様だ。BBCによると、9日未明には市北部のソニーの倉庫から出火した。
ロンドン北部トットナムで警察官に29歳の黒人男性が射殺され、警察への抗議活動が6日に暴徒化。これを発端に暴動は近隣地区に波及し、7日夜には百貨店やブランド店が集まる都心の商店街でも約50人が店舗などに投石した。【8月9日 朝日】
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当初は、黒人住民の警察の扱いへの抗議という人種的な問題があったと思われますが、失業や緊縮財政のしわ寄せに苦しむ若者の不満が行動を過激化させたことが推測されます。
そうした、人種問題やフランス・パリなどでも暴動の引き金になる移民問題、経済悪化への不満・・・といった問題も重大ではありますが、現時点での「暴徒に怒りの表情はない」「単に便乗した盗みと暴力」という状況は、暴動を楽しむ若者達という感もあって、より深刻な社会の病理を感じさせます。
****英暴動:格差拡大、若者に閉塞感*****
8日夜から9日未明にかけ、ロンドン市内各所で続いた略奪や建物の炎上という異常事態に市民は大きなショックを受けている。過去数十年で「最悪の事態」は、来年夏の五輪開催に向けてロンドンのイメージダウンを招きかねない。背景にはソーシャルメディアの普及による暴動の急速な拡大や、経済格差が拡大する中で「失うものが何もない」(フィナンシャル・タイムズ紙)若者層の閉塞(へいそく)感がありそうだ。
ロンドン警視庁によると、主にスマートフォン「ブラックベリー」の匿名メッセージ機能で集結場所や時間が伝達されているという。メッセージには「店を破壊して、ただで品物を持ち帰ろう」などと略奪をあおるものが目立ち、政治、人種的な動機の伝言はほとんどないという。タイムズ紙は9日の社説で「ロンドンは現実のコンピューターゲームのようになった。暴徒らは単に夏の夜を楽しもうとしている」と指摘した。
ロンドン市内で暴動が起きているのは、北部トットナムや東部ハックニーなど黒人や南アジア系の住民らが混住し、失業や貧困層の多い地域が目立つ。参加者は10代、20代の若者が中心で、経済格差が拡大する中で、教育面などで社会上昇の機会から取り残された若者も多いようだ。
政府が財政再建のために超緊縮財政を断行する中で、青少年支援事業などへの予算が大幅にカットされている余波が一因になっているとの指摘もある。メディアは「僕たちには仕事も金もない」「(略奪で)税金を取り返してやる」など暴動に加わった若者の声を報じている。また、警察の“ソフト”な対応を批判する声も強い。【8月9日 毎日】
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キャメロン首相は、暴徒化する若者らに「あなたたちは他人の生活やコミュニティーだけでなく、自らの将来も破壊しようとしている」と自制を呼びかける声明を出しています。
【社会的緊張が希薄な日本は例外的】
日本では、60年代から70年代に山谷とか釜ケ崎での暴動はありましたが、最近ではそうしたものも殆んどなく、“暴動”という言葉が日常と結び付きません。
そうした日本のような安定社会は世界ではむしろ例外であり、アメリカでも中国でも、フランス・イギリスでも、もちろん多くの途上国でも、民族・人種・宗教、政治・経済的利害など様々な理由から“暴動” につながる社会的緊張が存在しているほうが通常のようです。