(難民キャンプの女性 アフリカ最大の経済大国である南アフリカには、経済破綻した隣国ジンバブエを始めソマリア、エチオピアなど多くの国々から多数の難民が流入していますが、暴力の矛先はこうした難民にも向けられています。“flickr”より By UNHCR http://www.flickr.com/photos/unhcr/3949427849/)
【男子の62%が強制的に性関係を持つことは合理的なことだと考えている】
南アフリカの英雄的な義足ランナー、「ブレードランナー」ことオスカー・ピストリウス容疑者(26)が恋人を射殺した事件が話題になりましたが、“寝るときは強盗が入ったときに備えて拳銃やマシンガン、クリケットや野球のバットを手元に置いている”という容疑者の日常は、新興国として期待されている南アフリカ社会の強盗・殺人などの犯罪が増加している“暗部”をも明らかにしています。
ここ数日に報じられた南アフリカ社会の“暗部”関する記事をいくつか。
南アフリカでは4分間に1人の女性が強姦被害に遭っていると中国メディアが報じています。
武装勢力が横行するコンゴなどのアフリカ諸国でもレイプは日常化していますが、「新興国」南アフリカでも事情はあまり変わらないようです。
****4分間に1人の割合で発生 南アフリカ、強姦被害が深刻に****
南アフリカの司法長官は最近、同国で女性に対する暴力や強姦の件数が「警戒線」に達していると述べた。英BBCの報道によると、南アで毎年報告される強姦事件は約6万件で、専門家らは「警察が把握していない事件も加えれば少なくとも60万件に上る」と指摘。
南ア医学研究委員会によれば、同国では4分間に1人の女性が強姦被害に遭っている計算となる。中国・人民日報が伝えた。
女性への暴力が南ア社会に大きな損失をもたらしている。南ア医学研究会によると、16%の女性が強姦によってエイズウイルスに感染しているほか、予想外の妊娠、性病感染も多い。3分の1以上の強姦被害者がストレスによる障害を抱え、女性がうつ病にかかる割合と自殺、薬物乱用などのリスクが高まっている。
南ア医学研究会性別・健康研究センターの主任は、「こうした暴力文化の背景には南ア社会の男権主義があり、貧困と不平等も南ア社会で女性への暴力が多発する大きな要因だ。また飲酒や薬物乱用、銃の所持、政府の対応不足なども暴力を助長している」と指摘した。
こうした暴力は南アの青少年に悪影響をもたらす。南ア医学研究会では、11歳以上の男子の62%が強制的に性関係を持つことは合理的なことだと考えているとみている。【2月27日 livedoor News】
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昨年4月には、“知的障害のある17歳の少女を7人の少年らが集団レイプし、暴行の様子を携帯電話で動画撮影した事件が発覚した。映像は地域の子供らの間に広がっていた。17秒に1件の割合でレイプ事件が発生しているとされる性暴力「大国」南アフリカでも、少年らの非道ぶりは大きなショックを与えている。”【2012年04月30日 毎日】という事件もありました。
【「通常は食用としない」動物の肉も複数の製品から発見】
一方、欧州で話題になっている食肉偽装問題が南アフリカでも報じられています。
食肉偽装は日本でも問題になったことがあり、別に特定国の問題でもありませんが、「通常は食用としない」動物の肉が混入しているとのことで、野生動物が多いアフリカだけに「何の肉が混入しているのだろうか?ロバや水牛だけだろうか?」と不安にはなります。偽装自体は何の肉でも同じですが、変わった動物の肉の場合、そうした動物を宿主とするウイルスの感染といった保健衛生上の問題も出てきます。
****南アフリカでは牛肉からロバの肉、横行する食肉の偽装表示****
欧州で牛肉加工製品の馬肉混入問題が持ち上がるなか、南アフリカではロバの肉が多くの肉製品に混入していたことが、南アのステレンボッシュ大学の調査で明らかになった。
欧州での馬肉混入問題をうけて、ステレンボッシュ大が南アフリカの製品についてもDNAによる食肉検査を実施したところ、検査対象となった肉製品の3分の2以上で、記載とは異なる肉が検出されたという。
国内の店舗や食肉店などから集めた139製品中、偽装表示されていた製品は68%に上った。多くは牛肉と称して豚肉や鶏肉が用いられたものだったが、ロバ肉や山羊や水牛など「通常は食用としない」動物の肉も複数の製品から発見されたという。
研究を主導した同大のルー・ホフマン教授(動物科学)は大学のウェブサイトで、南アフリカでは加工肉製品での偽装表示が常態化していると指摘し、こうした行為は「食品表示法に違反するだけでなく、経済、宗教、倫理、健康への影響の点からも問題だ」と警鐘を鳴らした。
調査では、ひき肉、ハンバーガー用のミートパテ、ソーセージなどで、植物の一部が混ざっていたものもあったという。【2月28日 AFP】
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【高まる警察に対する怒りの声】
強盗・殺人などの犯罪が増加している社会にあって市民を守るべき警察にも大きな問題があります。
****警察車に引きずられた男性が死亡、殺人事件で捜査開始 南ア****
南アフリカ警察は28日、警察のワゴン車で市街を引きずられる様子が動画に収められていたモザンビーク人男性が死亡したことを受け、殺人事件として捜査を開始した。国内では警察に対する怒りの声が高まっている。
現場に居合わせた人が撮影した動画には、ヨハネスブルクの東に位置するデフェイトンで26日、タクシー運転手のミド・マシアさん(27)が6人ほどの警察官ともみ合いになり、その後手錠で警察のワゴン車の後方につながれ、近くの警察署に向かって引きずられて行く様子が収められている。
マシアさんは車で引きずられまいと、脚をばたつかせ必死に抵抗しながら、デフェイトン警察署まで連行された。捜査官によると、それから2時間25分後に死亡が確認されたという。検視の結果、死因は内出血を伴う頭部損傷と判明した。
目撃者などによると、事件の発端は、マシアさんが受けた違法駐車の取り締まりだった。警察官が運転免許証を没収しようとしたところ、口論に発展した。警察当局は、マシアさんが警官の1人から銃を奪おうとした可能性を示唆したが、目撃者の1人はこれを否定した。
事件の様子を収めた動画はインターネット上で広がり、国内中に衝撃を与えた。南ア警察は、2012年8月に鉱山の労働争議で警察官の発砲により労働者34人が死亡した事件や、義足ランナー、オスカー・ピストリウス被告の殺人事件の対応でも強い批判を受けており、今回の事件でさらに汚名を重ねる形となった。【3月1日 AFP】
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南アフリカ警察では汚職も蔓延しており、警察長官が2代連続で汚職容疑で失脚しています。
****南アフリカ:警察長官を解任 汚職容疑で2代連続失脚****
南アフリカのズマ大統領は12日、ベキ・セレ警察長官を解任したと発表した。セレ氏は、契約業者との不透明な関係などを指摘され、停職中だった。大統領はセレ氏の職務継続を不適当と結論づけた調査委などの報告を受け、決断した。南アは警察長官が2代連続で「汚職」の容疑で失脚する異常事態となった。
地元紙が、警察庁舎の賃貸契約を巡って、セレ氏が競争入札を行わないまま不当に契約業者の選定に関与した疑いを報じて発覚。昨年10月から停職処分となり、調査が行われていた。
セレ氏は09年に警察長官に就任。セレ氏の前任で、国際刑事警察機構(インターポール)総裁も務めたジャッキー・セレビ前長官は08年、麻薬密売業者から金品を受け取る代わりに捜査情報などを流した収賄の容疑が浮上。ムベキ大統領(当時)に更迭された後、収賄罪で懲役15年の実刑判決を受け、服役中だ。
また、セレ氏とは別の警察幹部も、殺人などの容疑がかけられて現在停職中となっており、警察の威信は地に落ちた状態だ。【2012年06月13日 毎日】
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【不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じている】
南アフリカ社会に存在する安易に暴力に頼る風潮については、だいぶ昔のものですが、下記記事が印象に残っています。
警察への不信感もあって、住民の間で「アパルトヘイトの負の遺産」でもある“ネックレス”と呼ばれる残忍な私刑が復活しているというものです。
****アパルトヘイトの負の遺産、私刑「ネックレス」が復活 南ア****
南アフリカ・ポートエリザベスのニュー・ブライトンタウンシップで、ここでは日常茶飯事と言ってもいい事件が起きた。2人組の男が年配女性の家に押し入り、テレビを奪った上、女性を守ろうとした間借り人を刺し殺したのだ。
翌朝、近所の人々は2人組の居場所を突き止めた。2人を引きずり出してそれぞれの首にタイヤをかけ、タイヤにガソリンを注いで火を付けた。
「2人は随分前からこの一帯で悪事を働いてきた。われわれは彼らにおびえていたんだ」と、一部始終を目撃したある住民は説明した。「すべてが映画のワンシーンのようにあっという間に行われた。2人が炎に包まれる間、みんなはありとあらゆる罵声を浴びせていたよ」
「ネックレス」と呼ばれるこの私刑は、アパルトヘイト(人種隔離政策)の負の遺産の中でも最も身の毛のよだつものだ。少数白人政権との戦闘が激化した1980年代、タウンシップ(非白人居住区)では裏切り者に対してこの私刑が行われた。常習犯が「人民裁判」にかけられ、ネックレスの刑を執行されることもあった。
その「ネックレス」が、ここポートエリザベスでも、自警のための新たな手段として復活しつつある。タウンシップではもともと、警察力が遠く及ばないことへの強いいらだちがある。地元警察の広報、ドゥミレ・グワブ氏は「わずか2週間で未遂も含めて約6件のネックレス事件がありました」と話した。
警察の統計によれば、南ア全体で見ても、1日平均46件の殺人件数のうち5%が自警目的のものだ。
■背景に暴力の歴史と警察不信
先のニュー・ブライトンにおけるネックレス事件では、2人が本当に有罪なのか、刑の執行が正しかったのかに関し、疑問を差し挟む者は無きに等しかった。刑を目撃していた男性はAFP記者に、「2人組の片方は刺し殺された間借り人の服を着ていた」と話した。
「彼らの悪事を警察に通報したが、次の日にはまた悪事を働いたんだ。われわれは、どうにもならない未解決事件に嫌気がさしたんだよ。こうした状況が続けば、また(ネックレスを)やるよ。問題を永遠に取り除けるからね」
警察広報のグワブ氏は、ネックレス事件では住民同士が結託するため、過去のネックレス事件で逮捕者が出た事例は無いと話す。「われわれはこれまで、住民たちとの会合で、法の裁きを独自に下すことはできないと説明してきたのですが。(被害に遭った)住民たちは怒っていて聞き入れてくれないし、警察そのものを信用していないんです」
警察統計によると、凶悪事件の約80%は貧しい地域で起こっている。犯罪者が個人的に知っている相手に危害を加える場合が多く、このことが「集団的暴力」の増加に一役買ったと、シンクタンク「Centre for the Study of Violence and Reconciliation(暴力と和解のための研究センター)」のノムフンド・モガピ氏は言う。
「この国が暴力の歴史を歩んできたこともあり、人々は政治家、役人、警察に自分たちの不満を聞いてもらうには暴力という手段しかないと感じているのです。(ネックレスは)政府庁舎に放火する、警察車両に投石する、道路をバリケードでふさぐなど、アパルトヘイト時代に用いられた暴力と同じパターンに属すると言えます」【2011年8月5日 AFP】
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“暴力の歴史を歩んできた”のは南アフリカだけでなく、内戦・紛争が頻発する国、テロ活動が横行する国などアフリカには多く存在します。そして、それらの国々ではやはり安易に暴力に訴える風潮が社会に残っているように見えます。
アフリカの国々はこれからの成長を期待されており、実際に大きな変容をとげている側面もあり、こうしたネガティブなイメージだけでアフリカを見ることは誤りです。
そうは言うものの、やはり異質なものを感じることも少なくありません。