(金融危機に陥ったキプロスでは24日、大手銀行2行が預金者1日当たりのATMからの引き出し限度額を、これまでの260ユーロから100ユーロ(約1万2000円)に引き下げています。“”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8565113499/ )
【今後は合意内容次第で必要となる国会の承認も焦点】
欧州の小国、キプロスの財政・金融危機をめぐる、支援する側のEU・ユーロ圏首脳部からの条件提示、預金者に負担を強いる条件への議会の反発などの騒動は周知のところです。
現在進行形で事態は動いていますが、日本時間の今日午前段階では、支援策に関して辞任もちらつかせたとも言われるキプロス大統領とEU首脳部が合意したと報じられており、25日を期限としていた危機的状況は一応回避されたようです。
合意内容は詳しくは報じられていませんが、議会の承認をこれから得る必要があり、ひと波乱あることも十分に考えられます。
****EUユーロ圏、キプロス支援で合意 金融破綻回避へ****
財政危機に陥ったキプロスのアナスタシアディス大統領は25日未明、ユーロ圏による100億ユーロ(約1兆2千億円)の支援策について、欧州連合(EU)首脳らと合意し、ユーロ圏17カ国の財務相会合でも承認された。欧米メディアが一斉に報じた。支援策がまとまったことで、キプロスは金融破綻を回避できる見通しとなった。
ロイター通信などによると、合意は同国2位のライキ銀行の整理のほか、10万ユーロ超の大口預金者に大幅な損失を強いる内容。経営難の最大手キプロス銀行の取り扱いの詳細は明らかになっていないが、他の銀行への預金課税は回避されるとの観測が強まっている。
キプロスは支援を受けるために58億ユーロの自主財源を確保することが求められていたが、EUなどとの交渉が難航。このため、財務相会合直前の24日午後から、アナスタシアディス大統領がブリュッセルで、EUのファンロンパイ大統領や国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事らとトップ会談を行っていた。
約11時間に及んだ会談では、ライキ銀行にとどまらず、キプロス銀行の整理などを求めるEU、IMF側に対してアナスタシアディス大統領が辞任をちらつかせて強く抵抗する場面もあったという。
キプロス支援では、欧州中央銀行(ECB)が25日中に合意できなければ、銀行への資金供給を停止すると通告。資金が止まれば、同国の金融破綻は不可避だった。今後は合意内容次第で必要となる国会の承認も焦点となるとみられる。
キプロス支援策は16日にユーロ圏と同国が合意したが、条件となった預金課税に対し国民が強く反発。2万ユーロ超の預金を対象に最大約10%を課税する法案は国会で否決され、新たな対応が必要となっていた。【3月25日 MSN産経】
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【預金課税の導入ですでに他国へも影響】
キプロス自体は人口約86万人、国内総生産(GDP)は約177億ユーロ(11年)ということですから、EU・ユーロ経済圏全体からみれば大きな存在(ユーロ圏全体の0.2%)ではありません。
ただ、キプロスが破綻すれば、次はギリシャ・イタリア・スペイン・・・と、不安が拡大し、ようやく落ち着きかけていた欧州経済は大きく揺らぐことになるということで、小国キプロスの動向が注目されています。
しかし、他国への影響という点では、銀行預金への課税が条件とされたことで、キプロスが混乱を回避できたとしても、その影響は同様の措置を将来的に懸念する他国へ及んでいるとも言えます。
また、キプロスの場合、「タックスヘイブン」的な施策で資金を国外から集めており、特にロシアからの資金が金融資産のなかで非常に大きなウェイトを占めていることに特徴があります。
EU首脳部が“58億ユーロの自主財源を確保”にこだわるのも、税金逃れで集まったロシア資金をEU・ユーロ諸国の税金で救済する形になることへの抵抗があります。
下記記事は“合意”前のものですが、話の大筋は今もかわりません。
****キプロス支援、瀬戸際 預金課税、税率で火花****
キプロスへの支援はまとまるのか。支援する側の欧州連合(EU)との交渉が大詰めを迎えている。合意できなければ、欧州危機が再燃する可能性もある。
「残念ながら、残ったのは(キプロスにとって)厳しい選択だけだ」。23日夜、ブリュッセルで発表されたレーン欧州委員会副委員長の声明に、24時間態勢で中継を続けるキプロスのテレビ局コメンテーターたちに戸惑いが広がった。
この日、財務省では朝から、政府と欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)代表団の協議が進行していた。サリス財務相は昼過ぎ、記者団に「かなり進展があった」と話していた。
だが、協議は深夜になっても終わらない。
焦点は国内最大の「キプロス銀行」だった。政府は同行の10万ユーロ(約1230万円)超の大口預金に課税する案を提示。課税を同行に限れば税率は25%にもなるが、この税率を何とか抑えたいとも主張した模様だ。
地元メディアによると、この協議でIMF側は「キプロス銀行は再編すべきだ」と主張。キプロスはすでに第2位の「ライキ銀行」の分割・整理を決め、同行の全額保証対象外の大口預金は大幅に減額されることになっている。これ以上の再編は、キプロス側には受け入れられない案だった。
キプロスがこうした態度をとる理由は、この国の経済構造にある。低い法人税率が売りの「タックスヘイブン」として、多くの海外企業を誘致。合わせて金融資産も呼び込み、銀行などでの雇用を生み出してきた。
キプロス銀行は、海外からの大口預金の主要な受け皿。「預金が逃げれば、経済成長のエンジンをなくしてしまう」。そんな懸念があった。
政府は、天然ガス開発で見込まれる収入などをあてに「基金」を作り、EU側が条件とする58億ユーロを捻出する手段にするつもりだ。
しかし、100億ユーロを支援するEU側は、確実な財源の確保にこだわった。
EU側で最も財源に余裕があるドイツは、秋に総選挙を控える。自国の財源を支援に回すことには、敏感にならざるを得ない。
08年の金融危機以降、緊縮財政を強いられているEU各国には、ただでさえ課税逃れの手段を提供する「タックスヘイブン」へのいら立ちが強い。キプロスでは、680億ユーロの預金のうち200億ユーロはロシアの企業、個人の預金とされる。マネーロンダリングの手段として利用しているとのうわさも絶えない。
メルケル独首相は22日にあった自国議員との懇談で、「キプロスの海外金融センターとしての未来はもうない」と語ったという。
■決裂なら銀行破綻も
世界的な金融緩和の効果もあって、これまでのところ世界の金融市場に大きな混乱は起きていない。しかし、25日までに抜本的な支援策がまとまらなければ、欧州危機が再燃しかねない状況だ。
欧州中央銀行(ECB)は21日、預金課税法案をいったん否決したキプロスにしびれを切らし、キプロスの中央銀行を通じた緊急資金供給を26日から止める可能性があると通告した。
それが現実となれば、信用がないため他国の銀行からお金を貸してもらえないキプロスの民間銀行は、一気に破綻(はたん)に追い込まれるおそれがある。キプロスの与野党幹部は24日、大統領府に集まり、ブリュッセルでのトップ会談の行方を見守った。
「現在の状況は、完全にシステミックリスク(金融システム全体に影響を与える危機)だ」。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルーム議長(オランダ財務相)も警戒感をあらわにする。
キプロスの国内総生産(GDP)はユーロ圏全体の0・2%にすぎない。だが、キプロスの救済に失敗し、ユーロ圏から離脱するようなことになれば、ユーロ通貨そのものの信用が失墜しかねない。イタリアやスペインなど、財政に不安を抱える南欧諸国の国債が売られ、金利が再び上昇するリスクもある。
たとえEUがキプロス支援を決めたとしてもユーロ圏各国が支援条件として初めて「銀行預金への強制課税」を盛り込んだ影響は、少なくなさそうだ。
支援対象国になれば「預金に課税されるかもしれない」との不安が投資家や一般市民にすり込まれた。欧州委員会のバローゾ委員長や各国の閣僚らは「キプロス以外の国では預金課税はない」と火消しに走っているが、いったん不安が高まれば自分の預金を守ろうと現金を引き出す動きが出て、危機に拍車をかける事態になりかねない。
キプロスの銀行休業は25日までだが、日本など他国の金融市場は通常通り開く。それまでに支援協議がまとまらなければ、ユーロが売られ、世界の市場が混乱する可能性がある。 【3月25日 朝日】
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【ロシア資金流失による金融システム破綻も】
EU首脳部との合意ができても、前述のようにキプロス国内の議会の承認がこれからです。
もうひとつのハードルは、金融資産の3分の1近くを占めるロシア資金の動向です。
「銀行預金への強制課税」が行われると、ロシアは(現在がどういう状況にあるのかわかりませんが、今後可能なら)資金を国外に流失させることが想定されます。
そうなれば、EU支援を受けてもキプロス金融は行き詰まります。国外移動を認めず強制課税ということなら、ロシアとの相当の軋轢を生みそうです。
メドベージェフ・ロシア首相は21日早朝、ロシア政府ウェブサイトに掲載されたインタビューの中で「わが国の多くの組織がキプロス(の口座)を通じて動いているのに、不明確な理由によってその預金が封鎖されている。政府機関も含めてだ。従ってキプロス周辺で生じている事態と規制に関し、わが国は『断固とした姿勢』で臨まざるを得ない」と述べ、不快感を明らかにしています。【3月21日 AFP より】
****キプロスに新たな打撃?露マネーの一斉流出懸念****
キプロス金融危機の打開に向けたギリギリの調整が続く中、同国の銀行預金総額の約3分の1を占める「ロシア・マネー」の動向に注目が集まっている。
キプロス政府とユーロ圏は、高額預金に限って「預金課税」を実施する方向で検討しているが、これに直撃されるロシアからの資金は一斉に海外逃避するとみられ、キプロス経済に新たな打撃を与えることになりそうだ。
企業・個人がキプロスの銀行に保有する預金残高は、全残高の3~4割に相当する約200億~250億ユーロ(約2兆4600億~3兆800億円)に上ると試算されている。2008年にユーロを導入したキプロスが、域外の投資家を誘致し、オフショア金融市場を目指した政策にロシアが乗った。
キプロスの法人税はユーロ圏内で最低の10%。法人設立や、居住権・不動産の獲得でも外国人優遇の政策をとっている。自国の法人税が20%のロシア企業は、持ち株会社をキプロスに設立し、事業会社の配当をキプロスに送金する形で「節税」してきた。EU諸国を取引相手とする露企業にとって、キプロスは窓口となった。露当局の監視・課税を逃れたり、資金洗浄を図ったりする事例もあると指摘されている。【3月24日 読売】
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そうしたロシアとの関係もあって、キプロスはロシアからの融資を交渉したようですが、今のところはうまくいっていないようです。
****キプロス支援協議、不調に=ロシアが提案拒否―財務相会談****
ロシアのシルアノフ財務相は22日、記者団に対し、危機に陥っているキプロスのサリス財務相との協議が不調に終わったことを明らかにした。キプロス側がロシアによる支援を求めて新提案を行ったが、ロシア側は拒否した。
シルアノフ財務相によると、サリス財務相の提案は「キプロス沖の天然ガス田権益を譲渡する代わりに、ロシアの投資家が支援する」との内容だったが、ロシア企業の関心が薄かったという。【3月22日 時事】
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【破綻しても“見せしめ”?】
ここから先は私の勝手な邪推ですが、メルケル独首相などEU首脳部はこのキプロスの八方ふさがり的な状況をそんなに憂慮してはいないのでは・・・とも思えます。
今後、議会の承認なども得られてEU支援策が軌道に乗るのであれば、それはそれで結構。
ロシアが資金提供するなら、それもそれで結構。
EU支援策が承認されずキプロス財政・金融が破綻するのであれば、他のユーロ圏への不安の拡大ということはもちろん懸念されますが、ある意味でEU首脳部の意向に従わなかった国の結果として“見せしめ”的な効果も期待できるのではないでしょうか。キプロスの経済規模からすればその影響は限定的であり、キプロスが財政・金融破綻・ユーロ離脱に追い込まれることは、“見せしめ”としては丁度いいかも・・・なんて考えているのでは。
“EU関連筋はギリシャやスペイン、イタリアなど債務危機にある他のユーロ圏諸国に事態が広がらないよう、EUではすでにキプロスをユーロ圏から離脱させる用意もあると述べている。” 【3月23日 AFP】