(今期限りでの退任が決まっているアフガニスタン・カルザイ大統領(左)と、再選を目指すパキスタン・ザルダリ大統領(右) 中央はキャメロン英首相 “flickr”より By The Prime Minister's Office http://www.flickr.com/photos/number10gov/8445068696/ )
【「あらゆる困難にもかかわらず、任期満了を果たすのは、素晴らしい歴史的な功績だ」】
パキスタン下院は16日、5年間の任期を満了し解散。ザルダリ大統領率いる与党パキスタン人民党主導の内閣も総辞職しました。パキスタンでは文民政権が任期満了したのは初めてとのことです。60日以内に総選挙が実施されることになっています。
****パキスタン 初の任期満了 文民政権、総選挙へ****
パキスタン下院が16日、建国以来初めて任期(5年)を満了した。文民政府は近く選挙管理内閣に移行し、60日以内に総選挙が実施される。
クーデターなどで文民と軍の統治を振り子のように繰り返してきた同国で文民政権が下院の任期満了を迎えるという記念すべき節目を迎えた。ただし、治安や経済の悪化など課題は山積したままだ。
アシュラフ首相は16日夜、国民に向けた演説で「あらゆる困難にもかかわらず、任期満了を果たすのは、素晴らしい歴史的な功績だ」と感慨にひたった。
1947年に英国から独立したパキスタンでは、現与党パキスタン人民党を結成した初代首相のズルフィカル・アリ・ブット氏が軍事クーデターに遭い処刑された。
娘のベナジル・ブット首相や現最大野党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派率いるシャリフ首相も軍が後ろ盾の大統領に解任されたり、クーデターで倒されたりした。
今回、下院が任期満了を迎えられた要因はいくつかある。軍は今も強権を持つが、この数年で発達したメディアが監視の目を光らせた。
最高裁も軍に政治干渉を戒める判断を示した。クーデターに出れば米国から軍事援助を打ち切られかねず行動の選択肢が狭められ、影響力が限定された。
人民党とシャリフ派も以前ほどの不毛な政争を避けており、ジャーナリストのイムティアズ・アラム氏は「二大政党が成熟度を示し、民主政治の道を踏み外さなかった」と指摘する。
一方で政府は、イスラム武装勢力のテロや物価高騰、慢性的な電力不足、ザルダリ大統領らの汚職問題で揺れてきた。国際通貨基金(IMF)の支援を重ねて仰がなければならなくなるのは不可避とみられる。
総選挙は、国民の不満が高まる中、シャリフ派が支持を拡大しているとされるほか、ムシャラフ前大統領も事実上の亡命先から帰国し参戦する意欲を見せている。【3月18日 産経】
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上記記事にあるように、ザルダリ政権は“イスラム武装勢力のテロや物価高騰、慢性的な電力不足、ザルダリ大統領らの汚職問題”などを抱えて、決して良い実績を残した訳ではありません。
また、軍部に対する影響力を持たず、自らの過去の汚職問題で最高裁からは糾弾を受けており、むしろ、いつ倒れてもおかしくない非常に脆弱とも見られていた政権でした。
実際、軍部によるクーデターを阻止するためにアメリカに支援を要請したとされる“メモゲート事件”の発覚や、大統領の汚職問題への取り組みを政府に求める最高裁判断によってギラニ前首相が辞任に追い込まれるなど、政権は絶えず揺さぶられてきました。
それにも関わらず大方の予想に反し、ザルダリ政権はパキスタン初の任期満了文民政権となった訳ですが、非常に意外な結果と言えます。
故ブット元首相時代は夫の立場を利用して、関与した案件で10%のリベートを要求するということで“ミスター10%”とも揶揄されていたザルダリ大統領ですが、強運のせいや単にしぶといだけでなく、混乱を乗り切る政治的資質にめぐれた政治家なのかもしれません。
外交面においても、インドとのカシミールにおける関係悪化も事態の拡大にはいたらず、なんとなく収まってきています。
パキスタンへの不満を募らせているアメリカとの関係も、イスラム冒涜問題などでの反米世論高揚があるなかで、決定的破綻には至っていません。
少し褒めすぎでしょうか。
****ピンチ一転、長期政権 パキスタンのザルダリ大統領****
・・・・「ザルダリ氏の強さのカギは現在の下院の勢力にある」と語るのは、主要英字紙ドーンのコラムニスト、シリル・アルメイダ氏。下院は大統領を罷免できるが、ザルダリ氏が長男のビラワル・ブット氏とともに共同総裁を務めるパキスタン人民党(PPP)を中心とする与党勢力は強く、罷免に必要な下院3分の2以上の賛成は得られない状況にある。
ザルダリ氏は政治的なサバイバル能力も備えている。アルメイダ氏によると、野党の攻撃にも冷静さを崩さず水面下で対応し、同国で繰り返されてきた“恩讐政治”もやらない。アルメイダ氏は、「これらは誰もが知らなかったザルダリ氏の能力」と表現し、その結果、「ザルダリ氏は物事を動かすのに必要な51%の支持を獲得することができる」と話す。
一方、マスード氏は、「ザルダリ氏は敵の強みと弱みを見抜き、相手に先んじて動くことができる」と分析する。例えば、軍についてザルダリ氏は(1)国際社会は軍政を受け入れない(2)軍は武装勢力との戦いで手いっぱい(3)最大野党は軍による政権転覆を支持しない-という“弱み”を把握している。その上で、軍を試す挑発的な発言を行い、軍が反発すれば一歩退き、また挑発を繰り返して、「軍とうまく対峙(たいじ)してきた」(マスード氏)という。(後略)【2012年1月29日 産経】
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昨年3月の上院選挙では議席を大きく伸ばした与党のパキスタン人民党ですが、ザルダリ大統領は今回の下院総選挙でも勝利し再選を目指しています。
再選できなければ、過去の汚職問題ですぐに起訴され再び塀の中に戻されてしまう(過去にも汚職容疑などで逮捕され、8年間収監された経験があります)でしょうから、失敗は許されません。
【政権交代の可能性】
これまでの選挙では強さを発揮してきたザルダリ大統領・パキスタン人民党ですが、今回選挙は苦戦が予想されています。
対抗勢力としては、故ブット元首相時代からの宿敵でもあり、国民的人気が高いと言われるシャリフ元首相率いるパキスタン・ムスリム連盟・シャリーフ派のほか、クリケットの元スタープレイヤーでもあるイムラン・カーン氏率いるパキスタン正義行動党が注目されています。
****パキスタン国民議会 近く選挙へ ****
パキスタンで、任期満了に伴う国民議会の選挙が近く実施されることになり、治安が改善せず経済成長も伸び悩むなか、与党の支持率が低迷していることから、政権交代の可能性が指摘されています。
パキスタンのアシュラフ首相は16日夜、テレビ演説を行い、任期満了に伴う国民議会の選挙を近く実施するため、選挙管理内閣の発足に向けて各党と大詰めの協議をしていることを明らかにしました。
そのうえでアシュラフ首相は、隣国イランの天然ガスをパキスタンに輸送する計画などを説明し、与党はエネルギー不足の解消に向けて全力を挙げているとアピールし、再び政権を握ることに強い意欲を示しました。
しかしパキスタン国内では、テロが頻発するなど治安が改善せず経済成長も伸び悩むなか、世論調査では与党の支持率はシャリフ元首相が率いる野党を下回っていて、政権交代の可能性が指摘されています。
また、選挙では、クリケットの元人気選手だったイムラン・カーン氏が率いる政党がどこまで躍進するのか注目されているほか、国外で事実上、亡命生活を送っているムシャラフ前大統領が選挙に立候補するため今月下旬に帰国すると宣言していて、実際に帰国すれば、国内で逮捕状が出ていることから混乱するおそれもあります。【3月17日 NHK NEWSweb】
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1月に大規模抗議行動でザルダリ政権を揺さぶり、政府に早期解散を約束させたイスラム教指導者タヒル・カドリ氏は、軍部の支援を受けているとも言われていますが、総選挙ではどのような対応をするのでしょうか。
【“過去の人”】
なお、記事で名前のあがっているムシャラフ前大統領ですが、すでにその政治的影響力は失われており、いささか“過去の人”の感があります。帰国自体も難しい状況です。
故ブット元首相やシャリフ元首相も亡命生活からの帰国を果たしていますが、民主化を牽引する存在としてアメリカの支援を受けていた故ブット元首相や、国民的人気が高いシャリフ元首相と異なり、ムシャラフ前大統領には帰国が受け入れられる要素がみあたらないように見えます。
****ムシャラフ前大統領、政界復帰に意欲も…逮捕・暗殺の危険 パキスタン****
事実上の亡命生活を送るパキスタンのムシャラフ前大統領は、任期満了に伴い5月中旬までに行われる同国の総選挙に参加するため帰国して政界へ復帰する意欲を示している。
しかしブット元首相暗殺事件に関連して逮捕される可能性があるほか、イスラム武装勢力から命を狙われており、帰国が実現するかどうかは不透明だ。
今月1日、ドバイで記者会見したムシャラフ氏は「私に対する容疑や身の危険があるそうだが、恐れていない。(どうなるかは)神に委ねる」と述べ、帰国の意思を強調した。同氏はその後、24日にパキスタン南部カラチに戻り、支持者5万人の集会に参加すると発表。自ら設立した新党を率い総選挙に臨むという。
パキスタンでは2007年に現与党パキスタン人民党の総裁だったブット元首相が、やはり事実上の亡命先から帰国後に暗殺された。この際、大統領だったムシャラフ氏には適切な警備態勢を取らなかったとの容疑がかけられており、裁判所がムシャラフ氏から事情を聴くため逮捕状を出している。上院もムシャラフ氏が帰国すれば逮捕、起訴すべきだとの決議を採択した。
さらに、大統領時代、イスラム武装勢力への厳しい取り締まりを断行したムシャラフ氏は何度も暗殺未遂事件に遭っており、帰国すれば身に危険が迫るのは明らかだ。
こうした事情から、ムシャラフ氏は昨年1月にも帰国の意思を示しながら、実行に移すことはできなかった。ただ69歳のムシャラフ氏にとって今回の総選挙の機を逃せば、政界復帰や帰国がいっそう難しくなるのは間違いない。それだけに、帰国により強い熱意を燃やしているもようだ。
ムシャラフ氏は陸軍参謀長だった1999年、クーデターを起こし、その後大統領に就任した。しかし、政権末期には、人民党や最高裁から強権政治を激しく批判された。ブッシュ米政権からも民主的な対応を要求され、大統領職の辞任と事実上の亡命生活へと追いやられた。
今回、帰国しても軍の十分な保護を受けることができるとは限らず、強固な支持基盤もない。パキスタンではすでに「過去の人」との印象が強い。
パキスタンの安全保障・政治評論家、カムラン・シャフィ氏は「かつての陸軍参謀長が法廷で裁かれることになれば軍にとってやっかいな出来事になるため、軍はムシャラフ氏に帰国しないよう求めているといわれている。帰国できるとは思わない」と話した。【3月20日 産経】
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【“明日のパキスタン女性”】
一方、“明日のパキスタン女性”を象徴するのが、タリバン襲撃事件の傷から奇跡的な回復をとげたマララ・ユスフザイさん(15)です。
****タリバン銃撃のパキスタン少女、英国で学校生活を再開****
パキスタンでタリバン勢力に銃撃され頭部に重傷を負ったマララ・ユスフザイさん(15)が19日、治療を受けていた英国バーミンガムの学校に登校し、学校生活を再開した。
ユスフザイさんは、女性が教育を受ける権利を否定するイスラム過激派のタリバンを批判。昨年10月の事件後、反タリバンのシンボルとして世界から注目を集め、ノーベル平和賞の候補にも挙がっている。
父親に連れられて登校したユスフザイさんは、「とてもわくわくしている。学校に戻る夢がかなった」と喜びを口にし、「世界のすべての女の子にこの基本的な機会が与えられるべきだ」と訴えた。
また、英国での学校生活については、「パキスタンのクラスメートに会えなくて寂しく思う。でも、バーミンガムで新しい先生に会って、友達を作ることを楽しみにしている」と期待を膨らませていた。【3月19日 ロイター】
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