(夫人とともに投票する有力候補の一人、ケニヤッタ副首相 “flickr”より By SAMRACK PRESTIGE SERVICES http://www.flickr.com/photos/77565063@N02/8526845815/)
日本や欧米の価値観からすれば、国家の指導者や国民の代表を選ぶ選挙は民主主義の根幹をなすものであり、欧米以外の多くの国でもそうした価値観に沿って選挙が行われるようになっています。
しかし、選挙の実施によって民主主義が各地に根付いているかと言えば、むしろ選挙が対立勢力間の暴力的争いの契機となることもしばしば見られるところです。
東アフリカの地域大国ケニアは、欧米的民主主義を取り入れた国と見られていましたが、07年の大統領選挙の際には結果を巡って部族間の争いとなり、1200名もの死者を出す混乱となりました。
今日4日、新たな大統領を選出する選挙が投票されていますが、前回同様の混乱も懸念される不穏な情勢です。
開票前の現段階で、すでに死者が出る騒ぎとなっているようです。
*****ケニア大統領選、投票開始=警官襲撃で12人死亡****
アフリカ東部ケニアで4日、大統領や議会議員、知事などを選出する投票が始まった。前回2007年の大統領選後には当選結果をめぐり約1200人が死亡する暴動が起きており、当局は警戒を強めている。
AFP通信によると、インド洋に面する主要都市モンバサでは4日早朝、若者グループ約200人が警官を襲うなどの事件が発生。警官6人と若者6人の計12人が死亡した。当局者はモンバサ地域の分離・独立を求めるグループの犯行とみているという。
大統領選には8人が立候補しているが、有力なのはオディンガ首相(68)と初代大統領ケニヤッタ氏(故人)の息子ウフル・ケニヤッタ副首相(51)の2人。開票結果は11日までに公表される。過半数を得る候補がいなければ、4月に決選投票となる。【3月4日 時事】
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警察は10万人規模のかつてない厳戒態勢をとっているようですが、混乱の本番はこれからです。
07年大統領選挙でキバキ大統領と激しく大統領の座を争い、混乱の一方の当事者となった現首相と、キバキ大統領と同部族の副首相が同程度の支持率で接戦となっており、おそらくこの2名による決選投票(4月)になるものと見られていますが、決選投票は07年選挙の混乱の再現となる恐れがあります。
****ケニア:4日大統領選 首相と副首相で決選投票か****
東アフリカのケニアで4日、任期満了に伴う大統領選が実施される。オディンガ首相(68)とケニヤッタ副首相(51)が激しいトップ争いをしており、1回の投票では決まらず、来月の決選投票に持ち込まれる可能性が高まっている。
同じく大接戦だった前回(07年)は、開票結果を巡り大規模な暴動が発生、上位候補の出身民族同士の衝突にも波及し、1000人以上の死者を出す事態となった。その後、国民間の和解を進めてきたが、対立再燃への懸念は完全には払拭(ふっしょく)されていない。
8人が立候補し、投票終了後48時間以内に結果が判明する見通し。1位候補が有効投票数の過半数に届かない場合などは、上位2候補による決選投票が4月に実施される。多くの世論調査で、オディンガ、ケニヤッタ両氏とも40%台の支持と、僅差になっている。
07年選挙では、再選を狙うキバキ氏(現大統領)と対立候補のオディンガ氏の事実上の一騎打ち。当初はオディンガ氏の大差リードが伝えられたが、最終的にキバキ氏の逆転勝利が発表されたため、オディンガ氏の出身民族ルオ人と、キバキ氏の出身民族キクユ人が衝突。各地に報復の連鎖が広がり、多数の犠牲者が出たほか、60万人以上が国内避難民となった。アナン前国連事務総長らの調停で、キバキ大統領−オディンガ首相の連立政権が発足していた。
ケニヤッタ氏は、キバキ大統領と同じキクユ人。国際刑事裁判所(ICC)から前回大統領選後の暴動に関して間接的な加害責任を問われ、訴追されている。ケニヤッタ氏は容疑を否定している。【3月2日 】
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07年大統領選挙時の混乱については、08年1月10日ブログ「ケニア 大統領選挙の混乱で暴動」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080110)でも取り上げたところです。
このときは、多数の犠牲者を出す混乱の後、アナン前国連事務総長らの調停によって、新たに首相ポストを新設して、オディンガ氏がこの首相ポストにつくことでキバキ大統領との間で権限分担が図られました。
また、二つの副首相ポストも新設され両勢力で分け合い、閣僚ポストは大幅に増設され、議会での与野党の議席数に応じて配分される形で一応の決着をみました。
このような対立勢力の権限分担で争いを治める方式は、その後ジンバブエなど、選挙によって混乱状態に陥った場合にケニア方式としてとられています。
また、今回の大統領選挙では部族間対立に加えて、別の新たな混乱要素もあります。
ケニアは、無政府状態でイスラム過激派組織「アルシャバーブ」が国土の広範囲を実効支配していた隣国ソマリアに軍事介入していますが、「アルシャバーブ」はケニアのソマリアへの軍事介入に反発して選挙を妨害することを表明しており、テロの脅威も広がっています。
(朝のTVニュースでは、すでにテロが発生したことを報じていたようにも思うのですが、部分的にしか観ていないので定かではありません。)
「アルシャバーブ」のテロはともかく、選挙結果を巡って不正が行われたり、敗北を受け入れなかったりといったことで出身部族間の争いに発展する前回のような混乱だけはなんとしても避けたいところです。