孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国 温家宝首相、最後の活動報告 にじむ無念と不満 置き去りにされた民衆

2013-03-07 22:43:56 | 中国

(全人代で活動報告を行う温家宝首相 【3月5日 新華社新華網】http://big5.xinhuanet.com/gate/big5/jp.xinhuanet.com/2013-03/05/c_132209541.htm

政治体制改革の決意表明にも拍手なし
5日に北京・人民大会堂で開幕した中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で、温家宝首相が引退を前に、最後の政府活動報告を読み上げました。

庶民的なイメージで慕われた温家宝首相ですが、天安門事件の再評価や中国政治を揺るがした薄煕来事件を巡る論議を含め、任期中しばしば口にした改革の訴えは現実政治の壁を崩すにはいたりませんでした。
温家宝首相に対しては、そうした実績が伴わないことで、“口先だけ”の批判もあります。
最後の舞台での改革の訴えも、大きな共感を得るには至らなかったようです。

****中国全人代:温首相、引退前に無念にじむ…活動報告****
中国・北京の人民大会堂で5日開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、温家宝首相(70)が引退を前に、最後の政府活動報告を読み上げた。庶民的なイメージから「平民宰相」として人気も高かった温氏。

2期10年の在任中に世界第2の経済大国となった実績などを強調した。だが、温氏が訴え続けてきた政治体制改革は遅々として進まず、むしろ無念さがにじむ内容となった。
「権力が過度に集中し、制約を受けていないという状況に対し、制度面から是正する」。壇上の温氏が強い口調で政治体制改革の決意を示しても、拍手はなかった。

温氏は可処分所得の増加や高速鉄道網の整備など経済発展による成果をアピールした。同時に、貧富の格差拡大や官僚の腐敗など「経済・社会の発展に多くの矛盾と問題が存在していることを我々ははっきりと認識している」と述べ、改革が道半ばであることを率直に認めた。

03年の全人代で首相に就いた温氏は近年、「政治体制改革の保障がなければ、経済体制改革の成果も失われる」と、政治体制改革の必要性に何度も言及した。土地の強制収用問題では陳情者から話を直接聞いた。08年の四川大地震では、発生の数時間後に現場に到着。避難所で被災者の訴えに熱心に耳を傾ける姿が「国民に寄り添う首相」を印象づけた。

だが、改革は思うようにはいかなかった。汚職などの規律違反で処分された官僚は昨年は約16万人。昨春には薄熙来重慶市党委書記(当時)による汚職事件が発覚し、政治的混乱も招いた。改革に積極的な言動は保守派の反発も強かったとされ、「指導部内で孤立している」とも評された。昨秋には米紙ニューヨーク・タイムズが親族の不正蓄財疑惑を報道。即座に否定したが、温氏本人に「負」のイメージが残った。

活動報告は前年の33ページから27ページに短縮され、読み上げ時間も例年は2時間を超えていたのが今回は1時間45分で終了した。習近平指導部は会議の簡略化など無駄をなくすよう求めており、報告の短縮も指導部の意向に沿ったものとみられる。

報告を終えた温氏は壇中央に歩み寄り、約2970人の全人代代表に向かって3回深くお辞儀をした。会場の拍手は12秒間続いた。【3月5日 毎日】
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保守、民族主義路線への不満
改革を実現できなかった“無念さ”は、現状への“不満”でもあります。
今回の温家宝首相の活動報告は、習近平総書記の進める“政治運動”や、党内の管理強化に対する批判とも指摘されています。
また、習近平総書記の対日政策に関する強硬姿勢にも、温家宝首相には強い不満があるようです。

****全人代、温首相報告 「遺言」で習路線批判 真っ向対立 改革回帰訴え****
5日に開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)で、温家宝首相が読み上げた政府活動報告の行間からは、習近平共産党総書記が推進する保守、民族主義路線への不満がにじみ出ていた。
党内最大の「改革派」といわれる温首相は、政治の表舞台における最後の発言機会を使って、改革路線への回帰を強く訴え、習指導部を牽制(けんせい)した。

党内で深刻化している腐敗問題について、温首相は「権力が過度に集中し、制約を受けていない状況に対し制度面から是正を行うべきだ」と訴えた。「制度改革」を何よりも重視する温首相は、習氏が主導する政治運動のような反腐敗、反浪費キャンペーンを暗に批判したものとみられる。

温首相はまた、「民主的な監督、法律に基づく監督、世論による監督を堅持し、権力のオープンな運用を実現する」と強調した。この主張は、党員に対するモラル教育や党による管理、監督の強化を打ち出す習総書記の方針と真っ向から対立したものといえる。

さらに、最近5年の中国外交について「主要国との関係を積極的に推進し、周辺諸国との互恵協力関係を強化した」と総括した。沖縄県・尖閣諸島をめぐる日本との最近の対立には触れなかった。昨年秋以降、習氏が主導した対日強硬外交を完全に無視することで、不快感を表明したととらえられている。共産党筋によれば、温首相は1月末のある会合で「数十年間推進してきた善隣友好外交が一瞬にして台無しになった」と習氏の外交路線を批判したという。

習氏が党総書記に就任した昨年11月以降、太子党(高級幹部子弟)関係者による不動産投資が活発化し、主要都市部の不動産価格が高騰、胡錦濤政権が力を入れてきた不動産価格抑制策が破綻したことにも大きな不満をもっているという。この日の報告でも「投機的な住宅需要を断固抑制しなければならない」と力を込めた。

政府活動報告は、温氏周辺の官僚らで構成する専門チームが執筆。最後となる今年の報告をめぐって温首相は何度もチームのメンバーと面会し、細かい指示を出していたという。共産党筋は「今年の報告は温首相の政治的遺言のようなものだ」と語った。(後略)【3月6日 産経】
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期待を置き去りにされた民衆の失望
最初にも触れたように温家宝首相の評価は様々ですが、改革の必要性を重視した温首相が政治の表舞台から身を引くことに関しては、残念な感があります。
下記記事は、温家宝首相への人々の期待、首相の良識、しかし変わらぬ現実、置き去りにされた民衆・・・を示すものです。

****全人代2013)温体制、民心なき10年「官と官はかばい合い、官と商が結託する****
有人宇宙飛行や高速鉄道などで突破口を開き、北京五輪や上海万博を成功させた――。5日、全国人民代表大会(全人代)で首相として最後の政府活動報告を行った温家宝(ウェンチアパオ)首相は胸をはった。しかしその陰で、期待を置き去りにされた民衆の失望は深い。

 ■陳情したら拘留
真夜中の山道に、三十数人の農民がひざまずいた。昨年9月8日午前2時すぎのことだ。温首相の車列が迫っていた。
中国雲南省北部の彝良(いりょう)県。その前日にマグニチュード5・7の地震が襲い、80人以上が犠牲になった。農民たちは軍が拠点にする大型テントの設置にかり出され、川沿いの村まで戻る途中だった。
「北京から指導者が視察に来るらしい」。誰かが聞きつけ、陳情を試みようという話になった。自分たちの農地が、地元政府に安く買いたたかれたことに、怒りがたまっていた。

農民の胡衣靱さん(65)が当時を振り返る。二十数台の車列の何台目かが止まり、小柄な初老の男性が出てきた。温首相だ。「平民総理」と慕われていた。みなの表情が明るくなった。
「何事ですか。立ち上がってください」。温首相が語りかけると、農民の中で標準中国語が上手な女性の梁永蘭さん(29)が前に出た。農地が工場建設のため安く強制収用され、抗議した83歳の老人を含む17人が拘束された、と訴えた。
「あなたたちの行動は法にかなっている」。温首相は1枚の紙を取り出し、梁さんに名前と村の地名を書かせて、言った。「責任者に調査させ、必ず満足出来る答えを出す」

だが、11月19日夜。梁さんが自宅でテレビを見ている時だった。十数人の私服警官が押し入ってきた。令状も何もない。連行され、7日間の拘留を告げられた。陳情したうちの4人の農民にかけられた容疑は、以下のようなものだ。
「温首相の車列の通行を妨げたことは、深刻な政治的影響をもたらし、社会に悪質な影響を与えた」
「温首相と話したのは、3~5分程度だった」。梁さんは車列以外に通行する車はなかったとも主張したが、聞き入れられない。

梁さんは9カ月前を思い出した。土地収用に抗議したら4人の警官に殴られ、5日間拘留された。「納得できなくても、受け入れるしかない」。恐怖心から書類にサインし、拘留された。
1千元(約1万5千円)の保釈金を払い、翌日夜に釈放されて知ったことだが、実際に拘留されたのは自分1人だった。見せしめだったのかもしれない。

 ■生活プラン示さず
農地は奪われたままだ。かつては、なだらかな丘にある約0・5ヘクタールの畑にサトウキビやサンショウ、野菜を栽培し、年約8万元(約120万円)の安定した収入があった。しかし、工場建設予定地となり、地元政府が支払った補償は約17万元(約255万円)だ。

農民は職も失った。「収入がないので、出稼ぎへ行くしかない」と梁さん。長距離トラック運転手の夫とも別居になる。夫も月に2~3日しか家に戻れないので、夫の母親に預ける8歳と6歳の子供は事実上、中国の出稼ぎ農村で問題になっている両親不在の「留守児童」になってしまう。

「生存権の問題だ。農民から土地を取り上げ、その後の生活プランも示されない」。胡さんは唇を震わせる。共産党が管理する地元メディアも農民の立場では報じない。胡さんは力なく言う。「官と官がかばいあい、官と商が結託する。中国はそういう社会だ」

彝良県政府は朝日新聞の取材に、「土地の価格は場所による」と語る。しかし、土地収用後に農民がどう生きていったら良いのかは語らない。
政府の横暴、法治の欠如、失業、留守児童、報道の自由のなさ、一党独裁の弊害――。雲南省の山村で起きたこの一件は、中国がかかえる矛盾をさらけ出した。これらは、中国のどこにでも存在し、温首相が在任した10年間、民衆が解決を望んだ問題だった。

温首相は昨年の全人代会見では、「政治体制改革が成功しなければ、経済体制改革は徹底できない。これまでの成果も失われ、文革の悲劇が繰り返される恐れがある」とまで言った。
しかし、既得権益層に阻まれたのか、政治体制改革はおろか、法に基づいた公正な社会の実現すらおぼつかなかった。
温首相が今年の全人代で引退することを知り、梁さんは肩を落とした。「私たちの一件はどうなるんでしょう」【3月6日 朝日】
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