(昨年7月31日ボゴタで ベネズエラ・チャベス大統領 ブラジル・ルセフ大統領 ウルグアイ・ムヒカ大統領 アルゼンチン・フェルナンデス大統領 チャベス大統領は良くも悪くも、大きな存在感のある政治家でした。 “flickr”より By Diario El Universo http://www.flickr.com/photos/eluniversocom/8531632687/in/photostream/)
【ウゴ・チャベス大統領死去】
周知のように、南米ベネズエラのチャベス大統領が亡くなりました。
チャベス大統領は昨年6月にがんが発覚。以後、キューバで手術や治療を続けてきました。
キューバから帰国して昨年10月に4選を果たしたものの、12月にはキューバで再度の腫瘍摘出手術を受け、そのままキューバで治療を続行。大統領就任式も無期限延期となっていました。
そのチャベス大統領が2月18日に突然ベネズエラに帰国。首都カラカスの軍病院で、化学療法などによる治療を受けているとされていましたが、公に姿を見せることはなく、その安否・容態が取り沙汰されていました。
恐らくキューバからの突然の帰国は、もはや我が身の長くないことを覚悟して、せめて祖国で最期の日を迎えたいとの思いからのものだったのでしょう。
*****ベネズエラのチャベス大統領が死去*****
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領が5日、死去した。58歳だった。同国のニコラス・マドゥロ副大統領が発表した。
マドゥロ副大統領は国営テレビで「われわれは最も厳しく、最も悲劇的なニュースを得た。ウゴ・チャベス大統領が本日午後4時25分(日本時間6日午前5時55分)、死去した」と述べた。
大統領の死去を受けて同国の政治情勢の先行きが不透明になった中、マドゥロ副大統領は国営テレビで「国民に寄り添って国民を守り、平穏を保証するため」に、軍と警察の特別動員を始めたことを明らかにした。
チャベス氏は昨年12月にキューバで2011年6月以降4度目となるがんの手術を受けた後、ベネズエラ国内で化学療法を続けるため2月18日に帰国していた。
チャベス氏は昨年10月の大統領選で野党統一候補のエンリケ・カプリレス氏を破って4選を果たしていたが、今年1月10日に予定されていた就任式は無期限に延期されていた。
ベネズエラ憲法は大統領の死去から30日以内に大統領選を実施すると定めている。ベネズエラ国民は14年ぶりに候補者名簿にチャベス氏の名前がない大統領選を迎えることになる。【3月6日 AFP】
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極端な反米的言動で話題となることが多かったチャベス大統領の評価については、“バラマキ”とも批判される施策や強権的政治手法もあって、立場により見方がわかれます。
****反米強硬派、権力に固執=国民意見分裂招いたチャベス氏****
「ベネズエラ再興の時が来た」と華々しく大統領選に初勝利し、群衆を熱狂させた昔の雄姿とは裏腹に、晩年は権力にしがみつこうとする姿勢が目立った。貧困層からの支持は最後まで圧倒的だったが、「終身独裁」へなりふり構わず政敵をつぶそうとする政治手法に、拒否感を持つ国民も少なくなかった。【3月6日 時事】
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【今後30日以内に大統領選挙 チャベス流政治の継承は?】
後任を選ぶ大統領選挙については、チャベス氏から後継者に指名されているマドゥロ副大統領と、昨年10月の選挙でチャベスに善戦したカプリレス・ミランダ州知事の対決になるものと見られています。
チャベス氏は12月にキューバへ向かう前に、この日が来ることを予期していたかのように、テレビ演説でマドゥロ副大統領を自身の後継者に指名していました。
“ただ大統領は、まるで遺言にも見える今回のテレビ演説で、マドゥロ氏が自身の後継者になることに期待感を示し、次期大統領選でマドゥロ氏に投票するよう国民に促した。大統領は「マドゥロを大統領に選んでもらいたい。心からお願いする」と国民に語りかけた。”【12年12月 12月9日 AFP】
一方、カプリレス氏は昨年10月の選挙で野党統一候補としてチャベス氏と争い、石油収入を原資とした施策で貧困層に根強い人気を誇るチャベス氏に敗れはしたものの、チャベス流の“バラマキ”や強権的政治手法を批判して44.9%の支持を集め、高失業率や物価高に苦しむ中産階級の不満の受け皿となっています。
****チャベス大統領死去 後継、反米と親米対決****
チャベス大統領の死去に伴い、ベネズエラではマドゥロ副大統領が当面、職務を臨時代行する。その死去が周辺国に与える影響は大きい。今後30日以内に手続きが行われる大統領選では、後継に指名されたマドゥロ氏と、前回大統領選で敗北した野党統一候補、カプリレス・ミランダ州知事の対決になるとみられる。
マドゥロ氏が当選した場合、豊富な石油資源を背景にキューバやニカラグア、ボリビア、エクアドルといった反米の中南米諸国を束ね、チャベス氏同様、米国に激しく敵対するとみられる。
ただ、2006年9月の国連総会演説で、ブッシュ前米大統領を「悪魔」と呼ぶなど、独特の反米パフォーマンスで知られたチャベス氏ほどのカリスマ性はマドゥロ氏にはない。反米同盟の勢いは衰えるとの見方が強い。
一方、カプリレス氏は対米関係改善を目指す。カプリレス氏が当選した場合、中南米諸国の反米勢力は「空中分解」を余儀なくされ、地域情勢が劇的に変わるのは確実だ。(ニューヨーク 黒沢潤)
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【アメリカ:中南米での巻き返しを狙う】
当然ながら、アメリカはこの機にチャベス政治が終焉し、中南米情勢が変化することを期待しています。
****米国:ベネズエラ大統領選の行方注視 チャベス氏死去で****
オバマ米政権は、反米左派諸国の「盟主」だったベネズエラのチャベス大統領の死去を受けて行われる大統領選の行方を注視している。現体制に不満を抱いてきた野党勢力が勝利すれば、両国関係の改善が進み、中南米で低下の一途だった米国の指導力を回復するきっかけになると考えているからだ。
チャベス氏の容体悪化が伝えられた5日、米国務省のベントレル報道部長は記者会見で、今後30日以内に行われるベネズエラ大統領選について「自由で公平である必要がある」と述べた。米政府は「自由で公正な選挙」で野党候補が勝利すれば、ベネズエラを軸とする中南米の反米左派諸国の結束にくさびを打ち込めると考えているとみられる。
ベネズエラの政策転換を待ち望む米国の心理は、歴史的には「裏庭」視してきた中南米全域における影響力低下の裏返しだ。
米国は94年、米南部マイアミにキューバを除く米州34カ国の首脳を集めて米州首脳会議の枠組みを創設し、米主導の中南米秩序の形成を目指した。だが、キューバの出席に米国だけが反対し続けた結果、昨年4月にコロンビアで開催された第6回会議は、チャベス氏、エクアドルのコレア大統領、ニカラグアのオルテガ大統領ら米州ボリバル同盟(中南米8カ国)の首脳が相次いで欠席。空洞化が浮き彫りになった。
米州ボリバル同盟は、チャベス氏とキューバのフィデル・カストロ国家評議会議長(当時)らが04年に設立した反米左派の国家同盟で、米中心の秩序形成に公然と反旗を翻している。
米国内では保守派を中心に、チャベス氏の死去を機にボリバル同盟を弱体化させるべきだとの意見が根強い。だが、中南米33カ国は11年12月、中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)を「米国抜き」で発足させるなど独自の地域統合を進めており、事態が米国のもくろみ通りに進む保証はない。【3月6日 毎日】
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世界の警察官よりは自国の経済優先の姿勢とも見られるアメリカ・オバマ政権にとっては、中南米との関係再構築は非常に大きな意味を持ちます。
****中南米で巻き返す米国****
経済関係強化の軸は「TPP」
・・・・ベネズエラが大統領交代に動く中、ワシントンも主敵の退場を機に「中南米政策のリセット」を図っている。
「一期目のオバマ政権は、中南米で大きくつまずいた。ベネズエラやキューバと、中途半端に対話しようとして失敗し、ブラジルには何度も煮え湯を飲まされた。政治でも経済でも、大きなチャンスを失った」と、在ワシントン政治記者が言う。
二期目はその誤りを繰り返さないよう、オバマ政権は経済優先で臨む。その軸が、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)である。
TPPは日本では、「事実上、日米の自由貿易協定」と解釈されることが多いが、米国から見ると、カナダとメキシコの三国で構成する北米自由貿易協定(NAFTA)に、チリとペルーの南米二カ国を加える性格を持つ。もし実現すれば「中南米地域の政治経済学を大きく変える可能性があり、南米の盟主ブラジルに対抗する、新たな軸ができる」(米外交問題評議会のシャノン・オニール研究員)こともあり、オバマ政権としては、日本の参加を待たずに早急に決着させたい課題だ。
関係強化を急ぐ背景には、中南米経済の躍進がある。米議会調査局の調べでは、一九九八年から二〇〇九年までの間に、米国と中南米との貿易額は八二%も増加し、対アジア貿易の増加率(七二%)や対欧州連合(EU)貿易の増加率(五一%)をしのいだ。近年はさらにその傾向が加速し、一一年の対中南米貿易は前年比で二〇%も増えた。
ところが、増加の大半は南隣のメキシコとの貿易に負っている。今やメキシコは米国の対中南米貿易の六割を占めているのに、ブラジルなど南米各国との貿易はそれほど伸びていない。ブラジルは中国が最大の貿易パートナーで、米国の出遅れが目立っていた。「経済再建」を目指すオバマ政権にとって、絶好のチャンスを見逃している格好だ。オバマ大統領自身は一期目からすでに、「米国は中南米諸国のパートナーであり続けなければならない」(チリ訪問時での演説)と強調していた。(後略)【選択 2月号】
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【キューバ、ニカラグアにとっては死活問題】
ベネズエラの今後がアメリカ以上に重要な意味をもつのが、これまでチャベス政権から巨額の支援を受けていたキューバやニカラグアでしょう。
****チャベス大統領死去:反米左派諸国に大きな不確実性****
・・・・マドゥロ氏はチャベス路線継承が確実視されている。野党候補が勝利した場合、中南米カリブ地域の反米左派政権に対する石油などの援助は、大幅に刈り込まれる見通しだ。そうなれば、キューバやニカラグアは深刻な経済危機に直面する。
05〜11年、チャベス政権は世界40カ国以上に820億ドル(約7兆6600億円)に及ぶ経済支援を行った。キューバは285億ドル、ニカラグアは97億ドルと突出している。
ベネズエラの支援が途絶えれば、90年代前半にソ連が崩壊して石油輸入が途絶え、経済が大幅に縮小して餓死者も出た状況に後戻りしかねない。
キューバ政府は数年前から首都ハバナ沖の海底油田開発を積極化しているが、試掘の結果は思わしくない。
中米ニカラグアのオルテガ政権は、ベネズエラの支援を原資に貧困層対策を拡充し公共料金を低く抑えて、支持層を固めてきた。ベネズエラの支援途絶は政権の危機に直結することになる。【3月6日 毎日】
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アメリカの思惑、キューバなどの懸念も次期大統領選挙結果次第ですが、“ロイター通信によると、最近の世論調査では、「チャベスの後継者」としてマドゥロ氏有利の結果が出た。石油収入還元政策で生活が改善した貧困層の親チャベス感情の反映だ。”【同上】とのことです。
日本らな“弔い選挙”といったところでしょうが、南米ベネズエラではどうでしょうか?
なお、こんな話も。
****チャベス氏死去「米の陰謀」?=「怪しい病気」とイラン大統領****
ベネズエラのチャベス大統領死去を受け、同盟国イランの盟友アハマディネジャド大統領は6日、ベネズエラのマドゥロ副大統領に哀悼の書簡を送り「怪しい病気で殉教した」との見方を示した。
チャベス大統領は2011年、南米指導者にがんが次々見つかったことを踏まえ「(米国が)がんを誘発する技術を開発しても、おかしくはない」と陰謀説を唱えた。マドゥロ副大統領もチャベス氏の死の直前、「敵」の陰謀に言及。アハマディネジャド大統領もこれに同調した格好だ。【3月6日 時事】
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