(2月21日 首都ダマスカス アサド政権与党バース党の事務所付近で起きた反体制派によるとされる自動車爆弾テロ こうしたテロについて、反体制派は政権による自作自演と主張しています。“flickr” By cassandra.brooks90 http://www.flickr.com/photos/93445641@N04/8495862372/)
【「対話を望むすべての者と対話する用意がある。たとえ武器を手にしていてもだ」】
内戦が続くシリアのムアレム外相は2月25日、ロシアのラブロフ外相との会談で、「改革は虐殺ではなく対話によってのみ達成される。我々は対話を望む全ての勢力と話し合う用意がある。たとえ(相手が)武器を手にしていてもだ」と表明。また、内外の反体制派との対話を行うため首相を長とする政府委員会を創設したとも語っています。【2月25日 毎日より】
武装した状態の反体制派と話し合いを行う用意があることを表明した点では、これまでより踏み込んだ発言ですが、反体制派やアメリカの公式的な反応は芳しくないようです。
****シリア外相、反体制派との対話の「用意ある」****
2年に及ぶ衝突を終わらせるための「次のステップ」を話し合う国際会合に向けた外交交渉が活発化する中、アサド政権のワリード・ムアレム外相は25日、シリア政府に武装反体制派と話し合いを行う用意があると表明した。
モスクワで行われた会談でムアレム外相は、「対話を望むすべての者と対話する用意がある。これには武装している者も含まれる」とセルゲイ・ラブロフ露外相に述べた。シリアの閣僚がこのような提案を行うのは初めて。
ロシア政府は反体制とシリア政府に対し、紛争終結に向けた直接交渉を行うよう再度呼び掛け、軍事的な勝利を目指すことはシリアの破壊につながる危険性があると忠告した。ロシアは、シリア政府と関係を維持している数少ない大国の1つだ。
またジョン・ケリー米国務長官は、ムアレム外相の対話の呼び掛けに対し「スカッド(ミサイル)がアレッポの罪なき人々に降り注ぐ中で、対話の用意があるという彼ら(シリア政府)の発言を真剣に受け止めることは、極めて困難なことであると思える」と訪問先のロンドンで語った。
反体制派の自由シリア軍(FSA)のセリム・イドリス参謀長も、「殺りくが中止される、または都市部からの軍隊の撤退があるまで、アサド大統領やその徒党らと交渉の席に着くことはない」と、中東の衛星テレビ、アルアラビーヤで語った。
一方で、同盟9か国を歴訪中のケリー国務長官は25日、ローマで28日に開かれる「シリアの友人たち」へのボイコットを表明していたシリア反体制派の説得を行い、反体制派の会合参加を取り付けた。【2月26日 AFP】
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反体制派の方は、武器供与をためらう欧米諸国による支援を不十分として、国際支援会議をボイコットすることを表明していましたが、上記記事にあるように結局参加はしたようです。
また、独自の暫定政府づくりを進め、今月初めにも首相選出を行うことを表明していましたが、これについても延期しています。
****シリア暫定政府の首相選出を延期 反体制派「国民連合」****
シリア反体制派の代表組織「シリア国民連合」は2月28日、今月2日にトルコ・イスタンブールで予定していたシリア暫定政府の首相選出を延期した。新たな日程は決まっていない。
シリア反体制派の複数の関係者が朝日新聞に語った。
欧州、中東を歴訪中のケリー米国務長官が国民連合のハティブ議長に電話で延期を求めたという。ケリー氏は「暫定政府は、政権と反体制派双方で構成すべきだ」との考えを示したという。(カイロ) 【3月2日 朝日】
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アサド政権の後ろ盾ロシアとアメリカは、電話首脳会談で“暴力の即時停止と政治的移行の必要性で一致した”とのことです。まあ、必要性を否定する者は多くないでしょうが、問題はその具体的プロセスです。
オバマ・プーチン両者の間でどのようなやり取りがなされたのかはわかりません。
****シリア:「暴力即時停止が必要」米露首脳、電話協議で一致****
オバマ米大統領は1日、ロシアのプーチン大統領と内戦状態のシリア情勢などを電話で協議し、暴力の即時停止と政治的移行の必要性で一致した。米ホワイトハウスとロシア大統領府が同日、発表した。電話協議は米側の要請で行われた。
シリア情勢を巡っては、ケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相が2月26日、訪問先のベルリンで会談し、アサド政権と反体制勢力の対話実現に向けて協力することで合意した。ホワイトハウスによると、両首脳は電話協議で外相会談の成果を確認し、両外相が引き続きシリア情勢に関与することで一致した。
シリア情勢では、米側がアサド政権の早期退陣を求めているのに対し、ロシア側はアサド政権の事実上の後ろ盾になっている。(後略)【3月2日 毎日】
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こうした、アサド政権側、反体制派、アメリカ、ロシアの一連の動きの結果、“暴力の即時停止と政治的移行”への道筋が少しでも具体化してきたのか・・・という肝心の点は、定かではありません。
【レバノン・スンニ派の武装化 イラク・サドル師派の参戦】
シリア情勢の混迷は、隣国イラク・レバノンにも波及します。
キリスト教とイスラム教、ユダヤ教の計18の宗教・宗派が入り組み、親シリア・反シリアが国内勢力の最大の対抗軸となっているレバノンでは、アサド政権を支援するシーア派「ヒズボラ」のシリアへの関与などは以前から報じられていますが、これに対抗する形でスンニ派勢力の動きも活発化しているようです。
****レバノン:スンニ派住民に武装の動き シリア内戦が波及*****
レバノンの有力なスンニ派聖職者アハマド・アシール師が、南部サイダで毎日新聞のインタビューに応じ、シーア派武装組織ヒズボラに対抗するため、スンニ派住民らに武装組織設立の動きがあることを明らかにした。
アシール師は「ヒズボラのシリア内戦への介入が、シリアの一般市民に同情的な若者たちを刺激している」と指摘。アシール師の発言は、シリア内戦の波及が懸念されるレバノンが一触即発の状態にあることをうかがわせた。
レバノンでは、内戦状態のシリアのアサド政権支持者が多いシーア派と、反体制派に同情的なスンニ派の緊張が高まり、衝突も散発している。(後略)【3月2日 毎日】
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一方、激動の中東情勢にあって、相対的に安定感すら感じられるイラクですが、シーア派である「サドル師派」のシリア反体制派攻撃、逆にシリア反体制派によるイラク領内での攻撃などが報じられています。
****「サドル師派参戦」と非難=イラク国内で報復も―シリア反体制派****
内戦が続くシリアの主要な反体制武装組織「自由シリア軍」幹部のアンマル・アルワーウィ大佐は4日までに、時事通信の電話インタビューに応じ、イラクのイスラム教シーア派反米強硬指導者ムクタダ・サドル師の影響下に置かれた部隊が、戦車や戦闘機を動員して自由シリア軍に対する攻撃に加わっていると非難し、「イラク国内での軍事的な報復攻撃も辞さない」と警告した。
大佐によると、自由シリア軍は2日、アサド政権側部隊から北東部の対イラク国境にあるヤアルビア国境検問所を奪取した。自由シリア軍が前進した際、イラクの部隊が戦車や戦闘機を使って自由シリア軍側を攻撃し、7人が死亡したという。【3月4日 時事】
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****シリア兵ら40人超殺害=イラク西部で待ち伏せ攻撃****
イラクからの報道によると、同国西部アンバル州アカシャトで4日、武装勢力がシリア人の車列を襲撃し、シリア兵やシリア政府職員計40人とイラクの警備要員数人を殺害した。【3月5日 時事】
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この攻撃でイラク軍兵士9人も殺害されたようです。殺害されたシリア政府職員らは反体制派の攻撃から逃れてイラク領内に入り、イラク軍によって国境の別の地点に移送される途中だったとのことです。
【ラッカを攻略した反体制派の主力は、アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織】
シリア国内の戦闘状況については、反体制派が北部主要都市ラッカをほぼ制圧したと報じられています。
反体制派による主要都市制圧は初めてのことになります。
****シリア:反体制派、主要都市を制圧か 北部ラッカも****
在英のシリア反体制派組織「シリア人権観測所」によると、シリア反体制派は4日までに北部ラッカをほぼ制圧した。反体制派武装組織「自由シリア軍」幹部も毎日新聞の電話取材に「一部で政府軍が抵抗を続けているが、ほぼ制圧した」と話した。事実なら、11年3月に武力衝突が始まって以来初めて、反体制派が主要都市を制圧したことになる。(中略)
ロイター通信によると、ラッカを攻略した反体制派の主力は、国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織との情報もある。(後略)【3月5日 毎日】
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問題は上記ラッカ制圧でも見られるように、国際テロ組織アルカイダ系のヌスラ戦線などイスラム原理主義武装組織が反体制派内で戦闘力の面で大きな存在となっていることです。
欧米諸国が反体制派への武器供与を躊躇しているのも、こうした勢力へ武器が渡ることを危惧していることが大きな理由です。
アサド政権のムアレム外相はラブロフ露外相との会談で、反体制武装勢力「ヌスラ戦線」がロシア南部チェチェン共和国を含む28カ国の武装勢力をシリアでの戦闘に参加させていると批判し、「テロとの戦いは継続する」と語っています。
****アルカイダ系勢力活発化 シリア 自爆攻撃を多用、大量処刑も ****
内戦状態のシリアで、アサド政権に対して、自爆攻撃や大量処刑など、イスラム過激派に特有の手法が目立ってきた。こうした現状に、反体制派「自由シリア軍(FSA)」幹部は本紙の取材に、国際テロ組織アルカイダ系勢力などが活動していると証言した。隣国イラクで大規模なテロを繰り返している勢力などが流入した疑いがあり、懸念の声が上がっている。
八日夜、首都ダマスカス近郊ハラスタにある政府軍の基地で二回の自爆攻撃があり、多数の死者が出たもようだ。AFP通信などが伝えた。
「ヌスラ戦線」を名乗るイスラム過激派が声明を出し「イスラム教徒を弾圧、殺害した者たちへの復讐(ふくしゅう)だ」と主張。九トンの爆発物を積んだ車と爆発物を仕掛けた救急車を使ったと説明した。
三日にも、北部アレッポで四十八人が死亡した自爆攻撃や車爆弾テロについて、ヌスラ戦線が実行を認めている。ヌスラ戦線は、シリア危機の以前は確認されなかった組織で謎が多い。自爆攻撃などはシリア反体制派が使わない手法だ。
反体制派「自由シリア軍(FSA)」幹部のアブドルカリーム大佐は電話取材に「ヌスラ戦線はアルカイダ系組織だ」と断言。「裁判もせず処刑するなど、彼らのやり方は革命のイメージを損ねる。この手のグループとは協力していない」と困惑する。国外から流入した過激派は、他の勢力を含めて数百人規模とみる。
アサド政権の中枢を占めるのはイスラム教シーア派の一派とされるアラウィ派。シーア派を敵視するアルカイダ系組織のヌスラ戦線が、拠点を築く目的で、内戦状態に陥ったシリアに入り込んできた可能性がある。
イスラム過激派に詳しいカイロ在住ジャーナリストのムハンマド・サラ氏は「戦闘員の主力はイラクからで、イエメンなどアラブ各地から加わっているとみられる」と指摘。政権崩壊後、混乱するシリアが、アルカイダなどの巣窟となり、第二のイラク化する恐れを警告している。【12年10月10日 東京】
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「この手のグループとは協力していない」とは言いつつも、戦闘においては依然大きな力を発揮しているようです。
このままシリア内戦が続けば、仮にアサド政権が崩壊したとしても、それに代わる反体制派内部で軍事的勝利の原動力ともなったイスラム原理主義武装勢力が大きな力を持つことにもなります。
新たな政治体制づくりにおいて、イスラム原理主義武装勢力がその要求を通そうとすれば、新たな混乱の火種ともなります。彼らが力を持てば、アサド政権支持勢力への報復も懸念されます。
欧米諸国はイラク、アフガニスタン、そしてソマリアやマリ北部でイスラム原理主義武装勢力の排除にやっきになっていますが、シリアでは反体制派を支援する形で、イスラム原理主義武装勢力拡大の後押しをすることにもなっています。
もともとシリアの混乱は、民主化運動と言うよりは、政権を支えるアラウィ派と多数派スンニ派の宗派間争いの側面が色濃くありました。戦いの結果、スンニ派のより過激・先鋭な勢力が実権を持つことになれば、それぐらいなら人権抑圧の問題は多々あったアサド政権の方が宗教的には世俗的であり、より欧米の価値観に近いとも言えます。
イスラム原理主義武装勢力のこれ以上の拡大を抑えるためには、軍事的解決ではなく、政治的解決に持ち込むしかないように思われますが、ここまでもつれた糸をほぐすのは困難です。
****「シリア内戦で和平協議仲介の用意」、国連事務総長と特別代表****
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長とシリア問題をめぐる国連とアラブ連盟のラクダール・ブラヒミ合同特別代表は2日、シリア政府と反体制派の和平協議で仲介役を務める用意があるとする共同声明を発表した。
国連によると、シリア国内の両勢力が「対話への意欲」を示したため、潘事務総長とブラヒミ特別代表がスイスのモンペルランで協議したという。(後略)【3月3日 AFP】
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藁にもすがる思いで、国連の仲介に期待したいところです。