孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ「西岸地区」での幼児焼死事件  イスラエル国内でもユダヤ教過激派への対応で波紋

2015-08-04 22:13:43 | パレスチナ

(放火されたパレスチナ人民家で、壁にヘブライ語で「復讐」と書かれた落書き 【8月4日 時事】)

放火で生後18か月の幼児が死亡 壁にはヘブライ語で「復讐」】
中東パレスチナがイスラエルとの関係で緊張関係にあるのはいつもの話で、ときおりユダヤ人とパレスチナ人の間で襲撃・殺害事件などもおきています。

最近では、6月19日にヨルダン川西岸地区のラマラ近郊のドレブ入植地付近で、ユダヤ人の男性2人がパレスチナ人の男に銃撃され、1人が死亡、もう1人が足に軽傷を負った事件などもありました。

そうしたなかでも、今回7月31日におきた、イスラエル人入植者による放火で幼児が焼死するという事件は波紋を広げています。

****パレスチナ民家放火で幼児死亡、イスラエル入植者の犯行か****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のナブルス近郊の村で31日、パレスチナ人家族の自宅がイスラエル人入植者とみられるグループに放火され、生後18か月の幼児が死亡、両親が負傷した。

パレスチナ治安当局によると、イスラエル人入植者とみられる4人がパレスチナ人の村の入り口にある民家に火をつけ、壁に落書きをして、隣接する入植地に逃げ戻ったという。

イスラエルのモシェ・ヤアロン国防相は同日、事件を「テロ行為」と非難し、「テロリストがパレスチナ人の命を奪うことは容認しない」との声明を発表した。

ヨルダン川西岸におけるイスラエル人の入植は中東和平の大きな障害となっている。パレスチナ側は入植地を将来樹立する独立国家の一部とみなしており、西側諸国は入植活動の中止を重ねてイスラエルに求めている。【7月31日 AFP】
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放火は民家2棟に投げ込まれた火炎瓶によるもので、“壁に落書き”とあるのは、ヘブライ語で「復讐」などと書かれていたものです。

この事件で1歳半の男児が死亡、両親と4歳の兄が重度のやけどを負っっています。

ユダヤ教過激派を批判したイスラエル大統領へ暗殺示唆の脅迫も
パレスチナ側に強い反発が起きているのはもちろんですが、イスラエル社会も、ユダヤ教過激派への対応を巡って揺れています。

****<イスラエル>3000人の抗議集会 パレスチナ幼児殺害****
◇ユダヤ教過激派、リブリン大統領に暗殺示唆の脅迫も
ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ナブルス近郊で7月31日にパレスチナ人の民家が放火され、1歳の男児が死亡した事件が、イスラエル社会に波紋を広げている。

各地で抗議集会が開かれる一方、ユダヤ教過激派は事件を批判したリブリン大統領に暗殺をほのめかすような脅迫を行っており、当局は警備を強化した。(中略)

最大都市テルアビブでは1日夜、イスラエルの市民団体が約3000人の抗議集会を開いた。左派政党メレツのガルオン党首も姿を見せ、過激派組織「イスラム国」(IS)の「ユダヤ教バージョンの犯行だ」と非難した。

集会には、死亡した男児の叔父も参加。「平穏に眠っていた家族に火を放った。ネタニヤフ(首相)は哀悼の意を表したが、パレスチナの村を守る警備を施してほしい」と訴えた。

聖地エルサレムでは7月30日にも、同性愛者のパレード参加者に過激なユダヤ教超正統派の男が切りつける事件が起きた。

1日夜には二つの事件に抗議する集会が開かれ、出席したリブリン大統領は「我々の地に、歪曲(わいきょく)された(ユダヤ教の)信仰に基づく暴力と憎しみの炎が広がっている」と非難。

さらに、「暴力と対峙(たいじ)する決意が(ネタニヤフ政権に)必要だ」と主張する異例のコラムを地元紙にヘブライ語とアラビア語で寄稿し、政権のユダヤ教過激派対策が不十分だとの見解を示唆した。

大統領は与党右派リクード所属の保守派だが、パレスチナ人の人権擁護に取り組んだ実績もあり、ネタニヤフ首相とは対立関係にあるとの指摘もある。

ソーシャルメディアではユダヤ教過激派が大統領に対し、暗殺者が「立ち上がり、(大統領を)消しに来るだろう」などとする脅迫が拡大している。

ネタニヤフ首相は2日の会見で、犯人逮捕に「容赦はしない。あらゆる手段を講じる」と言明した。

パレスチナ自治政府のアッバス議長の報道官は31日、「言葉だけの空虚な哀悼の意はいらない」と述べ、イスラエル政府によるユダヤ人入植地の拡大方針が維持されていることがこうした事件を誘発すると非難した。【8月2日 毎日】
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右派ネタニヤフ政権が本気でユダヤ教過激派に対処するのかは・・・・
アメリカのアーネスト大統領報道官も「卑劣なテロリスト」による犯行だと非難するような状況で、保守派のイスラエル・ネタニヤフ首相も「テロ対策」の強い姿勢を見せています。

ただ、支持基盤でもある右派への実効ある対応がとれるのかどうかは疑問視する向きもあります。

****<イスラエル>放火事件受けユダヤ人でも裁判なし長期拘束も****
イスラエル政府は2日、安全保障閣僚会議を開き「テロ対策」などで主にパレスチナ人を対象にしてきた拘束制度をイスラエルのユダヤ人らにも適用する方針を承認した。

7月31日未明にヨルダン川西岸パレスチナ自治区ドゥーマ村で起きたユダヤ教過激派によるとみられる放火事件を受けた措置。ただ、裁判なしの長期拘束を可能にする「強硬策」で、国際法違反との批判も根強い。

事件では寝ていた1歳の男児、アリ・サアアド・ダワブシェちゃんが死亡し、両親と4歳の長男も重体。治安当局はユダヤ教過激派らを捜査中だ。

承認されたのは「行政拘束」の積極的な適用。裁判なしで長期拘束も可能となる。イスラム原理主義組織ハマスとの戦闘が続いた昨年8月、イスラエルは西岸のパレスチナ人473人をこの制度で拘束。過去5年で最多となった。

法的にはユダヤ人も対象だったが、イスラエル市民はさまざまな人権保護規定で守られ、実際の適用は難しかった。逆にイスラエルが占領する西岸地区では「テロ容疑者」がパレスチナ人の場合、軍事法廷で裁かれるため、より頻繁に適用されてきた。

治安当局は、ユダヤ教過激派が凶悪化しているため対象を拡大したが、現在の法相は入植地拡大を掲げる宗教系極右「ユダヤの家」所属で、どこまで運用されるかは未知数だ。(中略)
         
◇ユダヤ教指導者(ラビ)で過激派に詳しい「イスラエル宗教間協力評議会」ロン・コルニシュ博士の話
放火したのは、おそらく過激思想を持つ若者だろう。正統なユダヤ教徒ではない。

問題はイスラエル政府がこの数年、こうした犯罪に対処せず、エスカレートさせてしまったことだ。
1995年にパレスチナとの和平を進めてきたラビン首相(当時)がユダヤ教過激派の青年に暗殺されて以降、治安当局はこうした「テロリスト」の動向を注意深く見てきた。逮捕が技術的に難しいとは思わない。

だが「政治」にその意思がない。(現政権は)彼らを選挙で選んだ右派を怒らせたくないと思っている。だが、若者に過激思想を吹き込んでいる宗教指導者を捕らえ、本気で対処しなければ、宗教戦争に発展しかねない。今回の事件は、こうした問題に向き合う警鐘ととらえるべきだ。【8月3日 毎日】
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ユダヤ過激派活動家の逮捕も報じられていますが、事件との関係についてはまだ明らかになっていません。

****ユダヤ極右活動家を逮捕=教会放火事件に関与か―イスラエル****
イスラエル紙ハーレツなどによると、国内治安機関シャバクは3日、「ユダヤ過激派組織での活動」を理由に、極右活動家メイル・エッティンガー容疑者(24)を逮捕した。6月に北部のガリラヤ湖畔にあるキリストゆかりの「パンと魚の奇跡の教会」で起きた放火事件に関与しているとみられている。(中略)

エッティンガー容疑者が取り調べに協力しない場合、(上記「行政拘束」によって)拘束され続けることになる。

だが、同容疑者が民家放火に関与しているかは現段階では不明。【8月4日 時事】
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パレスチナ自治政府はICCへ「入植者によるテロ」として資料を提出
パレスチナ自治政府は、今年4月に正式加盟が発効した国際刑事裁判所(ICC)に対して「(ユダヤ人)入植者によるテロ」として資料を提出しています。

****パレスチナが反発=ユダヤ過激派放火で****
ユダヤ過激派によるとみられる民家への放火事件を受け、パレスチナの反発が強まっている。

パレスチナ自治政府は3日、国際刑事裁判所(ICC)に「(ユダヤ人)入植者によるテロ」として資料を提出。イスラエルとパレスチナとの対立が再燃する可能性が出てきた。(中略)

1995年のパレスチナ自治拡大協定(オスロ第2合意)以降、西岸はA〜C地区に3区分されている。ドゥマのあるC地区は、イスラエルが治安と民政の双方を管轄し、ユダヤ人入植地が集中。

イスラエル当局は入植者の犯行とみている。
アッバス自治政府議長は「西岸におけるイスラエルの入植政策の結果だ」と強く非難。国連安全保障理事会などにも訴える構えだ。【8月4日 時事】 
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従来からパレスチナ暫定自治政府は、去年夏にイスラエルがパレスチナ暫定自治区のガザ地区で行った軍事作戦で多くの市民が死亡したことや、占領地であるヨルダン川西岸などでのイスラエルの入植活動が国際法違反に当たるとして、イスラエルの指導者の訴追を目指す方針を示しています。【4月2日 NHK】

その方針に沿って、ICCへの資料提出も行っています。

****国際刑事裁に資料を初提出=イスラエルの犯罪、調査後押し―パレスチナ****
パレスチナ自治政府のマルキ外相は25日、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)本部を訪問し、イスラエルの「戦争犯罪」などに関する資料を初めて提出した。ICCの検察官が進めている予備調査を補完し、正式捜査へつなげたい考えだ。【6月25日 時事】
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今回事件はイスラエルによる違法な入植活動の結果だとして、今後パレスチナ自治政府側はICCや国連などの場を使ってイスラエルへの圧力を強めるものと思われます。
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