孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  辞任・総選挙に打って出たチプラス首相の賭けは?

2015-08-28 23:18:54 | 欧州情勢

(8月20日、辞意を表明しオフィスを出るチプラス首相(ロイター/アフロ)【8月23日 東洋経済online】)

当面の財政破綻を回避したものの、「独力では持続不可能」(ラガルドIMF専務理事)】
ギリシャ財政危機については、これまで緊縮策に抵抗してきたギリシャ・チプラス首相が一転して年金改革や課税の強化、銀行の不良債権処理、国有施設の民営化、エネルギー市場の規制緩和などを柱とする財政改革案を認めたことを受けて、EU側も14日のユーロ圏財務相会合で、ギリシャへの最大860億ユーロ(約11兆8700億円)に上る3年間の金融支援について正式合意、とにもかくにも現時点でのギリシャ財政破たんは回避されました。

最近では、押し寄せる移民という欧州の抱えるもうひとつの難題の影に隠れた形にもなっていますが、ギリシャ財政危機の将来を不安視する見方も根強くあります。

****財政破綻遠のいたが・・・・重すぎる借金、将来に不安****
欧州連合(EU)内で単一通貨ユーロを導入している19か国は14日、財務相会合を開き、ギリシャに最大860億ユーロ(約11・9兆円)の金融支援を行うことを正式に決めた。

期間は3年。これにより、ギリシャの財政が早期に破綻する懸念は遠のいたが、重すぎる借金を背負うことで、将来に不安が残る形となった。

2012年から稼働を始めたユーロ圏の救済基金「欧州安定メカニズム(ESM)」を通じて融資する。EUによるギリシャへの金融支援は、10年と12年に続き、3度目となる。

これまでEUと足並みをそろえる形でギリシャを支援してきた国際通貨基金(IMF)は、追加支援に条件を付けた。
IMFは、今回の3次支援を受ける前の時点で、政府債務が国内総生産(GDP)の177%に達しているギリシャの財政状況について、「独力では持続不可能」(ラガルド専務理事)とし、いつかは破綻すると見なしている。【8月16日 読売】
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IMFの対応については、“ドイツなどはIMFに支援額の一部拠出を求めているが、IMFは、ユーロ圏各国がギリシャの債務負担を軽減しなければ、融資には応じない考えだ。このため、ユーロ圏各国は10月に、返済期限の延長などの負担軽減の具体策を協議する予定だ。”【8月20日 朝日】とのことです。

EUを主導する立場のドイツには、チプラス首相の改革実行力への不信感から、ギリシャ支援への抵抗が根強くあります。

ドイツ連邦議会は19日、ギリシャに対する最大860億ユーロの新たな金融支援について審議し、賛成多数で可決しましたが、“ギリシャとの支援交渉再開の是非を巡る先月17日の独議会では、メルケル首相の所属会派から60人が反対票を投じた。さらなる造反への警戒感を強める同会派のカウダー院内総務は、主要委員会人事から造反議員を外す方針を示すなど、強硬姿勢で引き締めを図っていた。”【8月19日 毎日】という状況です。

ギリシャが今後ともやっていけるかどうかは、負担軽減が認められるかどうかにかかっていますが、ギリシャ支援反対派を多く抱えるなかで、ドイツがギリシャの負担軽減をどこまで認められるかは不透明です。

チプラス首相 辞任・総選挙で安定政権樹立を目指す
一方、ギリシャ・チプラス政権も、緊縮策を容認したことへ与党内から強い反対が出ました。
ギリシャの国会(定数300)は14日、EU側からの金融支援の条件である財政改革の法案を採決し、賛成多数で可決しましたが、反緊縮を公約としてきた最大与党・急進左翼進歩連合(SYRIZA・149議席)は32人が反対、11人が白票を投じて造反しました。

チプラス首相は採決に先立つ演説で「妥協を選んだことを後悔してはいない」と述べ、ギリシャが生き残るためにはやむを得ない選択だったとして、議員らに理解を求めています。

財政破綻をなんとか回避できたことを受けて、チプラス首相は辞表を提出し、国会を解散して総選挙の前倒し実施に踏み切るという「賭け」に出ています。

“EUのユーロ圏との金融支援合意に反対した与党内強硬派を追放し、再選を果たして改革断行に向けて政権基盤を強化するのがチプラス氏の狙い。だが、政局が流動化すれば、金融支援の条件である財政緊縮策の履行の停滞を招く恐れもある。”【8月21日 毎日】

****造反者一掃を狙う強気ツィプラスの辞任****
債権者のEUに強気で盾突いてきたギリシヤのツィプラス首相が先週辞任を表明し、早期の総選挙を要請した。だが今回の狙いは、「身内」の敵と一戦交えることにあるらしい。

ここ数日、ギリシヤ議会はツィプラス率いる急進左派連合(SYRIZA)内の大規模な造反で紛糾してきた。

ユーロ圈諸国は8月半ば、ギリシャヘの最大860億劈の支援策を決定した。その条件である財政改革法案は可決したものの、与党内でも特に強硬な反緊縮派40人以上が造反。法案は政党の理念に対する裏切りだと主張している。

総選挙は早ければ9月20日に実施。ツィプラスはいまだ高い人気を保っており、再選される可能性が大きい。与党内の反対派を一掃し、政権基盤を立て直して再出発する狙いのようだ。

ツィプラスは辞任表明後のテレビ演説で、EUとの妥協について「現状では最善のものだ」と訴え、国民の理解を求めた

それでも与党分裂で政局が流動化する恐れもある。今度の強気の賭けは、ギリシヤにさらなる混乱を呼ぶかもしれない。【9月1日号 Newsweek日本版】
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造反組議員も与党を離党して新党を結成して、総選挙で民意を問う構えです。

****<ギリシャ>強硬派が新党 元急進左派、首相らと決別****
ギリシャの与党・急進左派連合を離党した強硬派が21日、アテネで新党「民衆統一」の結成記者会見を開いた。与党はチプラス首相率いる主流派と、強硬派の新党に分裂して総選挙に臨むことになった。

新党党首のラファザニス前エネルギー相は記者会見で、財政緊縮策の履行を条件にチプラス氏が欧州連合(EU)のユーロ圏と結んだ金融支援合意の撤廃と債務削減を主張し、「必要であればユーロ圏から離脱する」と語った。

7月5日の国民投票で6割強が緊縮策の受け入れを拒否したことから、新党議員の一人は「緊縮策にノーを突きつけた人々に発言権を与えたい。(チプラス氏に)裏切られたと感じている人々の支持を得ている」と述べた。

新党には当初、強硬派議員25人が参集した。だが、現地からの情報によると、新たに4人が加わり、計29人になる見通し。

一方、チプラス氏は21日、急進左派連合の会合で「現実から逃避し、仮想現実を作り出そうとしている」と述べ、ユーロ圏離脱と旧通貨ドラクマの復活を説く強硬派の動きを批判した。

ギリシャのメディアによると、チプラス氏は総選挙を9月20日に実施するようパブロプロス大統領に提案していたが、手続きに時間がかかるため、同月27日になる可能性もあるという。【8月22日 毎日】
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パブロプロス大統領は27日、チプラス首相の辞任表明を受け、サヌ最高裁長官(女性)を暫定首相に任命し、各党は選挙戦へ突入しています。

チプラス首相の目論見どおり、強硬派を一掃して安定した政権基盤が得られるかどうかは不透明な状況です。

****<ギリシャ>総選挙へ各党の運動が本格的に 暫定政権が発足****
 ◇焦点は改革履行へ安定政権樹立の可否
財政危機下のギリシャで28日、来月20日に実施される見通しの議会(定数300)総選挙まで国政を担当する暫定政権が発足し、各党の選挙運動が本格的に始まった。

緊縮策に反対する与党内強硬派の造反を受けて今月20日に辞任したチプラス前首相(41)が求心力を回復し、欧州連合(EU)のユーロ圏が求める改革履行のための安定政権を樹立できるかどうかが焦点だ。

チプラス氏の辞任後、議会第2、第3党による連立工作が不調に終わったため、バシリキ・サヌ最高裁長官が27日、パブロプロス大統領の指名を受け、暫定首相に就任した。ギリシャメディアによると、来月20日の投開票が有力視されている。

選挙は、緊縮策の受け入れと引き換えにユーロ圏から新規金融支援を取り付けたチプラス氏に対する事実上の信任投票。チプラス氏は地元テレビのインタビューで、親EU派の主要野党とは連立を組まない考えを示しており、与党・急進左派連合がどこまで単独過半数に肉薄できるかが注目されている。

28日付地元紙が掲載した世論調査によると、急進左派連合の支持率が23%で首位だが、中道右派の野党・新民主主義党(19.5%)の急追を受けている。7月時点では両党の差は10ポイント以上開いていた。

連立与党の保守政党・独立ギリシャ人は2%で低迷。野党からは「チプラス氏が政権を樹立できず、11月か12月の再選挙となる可能性もある」と懸念する声が漏れている。

暫定ながらギリシャ初の女性首相となったサヌ氏は1950年生まれ。財政緊縮策に強く反対してきたことで知られている。27日、チプラス氏から事務の引き継ぎを受けたサヌ氏は「暫定政権の主な任務は公正で円滑な選挙の実施だが、移民問題などの緊急課題にも取り組まざるを得ないと思う」と述べた。【8月28日 毎日】
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EU側は、“チプラス首相率いる急進左派連合の主流派が強化されても、野党の新民主党が返り咲いても、いずれの場合も改革は実行されることになり、現状よりかえって障害がなくなる”【8月21日 毎日】との考えで、より幅広い政治的支持が得られる可能性があるとして事態を静観する構えです。

緊縮策をあくまでも拒否する強硬派による新党が、どれほどの支持を得られるか注目されます。
新党が伸びれば、その分与党・急進左派連合が沈みます。

チプラス首相の与党が安定多数を得られず、連立協議の混乱などで選挙後の新政権発足が遅れるような事態となれば、金融支援策の履行にも支障が出てきます。

****ギリシャ、総選挙で安定政権はできるのか チプラス首相は辞任し賭けに出たが・・・****
・・・20日に総額860億ユーロの第三次支援の初回融資130億ユーロがギリシャ政府の手に渡り、ギリシャは同日 に償還期日を迎えたECBが保有する32億ユーロの国債償還を履行した。

これにより9月のIMF向けの 15億ユーロの融資返済、10月のEU向けの72億ユーロのつなぎ融資返済など向こう数カ月の財政資金の不足分を賄うことが可能となった。

ただ、9月20日に予定される総選挙とその後の政権発足までは(連立交渉次第で10月中旬にずれ込むことも考えられる)、政策協議が中断する可能性がある。

ギリシャ政府は第三次支援の再開時に、10月までに年金改革と民営化計画の具体策をまとめることを約束しているが、両者は何れもギリシャ国内で反発の大きい分野で、検討が遅れる恐れがある。

また、IMFの救済参加の鍵を握るギリシャの債務負担軽減協議は初回融資のレビューが終了する10月頃に開始されるとみられ、 政局の行方と相俟って政策協議への影響も懸念されよう。【8月23日 東洋経済online】
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難民問題への取組を必要とされる暫定政権
また、前出のサヌ暫定首相発言にもあるように、難民の玄関口となっているギリシャは、選挙期間中も難民・不法移民の問題に取り組む必要があり、単なる「選挙管理内閣」ではすまされない情勢にあります。

“国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ギリシャにたどり着いた難民申請希望者は7月の1カ月で5万人を超え、昨年1年間の総数4万3500人を上回った。ギリシャで難民申請する人は少なく、多くの場合、臨時の短期滞在許可を与えられ、船でギリシャ本土に渡り、ドイツや北欧などの目的地へ向かう。”【8月27日 朝日】

難民申請を求める人々の流入は財政難に陥った自治体の負担が増すだけでなく、主要産業である観光業に打撃を与えかねません。

****財政難のギリシャに難民や移民流入続く****
エーゲ海に浮かぶギリシャの島々では、内戦が続くシリアなど中東からの難民や移民の流入が続き、財政難のギリシャにとって頼みの綱となっている観光業に深刻な影響が出ています。

ヨーロッパに次々と押し寄せている中東やアフリカからの難民や移民は、60%以上がギリシャから、ヨーロッパに入っています。

このうちトルコに近いコス島では、内戦が続くシリアからの難民を中心に島の人口の20%以上に当たるおよそ7000人の難民らが海岸にテントを張るなどして島にとどまっています。

このため「難民の島」というイメージから、この夏、島を訪れる観光客が減り、ホテルで宿泊客のキャンセルが相次いだり飲食店でも利用客が例年より大きく落ち込んだりと深刻な影響が出ています。

ギリシャ政府は、専用の船を出して、難民たちを首都アテネ郊外の港に順次、移送していますが、財政難から使える船は1隻だけで、難民が流入するペースに追いついていないのが現状です。

島のホテル組合の代表は「業界全体で数百万ユーロの損失が出ている。難民を乗せる船を増やしてほしい」と訴えていますが、政府から具体的な解決策は示されていません。

リゾートの島々に殺到する難民や移民は、財政難のギリシャにとって頼みの綱となっている観光業に打撃を与える事態になっています。【8月28日 NHK】
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また、難民問題は選挙戦の行方にも影響します。

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・・・難民問題は、ナショナリズムをあおる極右政党・黄金の夜明けにとっては追い風だ。同党議員らは今月、コス島を訪問し、「観光の島が見る影もない。できる限りのことをする」と島民らに約束した。

今年1月の総選挙で第3党に躍進した勢いが、9月に予定される総選挙でも再現される可能性がある。

チプラス首相は「ギリシャ国民が難民の存在を問題だととらえれば、黄金の夜明けが勢いづく」と警戒感をあらわにした。(後略)【8月27日 朝日】
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