![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/f1/a7152595756a0d4ddba7f31e6d1f836f.jpg?random=842cbc929af5b84ffe14f0538115179d)
(20人が死亡した17日夜の「エラワン廟」前 【8月18日 Hazard lab】)
【連続爆弾テロ? 組織的犯行? 外国人の犯行?】
タイ・バンコクでは17日夜、商業施設が集まるバンコク中心部の「ラーチャプラソン交差点」の一角にあるヒンドゥー教の神を祭る「エラワン廟」前で起きた爆弾テロで20人が死亡、更に18日午後、現場から西南に約4キロ離れたチャオプラヤ川に架かるタクシン橋近く、川船観光の発着地点となる船着き場付近でも爆発がありました。
17日夜の1回目の爆発では、殺傷力を高める工夫が施されたパイプ爆弾が使用されたと報じられています。
18日の2回目の爆発については、水中での爆発で噴水のように水しぶきが上がっていますが、1回目のような負傷者は出ていません。
タイ国家警察のソムヨット長官は、18日の爆発について、17日と同じように外国人観光客が集まる場所が狙われたほか、使用された爆弾の種類や特徴などが似ていることから、両事件は「同じグループが関与した疑いがある」としながらも、「模倣犯」による犯行だった可能性もあるとも述べ、あらゆる可能性を排除せずに捜査を進めていると語っています。【8月19日 毎日・AFPより】
1回目の爆発では、観光スポットという場所柄、日本人1名含む外国人が多く被害を受けています。
特に、香港住民2人を含む中国人旅行者4人が死亡したほか、中国人旅行者20人以上が負傷したとのことで、中国人の死傷者が多くなっていますが、中国人を狙ったという訳ではなく、タイを訪れる観光客の4人に1人を中国人が占める現状を反映した数字でしょう。
タイ警察は1回目の爆発の際に防犯カメラに映っていた「黄シャツ男」に逮捕状を請求していますが、単独犯ではなく、組織的犯行と考えています。外国人かタイ人かについては定かではありません。
****タイ警察、「黄シャツ男」逮捕状請求へ=組織的犯行の可能性―バンコク爆弾テロ****
タイの首都バンコク中心部で死者20人を出した17日の爆弾テロで、警察当局は19日、防犯カメラに映っていた不審な黄色いシャツ姿の男の似顔絵を公開するとともに、殺人罪などで逮捕状を請求する方針を明らかにした。単独犯ではなく組織的犯行の可能性が高いとみて調べを進めている。
警察が公開した防犯カメラの映像などによると、男は爆発現場となったエラワン廟(びょう)にバックパックを置いたまま姿を消し、その直後に爆発が起きた。
ソムヨット国家警察長官は報道陣に「1人で実行できることではない」と指摘。「男を手助けした可能性のある容疑者が他にいないか防犯カメラを改めて検証する必要がある」と述べた。容疑者逮捕につながる情報の提供者に100万バーツ(約350万円)の懸賞金を贈ることも明らかにした。
男は容貌や歩き方の特徴などから「外国人の可能性が高い」(情報機関筋)との見方がある一方、外国人に偽装したタイ人の疑いもあると警察はみている。【8月19日 時事】
********************
【これまでのテロとは異なる様相も】
タイでの爆弾・テロという話になると、当然ながら最初に思い浮かぶのはタクシン派と反タクシン派の間で続く抗争です。
実際、プラユット暫定首相は18日、事件前の13日にフェイスブックにテロを予告するような投稿をしていた男がいたことを明かし、「男は東北部を拠点とする反政府グループの一員だ」と発言しています。
タイ東北部はタクシン派の地盤として知られており、タクシン派の犯行を示唆したともとれる(あるいは、注目をタクシン派へ向ける)発言です。
タクシン派潰しに躍起となっている軍事政権ですが、随分早い段階での発言で、タクシン派敵視の思い込みがあるのかも・・・とも感じられました。(タクシン派にとっては、犯人とされる男性のシャツが赤色でなくて幸いでした。)
タイが抱えるもうひとつ抗争は、いわゆる“タイ深南部”と言われる、マレーシア国境に近い南部3県を中心にしたイスラム教徒と治安当局・仏教徒の争いです。
イスラム教徒の多い南部では、2004年以降、分離独立を求めるイスラム武装勢力のテロが続発しており、爆弾テロも起きています。昨年7月時点の爆弾テロのとき、“これまで6100人以上が死亡したとされている”【2014年7月28日 読売】と報じられていたように、多大な犠牲者を出す凄惨なテロが続いています。
しかし、今回の爆弾テロは、従来のタクシン派・反タクシン派抗争やタイ深南部でのテロとはやや様相が異なるようにも見えます。
タクシン派や南部過激派も、当局の報復を招く今回のような過激なテロ行為を起こすメリットがないことを主張しています。
一方で、中国から逃れたウイグル族を強制送還したタイ軍政の対応に反発するイスラム過激派による犯行説も浮上しています。
タイ軍政は先月、中国新疆ウイグル自治区から逃れてきたイスラム教徒のウイグル族約100人を中国に強制送還し、トルコではイスタンブールのタイ領事館が襲撃を受ける混乱も生じています。
「国内情報機関からは、ウイグル族を強制送還したタイ政府に暴力で報復しようとする動きがあるとの報告もあった」(警察関係者)【8月18日 毎日】とも。
「黄シャツ男」が外国人のようにも見えることからも、国外イスラム過激派の関与の可能性もあります。
****タイ爆破テロ、臆測呼ぶ 軍政への不満?イスラム過激派関与?****
タイの首都バンコクで起きた爆破テロは18日、防犯カメラに映った不審人物が急浮上した。だが、犯行の背景については、不明な点が多い。国内にさまざまな対立軸を抱えるタイで、臆測が乱れ飛んでいる
今回の爆弾の威力や使用の手口は、これまでのタイでの事件と異なっている。
バンコクにも手投げ弾などが使われて死傷者が出た事件がある。だが、大半は深夜などに人の少ない場所で起きたり、殺傷力が低い爆発物が使われたりした。
今回、人出の多い午後7時に、外国人客も多く訪れる観光スポットを狙ったのは「明らかに多数の殺害を狙ったものだ」(ソムヨット国家警察庁長官)。
タイでは、タクシン元首相派と反タクシン派の対立が激化し、昨年5月、事態の収拾を名目に当時、陸軍司令官だったプラユット暫定首相らが軍事クーデターを決行。その後、暫定政権(軍政)が戒厳令に準じる治安規制をしいていた。
誰がテロを仕掛けたか。いくつかの臆測が流れるが、現段階ではいずれも決め手を欠く。
暫定政権のサンスーン報道官は「現在の体制で政治的利益を失って不満を持つ者の仕業だ」と語った。クーデターで崩壊したインラック前政権を支持するタクシン派が、現政権に反発しているのは事実だからだ。
だが、派内には「いま抵抗しても益はない。選挙で復活するのが我々の方針」(前政権下の副首相、ポンテープ氏)との声がある。
イスラム過激派の犯行を疑う声もある。
タイではイスラム教徒が多数派の最南部3県で分離独立運動が続き、路上爆弾などで仏教徒が標的にされてきた。ただ、南部の過激派、パッタニ統一解放機構(PULO)の指導者、マハトラ氏は「首都を狙えば陸軍に攻撃の口実を与える。国際テロ組織との連携も避けている」と言う。
イスラム教徒を巡っては今年、ミャンマーの少数民族ロヒンギャの不当な拘束や、中国・新疆ウイグル自治区から逃れてきたウイグル人約100人の強制送還で軍政は国際的な批判にさらされた。とくにウイグル問題ではトルコでタイ領事館が襲撃されるなど、イスラム世界の反発を招いた。
ウドムデート陸軍司令官は、最南部の分離独立運動が背後にある可能性は否定する一方、「外国勢力」の関与は「動機についてはあらゆる可能性を排除しない」と話すにとどめた。
近く発表される陸軍司令官人事をめぐる軍内の摩擦が火種だったとの見方もある。国軍の最高実力者である新陸軍司令官は、プラユット氏の実弟と、別の実力者が推す陸軍司令官補が競い合っているとされる。(後略)【8月19日 朝日】
******************
現段階では、あらゆる可能性が考えられる・・・としかまだ言えません。
【威信を傷つけられた軍政の取締り強化、観光業ダメージで経済失速の懸念】
今回事件は、「タクシン派つぶし」を狙った民政移管手続きを進める、政治的には微妙な時期に起きたものであり、その影響が懸念されます。
もしタクシン派の関与、あるいは治安当局がその線で捜査を行うという話になると、政治抗争が再燃・過激化する恐れがあります。
****政治的に微妙な時期=バンコク爆弾事件―タイ****
タイは昨年5月のクーデター以降、比較的平穏な治安情勢が保たれてきた。しかし、首都バンコクで17日に起きた大規模な爆弾事件は、政治的に微妙な時期に差し掛かる中で発生した。
新憲法制定のため軍事政権は憲法起草委員会を設置した。委員会は新憲法案を国家改革評議会(NRC)に近く提出する。これを受け9月上旬にNRCでは採決が行われる予定。採決で新憲法案が承認されれば、来年1月にも新憲法案の是非を問う国民投票が実施される見通しとなっている。
こうした動きに対し、タクシン元首相は動画投稿サイトに先週、ビデオ映像を投稿。その中で新憲法案を「最悪」と厳しく批判した。同案を否決するよう呼び掛けている。憲法案をめぐりタクシン派と反タクシン派の対立が再燃する可能性が高まっていた。
今回の爆弾事件について軍政のプラウィット副首相兼国防相は地元テレビに対し「動機が観光と経済の破壊にあるのは明白だ」と述べた。政情の不安定化を狙った犯行との見方を示している。【8月17日 時事】
******************
タクシン派関与は別にしても、治安安定を看板にしてきた軍事政権はその威信も傷つけられたことで、反政府的言動への締め付けを強化することが想定されます。
軍事政権にとっては、2006年軍事クーデターの失敗の記憶もあります。
また、タイ経済を牽引する観光へのダメージも大きなものがあり、経済全体の失速も懸念されます。
結果的に治安維持を名目とした軍政長期化の動き、経済の混迷、それへの反発激化・・・・といった事態も考えられます。
****タイ迷走に拍車 バンコク爆弾テロ、軍政の治安維持失敗****
タイの首都バンコクを襲った爆弾テロが、昨年5月のクーデター後に国家の全権を担う軍事政権を揺さぶっている。「治安維持が最優先」と統治の正当性を主張してきたにもかかわらず、150人近くが死傷する卑劣な犯行を防げなかったことは、軍政の大きな失点だ。
低迷するタイ経済のつっかい棒だった観光産業は冷水を浴びせられ、景気の二番底の恐れが現実味を帯びる。社会の不安と不透明感が強まれば、今後の民政復帰の行方にも影響を及ぼし、タイ政治の迷走に拍車がかかりかねない。(中略)
タクシン元首相派政権を倒した昨年5月のクーデターは、タクシン派と反対派が一触即発の状況に陥る中で、軍が流血の事態を防いで国民和解を実現するという理由で決行した。
今年4月に戒厳令を解いた後も、プラユット氏は暫定憲法に規定された非常時大権を発動し、令状なしでの容疑者逮捕など治安維持のための強権を振るってきた。
その中で起きた今回のテロは、軍政が声高に訴えてきた治安維持に失敗したことを意味する。
軍には苦い教訓がある。2006年の前回クーデター後に政権を率いたスラユット暫定首相も、プラユット氏と同じ陸軍司令官の経験者だった。
ところが同年12月31日、新年のカウントダウンでにぎわうバンコク中心部8カ所で連続爆発事件が起き、40人以上が死傷した。事実上の軍政にもかかわらず治安維持すら遂行できないと国民の信頼を失い、軍が掲げた改革は中途半端に終わった。
同じ過ちを避けようと、プラユット氏はテロで衝撃を受けた国民に寄り添う姿勢を示し、容疑者逮捕に全力を挙げる構えを強調している。
それ以上に政権にとって痛手なのは、治安安定と並ぶ求心力のもう一つの柱である、経済への影響だ。中国の景気減速やインラック前政権の過度の景気刺激策の反動で、輸出と消費が不振にあえぐなかで、タイ経済を支えているのは国内総生産(GDP)の1割弱を占める観光産業の好調だ。(中略)
タイのGDP伸び率は12年の6.5%から13年は2.9%、14年は0.7%へと減速してきた。政府が17日改定した今年の通期予測は2.7~3.2%と底打ちを見込むものの、観光分野が失速すれば、再度の下方修正が避けられなくなる。
保守勢力の一部の間では、かねて軍政の長期化を求める声がある。治安への懸念が高まり、経済の回復も見通せなくなると「民政復帰のための選挙よりも国内の安定と改革を優先すべきだ」との声が強まる可能性もあり、国内対立の火に油を注ぐ恐れも出てくる。【8月19日 日経】
******************
タクシン派の動きも注目されます。
****「治安売り物」のタイ軍政に打撃 反体制派締め付け強化 民政移管遠のく恐れも****
・・・・テロの実行犯や首謀者が何者かは判明していないが、注目されるのが、軍部の圧力で沈黙してきたタクシン元首相派の動向だ。タクシン派は、軍政が来月初旬にも新憲法草案を承認するのをにらみ、反軍政の言動を活発化させている。
新憲法草案が承認されれば、来年1月に草案の是非を問う国民投票、9月にも民政移管に向けた総選挙が行われる。草案には上院議員の一部任命制や軍部関与を継続する委員会の設置、非議員の首相任命可能条項などが含まれており、「タクシン派つぶし」が狙いとの見方が強い。
インラック前首相は17日に声明を出し、草案を「民主的でない」と批判。公正なルールなしで平和は成り立たないとした上で、「経済と市民生活が喫緊の課題だ」として早期の民政移管を訴えた。
軍政は、インラック政権下で築かれた利権構造にも切り込んでおり、軍政とタクシン派の対立を背景に、反軍政勢力の一部が、国内外の反発を覚悟で首都での無差別テロに踏み切った可能性は排除できない。
こうした中、プラユット首相は18日、内閣改造の名簿を国王に提出したことを明らかにした。経済閣僚を交代させ、景気低迷に対する国民の不満を和らげる狙いとみられる。
今回のテロを受けて治安維持の名目で軍政が長期化し、経済運営の混迷が深まる懸念もある。事実上の海外逃亡をしながら復権を狙うタクシン氏の次の行動にも関心が集まっている。【8月18日 産経】
********************