
(ジンバブエの国立公園で観光客の人気を集めていたライオンのセシル(手前) 【8月3日 AFP】)
【なぜ数々の殺害事件や拷問、レイプより、ライオンの死に関心が集まるのか】
“ジンバブエ、ワンゲ国立公園で10年以上にわたって注目を集めたライオンがいた。訪れた観光客は、ライオンの中である1頭が際立っていることに気が付く。黒く長い豊かなたてがみを持つ、堂々たる体格のオスだ。観光客の間で人気となり、「セシル」という名前が付くまでになった。”【8月4日 Natinal Geographic】
その有名なライオン「セシル」がアメリカ人ハンターに射殺された件で、世界中から非難の声があがっています。
****ライオン「セシル」が狩猟愛好家に殺された問題を捜査 米当局*****
米当局は30日、ジンバブエの国立公園で観光客の人気を集めていたライオンのセシルが殺された問題について捜査を開始した。セシルを射殺した米国人の狩猟愛好家で歯科医師のウォルター・パーマー氏には世界中から非難の声が寄せられ、同氏は現在、姿を隠している。
米魚類野生生物局(FWS)は、セシルの狩猟に関する捜査を開始したと発表。ツイッター上に、「われわれは、ライオン『セシル』が殺されたことについて捜査している。真相を解明していく。パーマー医師またはその代理人は、直ちにFWSへ連絡を」と投稿した。
しかしパーマー氏は、ミネソタ州で開業している歯科医院の前にライオンやトラ、サルなどのぬいぐるみが多数残され、入り口のドアには「Rot in Hell(地獄でくたばれ)」と書かれた紙が張り付けられるなどしており、公の場に姿を見せていない。
ジンバブエのワンゲ国立公園にいたセシルは公園の外に餌でおびき寄せられ、今月1日にパーマー氏に殺された。
同氏の狩猟の世話をした地元のプロのハンターは、「違法な狩猟行為を防げなかった」としてすでにジンバブエで起訴されている。一方、30日に裁判所で行われるはずだった、狩猟を許可したとされる土地の所有者に対する審問は延期された。
一方、パーマー氏が所属していた国際的な狩猟愛好家団体「サファリ・クラブ・インターナショナル(SCI)」は捜査への支持を表明するとともに、同氏の会員資格を一時停止したことを明らかにした。
同団体は声明で、「SCIは直ちに、本件に関与したハンターとその案内役だったプロのハンター両名の会員資格を停止する措置に踏み切った。捜査の結果が出るまで、資格停止処分のままとする」と発表した。【7月31日 AFP】
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個人的には、ハンティングという行為自体になじめないものを感じますので、当然「セシル」射殺に対しては憤りも感じます。
ただ性格がゆがんでいるせいか、この種の動物虐待などが大きな話題となることに関しては、素直に共感できないところもあります。
確かに忌むべき行為だけど、世界には、あるいは、自分の身の回りには、自分たちと同じ人間が苦しみ、死んでいく悲劇がいくらでも溢れているではないか・・・そうしたことには声を上げないのか・・・
ジンバブエで言えば、「セシル」以上に問題なのは、ムガベ大統領のもとで圧殺されている多くの人々ではないのか・・・・。
****「セシル」射殺になぜ怒るのか****
あなたは人間よりペットを大切に思うだろうか?
その愛情をほかの動物にも感じるだろうか?
そうだとしても珍しいことではない。ある実験では、重い病気の子供を助けるより、犬を助けるための寄付に2倍の金額が集まったという。
先月初旬、ジンバブエ西部のワング国立公園で野生の雄ライオン「セシル」が射殺された。
殺したのは米ミネソタ州の歯科医で狩猟愛好家のウォルター・パーマー。狩猟が禁止されている公園から誘い出して射殺した後、頭部を切断し皮を剥ぐという違法で残虐な行為に世界中から非難が殺到している。
ライオンの死、しかも不法に殺されたとなれば不快で残念なこと。だが、これは悲劇なのか。
世界では1分に1人が武力紛争で、4秒に1人の子供が貧困による飢餓や病気で死んでいる。
妊娠・出産関連の合併症で亡くなる女性は毎年50万人以上。
シリア内戦ではこれまでに22万人以上が犠牲になった。
なぜ数々の殺害事件や拷問、レイプより、ライオンの死に関心が集まるのか。スターリンの言うように「1つの死は悲劇で、100万の死は統計」だからか。
それには1つの理屈がある。人間の苦しみには限度がある、ということ。
私たちは身近な人間やペットなどに、何より共感するが、それ以外のものにまで関心を向けていられない。
だが今回の要因はほかにもある。死んだのはただのライオンでなくセシルだった。立派なたてがみの、英オックスフォード大学の研究対象にもなっていたライオン。ある人はセシルをアイドルと呼んだが、彼はそれ以上の存在、いわばセレブだった。
問題の核心はここだ。人も動物も、有名なほうがその死を悼まれやすい。残りの者たち・・・アメリカの獄中にいる75万人以上の黒人、児童結婚するバングラデシュの何万人もの少女、マラリアで日々亡くなる3000人のアフリカの子供・・・の苦しみはほとんど見向きもされない。【8月11日 Newsweek日本版】
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世界で起きている多くの悲劇は、自分たちの手ではどうしようもない(と思われる)ことが多いのに対し、「セシル」のような件は容易に犯人を吊し上げることができる・・・ということもあるでしょう。
さきほど“世界には、あるいは、自分の身の回りには、自分たちと同じ人間が苦しみ、死んでいく悲劇がいくらでも溢れているではないか・・・そうしたことには声を上げないのか・・・”とは書きましたが、実際のところ、自分自身がそういう悲劇を見聞きしても殆ど何も感じることなく生活しているのが現実です。
すべての悲劇的な事柄に共感を感じていたら、一瞬たりとも正気を保てないでしょう。
自分以外のことがらに関しては鈍感になれることで、生きていけるとも言えます。
ただ、ときおり、“世界では1分に1人が武力紛争で、4秒に1人の子供が貧困による飢餓や病気で死んでいる。妊娠・出産関連の合併症で亡くなる女性は毎年50万人以上。シリア内戦ではこれまでに22万人以上が犠牲になった。”“アメリカの獄中にいる75万人以上の黒人、児童結婚するバングラデシュの何万人もの少女、マラリアで日々亡くなる3000人のアフリカの子供”といった現実に対する錆びついた自分の感性を改めて研ぎなおすことも必要なことかと思います。
【「彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ」】
動物関連と似た話に世界遺産破壊があります。
ISなどイスラム過激派による世界遺産破壊が大きな話題になりますが(私もそうした話題を取り上げることがありますが)、どんなに貴重な遺産以上に重要なのは、名を知られることもなく傷つき死んでいく多くの人々の苦しみ・悲しみでしょう。
かつて、アフガニスタンにあるバーミアンの大仏をタリバンが破壊しようとしたときの、あるタリバンが語ったという言葉が記憶に残ります。
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今、世界は、我々が大仏を壊すと言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたときに、彼らは何をしたか。我々を助けたか。
彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない。
【「大仏破壊」高木徹氏】
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高木氏は、“この理屈は正しくない。これまでにも、アフガニスタンに数多くの国や人が援助の手とお金を差し伸べてきた・・・・”としながらも、“だが、そうであるにしても、この言い分に、わずかではあるが、説得力の断片を認めるのは私だけだろうか。「大仏の前に巨大な壁をつくる。国外に移送してもよい」とまで言うお金とエネルギーを、そして何よりも強い関心をこの国にもう少し前から向けることはできなかったのか。”とも書いています。
【原爆投下から70年】
国際関係は、「国益」と称する国家間の利害関係、あるいは国家・民族の威信・メンツなどによって動かされていきます。
今日は広島「原爆の日」です。
戦争の犠牲となった我が国の多くの人々、日本の統治下、侵略のもとで犠牲となった多くの国々の人々、あらためてそうした悲劇に対する錆びついた感性を研ぎなおす日でもあるでしょう。
****原爆投下から70年 広島「原爆の日」****
人類史上初めて核兵器の惨禍に見舞われた広島は、6日、原爆投下から70年となる「原爆の日」を迎えました。広島市の平和公園には多くの被爆者や遺族などが訪れ、追悼の祈りをささげています。
広島市は、70年前のきょうと同じ、朝から暑い1日となっています。原爆投下から70年の節目を迎えた平和公園には、多くの被爆者や原爆で亡くなった人の遺族などが訪れ追悼の祈りをささげています。
爆心地から1.5キロの自宅で被爆したという76歳の男性は「核兵器を2度と使わせないことを、亡くなった人たちに誓いました。被爆当時を知っている最後の世代としてあの日のことを伝える活動に残された時間をあてていきたい」と話していました。
また、原爆の日に合わせて初めて広島を訪れたという東京の19歳の男子大学生は「平和に関するさまざまな議論があるなかで、原爆が投下された広島を実際に見て感じたいと思い来ました。誰もが幸せと感じられるような社会を作っていく努力をしていきたいです」と話していました。
6日の平和記念式典は、安倍総理大臣や海外から過去最多となる100か国の代表が参列し、このあと午前8時から始まります。式典では、この1年間に亡くなった人や新たに死亡が確認された人、5359人の名前が書き加えられた29万7684人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められます。
そして、原爆が投下された午前8時15分に参列者全員で黙とうをささげます。
このあと、広島市の松井一実市長が「平和宣言」を読み上げ、核兵器を「絶対悪だ」としたうえで「核兵器禁止条約」の交渉開始に向けた流れを加速させるため全力で取り組む決意を表明することにしています。
被爆者の平均年齢は、ことし初めて80歳を超え、高齢化がますます進むなか、若い世代に被爆の惨禍をどう伝えていくかが課題となっています。
原爆投下から70年を迎えたきょうは、原爆の犠牲者を追悼するとともに、国内外に平和な世界の実現に向けた被爆地・ヒロシマの誓いを発信する節目の日となります。【8月6日 NHK】
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