孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  弾圧で過激化するムスリム同胞団 民主主義とイスラム主義の共存は?

2015-08-20 23:15:27 | 北アフリカ

(体を張った激しい行動で知られるサッカーサポーターを基盤にムスリム同胞団の青年組織として設立された組織の若者 “flickr”より By Belal Darder https://www.flickr.com/photos/126920889@N07/19307893981/in/photolist-uxQQpj-uxQdmC-uQGeV4-vMrvUv-vTgHDT-uH6wKr-vqb1cP-wYkyTR-veeQNK-vg4iPx-wm9m5t-uXf7Xf-vwU8d6-vqLTaf-7hskNM-twLL4m-uiSHv5-u3ptEh-wGyquU-uDNai4-w89N5E-wnLtre-vuQpiX-vxaZsw-utnUAy-xiWotz-wHkrMW-vJohZT-vNDXch-vsqARJ-u9jtrE-w92p4b

シシ政権の強権的政治でも改善しない治安
エジプトでは、穏健なイスラム原理主義組織ムスリム同胞団が主導するモルシ政権が2013年7月に軍部による事実上のクーデターで倒れたのち、軍の力を背景にしたシシ政権がムスリム同胞団への徹底した弾圧など強権的ともいえる手法で治安の安定をはかっていますが、イスラム過激派「イスラム国(IS)」やムスリム同胞団メンバーによる警察や軍などを狙った攻撃、更には外国人を標的にしたテロはどが相次いでいます。

今月6日には、シシ政権が威信をかけて進めてきた国際海運の要衝スエズ運河の拡張工事が完了し、北東部イスマイリアで記念式典が開かれましたが、その直前5日はシシ政権に挑戦するがごとく、IS傘下の組織によるクロアチア人エンジニアの拉致が公表されました。

****イスラム国】エジプト・カイロで外国人誘拐、殺害脅迫 初めての発生に衝撃走る 企業撤退の動き加速する恐れも****
エジプト東部シナイ半島を拠点とするイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の傘下「シナイ州」は5日、ネット上にビデオ声明を発表し、同国の首都カイロ郊外で先月22日にクロアチア人の男性エンジニア(30)を誘拐したことを認めた。

ビデオには男性自身が登場し、「48時間以内にエジプトで収監されているすべての女性イスラム教徒を釈放しなければ、私は殺害される」との声明を読み上げた。

カイロ周辺でイスラム国系武装組織による外国人誘拐が確認されたのは初めて。中東の地域大国である同国には数百人の邦人を含む多数の民間外国人が生活しているが、イスラム国系の活動が活発化していることが鮮明となったことで、企業撤退の動きなどが加速する可能性がある。(中略)

エジプトでは6日、シーシー政権が国家の威信をかけて推進するスエズ運河拡張工事の記念式典が予定されている。映像はこれに合わせ、政府への挑戦として公開された可能性が高い。

エジプトで収監されている女性受刑者には、2013年の政変で排除されたイスラム原理主義組織ムスリム同胞団のメンバーが多数含まれていることから、今回の要求には、政府の威信を傷つけるとともに、政府と対立する同胞団メンバーに秋波を送る狙いがあるとみられる。

エジプトではこのところ、シナイ半島北部を中心に「シナイ州」によるテロや軍への襲撃事件が続発。同胞団系によるととみられるテロも相次いでおり、治安の悪化が進んでいる。【8月6日 産経ニュース】
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ISは12日、拉致したクロアチア人男性を斬首したと発表し、男性の遺体とされる写真を公開しています。

今日20日には、首都カイロの警察の建物前で自動車爆弾が爆発して警察官6人が負傷する爆弾テロが起き、ISが犯行声明を出しています。

****エジプト首都の自動車爆弾爆発、ISが犯行声明****
エジプトの首都カイロ北部シュブラ―地区の警察施設で20日未明に発生した自動車爆弾の爆発について、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。この爆発で警察官6人を含む29人が負傷した。

ISと関わりがあるとされるツイッターアカウントから「ISの戦闘員がカイロ中心部の警察施設を自動車爆弾で攻撃することに成功した」とする声明が投稿された。

標的にされた警察の建物には、国家安全保障の脅威に対する捜査部局が入っていた。【8月20日 AFP】
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【「シシに恨みを抱く人々を抑え込むことは、不可能に近い」】
エジプトの治安問題については、ISもさることながら、これまで非暴力を掲げてきたムスリム同胞団の動向が大きな影響を持ちます。

前出記事に“(IS側に)政府と対立する同胞団メンバーに秋波を送る狙いがある”ともあるように、シシ政権による徹底した弾圧によってムスリム同胞団が過激化し、ISへ参加するメンバーも増え、テロが今後更に増加することも懸念されています。

“エジプトでは13年7月、大規模な反政府デモを受けて軍が政治介入し、同胞団所属の大統領ムハンマド・モルシーを解任した。翌月にはこれに抗議する座り込みが強制排除され、1日で600人以上が死亡。以降、同胞団員やその家族ら数千人が拘束された。拷問なども頻繁に行われているとされる。団員らの恨みは深い。”【7月23日 産経】

モルシ前大統領をはじめとする同胞団メンバーの大量死刑という「政治裁判」も進められています。

****エジプト政府の弾圧でムスリム同胞団が過激化****
非暴力主義を貫く旧世代が求心力を失い,若手メンバーがISISに移る恐れも

エジプトで「アラブの春」が起きて4年以上。反政府組織だったムスリム同胞団のムハンマド・モルシは民主化後、選挙で大統領の座に就いた。

だが13年の軍による事実上のクーデターで排除され、今は死刑判決を受けた身だ。
岐路に立つ同胞団は今後、どのような道を進むのか。

シシ大統領率いるエジプトでは、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのショー・ストークが「記憶するなかで最悪の人権侵害」と呼ぶ状況が続いている。

特に同胞団への弾圧はひどく、モルシ失脚以来、多くのメンバーが逮捕や国外追放になった。トルコなどに逃げおおせたのはごく少数の幹部だけだ。
 
昨年、同胞団の最高指導者モハメド・バデイや、モルシ支持者682人が死刑を言い渡された裁判はわずか8分で結審。そんな「政治裁判」で、モルシも今年6月に死刑を言い渡された。

だが同胞団の支持者は、挑戦的な姿勢を続ける。シシ政権下で収監され、今はトルコ在住の同胞団の元活動家ムスタファ・エル・ネムルは人々の反撃を予想する。「シシに恨みを抱く人々を抑え込むことは、不可能に近い」

同胞団は数十年にわたり、非合法組織として政府に抑圧されてきた。それゆえ結束は固い。
「入団には厳しい手続きがある」と、ブルッキングズ研究所のシャディ・ハミドは言う。入団希望者は5~8年かけて教義をたたき込まれ、徐々に正式なメンバーとして認められる。

ワシントン中近東政策研究所のエリック・トラガーによれば、同胞団は「厳格な方法で個人をイスラム化させ、それを家族や社会、国家、ひいては世界に広げようとしている」。

同胞団が人々を引き付ける理由の1つが、政治的イスラムと社会福祉事業の融合だ。彼らは70年代に公に暴力を否定し、教育活動やスポーツ施設の運営などで大衆の支持を得てきた。

この方式をセネガルからロシアまで多くの国で実践。ハミドの推計ではエジプトには現在50万人ほどのメンバーかおり、多くは毎月収入の約15%を寄付する。

暴力否定派と暴力容認派
シシ政権の弾圧は同胞団を壊滅させることはないが、組織を根本的に変えるだろう。内部では長年、非暴力を貫くグループと、状況によっては暴力を容認するグループが対立している。

多くの幹部が逮捕や国外追放でいなくなった結果、世代交代が起きたとハミドは指摘する。
「エジプトにいる若いメンバーが主導せざるを得なくなった」

新指導部の中には、「防衛的暴力」を主張する者もいる。シシ政権を動揺させる目的で、インフラ攻撃や治安部隊への報復を行うのだ。「古株には非暴力が染み付いているが、若手にはそうした意識がない」とハミド。

指導部は求心力を失っている、と指摘する同胞団の元メンバーもいる。幻滅したメンバーが過激なテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)などに移る危険もある。

ハミドによれば、これまでは管理体制や忠誠心が歯止めになっていた。

近隣諸国は動向を注視している。同胞団は中東では数少ない非暴力を掲げる政治勢力で、組織力も高い。サウジアラビアなど主要国の仇敵でもある。

イランとの覇権争いに忙しいサウジが態度を軟化させる可能性はあるが、同胞団がサウジの君主制を脅かす存在であることに変わりはない。

ハミドが言うように「同胞団は宗教的な反対勢力で、民主的な選挙を支持する。サウジはそのどちらも嫌いだ」。【8月25日号 Newsweek日本版】
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弾圧による組織変容が“団員の暴発を招く危険性”をはらんでいるとの指摘もあります。

****同胞団はいま(上)】我慢いつまで・・・過激化する若手団員 エジプトの「時限爆弾」恨み鬱積****
数人単位「細胞組織
・・・・「同胞団はクラスター型(少人数による自己完結型グループの集合体)の組織に生まれ変わるべきだ。現に、その方向に進んでいると思う」。
クーデター後、同胞団に同情的なトルコへ逃れた団員、ハーリド・マスリー(22)は、こう確信している。

同胞団はこれまで、ムルシド(最高指導者)を頂点とする強固なピラミッド型組織を特徴としてきた。大規模デモがムバラク政権崩壊につながった11年の政変や、その後の議会・大統領選での勝利は、強い組織的動員力があったためだ。

しかしマスリーは、数人単位の「細胞組織」が、上層部の指示によってではなく、自律的に行動することで「当局の取り締まりを逃れながら、闘争を続けられる」と主張する。

一方で、クラスター型への変容は、組織の統制がきかなくなり、団員の暴発を招く危険性をはらむ。
中堅団員のアンマール・ファイド(31)は「(若手を中心に)いつまで我慢すればいいのか、と問う声が強まっている」と言う。

さらにアッヤーシュは、若手団員の間で、政権側だけでなく、その統治を受け入れている人々を「背教者」と呼ぶ風潮が徐々に広がっていると指摘する。

敵を一方的に不信仰者と断罪し、殺害さえ正当化するイスラム国などの過激思想にも通じる考え方で、「これまでの同胞団にはみられなかった言説」だ。

「報復は当然の権利」
クーデター後に勢力が弱まった同胞団は現在、「平和的な大衆革命運動」との組織方針を掲げる。

しかし、トルコで事実上の亡命生活を送る幹部、ガマール・ヘシュマト(58)は「平和的手段」にはインフラの破壊工作などが含まれるとした上で、「団員が(同胞団を弾圧する)政権に報復し身を守るのは当然の権利だ」と説明し、政府や軍、警察などへの暴力を否定しなかった。

モルシー政権崩壊から2年となるのを前にした6月29日、首都カイロでは自動車爆弾を使ったテロで検事総長が死亡し、同胞団系とみられるグループが犯行声明を出した。
ほかにも各地で同胞団の関与が強く疑われる襲撃事件が相次いでおり、市民への被害も少なくない。

ヘシュマトは6月、こう警告していた。「今の同胞団は時限爆弾のようなもの。追い詰められれば爆発するしかない」【7月23日 産経】
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目指す統治体制は?「現代のカリフ制の形も議論する必要がある」】
混乱と弾圧のなかで、ムスリム同胞団の目指す統治体制がどういうものなのか・・・そうした根源的な問いかけもなされています。

****同胞団はいま モルシー政権崩壊2年】(下)「カリフ制」再考の動き 掲げる理想、曖昧なまま****

同胞団を創始したハサン・バンナーは1940年代、個人から家庭、社会、政府、国家へと「イスラム化」を進め、世界での指導的地位を確立するとする段階的発展論を唱え、社会・政治活動を展開した。

究極的には同胞団主導でのカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制復活を目指しているといわれるが、明確にはされず、ムバラク政権下では「イスラムこそが解決だ」とのスローガンと福祉活動で貧困層へ浸透を図った。

「野望」のあいまいさは、政権に不満を持つ層の受け皿ともなった。

そして、最高幹部のムハンマド・モルシーが当選した2012年の大統領選後、同胞団は性急に権力掌握を進めた。同年12月には大統領が司法を超越した絶対権力を持つとまで宣言し、軍などの旧政権関係者や他の政治勢力を敵に回し、13年6月の大規模な反政府デモとその後のクーデターへとつながった。

帰国すれば逮捕の可能性が高いバイユーミは「同胞団のやり方は現代に合わなかった」と嘆く。

組織内に矛盾はらむ
目指す統治体制を明確にできていないことも失敗の一因ではないか。(エジプト人法学者の)タリーマにもこんな意識がある。
 
事実、クーデター前の同胞団は、表向きは民主主義を標榜(ひょうぼう)しながら、「エジプト大統領は国民のイマーム(導師)であるべきだ」と、イスラム優位の政教一致論を語る最高幹部もいた。

そうした矛盾を解消するためにも「現代のカリフ制の形も議論する必要がある」とタリーマは言う。

カリフ制の再考といった思想面の動きは、スンニ派過激組織「イスラム国」が現実に政教一致のカリフ制国家を名乗り、勢力を拡大していることとも無縁ではない。

団員の中に、イスラム国にひかれたり、同胞団に幻滅したりする者が現れる中、これまで棚上げしてきた問題を直視せざるを得なくなっているのだ。
 
創設以来、各地のイスラム運動に大きな影響を与えてきた同胞団は、自らの理想の実現に向けてどう変容するのか。また、その変化は同胞団が主張する「平和的革命運動」に沿ったものなのか。答えはまだ見えてこない。【7月25日 産経】
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民主主義とイスラム主義を共存させることができるのか・・・・エジプト、ムスリム同胞団だけの問題ではなく、既存政治への不満・批判から「イスラムこそが解決だ」とのイスラム主義が台頭する世界の多くのイスラム国家で問われている課題です。
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