孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ネパール  進まない震災復興 新憲法案がようやく制憲議会へ 従来政治から疎外されてきた勢力の反対も

2015-08-24 23:21:13 | 南アジア(インド)

(今年1月の制憲議会での混乱 椅子を投げつけるネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の議員 【1月21日 AFP】 ただ、現在の混乱は、従来の政治枠組みから疎外されてきた南部居住民族が中心で、議会外の暴動になっているようです。)

国際支援不足で進まない震災復興 目立つ中国の存在感
4月25日にマグニチュード(M)7.8の大地震に見舞われたネパールでは犠牲者が約9000人にものぼり、住宅も深刻な被害を受けました。

“ネパール技術者協会は4月末以降、首都周辺を中心に4万5千戸を調べた。修繕も無理であることを示す「赤色」の家は18%、修繕しないと住めない「黄色」は31%、居住可能な「緑色」は51%にとどまった。完全に倒壊した建物は数%もないが、柱や基礎が損傷した建物が多いという。”【5月25日 朝日】

地震から4か月が経過しましたが、道路事情の悪い山間部が多いというネパールの特性もあって、復興は進んでいません。

下記は1か月前の記事ですが、状況は今も変わっていないと思われます。

****ネパール、進まぬ復興 山間部にがれき・雨で支援遅れ 地震3カ月****
周辺国も合わせて8900人以上の死者を出したネパールの大地震は25日で発生から3カ月。復興ペースは遅く、6月から始まった雨期も状況を悪化させている。

一時帰国した国連児童基金(ユニセフ)ネパール事務所の穂積智夫代表(53)に現況を聞いた。
 
穂積代表によると、カトマンズ市内では、散乱していたがれきが道の端に集められ、通行を妨げる状態は解消された。だが、傾いた建物は残され、危険な状態が続く。山間部は重機が入れず、がれきが放置されたままの集落もあるという。

ユニセフのまとめでは、3万2145の学校の教室が倒壊などで大きな被害を受け、100万人以上の子どもが学びの場を失った。国連や人道援助団体などの支援で1793の仮設教室が建てられ、約17万9300人が勉強の機会を取り戻した。

元々、未舗装の道路が多く、雨期には都市部から地方に行きにくくなる。地震の影響で地盤が緩み、4月25日以降で5600件以上の地滑りが発生。悪天候ではヘリコプターが飛べる時間も限られ、支援が届きにくい地域が生まれている。雨期は9月まで続く見込みだ。

穂積代表は「復興へは長い道のりになりそう。国際社会は現地への関心を失わず、支援を続けて欲しい」と呼びかけている。【7月28日 朝日】
******************

国際支援が頼りのネパールですが、その支援も不足しており、復興に支障が出ているようです。

****<ネパール地震>支金不足でヘリ飛ばせぬ 物資輸送中断も****
4月に起きたネパール大地震の被災地支援を巡り、地元の国連事務所は10日、支援金不足でヘリコプターを使った支援物資の輸送が8月末に中断する可能性があると発表した。

被災地では雨期が本格化しており、土砂崩れなどで139カ所の集落が孤立している。ヘリによる支援が止まれば、少なくとも14万6000人の被災者に物資が届かなくなる恐れがあるという。

発表によると、国連は少なくとも10月末までヘリで食料などの支援物資の輸送を続ける計画だが、支援継続に必要な1800万ドル(約22億4000万円)の約半分880万ドルしか集まっていない。

雨期のため支援物資の需要が高まっているが、650トン分の要求に応えられていないという。

ネパール政府によると、大地震による死者数は国内だけで8922人(10日現在)で、建物の被害は約90万棟に及んだ。首都の経済活動は再開しているが、山間部では依然として支援頼みの生活が続いている。【8月11日 毎日】
*******************

滞りがちな国際支援のなかで、存在感を高めているのが中国のようです。

***中国プレゼンス,震災支援で急拡大****
ネパールにおける中国のプレゼンス(存在感)が,急拡大している。小中学校に行くと,以前は「こんにちは!」などと声をかけられたが,いまでは「ニーハオ」だ。街には中国製品があふれ,あちこちで中国企業が工事をしている。

そして,それにダメ押ししたのが,震災救援活動。どこにいっても中国政府援助の青テントや「中国紅十字」の白テントが張られている。公園はむろんのこと,路地にも民家の庭にも中国援助テントはある。(個人購入中国製テントもあるかもしれないが,見ただけでは区別できない。)とにかく,ものすごい数。

援助国,援助団体などの間で援助地域割りがなされているのかどうか知らないが,首都圏を見るかぎり,メッセージは一目瞭然。中国は,目に見える形で,被災したネパールの人々を全力で支援している,ということ。

震災後のテント緊急援助は有効で,中国の支援は高く評価される。

と同時に,その中国の震災救援作戦は,政治的にみても実に見事であり,羨望を感じざるをえない。なにはばかることなき大国のおおらかなふるまい――日本にはとうてい真似はできまい。【8月3日 谷川昌幸氏 「ネパール評論」】
****************

日本においてはとかく批判を受けがちな中国の対外攻勢・支援ですが、着実に実績を積み重ねつつあるようです。
もちろん、中国には中国の思惑があってのことでしょうが、それは何も中国に限った話でもなく、何より、必要な物資を実際に提供してくれる国は現地では貴重です。

子供の人身売買も
人的被害、建物被害以外でも、ネパール経済の約1割を占める観光業も、世界遺産の被害や現地受け入れ態勢への不安などから観光客が激減し、深刻なダメージを受けています。

また、国民の6割以上が従事しGDPの3割超を占める農業についても、主食の米の種もみを失ったケースや、田にひく湧き水がかれた場所もあり、被害は大きく、今後の食糧不足にもつながります。

更に、地震後の混乱のなかで、貧しさにつけ込んだ子どもの人身売買の動きが目立っているとも報じられています。
“困窮した被災者家族が「ケア施設で預かる」「働きながら勉強できる」などと言われ、子供が連れ去られる事案が多発している。”【7月24日 毎日】

ただ、単に地震による混乱だけでなく、もともとネパールはインドなどへの人身売買の供給源となってきたという事実があり、その原因は言うまでもなく「貧困」です。

****子らに人身売買の危険 245人保護****
地震後の混乱のなかで、ネパールでは貧しさにつけ込んだ子どもの人身売買の動きが目立っている。少なくとも245人が、人身売買の被害に遭いかけたり、不必要に児童養護施設に入れられようとしたりしたところを保護されたという。

国連児童基金(ユニセフ)ネパール事務所は19日付で、地震発生以降、子どもの人身売買の危険性が高まっていると警告する声明を出した。

同事務所によると、ネパールでは以前から、貧困などを理由に親が子どもを手放し、周辺国などに労働力として売る人身売買が問題となっている。

2001年の国際労働機関(ILO)の調査では、年1万2千人が売春や家庭内労働などのために、インドなどに売られていると報告された。

ユニセフは地震後、こうした動きが増えることを危惧。ネパール政府に対し、国境や空港での不審な動きをチェックするための検問の強化や、人身売買の隠れみのとなる国際養子縁組の認可を一時停止することを働きかけたという。こうした取り組みの結果、少なくとも245人が途中で保護されたという。

ユニセフ・ネパール事務所の穂積智夫代表は「地震後、生活の困窮などから事態が悪化することを懸念していた」と話す。【6月25日 朝日】
******************

ようやく憲法案が牽制議会へ 一方で、マデシ/タルー系など反対勢力による混乱も
進まないのは地震からの復興だけではありません。
2008年5月に王制を廃したのちの国の在り様を定める憲法は、政争に終始する政治の混乱から未だ定まらず、憲法制定作業は遅々として進んできませんでした。

ただ、憲法起草委員会は8月21日,憲法案を採択し制憲議会議長に提出、遅まきながら新憲法制定に向け大きく前進、手続きどおりに進めば、早ければ9月中旬にも新憲法制定の運びとなっています。

しかし、草案発表以来、これに反対する動きが相次ぎ混乱も拡大しています。

****憲法制定、大詰めで混乱=暴動で死者、震災復興に遅れ―ネパール****
ネパールが新憲法の草案をめぐって混乱し、暴動で死者が出る事態に陥っている。

6月には主要政党が全土を8州に分割する連邦制で合意したが、少数民族などの反対運動が暴動に発展。6州制、さらに7州制に変更するなど、迷走が止まらない。

ネパールでは4月の大地震で8800人以上が死亡した。政治の混乱が復興の歩みを遅らせている。

2008年の連邦共和制移行後のネパールは、新憲法における州の区分をめぐって与野党が対立。国の在り方を定める憲法のない状態が続いている。

しかし、大震災を機に、主要政党4党が8州制を基本とすることで一致。長年滞っていた起草作業が前進するかに思われた。

だが、草案が公開されると、一部の野党支持者らが各地で抗議デモを行い、自動車などに放火。警官隊との衝突で200人以上が逮捕された。

こうした混乱を受け、主要政党は8月上旬、6州制への変更を発表した。コイララ首相は「小さな違いにこだわらず、国家再建に尽くしてほしい」と訴えた。

しかし、少数民族マデシなどが「民族が分断される」と反対して再び暴動に発展。警官隊の発砲で死者が出る事態となり、わずか10日余りで7州制への再変更を余儀なくされた。

ネパールの地震被災地では仮設住宅の建設も進んでいない。被災者約280万人の多くがトタンを張り合わせた仮の住居で雨露をしのぐ。

国際社会が総額約44億ドル(約5400億円)規模の復興支援を表明する中、地元紙記者は「政治家は政争を優先して国民の生活再建を後回しにしている。情けない限りだ」と話している。【8月23日 時事】 
******************

ネパールはヒマラヤに連なる山岳地帯のイメージがあり、実際、首都カトマンズなどはそうした山岳地帯に位置しているのですが、南部は東西に低地が広がり、インド国境に接しています。

この南部低地に生活する「少数民族マデシ」は、従来の政治的枠組みから疎外されてきましたが、2008年の総選挙でマデシを基盤とする政党が躍進するなど、権利主張が高まっています。

****マデシ***
マデシ(英: Madhesh)はネパール南部に東西に広がる細長い平原地帯、「マデス」「テライ」または「タライ」ともいわれる地域に住む人々。

国土面積の17%、人口の48%を占め、1100万人が住む。土地は肥沃である。南はインドに接する。

文化的には北インドのそれに近い。(中略)また、カースト制度も丘陵部のそれと違って、インドの制度に近い。【ウィキペディア】
***************

マデシ系諸政党は一つのマデシとしてインド国境地帯全体に細長い一つの自治区をつくることを強く主張していますが、これまでのネパール政治を独占してきた主要政党はこれを認めていません。

6州制にしても7州制にしても、マデシは分断された形になっています。

南部低地にはマデシ以外にも先住民族タルー族が暮らしています。タルー族はマデシの要求には反対していますが、一方で、タルー族の分断されることのない「タルー州」を強く要求しているようです。

*****************
・・・マデシ/タルー系諸勢力が,CA(制憲議会)を見限り院外闘争で結集し,実力行使を激化させていくと,そしてそれを三大政党内のマデシ/タルー系の人々が陰に陽に支援し始めると,ネパールは,マオイスト紛争とは別の,いわば本物の民族紛争に陥る恐れがある。むろん,インドの出方によるところが大きいが。【8月24日 谷川昌幸氏 「ネパール評論」】
*****************

ネパールは長くマオイスト(ネパール共産党統一毛沢東主義派)の反政府武装闘争に苦しんできましたが、今はなんとか議会内の政治闘争に取り込むことが出来ています。

しかし、マデシなどの従来政治の枠外に置かれてきた人々が声を上げ始め、これに政治が応えることができないと、新たな、マオイストより根深い紛争を招く危険も考えられます。

***********************
***********************
台風15号
台風15号が北上しています。

薩摩川内市にとっては、西側をかすめる最悪コースになりつつあります。台風が多い鹿児島ですが、ここ10年、20年はあまり強い台風の接近・直撃はなかったような・・・。

50年ほど前も同じようなコースをとった台風があり、住んでいた家が傾いてしまいました。
その夜の恐ろしい記憶は今も消えません。
当時と比べると、家のつくりは少しはましになってはいますが。

現在11時。先ほどから雨が激しくなりました。中心が接近するのはあと4~5時間でしょうか。
気象庁予測の「最大瞬間風速60m」もありえるかも。60mの風が吹くと、相当の被害がでます。
何事もないといいのですが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする