孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キューバ  米国務長官、70年ぶりの訪問  関係改善で、やがては国民が変化を求める・・・

2015-08-15 22:08:40 | ラテンアメリカ

(バスで持ち運ばれるUSBメモリーによる「人力インターネット」【8月9日 Gigazine】)

【「お互いを敵として見るのではなく、隣人として協力し合っていくことを世界に示す時が来た」】
アメリカとキューバは7月20日、キューバ革命後の断交から54年ぶりに正式に国交を回復しました。
そして、ケリー米国務長官が8月14日、現職の国務長官としては70年ぶりにキューバを訪問。
ハバナのアメリカ大使館に星条旗が掲げられました。

“ケリー氏は式典で「お互いを敵として見るのではなく、隣人として協力し合っていくことを世界に示す時が来た」と演説。国交断絶から10人の米大統領をへて国交が回復した意義を強調した。同時に民主化に向けた期待も語った。”【8月15日 朝日】

****ハバナ市民が歓迎****
ハバナのアメリカ大使館の周辺には、アメリカの国旗が掲揚されるのを一目見ようと、朝から数百人の市民や観光客が集まりました。アメリカ国歌が演奏される中、星条旗がゆっくりと掲げられると、人々の間から大きな拍手と歓声があがりました。

ハバナに住む男性の1人は、「長く対立してきたアメリカとキューバの双方の国民が待ち望んできた時がやってきました。強い絆で結ばれるようになってほしい」と話していたほか、女性の1人は「この歴史的な瞬間に立ち会いたくて、大使館にやってきました」と話していました。

また、フロリダからやってきたというキューバ系アメリカ人の若い女性は、「アメリカ人とキューバ人が一緒になれるなんて胸がいっぱいです」と高揚した様子で話していました。【8月15日 NHK】
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ケリー国務長官の訪問前日、13日はカストロ前国家評議会議長の誕生日で、反米路線を貫いてきたキューバの盟友でもあるボリビア、ベネズエラの大統領も駆けつけて誕生日を祝ったとのことですが、キューバ政府の関心は翌日14日のケリー国務長官訪問に向いていたようです。

****反米同盟」首脳、ハバナに集結=カストロ前議長誕生日に祝意―キューバ****
南米ボリビアの国営通信社は13日、同日89歳を迎えたキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長の誕生日を祝うため、ボリビアのモラレス、ベネズエラのマドゥロ両大統領がハバナを訪問したと報じた。

米国務長官として70年ぶりにケリー氏が14日にキューバを訪問するのに先立ち、米国に批判的な両大統領が「反米の象徴」となってきたカストロ前議長に敬意を表明し、結束強化に努めた形だ。ボリビア国営通信はカストロ前議長が両大統領と面会する写真も公開した。

一方で、キューバのメディアは、ボリビア国営通信電を引用して両大統領のハバナ訪問を伝えるにとどまり、ケリー氏の歴史的訪問を控え、微妙な温度差を見せた。【8月14日 時事】 
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なお、カストロ前国家評議会議長は13日、国内紙への寄稿でアメリカの対キューバ制裁を批判し、「数千万ドル(数十億円)」規模の賠償を米国に求めるとの持論を繰り返したそうです。国家レベルの賠償請求としては、金額の桁が少なすぎるような気もしますが・・・。

正常化するまでにはなお多くの曲折も
話をこれからのアメリカ・キューバ関係にもどすと、キューバはアメリカに制裁解除とグアンタナモ米海軍基地の返還を求めていますが、アメリカ議会では、野党・共和党を中心にキューバの人権問題は改善されていないなどとして、経済制裁の解除に反対する議員も多くいます。

また、オバマ大統領が閉鎖を公約しているグアンタナモ米海軍基地問題(1903年以降アメリカが租借し、テロ関係者を収容)も進展が困難な情勢で、両国の関係が完全に正常化するまでには時間を要すると思われます。

****施設閉鎖へ「最終段階」 グアンタナモ基地で米****
米ホワイトハウスのアーネスト報道官は22日の記者会見で、キューバ東部グアンタナモの米海軍基地にあるテロ容疑者収容施設に関し、閉鎖に向けた計画立案の「最終段階」にあると明らかにした。

アーネスト氏は、同基地の収容施設閉鎖はオバマ大統領の「優先課題だ」と強調。現在116人となっている収容人数を減らすため、さまざまな努力をする必要があると述べた。

22日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がカーター国防長官と先週会い、30日以内に収容者を施設外に移送するための判断を求めたが、カーター氏は明確な回答を避けたと伝えた。

収容者の虐待などで悪名高い同施設の閉鎖は、オバマ氏の就任当初からの公約だ。だが、米上下両院で多数を握る共和党は、他国に収容者を移送すれば結果的に収容者が自由の身となり、米国の脅威になり得るとして反発している。【7月23日 産経ニュース】
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アメリカはキューバに人権状況の改善と民主化の推進を要求していますが、当然ながら、キューバからすれば“内政に口を出すな”ということになります。

****<米国務長官>キューバに民主化要求****
ケリー米国務長官は14日、キューバの首都ハバナでロドリゲス外相と会談し、54年ぶりに国交を回復した両国が懸案を協議する委員会を設置することで合意した。会談後の共同記者会見で両外相が発表した。

ケリー氏はこれに先立ち参列した米大使館の再開式典での演説で、キューバに人権状況の改善と民主化の推進を要求。ロドリゲス氏は会見で「キューバの民主主義に満足している」と反論したが、改善の余地も認め、対話を継続すると述べた。

ケリー氏は会見で、新委員会について9月の前半にも定期協議を開始すると説明。具体的議題としては人権や環境問題、麻薬対策、海洋安全、キューバ革命で国有化された米国企業などの資産の補償問題を列挙。今後の行程について近く明確化したい考えを示した。

ロドリゲス氏は、米国がキューバに実施している禁輸措置の早期解除を改めて要請。議会が必要な措置を取るまでの間、オバマ米大統領が行政権限で可能な規制緩和措置を取るよう求めた。ケリー氏も禁輸解除の議会への働きかけを続けると発言した。

キューバにあるグアンタナモ米海軍基地の返還問題に関して、ケリー氏は「現在は協議対象になっていないが、将来は分からない」と含みを持たせた。ロドリゲス氏は「違法占拠だ」として改めて返還を求めた。

国有化資産の補償問題ではロドリゲス氏が「法的な枠組みがあり、米国以外の資産はすでに補償されている」として今後の交渉で決着を図る意向を示した。

ケリー氏は会見後、米国が支援するキューバ反体制派活動家と米臨時代理大使公邸で面会の予定。大使館での式典には反体制派は招待されず、キューバ政府に配慮した形だ。【8月15日 毎日】
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54年ぶりに星条旗が掲げられたハバナのアメリカ大使館再開式典で、「キューバの人々にとって、真の民主化が最良だと確信している」と演説したケリー長官ですが、キューバのロドリゲス外相はアメリカの民主化要求については会談で「平等と内政不干渉の原則をもとに関係正常化を進める方針をケリー長官に繰り返し伝えた」と語っています。

米国との関係改善で経済や社会が変わっていけば、「自然と国民が変化を求める可能性は十分ある」】
キューバ政府としては、すぐに政治体制を大きく変える意向はないのでしょうが、こういう形でアメリカとの関係が復活すると、おのずと社会・経済的に大きな影響が出て、ひいては政治的にも変革が迫られることにもなります。
アメリカの狙いは、そこにあると思われます。

****キューバ、変革の船出 米と国交回復 経済、苦境脱出へ期待****
半世紀以上敵対した米国とキューバが国交を回復させた。キューバは、社会主義体制は維持しつつも、海外からの投資を呼び込んで苦しい経済状況から抜け出すため、変革の一歩を踏み出した。
一方米国は、人や情報が行き交うことで、一層の改革を求める社会の声が高まると期待する。

(7月)20日、ハバナの米大使館が入る建物前には、国交回復を喜ぶ市民の姿があった。「ようこそUSA」と書かれた横断幕を持っていたラサロ・シルバさん(41)は、「米国との関係をよくして、体制を変えてほしい」。一方で、「教育と医療が無料なのは、守ってほしい」とも話した。

ラウル・カストロ国家評議会議長は、米国との国交回復後も、「社会主義体制は変えない」と明言する。だが、キューバに駐在する外交筋の一人は、米国との関係改善で経済や社会が変わっていけば、「自然と国民が変化を求める可能性は十分ある」と指摘する。

現在84歳のラウル議長は2018年には引退する見込みで、革命世代は政権の中枢から姿を消す。キューバの政府系シンクタンク「キューバ経済研究所」のオマル・エベルレニ研究員によると、政府は、共産党候補の中から直接投票で議長を選出することや議員数の大幅削減など、選挙制度改革も検討中という。

経済面でも、市場経済の仕組みを取り入れた改革を進めている。

フィデル・カストロ前議長が目指したのは平等主義だった。
だが、平均月収が日本円で2400円程度で、働いても働かなくても給料が変わらないために、生産性が落ちた弊害もあった。

経済改革のためには、外国からの投資が不可欠と現政権は判断。これが米国との国交回復に動いた大きな要因だった。

効果は早くも表れている。両国が昨年、国交回復を目指すと表明して以来、日本やフランス、ドイツの閣僚らが企業関係者を率いて次々に訪問。今年上半期の経済成長率は、海外からの投資や観光客の増加で4・7%と、前年の成長率1・3%を大幅に上回っている。

キューバは米国との関係を改善させることで、経済だけでなく政治的にも諸外国との関係改善を目指す。

米オバマ政権も、関係を築くことで内部からの変革を促すのが狙いだ。「両国の外交官は、(国内を)自由に移動し、市民と自由に話が出来ると確信している」。ケリー国務長官は20日、キューバのロドリゲス外相との共同会見でこう語った。

人や情報が行き来し、両国の商いも活発になることで、キューバ市民の意識が変わる。それが、政府への圧力となり、国の変革につながる――。これが米国の描く理想のシナリオだ。

20日午前、再開したワシントンのキューバ大使館前では、亡命キューバ人らが国交回復を喜んだ。マリアシ・カサノーバさん(63)は「この日を待っていた」と喜ぶ一方で、「まだ市民は抑圧されている。カストロ体制、共産党はいらない」とも語った。【7月22日 朝日】
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外国企業の進出にはまだ障害も多々ありますが、流れは止まらないでしょう。

****各国から経済協力申し出****
米国との国交回復を受けて、キューバではいま、大きな変化が起きている。

今年に入り、外国からの観光客が急増。ハバナでは、1950~60年代のカラフルな米国製クラシックカーで市内をめぐる欧米人観光客の姿が目立つ。無線でインターネットが使える有料の拠点も登場し、スマートフォンを持つキューバ人の若者がネットを楽しむようになった。

キューバは近年、部分的な市場開放を進めてきた。昨年12月の米国との国交正常化交渉の発表から流れは本格的になりつつある。

米国からは、4月にニューヨーク州のクオモ知事が企業経営者らを率いて訪問。ニューヨーク・タイムズ紙によると、観光客増加を見込んで、航空会社やクレジットカード会社の幹部らが同行した。また将来の食料輸出をにらみ、米国各州の農業当局者も相次いで訪問団を派遣。米議会に対しても「禁輸措置の解除を」と声を上げている。

5月には、オランド仏大統領が企業団を率いて、仏首脳としてキューバを初訪問した。ドイツ外相や中国の副首相らも相次いで訪問。

日本の岸田文雄外相も5月に訪れ、無償資金協力を本格的に始める方針を伝えるなど、各国から経済協力の申し出が相次ぐ。

キューバ政府は、年20億~25億ドルの海外からの投資が必要と見積もっている。ただ、実際の投資につなげるための壁はまだ厚い。

外国企業が進出した場合、キューバ人を直接雇えず政府の「人材派遣」会社を経由しなければならない。非常に関税が高いため、新車は小型車でも1千万円前後する。このため、事務所開設など初期投資がかかり過ぎる。商取引でも様々な国の許可が必要で、「ビジネスの障壁になっている」(貿易関係者)との声が絶えない。【8月15日 朝日】
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ネット情報を求める人々
社会変革をリードするのはインターネットなどの情報革新でしょう。

****米と関係改善のキューバ、“Wi-Fi”解禁でネットブーム****
先月、54年ぶりにアメリカとの国交を回復したキューバでは14日、アメリカ大使館再開の記念行事が開かれますが、かつての敵国との関係改善に乗り出したキューバの街角では、ある変化が起きています。

「ハバナ市内の一角に多くの若者たちが座り込んでいる場所があります。皆、手にしているのはスマートフォン。キューバは今まさにインターネットフィーバーです」(記者)

キューバでは、先月から公共の場35か所で有料の無線通信=Wi-Fiのサービスが開始されました。家庭でのインターネット普及率はわずか3.4%しかないため、朝早くから多くの人たちが電波状態のいい場所を求めて道端に集まっています。

 (Q.何見ているの?)
「フェイスブック」
「ネットができるのはここだけなんだ。家にないから」(インターネット利用者)

利用料金は1時間およそ2ドル。平均月収が20~30ドルのキューバでは大変高価ですが、長らくネットにアクセスできなかった国民にとっては大きな前進です。しかし・・・・

「こちらキューバで有名な反政府活動家のウエブサイトなんですが、国民が読めるスペイン語でのページは開くことができません」(記者)

反政府世論を警戒し、一部のサイトに制限をかけるキューバ政府。インターネットが体制を揺るがす動きへとつながるのかどうか。半世紀以上変わらなかったキューバにも、大きな変化が訪れようとしています。【8月14日 TBS Newsi】
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ネット利用が高額なキューバでは、最新のコンテンツやファイルをUSBメモリーにコピーし、そのUSBメモリーがバスや自動車で希望者の元へ運ばれる“人力インターネット”が広がっているそうです。

****バスで持ち運ばれるUSBメモリーによる「人力インターネット」が普及するキューバのネット実情****
物資不足が続くキューバでは、政府が提供するインターネットセンターの1時間あたりの料金はなんと一般的なキューバ人の給料1週間分に匹敵します。

インターネットを求めて9000台を超えるPCを使ってプライベートネットワークが構築されるなど、政府のシステム外で対策がとられたこともありますが、さらに非公式の商用コンテンツを流通させる経路としてUSBメモリーによる「人力インターネット」が発展しています。

インターネット設備もなく、公式なネット料金は破格という、ほとんどの人がオフラインを余儀なくされているキューバでは、流行のドラマやハリウッドの新作映画などをオンラインで気軽に楽しむことはできません。

そんなキューバの現状を打開する対策として「El Packete」と呼ばれる“人力インターネット”が普及を始めているとのこと。

El Packeteとは最新のコンテンツやファイルがコピーされたUSBメモリーのことで、人々のポケットの中に入ってバスや自動車で運ばれており、希望者の元へと渡っていきます。

ある意味ではEl Packeteは「非常に低速で大容量のインターネット接続」と同じで、パケットが読み込まれていくようにデータが人の手から人の手へと配信されていきます。

コンテンツをアップロードしている人は誰なのか不明とのことですが、El Packeteは受け取りまでの時間を遅くするほどに低価格になるシステムで、全体で毎月500万ドル(約6億2000万円)ものお金が支払われているとのこと。

政府の監視が厳しいキューバにおいて、El Packeteのような非公式のシステムが拡大している理由については、政府は最新の映画やドラマといったコンテンツが「反政府主義者の温床にはならないと捉えているため」と考えられています。

また、USBメモリーが大量に出回ることでサプライ・チェーンの雇用機会が増加していることもあり、“暗黙の了解”として人力インターネットが拡大しているとみられています。

なお、El Packeteのモデルはキューバのネット事情から生まれたロボット工学的な解決策の1つとされていますが、ほとんどのキューバ人がインターネットにアクセスできない、という現状や特定の人だけがインターネットを獲得できる格差は解消されません。

また、キューバのインターネット不足を描いたドキュメンタリー映画「OFFLINE」が制作されるなど、キューバ国民のウェブへの参加が切望されています。【8月9日 Gigazine】
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一旦動きだした情報を求める人々の欲求は、政府の力で押しとどめるのは非常に困難です。
その内容も“反政府主義者の温床にはならない”ものにはとどまりません。
やがて、ネットを通じた情報伝達が社会を大きく変えることにもなるのではないでしょうか。
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