孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  二つの政府が並立、ISとの攻防・・・続く混乱状態

2015-08-16 22:39:56 | 北アフリカ

(カダフィ独裁政権崩壊を喜ぶ人々 しかし、今までのところは、カダフィ政権崩壊は“パンドラの箱”を開け、混乱をリビア国内に、また、武器流出に伴いアフリカ各国にも広めているようにも見えます。また、ISなどイスラム過激派の台頭、難民の欧州への密航という事態も引き起こしています。 写真はhttp://www.dailymail.co.uk/news/article-2036885/Libya-New-leader-Mustafa-Abdel-Jalil-says-Sharia-law-used-Gaddafi-regime.html より。)

IS:デルナからは撤退したものの、シルトでは住民虐殺
リビアでは、独裁者として君臨したカダフィ大佐が2011年の政変で失脚・殺害されたのち、暫定議会と制憲議会の二つの政府が並立し混乱している他、ISやアルカイダ系など複数の武装勢力が豊かな石油利益を狙って戦闘を続けています。

世俗主義勢力の暫定議会は国際的には正当性が認められているものの、首都トリポリを追われ、北東部トブルクを拠点としているため、「トブルク政府」とも称されています。

トブルク政府は、カダフィ側近だった軍将校を軍司令官とし、カダフィ政権の旧軍部も取り込んでいます。

一方、首都トリポリを拠点とする制憲議会(「トリポリ政府」)はイスラム主義勢力に支えられています。

「トリポリ政府」と「トブルク政府」の抗争という“権力の空白”に乗じて、IS等のイスラム過激派が勢力を拡大していますが、珍しく東部デルナ(トブルクの西、百数十km)では7月に撤退を余儀なくされています。

****地元民兵組織が蜂起、住民の支持得てIS撃退 リビア****
中東の各地で勢力を拡大してきた過激派組織「イスラム国」(IS)が先月、リビアで拠点としていた東部デルナから撤退した。

朝日新聞の電話取材に応じた住民らによると、地元出身者による民兵組織が蜂起したという。ただその後もデルナではISによるテロが起きており、不安定な情勢が続いている。

デルナの人口は約10万人。以前は穏健なイスラム系民兵組織が統治していた。電話取材に応じた「アブエサム」と名乗る俳優の男性(44)によると、ISがデルナで活動を活発化し始めたのは昨年夏ごろ。

アフガニスタンやイラクで戦った経験のあるリビア人のほか、サウジアラビア、エジプト、イエメンなどの出身者がいた。戦闘員は2千〜3千人に増えていった。指導者はエジプト人とイエメン人だった。

エジプト中部メニア在住でリビア情勢に詳しいタハ・キラニさん(58)によると、デルナにはもともと信仰心の強いイスラム教徒が多かった。

「ISはデルナを拠点にリビアでの勢力拡大を図れると考えた」と指摘する。当初はカリフ(預言者ムハンマドの後継者)制復活を標榜(ひょうぼう)するISを歓迎した住民もいたという。

しかしISは、窃盗容疑者の手を切り落としたり、同性愛者の男性を公開処刑したりして住民に恐怖を植え付けた。アブエサムさんはISを批判するテレビ番組に出演したため、「その邪悪な行いをやめないとお前の首を切り落とす」とフェイスブックに脅迫メッセージが届いた。【8月12日 朝日】
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ISをデルナから追い出した“地元出身者による民兵組織”というのは、「ムジャーヒディーン・シューラー評議会」と称するイスラム主義勢力で、西の「トリポリ政府」に近い勢力のようです。
中心人物は、かつてアルカイダ系組織で活動していた者とか。

一方、「トブルク政府」の軍はデルナを外から包囲して、ISもその他イスラム主義勢力もすべてリビア東部から掃討しようとしていたようです。
ISを駆逐したのち、「評議会」と「トブルク政府」軍がどういう状態になっているのかは知りません。

ISは撤退を認め、「戦争には勝つときも負ける時もある。我々は最後に勝利する」と主張しています。

****IS、リビア拠点からの撤退認める 「負ける時もある****
過激派組織「イスラム国」(IS)は11日に投稿した動画で、リビアで組織の拠点としていた東部デルナからの撤退を事実上認めた。そのうえで、「困難の時期を克服して我々は勝利する」と、報復を誓っている。

ISは昨年11月からデルナを実効支配していた。最近、別のイスラム系武装勢力との戦闘で劣勢に陥っていたとされる。投稿された動画は約10分間。「戦争には勝つときも負ける時もある。我々は最後に勝利する」としている。

リビアでは東西に二つの政府が存在する状態。さらに多数の武装勢力が乱立して内戦状態にある。ISは中部シルテも支配下に置いている。デルナからの撤退に伴い、IS戦闘員や支援者がエジプトに入り込んでいると指摘されている。【7月13日 朝日】
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ただ、リビアからISが撤退した訳ではなく、上記記事にもある中部シルトでは凄惨な状況も報じられています。

****IS、リビア・シルトで12人を「斬首」 住民22人も虐殺 報道****
国営リビア通信は15日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がリビア北部の沿岸都市シルトで、12人を斬首して十字架に吊るしたと伝えた。

シルトは2011年の政変で失脚し殺害された独裁者ムアマル・カダフィ大佐の故郷で、支配権をめぐってISと地元武装組織との戦闘が11日から激化している。

LANAによると、斬首されたのはシルト東部の「地区3」でISと戦っていた地元武装組織の戦闘員で、戦闘中に殺害されたという。また、ISは他にも、対IS戦に参加し負傷して病院に収容されていた地元住民22人を処刑し、病院に放火したという。

匿名でAFPの取材に応じたシルト議会の関係者は、15日も戦闘が「絶え間なく」続いていると語り、「特に地区3では戦闘が激しく、死傷者が続出している」と述べた。

リビアのチバニ・アブハムード駐仏大使は14日、シルトの戦闘で同日までに150~200人が死亡したとして、「虐殺が行われている。国際社会の介入を求める」と警告していた。【8月16日 AFP】
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トブルク政府はISに対する空爆を欧米・アラブ諸国に求めています。
実際、“14日朝国籍不明機がシルトのIS拠点を空爆した”とのことです。

エジプトとUAEは2014年8月にも首都トリポリのイスラム主義民兵を空爆しています。
今年2月にも、エジプト人キリスト教徒21人がリビアでISに殺害されたことを受けて、エジプト軍がリビア国内にあるISの拠点を空爆しています。

今回もその線ではないでしょうか。
エジプトやUAEは、イスラム過激派の勢力拡大、自国波及を警戒しています。

****リビア情勢(シルトに対する空爆****
・・・・リビア政府は、リビアに対する武器禁輸のためにISに対抗することができないとして、国際社会、アラブ社会の支援と禁輸の解除を要請していましたが、14日午後夕改めて宣言を発して、国際社会及びアラブ諸国の支援を要請したが、特にアラブ諸国に対しては、IS目標に対する限定的空爆、特にシルトに対するそれを要請し、リビア政府(トブルク政府)が調整連絡する用意があると表明しました。

・他方、14日朝国籍不明機がシルトのIS拠点を空爆した由。
地元住民によると、国籍不明機2機が、シルトの政府庁舎コンパウンド、治安機関本部、弾薬貯蔵庫として使われていた海岸ホテルを空爆し、爆発音が数時間続き、救急車が往来した由
死傷者数等は不明。

トブルク政府もトリポリ政府も何の声明も出していないが、多くの住民が、爆撃が極めて正確であったことから、欧米諸国の空爆と考えている由

(確か、かなり以前にエジプト機とUAE機が、ベンガジだったかを空爆したとの噂があり、今回もリビア政府がアラブ諸国に空爆を要請していることから見ても、エジプト等の空爆だった可能性が強いのではないかと思われる。それにしても、空爆が正確であったから欧米の空軍であろうとの見方は・・・おそらく正しい見方であろうが・・・アラブ人の自分たちの軍事能力に対する見方を反映しているようで、興味深い)【8月16日 「中東の窓」 野口雅昭氏】
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【“無能で、腐敗している”政府
対ISだけでなく、政権内部も揺らいでいるようです。
下記はトブルク政府に関する記事。

****リビア首相、生放送中に辞意表明****
リビア暫定議会(政府)のアブドラ・シンニ首相が11日夜、テレビのインタビュー番組に生出演中、辞意を表明した。

番組内で首相は、国際的に認められた暫定政府が管轄する地域の電力不足や治安悪化などに対して基本的な対策が不足しているとして、政府を非難する市民からの厳しい質問攻めに直面した。

同首相は「私の辞職が解決策になるのなら、私はここでそれを宣言する」と述べ、「辞表は16日に議会に提出する」と付け加えた。(後略)【8月12日 AFP】
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トリポリ政府支持のカタール系のaljazeera netは“トブルク政府は、実行的な支配力をまったく有せずに無能で、腐敗している・・・最近のサニー首相ン辞任表明も、議会で彼が関連した腐敗に関して、追及されるのを避けるためであった”【8月15日 「中東の窓」 野口雅昭氏】と批判しているそうです。

最近のaljazeera はカタール政府の御用メディアと化していると言われていることに留意する必要はありますが、トブルク政府が有効な統治を実現できず、腐敗が蔓延していることはおそらく事実でしょう。
もっとも、もう一方のトリポリ政府がどういう状態かは知りませんが。おそらく大差ないのでは。

リビアの混乱に、シリア・イラクで手いっぱいの欧米は“そこまで手が回らない”という状況ですが、この混乱を受けてリビアから欧州を目指す難民の密航船が多数出航し、多大な犠牲者を出し、押し寄せる難民・不法移民が欧州社会に強いインパクトを与えているのも事実です。
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