孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国・北朝鮮の緊張 北朝鮮の「遺憾表明」で事態改善へ 外交上の微妙な言葉

2015-08-26 23:14:04 | 東アジア

(高官会談を終え、握手する北朝鮮の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)・朝鮮人民軍総政治局長(左)と韓国の金寛鎮(キム・グァンジン)・大統領府国家安保室長(右)ら=2015年8月25日、板門店の韓国側施設「平和の家」(AP)【8月26日 SankeiBiz】

北朝鮮の「遺憾表明」で決着
緊張が高まっていた北朝鮮・韓国関係ですが、周知のように、今回緊張の発端となった地雷事件に関して北朝鮮側が「遺憾表明」したことで、一応の緊張緩和に向かっています。

****<南北会談>北朝鮮が遺憾の意、韓国が宣伝放送中断で合意****
 ◇6項目の共同報道文 北朝鮮は「準戦時状態」も解除
韓国と北朝鮮の高官会談は25日午前0時55分(日本時間同)に合意に達し、6項目の共同報道文が発表された。北朝鮮側は地雷爆発で韓国軍人が負傷したことに遺憾の意を表明し、韓国側は報復措置として再開した拡声機による宣伝放送を中断する。

北朝鮮側は布告していた「準戦時状態」も解除する。高まっていた緊張が緩和され、南北関係が改善に向かう可能性も出てきた。

北朝鮮側が示した「遺憾表明」について、25日午前2時過ぎに青瓦台(大統領府)で記者会見した金寛鎮(キムグァンジン)国家安保室長は「北朝鮮側が地雷による挑発について謝罪し、再発防止と緊張緩和に努力すると約束したことは非常に意義深い」と述べ、遺憾表明を事実上の謝罪だと受け止めていることを明らかにした。

韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は25日、「わが政府が北朝鮮の挑発に断固として対応する原則を一貫して守る一方、対話の窓を開いておき、問題解決のために努力した結果だ」と評価した。青瓦台報道官が明らかにした。朴大統領は「今回の会談では謝罪と再発防止が最重要事項だ」と強調していた。

共同報道文は、ほぼ同時刻に北朝鮮の朝鮮中央通信も報じた。今月4日に南北軍事境界線沿いに設けられた非武装地帯の韓国側で起きた地雷爆発事件について、北朝鮮の国防委員会政策局は「捏造(ねつぞう)された謀略だ」と関与を否定する談話を発表していた。だが、朝鮮中央通信は「遺憾表明」を含む報道文はそのまま伝えた。

高官会談は8月22日午後6時半から、中断を挟み25日未明まで計約43時間にわたって続けられた。特に韓国側が求める「謝罪と再発防止」をどのような形で盛り込むかで、立場の違いがなかなか埋まらず長時間の会談となったとみられる。

再発防止については、北朝鮮が求める拡声機の中断に関し「非正常な状態が起きない限りにおいて中断する」と盛り込み、北朝鮮側によるさらなる挑発に一定の歯止めをかけた。

南北は関係改善のため、ソウルや平壌で当局者間の会議を開くことでも合意。朝鮮戦争(1950〜53年)で南北に生き別れになった人々のために「離散家族再会事業」も今年秋の旧盆(9月27日)の時期に再開されることが決まった。準備のための南北赤十字の協議を9月初めに実施する。【8月25日 毎日】
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韓国側は謝罪を強く求めていましたが、北朝鮮の「遺憾表明」をもって謝罪とみなしています。
今回の「遺憾表明」については、「北側は」という形で主体が明示されています。

****北朝鮮の「遺憾表明」 南北合意文書では初めて****
韓国と北朝鮮が25日に発表した共同報道文で北朝鮮が地雷事件について遺憾を表明したことめぐり、南北の合意文書で遺憾との表現を使ったのは初めてであることが分かった。

韓国と北朝鮮は22日から25日まで断続的に南北高官協議を開催。25日未明に高官協議を終了させ、6項目の共同報道文を発表した。合意文第2項には「北側は軍事境界線の非武装地帯の南側地域で発生した地雷爆発により南側軍人が負傷したことに対し遺憾を表明した」と記された。

韓国政府は外交文書で「遺憾」の表明は謝罪の意味として使われるため、この条項は北朝鮮が謝罪したことになると説明した。

また韓国政府によると、南北合意文で北朝鮮が謝罪の主体を明確にしたのは今回が初めてという。北朝鮮はこれまで、特定の懸案に対し遺憾を表明する場合にも主体を明らかにしなかったり、「南と北は」という表現を用いるなどして、主体を曖昧にしたりしてきた。

1950年以降、これまで約2000回にわたり越境による挑発を行ってきた北朝鮮が遺憾を表明した事例があるが、北朝鮮当局が出した声明などだったという。【8月25日 聯合ニュース】
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玉虫色決着、それはそれで・・・
ただ、地雷事件を起こしたのが誰かについては明確にされておらず、北朝鮮側は「根拠のない事件」「捏造された謀略だ」という立場を変えていません。

****地雷事件「根拠ない」=国内向け、従来の立場変えず―北朝鮮****
南北高官会談に出席した北朝鮮の黄炳瑞軍総政治局長は25日、朝鮮中央テレビに登場し、合意内容を説明した。北朝鮮は合意で、地雷爆発事件に遺憾の意を表明したが、黄氏は「根拠のない事件」と述べ、「韓国のでっち上げ」という従来の立場に沿った見解を示した。韓国の聯合ニュースが伝えた。

合意の文言は、地雷事件を起こした主体を明示していない。韓国は事実上、北朝鮮が責任を認めて謝罪したと受け止めているが、北朝鮮には国内向けに「譲歩していない」と強調する意図があるとみられる。【8月25日 時事】 
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日本での「遺憾に思う」という表現は辞書的には「残念に思う」との意ですが、その使用例はかなり曖昧で、必ずしも自らの非を認めた謝罪とは言えないケースでも使用されます。

*****遺憾の意を表明*****
特に何とも思ってないし何もする気はないが、何か言わなければならない時に発される言葉。【Hatena Keyword】
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上記のような皮肉な解釈もあるように、政治的には便利な言葉でもあります。

地雷事件そのものを「根拠のない事件」「捏造された謀略だ」とするのであれば、そのうえでの「遺憾表明」は、単に“こうした事件が起きたことを残念に思う”と言ったに過ぎないとも取れますが、“韓国政府は外交文書で「遺憾」の表明は謝罪の意味として使われるため、この条項は北朝鮮が謝罪したことになると説明した。”とのことです。

もっとも敢えて玉虫色にして、各自が都合のいいように解釈するというのが、利害が対立して譲れない外交関係の常套手段でもありますので、今回は“うまく収めた”という感があります。

北朝鮮側も、自国内向けには「譲歩していない」ことを強調しながらも、韓国が謝罪と解釈していること自体には直接的には反論しないことで一定に容認する・・・という線で落ち着いたように見えます。

意図的「誤解」は別にして、外交上の微妙な表現は、互いの言語が異なりますので意図せざる誤解を招くことも少なくありません。あとから「話が違う」ということになることも。

よく、日米繊維交渉と沖縄返還交渉を話し合った1969年11月の佐藤・ニクソン会談が例に挙げられます。
佐藤栄作首相が「善処します」的な、日本語としては“努力はするが、できない場合もあるかも・・・”といった曖昧な部分がある表現をしたのが、英訳では実行を約束したというように訳され、後々「話が違う」というトラブルになったという事例です。

ただ、これも実際に佐藤首相がどういう表現をしたかはっきりしないようで、かなり踏み込んだ発言だったとの指摘もあります。もし、そうであれば、英訳で真意が伝わらず云々は、“責任逃れ”のために流した国内向けの言い訳ということにもなります。

今回は、韓国・北朝鮮とも同言語ですから、そうした心配もなく、微妙な言葉の綾を利用する形で互いのメンツを守って“落としどころ”を得た・・・というところです。

玉虫色決着を否定すれば、武力による衝突しかありませんので。

****玉虫色決着で南北ともに失点なし」 関西学院大学教授 平岩俊司氏****
今回の合意で、北朝鮮は「遺憾」を表明したが自分たちの責任を認めたわけではない。一方、韓国側はそれを謝罪と受け止めるという玉虫色の決着だったので、南北ともに失ったものはない。

逆に北朝鮮が得たものは、南北関係を進展させられれば、朝鮮労働党創建70周年に際しての金正恩政権の成果としてアピールできることだろう。

韓国にとって良かったのは、朴槿恵大統領が北朝鮮に対して譲歩しないという姿勢を強く打ち出し、妥協せずに合意できたという印象を残せたことだ。

北朝鮮が今回の合意において譲歩したとは思わない。実利主義の国なので、必要であれば「遺憾」を表明することもあるだろう。金正日体制でもそうだった。今回の北朝鮮の対応で、目新しいものは一切感じない。金正恩体制になっても、金正日時代から続く「瀬戸際政策」の枠の中で、十分説明できる。

北朝鮮は、2年前から対話路線に転じたとみている。今回の合意で、韓国側もそれに応じることになれば、国際社会に対しても良い雰囲気が醸成でき、自分たちにも都合が良いのではないか。(談)【8月25日 産経】
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中国の苛立ちの相手は?】
韓国・朴大統領は、南北緊張が緩和したことで中国が開催する「抗日戦争勝利70周年記念行事」の軍事パレード欠席の理由がなくなったこともあって、出席を要請する中国と反対するアメリカの板挟みで苦慮していましたが、結局「中国との友好・協力関係」などを考慮し(大統領府報道官)軍事パレード出席を決めたと先ほど報じられています。

パレード出席に先立ち9月2日には、習近平国家主席との中韓首脳会談に臨むそうです。

この間、中国は苛立ちを募らせていました。

****中国紙、抗日パレードで朴大統領を再恫喝「妨害で支障が出た場合、座視しない****
中国が9月3日に開催する「抗日戦争勝利70周年記念行事」には、ロシアのプーチン大統領ら30カ国の元首、首脳級指導者が参加する。習近平国家主席の威信がかかるだけに、同国は、軍事パレードへの参加を明言しない韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に、再び圧力をかけたようだ。
 
「すべての外国の指導者だ」
中国外務省の張明外務次官は25日の記者会見で、軍事パレードを含む一連の行事への出席者について、こう語った。

朴氏のパレード参加が決まったとみられたが、韓国大統領府の報道官は同日、「細部の日程を含め中国側と協議中」といい、否定した。中国はしびれを切らせているようだ。

中国が東・南シナ海で軍事的拡張路線をあらわにするなか、欧米諸国の首脳や安倍晋三首相は記念行事自体への出席をとりやめている。韓国の同盟国である米国は事実上、朴氏にも出席を見合わせるよう求めていた。

米中間で「二股外交」を続ける朴氏は記念行事への出席は決めたが、軍事パレードの参加については決断していないようだ。

キャンセルの口実になり得た北朝鮮との軍事的緊張も解消し、朴氏の最終判断が注目されるが、中国はこんなアピールもしている。

中国共産党機関紙の人民日報の国際版『環球時報』は24日の社説で、朝鮮半島の軍事的緊張に触れて、こう記したという。
「緊張を高めている勢力の中には、朴大統領のパレードへの出席を不満に思っている勢力がいる」「悪意のある妨害で軍事パレードに支障が出た場合、中国は座視しないだろう」(ハンギョレ新聞、24日より)

恫喝というしかない。【8月26日 夕刊フジ】
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なお、軍事パレードへの部隊派遣については、中国は70人以上の部隊派遣を求めていましたが、韓国軍は数人の参観団を送るという形で部隊派遣は見送った・・・と報じられています。【8月24日 産経】

韓国をめぐる中国とアメリカの綱引きはともかくとして(大国の無理難題は小国にとっては宿命であり、両大国の対抗心を利用して、いかに自国の利益を引き出すかが小国の生きる知恵です)、“抗日パレードで朴大統領を再恫喝”とありますが、『環球時報』記事は今回の南北合意前のものですから、「緊張を高めている勢力」云々は北朝鮮を指すようにも見えます。

そうであれば、「中国は座視しないだろう」という恫喝の対象は、朴大統領やアメリカではなく金正恩第一書記では・・・?
今回の南北緊張における北朝鮮の行動には、中国の影響からの脱却を意図したものがある・・・との指摘もありました。

****北朝鮮、韓国砲撃を中国に通告せず・・・狙いは「中国排除、影響からの脱却」か=米華字メディア****
北朝鮮と韓国双方による軍事境界線付近への砲撃により自体が緊迫化した朝鮮半島情勢について、米国の華字メディア・多維新聞は22日、北朝鮮が中国を差し置いて行動に出ているとし、中国とのしがらみから脱却しようとする北朝鮮の姿勢が見られるとする評論記事を掲載した。

記事はまず、北朝鮮の池在龍(チ・ジェリョン)駐中大使が21日に北京で記者会見を実施し、韓国に対して「最後通牒(最後通告)」を出すという「重大な行動」にでたことを「異常」と評したうえ、中国の政府系メディアに対して通知を行わずに国外メディアを中心に集めたことについても「大きな意味を持っている」と論じた。

そして、今回の砲撃事件について韓国が迅速に米国や中国などに連絡を取る一方で、北朝鮮は中国には連絡を取らず、ロシアにはすぐに知らせるという行動に出たと解説。

その狙いは「中国を片隅に追いやることの一点に尽きる」とし、北朝鮮が「中国が北朝鮮を支援しなくなったことに対する恨み」、「いつでも中国に巻き添えを食らわせられることのアピール」、「自分自身の力で問題解決できることのアピール」であると分析した。

また、北朝鮮側が砲撃を行った背景の1つとして、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が20日、9月2日に中国入りをして翌3日の抗日戦勝70周年軍事パレードに出席することを発表した点を挙げ、「韓国に対する警告とともに、故意に中国の体裁を悪くさせようとした」と解説した。

そのうえで、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記が「最大の脅威は米国でも日本でも韓国でもなく、両国関係で主導的な立場にあり、北朝鮮の行動を制約する要因となっている中国だ」と認識しているとの分析が出ていることを紹介。

さらに、昨今中国が国際社会における地位向上とともに韓国を引き寄せていること、朴大統領が米国の影響を顧みずに中国の軍事パレード出席を決めるという積極的な外交姿勢を見せたことから、「朝鮮半島問題において韓国ではなく自らが支配的な役割を担うこと」を望む北朝鮮が焦りを見せているとも論じた。(後略)【8月24日 Searchina】
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毎度の言い訳になりますが、中国と北朝鮮の実際の関係はよくわかりません。
“北朝鮮は中国には連絡を取らず、ロシアにはすぐに知らせるという行動に出た”云々の真相もわかりません。

金正恩第一書記が張成沢氏などの親中派を一掃・処刑したことで、従来以上に中国は、属国のように考えている北朝鮮への不快感を持っているのは間違いないでしょうが。
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