孤帆の遠影碧空に尽き

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ミャンマー  立候補締切直前の「党内クーデター」 スー・チー氏は解任されたシュエ・マン氏と連携模索

2015-08-18 22:22:09 | ミャンマー

(写真は【8月12日 新華ニュース】  政変劇の一方で、ミャンマーでの洪水による被災者数は約100万人に達し、そのうち34万人近くが子どもであるとみられています。被害が大きかった地域のうち、チン州とラカイン州は、ミャンマーの中で最も貧しい地域です。チン州は住民の70%が、ラカイン州では50%が、1日2米ドル以下の貧しい暮らしをしています。 【8月12日 unicefより】)

テイン・セイン大統領派が巻き返し シュエ・マン党首を解任
ミャンマーでは民政移管後の初めての総選挙が11月に行われる予定で、立候補の受け付けが14日締め切られました。

周知のように、その締切直前の12日夜、大統領派が主導する形で与党「連邦団結発展党(USDP)」本部が警察により包囲され、下院議長でもある与党党首(形式的には党議長代行ですが、実質的には党首的な立場にあります。本文では以下、“党首”という肩書を使用します。)が自宅軟禁下におかれ、党首から解任されるいう、与党の“党内クーデター”とも言える権力闘争が噴出しています。

****<ミャンマー>治安部隊が与党本部に 抗争シュエマン派駆逐*****
ミャンマーの首都ネピドーで12日夜から13日朝にかけ、数百人規模の治安部隊が与党「連邦団結発展党(USDP)」本部を封鎖し、党議長代行で党内の実権を握るシュエマン下院議長を一時、事実上の自宅軟禁下に置いた。

USDPはその後声明を発表し、シュエマン氏が指導部から外れたことを明らかにした。11月の総選挙に向けてテインセイン大統領派とシュエマン派の主導権争いが激しくなっており、追い込まれたテインセイン派が「党内クーデター」(地元記者)でシュエマン氏排除を狙った形だ。

総選挙では、アウンサンスーチー氏率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」に対し、USDPは劣勢とみられる。

次期大統領への野心を公言するシュエマン氏は、国軍優位を規定した憲法の改正を主張するスーチー氏と連携する動きもみせ、国軍のミンアウンフライン最高司令官と歩調を合わせるテインセイン大統領と対立を深めていた。

今回の政変で、国軍が出動したとの情報が流れたが、大統領府は13日、「党からの要請があれば地元警察が駆け付ける」と説明。テインセイン大統領と国軍が連携した政敵排除の「党内クーデター」との見方を否定した。

USDPの議長はテインセイン大統領だが、憲法上、党務を兼務できないため、シュエマン氏が議長の代行を務めてきた。ただ、党の実権を掌握したシュエマン氏は、多くのメディアに「議長」と報じられていた。

イエトゥ大統領報道官は13日、英BBCに「シュエマン氏は党職を外れた」と発言。「今は逮捕者はいないが、法と秩序に反すれば法的手段を取る」と述べ、シュエマン派に対し今回の政変を受け入れなければ「強権発動」も辞さないと警告した形だ。

USDPは政変後に声明を発表。テインセイン大統領が議長であることを確認した上で、シュエマン氏については「下院議長として重大な責務がある」とし、フルタイムで国会運営に当たるべきだと求めた。

シュエマン氏は党指導部の名簿から外れたが、党籍は残っており、総選挙に党公認で立候補することもできるとした。

最大都市ヤンゴンにいるシュエマン氏の息子トーナインマン氏は毎日新聞の取材に「今はコメントできない。父は自宅にいる」と語り、自宅軟禁ではなく「治安要員の通常の警護下にある」と強調した。シュエマン一家は旧軍政期に蓄財し国内でさまざまなビジネスを手がけている。

USDPは12日、総選挙に向けた党候補者リストを公表し、テインセイン大統領が党の候補者に含まれていないことを明らかにしていた。党報道官は「大統領のため選挙区を用意したが、自ら出馬を辞退した」と語った。

地元紙によると、大統領側近の2人の大統領府相も希望する選挙区からの出馬が認められず離党。無所属で出馬することになっていたが、今回の党声明では党指導部に2人の名前が入っており、復権した。

2011年に民政移管した際の最高指導者タンシュエ氏は、軍政序列3位だったシュエマン氏ではなく、4位のテインセイン氏を大統領に「指名」。シュエマン氏は当時から大統領になる野心を持っていたとされる。

総選挙の立候補届け出期限は14日。ジャーナリストのシードアウンミン氏は「(今回の政変は)ぎりぎりのタイミングだった」と指摘した。【8月13日 毎日】
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以前からの両者の確執
テイン・セイン大統領とシュエ・マン下院議長の確執、次期大統領を巡る争いは以前から報じられていました。

最近では、7月中旬、“テイン・セイン大統領がシュエ・マン党首に書簡を送り、健康上の理由で総選挙に出馬しない意向を伝えた”との情報がメディアに流れましたが、大統領府高官が「大統領は、選挙に出馬することも大統領として2期目を目指すことも公には否定していない」と情報を否定する混乱もありました。

前大統領政治顧問で新党を設立した大統領側近は、「誤報騒ぎは党内抗争の表れで、大統領の政治的暗殺を意図したものだ」とも言及していました。

なお、この新党「国民発展党」は党内抗争で与党USDPが分裂した場合、テイン・セイン大統領派が駆け込む「受け皿」になるとうわさされていました。【7月15日 毎日より】

一方、この大統領不出馬情報が流れた際、シュエ・マン党首サイドについては、“ロイター通信によると、シュエ・マン氏は、書簡を受けた13日午後、NLD党首のアウン・サン・スー・チー氏(70)と2人で会談した。憲法で大統領就任を禁じられているスー・チー氏に自身の意欲を伝え、躍進が予想されるNLD側の大統領候補などについて確認した可能性がある。”【7月14日 産経】と、最大野党党首スー・チー氏との連携も報じられていました。

スー・チー氏は当初テイン・セイン大統領との二人三脚で民主化を推進するようにも見えましたが、憲法改正問題がなかなか進展しない中で、大統領との溝が深まっていたとも見られています。

“スーチー氏は政界入り以降、憲法改正問題などを巡りテインセイン大統領と次第に溝を深め、シュエマン氏と関係を強めてきた。NLDが選挙に勝った場合、親族が外国籍で大統領資格を欠くスーチー氏に代わり、シュエマン氏を大統領候補に担ぎ、スーチー氏は下院議長や外相に座るのでは、との観測も流れている。”【7月13日 毎日】

大統領不出馬云々は“誤報騒動”とのことでしたが、USDPが8月12日に発表した国会上下院と地方議会の候補者リストには、実際にテイン・セイン大統領やニャントゥン副大統領、側近のソーテイン大統領府相らは含まれておらず、党内を仕切るシュエ・マン党首側が大統領派を押し切ったようにも思えました。

その直後の“党内クーデター”でした。

軍部のシュエ・マン氏への不満
最大野党党首スー・チー氏との憲法改正問題を含めた接近や、候補者選定における軍部への処遇を巡って、軍部のシュエ・マン党首への不満が強まっていたとの指摘もあります。

****ミャンマー民主化に懸念 与党党首解任、軍が後押しか****
 ■スー・チー氏との連携、不満も
ミャンマーで、大統領選の有力候補と目されていたシュエ・マン下院議長が軍系与党、連邦団結発展党(USDP)の党首を解任され、失脚した。

ミャンマーは軍政から民政移管を果たしたとはいえ、軍が強い政治力を維持している。軍関係者集団内の「クーデター」は、民主化進展の信頼性を揺るがしかねない。

13日のシュエ・マン氏の党首解任と党中央執行委員会からの除名は、今年11月の上下両院総選挙の立候補者名簿の提出締め切り前日というタイミングで行われた。

その後、行われる予定の大統領選(両院議員の投票による間接選挙)では、シュエ・マン氏と再選を目指すテイン・セイン大統領の戦いとなるとみられていたため、背景に両者の対立があったことは明白だ。

ロイター通信によれば、政府はシュエ・マン氏が影響力を持つ新聞と週刊誌を発行停止処分にし、締め付けを強化している。同氏は14日、フェイスブックに投稿し「最後まで国民のために働く」と強調した。

大統領派や軍幹部は、シュエ・マン氏が国民の間で人気のあるアウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)と連携し、スー・チー氏が要求する「軍に有利な現行憲法の改正」に前向きな姿勢を示していたことに不満を募らせていた。

USDPは、2011年の民政移管時の軍事政権の受け皿政党で、軍とは一蓮托生(いちれんたくしょう)の存在だ。党内には軍政を厳しく批判して長期にわたり自宅軟禁下に置かれたスー・チー氏への反感が根強い。

かつて軍政序列3位だったシュエ・マン氏と序列4位から大統領の座に上り詰めたテイン・セイン氏との間には積年の反目もあったとみられる。

また、シュエ・マン党首下のUSDPは、軍部が求めていた元軍人の立候補を一部しか認めず、軍を率いるミン・アウン・フライン司令官との関係も悪化していたとされ、軍が解任を後押ししたとみられている。

解任劇に軍・警察部隊が動員されたことについて、米英政府は懸念を表明し、民主化の進展で市民からの信頼を守るよう要求した。

今回の総選挙は、2010年の前回総選挙をボイコットしたNLDが参加するため、1990年以来初の本格的な選挙戦となる。しかし、インドのシンクタンク、オブザーバー研究財団のミヒル・ボンスレ研究員は「解任劇は、自由で公正な選挙への道を後退させるものだ」と指摘した。【8月15日 産経ニュース】
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テイン・セイン大統領とシュエ・マン氏の間には、“2011年の民政移管にあたり、シュエ・マン氏とテイン・セイン氏は大統領就任をめぐり対立。当時のタン・シュエ軍司令官の裁定により、軍での序列はシュエ・マン氏より低かったが温厚で軍への忠誠も強いテイン・セイン氏が、大統領に選ばれた経緯がある”【8月13日 産経】という個人的なしこりもあります。

ミャンマー民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領は“穏健・慎重”なイメージがありましたが、追い詰められて・・・ということでしょうか、あるいは軍部との連携で・・・ということでしょうか、政変劇の内実はわかりません。

スー・チー氏「誰が真の友人かはっきりし、盟友の結束が一層強まることになるだろう」】
とにもかくにも、立候補は締め切られ、11月の総選挙はテイン・セイン大統領が政変で実権を掌握した政権与党とスー・チー党首率いる野党・国民民主連盟(NLD)の事実上の一騎打ちで争われる形になっています。

****6000人以上が立候補=2党の一騎打ちに―ミャンマー総選挙****
ミャンマーの連邦選挙管理委員会は17日、11月8日投票の総選挙に6000人以上から立候補の届け出があったことを明らかにした。

選挙は、テイン・セイン大統領の政権与党・連邦団結発展党(USDP)とアウン・サン・スー・チー党首率いる野党・国民民主連盟(NLD)の事実上の一騎打ちとなる。

総選挙は上下両院選と地方選が行われ、地元メディアなどによると、USDPとNLDはそれぞれ1000人以上を擁立し、上下両院のほぼ全ての選挙区に候補者を立てた。

上下両院計664議席のうち25%に当たる166議席は国軍が指名する軍人議員に割り当てられているため、選挙では残る498議席が争われる。【8月17日 時事】 
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政変後もスー・チー氏とシュエ・マン氏の連携模索は続いているようです。シュエ・マン氏にとっては、スー・チー氏との関係が唯一の頼みの綱とも言える状況です。

****ミャンマー与党前党首、スー・チー氏と会談 ****
ミャンマー政権与党の連邦団結発展党(USDP)は17日、首都ネピドーで緊急会議を開いた。13日に解任を発表したシュエ・マン前党首の処遇を話し合ったと見られる。

一方、シュエ・マン氏は同日、最大野党、国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首と会談。11月の総選挙に向けた協力の可能性を議論したもようだ。

ネピドーでは18日、国会が再開する。下院議長を務めるシュエ・マン氏が、国会に出席するかが注目される。USDPはシュエ・マン氏の党首解任を「同氏の重責を軽減するため」としているが、18日の国会で下院議長職も解任されるとの見方がある。

シュエ・マン氏は改憲問題などで共同歩調をとってきたスー・チー氏との連携で、生き残りを図りたい考えだ。【8月18日 日経】
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****与党党首解任は「非民主的」=スー・チー氏が批判、連携示唆―ミャンマー****
ミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー党首は18日、与党・連邦団結発展党(USDP)のシュエ・マン党首(下院議長)がテイン・セイン大統領と対立し解任されたことについて、「民主的ではない」と批判した。首都ネピドーで報道陣に語った。

今回の解任劇で盟友を失ったのではないかとの問いに対し、スー・チー氏は「誰が真の友人かはっきりし、盟友の結束が一層強まることになるだろう」と答え、シュエ・マン氏との連携の可能性を示唆した。【8月18日 時事】
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ただ、シュエ・マン氏の下院議長解任や、場合によっては逮捕も・・・ということで、政治情勢は流動的です。

****ミャンマー:シュエマン氏の下院議長解職めぐり情勢流動化****
ミャンマー情勢を巡り、与党「連邦団結発展党(USDP)」内の抗争でテインセイン大統領(党議長)に党議長代行を解任されたシュエマン下院議長が18日、再開された国会に出席した。

だが、次期大統領を狙っていたシュエマン氏に対し、政権による「排除」の動きが進んでおり、下院議長の立場も危うい。

シュエマン氏と連携する野党「国民民主連盟(NLD)」のアウンサンスーチー議長は同日、引き続き連携する意向を表明。11月の総選挙に向け、政治情勢が一層流動化する可能性がある。

シュエマン氏は首都ネピドーの党本部が治安部隊に封鎖された12日、党議長代行を解任された。党は「国会の職務に専念すべきだ」と理由を公表した。

だが、イエトゥ大統領報道官は取材に「国軍の権限を弱める憲法改正案を(6月の国会採決で)支持し、対抗政党の指導者(スーチー氏)と手を結んだからだ」と語った。

一時「自宅軟禁」下に置かれたシュエマン氏は14日、国会の執務室に入り、自身のフェイスブックで「私は命のある限り国民のために仕事を続ける」と談話を流した。

だが、テインセイン政権は、事実上の「党内クーデター」以降、シュエマン氏寄りの党の新聞や雑誌を発行停止に。親族が経営するラジオ局も放送停止に追い込まれた。

また、中央選管はシュエマン氏に対し、「住民による国会議員のリコール(解職)を可能にする法案を速やかに採決せよ」と求めた。

先の国会でも議論された法案では、自身の選挙区の有権者1%が解職要求に署名し、中央選管が妥当と判断すれば議員は解職される。先の憲法改正案を巡り、シュエマン氏に対してこの趣旨の請願が出ており、「民主的な手続き」を踏まえたシュエマン氏排除のシナリオの一つだ。

一方、国会では18日、「洪水被害に対応する必要がある」と休会を求める提案が出た。事実上、下院議長の役割を取り除く試みとみられる。ジャーナリストのシードアウンミン氏は「シュエマン氏の下院議長解職は避けられない」と予測。「シュエマン大統領」の可能性も消滅した形だ。(中略)

シードアウンミン氏は、シュエマン氏とその支持者がUSDPを離党し、新たなグループを結成してスーチー氏と手を携える可能性を指摘した。ただ、シュエマン氏がなお「大統領」職に固執していると政権が判断すれば、逮捕もあり得るとみる。

USDP内ではテインセイン大統領とシュエマン氏の対立が深まっていた。シュエマン氏は当初、法改正などにより党内で「テインセイン外し」を画策。これをスーチー氏も支持し、大統領派は追い込まれていた。国軍のミンアウンフライン最高司令官と歩調を合わせる大統領は「党内クーデター」で起死回生を果たした形となった。【8月18日 毎日】
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選挙戦は、以前からスー・チー氏の国民的人気に支えられる野党NLD有利が予測されています。
今回の与党内の政変で、野党NLDの“地滑り的勝利”もあり得るのではないでしょうか。

そうなると、テイン・セイン大統領=軍部とスー・チー氏=シュエ・マン氏の抗争は、第2幕を迎えることになります。

仮にスー・チー氏=シュエ・マン氏側が主導権を握ったとしても、ともに“野心的”な両者の関係が維持されるかは疑問にも思えますが、まずは総選挙がどういう結果になるかを見てからの話です。
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