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(ルセフ大統領は、弾劾要求が出されている状況に「決して辞めることは考えない。クーデターを煽る雰囲気があるが、それが実現する環境ではない」と。 写真は【8月13日 ロイター】 ずいぶん怖い表情なのは、たまたまでしょう。)
【支持率は8%】
ブラジルの国営石油会社ペトロブラス(ブラジル石油公社)を舞台とした汚職事件とルセフ大統領の関与については、3月5日ブログ“ブラジル 政権を揺るがす国営石油会社を巡る汚職事件 社会に蔓延する「犯罪者」リンチ”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150305)で、
また、ブラジル経済の悪化、治安の悪さ、更に、ルラ前大統領の汚職疑惑などについては、7月18日ブログ“ブラジル リオ五輪を控えた「新興国」 際立つ治安の悪さ 現職、前大統領を巻こむ汚職事件”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150718)で取り上げました。
汚職問題も、経済停滞も、治安悪化も改善していません。
****ブラジルで大規模デモ 大統領の弾劾要求 五輪への影響は?*****
南米ブラジルで16日、与党政治家らの汚職や長引く経済低迷に抗議して、ルセフ大統領の弾劾を求める全国デモが行われた。
現地メディアによると、デモは全国約200都市で約88万人が参加した。最大都市サンパウロだけで約13万5千人、1年後に五輪を控えたリオデジャネイロでも10万人規模の参加者がいたとみられる。
汚職をめぐっては、前大統領でルセフ氏の後ろ盾となっているルラ氏も捜査対象となっており、政権運営に影響を与える可能性も指摘されている。
最近の世論調査では、ルセフ氏の支持率は8%にまで低下し、不支持率は71%に上昇。66%が弾劾手続き開始を支持している。【8月17日 産経】
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4月に続き今年3回目の大規模デモで、TVニュースではこれまでのデモより参加者は減ったとも報じていました。
ただ、依然として国民の不満がおさまっていないことを示しており、弾劾手続きがどうなるかにかかわらず、“支持率は8%”というのは末期的な数字です。
3月5日ブログで取り上げたように、国営石油会社を巡る汚職事件は長年に渡り組織的に行われており、ブラジル政治の構造的な問題です。
ルセフ大統領自身が直接の利益を得たというものではありませんが、責任者であった時期の事件であり、汚職が行われていることを彼女が知っていたのではないか・・・と疑われています。
国民的人気が高いルラ前大統領も別の汚職疑惑の渦中にあるという状況では、ルセフ大統領も苦しいところです。
国民の支持を失った現在、財政・経済施策でも有効な手を打てない状況です。
****物価高騰に悲鳴 米利上げでさらに悪化懸念****
「食料の値段が驚くほど上がっている。生活がとても苦しくなった」。サンパウロで暮らすミリアン・ダシルバさん(39)は、物価の高騰に悲鳴を上げる。
2年ほど前には、250レアル(約9800円)で家族4人の1カ月分の食料が買えたが、今では500レアル(約2万円)が必要になった。肉や卵が値上がりし、以前は干し肉を使っていた豆料理に最近はベーコンを代用している。
ホテルの深夜勤務で得られる収入は月約1300レアル(約5万1千円)。物価の上昇ほどに給与は上がらない。「水も電気も値上がりしている。食べていくだけでやっとだ」と嘆く。
ブラジル経済は、最大貿易相手国である中国経済の減速や資源価格の下落で低迷している。今年は2009年以降で初のマイナス成長になる見通しだ。
長引く賃上げ圧力やレアル安の影響で、インフレ率は今年8%を超えた。インフレを抑えるため、中央銀行は昨秋以来、6回の利上げに踏みきった。政策金利は14%近くになり、景気の重しとなっている。
原油安などで、ブラジルの民間投資の1割を生み出す国営石油会社ペトロブラスが、急速に投資を抑えたことも大きく響く。
財政健全化を目指すルセフ政権も、同社が絡む有力政治家らの大規模な汚職の発覚で支持率は急落し、緊縮策で国民の納得を取りつけられない。(後略)【7月26日 朝日】
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【警官による報復大量殺人?】
治安問題については、7月18日ブログで“1日に平均116人が銃によって死亡”という状況を取り上げましたが、対応にあたる警官側にも相当の問題があるようです。
来年オリンピックが開催されるリオデジャネイロでは、過去5年間に記録された殺人のうち、少なくとも16%にあたる1519件が職務中の警察官の手によるものとの報告がなされています。
****ブラジル・リオ警察、5年間に1500人を殺害 アムネスティ報告****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは3日、来年五輪が開催されるブラジルのリオデジャネイロで、同州の軍警察によって過去5年間に1500人以上が殺害されていると発表した。
アムネスティによる「あなたが殺した私の息子:リオデジャネイロの軍警察による殺人」と題された批判的な報告書によれば「同市で過去5年間に記録された殺人のうち、少なくとも16%にあたる1519件が職務中の警察官の手によるものだ」という。
報告書は警察が「ファベーラ」と呼ばれる都市部のスラム街で「最初に撃つ、尋問は後」という方針をほとんどとがめられることなく実行しているのではないかと指摘している。
狭く入り組んだファベーラで軍事級の武器から放たれた流れ弾に当たった人が亡くなった場合から、事件の容疑者が射殺された場合までさまざまだが、後者についてはアムネスティが「裁判なしの処刑」だと非難している。
ファベーラの多くでは重武装したドラッグの密売グループと軍警察が、非戦闘員の安全を顧みることなく衝突しており、今回の報告はそうした激しい暴力の葛藤を反映している。
毎年、年間5万人が殺害されるブラジルでは、警察の手荒な職務遂行や、犯人だと疑われた人間に対して街頭で突発的に起こる民間人によるリンチ殺人にさえ、かなりの暗黙の支持がある。
しかし、アムネスティが今回焦点を当てようとしたのは、州当局が自らの責任は逃れながら多くの人間を殺している点だ。
一方、リオデジャネイロ州の治安部隊は、リオデジャネイロ五輪までちょうど1年というタイミングでのこの発表について、憤慨しながら否定している。
軍警察を管轄する州治安当局のペドロ・ダンタス広報担当はAFPのメール取材に対し、アムネスティの主張は「偏見に満ちている」と非難した。
同氏は、集中的な警備活動によってリオは以前よりも平穏になっており、2008~14年の取り締まりによる死者数も85%減と大きく減っていると答え、「リオの犯罪率が減少しているときにこうした報告を発表するのは無謀で不当だ」と述べた。【8月4日 AFP】
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重武装したドラッグの密売グループとの衝突で・・・・という話であれば、やむを得ない側面もあるのかも・・・ということにもなりますが(それにしても、5年間で1500人は多すぎますが)、どうもそれだけにとどまらない警察の体質の問題もあるようです。
****サンパウロ郊外で複数の銃撃事件、19人死亡 ブラジル****
ブラジル最大の都市サンパウロの郊外で13日夜、複数の銃撃事件が発生し、19人が死亡、7人が負傷した。被害者の中には、バーに座っていたところを襲撃された人もいた。
銃撃があったのはサンパウロ郊外のオザスコ、バルエリ、イタぺビで、全て約2時間半のうちに発生した。
サンパウロ州治安当局のアレクサンドル・デ・モライス局長によると、被害者の数は今のところ初期段階のもの。
現地メディアは、同市郊外で意図的な大量殺人が行われたと報じ、一部の警官による犯行の可能性もあるという。
同国のテレビ局、グロボは、顔をマスクをかぶった集団がバーに押し入り、客に手を上げろと命令した後に銃撃する様子を捉えた防犯カメラの映像を放映した。
また、有力紙フォリャ・ジ・サンパウロが報じた目撃者の証言によると、犯行グループは人々を呼び止めて犯罪歴を尋ねた後に射殺したという。
治安当局の報道官は、この一連の殺人事件について、「異常」と述べた。
オザスコのホルヘ・ラパス市長は、映像から、今回の殺人事件が先に発生した警官の殺害事件に対する報復との説を裏付けると語り、「今後数日間、状況が悪化しないよう対策を取る」と述べた。
また、先週7日に今回の事件の現場近くで強盗事件が発生し、軍関係者と治安警備隊員が殺害されていることから、デ・モライス局長は、警察による報復の可能性も捨てきれないと語った。
捜査当局は麻薬取引が原因の可能性も視野に調べているという。【8月15日 AFP】
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警官の殺害事件に対する報復として、一部の警官が意図的な大量殺人を行う・・・治安の悪い中南米ではそういうこともあるのでしょうか。
真相はもちろんわかりませんが、一部メディアではなく、市長や州治安当局の局長がその可能性に言及していますので、そういうことが起こりうる状況にあるのは間違いないようです。
【対照的なノルウェー、ブラジルに似たアメリカ】
警官の姿勢については、対照的な記事も。
****ノルウェー警察が10年間一人も射殺していない理由****
ノルウェーの警察官はほとんど銃を使ったことがないと、政府統計は示す。実際、警官が誰かを射殺したのは2006年、ほぼ10年前のことだ。
銃を使わない最たる証拠が、2011年に起きたノルウェー連続乱射テロ事件。オスロとウトヤで77人が犠牲になった。警察は容疑者に向けて発砲したが、一発だけ。2014年には、警官は計42回銃を抜いたが、撃ったのは2回だけだ。いずれの事件でも、死者はおろか負傷者も出ていない。
アメリカでは今年だけで600人が警官に射殺されていることを思えば、これは驚くべきことだ。もちろんアメリカの警官がノルウェーの警官よりはるかに大きな危険にさらされているのも事実だが。
ノルウェーでは、警察の活動の主体は銃ではない。だから発砲する頻度は極めて低い。イギリスと同じように、ノルウェー警察はパトロールの際武装せず、よほどの事情があるときだけ銃を携行する。
アメリカの専門家は過去に、アメリカの警察の戦術を変更し、力ではなくもっと対面交渉に重きを置けば、少なくとも短期的には撃つのを減らすことができる、と勧告したことがある。
だがもっと複雑な問題もある。アメリカでは相対的に警察官が信用されていないことだ。
社会学者のオッドソンはテックインサイダーの取材に応え、ノルウェーでは人々の警官に対する信頼度が高いことが、銃による衝突が少ない原因の一つだろうと語った。
「信頼は、社会を治める非公式な手段として極めて強力なメカニズムだ。人口が少なく、民族的にも同一性が高いノルウェーのような国では、信頼を築くのも比較的た易い。人々の大半が外見的に似た特徴をもち、似たような信仰をもっていることもあり、人々の連帯意識も強い」【8月3日 Newsweek】
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正確な数字は把握していませんが、警官の銃使用がほとんどないという点では、日本もノルウェーと似たような状況にあり、射殺となると大きなニュースになります。
ノルウェーでは銃の所持は厳しく規制されていますが、シカやトナカイなどの狩猟が盛んで、こうした目的で合法的に所持している人は比較的多いとのことです。
それでも警官による射殺がない背景として、民族的にも同一性が高く、信頼を築くのも比較的容易だという社会的要因が指摘されていますが、そのあたりも日本も同様でしょう。
もっとも、やはり普段は警官が銃を携帯しない隣国スェーデンでも、社会情勢は変化しているようです。
最近スェーデンの作家(ヘニング・マンケル)による警察小説を読んでいますが、24年ほど昔の作品で、警官である主人公が“昔はこんな凶悪犯罪は田舎町では起きなかったのに・・・自分はもう社会の変化についていけない”と嘆く場面がしきりに登場します。
その社会変化の一つの要因として、難民・移民の増加と、それを敵視する排外主義の台頭で、社会の緊張が高まっていることがあげられています。
一方、ブラジルと似たような問題を抱えているのがアメリカです。
****黒人への警官発砲相次ぐ 米テキサスでも大学生射殺****
米ミズーリ州ファーガソンで黒人少年が白人警官に射殺された事件から1年を迎えた米国で、警官による黒人男性への対応が改めて問題になっている。
ファーガソンの抗議活動は11日未明も続いたほか、テキサス州では、丸腰の黒人青年が警官に射殺される事件が起きた。
AP通信などによると、ファーガソンでは、1年前に射殺されたマイケル・ブラウンさん(当時18)の友人で、抗議活動に参加していた黒人のタイロン・ハリスさん(18)が、混乱の中で警官に撃たれて重体となった。
地元警察は、ハリスさんが警察車両に向けて何度も発砲したと発表。だが、父親はハリスさんの銃所持を否定している。抗議活動を受けて、ファーガソンのあるセントルイス郡は10日、非常事態を宣言した。
一方、テキサス州アーリントンでは7日、武器を持たない黒人の男子大学生(19)が、強盗事件との通報で自動車展示場に駆け付けた白人警官(49)に射殺される事件が起きていた。大学生は首や腹部を撃たれていたという。
経緯は不明のままだが、発砲した警官は3月に警察学校を卒業し、16週間の現場訓練の期間中だったという。
地元当局は、警官の対応に問題がなかったかを含めて調べるため、連邦捜査局(FBI)に捜査協力を要請した。現地では追悼集会が開かれた。【8月12日 朝日】
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アメリカの場合、ブラジルほどの無茶はないでしょうが、人種問題が絡んでいるだけに厄介です。