(ブッシュ前大統領の顔面にパンチを入れようとするブレア前首相・・・ウソです。ブッシュ前大統領は、「各国指導者の中で話が通じる人間はブレアだけだ。ほかの連中はみんな宇宙人みたいだ」とブレア前首相を信頼していたそうです。“flickr”より By --Tico—
http://www.flickr.com/photos/tico_bassie/192557123/)
【「イラク戦争の教訓」】
最近、日米同盟の軋みが論議を呼んでいますが、ここ十数年もっとも強固に見える二国間の関係はアメリカとイギリスの関係ではないでしょうか。
「ニューレーバー(新しい労働党)」「新しいイギリス」を掲げ、若く聡明な首相として颯爽と登場したトニー・ブレア前首相は、コソボ、アフガニスタン、イラクの戦争に参加。アメリカに次いで多くの兵を派遣してきました。
これまで培ってきた経済力、文化的影響力、核保有に裏打ちされた軍事力に加え、アメリカとの「特別な関係」によって、イギリスは国際的に大きな発言力を手にしてきました。
しかし、そのアメリカに全面協力する「対米従属」路線は、「(アメリカの)51番目の州戦略」とも、「ブッシュのプードル」とも揶揄されるように、どうしてそこまでアメリカ・ブッシュ政権の意向に従うのか・・・という素朴な疑問を感じさせました。
今日、イギリスはこれまでの国家戦略の岐路に立っているように見えます。
繁栄を謳歌したロンドンの金融街シティーも国際的金融危機によって苦境に立たされており、国家財政の危機により軍事力維持にも困難な状況となっています。
アメリカに従って参戦した戦争についても、国内の厭戦気分の高まり、明らかにされる政府の情報隠ぺいなどによって、見直しが迫られています。
****イラク参戦は正義か? 英で証人喚問、ブレア氏も対象*****
イラク戦争は正しい戦争だったのか?――英国でくすぶり続ける議論を背景に独立調査委員会の証人喚問が24日、ロンドンで始まった。外務省や軍、情報機関の高官らのほかブレア前首相も年明けに呼び出される。「イラク戦争の教訓」(ブラウン首相)を浮き彫りにしようという取り組みだ。
この日は英外務省幹部らが、9・11テロが起きた2001年から、03年のイラク戦争参戦に至る経過をふり返った。メディアに公開され、テレビ中継された。
独立調査委員会は英国政治の伝統的な手法だ。1982年、サッチャー元首相時代のフォークランド紛争と情報機関のかかわりなど、国内で批判の議論が沸騰すると設けられてきた。今回は「ブレア氏が英議会に正しい情報を与えないまま、ブッシュ米前大統領と組んでイラク開戦に走った」という野党や国民の根強い批判を受け、ブラウン首相が設置を余儀なくされた。首相は開戦当時、ブレア政権ナンバー2の財務相だった。
チルコット委員長は元政府高官。歴史学の大学教授らと計5人で調査にあたる。外交文書や軍の機密書類を読みこみ、戦死した兵士の遺族らにも面会してきた。「うわべだけの調査になるのでは」(英メディア)との冷ややかな視線もあるが、チルコット氏は「徹底的に調査する」と言明している。【11月24日 朝日】
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日本では政治家のスキャンダルが問題にされることはあっても、過去の重大な政策決定についての公的な検証・総括はなかなかされません。
イギリスの独立調査委員会の活動には、民主主義の本家としての底力を感じるところもあります。
【「cover-up(隠蔽工作)」】
ブレア前政権は大量破壊兵器の脅威を最大の理由にイラク参戦に踏み切ったものの、結局兵器は見つかりませんでした。
開戦当時、この大量破壊兵器の脅威についてはアメリカでは国民的にも一定に支持されていましたが、ドイツ・フランスは政府も国民もこれに反対していました。イギリスでは参戦を進める政府方針と懐疑的な世論が大きく乖離する状況にありました。
独立調査委員会の証人として呼ばれた、当時外務省の国防情報部長だったウィリアム・アーマン氏は、03年3月20日に米英が軍事作戦を開始する10日ほど前、「イラクの化学兵器は解体されたままで、フセイン大統領はそれらの組み立てを命じていない」とする報告を受け取ったことを明らかにしています。
その報告によれば、イラクは化学剤を効果的に散布する弾頭も有していなかったとのことです。
発言内容が事実とすれば、英政府は脅威が予想されたより深刻でないと認識しながら、国民をミスリードしていた可能性があります。【11月26日 時事より】
****「英兵は銃弾5発しか持たずにイラクへ行かされた」と英で暴露*****
この調査開始に先立ち英サンデー・テレグラフ紙が11月21日、前ブレア政権の「cover-up(隠蔽工作)」を厳しく糾弾する軍幹部たちの声を含む、膨大な政府内文書をトクダネとしてすっぱ抜きました。(中略)
反戦世論が高まるに伴い、ブレア首相はますます本当のことを国民に言わなくなった。なので、テレグラフ紙によると、ブレア首相は議員たちにも軍幹部にも「イラクで戦う目的はあくまでも大量破壊兵器の発見と無効化であって、政権交代は目的ではない。サダムを倒しにいくわけではない」と言い続けていたとのこと。戦争の本当の狙いはサダム・フセイン政権打倒とイラク再建で、イギリスもそこまで関わるつもりだと知っていたのは、政府内でも本当に一握りに過ぎなかったとのことです。
このため、外務省が戦後イラク統治計画を策定するグループを設置したのは、開戦のわずか3週間前。そしていざ03年3月に開戦となっても、英軍は全くの準備不足状態だったのだそうです。(中略)
その状態でイラク入りした英陸軍は、兵士の銃弾も足りず、防弾チョッキも砂漠用ブーツも足りず、よって現地では部隊間で盗難が横行。兵士の空輸態勢も整わないのでよりによって民間機で現地入りした兵士たちも多く、けれども民間機には刃物やライターなどの持ち込みができなかったので、ライターもマッチもない兵士たちは、温めなくては食べられない野戦用食糧を持てあましたのだとか。医薬品も足りず、負傷兵の治療に不可欠なモルヒネも足りず、軍無線もほとんど使えずに携帯電話で作戦指揮をすることもあったほど。(中略)
英ガーディアン紙によると、軍幹部は調査委員会に対して、ブレア政権による「cover up」を厳しく糾弾する方針だとか。戦争に反対する国民をだまし通すことを最重視したブレア政権は、軍に正しい情報を与えず、適切な開戦準備の機会を与えず、よって英軍を不要な危険にさらしたと。また、フセイン政権打倒こそが戦争の目的だと軍部に正しく伝えなかったため、イラク再建作業に向けての準備がまるで不十分で、よってイラク国民に不要の危害と苦しみを与えたと。それは戦時下の文民保護を定めるジュネーブ条約違反にあたり、よってブレア政権もブッシュ政権も場合によっては戦争犯罪で訴追されてもおかしくないと、軍幹部はそう考えているのだと。ガーディアン紙はそこまで書いています。【11月23日 gooニュース 加藤祐子】
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この状況を、英大衆紙サンは「兵は銃弾5発しか与えられず、戦地に送り込まれた」という見出し記事で報じています。
【「B'liar」(liar=噓つき)】
ブレア前首相は独立調査委員会で来年初めに証言する見通しと報じられています。
その証言を前にして、ブレア前首相が改めてその判断の正当性を主張しています。
****「フセイン大統領の追放正しかった」ブレア氏改めて主張****
英国のブレア前首相は11日、BBC放送の番組の収録でイラク戦争について「フセイン元大統領を追い出したことは正しかったと今でも思う」と発言。英国が戦争の大義とした大量破壊兵器(WMD)の有無にかかわらず、開戦に踏み切ったことは正しい判断だったと主張した。
BBCによると、「開戦前にイラクがWMDを持っていないと分かっていても戦争を始めたか」と問われ、ブレア氏は「フセイン大統領がいるままイラクを正しい方向に導くことは難しいと考えた」と話し、フセイン政権の存在が「地域の脅威」だったと強調した。
英国は、フセイン政権がWMDを持っているとの情報をもとに米国とともに戦争を始めたが、ブレア氏は2004年、その情報は間違いだったと認めている。【12月12日 朝日】
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これまでブレア前首相は「イラクは大量破壊兵器を開発していると確信していた。だから開戦と政権打倒は正当な行為だった」と主張していましたが、今回BBCインタビューで、たとえ大量破壊兵器がないと知っていたとしてもサダム・フセイン元大統領を「追放するのは正しいことだと思っただろう(I would still have thought it right to remove him [Saddam Hussein])」と語っています。
「大量破壊兵器がないと知っていた」とは言っていません。仮定法で「たとえ大量破壊兵器がないと知っていたとしても」と語っている訳ですが・・・。
“これまでも「ブッシュとブレアは大量破壊兵器がないと知りながらイラク戦争を開戦した」というのが、様々な傍証に支えられた一般的通説とはなっていましたが、ブレア氏その人がこういう発言をしたのはかなり衝撃的で、英メディアは「he made a confession」「his confession」などと「告白した」というニュアンスで伝えています。”【12月14日 gooニュース 加藤祐子】
英メディアではこのところ「ブレア=Blair」という綴りの順番をもじって、「B'liar」(liar=噓つき)とか「Tony B. Liar」とか「Liar Blair」などと揶揄して書くのがはやっているそうです。
上記加藤氏は、昨日とりあげたオバマ大統領のノーベル平和賞受賞演説における「Just War(正しい戦争)」との比較で、ブレア前首相発言の不快感について次のように記してします。
“オバマ氏は「なぜ戦うか」について理解を得るために「正しい戦争」を語り、戦争を命令する国家指導者としての覚悟を語っているのに対し、ブレア氏は「正しい戦争」の概念を使って「なぜ自分は国民と国際社会に噓をついたか」を言い訳しているように聞こえたからです(もちろんブレア氏は「噓をついた」とは認めていませんが。通説がそうだというのみです)。オバマ氏が語る「正当な戦争」は「戦う必要があると私は思う。その責任は私が負う」と言っているように聞こえるのに対し、ブレア氏が語る「正当な戦争」は、「私は正しいと思ってやったことだ」という開き直りに聞こえるのです。”