(メドベージェフ大統領とプーチン首相 “flickr”より By mima11vladimir
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【天の声】
ロシア・プーチン首相の権威は、やはりただならぬものがあるようです。
****プーチン首相一喝、解任の嵐 ナイトクラブ火災*****
ロシア中部ペルミで5日未明に発生したナイトクラブの火災は、9日までに死者が計125人に達し、行政当局者が相次いで解任される事態になった。8日未明に現場を視察したプーチン首相が、当局者らを「怠慢だ」と叱責(しっせき)したことが引き金となった形だ。
プーチン首相は多くのロウソクや花が供えられた現場を自ら訪れ、赤い花束をささげた。その後に開かれた特別会議で、このクラブが消防検査で安全対策上の違反の改善を命令されながら、放置してきたと指摘。「検査後、1年間も誰もチェックに訪れなかった。怠慢としか言いようがない」と国家・地方レベルの消防当局を厳しく批判した。
これを受けてショイグ緊急事態相は8日、ただちに国家消防監督局のペルミ地方長官ら7人を解任。9日にはペルミ地方政府が閣僚の総辞職を表明し、ペルミ市長も辞意を表した。
メドベージェフ大統領が8日にチャイカ検事総長と会談し、「怠慢は国家的脅威だ」と発言したことも影響しているようだ。(後略)【12月10日 朝日】
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ただ、権力者の一喝で関係者の多くが解任されるというのは、ロシアの政治システムが日本・欧米のそれとはかなり異なったものであることも窺わせてくれます。
【次期大統領選挙】
そのプーチン首相は、次期大統領への出馬が予想されていますが、むしろ興味はメドベージェフ大統領がどうするのか・・・というところでしょう。
****大統領選、メドベージェフ氏・プーチン氏とも意欲****
ロシアのメドベージェフ大統領とプーチン首相が3日、2012年に予定される次期大統領選への意欲をこぞって口にした。プーチン氏はテレビ番組で出馬について問われ、「考えてみる」と発言。メドベージェフ氏は訪問中のローマで「プーチン首相が(出馬の)可能性を排除しないように、私も排除しない」と述べた。
プーチン氏は昨年も同番組への出演後に大統領選出馬の可能性に言及。メドベージェフ氏は今年9月、「2人で相談する」と話していた。
プーチン氏が実権を握るとされるメドベージェフ氏との双頭体制。円満ムードが強調されるが、タイミングを計ったような発言は「どちらかが次期大統領選から降りるような発言をすればその時点で影響力を失うことにつながる」(ロシアの評論家)という緊張関係を映しているとみられる。【12月4日 朝日】
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ロシア北西部で先月27日に起きた旅客列車の脱線事故で、イスラム系反政府組織が今月2日に犯行声明を出していますが、チェチェンへの強硬姿勢で権力基盤をつくったプーチン首相(テロそのものがロシア治安機関によってなされたものだという疑惑もありますが)は、大統領として陣頭指揮にあたりたいとうずうずしているのでは。
メドベージェフ大統領は、11月21日、与党「統一ロシア」の党大会に出席し、「統一ロシアや他党の一部地域の代表は、しばしば(民主主義と)逆行する行動を取っており、これらの者や悪い政治的な慣習を取り除かねばならない」と、異例の与党批判を行っています。
また、11月12日の年次教書演説でも、大統領選や下院選への出馬に必要な数百万人規模の署名集めを廃止すべきだと主張。統一ロシアが下院定数の7割を占める現在の「翼賛体制」から、実質的な多党制へ移行する必要性を強調しました。経済面でも資源輸出に依存した体質の変革を訴えています。
こうしたメドベージェフ大統領の、国内の経済・政治・社会体制の改革を求める発言は、プーチン首相との距離を測りながら、独自色を強める狙いともみられていますが、“政治評論家のムーヒン氏は大統領の一連の言動について、「プーチン首相と同等の権限を持っているとのイメージを作り出す狙いがある」と分析する。一方でプーチン氏も大統領の行動に理解を示しており、現時点で両者に確執はないとの見方を示す”とも。【11月22日 毎日より】
両者には若干の色合いの差はあるようですが、単に“いい刑事と悪い刑事”の役割分担なのか、それ以上のもがあるのか、メドベージェフ大統領の心中はよくわかりません。
【空母「アドミラル・ゴルシコフ」の売却問題で最終合意】
国際政治の舞台では中国の台頭に隠れて、やや影が薄くなった感もあるロシアですが、アメリカとの第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約に関する交渉のほか、インドや対欧州で独自の外交も報じられています。
****露印、軍事で関係強化…空母売却・原子力協力****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、クレムリンでインドのシン首相と会談し、ロシアの空母をインドに売却することで合意、原子力の平和利用でも包括的な協力協定に署名した。
新興国の代表として国際的な発言力を強める両国は、軍事やエネルギーといった戦略分野で友好関係を深化させる方針を鮮明にした。
タス通信によると、メドベージェフ大統領は会談で「両国には関係発展の良好な流れがある」と述べた。シン首相は「力強く繁栄するロシアは、世界の安定的な発展に重要だ」と、ロシアの国際的な役割を高く評価した。
首脳会談では、懸案となっていたロシアの空母「アドミラル・ゴルシコフ」の売却問題について最終合意した。この空母はソ連時代の1987年に就役したもので、2004年にインドへの売却で基本合意したが、改修費用の負担問題などが生じて引き渡しが遅れていた。
会談では、次世代の戦闘機の共同開発、戦闘機Su30のインドでのライセンス生産の拡大などでも進展があった模様だ。軍需産業を基幹産業とするロシアにとって、インドは中国を上回る最大の武器輸出先であり、今後、さらなる伸びが期待できる。かたや、インドにとって、ロシアは急務である軍の近代化で不可欠のパートナーだ。今回の一連の合意は、安全保障におけるロシアとインドの戦略的な互恵関係の深まりを示した。
一方、エネルギー分野では、ロシアがインドで新たに4基の原子炉を建設、原発用のウラン燃料も安定供給することで合意した。さらに、ロシア国営の原子力企業「ロスアトム」のキリエンコ社長は7日、建設中の2基を含めインドから最大20基の原子炉を受注するとの見通しを示した。米国やフランスもインド進出を狙っているが、ロシアは燃料供給の確約などでインド市場での優位を固めた形だ。
両首脳は7日、「共同声明」を発表し、コペンハーゲンで開幕した気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の成功に向け、ともに「建設的に作業を続ける」意思を表明した。先進国とは距離を置きつつ、独自の発言力確保を図る両国は、国際交渉の場でも連携を強めることになりそうだ。【12月8日 読売】
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ロシアの退役空母「アドミラル・ゴルシコフ」の改修譲渡では、10億ドルほどの改修費用でずい分もめていましたが、それも何とかクリアされたようです。
ロシアはインドの軍用ハードウエアの70%を担っており、現在も総額9億ドルの軍事物資に関わる商談を進めています。またロシアの武器輸出の28%がインド向けです。
【新「欧州安保条約」と仏強襲揚陸艦の売却交渉】
メドベージェフ大統領は11月29日、「冷戦的思考の払しょく」を目指した欧州の安全保障に関する新条約の草案を発表しました。
“条約締結国は互いの安全保障に著しく影響をおよぼすいかなる行為も行わず、参加、支持もしないとした内容。さらに、締結国は、第三国による攻撃または「締結国の安全保障に著しい影響をおよぼす行動」に、自国の領土を使用させないとしている。”【11月30日 AFP】
北大西洋条約機構(NATO)など欧米主導の安保体制に代わり、ロシアも対等な立場で参加できる体制の構築を目指すもので、加盟国の対等な関係を原則に、紛争発生時の解決メカニズムを盛り込んでいると報じられています。しかし、グルジア紛争で欧州の対ロシア警戒感は強まっていますので、欧州側の対応は慎重なようです。
一方、プーチン首相は先月末フランスを訪問し、ガスパイプライン建設や自動車産業支援について合意しました。
また、フランスとロシアの間で、仏ミストラル級強襲揚陸艦の売却交渉が進んでいることも発表されました。
仏メディアによると、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からのロシアへの軍艦規模の武器売却は初めて。
グルジアや反ロ意識の強いバルト3国などロシアと対立する国々は、「非常に心配している。軍艦は黒海でグルジアやウクライナを脅すために決まっている」(グルジアのワシャゼ外相)などと、強く反発しています。【11月30日 朝日より】
対インドでも、対フランスでも、武器売買はいろんな制約を超えた連携をもたらすようです。