孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  双頭体制の行方と最近の対インド・欧州外交

2009-12-10 21:55:55 | 国際情勢

(メドベージェフ大統領とプーチン首相 “flickr”より By mima11vladimir
http://www.flickr.com/photos/mima_vladimi_dev/2877424690/)

【天の声】
ロシア・プーチン首相の権威は、やはりただならぬものがあるようです。

****プーチン首相一喝、解任の嵐 ナイトクラブ火災*****
ロシア中部ペルミで5日未明に発生したナイトクラブの火災は、9日までに死者が計125人に達し、行政当局者が相次いで解任される事態になった。8日未明に現場を視察したプーチン首相が、当局者らを「怠慢だ」と叱責(しっせき)したことが引き金となった形だ。

プーチン首相は多くのロウソクや花が供えられた現場を自ら訪れ、赤い花束をささげた。その後に開かれた特別会議で、このクラブが消防検査で安全対策上の違反の改善を命令されながら、放置してきたと指摘。「検査後、1年間も誰もチェックに訪れなかった。怠慢としか言いようがない」と国家・地方レベルの消防当局を厳しく批判した。
これを受けてショイグ緊急事態相は8日、ただちに国家消防監督局のペルミ地方長官ら7人を解任。9日にはペルミ地方政府が閣僚の総辞職を表明し、ペルミ市長も辞意を表した。
メドベージェフ大統領が8日にチャイカ検事総長と会談し、「怠慢は国家的脅威だ」と発言したことも影響しているようだ。(後略)【12月10日 朝日】
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ただ、権力者の一喝で関係者の多くが解任されるというのは、ロシアの政治システムが日本・欧米のそれとはかなり異なったものであることも窺わせてくれます。

【次期大統領選挙】
そのプーチン首相は、次期大統領への出馬が予想されていますが、むしろ興味はメドベージェフ大統領がどうするのか・・・というところでしょう。

****大統領選、メドベージェフ氏・プーチン氏とも意欲****
ロシアのメドベージェフ大統領とプーチン首相が3日、2012年に予定される次期大統領選への意欲をこぞって口にした。プーチン氏はテレビ番組で出馬について問われ、「考えてみる」と発言。メドベージェフ氏は訪問中のローマで「プーチン首相が(出馬の)可能性を排除しないように、私も排除しない」と述べた。
プーチン氏は昨年も同番組への出演後に大統領選出馬の可能性に言及。メドベージェフ氏は今年9月、「2人で相談する」と話していた。
プーチン氏が実権を握るとされるメドベージェフ氏との双頭体制。円満ムードが強調されるが、タイミングを計ったような発言は「どちらかが次期大統領選から降りるような発言をすればその時点で影響力を失うことにつながる」(ロシアの評論家)という緊張関係を映しているとみられる。【12月4日 朝日】
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ロシア北西部で先月27日に起きた旅客列車の脱線事故で、イスラム系反政府組織が今月2日に犯行声明を出していますが、チェチェンへの強硬姿勢で権力基盤をつくったプーチン首相(テロそのものがロシア治安機関によってなされたものだという疑惑もありますが)は、大統領として陣頭指揮にあたりたいとうずうずしているのでは。

メドベージェフ大統領は、11月21日、与党「統一ロシア」の党大会に出席し、「統一ロシアや他党の一部地域の代表は、しばしば(民主主義と)逆行する行動を取っており、これらの者や悪い政治的な慣習を取り除かねばならない」と、異例の与党批判を行っています。
また、11月12日の年次教書演説でも、大統領選や下院選への出馬に必要な数百万人規模の署名集めを廃止すべきだと主張。統一ロシアが下院定数の7割を占める現在の「翼賛体制」から、実質的な多党制へ移行する必要性を強調しました。経済面でも資源輸出に依存した体質の変革を訴えています。

こうしたメドベージェフ大統領の、国内の経済・政治・社会体制の改革を求める発言は、プーチン首相との距離を測りながら、独自色を強める狙いともみられていますが、“政治評論家のムーヒン氏は大統領の一連の言動について、「プーチン首相と同等の権限を持っているとのイメージを作り出す狙いがある」と分析する。一方でプーチン氏も大統領の行動に理解を示しており、現時点で両者に確執はないとの見方を示す”とも。【11月22日 毎日より】

両者には若干の色合いの差はあるようですが、単に“いい刑事と悪い刑事”の役割分担なのか、それ以上のもがあるのか、メドベージェフ大統領の心中はよくわかりません。

【空母「アドミラル・ゴルシコフ」の売却問題で最終合意】
国際政治の舞台では中国の台頭に隠れて、やや影が薄くなった感もあるロシアですが、アメリカとの第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継条約に関する交渉のほか、インドや対欧州で独自の外交も報じられています。

****露印、軍事で関係強化…空母売却・原子力協力****
ロシアのメドベージェフ大統領は7日、クレムリンでインドのシン首相と会談し、ロシアの空母をインドに売却することで合意、原子力の平和利用でも包括的な協力協定に署名した。
新興国の代表として国際的な発言力を強める両国は、軍事やエネルギーといった戦略分野で友好関係を深化させる方針を鮮明にした。
タス通信によると、メドベージェフ大統領は会談で「両国には関係発展の良好な流れがある」と述べた。シン首相は「力強く繁栄するロシアは、世界の安定的な発展に重要だ」と、ロシアの国際的な役割を高く評価した。

首脳会談では、懸案となっていたロシアの空母「アドミラル・ゴルシコフ」の売却問題について最終合意した。この空母はソ連時代の1987年に就役したもので、2004年にインドへの売却で基本合意したが、改修費用の負担問題などが生じて引き渡しが遅れていた。
会談では、次世代の戦闘機の共同開発、戦闘機Su30のインドでのライセンス生産の拡大などでも進展があった模様だ。軍需産業を基幹産業とするロシアにとって、インドは中国を上回る最大の武器輸出先であり、今後、さらなる伸びが期待できる。かたや、インドにとって、ロシアは急務である軍の近代化で不可欠のパートナーだ。今回の一連の合意は、安全保障におけるロシアとインドの戦略的な互恵関係の深まりを示した。

一方、エネルギー分野では、ロシアがインドで新たに4基の原子炉を建設、原発用のウラン燃料も安定供給することで合意した。さらに、ロシア国営の原子力企業「ロスアトム」のキリエンコ社長は7日、建設中の2基を含めインドから最大20基の原子炉を受注するとの見通しを示した。米国やフランスもインド進出を狙っているが、ロシアは燃料供給の確約などでインド市場での優位を固めた形だ。
両首脳は7日、「共同声明」を発表し、コペンハーゲンで開幕した気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の成功に向け、ともに「建設的に作業を続ける」意思を表明した。先進国とは距離を置きつつ、独自の発言力確保を図る両国は、国際交渉の場でも連携を強めることになりそうだ。【12月8日 読売】
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ロシアの退役空母「アドミラル・ゴルシコフ」の改修譲渡では、10億ドルほどの改修費用でずい分もめていましたが、それも何とかクリアされたようです。
ロシアはインドの軍用ハードウエアの70%を担っており、現在も総額9億ドルの軍事物資に関わる商談を進めています。またロシアの武器輸出の28%がインド向けです。

【新「欧州安保条約」と仏強襲揚陸艦の売却交渉】
メドベージェフ大統領は11月29日、「冷戦的思考の払しょく」を目指した欧州の安全保障に関する新条約の草案を発表しました。
“条約締結国は互いの安全保障に著しく影響をおよぼすいかなる行為も行わず、参加、支持もしないとした内容。さらに、締結国は、第三国による攻撃または「締結国の安全保障に著しい影響をおよぼす行動」に、自国の領土を使用させないとしている。”【11月30日 AFP】

北大西洋条約機構(NATO)など欧米主導の安保体制に代わり、ロシアも対等な立場で参加できる体制の構築を目指すもので、加盟国の対等な関係を原則に、紛争発生時の解決メカニズムを盛り込んでいると報じられています。しかし、グルジア紛争で欧州の対ロシア警戒感は強まっていますので、欧州側の対応は慎重なようです。

一方、プーチン首相は先月末フランスを訪問し、ガスパイプライン建設や自動車産業支援について合意しました。
また、フランスとロシアの間で、仏ミストラル級強襲揚陸艦の売却交渉が進んでいることも発表されました。
仏メディアによると、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からのロシアへの軍艦規模の武器売却は初めて。
グルジアや反ロ意識の強いバルト3国などロシアと対立する国々は、「非常に心配している。軍艦は黒海でグルジアやウクライナを脅すために決まっている」(グルジアのワシャゼ外相)などと、強く反発しています。【11月30日 朝日より】

対インドでも、対フランスでも、武器売買はいろんな制約を超えた連携をもたらすようです。

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イラク  連邦議会選挙3月7日実施に決定するも、大規模連続爆弾テロ

2009-12-09 21:18:16 | 国際情勢

(8日のバグダッド中枢部を襲った連続爆弾テロであがる噴煙
“flickr”より By cvrcak1
http://www.flickr.com/photos/29320956@N03/4171448964/)

【米新戦略 イラクに連動するアフガニスタン】
オバマ米大統領が今月1日に発表した、駐留米軍の3万人の追加増派と2011年7月までの撤退開始を柱とするアフガニスタン新戦略は、イラク情勢とリンクしています。

“(オバマ大統領の)計算高さは、イラクからの米軍撤退計画と重ね合わせれば、さらに鮮明だ。来年夏、アフガンへの3万人派遣完了に伴って戦闘は激化するだろう。ただ、イラクでは同年8月末までに戦闘任務が終了することになっており、国民の反戦ムードを抑えるカードになる。
また11年7月までにアフガンの一部都市から撤退を始めたとしても、他の場所で治安が改善しなければ、「出口」という長いトンネルは続く。一方でイラクとの地位協定に基づき、米軍は同年末までに完全撤退する。イラク戦争終結は、翌年の次期大統領選に向けた格好のアピール材料だ。”【12月7日 毎日】

要するに、アフガニスタンの戦闘に対する国民の不満を、イラクでの戦闘任務終了や完全撤退で覆い隠してしまおうという作戦のようですが、そのようにいくかどうかは当然ながらアフガニスタン、イラク双方の今後の推移次第でもあります。

アフガニスタンについては、ゲーツ米国防長官は「増派部隊は(反政府勢力)タリバンが支配する地域に投入されるため、犠牲者は恐らく増え続ける。ただ、最終的にはイラクの増派同様、成果を挙げ、(死傷者は)減少に転じるだろう」と、当面の犠牲者増大について予防線をはっています。
アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官は8日、アフガン戦略に関する議会の公聴会で、今後1年間で反政府勢力タリバンなどの武装勢力が勢いを失うことは明確になると、強気の発言(司令官としては当然でしょうか)をしています。

【根深い宗派・民族対立】
一方のイラクでは、連邦議会選挙に関する審議が遅れ、駐留米軍撤退スケジュールへの影響も懸念されていましたが、なんとか来年3月7日実施ということでまとまったようです。

****イラク:連邦議会選挙ようやく決定、10年3月7日に実施*****
イラクの大統領評議会(正副大統領3人で構成)は8日、連邦議会選挙を来年3月7日に実施すると発表した。選挙法改正をめぐる議会審議の長期化で当初予定より2カ月弱遅れるが、日程が確定し駐留米軍撤退への影響は当面回避される見通しとなった。
選挙は1月16日に設定されていたが、民族・宗派間の議席配分で審議が紛糾。法案承認権を持つ評議会メンバー、ハシミ副大統領の拒否権発動もあり決着が遅れた。国連は「2月27日実施」を勧告していたが、評議会事務局幹部は毎日新聞に、「(多数派であるイスラム教)シーア派の祝日を避けて3月に設定した」と説明した。
選挙前後は治安悪化が予想されるため、日程の大幅な遅れは、駐留米軍の引き揚げスケジュールを先送りさせ、米軍の追加増派が決まったアフガニスタン戦略に悪影響を及ぼす可能性もあった。マレン米統合参謀本部議長は「現状では問題なし」と説明している。【10月9日 毎日】
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この間の経過は“選挙法案は11月8日に議会でいったん可決されたものの、イスラム教スンニ派に属するハシミ副大統領が「(スンニ派が大部分を占める)国外のイラク難民の意思を十分に反映できない」などと主張して拒否権を行使。その後の協議で、スンニ派やイスラム教シーア派、クルド人の各会派が議席配分をめぐって綱引きを繰り広げていた。ロイター通信によると、修正案では議会定数を275から325に拡大。このうち310議席は国内の18州に配分され、残りはキリスト教徒など少数の宗教各派に配分される。スンニ派とクルド人は、それぞれの地盤で修正前よりも議席数を増やした。”【12月8日 産経】ということで、「話がまとまった」と言うよりは、「相変わらず宗派・民族間対立が根深い」と見るべきでしょう。

特に問題となるのは、クルド人が自治区への編入を求めている油田地帯キルクークにおける選挙実施でしょう。
“連邦政府を主導するアラブ系の議員と、北部3県を統治しキルクークの自領編入を目指すクルド系の議員が対立。両陣営は互いに「選挙を有利に運ぶため(それぞれの陣営の有権者数を増やそうと)住民を送り込んでいる」などと相手側を非難し合ってきた。
キルクーク選出議員らによると、各派は、有権者が急増している係争地の選挙結果について一定数の調査要求が出た場合、連邦議会の承認を条件に暫定結果とすることで妥協。内務省や選管、国連の関係者から成る委員会が最長1年間で結論を出し、これをもとに選挙結果を確定するという。”【11月9日 毎日】ということですが、要は選挙結果の確定を1年間先送りしようというものです。
政治アナリストの見方として、“キルクークの状況は依然として保留状態。爆発を待つ爆弾を抱えているようなもの。この問題についての合意は何もなかった”【11月9日 ロイター】とも。

【揺らぐマリキ政権の威信】
キルクークという時限爆弾に先立って爆発したのが、選挙実施への揺さぶりをかけるような、政府機関中枢部を標的にした連続爆弾テロでした。

****イラク:連続爆弾テロ127人死亡 バグダッド*****
イラクの首都バグダッドで8日朝、政府機関など中枢部を標的にしたとみられる連続5件の爆弾テロが発生し、AFP通信によると少なくとも127人が死亡、448人が負した。首都での大規模テロは8月と10月に発生したばかりで4カ月弱で3度目。来年に連邦議会選挙を控え治安悪化の懸念が強まる中、相次ぐ中枢部への攻撃でマリキ政権の威信が揺さぶられている。(中略)
8日午後の時点で犯行声明は出ていない。過去2回の大規模テロでは、国際テロ組織アルカイダ系団体「イラク・イスラム国(ISI)」が犯行を認め、イラク政府は「旧政権党バース党関係者が関与した」と主張した。8月の事件では、わいろを受け取った当局者が実行犯に検問所を通過させたとの供述も出ており、治安当局への市民の信頼は低下している。
イラクの治安は内戦状態で月間3000人以上が死亡していた06~07年ごろより大幅に改善、11月のテロなどによる死者数は122人で03年3月開始のイラク戦争後最低になっていた。一方で、少数派居住地や警備の甘い遠隔地住民などを標的にした散発的なテロ行為も続いている。
来年予定される連邦議会選挙に向け、宗派・民族間対立の激化が懸念されている。治安悪化は選挙の実施を困難にし、来年8月の駐留米軍戦闘部隊の撤退などに影響を与える可能性もある。連邦議会では選挙法改正審議が長期にわたり紛糾、7日にようやく決着した。【12月8日 毎日】
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「テロには、政府治安機関が市民を守れないことを示すことで、人々が投票へ行くのを思いとどまらせる狙いがある」(ルバイエ前国家安全保障担当顧問)というように、政府機関中枢部での爆弾テロは、マリキ政権の治安維持能力への不信感を高め、選挙実施を危うくするものです。

また、今月11,12日にはイラクが戦後復興資金を獲得するため海外企業に解放する油田開発の入札も予定されています。爆弾テロはこの油田開発の国際入札妨害を狙ったものとの見方もありますが、現段階では入札は予定通り行うとされています。【12月9日 ロイター】

長期的に見ると、前出毎日記事にもあるように、月間3000人以上が死亡していた時期から、現在の100人台のレベルに、治安は大幅に改善されていると言えますが、今後の選挙実施に向けたテロ攻勢が懸念されます。
イラクのマリキ首相にとっても、アフガニスタンをにらんだオバマ大統領にとっても、綱渡りがしばらく続きそうです。

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トルコ  独自の姿勢を保持しながらも、高まる中東における存在感 アメリカも役割期待

2009-12-08 22:53:01 | 国際情勢

(今年1月の世界経済フォーラム年次総会(タボス会議)で、イスラエルのガザ侵攻を激しく非難し、会場を退席するトルコのエルドアン首相 “flickr”より By World Economic Forum
http://www.flickr.com/photos/worldeconomicforum/3237550428/

パレスチナ自治区ガザ情勢をめぐる分科会で、国連の潘基文事務総長がガザの現状に強い懸念を表明。
エルドアン首相はイスラエルのガザ攻撃を「行き過ぎた武力行使だ」と批判。
続くイスラエルのペレス大統領は、ガザ攻撃を正当化する主張を約25分間にわたって展開。「ガザの悲劇は、イスラエルの責任ではなく、ハマスの責任だ。ハマスは独裁体制を生み出した。非常に危険だ」などと主張。さらに、エルドアン首相を指さして、イスタンブールがロケット弾攻撃の標的となったならば、トルコも同様の行動を取っただろうと述べた。
これに激高したエルドアン首相が、「あなたは声を荒げているが、それは罪悪感の表れでしょう。あなた方は殺人行為が得意なようだ。海辺にいる子どもたちがどのように殺されたのか、どのように撃たれたのかを私はよく知っている」と反論を始めたところ、司会者が発言をさえぎったため、「私はペレス氏の半分の時間しか発言していない。発言させてもらえないのなら、もうダボスには来ない」と言い残して席を立った。)

【積極的な仲介外交】
このところ中東におけるトルコの存在感が高まっています。
トルコ経済が10年間で2倍以上に成長していること、ロシア、カスピ海沿岸、イランからのパイプライン3ルートがトルコを通過して欧州にエネルギーを供給していることにみられるように、地政学上重要な位置を占めているという事情もありますが、最近の積極的な仲介外交の展開も、存在感を高める理由のひとつでしょう。

トルコ・エルドアン政権は、イラクとシリア、また、イスラエルのガザ侵攻で中断していますが、昨年はイスラエルとシリアの間の仲介を行っています。
中東のもうひとつの地域大国イランがシーア派であり、ハマスやヒズボラ、イエメンの武装勢力とつながるのに対し、トルコがスンニ派であることも、スンニ派の多いアラブ諸国とトルコが良好な関係をつくりやすい背景にあります。

イラクとの関係でも、トルコはイランと並ぶ最大の貿易相手国となっています。
***トルコ首相:イラク首相と関係強化を確認、天然ガス取引も****
トルコのエルドアン首相は15日、イラクの首都バグダッドを訪れてマリキ首相と会談し、両国関係の強化を確認した。ロイター通信などによると、イラクの天然ガス輸出を巡る覚書を含め、両国は約50の合意文書に署名した。
トルコ・イラク関係は、イラク北部に潜伏して対トルコ武装闘争を展開する非合法組織「クルド労働者党」(PKK)を巡り、政治的な緊張が続いている。しかし、経済的には03年のイラク戦争を契機に大きく進展。トルコ企業が復興のけん引役を果たしており、イラクは、トルコにとって欧州域外で第2の輸出相手国になっている。
両国は今回、イラクの天然ガスをトルコに輸出する交渉に入ることで合意した。輸出量は80億立方メートル以上とされ、トルコはこれを欧州向けパイプライン「ナブッコ」などに送り込む「資源集積地」の地位を確立したい狙いだ。一方、イラクにとっても安定供給路の確保につながるメリットがある。【10月16日 毎日】
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イランとも良好な関係にあり、紛糾するイランと欧米諸国との核開発問題でも、実現はしませんでしたがイランの低濃縮ウランを第三国に移送するIAEA案について、トルコは受け入れを申し出ていました。

【トルコに期待するアメリカ】
「イスラムとの融和」を掲げたアメリカ・オバマ政権も、国民の大半がイスラム教徒でありながら世俗主義を貫くトルコに西洋とイスラム世界の橋渡し役を期待しており、大統領就任後に訪れる初めてのイスラム国家にトルコを選び、今年4月の欧州歴訪を終えたあとトルコを訪問しています。
オバマ大統領は欧州歴訪でEU首脳に「トルコを欧州につなぎとめる」よう促し、トルコ国会演説では「トルコは欧州の重要な部分だ。米国はEU加盟を強く支持する」と、トルコ支持を明らかにしています。
もっともこれは、「誰が欧州入りするかを決めるのは米国人ではない」(クシュネル仏外相)といったEU側の不満を買ったようですが。

そのトルコのエルドアン首相がアメリカを訪問しています。
****イラン核で「重要な役割」=トルコに協力要請-米大統領****
オバマ米大統領は7日、ホワイトハウスでトルコのエルドアン首相と会談した。同大統領は会談後の共同記者会見で、イランの核問題解決に向け、「トルコが重要な立役者になり得る」と述べ、協力を求めた。一方で、アフガニスタン安定化への貢献に謝意を示した。
エルドアン首相はこれに対し、「わが地域の核問題を外交的に解決するため、できる限りのことをする用意がある」と応じた。また、両首脳が会談で、テロ対策やイラク情勢、中東和平問題、トルコとアルメニアの関係正常化などを協議したことも明らかにした。【12月8日 時事】
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【従順な「子分」でいるよりも・・・】
アメリカ・オバマ大統領が期待するトルコですが、トルコは決してアメリカの“言いなり”になっている訳ではありません。
トルコ国内には根強い反米感情があります。
03年当時、ブッシュ政権がイラク侵攻のため米軍部隊のトルコ領内通過を求めましたが、トルコはこれを拒否しています。

また、もともとイスラム色の強い与党・公正発展党(AKP)とその指導者エルドアン首相が、次第にイスラム主義に傾斜しつつあるようにも見えることも、アメリカやEUの懸念するところとなっています。
今年1月の世界経済フォーラム年次総会(タボス会議)では、エルドアン首相はイスラエルのガザ侵攻を激しく非難し、会場を退席しました。
また、10月にイランを訪問したエルドアン首相は、アフマディネジャド大統領を「よき友人」と呼び、イランの核開発計画を擁護しています。
ダルフール問題で国際批判を浴びるスーダンのバシル大統領についても、「よきイスラム教徒」であるバシル大統領が大量虐殺の罪を犯すはずはないと、擁護しています。【12月9日号 Newsweek日本版より】

上記Newsweekによれば、“(トルコが米軍の領内通過を拒否した)この時期を境に、アメリカとトルコの関係が変わり始めた。トルコが中東で影響力を強めれば、従順な「子分」でいるより、アメリカの中東政策にとってはるかに貴重な存在になる可能性がある。トルコが目指すのは、ダブトグル外相いわく「地域の問題を解決するパートナー」になること。近年、トルコはその役割を担うだけの力を付け始めた。”

普天間基地問題で軋轢が強まっている日米同盟関係ですが、従順な「子分」でいることをやめて、逆に存在感を高めているトルコのような例もあります。
トルコと日本ではいろんな事情が異なりますし、別にアメリカと事を構えることを勧めはしませんが、ひとつやふたつの懸案事項があることや、ある程度の自己主張をそれほど懸念する必要もないように思えます。

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アメリカ、パキスタンでの無人攻撃機使用地域を拡大か パキスタン側に激しい反発

2009-12-07 20:37:17 | 国際情勢

(無人攻撃機プレデター “flickr”より By JimNtexas
http://www.flickr.com/photos/jimntexas/439385855/)

【新戦略の一環 無人偵察機によるピンポイント攻撃拡大】
オバマ米大統領は今月1日、駐留米軍の3万人の追加増派と、2011年7月までの撤退開始を柱とするアフガニスタン新戦略を発表しました。
アフガニスタンでのこうした新戦略が狙いどおりにいくかどうかは、武装勢力の温床となっており、その指導者の拠点ともなっているパキスタン北西部における掃討作戦が成果をあげられるかどうかが重要なカギとなっています。
また、アメリカがアフガニスタンに固執するのは、最終的には核保有国であるパキスタンの安定化が目的とも言われています。

したがって、アフガニスタンとパキスタンでの取り組みは一体のものとなっていますが、アフガニスタン新戦略発表に関する多くの記事に隠れるように、ちょっと気になる記事がありました。
アメリカCIAがパキスタンにおける無人攻撃機の使用エリアを拡大するというものです。

****アフガン新戦略:CIAの無人偵察機攻撃拡大か 米紙報道****
4日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、ホワイトハウスが、米中央情報局(CIA)による無人偵察機(プレデター)を使ったパキスタン北西部での武装勢力掃討作戦の拡大を許可したと報じた。複数の政府高官の情報として伝えた。オバマ大統領が1日に発表した、3万人規模のアフガニスタン駐留米軍増派を核とするアフガン新戦略の一環とみられるという。
同紙によると、オバマ政権はこれまで、アフガンとの国境沿いのパキスタン北西部の部族地域を中心に、無人偵察機による掃討作戦を展開した。今後はこの地域に加え、同部族地域の南方にあり、反政府武装勢力タリバンの指導者らの拠点があるとされるバルチスタン州にも拡大するという。
CIAは、無人偵察機による攻撃の実施は認めているが、規模など詳細は明らかにしていない。同紙によると、ブッシュ前政権時代に比べ、オバマ現政権下での攻撃回数は増えているという。

オバマ政権内には、米国防総省を中心に、地上部隊の増強を求める勢力と、米兵被害を減らすため、無人偵察機によるピンポイント攻撃を多用すべきだとするバイデン副大統領らを中心とした民主党系の勢力がある。オバマ大統領は、いずれの要請にも応える戦略を策定したとされる。
パキスタンの国内メディアや国際人権団体は、無人偵察機による攻撃で多数の民間人が巻き添えになっていると批判を強めており、オバマ大統領の「決断」の是非をめぐる議論が、さらに活発化するとみられる。【12月5日 毎日】
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【報復テロに揺れるパキスタン】
無人攻撃機は、軍ではなくCIAの管轄にあるのでしょうか。知りませんでした。
それはともかく、“ピンポイント”とは言いつつも、そのポイントに誰がいるのかよく確認されないまま攻撃がなされることも多いため、多数の民間人犠牲者を出すとしてパキスタン側では強い抵抗があります。

パキスタンでは、部族地域の南ワジリスタン地区における「パキスタン・タリバン運動」(TTP)掃討作戦が始まってから、国内での報復テロが吹き荒れています。ここ数日の目についた記事だけでも、
12月2日、首都イスラマバード中心部にある海軍総司令部前で男が自爆し、司令部を警備していた警官1人が死亡、通りがかりの子どもら3人が負傷。
12月4日、北部ラワルピンディの政府軍関係者居住地区に武装集団が押し入り、敷地内のモスクを襲撃、激しい交戦に発展。地元警察によると、死者は少なくとも40人、負傷者は80人超。
12月7日、北西辺境州の州都ペシャワル中心部にある裁判所前で自爆テロがあり、地元テレビによると、少なくとも5人が死亡、10人前後が負傷。

今後、無人偵察機による攻撃が拡大されると、“テロ地獄”の様相は更に深まり、パキスタン側の激しい反発を招くのでは・・・と思われます。アメリカが意図する“パキスタンの安定化”にも支障をきたすのではとも。

【「事実なら国家分裂の危機に直面する」】
そうした懸念は、私の思い込みだけではないようで、パキスタン側の「事実なら国家分裂の危機に直面する」という激しい反発・危機感が報じられています。

****パキスタン:米の無人機攻撃「拡大」 反米、反政府蜂起も*****
米国が無人機を使ったパキスタンでの武装勢力掃討作戦を同国南西部バルチスタン州に拡大すると米紙が報じた問題で、パキスタンでは「事実なら国家分裂の危機に直面する」という懸念が高まっている。
米国に協力的なザルダリ大統領と、攻撃に反発する軍トップのキヤニ陸軍参謀長との対立が決定的となる一方、同州での反米、反政府蜂起が確実視されるからだ。
オバマ大統領は「アフガニスタン安定にはパキスタンの協力が不可欠」と強調するが、むしろ、パキスタン情勢の混乱がアフガン情勢をさらに泥沼化させる恐れがある。

米国はこれまで、アフガンとの国境地帯であるパキスタン北西部の部族支配地域で無人機による掃討作戦を展開してきた。だが、パキスタン治安当局者によると、オバマ政権は発足当初から、バルチスタン州での軍事作戦を求めてきた。アフガンの旧支配勢力タリバンの指導部が同州クエッタと周辺に潜伏しているとされるからだ。
同州はタリバン最大の拠点であるアフガン南部カンダハル州に隣接し、タリバンと同じ民族であるパシュトゥン人が多い。パシュトゥン人の多くは国境をはさんで血縁関係を持っており、バルチスタン州はタリバンの理解者がパキスタン国内で最も多いとされる。
その半面、01年にパキスタンがタリバンとの「決別」を宣言して対米協力路線に転じた後も反米闘争は起きず、激しい反米闘争の舞台となった部族地域とは違う様相を見せた。
これは、同州で強い影響力を持つイスラム政党が武装闘争を回避するよう働きかけてきたためだ。同党は、軍部と太いパイプを持っている。軍部は、アフガンでの影響力を維持したいと考えて「決別」宣言後もタリバンとの接点を維持してきたため、米国が同州での軍事作戦を言い出すことを恐れていた。

治安当局者は「部族地域でのミサイル攻撃は多くの女性や子供も巻き込み、結果的に武装勢力を勢いづかせた」と話す。さらに「部族地域より人口も面積もはるかに大きいバルチスタンが攻撃されれば、反米、反政府闘争の規模は部族地域の比ではない」と述べ、激しい武装闘争が起きることを懸念。同州の武装勢力が米軍攻撃のためにアフガンへ越境すれば、アフガン情勢がさらに泥沼化すると警告した。
さらに同州は、イラン国境近くに住むバルチ人が人口の半数を占め、パシュトゥン人と緊張関係にある。同州のパシュトゥン社会で武装化が進めばバルチ人の武装化を誘発する恐れがあり、「パシュトゥン人武装勢力を抑え込もうと、米国などがバルチ人勢力を支援するのでは」(地元紙記者)との憶測も飛び交い始めた。【12月6日 毎日】
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【アメリカ撤退後】
アメリカは新戦略でも撤退開始時期を明示して、ベトナムのような泥沼化することのない出口戦略を考えていますが、タリバンにしても、アフガニスタン・カルザイ政権やパキスタンにしても、逆にアメリカ撤退後が重要になってきますので、アメリカとは思惑は異なってきます。

ハリルザド元駐アフガン米大使が、かつて武装勢力タリバンから受け取ったメッセージは、「西側諸国には時計があるが、我々には時間がある」という内容だそうです。
感心してしまうほど的確な表現です。撤退を急げば急ぐほど、術中にはまっていく懸念もあります。

パキスタンでも、アメリカ撤退を見据えた議論がなされています。
****パキスタン:米のアフガン「撤退後」を論議 治安悪化懸念****
オバマ米大統領が1日発表したアフガニスタン新戦略で、「パキスタンの協力がアフガンの安定には不可欠」との認識が改めて強調された。しかし、パキスタン側では早くも「米軍のアフガン撤退後」をにらんだ安全保障を巡る論議が始まっている。
米国の8年にわたる武力行使がアフガンの混迷を深め、自国の治安悪化につながったとみるパキスタンの国内に、対米協力への疑念が急速に台頭しているためだ。

「増派される兵士数が問題ではない。我々が注視するのは、それらがどのように使われるかだ」
米軍増派を柱にした新戦略発表を受け、クレシ外相が2日、イスラマバードで記者団に語った。地元紙記者は「アフガン東部などパキスタン国境地域での戦闘強化策に政府は重大な懸念を示した」と解説する。(中略)
(タリバンと「絶縁」を宣言し、米国の「対テロ同盟」に名を連ねたパキスタンの)国内の治安は、02年にパキスタンで初めて自爆テロが起きて以来、市民生活はテロに脅かされ、経済も破綻(はたん)寸前に陥っている。
しかし、オバマ政権は「アフガンの不安定はパキスタンが原因」とみなし、さらなる掃討強化の圧力をかけ続ける。外相発言は「パキスタンの不安定化は米国のアフガンでの失敗に根ざしている」との不満を改めて示したものだが、この意識は、多くのパキスタン人が武装勢力に反感を抱きながらも、武装勢力と敵対する米国への共感につながらない背景となっている。

こうした中、部族支配地域の自治長官を05年まで務めたアフマド・シャー氏が2日、地元テレビのインタビューで、「オバマ新戦略は国境地域の戦闘を激化させ、パキスタンの治安をさらに悪化させる」と警告し、対米支援の見直しを求めた。インドとの対抗上、アフガンに影響力を確保してきたパキスタンにとって、タリバンとの関係が悪化した今、米軍が撤退した後はアフガンでの影響力を完全に失うとの懸念もあるためだ。
地元紙記者は「米国の出口戦略は米国の利益を反映している。パキスタンは今後、米国なき後の安全保障を再構築していく必要がある」と語った。【12月2日 毎日】
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こうしたアメリカ撤退後を見据えた議論からすれば、バルチスタン州への無人攻撃機の使用拡大は、パキスタン国内をさらに混乱に陥れるだけで、とても承服できないものでしょう。
この件は、今後の対米協力にも大きく影響しそうです。

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7日からCOP15開催  温暖化は誇張か? 目を背ける人々

2009-12-06 16:48:00 | 環境

(バングラデシュ 今年5月のサイクロンによる洪水 バングラデシュは気候変動に最も脆弱な国のひとつです。“flickr”より By oxfam international
http://www.flickr.com/photos/oxfam/3570999890/)

【難航必至 明日から開催】
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の開催が明日7日からコペンハーゲンで開催されますが、12年末に期限が切れる「京都議定書」に代わる新議定書合意は早々にあきらめられ、政治合意にいかに実質的拘束力を持たせるかが会議の焦点になっています。
政治合意内容については、議長国デンマーク政府が①2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を1990年比で半減 ②2020年までに世界全体の排出量を減少に転じさせる――といった項目を柱とする原案を提示しています。

****COP15:合意文書草案、中国など新興国4カ国が反対*****
コペンハーゲンで7日から始まる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を前に議長国デンマーク政府が各国に提示した合意文書草案の主要部分について、中国などの新興国4カ国が反対の姿勢を示しているとロイター通信が伝えた。
草案は温室効果ガスの排出量を世界全体で2050年までに1990年比で半減させる数値目標などを盛り込んでいるとされる。だが、南アフリカの交渉担当者はロイター通信に「(先進国分以外の)残りを途上国で削減しなければならず『50年半減』には合意できない」と述べたという。
ロイター通信が欧州外交筋の話として報じたところによると、中国、ブラジル、インドも草案の受け入れに難色を示し、先進国の削減努力強化を求めているという。【12月4日 毎日】
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先進国と途上国・新興国の対立は相変わらずですが、新興国の中国はGDP一定額あたりの二酸化炭素排出量を20年までに05年比で40~45%削減すると、ブラジルも主にアマゾン熱帯雨林における伐採の抑制により、何も対策をとらなかった場合の2020年の推定排出量から36~39%削減すると、それぞれの立場で法的拘束力のない“自発的行動”としての数値目標を出しています。

有力新興国としては最後になったインドも3日、GDP一定額あたりの二酸化炭素排出量を2020年までに05年比で20~25%削減できるとの見通しを明らかにしています。
なお、GDP一定額あたりの排出量を減らすということは、増加のペースは鈍るものの、長期的に排出量は増え続けることを意味するため、環境保護団体などからは実態を隠す煙幕に過ぎないという批判もあります。

中国と並んで最大の排出国アメリカは、オバマ大統領の会議への出席について、予定していた9日を取りやめ、18日の首脳会議出席に変更したことが発表されました。
大統領は、当初は欠席するとも言われていました。
アメリカ上院における温暖化対策法案の審議が遅れており、国際的会議の場で公約するような先走りはしたくないし、出席して会議の失敗の責任をとらされたくない・・・でも、会議では大きな成果が出ないことがはっきりしてきたので、それなら顔だけでも出すか。ちょっとした合意でもできれば成果になるし・・・どうも首脳会議にでないと国際的に失敗の責任を負わされそう・・・そういった及び腰の姿勢も窺われます。
サルコジ仏大統領は「決定的な日(首脳会合)に来なくて意思決定ができるのだろうか。1人の指導者のために世界的取り組みが阻まれるのは許せない」と批判していました。

【「クライメート(気候)ゲート事件」】
会議の場外でも騒がしい動きがあります。
****盗み出された「温暖化」メール 論争に火 陰謀説も*****
気象研究で有名な英イーストアングリア大のコンピューターにハッカーが侵入し、研究者が地球温暖化を誇張したとも解釈できる電子メールなどが盗み出された。12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)を控えた陰謀との見方もあり、英米メディアはウォーターゲート事件をまねて「クライメート(気候)ゲート事件」と呼んで報じている。

メールには、国際的に著名な気象研究者同士のやりとりが含まれ、イースト・アングリア大のフィル・ジョーンズ教授が米国の古気候学者らに出した「気温の低下を隠す策略(trick)を終えたところだ」などと書かれたものもあった。
この記述に対し、地球温暖化やその人為影響に懐疑的な人たちが飛びつき、ネットなどで批判が相次いだ。ジョーンズ教授は声明で自分が書いたことを認める一方、「誤った文脈で引用されている」などと反論。木の年輪のデータから推定されるが信頼できない気温のデータを使わなかっただけで、科学的に間違ったことはしていないと主張している。
公開を前提にしない私信とはいえ、ほかのメールで懐疑派を「間抜けども」などと呼ぶなど研究者の態度にも関心が集まっている。

米国の保守派シンクタンク、企業競争研究所(CEI)は20日、「『世界一流』とされる研究者が、科学研究より政治的主張の流布に集中していることは明らか」とする声明を発表。23日には、急速な温暖化対策に批判的な米上院のインホフ議員(共和党)が「(感謝祭の議会休会が終わる)来週までに真相が明らかにならなければ、調査を要求する。この問題は重大だからだ」と述べ、「事件」が議会で問題にされる可能性も出てきた。

COP15を2週間後に控えた時期の発覚で、世論への影響も懸念される。21日付米紙ニューヨーク・タイムズは「(COP15直前の)時期のメールの暴露は偶然ではないだろう」との研究者の見方を紹介している。
米国では今年に入り、温暖化の科学的根拠に対する信頼感が下がっている。
世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが9~10月に実施した世論調査によると、「ここ数十年、地球の平均気温は上昇していることを示す間違いない証拠がある」と答えた人は57%で、08年調査の71%、07年、06年調査の77%から大きく下落した。
同センターは、景気の落ち込みのほか、今夏は例年より寒かったことが理由ではないかとみている。【12月6日 朝日】
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【なぜ目を背けるのか?】
温暖化の議論に対する人々の反応についての一般論として、こんな記事も。
****なぜ多くの人が気候変動の脅威から目を背けるのか?*****
人類の活動が原因で気候変動が進み、地球規模の災厄が降りかかろうとしていることを示す証拠が次々と示されている一方、気候変動の脅威は誇張されているとか、まったくのうそだと言う人も相変わらず多い。
例えば、英国で11月14日に発表された世論調査結果では、人類の活動が地球温暖化の原因になっていると回答したのは41%だけだった。なぜだろうか。

■快適な生活を捨てたくない
ロンドン大学の哲学教授で著書も多いアンソニー・グレーリング氏は、「現在の快適な生活をあきらめたくないという気持ちがある」と指摘する。このような傾向は欧米だけでなく、近年中間所得層が増えた中国、インド、ブラジルのような国々にもみられるという。(中略)

■恐怖から目をそらしたい
別の説明もある。世界は破滅に向かっているという恐ろしい真実から目をそらしたり、脅威を和らげて理解しようとするのは人間の本性だというのだ。
パリのエコール・ポリテクニークのジャンピーエル・ドュピュイ教授(社会心理学)は、「破滅に際して、人間は自分が知っていることを信じようとしない」と語る。
前述のグレーリング教授も「だれもが現実を否定し――あるいは否定したいと思い――あまり大きな責任を負わされたくないと思っている。ここに一種の断絶がある」と説明する。(中略)

■いつまで目をそらせるか
脅威を感じた人間は、安心したり、脅威から目をそらすために、実にすぐれた才覚を示す。
例えば、環境によい小さな行動をことさら強調する人もいる。「白熱電球を電球型の蛍光灯に替えて、自分の義務は果たしたと言う人もいる」(カッサー教授)。このような態度は米国でよく見られるという。
温室効果ガスの排出削減に消極的な中国やインドをことさら非難したり、個人の力ではどうしようもないとため息をついてみせるのも、恐ろしい現実から目をそらしたいという心の働きの現れだ。
しかし、いずれ現実は襲ってくる。(中略)
国家が破綻したり、バングラデシュのような温暖化に脆弱な国で大災害が起きたりするなどの衝撃的な事態が2、3発生しないと、現実を認めないかもしれないとグレーリング教授は言う。「しかし、一度そうなれば『これは現実ではない』とか『科学的に解決できる、そのうち過ぎ去る』などと言うことはできなくなる」。【12月4日 AFP】
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世の中一般と異なる意見を主張することで、自分は大勢の馬鹿どもとは違うということを顕示したい欲求もあるのかも。

【番外編】
「稲作」も地球温暖化を促進する?
二酸化炭素の少なくとも20倍もの温室効果があるとされているメタンは温室効果ガスの全排出量の5分の1を占めます。メタンの主要な発生源はウシのゲップと生分解性の埋め立てごみですが、全体の約10%は水田から放出されているとか。そうすると休耕田は温暖化防止策か?【12月6日 AFPより】

売春婦組合、COP15参加者に「無料サービス」
デンマークの売春婦団体は5日、同国コペンハーゲンで7日から開かれるCOP15の参加者に対し、「無料サービス」を提供することを明らかにしました。現在コペンハーゲン市議会で審議中の「反売買春条例案」に抗議することが目的だそうですが、会議成功の一助となればなによりです。【12月6日 AFPより】

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北朝鮮  デノミ強行で社会主義経済への回帰を明確化 

2009-12-05 17:28:40 | 国際情勢

(北朝鮮の道路脇で 08年9月 こうした商売で得たカネも、今回のデノミで吸い上げられてしまうのでしょうか。
権力への怨念が高まりそうです。“flickr”より By Eric Lafforgue
http://www.flickr.com/photos/mytripsmypics/2861417089/)

【社会主義経済の強化が目的】
北朝鮮が11月30日に実施した通貨ウォンのデノミネーション、それに伴う混乱が報じられています。

***北朝鮮デノミ大混乱、交換上限額が二転三転****
北朝鮮のデノミネーション(通貨単位の切り下げ)は、通貨の交換上限額の相次ぐ変更が伝えられるなど、当局の予想を超える動揺を国内にもたらしている模様だ。

デノミに関する北朝鮮の公式発表はないが、同国の主張を代弁する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙「朝鮮新報」は4日、11月30日から全国一斉に進行中、と初めて報じた。同紙によると、朝鮮中央銀行責任者は、商品生産や流通網の国家統制を強めて市場機能をそぐなど、社会主義経済の強化が目的と強調。改革が「絶対多数の労働者の支持」を受けており、平壌市内の商店や食堂は新価格を設定し、4日から通常営業していると伝えた。

一方、韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK」によると、通貨交換をめぐる当局の対応は二転三転し、大混乱している。当初、1世帯当たり10万ウォンとされた交換上限額は、15万ウォンに変更。その後、上限額は再び10万ウォンとされ、それ以上の額は、今回の旧新通貨の交換比率100対1でなく、1000対1で交換できるとした。
さらに今度は、10万ウォン以上なら交換比率1000対1で「銀行への積み立て可能」に変更され、3日午前時点では、「国家が適切な措置を取る」として、限度額を上回る資金は、そのまま「無制限に銀行に積み立て可能」としたという。
最終的に、余剰金は「紙くずにはならない」と保証する形で不満を抑えようとしたとみられるが、住民側は信用せず、少しでも多くの金をひそかに替えようと、コネを使える有力者を探し回っているという。【12月4日 読売】
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“北朝鮮の1世帯の生活費は月4万ウォン程度だが、中にはタンス預金で多額の金をため込んでいる人もいるという。ソウルのある外交関係者は、電撃的なデノミ実施の背景について「住民が蓄え込んでいたカネを一気に吐き出させる荒療治」と指摘する。(中略)また、デノミの直撃を受けたのは一般住民や商売人で、外貨で隠し預金の可能な朝鮮労働党幹部や特権階級には影響がほとんどないとみられている。”【12月3日 毎日】

北朝鮮の通貨改革は17年ぶり5回目ですが、北朝鮮の朝鮮中央銀行当局者は3日、北朝鮮でデノミネーションが行われたことを初めて認めました。
当局者はデノミで闇市場や外貨流通量が縮小するとの考えを示し、社会主義経済に回帰する姿勢を鮮明にしたと報じられています。

****北朝鮮、デノミを公式確認 社会主義経済への回帰を強調*****
北朝鮮の朝鮮中央銀行当局者は3日、北朝鮮でデノミネーションが行われたことを初めて認めた。(中略)
朝鮮新報は「1人あたり10万ウォンまで」との指示が出たとされる限度額には触れなかった。ただ、当局者は「銀行預金の金は10対1で交換する。預金を奨励している」と語ったほか、「流通量を減らし、貨幣の価値を高める」とも説明し、交換できる限度額を定めたことを示唆した。
また、朝鮮新報は「工場などで受け取る生活費はこれまでの金額が保証される」と伝えた。北朝鮮関係筋によると、労働者の給与や国営の食堂、商店の価格、公共交通機関の運賃は据え置き、「自由市場」と呼ばれる闇市場など国家の統制が利かない価格のみを100分の1にすることで、市民の経済活動を国家が管理、監視する枠内に押し込める狙いがあるという。

韓国政府などは、デノミによる商品の売買停止や新貨幣への交換制限などが原因で、北朝鮮国内で混乱が起きているとの情報を得ていた。しかし、当局者は朝鮮新報に「1~2日は混乱があると予想していた」と強調。同紙も平壌市内の食堂や商店が4日、新価格で「正常な営業」を始めたと伝えた。
また、当局者は今回の措置について「自由市場経済ではなく、社会主義経済管理原則を強固にする。市場の役割は徐々に弱まる」と説明。外貨ショップでも今後は、北朝鮮の通貨を使うことになるとの見通しを示した。
今回のデノミについて、最高人民会議常任委員会の政令が出たほか、執行のための内閣決定も出たという。当局者は「非合法な金が合法的な金にすり替わらないよう、電撃的に進めた」と語り、闇市場の商人などを標的にしたとの考えをにじませた。【12月4日 朝日】
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【崩れるフィクション「社会主義の楽園」】
北朝鮮は90年代後半、経済のマイナス成長、干ばつと飢餓という苦境のなかで、市場改革の実験を開始。
金正日総書記が中国を3回訪問し、01年には軍幹部を引連れて上海証券取引所を訪れています。
02年までには、価格統制の緩和と収益の一部を個人に与える奨励金を導入、更に、自由市場が食料品以外の日用品を扱うことも黙認しました。

こうした市場経済を部分的に取り入れる試みは、当局の管理能力上回るペースで自由市場経済や対外貿易を拡大させたようです。
外国との取引拡大、密輸品の横行によって、「社会主義の楽園」というフィクションを維持するのが困難になり、危機感を強めた北朝鮮当局は05年頃から、食糧配給制を再導入、自由市場の取締を強化、価格統制の復活、奨励金の廃止など、改革に歯止めをかける動きに転じます。
06年には政権指導部から、改革路線につながる勢力を排除します。

しかし、すでに多くの国民が民間経済に依拠するようになっており、また、改革を志向する若手テクノラートグループの存在もあって、自由市場の取締は中途半端になっており、今では国民のほぼ半数が全収入を民間部門から得ているとも言われています。
こうした背景には、金総書記自身が一党支配のほころびを危惧しながらも、対外交易による利益をほしがっているという、迷いがあるとも。【12月9日号 Newsweek日本版より】

今回のデノミ実施は、中途半端になっていた自由市場経済で利益をあげ続ける商人を標的とし、社会主義経済管理原則を明確にしようとするものです。

【住民らの怒りと警備強化】
当局の強硬姿勢に対する住民の不満も伝えられています。
****北朝鮮で新貨幣への交換低調、住民らの抵抗か*****
デノミネーション(通貨呼称単位の変更)を実施した北朝鮮で、1日から貨幣交換が始まったが、同措置に対する反発の現れなのか、住民らが積極的に交換に応じておらず、軍当局は万一の事態に備え、警備を大幅に強化し、緊張感が漂っている。
中国・舟東地域の北朝鮮貿易商や対北朝鮮貿易商が3日に明らかにしたところによると、新義州をはじめとする北朝鮮全域で2日から、新貨幣交換が行われているが、突然の措置による衝撃と虚脱感に陥った相当数の住民が交換を避けている。
ある対北朝鮮貿易商は、「うわべは平穏に見えるが、苦労してためた金の多くが紙くずになるかもしれないという思いから、住民らは当局の措置に憤りを感じている」と説明した。
6日以降は旧貨幣は使用できないとの発表にもかかわらず、交換する人は多くなく、朝鮮中央銀行貯金所は閑散としており、こうした状況は当局に対し露骨に反感を示したり、反発できないことを周知している北朝鮮住民らの消極的な抵抗の表現だと話した。
また、こうした世論が突発的な集団行動に広がることを懸念した軍当局が住民の動向を綿密に注視しながら、警備を強化したため、貨幣交換2日目を迎えた新義州でも新貨幣を見ることは容易ではないという。
デノミ措置に続き、外貨使用も中断させたと伝えられ、住民らがコメなど生活必需品を買いだめし、数倍から数十倍に物価が暴騰するなど、今回の措置に伴う混乱も日々拡大していると、北朝鮮貿易商らは伝えた。(後略)【12月3日 聯合ニュース】
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開放経済の先駆者であり、北朝鮮の後ろ盾でもある中国の外務省の胡正躍次官補(アジア担当)は4日、「(北朝鮮)国民への心理的影響は大きく、ショックもあると思う」との懸念を示しています。ただ胡次官補は、「(北)朝鮮側が慎重に考えて取った行動で、今の朝鮮の社会体制下では大きな混乱はないだろう」との見方も示しています。

北朝鮮に開放経済への移行を促してきた中国としては、「社会主義経済管理原則の明確化」というのは歓迎できないものでしょうが、北朝鮮の混乱も困ります。
国民の権利意識が高まり、治安当局と住民の衝突が多発している中国だったら政権を転覆させる大暴動がおこるところですが、なにぶん普通の国ではない北朝鮮のことでよくわかりません。

北朝鮮からは、このところ“女性の自転車を禁止する措置”【11月7日 朝日】や、党機関紙による“男女の正しい髪型に関する指導”【11月20日 AFP】など、社会的締め付けを強化する施策が報じられていました。
今回の交換額上限を設定したデノミは、一部商人の利益を吸い上げるだけでなく、民間経済を委縮させ、そこに頼っている多くの国民の生活を直撃します。
こうした締め付けがうまくいくのか、国民が不満を爆発させるのか、あるいは強まる不満が深く潜行するのか・・・?

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インド  世界最悪の産業事故“ユニオンカーバイド事故”から25年

2009-12-04 13:53:54 | 世相

(1984年の事故の翌朝の様子 生存者の多くも目と肺をガスで痛めています。
“flickr”より By sfaridahmad
http://www.flickr.com/photos/31961227@N02/2988939811/)

25年前、インドで世界最悪の産業事故がありました。

****世界最悪の産業事故から25年、米企業工場が原因 インド****
インド・マディヤプラデシュ州ボパールは3日、米化学大手ユニオンカーバイドの農薬工場から漏出した有毒ガスで1万人が死亡した世界最悪の産業事故から25年を迎えた。
事故の生存者や支援者らは同日、被害者を追悼し事故の責任を問う行進を行い、汚染の除去を行わない州政府に怒りの声を上げた。

1984年12月3日、工場から大量のイソシアン酸メチルが漏出し、3日間で約1万人が犠牲になった。インド医学研究評議会の調査報告では、後遺症などによる死者も含め、これまでに2万5000人が死亡したとされる。
今週初めに発表された各種研究結果によれば、工場周辺の地下水や土壌の汚染濃度は依然高く、3万人以上が汚染地域に暮らしている。慢性疾患の報告は政府統計で10万人、出生異常も多数報告されている。
ユニオンカーバイドは99年に米化学大手ダウ・ケミカルに買収されたが、同社は89年にユニオン社とインド政府との間で合意された4億7000万ドル(約400億円)の賠償金支払いで、「現存または将来発生するあらゆる(損害賠償)問題は解決済み」との立場を取っている。【12月3日 AFP】
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アムネスティのサイトによれば、“現在までの被害者は50万人以上にのぼります。25年経ったいまでも汚染物質は残ったまま、流出事故の正確な被害は調べられておらず、10万人以上が必要な医療を受けられません。”とも。(http://www.amnesty.or.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=2787

実を言うと、この事故のことは全く記憶にありませんでした。
“3日間で約1万人が犠牲になった”という、とんでもない事故ですから、いくら遠いインドの話であっても、日本でも大きく報道されたはずでしょうが。
(事故の原因は、ガスの漏出を防ぐために設計されたはずの6重の安全装置が故障していたか、スイッチが入っていなかったか、または設計そのものに欠陥があったかのいずれかであり、また、被害が拡大したもうひとつの理由は、万が一の事故に備えて、市民に危険を知らせる警報サイレンのスイッチが切られていたということですので、“事故”というよりは“犯罪”に近いものですが。)

25年前というと、東京で会社勤めした時期で、毎日終電またはタクシーで帰宅するような日々を送っていました。たまに早めに仕事を切り上げた日は、会社の人間と近くの飲み屋で仕事の愚痴を肴に・・・そんな日々でした。
おそらく、ろくに新聞に目を通すこともなかったのでしょう。

1万人死のうが、何万人死のうが、自分の身に関係のないことについては、無関心でいられるのが人間です。
日本国内で6千名以上の死者を出した阪神・淡路大震災についてすら、仕事上のことでいろいろ悩んでいた時期だったこともあって、私の中では全くリアリティのない記憶の断片となっています。

事故そのものよりも、人間のそうした無関心さに驚かされます。
まあ、そうでないと生きていけないと言えば、そうなのですが・・・。

02年のグリーンピースのサイトによれば、事故を引き起こした旧ユニオン・カーバイドの当時の最高執行責任者(CEO)ウォレン・アンダーソンはアメリカに戻り、インドの司法当局が以前から2万人以上の死亡に責任があるとして、業務上過失致死罪で身柄の引渡しを求め続けていますが、ニューヨーク州の高級住宅地で優雅な生活を送っているとか。(http://www.greenpeace.or.jp/press/2002/20020829c_html
日本の水俣病などの公害訴訟や、薬害肝炎訴訟を見ても、企業の責任の取り方はそんなものでしょう。
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イラン  アフマディネジャド大統領、IAEA提案を明確に拒否

2009-12-03 22:35:30 | 国際情勢

(07年6月 イラン政府がガソリン割当制を抜き打ち的に発表した日のガソリンスタンドの混乱 もしガソリン禁輸という事態になれば、市民生活への影響は甚大で、アフマディネジャド大統領への不満も一気に高まりそうです。ただ、そのあとイラン国内がどういう方向に向かうのかはよくわかりません。
“flickr”より By DD/MM/YYYY
http://www.flickr.com/photos/davidyaghoobi/634319364/)

【国際圧力への反発強めるイラン国内強硬論】
イランの核開発問題に関する交渉が暗礁に乗り上げています。
「平和目的」とイランが主張する核開発に対し、国際社会はイランが秘密裏に核兵器を開発しているとの疑念を持っており、両者の対立が次第に高まっています。

国際原子力機関(IAEA)は、イランの低濃縮ウランを国外に移送し、軍事転用しにくい核燃料に加工して送り返す構想を提案。
受け入れを渋るイランに国際社会は圧力を強め、IAEAの定例理事会は11月27日、イランが中部コム近郊に建設中の第2ウラン濃縮施設の存在を9月まで申告しなかったことに対し、同施設の建設中止などを求める決議を賛成多数により採択しました。IAEA理事会による対イラン決議は06年2月以来3年9カ月ぶりで、国連安全保障理事会に報告されます。

こうした一連の国際社会の対応に、イラン国内では「西側との対話を打ち切るべきだ」との強硬論が高まり、イランのラリジャニ国会議長は11月29日、国会で「(米欧が)ばかげた『アメとむち』の政策をやめなければ、我々は政策を転換してIAEAへの協力を大幅に縮小する」と述べています。
ラリジャニ国会議長の発言は、第2の濃縮施設への査察に協力したのに、国際社会から圧力が強まったことに反発する国内の空気を反映したものです。
また、イラン国会(定数290)では同日、200人以上の議員が連名で、IAEAへの協力縮小を求める声明を発表しました。

****イラン:核施設増設計画を発表…IAEA決議や米欧に不満*****
イラン政府は29日、新たに10カ所のウラン濃縮施設の増設計画を発表した。国際社会への挑戦とも受け取れる計画には、第2ウラン濃縮施設の建設中止を求めた国際原子力機関(IAEA)の決議や米欧への強い不満がある。「核の平和利用の権利を奪われた」と考えるイランでは、核拡散防止条約(NPT)脱退論などが台頭。アフマディネジャド政権にはこうした強硬論の「ガス抜き」を図ると同時に、米欧との交渉材料に使う狙いがあるとみられる。

「決議が出るまで、10カ所の施設増設を進めるつもりはなかった」。サレヒ原子力庁長官は30日、イラン国営ラジオにこう語り、27日のIAEA理事会で採択された事実上の対イラン非難決議への不満をあらわにした。
イランにとって、IAEAへの第2濃縮施設の申告遅れを非難されることは織り込み済みだったが、「施設の即時停止」要求は想定外だった。10月末にIAEAの現地査察を受け入れ、核兵器開発の証拠が出なかっただけに、イラン側にすれば有罪の「推定判決」を突き付けられた形だ。

イランはIAEAを仲介役とする核交渉で、平和利用を条件に「ウラン濃縮の容認」を取り付けようとしてきた。
だが、決議が核開発自体の後退を求めたため、ラリジャニ国会議長は30日、「NPTの加盟国であっても、脱退しても(得られるものに)違いはない」と述べた。
ただ、アフマディネジャド政権にはこれ以上の国際的孤立を避けたい意向もあり、一部保守強硬派の反発にどこでブレーキをかけるかが次の焦点になる。【11月30日 毎日】
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このイランのウラン濃縮施設10カ所増設計画については、10カ所もの増設の必要性に疑問が残るほか、建設に必要な技術の裏付けに欠けるため、核専門家は「現実的とは考えられない」とみています。【同上】

【ガソリン禁輸】
今後の欧米諸国の追加制裁として、イランへのガソリン禁輸が検討されています。
ガソリン禁輸が現実のものとなると、イラン国内で、もともとインフレ対策などの経済対策での失敗を批判されているアフマディネジャド大統領の立場は、かなり苦しいものとなることが予想されます。

****イラン:格安ガソリンの割当削減 政府、追加制裁を前に****
イラン核開発問題を巡る交渉が行き詰まる中、米欧諸国が追加制裁としてイランへのガソリン禁輸を検討している。これに伴いアフマディネジャド政権は、予想されるガソリン不足も念頭に、格安ガソリンの「割当量削減」に乗り出す。格安ガソリンは膨大な国庫補助金に支えられているが、「補助金の見直し」も検討中で、追加制裁が実施されれば、国民生活への打撃は避けられそうにない。
屈指の産油国であるイランは、大量の石油を輸出する一方で、精製能力の不足などからガソリン消費の3割以上を輸入に頼る。ただ、ガソリンの販売価格は国の補助により、1リットル1000リヤル(約10円)と格安に抑えている。インフレが進む中でも、低価格のガソリンが庶民の足を支えている。
だが、ガソリン消費の増大に頭を痛めるイラン政府は07年に「割当制」を導入し、格安で購入できる量に制限を設けた。
こうした中、米欧で追加制裁論議が高まり、予想されるガソリン不足に対応するため、政府は先月、各家庭に対し現在の1カ月当たり100リットルの割り当てを80リットルに削減することを決定。今月下旬に導入予定だ。割当量を超えるガソリンは、4倍高い「市場価格」で買わざるを得ない。
政府は「ガソリン補助金」の見直しも進める意向で、そうなれば、価格の大幅上昇と国民負担の増大は必至だ。
テヘラン市内のガソリンスタンドで給油していた自営業のモウラディさん(22)は「通勤だけでもガソリンの割り当てが不足ぎみ。価格が上がれば金がない僕たちは車に乗れない」と嘆く。
6月の大統領選以降、政治の停滞に加え、インフレや高い失業率に対し、現政権への国民の不満は依然根強い。生活に身近なガソリン問題は、再び大規模な抗議行動にもつながりかねず、政権にとっても危険な「火種」になりそうだ。【12月2日 毎日】
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アフマディネジャド大統領は、こうした欧米諸国との決定的対立・追加制裁という事態を避けるため、IAEAの低濃縮ウランの持ち出し提案が出された当初、「核燃料の交換を歓迎する。西側諸国との協力への準備ができている」と語るなど、交渉に前向きな姿勢を見せていました。
しかし、その後の国内保守派の強硬論に押される形で、「段階的な搬出なら応じる」「外国が核燃料を提供するのが先だ」など後退を余儀なくされてきました。
イラン国内の政治情勢はよくわかりませんが、強硬論の高まりの背景には、アフマディネジャド大統領を政治的に追い詰める動きもあるのでは・・・とも思われます。

結局、アフマディネジャド大統領は2日、低濃縮ウランを国外に輸送して加工し、研究用原子炉の燃料として戻す計画について、「これ以上の交渉はしない。我々が必要なものはすべて自前で生産する」と述べ、拒否する考えを示しました。10月から再開した核交渉で模索された計画は白紙に戻った形で、年末を期限とした交渉は絶望的な状況となっています。

【イスラエル、ロシア、そして中国】
もっとも、“オバマ米政権は制裁強化をちらつかせながらも、交渉による問題解決に望みをつなぎたいのが本音だ。公言してきた年内をメドに、イランの真意に加え、中露による制裁強化への協力の可能性を見極める方針とみられる。”【11月30日 毎日】とも報じられています。
アメリカ政府高官は、27日の対イラン非難決議を採択後も、12月中は国連安保理常任理事国とドイツの6カ国による「緊密な協議」が続くとしています。
その背景としては、イランの核施設に対しイスラエルが軍事行動を起こす可能性がある中、イスラエルを刺激しないためにも、交渉による核問題の解決が望ましいとの考え方があるとか。
また、制裁へ移行するにしても、中露を含む「国際社会の団結」を得るためには、年内いっぱいの交渉継続が必要と判断しているとも。

ロシアはこのところIAEAの決議を支持し、制裁についても理解を示すなど、欧米との協調を強めています。
また、イラン南部にあるブシェール原発への技術協力でも、ロシアは予定していた年内の本格稼働の延期を発表。
さらに、高性能の対空ミサイルシステム「S-300」の売却契約についても、アメリカ・イスラエルの反対もあって、先延ばしにしています。
こうしたロシアの対応にイランは反発を強めており、アフマディネジャド大統領は、ロシアがIAEAの決議を支持したことを「情勢を見誤り、間違った行動をした」と、異例の批判を行っています。

追加制裁、ガソリン禁輸となると、注目されるのが中国の対応です。
中国は「制裁や圧力は問題を解決する方法ではない」(外務省報道官)との立場で、11月23日付の英紙フィナンシャル・タイムズは中国の国営企業が第三国を通じた貿易でイランの石油製品輸入の3分の1をまかなっていると報じています。

イラン国内の強硬派とイラン核施設攻撃を希望しているイスラエル、両サイドからの突き上げ。石油製品輸入で大きなシェアを占める中国の対応・・・こうした枠組みの中で、追加制裁を含めたギリギリの交渉が続きます。

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アメリカ  アフガニスタンへの3万人増派で、11年7月撤退開始・・・厳しいシナリオ

2009-12-02 22:17:32 | 国際情勢

(オバマ大統領のアフガニスタン増派に関するスピーチの中継を見るベトナム系の人々(またはベトナム人)“ベトナム化”する“オバマの戦争”をどう見るのか?“flickr”より By americancenter
http://www.flickr.com/photos/achanoi/4151943773/)

【「世界の安全保障の命運がかかっている」】
アメリカ・オバマ大統領のアフガニスタン増派がようやく発表されました。
アフガニスタン駐留米軍トップのマクリスタル司令官が今夏、4万人規模の増派を求め、オバマ政権と議会指導部で協議が行われてきましたが、アフガニスタン国内の大統領選挙をめぐる混乱、アメリカ国内のアフガニスタンでの戦争に対する支持の低下、一方で、アフガニスタンにおけるタリバンの攻勢によって、ここで増派しないと勝利は難しいとする現地軍の判断などもあって、オバマ大統領にとって難しい決断であり、それだけに時間を要しました。国内では、その判断の遅さへの批判もありました。

****アフガン米軍 11年7月撤退開始へ 大統領新戦略発表 半年で3万人増派*****
オバマ米大統領は1日夜(日本時間2日午前)、ニューヨーク州の陸軍士官学校で演説し、3万人の兵力増派と、2011年7月までに米軍の撤退開始を目指す、などとするアフガニスタン新戦略を発表した。演説でオバマ大統領は「(テロ組織の勢力が強い)アフガンの治安回復に、米国だけでなく世界の安全保障の命運がかかっている」と強調し、国民に増派への理解を求めた。

オバマ政権で、アフガンへの増派決定は3月の2万1千人に続いて2回目。今回の増派でアフガンに駐留する米兵は約9万8千人に達する。オバマ大統領は英国やドイツ、フランス、イタリアなどの同盟国に対して計1万人の増派を要請しており、アフガンに駐留して対テロ作戦などを任務とする国際部隊は14万人規模に上る見通しだ。

演説でオバマ大統領はアフガンでの戦いを続行する理由について「国際テロ組織アルカイダは、アフガンとパキスタン国境を自らの安全な隠れ家とし、パキスタンの核にも触手を伸ばしている。アルカイダを解体しなければ米国と世界の安全は保障されない」と指摘。さらに大統領は増派完了までの期間を半年とした上で、「増派でアフガン国軍の訓練にも力を入れるが、国を守る主体はアフガン政府であり国民。米国はアフガンのパートナーではあるが、スポンサーではない」と述べ、アフガンの自立を促した。
また、大統領は撤退時期を設定した理由について「アフガン政府に切迫感を持ってもらうためであり、(人件費だけで)300億ドル(約2兆6千億円)かかる戦費も無視できない」と強調。その一方で、国連と協力し農業支援などを推進していく考えを表明した。(後略)【12月2日 西日本】
**********************

マクリスタル司令官が求め、ゲーツ国防長官やマレン統合参謀本部議長も支持した4万人規模の増派には及びませんが、今回の3万人で10万人規模の兵力展開となります。3月の2万1千に合わせると、その半数以上をオバマ大統領が派兵決定したことになり、アフガニスタンの戦いは“オバマの戦い”となります。

【数と時間の問題】
この“オバマの戦い”が勝利に結びつくのかどうかについては、いくつかの疑問もあります。

アメリカの対ゲリラ戦略では住民1000人を守るには兵士20人が必要とされています。
その計算でいくと、アフガニスタン国民を守るためには67万人の兵力が必要とされています。
アメリカ軍約10万人に、NATO軍3万人、アフガニスタン軍15万人を加えても、大幅に不足します。
増派の目的として「武装勢力の掃討と、主要な人口集中地区の治安安定」に加えて、「有能なアフガン治安部隊の強化」を挙げられているように、今後、アフガニスタン軍・警察の育成がアメリカにとっての重要な課題となりますが、それでもアフガニスタン治安部隊の質の問題、絶対数の不足には懸念が残ります。

増派は来年1月から段階的に行われ、来年夏には完了するとされています。
追加部隊の配備には1年近くかかると言われていますが、かなりタイトなスケジュールです。
今回、泥沼化の懸念に対処するため、「出口戦略」として、“11年7月までに米軍の撤退開始を目指す”とされていますが、その撤退開始決定までに増派の成果を示せるか・・・時間的にはかなり厳しいものがあります。

【統治改善できない場合は?】
アフガニスタン政府が統治改善などで成果を出さなければ、派兵の延期や中止もありうるとされています。【12月1日 朝日】
ベトナムの経験からしても、国民の支持を失った腐敗政権をいくら支援しても成果はだせません。
しかし、アフガニスタンの大統領選挙をめぐる混乱を見ると、カルザイ政権が今後、腐敗・汚職を一掃し、統治改善の成果を示すというのは、あまり期待できません。
なお、ヒラリー・クリントン国務長官は、「現代的な民主主義による機能的な国家をアフガニスタンに築き、多くの素晴らしい手段でアフガニスタンの人びとを助けるなどと吹聴する時代では、もはやない」と述べ、米国のアフガニスタン政策は国際テロ組織アルカイダの撲滅であって、アフガニスタンに民主主義を根付かせることではないこと、オバマ政権における最重要課題は米国の安全保障であって、米国や米国民に対する攻撃をいかに防ぐことができるかということだと強調しています。【11月16日 AFP】
外国軍を受け入れ、誤爆などで犠牲を出しているアフガニスタン国民にとって、一体何のための戦いなのかという基本的な疑問にもなりますが、アフガニスタンに民主的な統治が根付くことについて、アメリカも諦めているようにも思えます。

【戦争税】
オバマ大統領も指摘している“(人件費だけで)300億ドル(約2兆6千億円)かかる戦費”も重大な問題となってきます。
ただでさえ、アメリカ国民のアフガニスタンでの戦争に対する支持は低下しています。
11月の世論調査では、アフガニスタンでの戦争を戦うことが「正しい」と考える米国民は48%で、10月調査の52%から低下、過半を割りました。
また、アメリカ国内では医療保険制度改革をめぐって、財政問題が論議されている時期だけに難しい問題となります。
有力議員の間からは“戦争税”の議論も出ていますが、税負担が表面化すれば、戦争への支持は更に低下するのではないでしょうか。

****米国:アフガン追加増派戦費2.5兆円 戦争税導入の声も****
アフガニスタン駐留米軍の追加増派を巡り、米国内で、莫大(ばくだい)な戦費への懸念が増大している。オバマ大統領は1日、3万人超とされる増派を発表する予定だが、米兵1人当たりの費用は年間100万ドル(約8600万円)で、新たに300億ドル(約2兆5800億円)以上が必要な計算となる。深刻な財政赤字を抱える中、「戦争税」の導入を訴える連邦議員もいる。
11月29日には複数の議員が米テレビに出演、「戦費議論」が沸騰した。財政赤字が09会計年度(08年10月~09年9月)に1兆4171億2100万ドルと過去最悪を記録。戦費をどうひねり出すかで苦慮しているためだ。
「歳出委員長として、連邦予算全体を見なければならない」。こう主張し「戦争税」導入を唱えたのはオビー議員(民主)。内政最大の課題である医療保険制度改革の費用が「10年間で9000億ドル」かかることを指摘し、アフガン戦争が長期化するならば、戦費の国民一律負担が必要だと説明した。
同じ民主党でも、レビン上院軍事委員長は「米国は不況の中にある」として、一律増税には反対。その代わり、年収25万ドル以上の富裕層を対象にした増税は議論の対象になるとの考えを示した。
追加増派に積極的な共和党も来年の中間選挙を控え、戦費の増大は重大な関心事だ。上院では近く、医療保険改革法案の審議が始まるが、重鎮のルーガー議員は「気候変動対策法案と同じように、審議を来年に先送りしてはどうか」と提言した。【12月1日 毎日】
**************************

なお、議会調査局によると、2001年以降の対テロ戦費の累計は10会計年度(09年10月~10年9月)の予算要求分を含めると、約1兆800億ドル(約95兆円)。うち約7500億ドル(約66兆円)をイラク戦費が、約3000億ドル(約26兆円)をアフガン戦費が占めているそうです。【11月25日 時事】
これだけの巨額の税金を戦争に費やすアメリカの“熱意”と“体力”には感心します。

【同盟国の協力】
今回の増派にあたって、“英国やドイツ、フランス、イタリアなどの同盟国に対して計1万人の増派を要請”とありますが、アメリカ国内でさえ支持が低下している戦争に、おいそれと同盟国も増派はしません。
今のところ、ブラウン英首相は500人規模の増派を公表しています。
サルコジ仏大統領は、オバマ米大統領が発表したアフガニスタンへの増派を「(オバマ大統領の)演説は勇気と決意に満ちた明快なものだ。これにより、国際社会による貢献に新たな弾みがつき、新しい展望が開かれた。(フランス)大統領はこれを全面的に支持し、アフガンの人々を助けたい国々にも支持を呼びかけている」と、歓迎することを表明はしていますが、速やかにフランスもこれに追随するとは言明していません。【12月2日 ロイター】仏政府高官は11月30日、「仏は(アフガンに)大きな貢献をしており、現在、増派の予定はない」とも語っています。

【大統領の責務】
イラクでの増派は効果をあげましたが、今回はどうか・・・?
最悪の場合、成果をあげられず、現地政権は腐敗が改まらず、アメリカ国民の支持は失われ、同盟国の支援も期待できず、財政負担はアメリカ経済の足かせとなり、撤退しようにもできない泥沼化・・・という危険も十分にあります。
それでも決断しなければならないアメリカ大統領の責務というのは、凡人には想像しがたいものがあります。

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中国  「G2論」を警戒、アメリカの元安批判には強気の姿勢

2009-12-01 21:31:01 | 国際情勢

(11月17日 会談するオバマ大統領と中国・胡錦濤国家主席
“flickr”より By rebuildingdemocracy
http://www.flickr.com/photos/32199758@N07/4136519118/)

【積極的なオバマ大統領、警戒する温家宝首相】
それを「G2」関係と呼ぶかどうかは別として、中国が米国債の最大の保有国であり、内需拡大に努めているものの、中国経済が対米輸出に大きく依存しており、両国は運命共同体的な関係になっていることは確かなことでしょう。
また、温暖化対策とか、北朝鮮やイランなどの“問題国”への対応において、米中の合意が不可欠であることも確かです。

ただ、こうした「G2」関係について、中国に国際社会における応分の役割を果たしてもらいたい、特にアフガニスタンを含めたアジア地域での指導的な力を発揮してもらいたいアメリカ・オバマ政権が積極的であるのに対し、中国国内には、身の丈以上の責任を押し付けられることを警戒する空気もあるようです。

****「米中のみ問題解決可能」 オバマ氏、G2化に積極姿勢****
ハンツマン駐中国米大使は11月20日講演し、オバマ米大統領が中国訪問前に「われわれ2カ国だけが(世界的な)問題を一緒に解決できる」と述べ、G2(二大国)化に積極姿勢を示していたことを明らかにした。中国の温家宝首相はオバマ氏との会談でG2化に賛成しない立場を表明したが、オバマ氏は中国に対し、ともに地球規模の問題解決を主導する役割を期待していることが鮮明になった。【11月20日 共同】
******************

オバマ米大統領と中国の温家宝首相が11月18日に北京で会談した際、温首相は、米中2大国が国際社会を主導すべきだという「G2論」について、「一つや二つの国が世界の問題を決められるわけがない」と否定しています。

【米中貿易摩擦と元安批判】
「G2」関係で国際社会を主導するか否かに関わらず、国際的な影響力を発揮し、国内での権力を維持していくためには、いずれの国も経済的繁栄が必要です。そして、経済的繁栄のためには、世界経済の枠組みの一員になることが必要であり、そのルールに従うことが求められます。

世界経済の重要なルールのひとつが公正な為替政策です。
貿易不均衡を抱えるアメリカ側には、中国の元安政策への批判が以前からあります。
中国への“配慮”から、ここのところあまり表面化していませんでしたが、またアメリカ議会で批判が高まっています。

****米製造業の苦境、議会で中国の人民元安に批判*****
米議会で中国の為替政策に対する批判が高まっている。
人民元安によって流入する安価な中国製品で米製造業が苦境に陥っている事態を放置できないという政治的な思惑が背景にあるとみられる。
米議会の米中経済安全保障見直し委員会が19日公表した年次報告書は「中国政府による強い介入で人民元は極めて過小評価されている」と批判し、米政府に「中国により柔軟な為替政策をとるよう迫るべきだ」と求めた。
米議会の公聴会でも政府の姿勢を問う質問が相次いでいる。グラスリー上院議員(共和)は20日、米財務次官補(国際金融担当)に指名されたチャールズ・コリンズ氏に対して「中国の為替操作は世界経済の回復を妨げている。どう対応するつもりか」と不満をぶつけた。
来秋の中間選挙を控えて産業界支援を打ち出したい米議会が批判の矛先を中国に向けた側面もありそうだ。【11月22日 読売】
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かつて、アメリカのベトナム戦争などによる財政赤字、日本・ドイツなどの膨大な貿易黒字は従来の為替制度維持を困難にし、日本はアメリカとの貿易不均衡による“日米貿易摩擦”という形で、国内産業政策に関してアメリカから強い要請を受けたこともあります。結果的に、膨大な貿易不均衡のもとでは固定相場制は維持できず変動相場制制に移行し、自動車輸出に対するアメリカからの批判に対応して、輸出規制やアメリカでの現地生産に切り替えることになりました。

当時の印象としては、あまり努力もしていないアメリカ側の日本への“理不尽な要求”という感もありました。
元安政策はかなり中国当局の意図的な政策のようにも思えますが、それでも中国は強気の姿勢を崩していません。アメリカ側の要求に配慮せざるを得なかった当時の日本とは、現在の中国は立場が異なります。

【温家宝首相、批判を一蹴】
****中国・EU会談 「元高圧力は不公平」 温首相、異例の“米批判”****
中国の温家宝首相は30日、江蘇省南京で欧州連合(EU)との定期首脳会合を行い、EU議長国、スウェーデンのラインフェルト首相や欧州委員会のバローゾ委員長や、人民元問題や地球温暖化対策について論議した。会合後の記者会見で温首相は、「一部の国は中国に対し貿易保護主義で臨む一方、人民元上昇も求めている。これは不公平で中国の発展を妨げている」と元高圧力を牽制(けんせい)した。米国を念頭に置いた発言とみられ、EUと天秤(てんびん)にかける政治的な駆け引きを始めた可能性もある。

巨額の対中貿易赤字に苦しむEU側は会合で、安すぎる人民元相場が不均衡の一因と指摘した。だが温首相は会見で、「安定した人民元相場が中国経済の発展だけでなく世界経済の回復に寄与している」として一蹴(いっしゅう)。さらに、「(元高の圧力を加える)一部の国は中国の発展を押さえ込む意図を持っている」と語気を強めて、2人のEU首脳を会見に同席させながら、“対米批判”とも受け取れる異例の発言を繰り広げた。

金融危機で輸出が低迷する中、中国は昨年来、人民元を1米ドル=6・83元前後でほぼ固定している。温首相が相場安定にこだわるのは、元高に応じれば、中国にとって本格的な景気回復に欠かせない輸出振興の妨げになるとの判断に加え、金融危機で地盤沈下した欧米からの圧力を押し返す政治的パワーを得たことを示すためだ。
一方で温首相は、「主体的に人民元相場のメカニズムを改善し合理的でバランスの取れた水準で人民元の安定を保つ」と改革の余地があることも示唆した。
会見でEU側は、人民元や人権問題について「懸念を持っている」(ラインフェルト首相)と述べるに止まり、協議の主導権を中国に握られたことを色濃くにじませる結果になった。(後略)【12月1日 産経】
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【“主体的”な改善】
“2人のEU首脳を会見に同席させながら、“対米批判”とも受け取れる異例の発言を繰り広げた” 温家宝首相の強気な姿勢は、現在の中国経済への自信のあらわれでしょう。
“日米貿易摩擦”の記憶からすると、うらやましいところもありますが、“主体的”な改善の余地もあるそうですから、世界経済システムを麻痺させないような、責任ある大国の対応を期待したいものです。
結局は、そうした世界経済システムの維持・発展が中国自身の利益にもつながることかとも思います。
当然、そういう対応を引き出すためには、それなりの働きかけが必要なことは言うまでもないことですが。

先のオバマ訪中について、“オバマ、胡錦濤両首脳の記者会見は、オバマ氏の低姿勢ぶりが目立った。かつて訪中した米国の大統領は、中国の人権抑圧や人民元レートを含む通商問題などで改善を迫ったものだが、オバマ氏はチベット問題でも対話を促すにとどめ、為替問題にも踏み込まなかった。”【11月18日 産経】といった、オバマ大統領の“低姿勢”を批判する論調が日本でも、アメリカでも多いようです。

しかし、それは“高圧的姿勢”でなければアメリカの威厳が保てないという考えの裏返しのようで、いかがなものかと思いますし、中国は“面子”を重んじる国でもあります。“低姿勢”だろうがなんだろうが、協議・交渉の途が開け、結果として成果がだせるなら、それはそれで。
個人と個人の関係でも、公衆の面前で相手の欠点をあげつらって、良い関係が結べることはありません。
そういう当たり前のことが、国と国との関係になると、国家の威信とかが絡んで見えなくなってしまうのは愚かしいことです。

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