孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  北アフリカからの難民増大に、国境審査の復活承認の方針

2011-06-20 21:54:25 | 世相

(ヨーロッパにたどりついた北アフリカ難民 受難は更に続きます “flickr” By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5717810280/

【「ただ、働くための、自由を手にするための安全な場所が欲しいだけなのだ」】
きょう20日は「世界難民の日」だそうです。
****世界の難民・避難民4370万人、過去15年で最多****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、「世界難民の日」にあたる20日、「グローバル・トレンド(世界の傾向)2010」と題する報告書を発表した。2010年末現在、紛争などで強制的に移動させられた難民・避難民は約4370万人で、過去15年で最多となった。

19日には、グテレス難民高等弁務官とUNHCR親善大使の米女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、イタリア南部ランペドゥーサ島と島国マルタを訪れ、難民たちと面会した。
今年に入ってからチュニジアやリビアなどから4万人以上が流れついており、ジョリーさんは「どこの国に行きたいという人たちではない。ただ、働くための、自由を手にするための安全な場所が欲しいだけなのだ」と話した。【6月20日 朝日】
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【「飢えた分別のないアフリカ人が大量に流入してきても、ヨーロッパは進歩的で統一された大陸のままでいられるだろうか」】
北アフリカの民主化運動に伴う騒乱や政変で、対岸のイタリア・ランペドゥーサ島に多くの難民が命がけで押し寄せていること、その受入れを巡ってイタリアとフランスなど周辺国の間で“厄介者の押し付け合い”がなされたことは記憶に新しいところです。(4月18日ブログ「イタリアに押し寄せるチュニジアからの不法移民、フランスはイタリアからの受入れを拒否」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110418)でも取り上げています)

こうした北アフリカからの難民には、リビア・カダフィ政権によって銃で脅され強制的に海上に追いやられた人々も少なくないようです。
下記は北アフリカ難民の置かれた状況を伝えるNewsweek記事の抜粋です。

****革命難民」を待つ地中海の受難****
北アフリカの貧困と騒乱を逃れ、命.懸けで海を渡りヨーロヅパを目指す難民たち たどり着いた彼らを待つ新たな苦悩とは

・・・・北アフリカからヨーロッパに渡ろうとして命を落とす人がどれだけいるのか、正確な数は誰も知らない。密航船に乗客名簿はなく、当局にできるのは船の規模から人数を推測することぐらいだ。それでも今年が最悪の
年になりそうなのは確かだという。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、過去2ヵ月だけで少なくとも1600人の難民が地中海で命を落としたと推定している。

ランペドゥーザ島の岸辺は打ち上げられた難破船の残骸で埋まっている。よほど死亡者が多いのだろう、遺体が漁船の網にかかることもたびたびだ。しかし当局に報告すると面倒な手続きが必要なため、漁師たちは遺体をそのまま海に戻すことが多い。(中略)

実を言えば、こうした移民(とそれに伴う死者)の大幅な増大は予見できた。ヨーロッパを目指すアフリカの人たちにとって、リビアは主要な中継地だ。そしてヨーロッパの指導者たちは最近まで、同国の最高指導者ムアマル・カダフィを支援してきた。カダフィが、ヨーロッパヘのアフリカ難民の流入を「調整」していたからだ。
昨年ローマを訪問したカダフィは、このことで露骨に脅しをかけてきた。「飢えた分別のないアフリカ人が大量に流入してきても、ヨーロッパは進歩的で統一された大陸のままでいられるだろうか。(かつてのローマ帝国のように)蛮族の侵入で滅んでしまうのではないか」

カダフィの復讐の犠牲に
NATOによるリビア空爆が始まると、カダフィはヨーロッパに「かつてない数の不法移民を解き放つ」と宣言。以後、リビアからの密航船が押し寄せ始めた。
今年の1~5月だけで、昨年の10倍以上にあたる約4万5000人がランペドゥーザ島に漂着。近くのシチリア島、サルデーニヤ島にも大勢の難民が流れ着いている。(中略)今のリビア内戦が長引けば、さらに何十万人もが絶望的な船旅に出ることだろう。

こうした難民の中には、経済的なチャンスを求めてヨーロッパを目指す「経済難民」もいる。チュニジアやエジプト、そしてリビアの政変や動乱を逃れて脱出してきた人もいる。だが複数の人権団体の報告によれば、カ
ダフィ派の兵士たちは住民を銃で脅して無理やり密航船に乗せ、大量に送り出している。

UNHCRと民間援助団体セーブ・ザ・チルドレンの担当者が生き残った難民たちから間いた話によれば、兵士たちは無作為に選んだ人々に航海の指示書を渡し、船を海へと放り出す。人道上の大惨事を引き起こして、ヨーロッパの「かつての友好国」にさらなる圧力をかけることが狙いだろう。(中略)

フランスの冷淡な対応
ランペドゥーザ島は昔からアフリカとヨーロッパをつなぐ中継地として利用されてきた。しかし、今年に入ってこの島に押し寄せる難民が急増した。昨年12月に始まったチュニジアの騒乱が第1波の流入の引き金となった。騒乱はエジプトに飛び火、2月末頃から第2波の流入が始まった。エジプトにいたサハラ砂漠以南の国々の出稼ぎ労働者がどっと逃れてきたのだ。さらに3月にはNATOがリビア空爆を開始、第3波の大量流入が始まった。

ジュネーブ条約では、政治難民はたどり着いた国の庇流下に置かれることになっているが、経済難民は本国に送還できる。イタリアはチュニジアと交渉し、3月に経済難民の流出を阻止するという約束を取り付けた。以後、チュニジアからの難民の半数以上が本国に送還された。
残りの難民には半年間の短期滞在ビザが与えられた。この査証があれば、イタリア国内を自由に移動できる。イタリアやフランスを含むEUの大半の国々は、域内での国境を越える移動の自由を認めたシェングン協定を結んでいるので、建前上はそれらの国々へも行けるはずだ。

フランス語圈のチュニジアからの移民は、大半がフランスを目指す。そのためフランスは難民の急増を警戒し、イタリアとの国境の警備を強化し始めた。これについて、シェングン協定違反ではないかと激しい議論が起きている。
セシリア・マルムストローム欧州委員(内務担当)は、「(EU)域外との国境に想定外の大きな圧力がかかるなど、極めて例外的な状況」では、EU各国は自国の国境管理権を回復できるとの解釈を示した。
これに対して、イタリアが猛反発。ロベルト・マローニ内相は「こんな友人なら、独りぼっちのほうがいい」と、EU離脱まではのめかした。難民危機への対応をイタリアだけに押し付けるなというメッセージだ。

ランペドゥーザ島の難民は一時期1万人を超え、島は難民であふれ返った。定員800人の収容施設には約3000人がすし詰めになり、建物からあふれた人たちはトラックの下にビニールシートを敷いて雨をしのぎ、そこを寝場所にしていた。(中略)

今では、島に長く滞在する難民はほとんどいない。島の施設に残っているのは女性と子供だけだ。そのほかは島に到着後24時間以内にフェリーでイタリア本土に送られ、各地の収容施設に入れられる。収容施設と言ってもにわか仕立てのキャンプや軍の基地を利用した場所が多く、どこも満杯で、お世辞にも住みやすいとは言えない。

活路はここにしかない
難民たちは鉄条網のフェンスに囲まれた収容施設で、難民認定の審査結果を持つ。政治難民と認定されなければ短期滞在のビザを与えられるか、強制送還かだ。

ランペドゥーザ島から本土に渡った難民の多くが、まずはフランスとの国境の町ベンティミリャを目指す。23歳のファケル・ガゼルもそのI人。チュニジアの騒乱で兄が亡くなり、2月にランペドゥーザ島に渡って、そこから1000キロ以上北のベンティミリャまで、2ヵ月近くかけてたどり着いた。

短期滞在のビザがあればフランスに入国できるはずだが、いまだにベンティミリャで足止めされている。毎晩ニース行きの夜行列車に乗り込むが、そのたびに警棒を手にしたフランス人警官につまみ出されるという。北アフリカからの難民の入国を防ぐため、警官が列車内を巡回しているのだ。(中略)

ラバアリの仲間に、チュニジアのホテルで働いていた33歳のターレ・タビがいる。動乱で観光客の足が途絶え、失業した彼は「家族の貯金を持ち出してこっちに来た。生活のめどが立ったら家族を呼びたい」と話す。「革命前は、ヨーロッパで暮らそうなんて思ってなかった。でも、もう後戻りはできない。ここで踏ん張るしかない」
バービー・ラッツァ・ナドー(ローマ)【6月22日号 Newsweek日本版】
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長い記事のため大分割愛しましたが、本当は、省略した個々の事例にこそ事態の真実が現れているとも言えます。

国境審査「例外的に復活できる」】
5月、EUは北アフリカからの難民流入に対応するため、欧州の25カ国間で各国民の自由移動を認めた「シェンゲン協定」について、一時的に国境での入国審査の復活を認める改定案を基本承認しています。

****シェンゲン協定改定 国境審査の復活承認 EU、難民問題で****
混迷が続く中東・北アフリカからの難民流入に対応するため、欧州連合(EU)は12日、ブリュッセルで開いた内相理事会で、欧州の25カ国間で各国民の自由移動を認めた「シェンゲン協定」について、一時的に国境での入国審査の復活を認める改定案を基本承認した。欧州では反移民政党が台頭する中、欧州統合の象徴である「人の自由移動」を制限する動きに警戒感も出ている。

内相理事会では、大量の難民流入などが起きた場合に限り、「最終手段」として協定加盟国が一時的に国境での入国審査を復活できるとした欧州委員会の改定案を賛成多数で支持した。公共の秩序や安全に深刻な脅威を与える場合に国境審査の実施を認めている同協定の例外規定を拡大した。
ただ、欧州委員会の承認が必要とする多数意見に対し、ドイツやフランスは各国の判断で実施できると主張しており、最終結論は6月24日のEU首脳会議に委ねられた。

シェンゲン協定は、旧西ドイツ、フランスなど5カ国が1985年と90年に、国民の自由移動を認め合うことなどで合意。ルクセンブルクのシェンゲン村近くで署名されたことから命名された。現在はEU加盟27カ国のうち22カ国と、スイス、ノルウェー、アイスランドの計25カ国が実施している。

しかし、チュニジアとエジプトの政変に続き、リビアでは内戦が激化。地中海を渡ってイタリアやマルタに逃れる難民が2万5千~3万人に上った。
さらにイタリアで滞在許可証を得たチュニジア難民が旧宗主国フランスを目指したため、フランスが国境を一時閉鎖する騒ぎも起きた。
このため、サルコジ仏大統領とベルルスコーニ伊首相は4月26日、シェンゲン協定を改定する必要性があるとの認識で一致し、EUに働きかけていた。

一方、シェンゲン協定加盟国のデンマークは11日、密輸対策の一環として、隣国のドイツやスウェーデンとの国境で抜き打ちの税関検査を復活させると発表。デンマークでは移民排斥を唱えるデンマーク国民党が政策決定における影響力を増しており、欧州委員会からは同国の真意をいぶかる声も出ている。
欧州では反移民政党が勢力を拡大、少数民族ロマを多く抱えるブルガリアやルーマニアのシェンゲン協定加盟も予定より大幅に遅れている。【5月14日 産経】
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正式決定は23~24日の首脳会議においてなされますが、上記記事の改定案に沿う形で、域内での国境審査の条件付き復活を容認する方針が確認されています。
****EU、国境審査容認へ 中東政変で移民急増****
欧州連合(EU)は、アラブ諸国での民衆蜂起と政変拡大に伴って出稼ぎ移民がEU加盟国に大量に流入した事態を受け、域内での国境審査の条件付き復活を容認する方針を固めた。
23~24日の首脳会議で加盟27か国の首脳が合意する見通し。
本紙が入手した首脳会議の議長総括案は、域外との境界を抱える加盟国が国境管理に失敗した場合、「シェンゲン協定」(欧州25か国が参加)に基づいて撤廃されている国境での旅券検査などを「例外的に復活できる」としている。【6月19日 読売】
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ロシア  メドベージェフ大統領、秩序優先の「プーチン型」経済の転換を主張

2011-06-19 19:54:10 | 国際情勢

(こちらは政府公認(多分)のツーショット写真 前回大統領選挙後の08年9月頃のものです。“flickr”より By mima11vladimir http://www.flickr.com/photos/mima_vladimi_dev/2877424690/

ロシア政府はポスター撤去を命じた
ことあるたびに2トップの親密な関係をアピールするような写真を流すロシア。「今回はテニスルックかよ・・・・」と思ったのですが、ちょっと事情が違ったようです。

****ロシア2トップ、テニスルックのポスターが街に出現*****
ロシアの首都モスクワ中心部の数か所にドミトリー・メドベージェフ大統領とウラジーミル・プーチン首相のロシア政界2トップがテニスルックでポーズをとった制作者不明のポスターが出現し、政府は30日、撤去を命じた。

モスクワ中心部にある高級百貨店ツム周辺に出現したポスターには、テニスラケットを握るメドベージェフ氏と、その横で何も持たずシリアスな表情のプーチン氏が、白いテニスウエア姿でダブルスのペアよろしく並んでいる。シャツの胸にはそれぞれMとPのイニシャルが縫い付けられている。(中略)

ロシア政府は30日中にポスターを撤去するようモスクワ市に命じた。ドミトリー・ペスコフ首相報道官はインタファクス通信に「明らかに商業的な」ポスターで「違法行為に近い」と批判した。
ポスターには「Monolog.tv」というウェブサイト名と、制作者のアーティストのメールアドレスも入っていた。AFPが取材したところ、氏名を明らかにすることを拒んだこのアーティストは電子メールで「ストリートアートだ」と答えた。「この国で最も有名な2人を登場させたんだ。しかも、ファッションやショービジネスとはまったく関係のない2人をね。われわれは普段、プーチンとメドベージェフを堅物だと思っている。彼らをトレンドにも敏感で生き生きとしたライフスタイルの、ファッショナブルでリラックスした人物に見せたかったんだ」(後略)【5月31日 AFP】
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肖像権などの問題はともかく、普段から似たようなシーンを公表しているロシア2トップですから、何も撤去させることもないのに・・・とも思ったりもしますが、来年3月の次期大統領選挙が近づいてきたこの時期、何かまずいことがあるのでしょうか?

来年3月 次期大統領選挙
次期大統領選挙にどちらが出るのか・・・という、いささか手垢のついた話題については、両者とも依然として明言を避けています。下記記事も、要は“わからない”ということのようです。

****露大統領 出馬明言避ける****
ロシアのメドベージェフ大統領は18日、国内外の報道陣を集めた初の大型記者会見を開き、来年3月の大統領選に再選出馬するかについて「決定は全ての前提条件が整い、政治的効果があるときになされるべきだ。近く別の形で表明する」と明言を避けた。注目された出馬問題の先送りはプーチン首相(前大統領)が依然「双頭政権」の実権を握っているとの見方を裏付けるもので、プーチン氏の大統領返り咲きを含めて臆測を呼ぶ展開が続きそうだ。

大統領は最重要課題に掲げる経済「近代化」について「プーチン首相が考えているよりも迅速に達成できる」などと両者の相違を指摘。ただ、プーチン首相とは「同志」の関係であり、「重要な問題では大変近い考え方だ」と一部で報じられる“不和”は否定した。

次期大統領選をめぐっては、プーチン氏が与党「統一ロシア」を核とした国民運動体「全露人民戦線」の創設を発表し、権力基盤の強化に動いている。選挙には「双頭」の一方が合意の上で出馬し当選するとの観測が強いものの、会見でメドベージェフ氏は自らが独自の政治勢力を率いる可能性も排除しなかった。【5月19日 産経】
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【「経済への国家関与の時代は去った」】
メドベージェフ大統領は、ロシア政治・経済の現代化を主なテーマとして掲げており、そこに自分の存在意義をアピールしています。ただ、政治面はプーチン首相の構築している枠組みを大きく踏み出すことは困難なようです。経済面では、これまでも構造変化の必要性を訴えています。

****秩序優先の「プーチン型」経済からの転換促す ロ大統領****
ロシアのメドベージェフ大統領は17日、サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムで演説し、「我々は国家資本主義はとらない。経済への国家関与の時代は去った」と述べ、自ら提唱する「現代化」路線の推進を訴えた。ソ連崩壊後の1990年代の経済混乱を安定させ、秩序を優先した「プーチン型」経済の転換を事実上促すものだ。

同大統領は、91年末のソ連崩壊で生まれた新生ロシアを「若い20歳」と表現し、「国家の役割強化で発展する段階があった。90年代のカオスを治めるため、それは一定期間は必須だった」と指摘。00年から2期8年間大統領を務めたプーチン氏(現首相)の経済政策をそう位置づけた。
さらに、「汚職や投資の閉鎖性、国家の過剰な経済関与、中央集権主義は将来への負債だ。これらを解消しなければならない」と述べ、欧米との統一経済空間をつくる必要性を説いた。【6月17日 朝日】
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「我々は国家資本主義はとらない。経済への国家関与の時代は去った」との発言は、従来からの“資源依存からの脱却、イノベーション重視”の主張と基本は同じですが、その表現は、秩序を優先した「プーチン型」経済の否定、やや踏み込んだ“自己主張”ともとれますが・・・どうでしょうか。

世界銀行も、プーチン時代にロシアの国際競争力が低下したことを先日報告しています。

****ロシアの国際競争力、プーチン大統領時代に低下 世銀報告****
世界銀行は8日、ウラジーミル・プーチン現ロシア首相が大統領だった時代を中心とする10年間にロシアの国際競争力は低下し、いまではBRICS諸国の中でも影が薄いとする報告を発表した。
旧ソ連国家保安委員会出身のプーチン氏は2000~2008年にロシア大統領を務め、民営化されていたさまざまな産業の再国営化を進めたが、このプーチン政権下の政策に関する批判は珍しい。 

一方で世銀はプーチン氏の後継者、ドミトリー・メドベージェフ大統領が提唱するイノベーション(技術革新)を刺激しようという政策を支持した。
2012年の次期ロシア大統領選にはプーチン氏、メドベージェフ氏ともに出馬が有力視されている。

世銀の報告書はプーチン大統領時代について、石油とガスを中心とする基本的な品目の輸出への依存が膨らんだと指摘し、その原因の1つとして、国内市場が非競争的で労働生産性も低く、先進国への輸出で有利な品目をほとんど生産しなかったことを挙げている。

■輸出の大半は一次産品と武器
大統領選を視野に有権者との会合を重ねているプーチン氏も6日、若者たちとの会合で「基本的にわが国は、非軍事分野にはほとんど投資してこなかった」と認めた。
世銀では、2000~08年にロシアの輸出の伸びが失われたと指摘した。この時期はプーチン氏の大統領時代と重なり、ロシアと合わせてBRICSと呼ばれるブラジル、インド、中国、さらにこれに最近加えられた南アフリカ共和国が国際舞台で大きく踏み出していた。
 
プーチン氏が大統領1期目を務める以前から、石油と天然ガスがロシアの輸出の半分以上を占めていたことは世銀も承知している。世銀によるとこの割合は最近ではさらに増え、この2品目だけでロシアの輸出の3分の2を占めるに至り、金属や木材といったほかの天然資源も合わせれば約8割に達する。残る2割の大半は武器だという。
「ロシアではサービス輸出が減退している(99年にGDP比11.4%だったが08年は同7.6%)点が、BRICS諸国の中では特殊」だと世銀は指摘している。

報告書は、現在メドベージェフ大統領が進めている「競争とイノベーション」政策を生産性改善と組み合わせれば、長期的な成長につながる可能性があると結論付けている。【6月9日 AFP】
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【「ロシアはエリツィン氏に感謝すべきだ」】
ところで、“90年代のカオス”を主導したとしてロシア国内ではすこぶる評判の悪いエリツィン前大統領について、再評価の兆しもあるとか。
2月に行われたエリツィン像の除幕式には、メドベージェフ大統領が参加したそうです。

****エリツィン氏の“再評価*****
【ソ連崩壊20年 解けない呪縛】第3部 強権への序章(上)
ロシアの初代大統領、故ボリス・エリツィン氏(1931~2007年)が故郷ウラル地方・スベルドロフスク州の「名誉州民」になったのは、没後3年近くもたった昨年1月のことだった。州都エカテリンブルクに白い大理石のエリツィン像(高さ10メートル)が完成したのは、生誕80年にあたった今年2月である。

政権末期の1990年代末には支持率が数%にまで落ち込み、不人気だったエリツィン氏にようやく“再評価”の光が当たり始めたようにも見える。
2月のエリツィン像の除幕式にはメドベージェフ大統領が駆けつけ、「最も困難な時期に国の改革が行われ、今日の前進があることについて、ロシアはエリツィン氏に感謝すべきだ」と述べた。(中略)

・・・・「エリツィン氏のおかげで90年代には中小ビジネスが発展し、言論の自由もあった」。(当時を知るエカテリンブルクの新聞記者)ベリャエフ氏はこう語る一方で、「しかし現在のエリツィン再評価は住民に発したものではない。エリツィン関連の記事に寄せられる反響の9割はエリツィン批判だ」と話す。(中略)
 
◆正当化された強権
国民がエリツィン氏を熱く支持したのはしかし、ここまでだった。
モスクワの独立系世論調査機関、レバダ・センターのドゥビン社会・政治研究部長(64)は「92年にはもうエリツィン人気が下がり始めていた」と話す。
ドゥビン氏は支持率急落の理由として、(1)「ショック療法」と呼ばれた急進的経済改革(2)共産党優位だった議会との不断の対立(3)第1次チェチェン戦争-を挙げる。特に「価格の自由化」と国有企業の「民営化」を柱としたショック療法は、ハイパー・インフレや貧富の格差急拡大を招いて強い反発を買った。

98年の金融危機と自身の健康悪化も重なり、エリツィン大統領は99年末、KGB(ソ連国家保安委員会)出身のプーチン氏(前大統領・現首相)を後継者に指名して退任。プーチン氏は「安定」を望む国民心理を逆手にとって強権統治を推し進め、それが多数派の支持も得ることになる。

◆あくまで政治主導
エリツィン氏は「ロシアを大事にしてくれ」と言い残してクレムリンを去った。
エリツィン政権初期のナンバー2だったブルブリス元国務長官(65)は「大事にすべきロシアについて、プーチン氏の考え方は違った」「出来上がったのはプーチンの個人権力体制であり、プーチンを後継者に指名したことは大きな過ちだった」と話す。

政権が今になってエリツィン氏を“再評価”してみせるのは、90年代と2000年代の「断絶」を糊塗(こと)し、民主化を後退させた自らを正当化する思惑からだろう。ブルブリス氏は、一応の「安定」を得た政権が「停滞」を危惧し始めたことが改革者・エリツィンを見直す背景にあるとみる。
ただ、“再評価”はあくまでも上からの政治主導である。(後略)【6月19日 産経】
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ロシア経済の現代化を掲げるメドベージェフ大統領の立ち位置は、国家統制型のプーチン首相より、急進的経済改革を目論んだエリツィン前大統領に近いようにも見えます。
エリツィン像の除幕式に駆け付けたメドベージェフ大統領の胸中は・・・?
どこまで行っても“?”で終わる話ではありますが。

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ロシア・チェチェン  進む復興、消えない民族対立

2011-06-18 20:17:36 | 国際情勢

(写真は1996年、第1次チェチェン紛争当時の首都グロズヌイのように思われます。チェチェン独立宣言5周年を祝って踊るチェチェン女性と分離独立派兵士 “flickr”より By kathleen_kuzma http://www.flickr.com/photos/57810463@N05/5414510374/

カドイロフ政権下で様変わりしたチェチェン 復興と不満
ロシアにおけるテロ問題の根源とされてきたチェチェン共和国は、人□約120万人、面積は四国ほどの大きさです。 19世紀にロシア帝国に併合され、ソ連末期の91年に独立を宣言。新生ロシアのエリツィン政権が独立阻止に動き、独立闘争にイスラム武装勢力が入りロシア軍との2度の戦闘が泥沼化しました。
エリツィン政権のもとで、対チェチェン強硬策を主導したのがプーチン首相で、この成果がその後の権力基盤の源となりました。

かつてテロの嵐が吹き荒れたチェチェン共和国は、現在はプーチン首相を後ろ盾とするカドイロフ首長のもとで、落ち着きを取り戻していると言われています。
ただ、チェチェンの平穏は、カドイロフ首長が強権的に住民不満を抑え込んでいるにすぎないとの指摘や、チェチェンで抑圧されたテロは北カフカスの他の地域に拡散し、北カフカス全体の“チェチェン化”を招いたに過ぎないとの指摘もあります。
また、カドイロフ首長の進めるイスラム化への懸念もあります。

****復興進むチェチェン****
ソ連崩壊後の1990年代、ロシアからの独立を目指し、2度の戦争で廃虚と化したチェチェン共和国。首都グロズヌイは中央政権が底上げに取り組む北カフカスを象徴する街だ。今や安定して変貌を遂げ、まるで中東のイスラム諸国のような空気に包まれていた。

首都にブランド店
ドゥンガ、カフー、ペペットー。サッカー元ブラジル代表の名選手らのプレーに観衆が沸いた。3月8日。「グロズヌイ・テレク対ブラジル選抜」と銘打った親善試合のスタジアムが1万5千人で埋まった。
主役は別にいた。チェチェン共和国のラムザン・カドイロフ首長(34)だ。自らも試合にフル出湯し、2ゴールを決めた。ハーフタイムにはピッチで伝統のダンスも披露した。試合は4対6で「敗れ」たが、1994年にワールドカップ優勝を経験したメンバーらを誘致。物心両面で内外に力を誇示した。

ロシアは昨年、18年のワールドカップ開催権を勝ち取った。首長は地元への試合誘致を狙っている。そのため、04年に父親が爆弾テロで犠牲になった舞台となった同じ競技場で「安定」を演出した。
プーチン前大統領(現首相)の後ろ盾を得たカドイロフ政権下で、チェチェンは様変わりした。「荒廃」のイメージはもうない。08年にできた欧州一とされる巨大モスク「チェチェンの心」の先には、最高47階建ての高層ビル群が今夏の完成をめざして建設中だ。(中略)

戒律強化たまる不満
2年前に訪れたグロズヌイとの変化を感じた。ホテルでも酒が飲めなくなった。さらに、ほとんどの女性がスカーフ姿になった。カドイロフ首長は実態としてイスラムの伝統を体現させていた。

酒類は今、午前8~10時以外の販売は禁止だ。連邦法で、地方は販売時間をゼロにはできないため、最低限の2時間を導入した。だが、事実上の禁酒法だ。
スカーフも「強制していない」と政権側は言う。だが、ある女子学生は「嫌がる女性は少なくない。年々厳しくなっている」と明かした。商業施設には「イスラムは平和の宗教」との標語が掲げられ、女性客の多い「プーチン大通り」の百貨店にはコーランの言葉がいくつも掲示されていた。(中略)

中央政府は今年、チェチェンに640億ルーブル(約1800億円)の予算を投入。若者がテロ組織へ流れる温床となってきた高い失業率も、09年は45%、10年は35%と改善傾向にある。
ただ一方で、酒もたばこも事実上禁じられ、若者の不満は蓄積されつつある。
ロシア帝国時代から抑圧されてきたチェチェンは、独立を封印する代わり、イスラムの伝統を復活させる自由を得た。カドイロフ政権がもたらす安定の享受と、イスラムの規律強化でくすぶる不満。そのバランスが、今後の鍵を握る。

首長「法なければ秩序なし」
カドイロフ首長はサッカーの招待試合の前日、外国メディアと会見した。エジプトなど中東で起きた反体制デモについて「我々からは遠く離れており無関係だ。デモの参加者はイスラムの民衆を感わせている。法規がなければ秩序がなくなる」と強調した。
チェチェンでは09年春に「対テロ作戦ゾーン」指定が約10年ぶりに解除され、「テロの問題はもう存在しない」とも強調した。

しかし、テロは周辺の共和国に拡散した。37人が死亡した1月のモスクワ空港爆発テロで犯行声明を出したイスラム武装勢力のドク・ウマロフ指導者の存在が指摘される。「バサーエフ(チェチェン武装勢力の野戦司令官)を殺害し、我々はテロに勝ってきた。いずれウマロフにも手が届く」
イスラム化を強めているとの欧米メディアの批判については「スカーフ着用の強制などはしていない」と反論。「我々は獣ではない。目で見たことを書いてほしい」と注文をつけた。(グロズヌイ=副島英樹)【4月14日 朝日】
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人権侵害の象徴でもあった元ロシア軍大佐が射殺
チェチェンが表面上安定化しても、民族対立の問題が解消した訳ではありません。
また、人口減少が続くロシアにあって、チェチェンを含む北カフカス地域は人口増加が著しい例外地域ですが、最近ではモスクワなど大都市に流入する北カフカス出身の出稼ぎ者と、地元若者との衝突といった新たな問題も生まれています。

****根深いチェチェン民族対立 少女殺害の元露大佐射殺*****
ロシアからの独立機運を封じ込めるために1999年、ロシア軍が進攻した第2次チェチェン紛争時に現地の少女を殺害したとされる元ロシア軍大佐が、モスクワで何者かに射殺される事件が起きた。ロシア南部チェチェン共和国出身者による報復という説のほか、民族同士の反目をあおる狙いで殺害した-との見方も出ており、民族対立の根深さを改めて示している。

殺害されたのはブダノフ元ロシア軍大佐(48)。10日、モスクワ市内で頭に4発の銃弾を撃ち込まれて死亡した。銃撃犯は1人で、逃走車両を運転していたのはスラブ系だったとの証言もある。
ブダノフ元大佐はチェチェンに駐留中の2000年、チェチェン人女性=当時(18)=を誘拐して暴行、殺害した疑いで逮捕された。国営ロシア通信によると、軍事法廷では精神鑑定が行われて責任能力がないとの判定も出たが、03年には禁錮10年の判決が言い渡されるなど曲折をたどった。09年には、チェチェン住民の反発にもかかわらず保釈された。

事件は、チェチェン紛争でロシア軍兵士が多数の人権侵害を行っている証しとみなされ、注目を集めた。13日にモスクワ郊外で営まれた葬儀には、ロシア民族主義者ら千人以上が参列した。
モスクワなど大都市ではチェチェンを含む北カフカス出身の出稼ぎ者の流入が続き、住民との対立が先鋭化。クレムリンに近いモスクワ中心街では昨年12月、民族主義者が暴徒化しメドベージェフ大統領らが自制を呼びかけていた。【6月17日 産経】
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テロ掃討作戦強化と地域復興支援
チェチェンに象徴される民族問題の根底に、北カフカス地域の貧困の問題があるのは周知のところです。
“北カフカス連邦管区には人口の約6・5%が住むが、国内総生産(GDP)に占める割合は2%、国家税収に占める割合は1%に満たない。イングーシ共和国で住民の53%、チェチェン共和国では42%が失業状態だ。モスコフスキエ・ノーボスチ紙によれば、両共和国では予算に占めるロシア中央からの“補助金”が9割、北カフカス全体でもそれが66%に達する”【6月17日 産経】
ロシア政府もテロ弾圧とともに、地域振興のための資金投入という“アメとムチ”の両面の対策を講じています。

****ビンラーディンに便乗か 露、過激派掃討“お墨付き”狙う****
国際テロ組織アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者殺害を受け、ロシア政府関係者からは、同国南部・北カフカス地方のイスラム過激派武装勢力とアルカーイダとの連携を強調する発言が目立っている。
双方の協力態勢を示す材料がある半面、組織の成り立ちや攻撃目標が異なるとの見方もあり、国内の過激派を、国際テロ組織と同列に位置づけることで、欧米から掃討作戦強化の“お墨付き”を得たい政権の狙いもちらつく。

ビンラーディン容疑者殺害後、大統領府当局者は「ロシアは国際テロの危険性に最初に直面し、アルカーイダとは何かを直接知っている国のひとつだ」と述べた。北カフカス・チェチェン共和国の親露派首長、カディロフ氏も「チェチェンでは国際的テロリストの手で何千もの人が殺害された」と述べ、テロとの戦いに「二重基準」はあり得ないと強調した。(中略)
3日付の英字紙モスクワ・タイムズはこうした点にふれ、「(政権は)アルカーイダとの戦いを宣言することで、治安当局に法的限度を超える作戦の実施を許している」とする民族人類学研究所のキスリエフ氏の談話を紹介した。

ビンラーディン容疑者殺害と軌を一にするように、ロシア政府は矢継ぎ早にテロ封じ込め対策を打ち出している。
大統領府は3日、対テロ修正法案にメドベージェフ大統領が署名、成立したと発表した。地下鉄や国際空港などがテロの標的となった現状をふまえ、警戒レベルを高い方から赤、黄、青の3段階に分類、段階に応じて必要な治安対策を取るとしている。
修正法には、講じられる治安対策により「人権や自由を制限してはならない」という項目が盛り込まれているが、警戒レベルの基準や具体的な対策は大統領が検討中で、あいまいな点も残っているといわれる。

4日には、北カフカス地方に総額1兆3千億ルーブル(約3兆8千億円)を投じる2025年までの国家発展計画を発表した。しかし、貧困の撲滅を通じてテロの温床を断つ戦略は、部族支配が残るこの地方で汚職の増長を招いたとの見方が支配的で、投票まで1年を切った大統領選に向けた懐柔策との見方も出ている。【5月7日 産経】
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なお、北カフカスへの資金投入については、“モスクワでは「カフカスを食べさせるのはたくさんだ」とロシア民族主義者の反発も強まっている”【6月17日 産経】との見方もあります。
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タイ  総選挙に向けて、タクシン元首相の妹インラック氏の人気高まる 困難な国民和解

2011-06-17 22:10:32 | 世相

(選挙活動中のインラック氏 “flickr”より By sammi.qaid@gmail.com http://www.flickr.com/photos/63811049@N04/5810471806/

【「美男美女対決」】
東北部・北部農民や都市貧困層などを基盤とするタクシン元首相を支持する勢力と、都市中間層や既得権益層を基盤とする反タクシン元首相勢力が対立し、互いに街頭行動で政権に揺さぶりをかける形で、政治機能がマヒしているタイでは、こうした状況を打開すべく7月3日に総選挙が行われます。

タクシン元首相派のタイ貢献党が第1党を維持するものの、単独過半数にはとどかず、反タクシン派の民主党などで連立政権を・・・というのが、選挙に打って出たアピシット首相の目論見と伝えられています。
しかし、タイ貢献党が野党首相候補として比例1位に置いた、タクシン元首相の妹インラック氏(43)の人気が高まっており、アピシット首相の狙いどおりに行くかどうか・・・。
このあたりの経緯は5月29日ブログ「タイとペルー  奮戦する身内女性候補 タクシン元首相の末妹とフジモリ大統領の長女」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110529)でも取り上げたところです。

****タクシン元首相妹、指導力と容姿で総選挙に旋風*****
7月3日の投票まで2週間余となったタイ総選挙では、タクシン元首相(61)の妹インラック氏(43)を首相候補とするタイ貢献党が同氏の人気を追い風にアピシット首相(46)率いる民主党を世論調査でリードしている。
タイ貢献党は政権奪還の芽も出てきた。

インラック氏は15日、メコン川沿いの農村ムクダハンで遊説した。「かつて兄を信じたように、私を信じてください。みなさんの所得を上げます」と語り、数千人の大歓声を浴びた。東北部のムクダハンはタイ貢献党がもともと強いが、熱狂ぶりは目を見張った。
不動産会社社長から転身したインラック氏の端麗な容姿も有権者を引きつけている。メディアは、イケメンで知られるアピシット首相との選挙戦を「美男美女対決」とはやし立てている。

全国的にもインラック氏の人気は高まっている。アサンプション大が5月半ばから今月にかけて行った3回の調査で、インラック氏の「指導力」を評価した人は初回の12・9%から32・5%に跳ね上がった。その人気は政党支持率にも反映され、バンコク大の最新調査(タイ貢献党33・6%、民主党17・1%)など、各種調査でタイ貢献党がリードしている。【6月17日 読売】
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【「全員が結果を尊重すべきだ」】
選挙結果が出ても、これを不服とする勢力が再び街頭行動を繰り広げると、不毛の対立の延長ともなりかねません。
アピシット首相は「全員が結果を尊重すべきだ」と述べ、そうしたデモなどによる政権揺さぶりに否定的な考えを示しています。

****タイ首相「総選挙結果、尊重を」 デモに否定的考え示す****
タイのアピシット首相が14日、7月3日の総選挙を前に朝日新聞など海外の報道陣と会見した。各種世論調査では、アピシット政権と対立するタクシン元首相派の最大野党・タイ貢献党が優勢だが、アピシット氏は「全員が結果を尊重すべきだ」と述べた。

アピシット氏は自身が率いる民主党の苦戦を認めた上で、過半数をとる政党はないとの見方を示し、「第1党が連立政権を作れなければ、第2党が試みる」と発言。現状と同様に、他党との連立で民主党政権の継続を探る考えを示した。

タイでは2006年にタクシン元首相がクーデターで追放されて以降、元首相支持派と反元首相派が互いに相手を非難し、デモを繰り広げてきた。タクシン派が政権を握っていた08年には、反タクシン派が空港などを占拠。アピシット政権下の昨年はタクシン派がバンコク中心部を占拠し、軍と衝突するなどして約90人が死亡した。【6月15日 朝日】
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民主主義制度への支配層の不満
ただ、当初アピシット政権を支持して、その基盤ともなっていた反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)(いわゆる“黄シャツ”)は、カンボジアとの国境紛争への首相の対応を「弱腰」と批判し、“離反”を強め、総選挙ボイコットを決めています。

****タイ:「VOTE NO!」 反タクシン派が訴え****
「VOTE NO!」(ノーに投票を)。7月3日投票のタイ総選挙へ向けて、08年にバンコク空港占拠事件を起こした反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)が候補者を動物に見立て、「動物を国会に送るな」を合言葉に「ノー」に投票するよう訴えている。
タイでは投票用紙に「意中の候補者なし」を意味する「ノー」の欄がある。

PADのポスターには、候補者の写真の代わりにスーツ姿のイヌやトラ、水牛などの動物たち。PADは「政治家はほえているか、有権者におもねるか、いずれにしても動物並み」と批判する。
PADを支えるのは旧来の支配層だが、数の上ではタクシン派支持の庶民層に勝てない。「VOTE NO!」の背後には、「多数派が支配する」という選挙に基づく民主主義制度への、支配層の不満も見え隠れする。【6月10日 毎日】
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アピシット首相とは袂を分かった「民主市民連合」(PAD)が、タクシン派勝利の選挙結果にどのような対応を示すのか注目されます。
仮に、アピシット首相の思惑どおりの選挙結果になったとしても、これまでの対立を収束して国民和解を目指すためには、タクシン派への歩み寄りが必要になりますが、アピシット首相を支えてきた既得権益層の軍や王室側近などがそうした行動を許すか・・・難しいものがあります。
もちろん、タクシン派勝利でインラック氏が首相となった場合も、兄タクシン氏の影響力を排しての歩み寄りが求められますが、これまた難しそうです。

既得権益層や反タクシン元首相派市民組織「民主市民連合」(PAD)には、上記記事の最後にもあるように、タクシン派を支持する貧困層が数の力で政権を握ることへの不満があります。
“貧しく容易に買収される田舎の低学歴大衆が投票権を持つべきではない”といった、貧困層蔑視、民主主義制度そのものへの疑念もあって、貧困層の投票権を制約しようという考えを示しています。

****タイ 貧者の投票権を制限する新政策****
首相府の占拠にまで発展したタイの反政府抗議運動は、民主主義の概念に反するようだ。
中産階級、都市住民、有産階級、王国支持者、公務員等に支持される右派「市民民主連合」(PAD)は、その名にかかわらず、タイ選挙の鍵を握る地方貧困層の選挙権を制限しようとしている。

PADの貧困層および平等参政権に対する嫌悪は、選挙におけるタクシン前首相の度重なる勝利に起因する。これらの勝利は、地方貧困層の支持によるものだからだ。5月後半に開始された選挙運動において、PADは12月の総選挙で勝利したタクシン主導の「人民の力党」(PPP)を標的にしている。

貧困層の選挙権を取り上げ、彼らの政府選択権を制限しようとする試みは、民主主義に独自の解釈を加えてきた地域の独裁、権威主義的国家に追随するものである。

政府庁舎での集会で演説を行ったPADリーダーを始めとする人々は、北東農業地帯の貧しい有権者に対する軽蔑を抑えることができず、票を金で売るような無知、無教育な人間だと非難した。しかし、農民を批判する都市部の富裕層は、彼らが如何に封建主義に近いかを露呈した。長い歴史を有する同国では、豊かで教育レベルも高いエリート、貴族階級が1932年に立憲君主国となったタイには民主主義はまだなじまないと主張してきたからだ。

国家人権委員会の元メンバーでPAD批判の先頭に立つジャラン・ディタピチャイ氏は、「タイ国民の大半は封建的考えを持っており、彼らは貧しい人々をこのように扱うことを何とも思っていない。PADおよびその支持者は、民主社会における主権者は人であるという原則を信じていない」と語る。

この姿勢が、PADおよび反政府派のタイ貧困層対策の欠如に表れている。タクシンは2001年、2005年の選挙で、農家補助や皆民健康保険といった政策を訴え議席の過半数を獲得した。世界銀行は、2001年には千3百万人であった貧困者が2005年には708万人に半減したとして、タクシンの貧困対策を称賛した。東北部の農業収入も、タクシン就任から最初の4年間で40パーセント増加した。

ある著明評論家は、「PADの言うように奥地の人々が投票の仕方を知らなかったのではない。彼らは票の有効活用を学んだのだ」と皮肉っている。右派「市民民主連合」の農民批判について報告する。 【08年9月15日 IPS】
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こうした民主主義の概念に反する貧困層蔑視の立場に立つかぎり、選挙結果を踏まえて国民和解へ・・・という道は、なかなか開けそうにありません。
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スリランカ  内戦時の政府軍による戦争犯罪を英メディアが指摘、スリランカ政府は反発

2011-06-16 22:18:29 | 国際情勢

(09年3月、安全地帯への政府軍攻撃により犠牲となったとされるタミル人少女 “flickr”より By Genocide of Tamils  http://www.flickr.com/photos/36874135@N07/3396452476/

捕虜処刑、兵士による性的暴行、病院砲撃
26年間で7万人以上もの犠牲者を出したスリランカの内戦(シンハラ人主導の政府軍とタミル人の反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の争い)が政府軍の勝利で終結したのが一昨年の5月。
あれから2年が経過していますが、内戦当時の政府軍による“戦争犯罪”が海外から問題視されていま。
内戦を主導したラジャパクサ現政権は、こうした動きに強く反発しています。

****スリランカ内戦で政府軍に「戦争犯罪」、英ドキュメンタリー番組の真偽は****
英テレビ局チャンネル4は14日、2009年に終結したスリランカ内戦に関するドキュメンタリー番組を放映し、番組中で使用した映像について、内戦末期にスリランカ政府軍が戦争犯罪を犯した証拠だと主張した。

これに対し在英スリランカ大使館は15日、少数民族タミル人の反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との武力衝突の中で政府軍が民間人を標的にしたことはないと否定。チャンネル4が放映した映像は事実検証がされていないと指摘し、英国の旧植民地であるスリランカの民族コミュニティー間の憎悪を煽る恐れもあると懸念を示した。
一方で同大使館は、「チャンネル4からであっても、他の団体からであっても、提起された疑惑が真実だった場合には、スリランカ政府の『過去の教訓と和解委員会(LLRC)』が全て法的な対応措置を取る」とも明言した。

また、スリランカ政府寄りの同国紙アイランドは、チャンネル4のドキュメンタリーについて、内戦で敗北したLTTE側の主張を強化し、独立要求を復活させるものだと批判。「調査が必要なのは、スリランカ政府の戦争犯罪ではなく、チャンネル4のビデオの信憑性のほうだ」と非難した。

■処刑や女性暴行の「証拠」を提示
チャンネル4のドキュメンタリー『Sri Lanka's Killing Fields(スリランカのキリングフィールド)』は、2009年の内戦終結直前の数週間にわたる総力戦の中で撮影されたとする携帯電話記録や政府の公式映像、LTTE側の映像、衛星画像、写真などを使用して構成された50分の番組。

これらの中には、捕虜の処刑シーンとされる映像や、政府軍兵士に性的暴行を受けたLTTEの女性戦闘員の遺体とされる映像、民間人が治療を受けている病院が砲撃された跡とされる映像などが含まれ、スリランカ政府軍が戦争犯罪を行った「証拠」だとされている。使われたビデオ映像のうち、処刑シーンなど幾つかについては2人の国連調査官が本物だと保証しているが、スリランカ政府は偽物だと反論している。

同時に番組は、LTTE側にも「人間の盾」の使用や、政府が設けた避難民センターへの自爆攻撃といった戦争犯罪行為があったとの証拠を提示している。【6月16日 AFP】
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スリランカ政府軍による人権侵害については以前から疑念がもたれており、昨年7月には、国連が真相究明を促す専門家委員会を設置したことにスリランカ政府が反発して抗議行動を展開、国連側は業務が妨害されているとして国連施設を閉鎖する騒ぎもありました。

****国連介入に政府が猛反発=内戦時の「人権侵害」―スリランカ****
スリランカで昨年終結した内戦中に政府軍が多数の民間人を殺害した疑惑をめぐり、国連が6月に人権侵害の真相究明を促す専門家委員会を設置したことにスリランカ政府が猛反発している。政府は疑惑を全面否定し、閣僚ら数百人が6日からコロンボの国連事務所前で抗議活動を展開。業務を妨害された国連は事務所閉鎖と職員引き揚げを余儀なくされた。

政府は昨年5月、少数民族ゲリラ「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」の壊滅に成功。しかし、軍が掃討作戦を強力に推進した結果、多数の民間人の巻き添え死や故意の殺害があったとの指摘が人権団体などから相次いだ。国連も戦闘終結前の数カ月で民間人7000人が死亡したと推計している。

政府は内戦の再発防止策を探る委員会を独自に設置。しかし、国連は不十分と判断し専門委を設けた。これに対し、ラジャパクサ大統領は「疑惑は英雄である兵士への侮辱だ」と激怒、国連批判を展開中だ。専門委メンバーへの入国ビザ(査証)発給も拒否した。【10年7月9日 時事】
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LTTE側が「人間の盾」として大量のタミル人を戦闘地域である北部へ連行、しかし政府軍は自制を求める国連・欧米の警告を無視して攻撃を強行しLTTEをせん滅した経緯からして、大量の民間人犠牲者が出たことは想像に難くないところです。
しかし、ラジャパクサ大統領は内戦勝利・LTTEせん滅を功績としてアピール、大統領選挙を勝ち抜いたことからも、内戦にともなう負の側面を公にすることはなさそうです。

国内避難民、国民和解の現状は?】
内戦終結後のスリランカの現状については、殆んどマディア報道がなされていませんので、一体どうなっているのかよくわかりません。
内戦終結から1年後の昨年5月には、激戦地となった北部の都市には空爆で破壊されたままの寺院など、多くのつめ痕が残され、キャンプ生活を送る国内避難民(IDP)が約8万人存在していると報じられていました。

タミル人を中心にした国内避難民の現状、生活環境の復興はどうなっているのでしょうか?
何より、シンハラ人とタミル人の国民和解は進んでいるのでしょうか?(シンハラ人側のナショナリズムを前面に出すラジャパクサ現政権のもとでは、あまり期待はできませんが)

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ペルー  フジモリ元大統領の容態悪化、人道的恩赦の可能性も 日系人「収容所送り」を公式謝罪

2011-06-15 21:34:48 | 世相

(ケイコ・フジモリ氏の弟、ケンジ氏(31) 4月の国会議員選では、ケンジ氏がトップ当選するなど、ケイコ氏派は第2党に躍進。ケイコ氏は大統領選挙では惜敗したものの、今後も一定の影響力は保持しそうだとも見られています。 “flickr”より By Kurt van Aert http://www.flickr.com/photos/kurtvanaert/3207807862/

4カ月で体重が15キロ減 「人道的な見地から恩赦もあり得る」】
今月5日に行われた南米ペルーの大統領選挙(決選投票)は、予想されたように激戦になりましたが、左派系の元軍人オジャンタ・ウマラ氏(48)が、有罪が確定し服役中のアルベルト・フジモリ元大統領(72)の長女、国会議員ケイコ・フジモリ氏(36)を僅差で破り当選したことは周知のところです。

****ケイコ・フジモリ氏、大統領選敗北認める****
5日に行われたペルー大統領選決選投票で、元軍人オジャンタ・ウマラ氏(48)と戦った国会議員ケイコ・フジモリ氏(36)は6日、首都リマ市内で記者会見し、「ペルー国民の意思とウマラ氏の勝利を認める」と述べ、敗北を認めた。
6日夜発表の選管集計(開票率93%)によると、ウマラ氏が得票率51・6%、ケイコ氏が同48・4%となっている。
ケイコ氏は会見で、「最大の勝者は1000万人の貧しい人々であるべきだ」と語り、ウマラ氏が公約通り貧困対策に尽力するよう注文をつけた。【6月7日 読売】
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ケイコ・フジモリ氏の敗北で、いろいろな憶測がなされていたアルベルト・フジモリ元大統領の恩赦、あるいは裁判やり直しの可能性も消えたと思われました。
****ペルー・フジモリ元大統領の釈放遠のく****
ペルー大統領選決選投票でのケイコ・フジモリ氏(36)の敗戦で、昨年1月に禁錮25年の有罪判決が確定して服役中の父、アルベルト・フジモリ元大統領(72)(在任1990~2000年)が釈放される可能性は低くなった。
ケイコ氏は選挙戦で、フジモリ政権下での汚職や人権侵害などを非難する「反フジモリ」勢力に配慮し、「当選しても父を恩赦しない」と明言してきた。だが、地元メディアによると、ケイコ氏は自身の当選後、憲法裁判所が「体制」の意を酌み、元大統領を裁いた最高裁特別刑事法廷に裁判やり直しを命じ、その上で無罪を勝ち取るシナリオを描いていたとみられている。ケイコ氏敗北で「計画」は頓挫した形だ。【6月8日 読売】
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しかし、ここにきて、フジモリ元大統領の容態が悪化しているようで、「人道的な見地から恩赦」の可能性、日本への移送も言及されています。
****フジモリ元大統領、抑うつ症体重15キロ減 恩赦の観測****
南米ペルーで、軍警察の特別施設に収監中のフジモリ元大統領(72)の担当医が14日、記者会見し、フジモリ氏が抑うつ症で、最近4カ月で体重が15キロ減ったと語った。一方、大統領選に当選したウマラ氏は地元メディアに、「人道的な見地から恩赦もあり得る」と語り、ペラレス検事総長も13日、「不治の病の場合は恩赦もありえる」と発言、恩赦が現実味を帯びてきた。

フジモリ氏は、軍による民間人殺害事件で25年の禁錮刑を受けているが、9日、舌の腫瘍(しゅよう)再発に伴う出血で入院。腫瘍のがん性が判明したものの、末期症状ではなく手術はしないという。
一部地元メディアは、政府や司法レベルで、恩赦が具体的に話し合われているとし、治療のため、フジモリ氏を日本に送ることも検討されている、と伝えている。【6月15日 朝日】
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フジモリ元大統領の処遇については、激戦となった大統領選挙を反映して、反フジモリ勢力からは厳しい見方がされていました。
***ペルー次期政権、フジモリ元大統領の処遇めぐり議論****
南米ペルーで収監されているフジモリ元大統領の処遇をめぐり議論が起きている。軍警察施設で「特別待遇」を受けていることを批判、通常の刑務所に移すべきだとの声も。5日に決選投票があった大統領選が激戦だったこともあり、政治的なしこりも反映されているようだ。

「犯した罪相応の通常の刑務所に入れるべきだ」。決選投票でフジモリ元大統領の長女ケイコ氏を破ったウマラ氏の陣営幹部で副大統領就任が予定されているチェアデ氏は地元メディアにそう発言した。
フジモリ氏の処遇については、政治的な立場から、これまでもさまざまな議論があった。「フジモリ氏は毎日大勢の訪問客がいて、バラを栽培している。金色の刑務所だ」。そう批判するのはフジモリ元大統領に1990年の大統領選で敗れたノーベル文学賞作家のバルガスリョサ氏。【6月9日 朝日】
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フジモリ元大統領の体調はかなり前から悪化していたようですが、今月5日の大統領選決選投票への影響を懸念し、拒んでいたとも報じられています。
****娘が敗北…服役中のフジモリ元大統領、緊急入院****
ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領(72)は9日、舌部の腫瘍の治療のため、リマ市内の病院に緊急入院した。
元大統領は昨年1月、禁錮25年の有罪判決が確定して服役中。

地元メディアによると、元大統領は3週間前から入院を勧められていたが、5日の大統領選決選投票への影響を懸念し、拒んでいたという。決選投票では、長女で国会議員のケイコ・フジモリ氏(36)が、元軍人のオジャンタ・ウマラ氏(48)に惜敗した。
フジモリ派の国会議員で医師のアレハンドロ・アギナガ氏は10日、地元ラジオに「元大統領は以前より15キロやせてしまった」と述べた。7日に元大統領と面会した複数の支持者も、本紙の電話取材に「弱々しく、疲れ果てているように見えた。声はとても小さく、途切れがちだった」と語った。【6月11日 読売】
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次期大統領のウマラ氏側としても、元大統領が服役中に死亡することでフジモリ支持派の感情をことさらに刺激することは望まないところでしょう。
フジモリ派と反フジモリ派で激しく争われた選挙戦のしこりを除き、国民和解を実現するためにも、配慮がなされることも考えられます。

【「日本人、日系人の人権や尊厳に対する深刻な侵害があったことを謝罪する」】
フジモリ氏の話題とは全く関係ありませんが、同じ日系人関連として、ペルーが第2次大戦中に日本人移民数千人を逮捕してアメリカの強制収容所に送り込んだことに関する、ガルシア大統領の公式謝罪が報じらています。

****ペルー大統領、第2次大戦中の日系人「収容所送り」を謝罪****
ペルーのアラン・ガルシア大統領は14日、第2次大戦中に日本人移民数千人を無作為に逮捕して米国の強制収容所に送り込んだ事実について、正式に謝罪した。
大統領は会見で、「1941年に子どもを含めた日系人数千人が、いわれもなく逮捕され、不法に拘束された。無法者たちはあなたがたの家や会社を略奪し、財産をわが物にした。本日、ペルーの大統領として、日系人の人権と尊厳を踏みにじったゆゆしき事実について謝罪する」と述べた。

日本人移民は、1941年12月の真珠湾攻撃の直後から、当時の親米政権により次々と逮捕され、米国の強制収容所に送られた。この問題についての著作があるジャーナリストのアレハンドロ・サクダ氏によると、中南米から米国の強制収容所に送り込まれた日系人の大半が、ペルーの出身だったという。
生存者の多くは、米政府が1988年に公式謝罪した際に支払った賠償金と同額の賠償金を、ペルー政府に求めている。【6月15日 AFP】
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上記記事にもあるように、アメリカ政府は1998年、連行した日系人への謝罪と補償を行っていますが、ペルー政府はこれまで責任を認めていませんでした。

****ペルー大統領、大戦中の日系人排斥を初めて謝罪****
南米ペルーのガルシア大統領は14日、首都リマで、第2次世界大戦中に日系人を排斥し、米国に連行したことについて、大統領として初めて謝罪した。
大統領はペルー日系人協会が運営する病院の増築工事完工式に出席し、「日本人、日系人の人権や尊厳に対する深刻な侵害があったことを謝罪する。当時のペルー政府や国民の一部は深刻な罪を犯した」と述べた。
「日系人は事業所や養鶏場を破壊され、職を失い、学校を閉鎖させられ、米国の収容所に送られた」と人権侵害の具体的な内容にも言及した。

1941年12月の日米開戦時、中南米諸国からは2200人以上の日系人が米国に連行された。その8割約1800人は、約2万6000人の日系人が暮らしていたペルーからだった。米政府が日本に残った自国民と交換する「捕虜」にするため、日本人の引き渡しを求めたためだ。米政府は1998年、連行した日系人への謝罪と補償を行ったものの、ペルー政府は責任を認めてこなかった。【6月15日 読売】
*****************************

研修と銘打ち、実は安価な労働力を大量に引き入れているだけの制度
改めて、海外で生活する日系人の存在に思いをはせるものがありますが、逆に日本国内で生活する外国人に関する話題も。
****外国人研修生制度は「日本の恥」、名目だけの国際貢献は即刻廃止せよ―華字紙*****
2011年6月13日、華字紙・日本新華僑報は、国際貢献を名目とした外国人研修生制度は「日本の恥」だと論じた。入国管理局の統計によると、日本には現在約10万人の研修生がいるという。以下はその内容。

いわゆる「外国人研修生制度」は先進国の中でも日本特有の制度だろう。表面上は発展途上国の人々が日本に来て先進技術を学ぶという名目を掲げているが、実際の目的は肉体労働者不足を補うことだ。

徳島県では外国人研修生を受け入れている企業の9割に違法行為が存在した。地元の労働基準監督署が64社を対象に調査を実施、うち57社で労働基準法違反が発覚したものだ。だが、こうした傾向は増加傾向にある。このままでは違法企業が100%に達するのも時間の問題だろう。

これがもし、少数の企業によるものであれば、社会の監視や行政の介入で是正してもらえば良い。だが、ほぼすべての企業が違反していたとなると、制度自体の廃止を日本政府は考えるべきではないか。研修と銘打ち、実は安価な労働力を大量に引き入れているだけの制度は即刻止めるべきだ。

日本にとって、研修生制度は「パブリック・ディプロマシー(広報外交)」の一種で、日本への理解を通じ、日本の国際イメージを向上させることが目的だった。ところが、実際は受け入れ企業は制度創設の趣旨に反し、研修生を安価な労働力としか見なさず、長時間労働、パスポートの取り上げ、強制貯金などが横行。こうした現状は研修生の権利を侵害しているだけでなく、日本に対するイメージも失墜させている。

さんざん虐げられた彼らは受け入れ企業への憎しみを抱き、日本という国の理不尽さを恨むだろう。こうして、日本の外国人研修制度は自ずと「日本の恥」へと変わっていく。入国管理局の統計によると、現在約10万人の外国人研修生がいるというが、彼らを「反日派」にせず、国際イメージを向上させる使者にしたければ、今すぐ外国人研修生制度を廃止するのが最良の方法だ。これ以上、「日本の恥」を増やさないためにも。【6月14日 Record China】
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外国人研修生制度については、以前から上記のような指摘があります。
もちろん、現場では様々な言い分もあろうかとは思いますが、悪用例が後を絶たないのも事実です。
なぜ改善の対策がとられないのか不思議です。

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南シナ海  ベトナム、実弾軍事演習  中国は「海洋石油空母」投入

2011-06-14 21:33:22 | 国際情勢

(「海洋石油空母」とも評される、中国最大規模の石油掘削装置(オイルリグ)「海洋石油981」 これが南シナ海で実際に掘削を始めると、またひと揉めありそうな雰囲気です。 “flickr”より By louqm  http://www.flickr.com/photos/louqm/4480749895/ )

米:「緊張を高めるだけで、地域の平和には結びつかない」】
中国が南シナ海の領有権を強く主張するようになったことで、南沙諸島や西沙諸島の領有権を主張する南シナ海周辺国との軋轢が大きくなっていることは、6月3日ブログ「南シナ海、依然続く緊張  ベトナム漁船に中国監視船が威嚇射撃」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110603)で、また、周辺国を支援する形で、アメリカが中国の勢力拡大を牽制する動きを強めていることは、6月4日ブログ「アメリカ・中国  Gメール攻撃問題、南シナ海問題で“力比べ”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110604)で取り上げてきました。

6月3日ブログでも取り上げたように、5月26日、ベトナムが排他的経済水域を主張する領域で、調査活動を行っていたベトナムの探査船が中国監視船の妨害を受け、調査用ケーブルを切断される事件がありました。
また、5月31日には、南沙(スプラトリー)諸島周辺で操業中のベトナム漁船4隻が、中国国家海洋局の監視船とみられる3隻から威嚇射撃を受けたと報じられています。
フィリピン外務省は、中国と領有権の主張が対立している南沙(スプラトリー)諸島で中国が建造物の新設を始めたとして、中国大使館員を呼んで抗議しています。

特に中国への対抗姿勢を強めているのがベトナムです。ベトナム海軍は13日、中国を牽制する狙いで、ベトナム沖の南シナ海で実弾を使った軍事演習を実施しました。

****ベトナム:南シナ海で演習 中国をけん制、緊張高まる******
ベトナム海軍は13日、同国沖の南シナ海で実弾を使った軍事演習を実施した。領有を巡り対立する中国を刺激するのは必至で、南シナ海の緊張は一層高まりそうだ。
演習が行われたのはベトナム中部クアンナム省沖約40キロの海域。海軍当局者はAP通信に、大砲などを使った演習で毎年行われる通常のものと説明し、中国との対立とは無関係だと語った。

しかし南シナ海では、西沙諸島や南沙諸島周辺海域の領有を巡り中国とベトナム、フィリピンなどが対立。5月下旬以降、ベトナムの資源探査船と中国の船舶との小競り合いが続いている。ベトナム政府は中国への抗議を繰り返しており、この時期の軍事演習には中国をけん制する狙いがあるとみられる。

中国の南シナ海への進出をけん制したい米国は、ゲーツ国防長官が今月、東南アジア各国と協力して地域への軍事的関与を強める姿勢を示したばかり。しかしベトナムの軍事演習については「緊張を高めるだけで、地域の平和には結びつかない」(国務省)と懸念を表明し、間接的ながらベトナムに自制を求めた。(後略)【6月13日 毎日】
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ベトナム、反中国デモ容認
中国とベトナムは、ともに事実上の共産党一党支配の体制で、また、ともに開放経済政策で高い経済成長を実現していますが、古代から中国の侵攻と支配、それに対する抵抗が繰り返された歴史があり、ベトナムの反中国感情は根強いものがあります。
インドシナ戦争(第1次)とベトナム戦争で中国はホー・チ・ミンのベトナム民主共和国を支援したものの、中ソ対立を背景に、カンボジア紛争ではポル・ポト政権の後ろ盾となり、1979年にベトナムと戦火を交えています。また、西沙諸島では74年、中国軍が南ベトナム軍の艦船1隻を撃沈し、88年には南沙諸島で軍事衝突が起こっています。【6月14日 産経より】

こうした歴史的背景もあって、ベトナムの首都ハノイと南部のホーチミン市では12日、5日に続いて再び市民による反中国デモが行われました。通常は市民の政治デモは厳しく取り締まられていますが、反中国デモについては事実上容認している格好です。

****ベトナムで反中デモ続く 独裁下で異例、政府が容認か*****
南シナ海の領有権を中国と争っているベトナムで12日、反中デモがあった。同国では5日にも同種のデモが起きており、2週連続。共産党独裁の下でデモを規制しているベトナムでは異例の頻度だ。政府はデモを容認しているとみられるが、規模が拡大することへの警戒心もうかがえる。

首都ハノイの中国大使館前で約50人、南部ホーチミンの中国総領事館付近でも数百人が集まった。南シナ海のスプラトリー(南沙)、パラセル(西沙)両諸島の領有権を主張し、「中国の侵略に反対」「打倒中国」などと叫んだ。ハノイでは学者や詩人、映画監督ら著名人も参加。中心部を行進し大使館前で約30分間抗議した後、警官らに促されて解散した。

ベトナム政府は、反体制的な言論が広がることを警戒し、インターネットを検閲している。フェイスブック利用は規制され、反体制的と指摘されたサイトの取り締まりもある。だが、デモ参加者らはネット上で呼びかけあって集まった。参加者への強制的な取り締まりもなく、政府の容認姿勢の表れと見られる。【6月13日 朝日】
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また、中国とベトナムの間で“サイバー戦争”が繰り広げられているとの報道もあります。
****中越「サイバー戦」か 政府系サイトに双方攻撃*****
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島や西沙(同パラセル)諸島の領有権をめぐる対立が続く中国とベトナムが、インターネットの政府系サイトを攻撃しあう“サイバー戦争”を繰り広げているとする声明を、中国のハッカー軍団とみられる「紅客」と名乗るグループが10日までに明らかにした。

声明は、中国の地方政府系や国有企業系の複数のサイトが今月3日に、ベトナム側から先制攻撃を受けたと主張。中国のハッカーらがベトナムの政府系サイトに次々と“反撃”を行い、ベトナム人を蔑視する口ぎたない表現とともに、「南シナ海は中国の領土だ」などと訴えて中国の国旗を映し出す画面に塗り替えたという。声明の通りなら中越サイバー戦は中国が圧倒しているが、実際にベトナムから先制攻撃があったのかどうかなど詳細は分かっていない。

中国国防省は先月、ハッカーに対する防御を目的とした「ネット藍軍」と呼ばれるチームを人民解放軍に設置したことを明らかにしている。関係筋は、中越サイバー戦への同チームなど中国軍の関与は不明としながらも「中国からの組織的な攻撃が行われた」とみている。【6月11日 産経】
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【「西フィリピン海」】
一方、ベトナム同様に中国との緊張が高まるフィリピンは、「南シナ海」という呼称を「西フィリピン海」に変更したそうです。
****南シナ海を「西フィリピン海」…中国に抗議の意*****
フィリピン政府は、中国と領有権問題で対立している南シナ海の名称を「西フィリピン海」に変更した。
AFP通信によると、フィリピン外務省はすでに1日から、この名称を使っており、大統領府は「どう呼ぶかは各国の自由だ。名称も自然なものだ」としている。
フィリピンは最近、中国が南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で新たに資源探査の準備を進め、フィリピン漁船の活動も妨害しているとして、中国への反発を強めている。名称変更により、領有権を強調し、中国に抗議の意思を示す狙いだ。ベトナムも南シナ海を「東海」と名付けている。【6月14日 読売】
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「日本海」にも韓国が反発していますが、確かに国名を含んだ呼称や、ある国から見た方角を前提にした呼称は、別の国からすれば面白くないところでしょう。
この際、国際的にはそうした問題を含んだ呼称はやめて全く中立的な呼称とし、国内的には各国が好き勝手に呼ぶという形がいいかもしれません。「アジア・友好の海」とか。

なお、フィリピン国防省は米海軍との軍事演習を今月下旬、フィリピン西部パラワン島東のスルー海で行うと発表しています。同演習には昨年はアメリカのイージス艦1隻が参加しましたが、今回は2隻に増やされています。
“演習に参加する米国の艦船が、南シナ海を通過するとみられ、米側が主張する「自由航行権」を誇示する目的もあるとされる”【6月13日 毎日】とも指摘されています。

ベトナム、フィリピンの他、台湾でも沿岸警備隊を強化する計画が報じられています。
****台湾、南シナ海の沿岸警備隊の武装強化を検討*****
台湾防衛当局の報道官は12日、台湾や中国などが領有権を主張している島がある南シナ海の沿岸警備隊に、ミサイル艇や戦車を装備させる計画があると述べた。
南沙(スプラトリー)諸島と東沙(プラタス)諸島にいる台湾の沿岸警備隊は軽火器しか装備しておらず、紛争が起きた際に対応できない恐れがあるため、沿岸警備隊に提案したという。報道官はミサイル艇や戦車の数については触れず、沿岸警備隊はまだ最終決定をしていないと述べた。(後略)【6月13日 AFP】
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中国:「情勢次第で軍事的な助けを求める可能性を排除しない」】
こうした周辺国の動きに対し、中国も強気の姿勢を崩していません。
****南シナ海、強まる対決姿勢…中国は資源確保へ妨害強化も*****
中国が周辺諸国と南沙諸島などの領有権を争う南シナ海で13日、ベトナム海軍が実弾演習を強行したことで、中国がさらに、ベトナムに対する妨害行為をエスカレートさせる可能性がある。
ベトナムが、中国漁船による探査船への妨害行為について中国に強く抗議した9日、中国外務省の洪磊報道官は「ベトナムは中国の南沙諸島で違法に石油・天然ガスの探査を行い、中国漁船を追い払うなど、中国の主権と海洋権益を著しく侵犯した」との談話を発表し、一歩も引かない姿勢を鮮明にした。

中国にとって、経済発展を支える資源の確保は、社会の安定、さらには政権維持につながる重要課題だ。1990年代後半、武力行使もいとわない強硬姿勢を緩和し、周辺諸国との共同開発を強調してきた。しかし、需要に供給が追いつかず、資源輸入国に転じている現状に危機感を募らせ、再び独善的な性格をあらわにし始めた。

中国は、探査・掘削を進めようとするベトナムやフィリピンの動きに敏感に反応。7月から南シナ海で新たな探査を開始する計画とされる。中国メディアによると、すでに海底油田の掘削機が同海域に向けて曳航(えいこう)されているという。
中国の国際情報紙、環球時報(英語版)は、ベトナムの実弾演習を「中国に公然と反抗するための軍事力の誇示」と非難。中国が威嚇発砲など“力ずく”の対抗措置をとることも考えられる。【6月14日 産経】
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南シナ海に曳航されている海底油田掘削機は「海洋石油空母」と評されるものとか。
****中国:南シナ海で掘削へ…「海洋石油空母」移動中****
大型で海上移動が可能なことから「海洋石油空母」と評される、中国最大規模の石油掘削装置(オイルリグ)「海洋石油981」が5月下旬に上海を出発し、東シナ海を移動中であることが分かった。領有権をめぐって中国とベトナム、フィリピンなど沿岸各国の対立が激化している南シナ海で、今秋にも展開するとみられ、地域の緊張がさらにエスカレートする恐れがある。
中国国営新華社系の週刊誌「瞭望東方周刊」などが報じた。

「海洋石油981」は、中国石油大手の中国海洋石油が約60億元(約750億円)を投じて製造した中国初の海底3000メートル級半潜水式油井掘削装置で、最大掘削深度は1万2000メートル。中国海洋石油幹部は「情勢次第で軍事的な助けを求める可能性を排除しない」としている。(中略)

実際の掘削場所について、同誌は「南シナ海の北部」としているが、ベトナムなど沿岸国が領有権を主張する南沙諸島(英語名・スプラトリー諸島)などの近辺になる可能性もある。【6月8日 毎日】
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急がれる「行動規範」制定
アメリカ上院では、挑発的な行動を繰り返す中国監視船の動きに対し、中国非難決議の採択が予定されています。
“南シナ海をめぐっては、昨年7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、クリントン米国務長官が南シナ海の航行の自由は「米国の国益」と主張。中国側と激しいさや当てを演じた。
クリントン長官は今年7月、インドネシアのジャカルタで開かれるARFで中国船舶の挑発的な活動に懸念を示す方針だ。”【6月12日 産経】とも。

昨年7月のASEAN地域フォーラムでは反中国包囲網的な動きとなり、結果、関係国のアメリカへの傾斜を強めたとして、中国外交の失敗と評価されていましたが、最近の中国の動きを見ると、あまりそうした反省はないようです。

中国の軍備増強は周知のところですが、南シナ海周辺国も中国に対抗する形で軍拡競争が進んでいます。
“東南アジア諸国全体の国防予算は、2000年のおよそ1・5倍に膨れあがっている。11年の予算は、ベトナムが対前年70%増、国内総生産(GDP)の1・8%に相当する約26億ドルとみられる。フィリピンは同81%増の約20億ドル。タイは同10%以上増の約55億ドルで、軒並み国防予算を拡大している。
南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島、西沙(パラセル)諸島の領有権をめぐり中国と激しく対峙(たいじ)するベトナムの場合、軍装備の増強は顕著だ。”【6月10日 産経】

****南シナ海紛糾 膨張中国に自制を求めたい****
・・・・南シナ海が中国の“内海”になるのを阻むには、ASEANが一致団結することが肝要だ。
ASEANは5月初めの首脳会議で、南シナ海での紛争を話し合いで解決することを規定した「行動宣言」を、法的拘束力を伴う「行動規範」へ格上げするため、協議開始を決めた。
中国も「行動規範」の協議に応じるべきである。

南シナ海は日本に原油を運ぶ船舶が航行する要路、シーレーン(海上交通路)が通る海域だ。
ゲーツ米国防長官は先の安保会議で、南シナ海の自由航行権などを守るために、米国が軍事的関与を続けて行くと表明した。
利害を共有する日本も、米国と連携し、ASEAN諸国への支援をさらに強化する必要がある。【6月10日 読売】
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トルコ総選挙  与党が予想どおり圧勝するも、3分の2には届かず

2011-06-13 20:39:30 | 国際情勢

(選挙期間中の街かど 自信に満ちたエルドアン首相の大きな顔写真 バスには野党CHPの文字も “flickr”より By kalakeli  http://www.flickr.com/photos/kalakeli/5775316148/ )

【「交渉と合意形成を通じて新憲法を制定するよう、国民から託された」】
12日に行われたトルコ国会(1院制、定数550)の総選挙は、与党・公正発展党(AKP)が得票率を前回から更に上乗せし、予想どおり圧勝したものの、目標としていた新憲法を単独で制定できる3分の2の議席(367)に届かず、国民投票を実施する要件の330議席も下回る326議席と、現有議席を15議席減らす“微妙な”結果となりました。

****トルコ:総選挙で与党勝利 新憲法制定には議席足りず****
トルコ国会(1院制、定数550)の総選挙が12日投開票され、与党・公正発展党(AKP)が勝利した。開票率99.99%でAKPの得票率は49.9%で、前回07年選挙から3ポイント上乗せして02年から続く単独政権への「信任」を得た形。AKP党首のエルドアン首相が3期目再選となるのは確実な情勢だ。

ただ、獲得議席の326は前回の15減で、同党が目指した新憲法を単独で制定できる3分の2の議席(367)どころか、国民投票を実施する要件の330議席も下回った。今後は新憲法を巡る与野党協議に焦点が移る。

トルコ紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)によると、中道左派で世俗主義の最大野党・共和人民党(CHP)が得票率25.9%で135議席(前回112)、極右の民族主義者行動党(MHP)が13.0%で53議席(前回71)、無所属候補が6.6%で36議席(前回26)。当選した無所属候補はクルド民族主義の平和民主党(BDP)系の候補で、国会では同じ会派を形成する見通し。

エルドアン首相は同日夜、首都アンカラの党本部で「交渉と合意形成を通じて新憲法を制定するよう、国民から託された」と勝利演説した。現憲法は軍事政権下の82年に制定されており、どの政党も憲法を改める必要性を訴えた。

しかし、AKPが目指しているとされる、議院内閣制から大統領制への移行は「独裁を招く」などと野党が反対。CHPは、AKPの新憲法制定の意図や政権運営を「独裁的」と主張したほか、財政赤字と経常赤字が増大したことで「高失業率が続いた」と非難、AKPへの批判票を集めて議席を増やした。
BDP系の無所属候補も、少数民族クルド人の権利拡大に対する与党の取り組みを「不十分」だと訴えて議席を伸ばした。

これに対し、AKPは昨年の国内総生産(GDP)実質成長率が8.9%を記録した実績なども訴えたが、得票率は伸ばしながらも議席を減らした。【6月13日 毎日】
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【「イスラム政治の新たなモデル」】
トルコの選挙結果が注目されたのは、ひとつには、民主化運動が高揚する中東・北アフリカ諸国において、トルコの政治体制が「イスラム政治の新たなモデル」とみなされることが多いことにあります。

トルコにおいては、国民の99%がイスラム教徒ですが、1923年に成立したトルコ共和国の初代大統領ケマル・アタチュルクは国の近代化を進めるため「政教分離」などの原則を採り入れました。宗教については国家機関の宗務庁が監督。すべてのモスク(イスラム礼拝所)の導師を任命、導師は政治に関する発言は一切できないとされています。【6月12日 朝日より】
いわゆる“政教分離”を国是としています。

そうした中にあって支持率を伸ばしている与党・公正発展党(AKP)は、穏健なイスラム主義政党で、イスラムの価値観と政教分離をバランスさせながら国の舵取りを行っているとも見られています。
もっとも、与党・公正発展党(AKP)としては、現在より更にイスラム的価値観を重視する方向にもっていきたいのが本音で、その意味でも、新憲法を単独で制定できる3分の2の議席を獲得できるかどうかが注目されていました。

もうひとつ、トルコの政治が注目される理由は、高い経済成長率を実現させながら、外交的にもイスラム・アラブ社会と欧米社会の橋渡し的な立場で仲介にあたる機会が増え、その存在感が増していることにあります。

****トルコ政治 アラブが注目*****
きょう選挙 親イスラム与党躍進へ 宗教色抑制 好況追い風
トルコで12日、総選挙(一院制、定数550)が実施される。政教分離を国是とするが、好調な経済を背景に、親イスラム与党・公正発展党(AKP)の勝利は確実視されている。親イスラム政党の躍進は、民衆革命が成就したエジプトをはじめ国際社会の関心を集める。

「我々は国民に支持されて政権に就いた。道路建設を進め、高速鉄道を整備した。みなさんの収入も増えたでしょ」。3日、中部コンヤを訪れたエルドアン首相は数万人の支持者を前に力説した。
トルコの昨年の経済成長率は8・9%、1人当たりの国内総生産(GDP)は10年前の2倍以上の1万79ドルだった。「こんな好況を導いた政党はかつてなかった」。コンヤで部品工場を営むヤクプ・アクンさん(46)は話す。

反欧米を掲げたイスラム政党から派生したAKPだが、2002年の総選挙で政権を握ると、欧米と良好な関係を築いた。政治的には中道右派。イスラム法の導入はうたわず、「宗教は大事だけど厳しい宗教支配には反対」 (アクンさん)という多くの保守層の心をつかんだ。
5月中旬の世論調査によると、AKPの支持率は46%。世俗野党・共和人民党(CHP)の27%を引き離して独走状態だ。

ただ、AKPは禁酒といったイスラムの価値観を実現させたいとの意向もにじませる。結局は見送られたが、1月にはコンサート会湯などで24歳以下に酒を売ることを禁じる規制を設けようとした。
昨年10月には高等教育審議会が通達を出し、それまで禁じられていた大学での女性のスカーフ善用を認めた。
エルドアン首相は「青少年の保護は政府の義務だ」「服装を理由に学べないのは人権問題」と述べ、イスラムという言葉を使わずに正当化した。

総選挙では、現在331議席のAKPが3分の2(367議席)を取るかどうかが焦点。そうなれば単独での新憲法制定にも道が開ける。AKPは現在の議院内閣制から大統領制への移行も検討している。エルドアン首相自らが大統領に就任し、強大な権限を手にするためとの見方もある。
CHPのアティラ・力―卜議員は「もっともな理由で宗教の価値観を押しつけようとする」と批判。CHPの支持者も「いつか国民の自由が制限されるかも知れない」(美容室店長)と警戒する。

外交でも存在感
AKPは親イスラムという性格を生かして中東諸国と友好関係を強め、さらに欧米との「橋渡し」を担う。内戦状態に陥っているリビアをめぐっては、カダフイ政権と反体制側の仲介を試み、和平に向けた工程表を発表。反体制デモが続くシリア問題では、エルドアン首相はアサド大統領に電話して改革を求める一方、弾圧を逃れてトルコに越境した市民を保護する。

紛争当事者の双方と関係を保ち、対話を通じた解決を模索する姿勢は、09年に政治学者出身のダウトオール外相が就任してから顕著となった。バハチェシェヒル大学のシャヒン・アルパイ教授(政治学)は、「外交はAKP政権で最もリベラルな分野。周辺国の紛争を解決することは、トルコ自身に大きな利益となる」と話す。
一方、05年から始まったEU加盟交渉は停滞気味だ。AKP政権は加盟をあきらめたわけではないが、「欧州がトルコを受け入れようとしない」(アルパイ教授)。(イスタンブール=北川学)

穏健な改革の模範に
長期独裁政権が崩壊し、民主的な政権発足に向けた動きが本格化しているエジプトやチュニジアでは、AKPを「イスラム政治の新たなモデル」として注目している。

イスラムと政治の関係をめぐり、アラブ圈にはアルジェリアの苦い経験がある。複数政党制が導入された1991年の総選挙でイスラム政党「イスラム救国戦線」が圧勝したが、世俗主義を掲げる軍部が反発してクーデターを起こした。その後、テロが頻発、イスラム武装組織と軍部の衝突で多くの犠牲者が出た。
エジプトやチュニジアはこれを□実に「イスラム勢力を自由化すれば、アルジェリアと同じ混乱が起きる」と、ムスリム同胞団(エジプト)やナハダ(チュニジア)といったイスラム穏健派組織を非合法化してきた。

政変後、政治活動が自由化され、同胞団とナハダはそれぞれ政党を設立した。同胞団が結成した「自由公正党」は副党首にキリスト教徒を迎え、「市民政党」の体裁をとった。宗教色を抑えることで、「イスラム法を性急に導入するのでは」といづたキリスト教徒や世俗派の警戒心を解こうとしている。
「イスラム的価値観に沿った穏健な改革を求める」。同胞団などはAKPの影響を受けながら、イスラムの教えと、政治の現実のバランスを模索しようとしている。(カイロ=賞詞欣寛)【6月12日 朝日】
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イスラムの教えと、政治の現実をバランスさせているかどうかは、見る者の立場によります。
政教分離を徹底させたいと思う立場からすれば、与党・公正発展党(AKP)は政教分離を踏みにじる方向に動いている、将来は更に危険だ・・・ということにもなります。

確かに、与党・公正発展党(AKP)が新憲法を単独で制定できる3分の2の議席を獲得していたら、これまでとは異なる展開もあり得たかもしれません。
AKPが国民投票を実施する要件の330議席をも下回る326議席に終わったことは、AKPが圧倒的多数を握る政治情勢にあって、“バランス”の維持という点では国民の賢明な選択だったように思えます。

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IMF専務理事選出交渉  新興国台頭の流れを反映 日本に代わって中国が副専務理事?

2011-06-12 21:16:53 | 国際情勢

(4月16日のIMFC朝食会 右の腰かけている女性がラガルド仏財務相、左の手を差し出しているのがストロスカーン専務理事(当時) このひと月後、5月14日、ストロスカーン容疑者は強姦未遂で拘束されます。
“flickr”より By International Monetary Fund http://www.flickr.com/photos/imfphoto/5623839773/

IMF 日本の政治指導力欠如に危機感
国際金融の見張り番、そして救済機関として、最も影響力のある機関のひとつである国際通貨基金(IMF)は8日、日本に対し、現在5%の消費税率を2012年度から7~8%に引き上げる案を示しています。

****日本は来年度、消費税7~8%に MFが提言****
国際通貨基金(IMF)は8日発表した声明で、日本に対し、現在5%の消費税率を2012年度から7~8%に引き上げる案を示した。
国際機関が日本の税制に対し、増税時期と内容まで特定して提言するのは異例だ。

巨額の財政赤字を膨らませてきた日本が、これまで国際的な信認を保ってきた背景には、世界で最低水準にある消費税率の「引き上げ余地の大きさ」がある。IMFの踏み込んだ提言の裏には、政治の指導力の欠如で税率引き上げの実現が遠のけば、日本国債の信用不安が急速に高まるなど、国際社会にとっても不測の事態に陥りかねないという強い危機感がある模様だ。

経済協力開発機構(OECD)も、4月の「対日経済審査報告書」で、「公的債務残高は国内総生産(GDP)比で200%といった未知の領域にまで急速に増加している」と懸念を表明。「消費税率は20%相当まで引き上げることが求められるかもしれない」と指摘した。【6月11日 読売】
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日本国内において最もデリケートな問題でもある消費税率引き上げに関する、踏み込んだ具体的な提案です。
日本の財務省の意向が、篠原尚之IMF副専務理事を通して反映されたものでしょうか?
その提言内容の妥当性は別にして、日本は現在IMFから支援を受けている訳ではありませんから、このIMF提案を受け入れる必要はありません。
しかし、ギリシャなどIMFからの支援を受けて財政再建に取り組んでいるような国とっては、IMFの意向は国内世論の強い反発にあらがっても無視できないものでもあります。

不文律:IMFトップは欧州から、世界銀行トップはアメリカから
周知のように、現在IMFは、強姦未遂事件という信じ難いスキャンダルで辞任したストロスカーン前専務理事の後任専務理事の選考にあたっています。
10日に立候補受け付けが締め切られ、これまでフランスのラガルド財務相と、メキシコのカルステンス中央銀行総裁が公式に立候補を表明していますが、イスラエル中央銀行のスタンレー・フィッシャー総裁も立候補に踏み切ったとの報道も先ほど見かけました。
ただ、結果については、欧州の事実上の統一候補であるフランスのラガルド財務相が、次期専務理事に選出されるのがほぼ確実な情勢と見られています。
週明けにも理事会に候補者名を提示した上で公表し、理事会の審査、内部投票を経て6月30日までに次期専務理事を選出する方針とされています。

ラガルド財務相については、IMFトップは欧州から、世界銀行トップはアメリカから・・・という従来からの不文律に沿った人事でもありますが、発言権強化を求める新興国からの不満もあります。また、彼女が経済の専門家でないことも問題視されています。
しかし、その実力とともに、シンクロナイズドスイミングの元フランス代表選手でもあり、ヨガが趣味の菜食主義者で酒は一切飲まない・・・こうしたクリーンなイメージも、セックススキャンダルのストロスカーンの後任としては理想的とも見られています。

****今のIMFには彼女が必要****
性的暴行容疑で去ったIMFトップの次期候補者にクリーンで経済専門でないラガルド仏財務相がふさわしい理由(アニー・ラウリー)

辞任したドミニク・ストロスカーン専務理事の後任選びを開始したIMF(国際通貨基金)。
選考過程は不透明だが、結果はほとんど見えている。仏財務相クリスティーヌ・ラガルドが選ばれるだろう。(中略)
今のIMFにとって、彼女以上の人材はいない。女性で、多言語を操り、酒を飲まず、菜食に徹し、ヨガをやる。女たらしのストロスカーンとは対照的な禁欲主義者といえる。だが2つ問題がある。第1はヨーロッパ人であること、第2は経済の専門家ではないことだ。

創立以来の「紳士協定」で、IMFの専務理事は欧州から、世界銀行の総裁はアメリカから出すことになっている。しかも今の制度では出資比率で票が割り振られるから、投票の結果は目に見えている。
もちろん、こうした時代錯誤な仕組みを新興諸国は不満に思っている。そこで中国、ブラジル、インド、南アフリカ、ロシアの主要新興5カ国(BRICS)は、誰であれヨーロッパ人の候補には反対するとの文書を発表した。
そこには「専務理事の選任には能力に基づく選考が必要」だとある。「IMFのトップは欧州出身者という不又律は撤廃されるべきだ」

第2の論点に関しては、確かにラガルドは大国の財務相だが、きちんと経済学を学んだ人間ではない。女性で初めてアメリカの大手国際法律事務所のトップを務めることになる前は、労働争議と独占禁止法違反事件を専門とする弁護士だった。他のIMF理事の多くは、経済学で大学院レベルの資格を有するか、公務員として経済政策の策定に当たった経験がある。

財務相の経験が生きる
IMFの仕事は資金の提供と引き換えに財政再建を要求することだから、経済学の知識が不可欠だと反対派は主張する。
「ストロスカーンには経済政策の経験値があった。だから一定のリスクは取っても、大き過ぎるリスクは取らなかった」と、あるIMF職員は言う。「知識と経験の裏付けがないと、そうはいかないものだ」

だが出自の問題も経歴の問題も、さしたる障害にはなるまい。今のヨーロッパには財政面の問題児(ポルトガルやアイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインなど)がたくさんいて、ラガルドはフランスの財務相として長年、こうした国の救済や緊縮財政、債務削減に関する交渉に取り組んできた。
だからこそ「今は(問題山積の)ヨーロッパから専務理事を出すことに意味がある」と、スタンフォード大学の経済学者でノーベル賞受賞者のマイケル・スペンスは言う。欧州の現状に対するラガルドの知識は、各国の政策担当者の間でも高く評価されている。

欧州の抱える問題は、本質的に(経済の問題というより)政治の問題だ。そうであれば、経済学博士よりも敏腕弁護士の出番かもしれない。(中略)
IMFが必要としているのは、実行可能な計画について関係者の合意を形成できる人物だ。それには内部の事情に関する知識と強い交渉力が欠かせない。ならば、クリスティーヌ・ラガルドの出番である。【6月8日 Newsweek日本版】
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欧州はすでにラガルド候補で一本化されていますが、ナンバー2の筆頭副専務理事ポストを確保したアメリカもこれを容認しています。
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・・・・欧州各国と米国の間では、すでに今回の事件が発生する以前から後任の専務理事をめぐり一定の合意が形成されていたとの見方が強い。IMFの筆頭専務理事であるリプスキー氏(米国出身)が8月末での退任を発表し、いち早く米国出身者を後任に指名することで筆頭副専務理事のポストを米国が確保。「4人の首脳で唯一残る専務理事ポストをスムーズに欧州出身者に渡す」との筋書きと見られる。リプスキー氏の退任発表を聞いたIMF幹部の一人は「欧米間で後任専務理事の話がまとまった証拠だ」と解説した。【5月20日 毎日】
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【「世界経済の性質は大きく変化している」】
ただ、ラガルド財務相は、欧州勢が指定席のようにポストを維持することに批判が出ると、新興国を中心に行脚をはじめています。欧州を固め、米国が認めれば事実上決まりだった従来から見れば異例と事態であるとも報じられています。

****リーマン危機後「指定席」揺らぐ****
第2次大戦後の世界経済は、欧米が主導したブレトンウッズ体制と呼ばれる国際金融の秩序のもとに動いてきた。世界銀行と並ぶ要のT衰Fで、トップの座を新興国が求めるのは、世界経済の変化の象徴だ。
加速したのは2008年のリーマン・ショックから。
危機後の世界の経済成長は中国やインド、ブラジルなどが牽引し、世銀のゼーリック総裁は「世界経済の性質は大きく変化している」と認める。経済を議論する主要舞台は、日米欧7力国のG7から新興国を含むG20に移った。IMFトップも「欧州の指定席ではない」と行動に出た。(後略)【6月12日 朝日】
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もっとも、中国など新興国側も今すぐに専務理事ポストを手にできるとは考えていませんが、発言力強化を狙って交渉を行っています。

****IMFスキャンダルで中国に漁夫の利****
新興国の支持を取り付けたい後任候補の大本命、ラガルド仏財務相が中国に甘い約束を連発(キャスリーン・マクローリン)

IMF(国際通貨基金)のドミニク・ストロスカーン専務理事による性的暴行疑惑を機に始まったIMFトップの後任選びレースのおかげで、多大な恩恵を受けそうな国がある。中国だ。
新リーダー誕生が間近に迫った今、以前からIMF内での影響力を強めていた中国はさらに強大な権限を手に入れることになりそうだ。専務理事選への出馬を表明しているクリスティーヌ・ラガルド仏財務相が支持獲得のために新興国を歴訪したことで、途上国のIMFへの影響力が増大していることが一段と浮き彫りになった。

今週、中国を訪れたラガルドは、中国の経済発展を称賛し、新興国のプレゼンスを高める改革を続行すると約束。中国のIMFでの議決権拡大を支持し、今後も新興諸国の発言力を増大させる改革を続ける意向を表明した。中国訪問終了時の記者会見では「IMFが今後も正当な存在であり続けるには、世界における各国経済の強さや重みを正確に反映する必要がある」と語った。

中国人エコノミストを副専務理事に抜擢?
中国のアナリストらは、ラガルドが次期専務理事に選ばれら、中国人エコノミストでIMFの特任顧問を務める朱民を副専務理事に起用して、中国重視の約束を守るべきだと主張している。ラガルドは、今は自身のポスト問題に集中したいとしつつも、「彼はIMFの運営における重要な役割に十分適していると思う」と語り、朱を起用する可能性を示唆した。

これこそ中国側が聞きたかったメッセージだ。それでも、中国指導層は今のところ、ラガルド支持を公言しておらず、2008年の経済危機以降訴え続けてきた新興国の権限拡大の問題に全力を傾けている。
中国人エコノミストの湯敏に言わせれば、IMFのトップは出身国の国益ではなく加盟国を代表する存在であるべきだが、同時に象徴的な意味合いも大きい。「中国に選択権があるのなら、朱民を専務理事に推すだろう」と、湯は言う。「不可能な話だが」(中略)

ラガルドは中国人民銀行総裁らとの会談を建設的なものだったと表現した。中国はラガルド支持を公にしていないが、国営メディアは彼女の政策を非公式に支持する意向を示唆している(ラガルドは訪中に先立ってインドも訪問したが、公に支持を取り付けることはできなかった)。
 
一方、ラガルドと同じ時期に北京を訪問したIMFのジョン・リプスキー専務理事代行は、中国に批判的な立場を取っている。リプスキーは、中国経済には依然として明るい材料はあるものの、人民元の過小評価や財界への厳しい規制といった大きな問題が残っていると指摘。中国は今や世界経済に不可欠な存在であり、製造業への依存からの脱却を成功させないと、厄介な問題になりかねないとしている。【6月10日 Newsweek】
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専務理事は欧州、筆頭副専務理事をアメリカが確保し、ナンバー3の副専務理事を中国から・・・というシナリオですが、これではじき出されるのが現在の副専務理事を出している日本でしょうか。(現在の篠原尚之IMF副専務理事は09年11月就任で、任期は5年)
日本は、世界経済における存在感が低下していることに加え、電話1本で有力国の財務相と話がつけられるような実力を備えた人材がいない・・・との指摘もあります。
確かに、世界経済の趨勢からすれば、新興国を排除した今の枠組みには無理があるとも言えます。もっとも、為替操作国の人間がIMFの副専務理事というのも変な話ですが。

IMF人事にこだわるよりは、IMF支援を必要としないように財政再建に努めることの方が本筋です。
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オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ

2011-06-11 21:09:35 | 世相

(インドネシアのアチェ オーストラリアの人道支援団体Austcareの女性メンバーと現地の牛 本文にあるオーストラリアからの輸出牛ではありません。とても牧歌的な光景です。“flickr”より By ActionAid Australia http://www.flickr.com/photos/38316435@N07/3791384648/

牛を気絶させないまま喉を何度も斬ったり、体を蹴り上げるのは非人道的
物事は何につけても白黒つけがたいものです。
何が人道的で、何が非人道的か・・・といった“人道的”といった抽象的な概念などもそうした一例でしょう。
内戦や紛争時に戦争犯罪としての“人道上の罪”が問題になりますが、通常の戦闘行為における殺戮なら“人道的”に許されるのか?

そうした身構えた話でなくとも、もっと身近なところで、捕鯨問題における動物愛護精神などもしばしば問題になります。
反捕鯨では先頭に立つオーストラリアですが、オーストラリアからインドネシアに輸出される生きた牛の処分方法を巡って“非人道的”との声が高まり、禁輸措置が講じられたそうです。

****豪、生きた牛のインドネシア輸出禁止 「解体手法が残酷*****
オーストラリア政府は8日、インドネシアへの生きた牛の輸出を全面的に停止したと発表した。
インドネシアの一部の食肉処理業者による牛の殺し方について「残酷」との非難が豪州内で高まっているため。インドネシアは豪州にとって生体牛の最大の輸出先で、ラドウィック豪農林水産相は業者に対応改善を求めた。禁輸は最長6カ月続く可能性がある。

豪国営ABCテレビが5月30日、動物保護活動家が撮影したインドネシアの食肉処理場の映像を放映。業者が牛を気絶させないまま喉を何度も斬ったり、体を蹴り上げる様子を伝えた。豪州では牛を気絶させてから処理する手法が定着しているため、「非人道的」などの声が上がり、豪政府が対応を検討していた。
インドネシアのススウォノ農相は8日、解体の状況を調査すると同時に「米国やニュージーランドからの牛肉輸入拡大を検討する」考えを示した。パンゲストゥ貿易相は「牛肉の在庫は十分あり、価格が急騰するなどの心配はない」と述べた。

豪紙によると、豪州からインドネシアへの生体牛輸出額は2010年で3億1800万豪ドル(約270億円)と全体の47%を占める。インドネシアは牛肉輸入の25%を豪州に依存する。
豪業界団体の豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は声明で、事業への影響は避けられないとしつつ、禁輸措置を受け入れるとした。【6月8日 日経】
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“気絶させてから処理”するのが“人道的”で、“気絶させないまま喉を何度も斬る”のは“非人道的”か?
殺して食べてしまうことにはかわりなかろうに・・・という考えもあるでしょう。
なかなか白黒つけがたいところがあります。
個人的には猫が好きですが、猫を蹴飛ばすような人間は“非人道的”な外道だという考えには1票入れます。

温暖化対策で、ヘリコプターから野生ラクダを射殺
オーストラリアに関しては、別に、原住民アボリジニを“狩り”の対象として殺りくを楽しんでいた過去の歴史を持ちだすこともないでしょうが、最近の話題で、温暖化対策としての野生ラクダ殺処分の話があります。
ラクダが温暖化にどのように関係するのか不思議に思ったのですが、急増した野生ラクダが草原を食べ尽くして植生が失われる・・・という問題のようです。

*****CO2削減で野生ラクダの殺処分を検討、豪州*****
オーストラリアで、二酸化炭素(CO2)削減取り組みの一環として、野生のラクダの殺処分が検討されている。
オーストラリアの野生ラクダは、19世紀に入植者が連れてきたラクダが野生化したもの。現在、アウトバックと呼ばれる豪大陸内部の砂漠を中心とする辺境地帯を徘徊する数は、120万頭にも上る。
これらのラクダらが草原を食べ尽くして植生が失われるなどの害を考慮すると、ラクダ1頭につき年間平均で、CO21トンに匹敵するメタンを算出している計算になり、同国の大きな温室効果ガス排出源になっているとみなせる。

こうした状況を背景に、アデレードの広告会社ノースウエスト・カーボンが提案したのが、ラクダの殺処分案だ。政府の「気候変動とエネルギー効率局」が9日公開した諮問書の中で提示された同社の提案によると、ヘリコプターからラクダを射殺するか、群れをまとめて食肉処理場へ送り、食用やペットフードに加工する。
ノースウエスト・カーボンのティム・ムーア社長は、豪通信社AAPに対し、「わが国は創意工夫に富む国民の集まり。問題があっても革新的な解決方法を見出す。(ラクダの殺処分は)そうした伝統の一例だ」と語った。

発電は火力中心、輸出は鉱山資源に大きく頼っているオーストラリアは、国民1人当たりの温室効果ガス排出量が世界でも最も多い国の部類に入るが、政府は方針の転換を模索しており、農業・林業従事者や土地所有者などが排出削減のアイデアを考案した場合、新たな経済的機会を与えることを検討中という。
ラクダの殺処分案が含まれたイニシアチブは次週、議会で審議される予定。【6月10日 AFP】
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牛の喉を斬るのは駄目だが、ヘリコプターからラクダを射殺するのはいいのか・・・と、つっこみたくもなりますが、もちろんオーストラリアにもいろんな考えの人がいますので。

難民より牛の方が人道的に扱われているのでは?】
ラクダはともかく、対象が人間となると熟慮を要します。
下記は、つい先日の6月6日ブログ「オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110606)でも取り上げた記事です。

****豪の難民移送策、波紋 密航者、今度はマレーシアで審査案****
「人道上問題」反発招く
オーストラリアのギラード政権が新たに打ち出した難民政策が国内外で反発を招いている。アフガニスタンなどの紛争地から豪州海域に船で押し寄せる難民認定希望者をマレーシアに移送する代わりに、マレーシア在住の難民認定者を受け入れる構想に対し、難民条約に未加入のマレーシアとの協力は人選上問題があるなどと批判されている。

労働党のギラード政権が先月公表した構想は、豪州に密航を試みる計800人をマレーシアに移送し、国連の難民審査を受けさせる一方で、今後4年間にマレーシア在住の計4千人の難民認定者を豪州に受け入れる計画だ。ギラード氏とマレーシアのナジブ首相との間で基本合意し、両政府間で交渉が進んでいる。

ギラード氏は首相就任直後の昨年7月、難民認定希望者を収容・審査する施設を東ティモールに設ける構想を打ち出したが、東ティモール側が激しく反発。その後も保守系のハワード元政権時に一時実施されたパプアニューギニアでの収容を再開させる案を模索するなどしてきた。
この間も難民船の来航は止まらず、豪政府によると、今年1月~5月に豪海域に逓した難民船は計20隻余、乗船人数は計1100人以上にのぼった。豪州領クリスマス島の施設などに収容している。4月には、シドニー近郊の収容施設で収容期間の長さなどに抗議する暴動も起き、難民政策への批判が高まっている。

構想に対し、野党保守連合を率いる自由党のアボット党首は「ギラード政権はパ二ックに陥っている」と批判。5月末に豪州を訪れたピレイ国連人権高等弁務官も「マレーシアとの協定は国際法違反の可能性がある」と懸念を示した。
マレーシアに入った難民認定希望者は、国連の難民認定を受け、その後は欧米など、定住可能な第三国に送り出されている。だが、国連や支援団体によると、マレーシア国内での就労は認められず、一部屋に数十人が寝起きするような住環境など、人道上の問題が指摘されている。

ギラード氏の豪州以外への移送を試みる難民対策は、近年のアジア系移民の増加に加えて難民が押し寄せることに対し、雇用や福祉への不安が国民の間で強まったことを受けたものだ。だが同時に人権重視派の労働党支持層からの批判も招いた。最新の世論調査によると、政党支持率は保守連合44%に対し、労働党は34%と低迷している。
豪州のNGO(非政府組織)、難民アクション連合のイアン・リントール氏は「マレーシアの収容施設の環境は非常に悪い。豪政府はむしろ、マレーシアやインドネシアからも多くの難民希望者を受け入れるべきだ」と批判している。【6月5日 朝日】
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オーストラリアにおいても、“人道的”に扱われない牛は輸出禁止にするが、難民は“人道上の問題”があるマレーシアに移送するのか? 難民より牛の方が人道的に扱われているのでは? という批判の声があるとか。
当然の疑問です。
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