(ムンバイのスラムと高層建築 “flickr”より By M Report https://www.flickr.com/photos/mreport/4265550970 )
【手頃な価格の住宅をすべてのインド人家庭に提供する】
これまでは比較的ゆるやかだったインドの都市化は、今後急速に加速することが見込まれています。
インドは現在でも想像を絶するようなスラムを抱えており、経済手腕・州首相時代の実績が評価されて政権の座を獲得したモディ首相には適切な対応策を講じることが必要とされています。
****スラム人口1億人、めまいするインドの難問 モディ政権の都市近代化プランは成功するか****
インドの都市化はほかの新興国に比べてゆっくりと進んでいます。
都市に住む人口の割合は2001年の28%から、11年に31.1%に達したに過ぎません。これはほかの新興国に比べるとまだ低く、インドの都市計画が充分なものだったのかという疑問がわき上がります。
しかしナレンドラ・モディ首相の時代を迎え、都市化のスピードは過去よりも高くなると期待されています。
国家計画委員会によると、都市人口は31年に6億人となり、11年比6割増になる見通し。インドではかつてないスピードで都市の膨張が始まりそうです。
スラム人口は1億人に
現状をみると、インドは都市化をめぐってめまいがするような難問に直面しています。
多くの都市は無計画で場当たり的なやり方で発展してきたため、住宅の思わぬ不足が起こりつつあります。住宅・都市貧困緩和省(MHUPA)によると、2012年の住宅不足は1900万戸に上りました。
またスラムに住んでいる人口は、2011年の6600万人から2017年の1億0500万人に増えると予測されています。
大気汚染は世界最悪レベル、騒音公害も深刻。不適切な交通管理により交通事故も絶えません。
インフラの不足によるコスト増大も指摘されています。たとえば、都市部の水不足により、その地域の人々は明らかに高いコストを払わなければならなくなっています。(中略)
このような環境の中で就任したモディ首相。選挙スピーチの中で、モディはこのように言ったことがあります。
「われわれは都市化を脅威としてではなく、オポチュニティーとしてとらえなければならない」
「都市はかつて川岸に沿って建設されたが、現在は高速道路に沿って建設されなくてはならない」……。
モディがこのように都市問題を重視している背景のひとつは、州首相を務めたグジャラートでの成功体験があるからでしょう。
モディが州首相時代に、グジャラートは特別投資地域(SIR)の取り組みを始め、現在までにドレラなど13のSIR都市を開発しています。
同時に、すでに存在する都市の発展という意味で、グジャラート州の主要都市である アーメダバードは良い例になるでしょう。サバルマティ川沿いはパリやロンドンのように再開発されました。インド唯一といって良い都市交通システムがあるのもアーメダバードです。
すべての家庭に住宅を!
さらに重要なのは、モディが手頃な価格の住宅をすべてのインド人家庭に提供すると約束したことです。
インド人民党は、独立75周年となる2022年までにこの公約を達成するとしていますが、それには1500億ドルが必要になるとされています。巨大な額であり、この計画の壮大さを物語っています。
こういった中、インドの都市化は巨大なビジネスチャンスとして世界的な注目を集めています。(中略)日本企業は今のところ、鉄道・道路インフラプロジェクトに主な関心を示しています。
インドは通信セクターにおいて、高コストだった固定電話から携帯電話へと蛙跳びで移行しつつあります。それと同様に、都市も急速に近代化するのではないでしょうか。【8月1日 東洋経済online】
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「われわれは都市化を脅威としてではなく、オポチュニティーとしてとらえなければならない」という意気込み・姿勢は評価すべきでしょう。
もちろん、現在のめまいがするような貧困層の存在を考えると、“手頃な価格の住宅をすべてのインド人家庭に提供する”というのは、あまりにも現実離れした感があります。
ただ、グジャラート州時代の実績を考えると、都市インフラ整備での辣腕も期待されます。
スラムを強権的に撤去して道路や商業施設を建設する・・・といった途上国にありがちな方法では、新たな問題を生むことは言うまでもないことですが。
【「家、村、町をきれいに」】
住宅もさることながら、インドでは衛生問題・環境汚染も深刻な状況です。
こちらは対応次第では大きく改善できるトイレ対策が突破口になりそうです
****インド浄化作戦、まずはトイレから すべての寺院の前にトイレを設置へ****
インド人の72%が衛生設備を利用できない
インドを旅行するほとんどの日本人は、インドの不衛生的な状況を目の当たりにします。
とりわけ飲料水と衛生設備については、政府も地域社会も努力しているのですが、依然として十分ではありません。都市部も農村も衛生設備の普及は進んでいないのです。
水道と衛生設備への投資額が国際水準からすれば低かったことが、その要因です。2000年代にようやく増えはじめていますが、地方では財源難のせいで整備は進んでいません。
加えて、インドでは安定的に飲料水を供給できる大都市はなく、問題は単純ではありません。推定ではインド人の72%がいまだに十分な衛生設備を利用できていないのです。
レベルの低い衛生設備の影響は、甚大です。排便のためにいちいち野外に行く時間的ロスはバカにできませんし、女子学生や女性の就学・就労の障害にもなっています。
特に外国人に不評な観光地の不衛生なトイレは観光収入の機会損失につながっていることは間違いありません。
水道設備がないことは、ペットボトル入り飲料水の購入や取水用のパイプの敷設、遠方から飲料水を取ってくるといった時間的、金銭的な損失を生んでいます。
しかし、もっとも懸念されるのは人々の健康への影響でしょう。
ナレンドラ・モディ首相は寺院の前にトイレを設置すると述べています。清潔なインドのイメージを作るという意思を具体的計画として発表することで道筋を描いて見せたのです。これは今後数年で実現できる見通しです。
廃棄物管理もできていない
インドでは組織的な廃棄物の管理が行われていません。インド人の「チャルタハイ」(いいよ、いいよ)という態度がそれを助長しているようです。
インド人は道路、ビジネス街、観光地、自宅の近くにさえ、あらゆるところでゴミを捨てます。このことはどんなに彼らが公衆観念に無頓着かを示しているといえるでしょう。
そのくらい公衆観念がないかというと、ゴミ箱があっても、ゴミは空っぽのゴミ箱の周囲に散らばっているのです。それは悪臭をもたらすだけでなく、病気や感染症の原因ともなります。(中略)
地方自治体には適正な廃棄物管理についての規則があり、効果的な廃棄物管理のため、地域社会や集合住宅に対して分別ゴミを行うように周知していますが、効果はないようです。
通りにはゴミが放置され目を覆うばかりです。地方自治体は適切な場所にゴミ箱を設置して、随時回収すべきでしょう。また、ごみ箱を使用するように国民を啓蒙するべきです。
しかし、現在の地方自治体はこの問題に取り組む姿勢がありません。そのため、事態が改善するにはまだ時間がかかりそうです。家庭ゴミだけでなく産業廃棄物も大きな問題です。
モディ首相はインドの街をきれいにすることを目指しています。「今、我々はインド人の国民性を真剣に考える時期に来ている」と述べ、衛生面での改善を宣言しました。
「スワッチ・バーラト」(クリーン・インディア)は彼の最優先課題の一つといえるでしょう。モディ首相はあちこちで国民に「家、村、町をきれいに」するように訴えています。
実際、首相就任の際には、多くの政府のオフィスで、ビルから机まできれいに清掃されたのです。
モディ首相自身も掃除が好きで、彼は官僚たちに大掃除を行うこと、机を整理すること、不要な書類を廃棄することを命じました。
情報の発信と伝達の問題
インドは準公用語として英語が使われていますが、実際には多言語社会です。
都市部やビジネスでは英語が通用しますが、地方に散らばる多くの観光地では、場所によってはヒンディー語やその土地の言葉しか通じず、外国人はコミュニケーションの問題に直面します。(中略)
政府のサービスの多くは自動化されていないため、書類ひとつを申請するのにも手間がかかります。しかも情報は不明確で、サービスは人々になかなか行き渡らない現状は、日本人を含め、外国人にとって頭痛の種です。(中略)
モディ首相はITファンであり、ITを使ってガバナンスを改善し、インドをあらゆる情報が効率的、かつタイムリーに活用できるデジタル国家にする必要性を強調してきました。eガバナンスについては、「簡単で、効率的で経済的なガバナンスだ」と述べています。
彼はまた、インドで最もツイッターを使用する政治家です。現政府の中でソーシャルメディアを通じて大衆とコミュニケーションをとり、各部局間の調整を図ることで彼の右に出るものはいません。
彼は閣僚たちに効率的に働くために、ITツールを使いこなすことを勧めています。新政府は「2019年までにデジタル・インドを実現する」という目標を達成するため、50億ルピーの予算をつけているほどです。
こうした数々の目線の高い計画が、確実に実行されるかどうか。それが今後の注目点といえるでしょう。【8月21日 東洋経済online】
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かつて中国のトイレは目を覆うような状況でしたが、現在は随分改善されています。
インドも・・・・というところですが、インドは先ずトイレを作るところからのスタートです。
トイレを作ること自体はさほど難しくないでしょうが、トイレをきれいに使う、ゴミをあたりかまわず捨てない・・・といった公衆観念を人々に浸透させるのは、至難の業です。
今はまだ、“きれいなインド”というのは想像できないところですが、きれい好きなモディ首相にこれも期待しましょう。
モディ首相はインド人にとって最も聖なる川であるガンジス川の浄化を公約し、ある演説では、インドをきれいにするミッションをバラナシから、つまりガンジス川の浄化から始めると述べています。
7月上旬に発表した国家予算案でも相当額が計上されているとか。【8月14日 東洋経済onlineより】
【「民衆にヒンディー語を押し付けようとしている」】
最後の“eガバナンス”については、モディ首相の“ヒンズー至上主義者”という懸念される面が出ています。
****インド:多言語国家で政権が進めるヒンディー語使用促進****
5月に発足したヒンズー教至上主義政党・インド人民党政権が、ヒンディー語の使用を促進している。
だが、インドは多言語社会で理解できない国民も多いうえ、ヒンディー語はヒンズー教に密接に結びついた言語のため、イスラム教徒や非ヒンディー語話者から反発が上がっている。
ヒンディー語は主に北インドで使用され、憲法で連邦公用語に指定されているが、母語とするのは約12億人の人口の半数以下にすぎない。このため29の州ごとに公用語があり、国会や政府機関では準公用語である英語を共通語として使う例が多い。
だが、地元メディアによると、内務省は5月下旬、政府機関の公的なツイッターなどのソーシャルメディアで、ヒンディー語を積極的に使うよう通達。
モディ首相自身も官僚との会議や外国要人との会談でヒンディー語を用いた。ヒンディー語はヒンズー教の聖典などに使われる古語サンスクリット語を起源とし、宗教色が強い。
モディ首相は強硬なヒンズー教至上主義者で知られており、ヒンディー語の活用はこうした思想を反映している可能性もある。
こうした中、イスラム教徒や南部など非ヒンディー語圏の政治家らは「不平等だ」と反発。ほかの地方言語の促進も求めるなど波紋が広がっている。
イスラム教聖職者のナフィズ・アフマド・カシミ師(35)は「インドは単一言語の国ではない。モディ政権はヒンディー語を理解できない人々を無視している」と話した。【7月30日 毎日】
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共通言語である英語を使用するように・・・というならまだ話はわかりますが。
インド本来のものを重んじて外国のものは排斥するという与党・インド人民党らしい施策とも見られています。
ヒンディー語を使用しない南部からは「民衆にヒンディー語を押し付けようとしている。他言語を話す人々を、二級市民として扱う試みだ」といった強い批判が出ました。
しかし通達が政界で波紋を広げたため後日、ヒンディー語がよく使われる北部諸州に限った命令だと釈明したとのことです。【8月26日号 Newsweek日本版より】
【パキスタンとの外務次官級会談を中止】
モディ首相・与党のヒンズー教至上主義的な側面は、外交においては隣国パキスタンとの関係において懸念されます。
****次官級会談の中止表明=パキスタンと関係悪化―インド****
インド外務省は18日、今月下旬に予定されていたパキスタンとの外務次官級会談を中止すると発表した。
パキスタンの駐インド高等弁務官が同日、北部カシミール地方のインドからの分離を目指す組織のリーダーと接触したことを受けた措置。
5月の印パ首脳会談で高まっていた和解の機運は、急速にしぼみつつある。
インド外務省は「パキスタンによる内政干渉は断じて受け入れられない」と強い調子で非難。「高等弁務官が分離主義者と会ったことは建設的な外交関係を目指すインド側の努力を無にするもので、このような状況下で会談を行っても有意義な結果は得られない」と中止の理由を説明した。【8月19日 時事】
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パキスタンにおいても、軍の意向に反してインドとの関係修復を進めてきたシャリフ首相が退陣要求を野党などから突き付けられています。
モディ政権のヒンズー教至上主義的な側面が前面に出てくると、印パ関係は一気に悪化することも懸念されます。