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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  被差別民ダリット出身の新大統領選出でも続く、よそ者には理解しがたい差別社会

2017-07-18 22:28:45 | 南アジア(インド)

(インド西部ラジャスタン州ジョドプールで催されたヒンズー教の祭典の際に、花輪などで飾られた牛【7月13日 AFP】 一方で、その命が牛ほども尊重されない人々も)

モディ首相にとっては政治的勝利、ただダリット差別は今後も続く
インドでは17日、国会議員及び州議会議員による間接選挙で大統領選挙投票が行われましたが、開票は20日になるとのことです。

与野党ともに、カースト制最下層というか、カースト制枠外の被差別民ダリット出身の候補者を立てていますが、与党候補が勝利するとみられています。

****<インド大統領選>人民党候補が当選見通し 20日開票****
任期満了に伴うインド大統領選は17日、投票が実施された。上下両院と州議会議員の計約5000人による間接選挙で、20日に開票される。

与野党ともに被差別カーストのダリト出身者を擁立したが、インドメディアによると、与党・インド人民党の候補者、ラーム・ナート・コビンド前ビハール州知事(71)が当選する見通しだ。
 
大統領の任期は5年。国家元首として首相指名などを行うが、政治的実権は首相が握っており、儀礼的な役割が強い。
 
コビンド氏は人民党のダリトによる下部組織でトップを務めた経歴もある。人民党の支持母体であるヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)に近いとされ、野党からは宗教分断が強まると懸念も出ている。

国民会議派などの野党連合は女性初の下院議長を務めたメイラ・クマール氏(72)を擁立し、一騎打ちとなった。【7月18日 毎日】
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インドの大統領の地位については“インドは議院内閣制の政体をとっており、大統領は形式的・象徴的な存在である。歴代首相が北インドの有力なヒンドゥー教徒にほぼ独占されてきたのに対して、大統領職は民族的少数派である南インド・ドラヴィダ系の人びとやムスリム、シク教など宗教的マイノリティに割り当てられることが多い。政治的実権は首相ににぎられている。”【ウィキペディア】とも。

“形式的・象徴的な存在”ではありますが、“大統領は国家元首で陸海空軍の指揮権を握っているほか、議会で可決した法案を最終的に承認する立場にあるなど、一定の政治的な権限を持っています”【7月17日 NHK】とも言え、これまでの国民会議派推薦のムカジー大統領に代えて与党・人民党が擁立するヒンズー至上主義団体・民族奉仕団(RSS)にも近いコビンド前ビハール州知事が当選すれば、モディ首相にとっては一定に政治的勝利と言えるでしょう。

大統領は“宗教的マイノリティに割り当てられることが多い”という事情もあってか、今回は与野党候補ともダリットです。

ダリットは“不可触選民”(アンタッチャブル)という別名が示すようにインド社会にあって厳しい差別の対象となっています。

もちろん法律上は“1950年に制定されたインド憲法17条により、不可触民を意味する差別用語は禁止、カースト全体についてもカーストによる差別の禁止も明記している。”【ウィキペディア】とのことですが、現実社会における差別は根強いものがあります。

そうした差別構造を解消するべく“インド憲法第341条により、大統領令で州もしくはその一部ごとに指定された諸カースト(不可触民)の総称として、スケジュールド・カースト(指定カースト)と呼称し、留保制度により、公共機関や施設が一定割合(約25%)で優先的雇用機会を与えられ、学校入学や奨学金制度にも適用される。”【同上】といった措置もとられています。

このことから、指定カースト以外のカースト貧困層にとっては“逆差別”になっているとの不満もあるようです。

ダリット出身の大統領ということで、社会に似強い差別が解消される方向に進むのであれば、前述のモディ首相にとっての政治的勝利以上の意味合いがありますが、実際にはそうしたことはあまり期待できません。

インドでは1997~2002年に在任したK・R・ナラヤナン元大統領もダリット出身ですが、それでインドの差別社会が改善したという話も聞きませんので。

ここ1年ほどのニュースに見るダリット差別
ダリットは全人口の16~17%、約2億人ほどということで、膨大な人々が差別になかに置かれています。

ここ1年ほどの、日本でも報じられたダリット関連の事件・ニュースを並べてみると、その社会的立場、差別の実態が推察されます。

****店主がおので夫婦殺害 24円の借金滞納に激怒 インド****
インド北部ウッタルプラデシュ州で(2016年7月)28日、食料品店の店主(60)が、15ルピー(約24円)の借金を返済できなかった夫婦をおので殺害する事件が発生した。警察が発表した。
 
殺害されたのは、身分制度カーストの最下層ダリット(Dalit)の中年夫婦で、同日朝に仕事に向かっていた際、店主に未払いの15ルピーを返すよう迫られたという。

捜査官がAFPに明かしたところによると、夫婦は先週この店で買い物をし、代金は数日以内に払うと約束していた。

「店主が支払いを求めたところ、夫婦は待ってほしいと懇願した。激怒した店主は、おので夫婦に襲いかかった」という。店主は間もなく逮捕され、犯行に使われた凶器も押収された。【2016年7月29日 AFP】
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インドでは近年、女性に対する性的暴行の横行が大きな問題となっていますが、被差別民ダリットはこうした暴行の対象となりやすく、警察当局もダリットの被害はまともにとりあわない・・・とも言われています。

****インドの女子大生、同じ加害者らから再び集団レイプ被害****
インド北部ハリヤナ州で、3年前に集団レイプを受けた女子大生(21)が、起訴された加害者を含む集団に再びレイプされ、病院で治療を受けていることが分かった。警察幹部が18日、明らかにした。
 
ハリヤナ州警察は、大学のそばで女性を拉致して薬物を飲ませ、車に連れ込んでレイプに及んだとされる5人組の行方を追っている。
 
最下層カーストのダリット(Dalit)出身というこの被害女性は13日夜、首都ニューデリーに隣接する同州の幹線道路脇の茂みで、意識不明の状態で発見された。
 
同州警察の副本部長によると、今も入院中の女子大生は自らを襲った5人全員を認識しており、うち2人は3年前にこの女性をレイプした事件の裁判を待つ間、保釈されていた男らだという。(中略)
 
被害女性の家族はこれまでも、容疑者5人から2013年の事件に対する訴えを取り下げるよう脅迫を受けていたという。
 
地元英字紙ヒンドゥスタン・タイムズは被害者の兄弟の話として、「被告らから、裁判に持ち込まないよう常に脅迫を受けてきた。多額の和解金も提示されたが応じなかった」と伝えている。【2016年7月18日 AFP】
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モディ首相はヒンズー至上主義の側面があると言われていますが、多くのヒンズー至上主義者にとってはダリットの命など牛ほどの価値もないのでは・・・とも思われます。

****牛の皮はいだ下層カースト住民を集団リンチ 印グジャラート州****
インド西部グジャラート州の村で、死んだ牛の皮をはいだとして最下層カースト出身の住民が「牛の保護者」を自任する集団に襲われる事件があった。襲撃の様子を捉えた動画がインターネット上に拡散し、地元警察によると12日までに容疑者3人が逮捕された。
 
動画には最下層カーストのダリット(Dalit)に属する男性4人が、混雑した市場で裸にされて車に縛り付けられ、ベルトや棒で打たれる様子が映っていた。さらに4人を助けようとしたダリットの別の住民2人も殴られていた。
 
インドで国民の多数が信奉するヒンズー教で牛は神聖な動物とされており、グジャラートなど幾つかの州では牛を食肉処理したり、牛肉を食べたりすることが法律で禁じられている。
 
とはいえ警察によると、今回のケースでは住民が皮をはいだのは自然死した牛だったという。警察は襲撃したグループ6人のうち3人を殺人未遂で逮捕した。
 
インドでは長年、ヒンズー教右派の団体が牛の食肉処理の全面禁止を求めてきた。2014年にヒンズー至上主義者のナレンドラ・モディ首相が就任して以降、牛の取引業者らに対する保護組織の襲撃が増えており、昨年は牛肉を食べたり牛を売買したとして少なくとも5人のイスラム教徒がヒンズー教徒の暴徒に殺害されている。【2016年7月13日 AFP】
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今回、勝利が予想される新大統領もヒンズー至上主義に近いということで、モディ政権下の危ない風潮が加速することが懸念されます。

****インドの教員、カースト下層の男性を「斬首」 警察当局****
インド北部ウッタラカンド州で、身分制度カーストの最下層ダリット(Dalit)の男性が製粉機を使ったことに腹を立てた教員が、口論の末、ダリットの男性を斬首した。警察当局が7日、述べた。
インドではダリットの人たちへの攻撃が後を絶たない。 

PTI通信によると、容疑者の教員は、ダリットのソハン・ラムさん(35)が製粉機を使ったことに腹を立て、製粉機を「不浄」にしたと非難したという。
 
インドでは「不可触民」という考えが違法化されているものの、今でも一部のヒンズー教徒は、下層カーストの人との接触が不浄をもたらすと信じている。(後略)【2016年10月7日 AFP】
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****会見中の活動家を一時拘束=身分差別を批判-インド****
インドの民放テレビNDTVは3日、北部ウッタルプラデシュ州の州都ラクノーで人権活動家31人が記者会見中に警察に一時拘束されたと報じた。

警察は、会見で社会に根強く残る身分差別の実態を訴えていた活動家らが「会見後に無許可デモを計画していた」として拘束した。
 
拘束されたのはインドの旧被差別階層(ダリット)出身の元大学教授や元官僚ら。会見では警察が2日、差別に抗議するため、ラクノーに向かっていたダリット出身者約50人を列車から降ろしたことを批判した。
 
5月には、同州知事の公務に参加予定だったダリット出身者が州当局者にせっけんとシャンプーを渡され、風呂で「きちんと洗ってこい」と差別的な指示を受けたと主張。抗議の声が広がっていた。

インドでは1950年施行の憲法で伝統的な身分制度による差別が禁止されている。【7月3日 時事】
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こうした事件・話題はたまたま日本でも報じられるところになっていますが、日本にまでは報じられない事件、あるいはインド国内にもあってもニュースにすらならない事件・差別は膨大なものがあると推察されます。

部外者にはうかがい知れないダリット・カーストの実態
日本でも問題とか在日韓国・朝鮮人差別などがあるように、人間はとかく差別の対象を求めるもののようでもあり、心の中の差別解消は非常に難しいものがあります。

ただ、インドのダリット差別や、カースト制そのもののについても、そうしたものが強く残存するインドの現状は日本人にとっては理解しがたいものもあります。

一方で、そうしたダリット差別社会にありながら、大統領にまでのぼりつめるダリット出身者もいることは、これもまた部外者にはよくわからないところです。

差別と逆差別、特定カーストの支持を得ようとする政治家のカースト利用、アイデンティティーとしてのカースト、都市と地方の差、教育による差、IT関連職業などカーストに縛られない職種の拡大・・・・等々、いろんな側面を含みつつ、“カースト問題はしばしばインドの政治・社会と摩擦を起こしてきたが、我々の心配とはうらはらに、インド人自身はある程度の折り合いをつけて共存している、というのが実感だ。”“カースト制度は今後限りなく薄まっていくことがあっても、決して消滅しない”といった指摘も。【2月22日 JCER 山田剛氏“カーストと政治~社会の安定剤か混乱の元凶か”】

個人的には、差別の温床となるカーストに関してやはり“飲み込めない”ものを感じますが・・・・。
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フランス・マクロン大統領  対米・対ロで現実主義的な面も EU牽引へ“復帰” 内政改革へ強い意向

2017-07-17 22:11:56 | 欧州情勢

(独ハンブルクで開催のG20で、(左から)マクロン仏大統領、メルケル独首相、トランプ米大統領(7月7日撮影)。【7月17日 AFP】)

外交 “強い指導者”イメージに続き、現実主義的な面も
フランスの若き指導者マクロン大統領は、就任直後のアメリカ・トランプ大統領との「握手外交」やロシア・プーチン大統領との会談で“一歩も引かない強い姿勢”を示すなど、順調な滑り出しを見せていました。

その後も、単に強い姿勢をみせるだけでなく、西側世界で“厄介な存在”にもなっているトランプ大統領を敢えて自国に招き、両国関係の修復をアピールするなど、現実主義的側面を見せています。

****<仏大統領>米との友好関係修復を強調****
トランプ米大統領は14日、フランス革命記念日の軍事パレードにマクロン仏大統領と共に出席した。

マクロン氏は米仏関係について「何者にも分かたれない。トランプ夫妻の存在が友情の証しだ」と述べ、気候変動問題への対応などで亀裂が生じた米仏の友好関係の修復を強調した。
 
両首脳が見守るなか、パレードでは、第一次世界大戦への米国参戦から100年を記念し、約150人の米兵を含む約4000人の兵士らが行進した。
 
13日の首脳会談では、シリアの政情安定化に向けて協力することや、テロ根絶に向けた取り組みを進めることなどで一致した。
 
一方で、トランプ氏が離脱を表明した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」についての溝は埋まらなかったものの、トランプ氏は今後も協議を継続していく姿勢をみせた。
 
トランプ氏は仏メディアのインタビューなどで、相次ぐテロを引き合いにフランスを「無法地帯」と表現してきたことなどからフランス側の反発を招いた経緯がある。

14日付の仏紙フィガロの世論調査によると、トランプ氏の招待を「支持する」との回答は61%に上り、米仏関係の修復を印象づけた。【7月14日 毎日】
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現職のアメリカ大統領のパレード出席は、フランス革命200年を記念した1989年のブッシュ(父)元大統領以来。

パレードには米兵約150人も加わり、「米兵が初めてフランス革命記念日パレードを先導した」(米軍情報紙スターズ・アンド・ストライプス電子版)とのこと。

更に“このほかにも、欧州に駐屯する米陸海空軍に海兵隊も参加。2機のF22戦闘機と、米アクロバット飛行チーム「サンダーバーズ」の6機のF16戦闘機がパリ上空を飛行した。”【7月14日 産経】とのことで、トランプ大統領も“ご満悦”だったようです。

(政治家はフランス語を話せることを有権者に隠したほうがいいなど、アメリカ社会は何かと独自性・伝統を主張して鼻につくフランスに反感を持っているようですが、アメリカのドラマ・映画などを観ていると、そうした反感と裏腹のフランス・パリに対する強い憧れ・コンプレックスみたいなものも感じます。)
マクロン大統領は対ロシア政策でも、プーチン大統領との会談で見せた“強硬”な姿勢から“現実主義的”な方向にやや姿勢制御しています。

****新しい対ロ政策はマクロン仏大統領が拓く****
<アメリカの対ロ政策に頼れなくなり独り立ちを迫られるヨーロッパで、大統領選をロシアに妨害されてその実像を肌身で感じた変革者マクロンが、外交の新機軸を打ち出した>

(中略)マクロンの対ロ政策は、フランソワ・オランド前仏大統領の流れをいくらか継承し、ドイツ政府とも見方を共有している。だがその後、ロシアに対するマクロンの現実主義がリアルポリティーク(現実政治)に変容する兆しが出てきた。大きな変化だ。

メルケルとも違う
(中略)マクロンはクリミア併合を断固非難したが、ロシアが支援しているウクライナ東部の分離独立派に話が及ぶともっと微妙な言い回しになった。マクロンはロシアを黒幕として名指しせず、紛争解決には両当事者の努力が必要だと言った。両者が情報を共有し、非難合戦を止めることから始めるべきだと言ったのだ。

ウクライナ紛争に関するマクロンの言葉は、その響きも中身もミンスク合意を主導したドイツのアンゲラ・メルケル首相の言葉とは異なる。メルケルもすべての関係国に和平を呼びかけたが、最初に行動すべきなのはロシアだと強調するのを忘れなかった。(中略)

メルケルとマクロンの微妙な姿勢の違いは、マクロンが今後の外交政策の大枠を示したときに表面化した。先月(6月)22〜23日のEU首脳会議の前、マクロンがヨーロッパを代表する新聞社8社の質問に答えたときだ。

第1に、マクロンはシリアの安定化にはバシャル・アサド政権の退陣を求めないと示唆。シリアが破綻国家に陥るのを防ぎ、テロ組織と戦うことを優先したいと付け加えた。

これには少なからぬ専門家が困惑した。人道的にも治安上も経済的にも、シリアはどう見ても、すでに破綻しているからだ。マクロンは、フランスにはシリアにおけるロシアの利益を尊重する意思がある、というサインをロシアに送ろうとしたのかもしれない。(後略)
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16日にはイスラエル・ネタニヤフ首相との会談で「二国家共存」に向けた対応を要請。イスラエルとパレスチナが「確固たる国境を定め、エルサレムを首都とする形で共に存続すべきだ」と強調しています。(ネタニヤフ首相の明確な反応はありませんでしたが)

メルケル独首相とともにEUを牽引していく姿勢
フランス・マクロン大統領の外交面での存在感アピールは、ここ数年EUを一人で背負ってきた感もあるドイツ・メルケル首相にとっても心強いところです。ただし、今後マクロン大統領の独自主張が強くなりすぎると、それはそれで・・・という話はありますが。

****マクロン仏大統領の見事な外交手腕、独仏の力関係に注目****
ドイツは長年、強いフランスのパートナーを待ち望んできた。しかし、自信に満ち、欧州で脚光を浴びるエマニュエル・マクロン仏大統領(39)は、ドイツが求めていた以上の存在かもしれない。(中略)
 
マクロン氏は先週、フランスを訪問していたドナルド・トランプ大統領夫妻を歓迎し、エッフェル塔でのディナーに招待した他、フランス革命記念日の14日には恒例の軍事パレードを共に参観した。

両大統領の間で交わされた笑顔や力強い握手は、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とトランプ氏との間のぎこちない関係とはまるで対照的だった。
 
マクロン氏は5月下旬、パリ郊外のベルサイユ宮殿でロシアのウラジーミル・プーチン大統領との初会談も果たしている。
 
欧州の研究機関、ロベール・シューマン財団のジャンドミニク・ジウリアーニ氏は、マクロン氏が「フランスの試合復帰」を示そうとしているようだと述べ、「そこには対独関係のリバランス(再均衡)がある。それは必要なことだ」と指摘した。
 
熱心な欧州連合(EU)擁護派であるマクロン氏の仏大統領就任は、欧州の統合をけん引し、世界最大の経済圏を築いた独仏協働への回帰を望む声を呼び覚ました。
 
両国の力関係がより均衡となることは、9月に連邦議会選挙を控えているドイツのメルケル首相にとっては安心材料の一つとなる。ナチスドイツの過去の過ちがあるため、メルケル首相は欧州単独のリーダーとなることには一貫して後ろ向きのスタンスを取っている。

■本当は「単独主導」を希望?
(中略)EUは今、内からナショナリズム、外からはブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)やトランプ大統領による「米国第一主義」といった問題にさらされてはいるが、独仏両首脳は、EUをまとめるという共通のゴールの下で互いに協力しあっている。
 
しかし、9月の独議会選挙の後は、単一通貨ユーロの改革をめぐる協議が加速するとみられ、両国関係も大きな試練に直面することになる。
 
このスタンスの違いは、独仏両政府間の溝を深める要素となる可能性があり、これに対処するには、メディア映えするイメージや友好的な言い回し以上のものが必要不可欠となってくる。
 
一方で、マクロン氏の力強い人物像やフランスの存在感を際立たせるやり方に、実際は単独で主導することを望んでいるのではとの声も一部からは上がっている。ある外交筋はAFPに対し、「ドイツでは、トランプ氏のパリ訪問のニュースを驚きとともに受け止めた」と語っている。【7月17日 AFP】
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EUはイギリスの離脱によって、再構築が迫られています。

ドイツ・フランスが協調して主導する形で6月22、223両日に開かれたEU首脳会議では、加盟国の防衛協力強化の一環として、即応能力などが高い一部の加盟国が自発的に参加する常設の軍事協力の枠組みを設けることで一致しています。トゥスクEU大統領は共通防衛政策を巡る「歴史的な一歩」とも評しています。

また、武器の共同調達や研究開発資金をまかなうため欧州委員会が提案した「欧州防衛基金」の創設でも合意しています。【6月23日 毎日より】

****仏独首脳、異例の共同記者会見・・・・EU牽引役アピールの裏に「試練****
フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相は23日、ブリュッセルで2日間開かれた欧州連合(EU)首脳会議閉幕後、共同記者会見した。通常は個別に行うだけに異例。仏独協調ぶりをアピールした形だが、EU牽引役としては試練もありそうだ。
 
マクロン氏は冒頭、「仏独が1つの声で語ればEUは前進できる」とし、初出席の会議の成果を誇った。
 
会議では両国が対応を主導するウクライナ危機で対ロシア経済制裁の延長を決め、英国のEU離脱に伴い仏独が尽力してきた防衛協力拡大に合意した。メルケル氏も「独仏の準備が貢献した」と評した。
 
ただ、会議は必ずしも両首脳の思惑通りではなかった。仏独は中国を念頭に外国による欧州企業買収をEUが制限する制度の検討で合意を目指したが、オランダや北欧などが保護主義的と懸念。実現しなかった。
 
これらの国は市場主義重視などで考え方が近い英国を頼りにしてきた。事前に独自会合も開き、連携を模索。英離脱後の発言力維持を図る思惑もあるようだ。
 
マクロン氏は会議前、EUの難民受け入れ策に従わない東欧を「EUは(商品を選べる)スーパーマーケットでない」と批判。メルケル氏も同調したが、東欧は反発した。東欧には大国主導のEUに警戒もあり、東西対立は今後も懸案だ。
 
マクロン氏は仏独協調について「(EUの)十分条件ではない」と強調。メルケル氏も「他国を排除するのではない」とEU内の調整に努める考えを示した。【6月24日 産経】
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EU内部の対立、特に難民政策で対立する東欧諸国は“民主主義”という価値観の面でも仏独とは異なる様相を呈しており、今後の対応が注目されます。

ドイツ・フランスは戦闘機の共同開発に取り組むことでも合意しています。

****仏独の協力を強調、合同閣僚会議で戦闘機共同開発などに合意****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相は13日に仏パリのエリゼ宮(大統領府)で両国の合同閣僚会議を開き、両国が戦闘機の共同開発に取り組むことで合意した。西側諸国間の関係が崩れつつあるなか、両国が協力していることを強調する狙いがある。
 
経済、文化および教育の担当閣僚間で合意された多くの措置のなかで共同戦闘機の提案は、欧州連合(EU)をけん引する中心的な国として新たな活力を生み出していこうという仏独の意図を浮き彫りにした。(後略)【7月14日 AFP】
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内政 改革に向けた強い意向 必要なら国民投票も

(ベルサイユ宮殿で開催された上下両院合同会議に出席するため、同宮殿内の回廊を歩くマクロン大統領(7月3日撮影)【7月4日 AFP】)

結果が分かりやすい外交に比べると、結果が出るまでに時間を要する内政は評価にも時間を要しますし、その長時間に多くの要因の影響をうけますので、成果に対し政策がどの程度影響したのかも判断が難しいところがあります。

閣僚人事面で当初トラブルを抱えたマクロン政権ですが、マクロン大統領の指導で改革に向けた取り組みを始めているようです。

****仏大統領、ベルサイユ宮殿で「変革」誓う 議員3分の1削減を提案****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は3日、首都パリ郊外のベルサイユ宮殿で就任後初となる上下両院合同会議を招集し、演説を行った。
 
その中でマクロン大統領は、国政の「抜本的な変革」を誓い、国会議員数の3分の1削減を提案するとともに、議会で承認が得られなければ国民投票を実施してその是非を問うと言明した。(中略)
 
マクロン氏は選挙運動中に掲げていた議会改革計画を実行する意志を新たにし、下院577、上院348という議員定数を3分の1削減するとともに、選挙に一部比例代表制も導入する意向を示した。

大統領はこれらの改革実現のための法案が議会を1年以内に通過するよう望むと期待を示す一方で、「必要に応じて」国民投票を実施する権限も留保していると述べた。(中略)

野党は今回の会議を批判し、大統領がベルサイユ宮殿にこだわる姿勢は「君主制」をにおわせる動きを証明するものに他ならないと指摘している。【7月4日 AFP】
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フィリップ首相は4日、国民議会(下院)で施政方針演説を行い、向こう5年で法人税を33%から25%に引き下げるほか、今年の公的支出を5000億円余り減らす計画を打ち出しています。国内への投資を拡大し、借り入れ依存からの脱却を図る狙いとのこと。

また、フィリップ首相は11日、企業と個人に対する110億ユーロ(約1兆4400億円)規模の大型減税を当初の予定を前倒しして来年に実施することを明らかにしています。

****フランス、大型減税を来年に前倒し実施へ 1兆4400億円規模****
(中略)エマニュエル・マクロン大統領は、フランスの金融機関を整理し、5年間の任期中に計200億ユーロ(約2兆6100億円)規模の減税を行うと公約している。
 
今回の減税措置の主な例としては、全世帯の80%が対象となっている地方住民税の撤廃、富裕税の引き下げなどがあり、法人税も2022年までに25%に減税される。
 
フィリップ首相によると、政府は今年の経済成長率を1.6%と予測。こうした経済成長と歳出削減により大型減税の財政への影響を埋め合わせていくという。(後略)【7月12日 AFP】
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マクロン大統領の政治姿勢については、以下のようにも。

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マクロンは、小さな政府を実現して財政を再建するという理念の持ち主で、フランスの官公労からは「新自由主義者」だとの批判まであった。(中略)

要するに、教条的な社会主義とは一線を画す一方、EUの基本理念であるところの、国境なき国家連合を築くことでヨーロッパ大陸を戦争の恐怖から解き放ち、経済もよりダイナミックになることで、福祉や公教育の財源も確保できるというユーロ・リベラリズムを信奉する人物で、別の言い方をすれば「大企業や投資家からも信任され得る左派の経済官僚」なのである。(後略)【7月8日 林信吾氏 Japan In-depth】
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排他主義とも一線を画す
また、国民戦線・ルペン氏に代表されるような排他的風潮には一線を画する姿勢を明確にしています。

****仏マクロン大統領“負の歴史と向き合うべき” 排他的風潮と一線***
フランスのマクロン大統領は、第2次世界大戦中、ナチス・ドイツに融和的だった当時の政権のもとで1万人を超えるユダヤ人が強制収容所に送られた事件についてフランスの責任を認めるとともにヨーロッパで広がりを見せる排他的な風潮とは一線を画す姿勢を強調しました。

フランスでは第2次世界大戦中の1942年、当時のビシー政権がナチス・ドイツの要請を受けて1万3000人を超えるユダヤ人を拘束して強制収容所に送りました。(中略)

マクロン大統領は演説で、「真実を変えようという政治家もいるが、ユダヤ人の拘束と送還は確かにフランス政府が行った」と述べて当時の政権の責任は明確だと指摘し、自国の負の歴史と向き合うべきだと訴えました。

この事件をめぐっては、1995年に当時のシラク大統領が公式にフランスの責任を認めましたが、ことし5月の大統領選挙で有力候補だった極右政党のルペン党首は「フランスに責任はない」と述べ、波紋を呼んでいました。

マクロン大統領は、「憎しみや反ユダヤ主義には決して譲歩しない」とも述べ、極右政党の台頭とともにヨーロッパで広がりを見せる排他的な風潮とは一線を画す姿勢を強調しました。【7月17日 NHK】
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いささか好意的な評価を並べましたが、すべてはこれからの話です。ただ、オランド大統領のもとで混迷が続いたフランスに再生の兆しも・・・と期待させる滑り出しではあります。
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香港  次第に中国経済・政治体制に組み込まれていくなかで、重苦しいその未来

2017-07-16 22:20:24 | 東アジア

(映画『十年』の「焼身自殺者」より)

香港で日増しに強まる中国の影
天安門事件を象徴する存在でもあり、また、政治改革を要求する「08憲章」の中心的な起草者でもあった劉暁波氏がほとんど中国当局の拘束下に近いかたちで死を迎えたことは、改めて中国政治の抑圧体質を世界に知らしめるところとなりました。
(中国国内では厳しく情報が統制されていますし、劉暁波氏を知る者にとっても、屈折した反応があるようです。
劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国”【7月16日 Newsweek】)

香港でも、劉暁波氏を悼む、中国政府に対する静かな抗議が行われました。

****劉氏悼み無言の行進=香港民主派がデモ****
香港の民主派は15日夜、中国のノーベル平和賞受賞者で13日死去した劉暁波氏を追悼するデモを行った。参加者は劉氏の死を悼むとともに、妻の劉霞さんの自宅軟禁を解くよう中国政府に求めた。
 
香港島中心部の公園に集まった参加者は黙とうをささげた後、それぞれ手にろうそくを持ち、中国政府の出先機関である連絡弁公室まで無言のまま行進。デモを主催した民主派団体「香港市民愛国民主運動支援連合会」(支連会)幹部の何俊仁氏は「中国への強烈な無言の抗議だ」と強調した。
 
参加した弁護士の鄒幸※(※杉の木ヘンを丹に)さん(32)は、劉氏が死後3日目という中国の慣習としては早い段階で火葬、散骨されたことに「家族の願いがかなわなかった」と憤りを表明。劉霞さんが政府の強い圧力にさらされているとして、「彼女の身の上を心配している」と語った。【7月15日 時事】 
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欧米指導者からも中国批判の声は上がってはいますが、多くの国にとって中国は容易に敵対することはできないぐらいに大きな存在となっており、劉暁波氏の死が国際関係に及ぼす影響はあまり大きくないのでは・・・と思われます。

ただ、「一国二制度」の形骸化が進む香港にとっては、自分たちの未来に重なるものがあります。

中国経済に取り込まれた香港は、中国本土のマネーに翻弄される形で住宅難が深刻化しています。

****<香港>住宅難が深刻化 中国富裕層、投資目的で購入****
香港で住宅難が深刻化している。香港メディアによると、主に中国本土の富裕層が投資目的で不動産を購入し、マンション価格が高騰し続けているためだ。

普通の広さの部屋では家賃を払えず、乗用車の駐車スペース程度しかない狭い住宅に移る人が急増。こうした部屋に暮らす人は20万人以上いるという。
 
香港郊外・葵涌地区にある築40年超の15階建てマンション。最上階に上がると広さ5〜10平方メートルほどの4部屋が並び、手狭な共用スペースにはシャワー兼トイレ、台所がある。

母子家庭の李小群さん(39)は長男(5)と9平方メートルの部屋で身を寄せ合い夕食をとっていた。ベッドと小机、冷蔵庫で部屋は埋まり、足の踏み場を見つけるのがやっと。

家賃は月3000香港ドル(約4万3000円)。香港は子供を長時間預けられる施設が少なく、李さんは「働きたくても働けない」と憤る。月7000香港ドル(約10万円)の生活保護費でやり繰りする。

葵涌地区を含む新界地域の住宅販売価格は昨年までの10年で約3・5倍になり、家賃も高騰。多くの市民がこんな狭い住宅に住む。
 
7月1日に香港政府の新行政長官に就任した林鄭月娥氏は、住宅不足解消を掲げる。【7月13日 毎日】
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中国の強いバックアップで林鄭月娥氏が新行政長官に就任する政治状況にあって、いわゆる「本土派」など、中国に批判的な勢力への締め付けが強化されています。

****民主派4議員資格取り消し=親中派の力強まる―香港****
香港高等法院(高裁)は14日、立法会(議会)の急進民主派4議員の就任宣誓をめぐる司法審査で、宣誓は無効と判断し、議員資格を取り消す決定を下した。地元メディアが伝えた。香港独立を視野に入れる反中国勢力「本土派」2議員も既に宣誓無効で失職しており、議会で多数を占める親中派の力が一段と強まるとみられる。
 
4議員は劉小麗、姚松炎、羅冠聡、梁国雄の各氏。昨年10月の就任宣誓で、宣誓文を極めてゆっくり読んだり、文言を付け加えたりなどしたとして、政府が議員資格剥奪を求めて司法審査を申し立てていた。4人はいずれも上訴する方針。
 
就任宣誓に関しては、中国が昨年11月に「不誠実な宣誓をした場合は直ちに公職の資格を喪失する」と香港基本法の解釈を提示。現在の香港では、高裁は中国の法解釈に従わなければならない。【7月14日 時事】
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現実問題として、4人の資格取り消しは大きな政治的影響があります。
“民主派は昨年9月の立法会選挙で30議席を獲得。だが、うち2人が「香港は中国ではない」という横断幕を持ち込んで宣誓。中国側が2人が失職となる解釈を示し、現在、28議席となっている。さらに4議席を失う可能性が出てきたことで、重要法案を否決できる「3分の1」(24議席)維持に向け、瀬戸際に追い込まれた。”【7月14日 朝日】

返還20周年記念に合わせて香港を訪問した習近平主席は、香港独立志向に対する強い牽制を示しています。

****香港独立「決して許さず」=中国主席が警告―返還20年式典****
香港が英国から中国に返還されて20周年に当たる1日、香港島中心部の会議展覧センターで記念式典が行われた。出席した中国の習近平国家主席は「中央の権力と香港基本法の権威に対する挑戦は決して許さない」と警告し、香港でくすぶる独立の動きに強硬姿勢で応じる考えを示した。
 
習主席は香港に適用されている「一国二制度」に関し、「『一国』が根になる」として、「一国」が「二制度」に優先することを強調。また、「青少年の愛国主義教育を強化する必要がある」と述べ、香港独立を視野に入れる反中勢力「本土派」の中核となっている若年層に対する思想面の教育を重視する方針を示した。(後略)【7月1日 時事】
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また、空母「遼寧」を香港に派遣して、その軍事力を誇示すると同時に、「強大な中国」に対する愛国心を高揚させる施策も。

****中国初の空母の内部、香港市民に公開 愛国心高揚狙いか****
中国軍は8、9の両日、香港に寄港している中国初の空母「遼寧」の内部を香港市民に公開した。遼寧の一般公開は中国本土を含めて初めて。香港返還と中国軍の香港駐留20年記念行事の一環だが、海軍を象徴する空母を直接みてもらうことで、香港人の愛国心を高める狙いがある。
 
乗船したのは、香港の永住権を持つ市民ら3600人。甲板上では写真撮影も許可された。中国国営中央テレビは、遼寧の内部を参観した市民が「祖国が強大になった」と感激していると伝えた。
 
香港では、2014年のデモ「雨傘運動」後、民主化要求を退けられた若者を中心に「中国離れ」が進んでいる。中国軍と同様に、香港政府も「香港市民の国家に対する理解とアイデンティティーを大いに強めるものだ」(林鄭月娥・行政長官)として、愛国心の高揚につなげたい考えだ。【7月10日 朝日】
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【「香港の自由、人権は十分に守られず、映画の状況に現実が近づいているのです」】
日増しに強まる中国の影のもとで、香港の未来を予見する映画が昨年評判となりました。

****映画『十年』が予見する香港の暗い未来****
香港映画『十年』が日本で22日より公開される。2016年に香港で上映されるや大反響を呼び起こし、香港金像奨の最優秀作品賞など、香港の内外で多くの映画賞を獲得した話題作だ。
 
「10年後=2025年」の香港はいったい、どのような社会になっているのか。不安と恐怖のなかに、かすかな希望はあるのか。そんな香港の若者たちの絞り出すような必死の問いかけを正面からぶつけた必見の作品である。
 
中国政府を震撼させた2014年の民主化デモ「雨傘運動」の前に企画され、映画のストーリーをなぞるように雨傘運動が発生し、書店主の誘拐事件が起きるなど、中国政府の圧力で香港社会の自由は削ぎ落とされている。
 
制作費はたった750万円。最初は単館上映だったが一気に評判を呼び、最終的に1億円近い興行収入をあげた。その反響の大きさは、それだけ、香港の状況が悪い、ということにほかならない。
 
香港返還20周年を迎えた7月1日には、中国の習近平・国家主席が自ら香港に乗り込み、香港の民主化運動に今後も強硬な姿勢で応じていくことを宣言した。

「東洋の真珠」と呼ばれ、英国統治のもとで守られてきた言論の自由や司法の独立の伝統は、かつてない危機にさらされている。その危機の実像をつかみたければ、まずは本作を観ることをお勧めしたい。

香港に漂う「言葉狩り」への不安
映画『十年』はオムニバス形式の作品で、『エキストラ』『焼身自殺者』『冬の蝉』『方言』『地元産の卵』という5作からなる。それぞれ異なったストーリーなのだが、壊されていく香港の将来に対する「恐怖」が5作品全体を貫いており、次々と悪夢を見させられている気分にさせられる。
 
このなかで『地元産の卵』という作品は特に今の香港を象徴する内容となっている。原題は『本地蛋』。

「本地」という文字が、2025年の香港では禁句になっており、その禁句リストをもった少年団が巡回し、香港市民に「本地」という言葉を使わないように取り締まっている。
 
「地元産の卵」と書かれた卵を売っている雑貨店に少年団が押しかけ、香港で唯一卵を生産していた養鶏業者は当局のいやがらせで生産の中止を決定する。少年団は文化大革命の少年少女の紅衛兵をモチーフにしていることは明らかだ。
 
「本地」=地元というありきたりの言葉を使っていけないという設定は、日本人にはわかりにくいかもしれない。近年、香港で愛国教育によって「中国人」を強調する動きが強まっているなかで、香港の独自性をアピールする「本土」や「本地」などの言葉がいつか規制されて語れなくなるのではないか、という不安を伝えようとする内容なのだ。
 
実際、「香港独立」を意味する「港独」という言葉を語ろうものならば、罪に問われかねない空気が最近の香港では強まっている。

思想の自由という観点からすれば、独立を語ることには何の法的な問題もないはずだが、いまの香港にはそれを許さない重苦しい空気が漂う。そんな「言葉狩り」の状況に置かれた未来の香港を予見するように作られた映画が『十年』であり、『地元産の卵』なのである。

中国政府の圧力に「慣れてしまってはいけない」
この作品を撮った伍嘉良(ン・ガーリョン)監督に話を聞いた。伍監督はこうした状況について、「香港の中国への返還後、ゆっくりですが香港にある重要な価値のあるものが失われています。返還10年、あるいは返還20年という区切りには大きな意味はありません。継続中の危機なのです」と話す。
 
伍監督によれば、この『地元産の卵』という作品は、2012年に起きた香港への愛国教育の導入に対する反対運動をきっかけに考えついた。
 
「教育によって子供に中国をどう愛するかを教えて愛国的にしていこうという中国の方針がはっきりし、このことに恐怖感を感じました。国旗をみて感動せよとか、国歌を聞いて涙を流しなさいとか、非常に問題がある教育を香港に導入しようとしたのです。それは、我々に文化大革命を思い起こさせるものです。この恐怖感を、映画のなかに取り込んだのです。もし、香港が文革時代の中国のようになったらどうするのか、ということを観客に考えてもらおうとしました」
 
映画のなかでは、中国政府にとって思想的に好ましくない本を売っていたため、少年団に卵を投げつけられる書店が登場する。これなどは、雨傘運動のあとに起きた書店主誘拐事件を想起させずにはいられない。

映画のなかの若い書店主は、密かに多くの発禁本を部屋に隠していたのだが、書店主に向かって雑貨店の経営者が「この状況に慣れちゃいけない。ぼくらが慣れてしまったから、君たちに辛い思いをさせてしまった」と語るシーンは印象的だ。
 
今後、中国政府は、有形無形の圧力と規制のもとで香港の人々が口をつぐむことに慣れるように求めていくだろう。その事態に香港の人々が慣れてしまってはいけない、という伍監督のメッセージが込められている。
 
伍監督には本作の発表後、「大丈夫か」「仕事が今後もらえなくなるぞ」「気をつけた方がいい」という声が周囲から何度もかけられた。映画は多くの称賛を浴びたが「トロフィーを受け取る気持ちは重いものでした」という。
 
「この映画が生まれた原因は決して拍手で祝福されるものではありません。もちろん評価は嬉しいですが、香港の状況が日々悪化しているなかでは、素直に喜ぶことなどできません。将来について私は悲観的です。香港の自由、人権は十分に守られず、映画の状況に現実が近づいているのです」

映画『十年』は2017年7月22日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開 <公式サイト>http://www.tenyears-movie.com/【7月13日 WEDGE】
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香港の場合は将来に向けた確たるシナリオが存在しており、この映画が示すところは、特段の動きがない限り“現実”となるでしょう。

中国経済に飲み込まれ、特殊性を失う香港
もともと「一国二制度」は50年の期限付きのものですし、中国という政治体制を「一国」とする以上、そこにはおのずからもろもろの制約が課されることはわかっていた話ですが、「一国二制度」の形骸化を加速させているのは、香港の経済的地位が相対的に低下している現実です。

****輝き失う香港、中国の威圧が強まる恐れ 勢いづく深センの隣で薄れる存在感****
かつて漁業が中心だった深センは、香港という「夢の都市」に脱出するためのルートだった。(中略)

だが最近では、それを試そうとする者はほぼいないだろう。香港は輝きを失いつつある。一方の深センは上昇志向の強い都市へと変貌した。ハイテク産業のハードウエアを製造する世界的中心地となり、国内外から有能な人材を引き寄せている。
 
中国南部の隣接する2都市がたどる対照的な運命が、かつて英国の植民地として栄えた香港をやや不安定な立場に追いやっている。
 
それはちょうど20年前、中国の他のどの地域も与えられなかった政治的特権とともに香港が中国に返還された際に、ベースとなった前提の一部が揺らいだことを意味する。
 
深センの隣に位置する香港の存在感が薄れ始め、その現実が香港の未来に影を落としている。中国の習近平国家主席は先週、香港返還20周年に合わせた演説で「越えてはならない一線を越える」行為について戒めた。

それは政治的な抗議活動への脅しであり、国内主要都市の中で地位が低下する香港に対し、政府が威圧的な態度を強めるサインでもある。(中略)

中国政府は次第に、珠江河口に広がるデルタ地帯をトンネル、地下鉄、高速鉄道で切れ目なく結んだ人口6000万人以上のメガシティを構成する一部分(しかも最も重要な部分ではない)として香港を見るようになっている。
 
香港政府トップの行政長官に就任した林鄭月娥(キャリー・ラム)氏は、国家安全条例の制定や「愛国教育」の導入によって中国との政治連携を進めるよう、強い圧力を受けている。だがそれを実行すれば、親中派と民主派活動家の対立がいっそう激化するだけだ。
 
香港が制御できなくなれば、中国政府は直接的な介入に乗り出す可能性もある。既に香港では中国に批判的な本を扱う書店の関係者が拉致されたとみられる事件が起きている。中国政府の内情を知りすぎた可能性がある資産家も香港のホテルから失踪し、その後、姿を見せていない。
 
今のところ、有刺鉄線が張られた境界線は(入国管理を伴うことで)依然、最も目立つ香港の政治的分離の象徴となっている。ただし、か細い線でしかない。植民地時代に「竹のカーテン」として知られた障壁は、それ以外のほぼ全ての意味において過去のものとなった。【7月5日 WSJ】
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香港市民が実感するであろ“失ったもの”の大きさ
香港返還が決まった時点で、現在の運命は不可避のものとなったとも言えますが、当時の状況については“イギリスはなぜ香港を見捨てたのか”【7月7日 Newsweek】にも。

“イギリス統治下の香港には、香港住民の意思を反映させる政治制度がなく、民主主義は存在しなかった。(最後の第28代香港総督を務めた)パッテンはそうした状況を正そうとしたが、ビジネス上の重大な関心を優先する地元の大立者や中国政府の頑なな反対にあった。民主主義を経験したことのない一般大衆も、パッテンが目指した議会の民選化に反対した。”

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劉や、人権活動家として知られる現代美術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)のような反体制派について中国の人々は、欧米での注目やカネを目当てに、欧米に擦り寄っていると捉えることが多い。

(中略)このような風潮は、国内の反体制運動は必ず「外国の勢力」と結び付いているという、政府の徹底したプロパガンダの成果でもある。

一方で、反体制派に対するこのような感情は、中国社会の皮肉な世界観で全てを片付けるすべでもある。社会制度に盾突く人は欧米のカネが目当てだと思っていれば、自分の日々の妥協と堕落を正当化できる。

80 年代に青年時代を過ごし、一度は理想主義を掲げた人々は、特にその傾向が強い。自分たちは妥協したのに、いつまでも頑固な奴らはどうしてできないのか。今は誰もが、少なくとも教育を受けて都会で専門職に就いている自分たちは、うまくやっているのに、というわけだ。

(中略)今は多くの中国人が、彼の運命に肩をすくめている。あんなことをすればどうなるかなんて、分かっていたじゃないか、と。【“劉暁波の苦難は自業自得? 反体制派が冷笑を浴びる国” 7月16日 Newsweek】
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自由、民主主義を日常のものとして感じたことのない本土の人々は肩をすくめることで済みますが、まがりなりにも自由、民主主義を手にしていたと思う香港市民にとっては、10年後、30年後の現実は“失ったものの大きさ”を実感する日々となりそうです。
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原発 “安全で割りに合う製品を実現できなかった”ことで“日に日にその魅力を失っている”

2017-07-15 23:16:51 | 原発

(中東ドバイでは最大5GWの太陽光発電所計画があるとか。5GWというと原発5基分です。【http://a-vein.com/2017/03/02/8314/】)

【「原発大国」フランスも原発依存率引き下げ
フランスはアメリカ(104基)に次ぐ「原発大国」(58基)です。(日本は54基)

先のフランス大統領選挙は、フランス最古のフェッセンアイム原発(仏中東部、1977年稼働)の「閉鎖延期」が4月6日に決まったことで、終盤に来て原発問題も争点に浮上しました。

オランド前大統領はフェッセンアイム原発を公約していながら実現できず、フェッセンアイム原発はオランド大統領の「公約違反の象徴」とも言われていました。

結果は周知のようにマクロン氏が勝利しましたが、原発に関してはマクロン氏は、原発エネルギー依存率の「50%削減」を公約し、フェッセンアイム原発の原発に関しても「閉鎖」を主張しています。【4月17日 JB Press 山口 昌子氏“フランスはこのまま「原発大国」であり続けるのか?”】

マクロン政権は原発依存率引き下げ公約に沿って、原子炉廃止を進めるとしています。

****仏、2025年までに原子炉最大17基の廃止も=エコロジー相****
フランスのユロ・エコロジー相は10日、2025年までに原子炉最大17基を廃止する可能性があるとの認識を示した。原発への依存度を引き下げることが狙い。RTLラジオに述べた。

同国のフィリップ首相は、原発への依存度を現在の75%から50%に引き下げるとした前政権の目標を堅持する方針を示している。(後略)【7月10日 ロイター】
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韓国・文在寅も脱原発を掲げています。

***韓国が「脱原発」新規建設中止へ・・・文大統領表明****
韓国の 文在寅 ( ムンジェイン )大統領は19日、南部・ 釜山 ( プサン )の老朽化した 古里 ( コリ )原子力発電所1号機の運転停止宣言式に出席し、国内で新しい原発の建設を白紙化し、再生可能エネルギーへの転換で「脱原発」を進める方針を明らかにした。(中略)
 
脱原発を目指す理由について、文氏は昨年9月に原発に近い南東部・ 慶州 ( キョンジュ )を震源とするマグニチュード5以上の地震が発生し、余震が続いていることを挙げた。古里原発の半径30キロ・メートル以内に人口約380万人が集中していることを踏まえ、「地震による事故は致命的だ」と強調した。【6月19日 読売】
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コスト的優位性を失う原発 “原子力は日に日にその魅力を失っている”】
こうした“脱原発”の論議は、安全性の面から語られることが多いのですが、原発につきまとう安全性・環境への影響や廃棄物処理問題は別にしても、単純に経済的コスト面からしても原発は太陽光発電や天然ガスなどへの優位性を失いつつあります。

世界最多の原発を擁するアメリカでは、そうした経済コストの観点から脱原発が進みそうな様相です。

****原子力、次なる「化石」燃料か***
米フロリダ州最大の発電所「ターキーポイント」の外にある灰色の恐竜像は、廃炉となった火力発電用ボイラー2基を象徴するためのものだが、それはまた、コスト増大で崩壊しつつある原子力産業をも表していると見ることができる。
 
約10年前、ターキーポイントは米国最大級の原子力発電所となること目指していた。地元電力会社フロリダ・パワー・アンド・ライト(FPL)は、エネルギー源の多様化を維持し、爆発的な増加が予想される州人口への電力供給のために原子力発電の増強が必要だと訴え、そして原子力がクリーンなエネルギーであると大々的に宣伝した。
 
だが現在、この発電所ではわずか3基が稼働しているのみだ。1970年代に建設された天然ガスのボイラー1基と原子炉2基だ。州の公益事業委員会に提出された文書によると、さらに原子炉2基を建設する計画が2009年に出されているが、少なくともこの4年間は実質的に保留となったままだ。(中略)

■安全で割りに合う製品を実現できず
FPLはフロリダ州全土において、太陽光システムの設置を拡大し、石炭関連施設の閉鎖を推し進めている。
エネルギーミックスの内訳は天然ガス70%、原子力17%、残りが太陽光、石油、石炭となっている。

専門家らは、天然ガスの価格が下落し続けており、原子力は日に日にその魅力を失っていると語る。
 
バーモント大学ロースクールエネルギー環境研究所の主任研究員マーク・クーパー氏はAFPの取材に「ほとんどの人はターキーポイントの拡張工事は行われないだろうと思っている」と話す。

「結局、環境主義者のせいではなく、裁判のせいでもなかった。単に、安全で割りに合う製品を実現することができなかっただけ。80年代にできず、今日でもできていない」──クーパー氏はそのように述べ、そして「原子力の技術が主役なることは無かった」と続けた。【6月15日 AFP】
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また、トランプ大統領は石炭産業の再興をアピールしていますが、太陽光などの自然エネルギーが主役となりつつある現代にあっては、“パソコンが急速に普及しだした80年代にタイピスト職を保護するくらい無意味なこと”との辛辣な指摘も。

****太陽エネルギーが石炭産業を殺す日****
<パリ協定を離脱して石炭重視を貫くトランプだが、技術革新と低価格化でどのみち自然エネルギーが主流になる>

今の時代に石炭産業を保護する――それは、パソコンが急速に普及しだした80年代にタイピスト職を保護するくらい無意味なことだ。

なぜか。ドナルド・トランプ米大統領がどんなにじだんだを踏んでも、太陽光技術の発展によって石炭・石油産業はいずれ破壊されるからだ。

米半導体メーカー・インテルの創業者の1人であるゴードン・ムーアは65年、「半導体の集積度は18カ月ごとに倍増していく」と予測した。半導体の高集積化と低価格化を進めたこの「ムーアの法則」は、太陽光にも当てはまる。

半導体ほど急速ではないものの、太陽光技術もより安く、より高度に、予想を裏切らず持続可能な方法で発展している。2030年頃までに、太陽光は石炭を含むあらゆる炭素資源の半分以下のコストでの発電を可能にするだろう。

その意味では、地球温暖化対策の枠組みであるパリ協定もほとんど無意味だ。技術が発展し、経済の法則に従えば、おのずと問題は解決されるのだから。

となると、大きな疑問が湧いてくる。世界のどの地域が再生可能エネルギーのシリコンバレーとなり、どの企業がこの業界のインテルやマイクロソフトになるのか? 

パリ協定を離脱したトランプの決定に何か意味があるとすれば、こうした地域や企業がアメリカではないことを確実にした、ということだ。アメリカは、誰も望まない石炭を掘ることにかけては超一流の国になり果てるだろう。

太陽光パネルの開発過程は、マイクロプロセッサのそれと共通の特徴を持つ。ムーアの法則は本質的に、メーカーが小さな面積により多くの機能を詰め込もうとすることを意味する。おかげで、NASAが月面旅行に結集したコンピューターの力の全てが、今では小さなアップルウオッチに組み込まれている。

同様の力学が太陽光パネルをより高度かつ安価に進化させつつある。技術者は太陽電池の薄型化を追求し、1ワット当たりのシリコンを削減し、効率化を上げて製造コストを押し下げる。(中略)

大容量バッテリーも一役
電力会社が大規模なソーラーパネルを砂漠に設置した場合、コストは1ワット当たり1ドル余りにまで下がる。世界経済フォーラム年次総会での発表によれば、昨年後半の時点で、適切な条件下での太陽光発電のコストが石炭火力発電のコストを初めて下回ったという。

「テクノロジーの低価格化と足並みをそろえ、今や太陽光発電コストも下がり続けている」と、米科学者のラメズ・ナームは言う。「他の電力技術やビジネスにとっては破壊的だ」

もちろん、太陽光はクリーンでもある。炭素資源を燃やすことが気候変動につながると分かっている人なら、太陽光を応援したくなるだろう。でもたとえ気候変動を疑う人でも問題なし。彼らも低価格なエネルギーのほうがいいに決まっているからだ。

加えて太陽光は、太陽が死に絶える50億年後まで枯渇する心配がない。太陽光は約5日分で、石油、石炭、天然ガスの総埋蔵量のエネルギーに匹敵する。私たちは膨大なエネルギーのほんの一部を利用するだけでいい。

他方、太陽光発電には信頼性の問題が付きまとう。夜間や悪天のときにはどうなるのか? そこで、バッテリー技術の出番だ。大容量バッテリーもまた、絶えず低価格化を続けている。

結局、政策や条約ではなく技術と経済上の理由から、石炭は遠からず淘汰されるだろう。太陽は輝き続け、太陽光パネルはそれを電力に変換し続け、夜間や曇りの日にも余剰電力はバッテリーに貯蔵され続ける。化石燃料で儲けた大富豪たちが、航空機時代の到来に直面した鉄道王たちのごとき終焉を迎えるのは確実だ。

政府主導で雇用創出を
となると、トランプのパリ協定離脱はどう影響するのか。おそらく自然エネルギー界のシリコンバレーは中国のどこかに誕生するだろう。今年1月、中国国家エネルギー局は20年までに再生可能エネルギーに3600億ドルを投じると発表した。

カネと雇用が自然エネルギー技術に流れていくとするなら、アメリカは既に後れを取っている。なのに米政府は、気にするなと言うばかりだ。(後略)【7月15日 Newsweek】
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トランプ大統領も太陽光発電に関心がない訳ではなく、“メキシコ国境沿いに建設するとしている壁に太陽光パネルを設置することを検討している”そうです!(本気度はわかりませんが)

****成長する太陽光発電市場 米カリフォルニア****
米カリフォルニア州では太陽光発電に切り替える世帯が増えてきている。電気などの節約のためだけでなく、環境問題で同国の先駆者的な存在である同州において自分たちの役割に取り組むためだ。
 
非営利の事業者団体、米太陽エネルギー産業協会によれば、カリフォルニア州では、490万近い世帯が太陽エネルギーを利用しており、この数は今後も増え続ける見通しだという。
 
地球温暖化には懐疑的な立場を表明しているドナルド・トランプ大統領ですら、メキシコ国境沿いに建設するとしている壁に太陽光パネルを設置することを検討している。(中略)
 
こうした広がりを促進している要因の一つは、太陽パネルの価格が急落していることにある。以前は太陽パネルを設置するのは比較的裕福な世帯に限られていた。また、バッテリーの蓄エネルギー技術の向上が進んだことも挙げられる、と専門家らは指摘している。
 
さらにこの10年で太陽パネルの需要が急増したのと同様に、市場に参入する企業の数も増えてきた。
 
太陽光発電は、ニューヨーク州を含め、この分野でカリフォルニア州を手本としている他州でも急速に拡大している。【7月13日 AFP】
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素人の根拠もない想像ですが、今後太陽光発電の効率性・コスパは飛躍的に向上するように思えます。
問題点とされる不安定性についても、蓄電技術の進歩がある程度解決するのではないでしょうか。

後述のような「ギガソーラー」でなくても、将来的には各家庭や企業・工場などでの小規模施設でも相当量の電力をカバーできるようになるのではないでしょうか。

原発の廃棄物処理問題の先が見通せないのとは対照的です。

原発は次第に“過去の技術”、あるいは住民の不安・不満を力で抑えられるようなタイプの国に適した技術になりそうな感も。

太陽光発電:各地で進む大規模プロジェクト
太陽光発電に関しては、「ギガソーラー」などの大規模プロジェクトが各地で進んでいます。
なかでも、インドや中国の取り組みが目につきます。

****インドに世界最大の太陽光発電所が続々誕生****
昨年秋、インドのタミル・ナードゥ州に世界最大の太陽光発電所が誕生した。648メガワットの出力を誇るKamuthi solar plantだけでインド国内の150,000戸の電力がまかなえる。それまでの記録はカリフォルニアのTopaz Solar Farmの500メガワット。大きく発電能力の差を広げている。

だが、Kamuthi solar plantが世界最大である日はそう長く続かない。なんとインド国内に新たに750メガワットの太陽光発電所の完成が控えているのだ。

インドでは現在、この2基の発電所の建設に代表されるように太陽光発電のブームに沸いている。2014年には3ギガワットだった太陽光発電の導入は昨年、その3倍の9ギガワットに達し、今年の予想は10ギガワットを超える。そして風力発電ではすでに世界4位となる29ギガワットの発電能力を持っている。

インドでは気候変動対策のため、2030年までに電力消費量の4割を化石燃料以外のエネルギーでまかなう計画を立てている。だが、その目標の達成は大きく早まり、2027年には使用される電気の56.5%がクリーンで再生可能なエネルギー源から生まれることになるだろう。

トランプ大統領が誕生したアメリカでは、ダコタ・アクセス・パイプラインの建設再開などで石油産業が攻勢を強めているが、多くの国々が確実に脱化石化していることは間違いない。【1月26日 Ecology Online】
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****世界最大・最安「ギガソーラー」、印企業がEPCとO&M受注****
インドのスターリング・アンド・ウィルソン社は6月19日、アラブ首長国連邦(UAE)・アブダビ首長国のスワイハンに建設される出力1177MW(1.177GW)の「ギガソーラー」(大規模太陽光発電所)のEPC(設計・調達・施工)サービスとO&M(運用・保守)の一括契約を受注したと発表した。
 
同ギガソーラーは完成後、中国の850MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を抜いて、1カ所に建設される太陽光発電所として世界最大になると見込まれている。(後略)【6月23日 メガソーラービジネス】
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****世界最大級の水上太陽光発電所が操業開始 中国****
米国のドナルド・トランプ大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明した一方で、中国では今月初め、同国のクリーンエネルギーへの野心を反映する形で、世界最大級の水上太陽光発電所が操業を開始した。
 
中国安徽省淮南の、炭鉱が崩壊した後に大雨などの影響で形成された湖に建設された水上太陽光発電所には、水に浮かべるフロート式の太陽光パネル16万枚が設置され、その出力は40メガワット。
 
この発電所は中国が進める化石燃料への依存からの脱却を目指す取り組みの一環。中国は世界最大の二酸化炭素(CO2)排出国で、現在も電力のおよそ3分の2を石炭火力発電に頼っている。
 
トランプ大統領が大きな批判を浴びたパリ協定離脱を表明したのと同じ時期に、この水上太陽光発電所は操業を開始した。トランプ大統領の離脱表明により、今後は中国が地球温暖化との闘いにおいて指導者的な役割を引き受けるかどうかが注目される。【6月29日 AFP】
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インド・中国は原発も拡大
もっとも、インドにしても中国にしても、膨大な電力需要増加に対応して、太陽光など自然エネルギーに力を入れる一方で原発も急拡大しています。

****<インド>国産原発10基増設を決定****
インド政府は17日、国産の原発10基を増設することを閣議決定したと発表した。

インドでは東芝の米原発子会社ウェスチングハウス(WH)が最新鋭の「AP1000」6基の建設を計画しているが、同社の経営破綻により不透明感が漂っている。電力需要が急増する中、国産原発も増やすことでエネルギーの確保を急ぐ狙いがあるとみられる。(中略)

インドは温暖化対策として原発増設を進めており、2032年までに原発の発電量を現在の約10倍に拡大する目標を掲げている。現在は22基が稼働中で合計出力は678万キロワット。ほかに計670万キロワット分の原発を建設中で、増設する10基はこれに加わる形となる。政府は原発増設について「気候変動への取り組みを強化するため」としている。
 
インドは原発の有望市場として注目されており、日本も昨年、原発輸出を可能とする日印原子力協定を締結。今月16日には衆院本会議で承認案が可決された。【5月18日 毎日】
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****中国、2026年には世界最大の原子力発電大国に*****
2017年2月2日、中国メディア・快科技は、米メディア・ブルームバーグ・ニュースの報道を引用して、中国は2026年には世界最大の原子力発電大国になると伝えた。

ブルームバーグによると、調査会社ビジネス・モニター・インターナショナル(BMI)の研究報告書では、中国が今後10年以内に原子力発電の発展に力を注ぎ、設備容量は3倍近い1億キロワットにまで激増すると分析している。

中国で、原子力エネルギーの利用は従来の化石エネルギーを代替し、エネルギー危機を解決する最も有効な方法であるとされている。

業界関係者の見方では、石炭による火力発電の比率を抑え、よりクリーンな発電エネルギー源推進を求める声が原子力エネルギー発展の原動力になっているという。

中国の2016年の原子力発電設備容量は3400万キロワットであり、中国政府は2021〜2022年までに運転中の設備容量を5800万キロワットに、2030年には1億5000万キロワットにする計画。また2026年までに、大気を汚染する石炭による火力発電の比率は70%から54%以下へと減少するとみられている。【2月4日 Record china】
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ソマリアのアルシャバブ、ナイジェリアのボコ・ハラム 支配地域を狭めながらも止まないテロ

2017-07-14 23:32:27 | アフリカ

(ホワイトハウスでトランプ大統領・イヴァンカさんに面会した、チボックでボコ・ハラムに拉致されそうになり逃げ出した少女二人(現在はアメリカで生活) 

少女はトランプ大統領にあてた手紙で「アメリカはこれからも安全で強い国であってください。あなたをつぶそうとしている人がいることは知っていますが、アメリカを安全で強い国に保とうとしているあなたは正しい。アメリカのためだけでなく、世界のために。もしアメリカが安全で強くい国でなくなってしまったら、危険な目に遭ったとき、私たちはどこに希望を見出したらいいのでしょうか? どうか、アメリカを繁栄させ続けてください」とトランプ大統領を応援したとか。

自国ナイジェリア政府があてにならない以上、アメリカにすがるしかない・・・ということでしょうが、“アメリカ第1主義”のトランプ大統領も「心を動かされた」とか。【7月11日 Newsweek】)

ソマリアのアルシャバブ「アフリカで最も危険なテロ組織」】
アフリカでは、6月23日ブログ“コンゴの住民虐殺 中央アフリカの民兵組織衝突 イエメンではコレラが蔓延・・・世界の現状”でも取り上げた、コンゴにおける政府軍・武装組織による暴力、中央アフリカのキリスト系・イスラム系民兵組織の衝突など、また、南スーダンでの戦闘など、“暴力・殺戮が横行するアフリカ”というアフリカのネガティブなイメージを強調するような国が少なくありません。

イスラム系過激派ということでは、ナイジェリアのボコ・ハラムがまず思い浮かびますが、犠牲者数で見るとソマリアのアルシャバブの方が多いとか。

アルシャバブに関しては、アフリカ連合(AU)の部隊などによって首都モガディシオを追われて支配地域を狭めているというイメージがあり、また、国際ニュースで取り上げられることもさほど多くはありませんが、その脅威は相変わらずのようです。

****<ソマリア>過激派アルシャバブ台頭「アフリカで最も危険****
ソマリアを拠点とするイスラム過激派アルシャバブが爆弾テロや襲撃を繰り返し、ソマリア国内で一層治安が悪化している。最近の犠牲者数ではナイジェリアのボコ・ハラムを上回り「アフリカで最も危険なテロ組織」と指摘する声も出ている。
 
アルシャバブは国際テロ組織アルカイダ系の武装組織。ソマリア内戦が泥沼化する中で台頭し、一時は国土の中・南部の広範囲を占領した。その後、政府軍やアフリカ連合(AU)部隊の攻勢で支配地域を減らしたものの、再びテロを活発化させている。
 
アフリカではナイジェリア北東部を拠点とするボコ・ハラムのテロ激化に注目が集まってきたが、米国防総省が管轄するアフリカ戦略研究センターなどの分析によると、アルシャバブは昨年、テロや襲撃で4281人を殺害し、ボコ・ハラムによる犠牲者数を約800人上回った。
 
アルシャバブはラマダン(断食月)中の今月、特に攻勢を強め、テロが頻発。北東部の自治州プントランドで8日、軍基地に大規模攻撃を仕掛け約70人が死亡し、14日には首都モガディシオのレストランで少なくとも31人を殺害した。
 
ソマリアでは、AU部隊が掃討作戦を展開するほか、トランプ米大統領も3月にアルシャバブへの空爆強化を承認し、米軍は掃討作戦への関与を強めているが、いまだ治安悪化に歯止めがかからない状況。

アフリカの過激派に詳しいフリーステート大(南アフリカ)のフセイン・ソロモン教授は「アルシャバブは国内外でテロを繰り返す能力とネットワークを持ち、壊滅は容易ではない。ボコ・ハラムも衰退したとは言い切れず、両組織の脅威は今後も続くと見るべきだ」と今後もアフリカで過激派のテロが続くとの見方を示した。【6月26日 毎日】
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日本でも報じられているアルシャバブによる襲撃事件としては、上記記事にもある6月の軍基地襲撃やモガディシオのレストラン襲撃があります。

****ソマリア首都でレストラン襲撃 31人死亡****
アフリカ東部ソマリアの首都モガディシオで、地元で人気のレストランがイスラム過激派と見られる男たちの襲撃を受け、少なくとも31人が死亡しました。

ソマリアの首都、モガディシオで14日夜、地元の人たちに人気のレストランの前で車が爆発し、直後に5人の男たちが銃を撃ちながら店内に押し入りました。

男たちは、客などおよそ20人を人質にとって店に立てこもりましたが、15日朝までに治安部隊によって全員が射殺されました。

AP通信によりますと、店の中からは男たちに至近距離から撃たれたと見られる女性を含む複数の遺体が見つかり、車の爆発による犠牲者と合わせてこれまでに31人が死亡し、およそ40人がけがをしたということです。

襲撃を受けた時、店内はイスラム教の断食月ラマダンのため、日中、飲食を断ったあと、食事を楽しむ若者らでにぎわっていたということで、イスラム過激派組織「アッシャバーブ」が犯行を認める声明を出しました。

ソマリアでは今月8日、「アッシャバーブ」が北部にある軍の基地を襲撃して兵士ら59人を殺害し、その3日後にソマリア軍との協力のもとアメリカ軍が、「アッシャバーブ」の軍事訓練施設を空爆していました。【6月16日 NHK】
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6月22日には首都モガディシオ南部で、警察署の外壁に爆弾を満載した車が突っ込み、5人が死亡し、10人が負傷する事件もあり、アルシャバブが犯行声明を出しています。

冒頭記事にもあるように、アメリカ・トランプ政権はソマリアに展開する米軍の軍事活動強化を承認しています。

***ソマリアで過激派空爆=米軍****
米国防総省は3日、ソマリアで米東部時間2日に国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派アルシャバーブに対する空爆を実施したと発表した。空爆の場所や死傷者の有無は不明。報道担当官は「作戦結果を調査中で、公表できる事実があれば追加で発表する」とコメントしている。
 
トランプ大統領は3月、ソマリアに展開する米軍の軍事活動強化を承認。ソマリア軍やアフリカ連合平和維持部隊によるアルシャバーブ掃討作戦を支援している。【7月4日 時事】
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一方、一時は世界的な関心事となったソマリア沖の海賊は、日本の自衛隊も参加した国際的な監視・掃討活動によって4年ほど前から沈静化していましたが、今年に入ってからすでに12件以上発生しているということで、“復活”の動きがあります。

更に、この海賊とアルシャバブの間につながりがあるとも。

****ソマリア海賊の首領2人、過激派組織を支援か****
アフリカ東部ソマリア沖で活動を活発化させている海賊のリーダー格少なくとも2人がテロ組織に物的支援を提供しているとして、国連と米国が調べを進めていることが分かった。

CNNが独占入手した情報によると、ソマリアに拠点を置く国際テロ組織アルカイダ系の過激派「シャバブ」や過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」の分派による武器密輸や、人集めに加担しているとみられる。(中略)

トランプ米政権のマティス国防長官は、米軍が最近の状況を注視しているとしたうえで、海賊掃討に「大きな軍事的役割を果たすことはない」と述べていた。しかし、米国が脅威と見なすシャバブへの加担が確実になった場合は、この方針が変更される可能性も指摘されている。【7月11日 CNN】
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ナイジェリアのボコ・ハラム 政府軍によって支配地域を失ったとされているが、頻発するテロ
ナイジェリアのボコ・ハラムの方も、ナイジェリア軍によって支配地域をほとんど失っていると言われながらも、その凶行が絶えません。

冒頭記事に“アルシャバブは昨年、テロや襲撃で4281人を殺害し、ボコ・ハラムによる犠牲者数を約800人上回った”とありますので、ボコ・ハラムによる昨年の犠牲者数は約3500人ということになります。

4281人にしろ、3500人にしろ、1年間でこれだけの犠牲者が出るというのは想像を絶する状況です。2009年以降、ボコ・ハラムの暴力の犠牲となり死亡した人は少なくとも2万人に上っています。

ボコ・ハラムは住民殺害だけでなく、女性拉致も繰り返していますが、3年前にボコ・ハラムに拉致された女子生徒276人については、5月に82人が解放されています。この他、57人は拉致直後に逃亡、106人はこれまでに解放されたか発見されているということで、113人が依然消息不明となっています。

しかし、一部が解放される一方で、新たな犠牲者も。

****ボコ・ハラム、女性37人を拉致し住民9人を殺害 ニジェール****
ニジェール南東部の村をイスラム過激派組織ボコ・ハラムが襲撃し、女性37人を拉致するとともに、別の住民9人の喉をかき切って殺害した。地元の州知事が4日、明らかにした。
 
ディファ州の州知事が国営テレビに語ったところによると、2日にナイジェリアとの国境に近いヌガレワでボコ・ハラムによる襲撃があり、「ボコ・ハラムの部隊は9人の喉をかき切り、女性37人を拉致して立ち去った」と明らかにした。
 
3日にヌガレワを訪れた知事は、「防衛部隊と治安部隊がすでに捜索に当たっており、数日以内に女性たちが発見され、解放される【7月4日 AFP】
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****ボコ・ハラム、「シャリア警察」に従わなかった8人を公開処刑****
ナイジェリア北東部で、イスラム過激派組織ボコ・ハラムが、厳格なイスラム法「シャリア(Sharia)」の執行機関に従わなかったとして村人8人を公開処刑したことが明らかになった。AFPが映像で確認した。
 
映像には、覆面を被り武装した男4人が、目隠しをされて地面にうつぶせにされた8人を至近距離から銃で撃って殺害する様子が映されている。歓声を上げる群衆も捉えられている。
 
白いターバンを巻いた男は処刑の執行前に群衆に向かって、8人は「イスラム教徒の集団から抜けた背教者」であると批判。

ボコ・ハラムによるイスラム法の厳格な解釈が守られているかを取り締まる「シャリア警察」に従わず、争いも辞さない構えだったと述べた。またボコ・ハラムに従わない者は誰であろうと同じ運命をたどると警告した。
 
撮影された時期や場所は不明だが、草木が生い茂っていることから現在も続く雨期に撮影されたものとみられる。
 
映像には他にも、不倫をした者に対する投石による死刑、違法薬物を売買した者に対する斬首刑、窃盗を行った者に対する切断刑、飲酒をした者に対するむち打ち刑の様子も映っていた。
 
今回の映像は、ボコ・ハラムがすべての支配地域を失い、勢力も失っているとするナイジェリア軍の主張が偽りだとアピールする狙いがあるとみられる。【7月12日 AFP】
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ナイジェリアでの支配地域を失った分、【7月4日 AFP】のニジェールや、後記のカメルーンなどでの活動を活発化させています。

****ナイジェリア・カメルーンで自爆テロ ボコ・ハラムか****
西アフリカのカメルーン北部ワザで12日夜、レストランや商店などが立ち並ぶ地域で爆発があり、12人以上が死亡、約40人が負傷した。13日、ロイター通信などが伝えた。

現場はナイジェリアとの国境に近く、同国北東部を拠点にテロを続けるイスラム過激派「ボコ・ハラム」の犯行とみられるという。
 
同通信によると、ナイジェリア北東部マイドゥグリでも11日夜、爆発が起き、少なくとも17人が死亡、21人が負傷したという。同じくボコ・ハラムの犯行とみられている。(中略)

ボコ・ハラムは誘拐した子どもや女性に爆弾を巻き付け、市場など人通りの多い場所で爆発させる手口でテロを続けている。

ナイジェリア政府はボコ・ハラムの撲滅作戦に成功していると主張しているが、ボコ・ハラムのテロは収まっていない。【7月13日 朝日】
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拉致少女が解放後に直面する現実 新たなてテロの温床となりかねない孤児問題
拉致された少女については、解放されたのちも厳しい現実に直面しています。

****ボコ・ハラムから救出された少女たち、故郷で待っていた過酷な現実とは****
イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」に誘拐された女性たちは、後にナイジェリア軍によって救出されたとしても、その苦しみが終わることはない。

国連児童基金(ユニセフ)と、紛争予防に従事するNGOのインターナショナル・アラートが2月に発表した報告書によると、ボコ・ハラムに誘拐された女性たちは、故郷に戻ると多くの場合、自分の家族や地域社会から拒絶されていることが明らかになった。

「多くの女性は、性的暴力をめぐる社会的文化的な規範のため、家族や地域社会のメンバーからの社会的排斥や差別、拒絶に直面しています」。この報告書はこう述べた。(中略)

女性たちが故郷に戻ってくることを家族が歓迎しない2つの大きな理由がある。1つ目は、地域社会のメンバーが、彼女たちはボコ・ハラムの影響で政治的に過激な思想を持っているかもしれない、と疑って不信感をもっているからだ。

2つ目は、性的暴行を受けた汚名のため、女性たちが故郷に戻っても村八分されているからだ。(後略)【2016年3月24日 The Huffington Post】
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また、ボコ・ハラムに親や保護者を殺害されて孤児となった子供たちの教育問題も深刻な問題です。
放置すれば、新たなテロ参加者の温床ともなりかねません。

****ボコ・ハラムによる孤児問題、新たな暴力の温床にも****
ナイジェリア北東部ボルノ州の州都マイドゥグリにある既に廃園となった遊園地を訪れる幼い少年たちのグループ──路上で夜を明かした彼らが目指すのは、もう動くことのない園内の乗り物だ。(中略)
 
ボルノ州では、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム(Boko Haram)」によって大勢の子どもたちが親や保護者を失った。彼らは、そのほんの一握りの少年たちだ。
 
遊園地の近くで働く人は、「彼らは保護下にない。だからここに来て遊んでいる。本来なら学校にいるべきだが、彼らに学校へのアクセスはない。見ていて本当につらい」と語った。

■「教育機会を与えなければ、すべてを奪うモンスターに」
当局は、親を失った大勢の子どもたちが保護されない限り、マイドゥグリはイスラム過激派の温床であり続けると危機感を募らせる。
 
しかし、当局は現在、厳しい貧困にあえぐ地域で家を失った大勢の子どもたちをどのようにして学校に戻すかという難問に直面している。これまで、こうした貧困地帯で教育は重要視されてこなかったが、教育こそが新たなイスラム過激派の台頭を防ぐ鍵となる。
 
カシム・シェッティマ州知事は「ボルノ州には親を失くした子どもが、公式発表で5万2000人以上いる」「しかしその一方で、こうした子どもたちが10万人以上いるとする非公式のデータもあり、またその半数がマイドゥグリにいる可能性もある。彼らに教育機会を与えなければ、われわれのすべてを奪うモンスターになる。非常に大きな課題だ」と語った。(中略)

■「時限爆弾」
マイドゥグリとボルノ州の一部地域では、2014年に閉鎖された学校が昨年末に再開した。しかし、その一方で、まだ数百校がボコ・ハラムに破壊された校舎の再建を待っている。
 
シェッティマ知事は孤児問題の解決を目指し「州全土に大規模校20校」の建設を目標に掲げている。他方で、孤児8000人のための大規模な児童養護施設の建設案も出ている。
 
建設計画を実行に移すためには、連邦政府から予算を取る必要があるが、連邦政府はあてにならないことで悪名高い。そのため、世界各国からの支援が大きな意味を持つ。
 
ナイジェリア政府が、学校不足問題を早急に解決するのは難しいだろう。しかしこの問題に早急に対応できなければ、新たな暴力へとつながるリスクは増大する。
 
ユニセフのマニオク氏は「彼らには人生をやり直すチャンスが必要だ。でなければ彼らは不安定な要因ともなり得る。まさに時限爆弾だ」と指摘している。【5月31日 AFP】
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この孤児問題に限らず、“連邦政府はあてにならないことで悪名高い”ということがナイジェリアの最大問題でもあります。

ボコ・ハラム対策としてナイジェリア政府を支援しても大丈夫なのか・・・という懸念も国際社会にはあります。

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トランプは2017年2月、ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領と電話会談を行い、同国への爆撃機の輸出を認める意向を示した。オバマ政権は、ナイジェリア軍の人権問題ならびに規律欠如を理由に、輸出を凍結していた。

ナイジェリア軍は2017年1月、ボコ・ハラムの掃討作戦中に、同国北東部の都市ランにある避難民キャンプを誤爆し、100名以上を死亡させるなどしている。【7月11日 Newsweek】
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イエメン  内戦を複雑化させる南部分離派の動向 サウジアラビアの思惑は? 「手に負えない」コレラ

2017-07-13 22:17:27 | 中東情勢

(急増するコレラの患者を治療するため、国境なき医師団がイエメン北部ハッジャ州に設けたコレラ治療センター(国境なき医師団提供)【7月13日 朝日】)

前アデン知事らの南部分離派、イエメン政府を批判し公然と分離の意向を表明
アラビア半島先端に位置する中東最貧国イエメンは従来より、南部の分離独立派、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力、そして「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力という3つの内紛を抱えています。

かつて「アラブの春」のひとつの動きとして権限を奪われたサレハ前大統領は、イエメン統治の難しさに関して「蛇の頭の上でダンスを踊ることに等しい」といった類の発言をしていたような記憶もあります。(6年ぐらい前の話で、記憶もあやふやですが)

実際、その後のイエメンが、イランが支援しているとされる「北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力であるフーシ派及びサレハ前大統領支持派」とアサウジアラビア等が支援して大規模な空爆介入を行っている「ハディ暫定大統領派」の激しい内戦状態となり、イラン・サウジアラビアの代理戦争とも言われる状況が続いていること、また、権力の空白に乗じる形で「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力が拡大していることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

現在、南部港湾都市アデンを中心とする南部地域はサウジアラビアに支援されたハディ暫定大統領派が支配する形になってはいますが、先月末あたりからその南部において、南部分離独立派の動きとも言えるような内紛が伝えられています。

このあたりを伝える「中東の窓」によれば、概略は以下のようなものになっています。

****南部イエメン問題****
イエメン問題は益々複雑になってきました。

hadi 大統領は29日、ハドラマウト、スコトラ、シャブワの南部の3県の知事を更迭しましたが、これに対して南部の「移行評議会」が30日早々に、南部の人民の意向を受けない、このような移動は受け入れられないとして、元に戻すように要求したとのことです。

これはal qods al arabi net の報じるところですが、記事は、この「移行評議会」はこの3月hadiが解任した、前アデン知事を議長として、南イエメン運動がhothy連合から解放された南部の地域を統治するためとして設立した組織とのことです。(中略)

さらに、記事はこの南イエメン運動というのは、2007年に前大統領によって軍を追われた元軍人(おそらくは南出身の軍人と思われる)が復職を要求して組織したものだが、その後すぐ南イエメンの独立を求める組織になったとしています。(後略)【6月30日 「中東の窓」】
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そして、この南部移行評議会をUAEが支援しているとも。
“al qods al arabi net が「イエメン政府はUAEに支援された南部分離主義者の反乱に直面している」との記事を載せて、南部イエメンにおけるUAEの動き(策謀?)をかなり詳しく解説しています。”【7月2日 「中東の窓」】

UAEはサウジアラビアとともに「ハディ暫定大統領派」を支援してきましたが、そのこととハディ暫定大統領の足元を揺るがす南部移行評議会を支援することが、どのように結びつくのか、支援勢力のリーダーであるサウジアラビアがこの問題をどのようにとらえているのか(UAEがサウジの承諾なしに独自に動いているとも思われませんので)、サウジアラビア・UAEとカタールの対立が関係しているのか・・・等々、不透明なとろが多々あります。

****イエメン情勢****
(イエメン政府)首相のほうは、UAEに支援された移行評議会が正統政府に反対し、分離主義的傾向をあらわにすることは、アデンをはじめ、南部イエメンにおける正統政府の力を弱め、hothy連合(フーシ派)の復帰を助けるだけだと非難し、hothy連合の勢力はアデンから150㎞地点まで迫りつつあると警告した由。

これに対して、移行評議会のほうでも、イエメン首相は南部イエメン、特にアデンの諸問題をないがしろにしてきたと非難し、hothy勢力の力を誇張するのは宣伝であると非難した由。

さらに移行評議会議長(前アデン知事)はその支持者に対して、7日にアデンで大衆集会を開くことを呼び掛けたよし。(後略)【7月5日 中東の窓」】
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上記の「7日のアデンでの大衆集会」には、数万人が参加したとのことです。
7月7日は1994年のイエメン内戦でアデンが陥落した日にあたるそうで、旧南イエメンの分離独立派が集まったとも推察されています。

“集会で、(南部移行評議会)議長の前アデン知事は、hadi政権がアデンを回復した後も、その治安維持の能力もなく、住民の必要とする行政サービスを提供しないことを厳しく非難し、このままでいけば移行評議会が、行政等の責任を担う必要があるとして、公然と分離の意向を表明した由。”【7月8日 「中東の窓」】

ただ、“もっとも、その点(分離の意向)に関しては、連邦国家内での独立という言い方をして、必ずしも分離独立とまでは明言していない模様”【同上】とも

サウジアラビア:イエメンに強力な権力が成立しないことを望む?】
最大の影響力を有するサウジアラビアは相変わらず沈黙していますが、「中東の窓」では、サウジアラビアとしてはイランに支援されたフーシ派がイエメンを支配するのは許容できないが、同時にイエメンに強力な国家が生まれるのも望んでいないのでは・・・サウジアラビアにとってイエメンが“混乱状態”にあって、強力な権力が生まれないのが一番望ましいのでは・・・とも憶測しています。

****サウディの対イエメン政策(全くの仮説*****
・・・・要するに、イランの勢力を排除した後のイエメンが南と北に分裂し(独立よりは連邦国家のほうが好ましいかもしれない)双方ともに、弱小な政体であることは、サウディとして歓迎すべきことではないかと思われる。

しかし、現時点で正統政府を支持するというのが、唯一に近いサウディのイエメン介入の論拠である以上、自ら南の分離主義運動を支援するわけにもいかず、その点でUAEというジュニア・パートナーにそのような仕事をやらせた。

UAEがこのような役割を引き受ける真意は不明だが、その軍事力が陸海空合わせて2万以下の、UAEが本気で南イエメンを併合しようと考えているとは思われない。

UAEはペルシャ湾の島3つをイランに占拠されていて、その意味ではサウディと協力するインセンティブがあり、かつ自らの影響力を広める方途と考えたかもしれない

要するにサウディとしては、一方ではhothy連合やこれを支援するイランに対して大規模空爆をやって、その弱体化を図りつつ、他方その結果イエメンが軍事大国的になるのも好まず、南と北という対立的要素を抱えた弱小国家であることが、最も望ましいとみているのではないか?(後略)【7月8日 「中東の窓」】
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上記はあくまでも“憶測”であって、秘密主義サウジアラビアの意図はわかりません。

コレラ感染拡大 「手に負えない状況に陥っている」(赤十字国際委員会)】
確かなことは、イエメンで混乱が長期間続いていること、今後の出口が定かでないこと、そして混乱状態のなかで今、イエメンにとってフーシ派、イスラム過激派、南部分離独立派に続く4匹目の蛇ともいえる「コレラ」が猛威を振るっていることです。

****イエメン、コレラ感染さらに悪化 32万人以上に拡大****
内戦下の中東イエメンで、コレラの感染拡大が止まらず、危機的状況がさらに悪化している。

国連のオブライエン事務次長(人道問題担当)は12日、イエメン全土で32万人以上に感染の疑いがあり、少なくとも1740人が死亡したと発表した。国連児童基金(ユニセフ)と世界保健機関(WHO)によると、死者の約4分の1が子どもだという。
 
イエメンでは政権側と、イランが支援する反政府武装組織「フーシ」が対立。隣国サウジアラビアが2015年3月から政権側に立って軍事介入し、首都サヌアなどで空爆を続けている。

WHOは上下水道や医療・保健・衛生施設などのインフラが空爆で破壊され、感染拡大に拍車をかけたと指摘する。
 
現地で医療活動にあたる国際NGO「国境なき医師団」(MSF)で、6月までイエメンの活動責任者を務めた村田慎二郎さん(40)は12日、東京都内で会見し、「一刻も早く手を打たなければ、彼らの命が失われていく。紛争当事者と国際社会は安全かつスムーズに人道支援を実施させる責任がある」と訴えた。【7月13日 朝日】
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これまでの報道では、
“国連のイエメン人道調整官を務めるジェイミー・マクゴールドリック氏は15日、内戦が続く同国で流行しているコレラによる死者が1000人に近づいていると明らかにしさらに、援助が思うように集まらない現状について、「人道が政治に負けようとしている」と強く非難した。”【6月16日 AFP】、

“国連児童基金(ユニセフ)によると、今年4月以降の感染者は20万人を超え、約1300人が死亡した。死者の4分の1にあたる約350人は子どもだ。”【6月30日 朝日】

と報じられていましたから、“32万人以上に感染の疑いがあり、少なくとも1740人が死亡”という現状は、感染拡大が急激に進んでいることがを示しています。

“赤十字国際委員会(ICRC)は現状についてツイッターで「手に負えない状況に陥っている」という認識を示した。”【7月10日 時事】という、“絶望的”な声も出ています。

イエメンでは深刻な飢饉も懸念されています。
“アラビア半島南西端の国イエメンで続く内戦で、人道危機が深刻化している。人口の3分の1にあたる約900万人が緊急の食糧を必要としているとして国連世界食糧計画(WFP)は「前例のない水準」の大規模な飢饉(ききん)が迫ると警告している。”【4月16日 毎日】

内戦の混乱で満足な治療を受けられずに多くの人々がなす術もなく死んでいく、今後もどこまで感染が拡大するのかわからない“手に負えない状況に陥っている”、多くの住民が「前例のない水準」の大規模な飢饉の脅威にさらされている・・・・そうした状況で、紛争当事者、サウジアラビア、UAE、イランなどの関係国は住民犠牲にお構いなくパワーゲームにのめりこんでいる、更に、良くも悪くもかつては“世界の警察官”として機能したアメリカも、今ではそうしたことへの関心を失っている、国連には何ら実際的な力がない・・・・救いようのない状況です。

自国のテロなどで数人が犠牲になっても大騒ぎする欧米・日本なども、イエメンの戦闘・コレラ・飢饉で何千人が犠牲になっても沈黙・無関心です。

更にコレラ感染が拡大すれば、戦闘どころではなくなり内戦も鎮静化する事態もありえますが、そのときまでにどれだけの犠牲者が出るのか・・・・。
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メキシコ  「pax mafiosa(マフィアによる平和)」崩壊で麻薬戦争再燃

2017-07-12 23:12:10 | ラテンアメリカ

(メキシコ・シウダフアレスで、同市が公開したレイプ時緊急連絡アプリ「No estoy sola」を眺める少女ら【7月12日 AFP】)

ブラジル:銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示するアプリ
治安の悪さを示す殺人事件発生率のランキングでは中南米の国々が上位を独占する勢いですが、特に、日本ではほとんど国名を目にすることがない中米の島国が上位にランキングされています。

貧困、そして貧困を背景として麻薬組織が社会に根付いていることが大きな理由です。

殺人事件犠牲者数という絶対値では、おそらくブラジルやメキシコあたりが上位にくるのではないでしょうか。

ブラジルでは、収賄罪で起訴されたテメル大統領の司法手続きが進むのかが世界的にも注目されています。

“起訴が(最高裁に)正式に受理されるには下院議会の3分の2以上が賛成する必要があるが、与党が多数派を握っていることを踏まえ、テメル氏の側近らは正式受理の回避に自信を見せている。”【6月27日 AFP】

更に言えば、下院議員の多くがテメル大統領同様の問題を抱えている状況では、その議員に政治浄化を期待するのは難しいのかも。

ただ、本会議に先立つ下院憲法・法律委員会は全政党の代表が委員となっており、政党の議席数をそのまま反映していないこと、与党内でも若手議員には汚職にまみれた大物議員に反旗を翻し世代交代を求める動きも出ていること、何より国民世論の批判が強いことなどから、事態は流動的とも。
下院憲法・法律委員会で起訴受理が賛成多数となれば、本会議の流れも変わります。

大統領を頂点とした汚職体質は政治の世界だけではありません。

****腐敗警官62人拘束=麻薬組織と癒着―ブラジル****
ブラジルのリオデジャネイロ州検察局は29日、麻薬組織に武器を横流ししたり、賄賂を受け取って麻薬取引を黙認したりするなど癒着していたとして、警察官95人の逮捕状を取り、このうち62人の身柄を拘束した。

警察官らは毎週、麻薬組織から集金し、その総額は月100万レアル(約3400万円)以上に達したという。
 
ニュースサイトG1によると、リオデジャネイロ近郊のあるファベーラ(貧民街)では、組織が月19万6000レアル(約670万円)の「目こぼし料」を警察に支払っていたとされる。また、ある警察官は週1000レアル(約3万4000円)を受け取っていたとみられる。【6月30日 時事】 
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警察がほとんど組織ぐるみで麻薬組織と癒着しているのですから治安も改善するはずがありません。発砲・銃撃事件が頻発しています。

そこで、リオデジャネイロ市民が利用しているのが、銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示するアプリだとか。

****発砲通知アプリ」で身を守れ=リオで普及の兆し****
発砲、銃撃事件が多発するブラジル・リオデジャネイロの市民の間で、スマートフォンのアプリを利用して身を守ろうとする動きが広がりつつある。
 
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが1年前に発表した無料アプリ「フォゴ・クルザード(十字砲火)」は銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示。一目で危険地帯を知ることができる。
 
管理者のオリベイラさんは「市民が『十字砲火』にさらされている現状を広く知ってもらいたかった」と開発意図を説明。ダウンロード回数は予想を大きく上回る9万以上に達したという。
 
リアルタイムで情報提供するアプリ「オンジ・テン・チロテイオ(撃ち合いはどこ)」も人気で、利用者からは「これ無しでは家を出られない」との声もあがっている。
 
フォゴ・クルザードによると、6月までの11カ月間でリオ一帯で4398件の発砲・銃撃事件が発生し、1133人が死亡、1171人が負傷した。【7月11日 時事】
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メキシコ:レイプ時の携帯による緊急連絡システム
ブラジル以上に麻薬組織が社会を蝕むメキシコも、治安の悪さではブラジルに負けません。
そのメキシコでも、市民の生命を守るのに携帯が活用されているようです。

****女性をレイプ殺人から救うアプリ「世界一危険な街」が公開 メキシコ****
メキシコ北部チワワ州シウダフアレスは1990年代以降、「女性殺しの街」と呼ばれ、レイプ、殺害されて砂漠に遺棄されるか、行方不明になる女性が多数いることで知られてきた。

そんな同市がこのたび、女性の携帯電話が非常ボタン代わりになるアプリを公開した。
 
スペイン語で「No estoy sola(「私は独りではない」の意味)」と名付けられたこのアプリ。電話を振るか、ボタンをクリックすれば、緊急連絡先に通知が届き、リンクが貼られたテキストメッセージが送信されると、受け取った側は米グーグル(Google)の地図サービス「グーグルマップ」で送信者の居場所を知ることができる。 メッセージは5~10分置きに、送信者側がアプリの動作をオフにするまで繰り返し送られる。
 
このアプリが先週公開されて以来、すでに1万3000回以上ダウンロードされ、そのうち100回以上が米国内の利用だった。
 
米テキサス州エルパソと国境を接するシウダフアレス市は、女性にとって世界有数の危険な都市という汚名を返上する取り組みを続けてきた。1990年代以降、被害はやや減少してきてはいるが、1990年代に殺害された女性の数は、人権団体の推定では1500人を超えている。
 
被害者は主に、同市のマキラドーラ(輸出保税加工区)の組み立て工場群に出稼ぎにやって来た貧困層の若い女性たちだった。その内の多くは、レイプされて残虐な拷問を受け、同市の周辺にある砂漠で遺体が発見された。
 
人口140万の同市は、今も女性たちにとっては危険が多い街だ。昨年、報告があった女性の行方不明者は54人。今年に入ってからは17人の行方が分からなくなっている。【7月12日 AFP】
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シリア・イラクの戦場でもないのに、街を歩くのに、銃撃事件の発生状況確認アプリやレイプ時の緊急連絡システムが必要になるというのは異常と言うしかありませんが、現実でもあります。

政治腐敗と表裏の「pax mafiosa(マフィアによる平和)」 崩壊で麻薬戦争再燃
メキシコでは、街中でも刑務所でも、事件が後を絶たないようです。

****麻薬組織の抗争で銃撃戦、14人死亡 メキシコ****
AP通信によると、中米メキシコ北部チワワ州マデラで5日、同国最大の麻薬組織シナロア・カルテルと、同州を拠点とする対立組織フアレス・カルテルの関連グループ、ラ・リネアの間で銃撃戦が起きた。治安部隊が鎮圧したが、この抗争で少なくとも14人が死亡した。

同国では北西部シナロア州でも6月30日、麻薬組織と治安部隊が衝突し、麻薬組織側の19人が死亡した。【7月6日 産経】
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****メキシコ 麻薬戦争が刑務所内まで 受刑者28人死亡****
メキシコ南部の刑務所で対立する犯罪組織に所属するメンバーどうしの暴力事件で28人が死亡し、麻薬戦争と呼ばれる犯罪組織の抗争が刑務所の中にまで及んだことに衝撃が広がっています。

メキシコ南部アカプルコにある刑務所で6日、対立する犯罪組織に所属する受刑者どうしの暴力事件があり、これまでに28人の死亡が確認されました。(中略)

アカプルコは太平洋に面したビーチが有名で、海外からも多くの観光客が訪れる人気のリゾート地ですが、近年、犯罪組織どうしの抗争が激しくなっています。

メキシコでは政府と犯罪組織の衝突、また犯罪組織どうしの抗争が激化していて麻薬戦争と呼ばれ、去年1年間で市民を含む2万3000人が死亡し、犠牲者の数は、内戦が続くシリアに次ぐ多さとなっています。

前日の5日には、メキシコのペニャニエト大統領がアメリカのケリー国土安全保障長官と会談し、組織犯罪の撲滅に向けた協力を確認したばかりですが、犯罪組織の抗争が刑務所の中にまで及んだことに衝撃が広がっています。【7月7日 NHK】
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メキシコの“現実”は一筋縄ではいかないものがあります。
軍を動員した「麻薬戦争」で治安悪化を招いた前大統領にとってかわったペニャニエト大統領のもとで、一時的に殺人件数は減少しましたが、それは麻薬組織の活動をある程度黙認する「pax mafiosa(マフィアによる平和)」でもありました。

しかし、政治と麻薬組織の癒着が市民から批判を浴びて、その「pax mafiosa(マフィアによる平和)」が崩れつつある現在、再び事件・犠牲者が増加しているようです。

****今年の死者既に1万1155人 メキシコ麻薬戦争****
大統領は麻薬組織対策のやり方を変えたかったが、奏功せず

3月23日朝、メキシコ北部の都市チワワで銃撃犯はチェリーレッドのルノー・ダスターSUVに8発の銃弾を撃ち込んだ。自宅前からこの車で14歳の息子カルロス君を学校に送って行くところだった母親で新聞記者のミロスラバ・ブリーチさんが殺された。
 
ブリーチさんは、麻薬組織と地元の政治機構との関係に関する調査報道で知られていた。現場に残された犯人の手書きメッセージには、こう記されていた。ブリーチさんを殺害したのは「おしゃべりだからだ」と。
 
メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領の政権下で暴力件数が数年間減少したが、麻薬戦争が最近再燃している。
政府統計によれば、2017年1月から5月までにメキシコで殺害された人々は、ブリーチさんを含めて1万1155人に上っている。20分間で1人の割合だ。昨年同期を31%上回っている。年末までには、犠牲者の数はメキシコの平和時で最悪だった2011年の2万7213人に匹敵する恐れもある。(中略)
 
暴力再燃の原因の多くは、長年の根深いものである。例えば、米国内でのオピオイド(鎮痛作用のある医療用麻薬)市場の拡大や、麻薬密売集団同士の血塗られた抗争などだ。この抗争は、密売集団の上級幹部の死亡や逮捕がきっかけになって激化している。
 
麻薬取引問題の専門家によると、常識では考えられないダイナミズムも働いているという。ここ数カ月間、ペニャニエト大統領が率いる与党・制度的革命党(PRI)の州・地方指導者が腐敗していると有権者に烙印を押され、地方選挙で落選していることだ。

この結果、麻薬組織と政治家との間の非公式な「同盟関係」が崩壊し始めている。この関係は「pax mafiosa(マフィアによる平和)」と呼ばれ、殺人を抑制する役割を果たしていた。

「地方と州のPRI主導政府は、非公式なルールを使って暴力と犯罪をコントロールした」と、メキシコ市にある超党派CIDE研究センターのホルヘ・チャバト氏(治安・国際関係)は言う。「彼ら当局者は『君ら(マフィア)は麻薬を密売できる。ただし、余りにも多くの人々を殺さないという条件付きだ』と言ってきたものだ」
 
メキシコの暴力件数が過去最悪だったのは、2006年に始まった。敵対する麻薬組織同士が縄張り戦争を始めた時で、最終的に死者は10万人を超えた。当時のフェリペ・カルデロン大統領(国民行動党)は、強大な麻薬王たちを制圧するため軍隊を派遣した。彼らが影響力を拡大し、政府の権力に挑み、国の広い範囲を支配するほどになったためだった。

メキシコの殺人件数は今年過去最悪規模になりそうだ
軍は一部の麻薬組織を何とか壊滅できたが、殺人件数は増加し続けた。そして軍は人権蹂躙の非難を浴びた。罪のない市民の殺害や、麻薬組織容疑者の即決処刑への非難だった。
 
6年後の2012年、ペニャニエト氏を大統領候補に擁立したPRIは、自らを「効率の党」と呼んで政権に復帰した。前任のカルデロン大統領は、麻薬撲滅を強調したが、ペニャニエト大統領は教育政策の改革、エネルギー、電気通信産業の再編に集中した。(中略)
 
ペニャニエト氏が大統領として最初にとった行動は、メキシコ公共治安省の廃止だった。同省は2000年、国民行動党所属だった当時の大統領が設立した政府機関。麻薬関連犯罪取り締まりの専門的な連邦警察部隊を創設するために設けられた。ペニャニエト氏は就任後、その担務を内務省に統合した。
 
ペニャニエト氏の大統領就任以降、与党のPRIは麻薬密売などの汚職スキャンダルに見舞われてきた。メキシコではPRI所属の元知事のうち、汚職で捜査対象になっているか、服役中か、あるいは訴追されているのが12人近くに上っている。また3人が訴追を逃れるため国外に逃亡した。最近数カ月間で、2人がその後拘束された。いずれも容疑を否認している。
 
ペニャニエト大統領府はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)からの質問リストに長文の回答文を寄せ、2015年から殺人件数が増加しており、今年に入っても続いていることを認めた。

政府が新たに長期的な犯罪撲滅戦略を優先課題の一つとして実施していると述べた。この新プログラムには、メキシコの司法制度の広範な改革や、国家治安機関の強化策などが含まれているという。
 
大統領府は、メキシコの地方の法執行機関が自分の仕事を果たしていないと非難した。回答文は「専門的で、信頼でき、効率的な機関が地方レベルで欠如しており、それが何のおとがめもなく組織犯罪が横行する余地を与えている」と指摘。
 
ここチワワでは、ブリーチさん殺害は、暴力激化と政治的陰謀という雰囲気のなかで発生した。
 
昨年10月、有権者たちはハビエル・コラル氏をチワワ州の新知事に選出した。ブリーチさんと25年以上友人関係にあった元ジャーナリストだ。チワワは昨年、コラル氏を含め国民行動党所属の知事候補が勝利した7州の一つだった。
 
昨年末、チワワ州のセザール・ドゥアルテ前知事が米テキサス州エルパソに逃亡した。同州から数億ドル(数百億円)の公金を着服した容疑で逮捕状が出される直前だった。(中略)

チワワは長年、麻薬密売者の誰もが欲しがる州だった。チワワ州最大の都市シウダーフアレスは前回の麻薬戦争の際、麻薬カルテルによる暴力のグラウンド・ゼロ(震源地)で、世界でも有数の殺人率だった。
 
メキシコ最大といわれる麻薬組織シナロア・カルテルの最高幹部ホアキン・グスマン容疑者は、強力なカルテルとその武装ギャング「ラ・リネア」からシウダーフアレスの麻薬取引を乗っ取ろうとして武装した手下を派遣した。

グスマン容疑者は、2つのストリートギャング(ギャングの下部組織)を手先として雇った。2007年から11年までに9000人以上が殺害された。
 
グスマン容疑者は現在、米国で麻薬密輸などの罪に問われ、ニューヨーク・マンハッタンの施設に収監されている。

一方、シウダーフアレスでは緊迫した状況になっている。暴力事件が頻発し、過去5日間で29人が殺害されたためで、軍は3日、兵士を市内に配置した。州と連邦の警察とともに定期パトロールを最近5年間で初めて実施する。
 
チワワ州検察事務所によれば、同州全域で暴力が拡散し、予測不可能になっている。比較的小さなギャング組織が自らの影響力と麻薬取引支配を求め、争っているためだ。

5日未明にはエルパソから南西に約250マイル(約400キロメートル)離れたメキシコ地方都市ラスバラスで、2つの武装グループ同士の銃撃戦で少なくとも26人が死亡した。
 
米麻薬取締局(DEA)エルパソ支部の特別捜査官ウィル・グラスピー氏は「ラ・リネアあるいはカルテルの直接的な指導者を自任している人物は皆無だ」と述べた。
 
殺害されたブリーチさんは、自らが育ったシエラデチワワの丘陵地域で深まる政治と麻薬取引のつながりに関する記事をしばしば書いていた。
 
昨年3月、ブリーチさんは一連の記事を書いた。犯罪組織と地方政治ポスト候補者との家族的なコネに関する記事だ。彼女は記事のなかで、あるギャングのボスとされるカルロス・アルトゥロ・キンタナ(「El 80」としても知られる)の義母がバチニバという町の町長予備選候補としてPRIに登録したことを暴露した。
 
彼女の故郷チニパスでは、グスマン容疑者の元側近2人の甥が市長に立候補するためPRIの政党予備選に候補者登録した。ブリーチさんの記事が出されると、PRIは2人の候補資格を抹消した。(中略)
 
ブリーチさんが殺害の脅迫を受け始めたのはその直後だった、と彼女の家族は言う。彼女が殺害された時、遺体の近くには「El 80」という手書きのメッセージが残されていた。
 
ブリーチさん殺害で動揺した一人がコラル新知事だった。コラル知事はインタビューで、知事就任前、チワワ州の検察事務所は「完全に解体」されており、数千件の未解決の犯罪捜査のファイルが忘れられていたと述べた。その中には殺人、レイプ、誘拐の犯罪も含まれていたという。
 
コラル知事は、PRI時代の州政権は麻薬組織と取引し、組織の一部を農村地域に配置換えし、そこで活動できるようにしていたと述べた。
 
同知事は「彼らギャングはシエラデチワワに送られ、複数の町や地元の警察を支配し始め、地域全体のボスになった」と述べた。
 
PRIのチワワ州委員会のスポークスマンは複数回のコメント要請に回答していない。【7 月 6 日  WSJ】
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ペニャニエト大統領のもとで麻薬組織を封じ込めることができるのか、与党・制度的革命党には麻薬組織とも癒着するような“体質”があるのではないか・・・ということは、大統領就任当時から懸念されていたことです。

実際、ペニャニエト政権下で麻薬組織との癒着が進んでいます。
ただ、それを是正しようとすると麻薬組織がらみ抗争が激化し、犠牲者も増えるという“現実”があります。

軍を動員した「麻薬戦争」も行き詰まり、「pax mafiosa(マフィアによる平和)」も認められない・・・では、どうやってこの現実から抜け出すのか・・・・難しい状況です。
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中国  救急車に道を譲るのが“当たり前”の社会に向けて変化の兆しも・・・

2017-07-11 23:10:53 | 中国

(日本のどこでも見られる無人販売所 中国人だけでなく世界各国からの来日者が驚く光景ですが、実際のところは日本でもお金を払わずに持っていく不届き者はおり、販売者は苦慮しているようです。書店・スーパーなどが万引きに悩んでいるのも周知のとおり。 画像は【http://jo6gsd.xsrv.jp/?p=3238】)

マナー・モラルを重視する方向での変化の兆し?】
中国との関係については、尖閣諸島とか歴史認識の問題はありますが、(あくまでも日本から見ての話になりますが)中国国民がきちんと話し合いができる、互いに信頼できる、良識を持った存在になってくれたら、すぐには解決の難しい多くの問題もコントロール可能な範囲に納められ、両国の全体的な関係は大きく改善するのではないかと常々思っています。

領土や歴史認識で問題を抱えているのは世界中どこの隣国関係でも同じであり、特に日中の間だけを問題視する必要もありません。要は、問題はあるにしても、ちゃんとした話し合いができるか、相互理解ができるかが重要です。

(当然ながら、中国からすれば“日本の方こそ・・・”といった話はあるのでしょう。また、自由とか人権などの価値観に関しては、どちらかの政治体制が変わらない限り、見解の不一致が残るでしょうが)

話ができるかどうか、信頼できるかどうかは、具体的に言えば、きちんと列に並ぶとか、ゴミのポイ捨てをしないとか、自分や家族だけでなく社会全体の利益を考えるとか・・・マナーとか、モラルとか、礼節の問題です。

信用できない相手、リスペクトできない相手の話し合い・交渉は、結局うわべだけの形式的なものにとどまります。

マナー・モラル・礼節といった面に関して、中国社会の現状は、日本的常識からすると想像しがたいようなこと、ため息のでるようなことが多いのは日々報じられるところですが、それでも、少しずつ変化している面はあるのかも・・・という希望を感じさせる昨日、今日目にした話題です。

****当たり前のことなのに・・・・深センで多くの車が救急車に道を譲ったと自賛****
2017年7月10日、中国メディアの観察網は渋滞している中で多くの車が救急車に道を譲ったと伝えた。

7日午後5時ごろ、深セン市内で渋滞している中で多くの車が救急車に道を譲っていたという情報が深セン市交通警察に寄せられた。

そこで交通警察が防犯カメラを調べたところ、確かに多くの車が救急車に道を譲っている様子が確認できた。そこで交通警察は映像をネット上に公開したという。

救急車が通った道は深セン市内の交通の要所で、時間も帰宅ラッシュ時だったため、非常に渋滞していたが、映像によると車は自主的に左右によけて、救急車に道を譲っている。

これを見た中国のネットユーザーからは「温かみのある都市こそ誇りだ」「最も渋滞する時間帯に1本の道が開かれるなんて、深センのドライバーたちにいいねを送ろう!」など、称賛するコメントが多く寄せられた。

また、「深セン市に来て2年になるが、ここの人たちは本当に民度が高い」「生活レベルと教育レベルが上がれば、中国人の民度も高くなる」「メディアはこういうニュースをもっと伝えるべきだな」などの意見もあり、自画自賛するコメントが相次いだ。

しかし、「これって当然のことだろ?交通法で規定されているじゃないか。まるで信号を守ったからニュースになっているようなものだ」というもっともな意見もあった。日本では当たり前の光景であり、ニュースになることもない。中国でわざわざニュースになるということ自体、まだまだ遅れていると言わざるを得ないだろう。【7月10日 Record china】
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“ニュースになるということ自体、まだまだ遅れていると言わざるを得ない”と言えばそれまでですが、変化の可能性を感じさせる・・・と、最大限に楽観的・ポジティブにとらえることも。

言うまでもなく深センは香港に隣接した経済特区で、中国国内では最も早く改革開放が進み、経済水準も非常に高い地域です。隣接する香港からの社会的影響もあるでしょう。

深センで可能なら、やがて中国全土の経済水準が向上するにつれ、深セン以外の多くの地域でも“当たり前”のことともなり、ニュースにもならなくなる・・・・のかも。

****無人コンビニ開業から10ヶ月 万引き発生ゼロ件も「嘘だ、そんなわけがない****
2016年8月、広東省中山市に一号店をオープンした中国の無人コンビニエンスストが、開業から10ヶ月が経過した今、一度も万引きや損壊の被害にあっていないというニュースが話題になっている。店舗には累計数万人の来客があり、またリピーター率は80パーセントに迫るという。
 
このニュースを読んだネットユーザーの多くは、「そんなわけない」「信じない」「写真を何度もみた。看板に書かれているのは確かに簡体字だ・・・」などと、報じられている内容に驚きの表情を見せている。
 
・何故成功しているのか
 
要因の推測については、ネットユーザーがつぶやいているコメントを分類すると、大きく3つに分かれているようだ。
 
(1)開業エリアが適切だった
「中山市は民度が高いんだろう」「北京で試したらいい。北京の地方出身者たちは半日で店舗ごと持っていくぞ」「南方ではなくて、北方で開業してみればいいよ」
 
(2)国民の民度が向上した
「今の若い子、特に90年代生まれはしっかりしている」「今の中国で民度が低いのは、ちゃんと教育を受けていない世代、つまり広場でダンスしているおじさんおばさんたちだよ」「中山市には広場ダンスおばさんがいないの?」
 
(3)監視システムに隙がない
「全部監視されて、精算していないものは持ち出せなないのだから、それはそうなるだろう」「入店が実名制だからだろう」「一度監視カメラを取ってみればいい」
 
・「無人化」に高まる国民の期待
このコンビニエンスストアは、中山市賓哥網絡科技が経営する「Bingo Box」という24時間無人営業の小売店舗。今年6月には上海にも出店して話題になっている。
 
入店の際にはメッセンジャーアプリ「微信」による本人認証が必要であり、モバイル決済を済ませていない商品を持って外へ出ようとすると警報がなる仕組みだ。もちろん監視カメラも設置されている。
 
万引き被害が起きていないのは「カップラーメンとお茶ぐらいしか置いていないからだ」とする意見も見られたが、確かにこの厳重なセキュリティシステムの中で、わざわざリスクを犯して安価な商品を持って出ようとはしないだろう。
 
「経営が上手くいっていないシェアサイクル事業は爪の垢を煎じて飲め」という一部のネットユーザーの意見あるが、そもそもの管理体制が異なるので、同じ土俵で考えるのは短絡的かもしれない。

いずれにせよ、「無人化」することによる経済的効果よりも、「無人化」しても経済がまわる社会に変貌していくことのほうに、国民の関心や喜びは集中しているようだ。【7月10日 Searchina】
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中国人観光客が日本に来て驚くことのひとつが、スーパーなどにバッグを自由に持ち込めることのようです。中国では万引き防止のため、入店の際にロッカーに私物を預ける方式が一般的です。(バッグの中のパスポートや現金をどうしようか・・・と迷ったことも)

この無人コンビニで万引きが起きないのは、本人認証・警報・監視カメラなどのセキュリティチェックがなされているからですが、そうであったにしても、こうした試みが増えるにつれて、“セキュリティの有無にかかわらず、万引きしないのは当然の社会ルール”という認識が高まることも期待できる・・・かも。

また、地域・世代で“民度”(あまり好きな言葉ではありませんが)が異なると言うのであれば、今後に向けては改善も期待できる・・・かも。

****訪日中国人観光客のマナー、ガイドが語る「数年前との違い」とは****
2017年7月10日、人民網は「中国人観光客の海外での評価が向上した」とする中国社会科学院新聞伝播研究所などのレポートを取り上げ、訪日ツアーを担当するガイドの声を紹介した。

「中国新媒体発展報告2017」という名称のレポートは同研究所と社会科学文献出版社が発表したもので、「中国人の被調査者の8割以上が自分の海外旅行でのマナーに満足」「海外の被調査者の間でも『5年前に比べ中国人観光客のマナーは向上した』との認識が強まっている」という内容が記されている。

記事は「観光客のマナー向上を最も感じ取れる職業の一つ」としてガイドの仕事を紹介。10年以上旅行業務に従事し、主に訪日ツアーを担当してきたあるガイドは「中国人観光客の印象はここ数年で明らかに変わった。以前の訪日ツアーではごみのポイ捨てや喫煙場所について何度注意してもマナー違反がたびたび起こったが、近年は出発前に自ら旅行中の注意事項を尋ねる客が増えていて、ルールを守ろうという意識も持っている」「自分としても政府が作成した訪日旅行マニュアルを喜んで配布している」と語ったという。

一方、中国の旅行予約サイト・驢媽媽旅遊網の関係者は、中国人観光客のマナー改善について当局の呼び掛けや「ブラックリスト」導入が背景にあるとの考えを示すとともに、観光客側の「海外旅行慣れ」を指摘。今年上半期の同サイトの海外旅行者のうち31.5%は海外が2回目以上という人で、62.3%は現地の法律や習慣などを出発前に把握していたという。【7月11日 Record china】
***********************

これもいろいろ限定的な条件はありますが、総じてマナーに対する関心がかつてよりは高まっていることも背景にあるのでしょう。

もちろん、ネガティブな側面をとりあげればきりがありませんが、物事はなるべく楽観的・ポジティブに・・・ということで、変化の可能性に期待しましょう。

党の統制強化に不満の声も
ついでに、中国社会の変化の可能性・兆しに関する話題もいくつか。

中国と言えば、国家・当局による“思想教育”といったことも連想されますが、社会が成熟するにつれて、これまでのような露骨なものは次第に受け入れられなくなる・・・・のかも。

*****中国、映画館に党宣伝映像の上映義務付け 不満の声も****
映画を見る前は社会主義と習近平国家主席の思想を学習──。中国の映画館で今月から、「社会主義の基本的価値観」や習氏が掲げる政治理念「中国の夢」に関する数分間の短編映像を本編の上映前に流すことが義務付けられた。

中国共産党の主義や政策への理解を深めさせる狙いだが、来場者からは不満の声も上がっているようだ。(中略)

環球時報は映画館の従業員の話として「短編映像を見ないで済むように大勢が上映時間に遅れて来る。上映後に短編について不平をこぼす人もいる」とも報じている。
 
習氏は2013年の国家主席就任以来、中国で過去数十年で有数の強力な指導者になるべく統制を強化。党をたたえる半面、反対派に対して厳しい取り締まりを行っている。【7月5日 AFP】
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党・国家の思いどおりに動くような社会ではなくなりつつある・・・ともとれますが、そうであるからこそ、習近平政権が社会統制を強化しているという側面でも注目される話です。

中国司法に関しては当局の言いなりで、およそ個人の権利には無頓着である・・・とのイメージもありますが・・・・。

****同性愛者に「転向療法」を強制、医院に謝罪と賠償命じる 中国****
中国で、同性愛者の男性(37)が同性愛者やトランスジェンダー(性別越境者)の性的指向や性自認を変えることを目的とする「コンバージョン・セラピー(転向療法)」を強要されたとして、謝罪と賠償を求めて精神科医院を訴えていた裁判で、河南省駐馬店の裁判所は男性を支持する判決を下した。
 
AFPが4日に閲覧した裁判資料によると、「Yu」という苗字だけが明らかにされた男性は2015年10月、妻に自分が同性愛者であることを明かし、離婚を求めた直後、家族によって無理やり精神科医院に入院させられたという。
 
同医院は男性を「性的な好みにおける障害」と診断。医院は男性による退院の求めを拒否し、「治療」のため男性に投薬する処置を強いた。
 
男性は先週、訴えを起こしていたが、駐馬店の裁判所はこの医院に公式の謝罪と賠償金5000元(約8万円)の支払いを命じた。
 
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の権利擁護訴えるNGO「LGBT Rights Advocacy China」の代表はAFPの取材に対し、「強制的な治療に対抗して保護を与える法律がなかったため、今回の判断は同性愛者たちによって大変重要な意味を持つ」と強調した。
 
コンバージョン・セラピーは非科学的で効果はないとされているが、中国各地の多くの病院で今も施術が行われている。また中国は2001年に同性愛を精神疾患の症例から除外しているが、同性愛者に対する差別や家族からの偏見は根強く残っている。【7月5日 AFP】
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社会変化の基盤となる農村部の所得水準向上
社会変化の実現を可能とする大きな要素は経済水準の向上、特に都市部に比べて格差が大きいとされる農村部の水準向上ですが、都市・農村の格差が縮小しているとの報告も。

****中国の所得格差は持続的に縮小―中国国家統計局****
国家統計局が6日に発表した統計によると、中国共産党の第18回全国代表大会(十八大)以降、中国の都市部・農村部住民の所得は急速な伸びを保ち、所得格差が縮小を続けている。2016年には、一人あたり平均可処分所得のジニ係数が0.465となり、12年の0.474から0.009低下した。新華社が伝えた。(中略)

これと同時に、都市部と農村部の所得格差が持続的に縮まっている。

16年の都市部の平均可処分所得は3万3616元で、12年比39.3%増加し、実質増加率は28.6%、年平均実質増加率は6.5%だった。
農村部の平均可処分所得は1万2363元で、12年比47.4%増加し、実質増加率は36.3%、年平均増加率は8.0%だった。

農村部の平均可処分所得を1とすると都市部は2.72になり、12年に比べて0.16低下し、所得格差が縮まった。【7月7日 Record china】
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中国の国民所得などの経済統計は“信用できない”という評価が一般的で、特に、問題となっている格差を示すジニ係数については、まったく実態とかけはなれた数字となっているとも言われていますが、そうであったにしても、その絶対値はともかく、変化の方向は一定に参考になる・・・・とみることも。

すべては楽観的・ポジティブに・・・ということで。
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ベネズエラ 末期症状的混乱のなかで拘禁野党指導者が自宅へ 増大するデフォルトの危機

2017-07-10 22:14:50 | ラテンアメリカ

(7月5日、マドゥロ政権を支持する数十人の群衆が鉄パイプや棒を持って国会議事堂内に乱入し、議会で多数派を占める野党の議員を襲撃した。【7月6日 Newsweek】)

拘禁中の野党指導者帰宅 政権側の意図を訝る声も
南米ベネズエラで“チャベスなきチャベス路線”を続ける反米・急進左派マドゥロ政権の無理な価格統制やバラマキ、そして主要輸出品である原油の価格下落による経済破綻(物価上昇、食料・日用品・医薬品の品不足、通貨下落、財政逼迫)、また、そうした状況への国民不満を押さえつけての強権的な居座り、それに対する国民の退陣を求める抗議行動などについては、このブログでも再三取り上げてきました。

政権への抗議行動に伴う死者はすでに90人にのぼっているとも報じられています。

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野党は2015年末の国会議員選で圧勝し、3分の2超の議席を獲得。マドゥロ政権との対立が激化した。政権の意向を受けた最高裁は今年3月、野党勢力が力を持つ国会の権限停止を宣言。

世論の強い反発で最高裁はすぐに決定を取り消したが、4月1日から反政府デモが始まった。
 
経済の低迷と物不足、物価の高騰が続き、国際通貨基金(IMF)によると、今年のインフレ率は約720%と予想される。

デモは勢いを増し、都市部から地方に広がり、マドゥロ氏は治安部隊を投入した。デモによる死者は今月までに約90人に上る。【7月6日 産経】
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そうした混乱状態が続くベネズエラ、野党勢力への弾圧を続けるマドゥロ政権ですが、ちょっと“変わった”動きも。

*****<ベネズエラ>野党指導者ロペス氏が刑務所から自宅軟禁に****
南米ベネズエラのナシオナル紙は、同国の野党指導者で国家扇動罪により2014年から収監されていたレオポルド・ロペス氏(46)が8日、刑務所を出て自宅軟禁に移されたと報じた。

最高裁は刑務所での拘禁を解いた理由を健康上の問題だと発表したが、ロペス氏には体調悪化の情報はない。マドゥロ政権は政治犯の象徴であるロペス氏の処罰を軽減することで、過熱する反政府世論を鎮める狙いがあるとみられる。
 
軍事刑務所から首都カラカスの自宅へ移送されたロペス氏は8日午後、玄関前に集まった支持者の前で拳を突き上げ、笑顔で国旗を振った。ロペス氏は党首を務める大衆意志党を通じ「政権にあらがう私の立場は強固であり、平和、共存、変革、自由のために闘う信念も変わらない」と声明を出した。
 
ベネズエラでは不況による物不足に苦しむ国民が4月以降、マドゥロ大統領の退陣を求めて反政府デモを連日実施。デモは14年の一時期にも盛んに起き、この時デモを指揮した疑いでロペス氏は逮捕され、禁錮13年9月の実刑が確定した。
 
マドゥロ政権は反体制世論を抑え込むため、野党政治家や軍人、デモ参加者の市民らを逮捕・収監しており、政治犯の数は約300人に上る。中でもロペス氏は刑務所内にいながら親族や党関係者を通じて国民へデモ継続を呼びかけ、英雄視されていた。【7月9日 毎日】
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野党指導者を刑務所から自宅軟禁へ移した・・・という対応の軟化ですから、非常に歓迎すべきことです。
政権側の狙いとして“過熱する反政府世論を鎮める狙い”とも説明されています。

ただ、これまでも、現在も、厳しい弾圧を続けているマドゥロ政権ですし、後述のように最近のベネズエラ情勢は“なんでもあり”の状態ですから、今回措置を素直に喜んでいいのか、ややとまどう感もあります。

****帰ってきた、ベネズエラの野党指導者ロペス****
<ベネズエラの反政府デモを扇動したとして刑務所に入れらた野党指導者ロペスが、「健康上の理由」で釈放され自宅軟禁に。だが、マドゥロ独裁政権がなぜ帰宅を許したのか誰にもわからない>

(中略)ロペス(46)はアメリカの大学で学んだエコノミストで、野党「民衆の意思」党の指導者。野党勢力のなかには将来の大統領と期待する向きもあるが、与党・ベネズエラ統一社会党からは政権転覆を狙うエリート主義者として嫌われている、とロイターは報じる。

それでも政府が釈放を許したのは、国民に、政府は暴力より対話を求めていることを示すためだという。

最高裁の判断後、首都カラカス郊外の自宅に戻ったロペスの下には大勢の支持者が集まった。政府の軟化に驚いた人々は、ニコラス・マドゥロ大統領との間にどんな取引があったのか知りたがったと、とAP通信は報じた。(中略)

ロペスの自宅軟禁は、マドゥロ独裁政権が改心しつつある証拠か、それとも新たなはかりごとなのか。【7月10日 Newsweek】
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日頃の行いが悪いと、少しばかりいいことをしても“何か裏があるのでは・・・”と勘繰られる・・・・といったところでしょうか。
“反政府デモが始まって以来、政府が反体制派に最も歩み寄ったといえる動きで、両者間での協議が始まるのではないかとの憶測も呼んでいる”【7月10日 AFP】という期待もあるようです。

【「暴力は増大していく」 “B級映画”ばりの最高裁判所襲撃事件、政権支持者の国会襲撃
最近ベネズエラで話題になったのは、“B級映画”ばりのヘリコプターからの最高裁判所襲撃事件ですが、これもよくわからないというか、政権側の“自作自演”ではないか・・・とも勘繰られています。

****悲劇に転じるB級映画ばりのベネズエラのドラマ****
世にも奇妙なヘリコプター攻撃、マドゥロ大統領に抑圧強化の口実

ベネズエラは通常の順番を覆している。この国の歴史は、まず茶番として、そして次に悲劇として展開しているのだ。危機に苦しむ同国から伝わってきた信じがたいような最新ニュースは、ぎりぎりB級映画に値するようなストーリー展開だ。
 
6月27日、ならず者の警察司令官がヘリコプターをハイジャックし、反乱を宣言し、最高裁判所に手りゅう弾を落とし、内務省のビルに銃弾を撃ち込み、姿を消した。負傷者は出なかった。
 
襲撃犯のオスカル・ペレスは、B級映画で主役を演じたこともあった。2015年公開のアクション映画「猶予された死」だ。本人のインスタグラムのアカウントに襲撃前に投稿された動画には、政府の転覆を呼びかける様子が映っていた(鏡を使って肩越しに銃を撃つシーンや、マシンガンを持ってスキューバダイビングするシーンも公開されている)。
 
ニコラス・マドゥロ大統領はこの飛行を政府の不安定化を狙った「テロ攻撃」と呼び、国営テレビで「あの航空機を乗っ取った人間はクーデターに着手し、武器を持った。これは、私がこれまで警告してきた類いのエスカレーションだ」と述べた。
 
しかし、社会主義のメリットをうたいながら、2016年のベネズエラ生活環境調査(ENCOVI)によれば全世帯の82%が貧困生活を送っているこの国では、一連の出来事に対する大統領の説明を信じる人は少ない。
 
疑念の源泉の1つは、新しいロシア製対空防衛システムが導入されたにもかかわらず、ベネズエラ空軍が出動しなかったことだ。防衛専門家のロシオ・サンミゲル氏は「過去12年間で兵器システムにつぎ込まれた途方もない金額を考えると、これは不可解だ」と言う。
 
ベネズエラでは3カ月続く反政府デモでほぼ80人の死者が出ており、多くの人はそれに続く今回の事件は、人々の関心をそらすための手際の悪いショーだったのではないかと疑っている。(中略)

実際に何が起きたにせよ、1つ、はっきりしていることがある。内閣のほぼ半分を軍の将校で固めているマドゥロ氏は今、さらに抑圧を強める口実を得たということだ。

同氏は、もし自分の体制が追放されたら、武器を手に取ると誓っている。「我々は絶対に降伏しない・・・武器で我々の国を解放する」。6月末には、再びこう語った。
 
マドゥロ氏は、憲法を書き換え、恐らくは予定されている選挙を中止し、民主的に選ばれた議会を含むすべての国家機関を支配下に収める7月30日の制憲議会招集で権力を固めようとしている。

その結果生まれるのは、大きな麻薬密輸ルートになっており、世界最大のエネルギー資源を持つ国におけるキューバ流の独裁体制だ。
 
世論調査によれば、機会を与えられたら、ベネズエラ人の4人に3人が新憲法を否決する。実際、3ケタのインフレと世界最高の部類に入る自殺率に煽られたアナーキー(無政府状態)は、7月30日に近づくにつれて加速していく可能性が高い。
 
国際社会はおおむね、何をすべきかについて途方に暮れている。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は心配している。ペルー大統領は「大量殺りく」について警鐘を鳴らしている。左派政治家で前エクアドル大統領のラファエル・コレア氏のような盟友でさえ、解決策は自由選挙だと考えている。
 
だが、米州機構(OAS)は最近の総会で、ベネズエラの憲法改正を非難する決議に必要なコンセンサスを得られなかった。ベネズエラが過去に気前よくばらまいた石油から恩恵を受けてきた、カリブ海の複数の島国が非難決議に反対票を投じたからだ。
 
最善の解決策は、政府公認の汚職から利益を得てきた当局者に対する的を絞った金融制裁かもしれない。元閣僚らの試算では、2000年以降、3000億ドルもの資金が盗まれている。その間も、茶番から悲劇に転じたベネズエラの物語は続く。

「暴力は増大していく」。コントロール・リスクスのラウル・ガジェゴス氏はこう言う。「治安部隊は今後も権限を乱用し、殺害を続けるだろう」【7月6日 JB Press】
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「暴力は増大していく」・・・・7月5日には、政権支持者が国会議事堂を襲撃する事件も。

****国会議事堂に群衆乱入、12人負傷 政情不安で混迷深まるベネズエラ****
南米ベネズエラの独立記念日に当たる5日、反米左派のマドゥロ大統領を支持する数十人の群衆が首都カラカスの国会議事堂に押し入り、国会で多数派を占める野党議員らを鉄パイプなどで襲撃した。

議員を含む12人が重軽傷を負い、約350人が6時間以上、議事堂内に閉じ込められた。ロイター通信などが報じた。政情不安による混迷が一層深まっている。
 
群衆はマドゥロ氏をたたえるスローガンを叫びながら犯行におよんだ。銃を所持する者もいた。国会では独立記念日の記念行事が行われていた。

ボルヘス国会議長は「暴力の責任はマドゥロにある」と非難。マドゥロ氏は「私はどんな暴力行為にも加担しない」と関与を否定した。(中略)
 
マドゥロ政権は新憲法制定のための制憲議会選を30日に実施する予定だが、世論調査では新憲法制定への支持率は2割程度。野党優位の政治情勢の打開策は、混乱に拍車をかける結果になる可能性も指摘される。【7月6日 産経】
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記事にもあるように、政権側は新憲法制定に向けて動いており、今月30日に制憲議会選挙を行う予定です。
一方、野党側はこれに先立って、政権への支持、不支持を問う非公式の国民投票を16日に行うと発表しています。

非公式だろうが、国民投票となると相当の準備を要します。発表どおりに実施されるのかどうかはわかりません。
もし、実施されれば、阻止しようとする軍・警察や政権側民兵組織による暴力行為も懸念されます。

デフォルトに向けて追い詰められる政権 無分別な中国「金融外交」の結果とも
マドゥロ政権は力で野党勢力・政府批判勢力を抑え込もうとしていますが、一方で、経済的に次第に追い詰めれています。

****ベネズエラ、デフォルト危機 外貨準備減少に歯止めかからず****
ベネズエラがデフォルト(債務不履行)状態に陥るとの見方が強まっている。外貨準備高が100億ドル(約1兆1308億円)に向かって減少しているためだ。改憲を目指すマドゥロ大統領に反対するデモ活動が続く政情不安の中、経済見通しにも不透明感が高まっている。
 
ブルームバーグが集計したクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)データによれば、ベネズエラが向こう12カ月に不履行となる確率は6月時点で56%と、昨年12月以来の高水準となった。

今後5年間にクレジットイベント(信用事由)が発生する確率も、6月時点で91%に達した。同国は年内に50億ドル超の元利金の返済期限を迎える。
 
国営ベネズエラ石油(PDVSA)の2035年に満期を迎える社債の利回りは上昇(価格は下落)し、今月5日に一時、6月9日以来の高水準に達した。
 
原油価格・生産が落ち込む中で債務返済に必要な資金を確保しようと、マドゥロ大統領は食品と医薬品の輸入を大幅に減らしたが、外貨準備の減少には歯止めがかかっていない。(後略)【7月7日 SankeiBiz】
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デフォルトに陥り資金繰りがつかなくなると、食料・日用品の輸入も出来ず、国民生活は完全に破たんします。(今でも破たん状態ではありますが・・・・)

これまでベネズエラの資金繰りを支えてきたのは中国ですが、その中国の支援自体がベネズエラをさらに厳しい局面に追い込んでいるとの指摘も。

****中国マネーが招くベネズエラの破****
<資源確保と影響力の拡大を目指す中国の「金融外交」が途上国を苦しめる>

(中略)明暗がくっきりと分かれる両国の経済だが、実は共通の「爆弾」を抱えている。中国の習近平(シー・チーピン)国家主席が膨大な資金力にものをいわせて影響力を拡大しようと「金融外交」を展開しているからだ。

中国のたくらみは相手国ばかりか、最終的には中国にも手痛い打撃を与えかねない。ベネズエラ経済の崩壊がそれを示す実例となるだろう。

99年にチャベスが反米・社会主義路線を掲げて政権の座に就くと、中国は彼をイデオロギー的な盟友と見なし、ベネズエラにせっせとカネを貸し始めた。

公式には中国の融資は資金の使途や返済に条件の付く「ひも付き」融資ではないが、現実は玉虫色だ。00年以降、中国は新たな市場の開拓と資源の確保を目指して積極的に対外投融資を始めた。

石油を確保しつつ中南米に友好国をつくるという中国の思惑は、アメリカと縁を切って貿易相手国を多様化したいというベネズエラの思惑とぴたりと合致した。だからと言って中国が金利をまけてくれるわけではなく、融資条件は中国に非常に有利なものとなった。

07〜14年に中国はベネズエラに630億ドルを融資。この金額は同時期の中国の中南米諸国への融資総額の53%に当たるが、その気前のよさには裏がある。返済は石油で行うことになっていたのだ。

融資契約の大半が結ばれた時期に1バレル=100ドル強で推移していた原油価格は、16年1月には1バレル=30ドル近くまで下落。こうなるとどう頑張っても返済が追い付かない。今やベネズエラは契約当初の2倍の原油を中国に輸送する羽目になっている。

中国だけが得する契約
ベネズエラ経済が完全に破綻し、マドゥロ政権が崩壊すれば、中国は外交・経済両面で大打撃を受けかねない。その証拠に国家経済を破滅に導いたマドゥロ政権がなかなか倒れないのは中国が支えているからだと、ベネズエラの野党はみている。

マドゥロ失脚後の新政権はチャベス=マドゥロ時代に結ばれたローン契約を無効とし、アメリカに支援を求めるだろう。そうなれば中国のメンツは丸つぶれだ。

中国は過去に貧困国のデフォルト(債務不履行)を熱っぽく擁護したことがある。当時の債権国は欧米諸国だったから、借金を踏み倒されても中国に実害は及ばなかった。

ベネズエラがデフォルトに陥れば、中国ばかりかほかの国々も影響を被るだろう。中国は「一帯一路」の一環として、多くの国々にベネズエラ方式の融資を行う計画だ。

資金と技術的なノウハウを提供してインフラ整備を支援すれば、資源や物流拠点を確保できる上、友好国を増やして国際社会で影響力を拡大できる。中国にとってはまさに一石二鳥の援助計画だ。

今は中国が壮大な構想を実現しやすい環境がある。アメリカはトランプ政権になってから世界のリーダーの役割を放棄した。オバマ前政権のアジア重視政策が掛け声だけで終わったことも、中国のアジア政策には好都合だ。

アジアの多くの国々は遠慮がちに、あるいは声高にアメリカの関与を求めている。中国の支配におとなしく従いたくないからだ。だがリスクを承知で中国に頼るか、どこにも頼れないかという二択なら多くの国が前者を選ぶだろう。

ベネズエラ経済が破綻の淵に追い込まれたのは、愚かな経済政策を進める独裁政権に、無制限にカネを貸す太っ腹なスポンサーがいたからだ。この有害な組み合わせは、一帯一路で多額の融資を受ける多くの国々に共通している。

経済の低迷に頭を抱える独裁政権は長期的には採算が取れなくとも、一時的な景気浮揚策として中国が出資する大型の開発事業に飛び付く。(中略)

借り手を苦しめる手前勝手な貸し付けで途上国の経済を破綻させる――中国が世界の鼻つまみ者になりたいなら、これほど有効な処方箋はない。既にベネズエラ、スリランカ、パキスタンの苦境を見て、ほかの国々は中国マネーに飛び付かないか、少なくともリスクを考慮する姿勢を見せている。

事業の採算性や借り手の返済能力を見極めずに多額の貸し付けを続けては、借り手と貸し手が相互不信に陥るばかりか、借り手が次々に破産する事態もあり得る。中国が賢い貸し手にならない限り、金融外交でいくら札ビラを切ったところで誰にも相手にされなくなるだろう。【7月8日 Newsweek】
******************

中国の「金融外交」の問題点はともかく、マドゥロ政権の今後は、中国がどこまで支えるかによります。
中国としても望んだ状態ではなく、ベネズエラ経済が破たんすれば「一帯一路」の金看板に大きな傷がつきます。しかし、貸し込めば更に深みに引きずりこまれます。頭の痛いところではないでしょうか。
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アメリカ社会の分断  南部リー将軍像や南部連合旗をめぐるせめぎあい

2017-07-09 23:02:00 | アメリカ

(KKKの全盛期、1926年4月27日、コロラド州の遊園地観覧車に乗るKKKメンバー 当時は州知事もKKKメンバーであり、上院議員や州都市長もKKKとつながりあった時代です。【7月05日 カラパイアより】

当時のKKKは、ヨーロッパ南部から大量の移民が押し寄せたことを背景にカトリックを主たる標的にしていたそうで、そのスローガンは、「アメリカ主義100パーセント」だったとか。なんだか聞いたことがあるような・・・)

トランプ政権成立が勢いづかせる差別主義
戦い、支配・被支配の過去を持つ双方にとって“歴史認識”が一致しないことが多いのは、日本と中国・韓国の歴史を持ち出すまでもなく、世界一般の現象です。

アメリカ国内を二分した南北戦争は 1861年から1865年の出来事で、奴隷制存続を主張するアメリカ南部諸州のうち11州が合衆国を脱退、アメリカ連合国を結成し、合衆国にとどまった北部23州と戦った戦争でした。

奴隷制や人種差別に対する南北の考え方は、一方が人道的で、他方が非人道的というような単純なものではないでしょうし、南部には南部の言い分はあるでしょう。

南部住民の少なからぬ人々にとって、戦いをリードしたリー将軍や南部連合の旗は、地域の誇りを示すものとの認識があります。

ただ、より多くの人々にとっては、克服すべき奴隷制などの忌まわしい過去の象徴でもあります。

リー将軍など南部指導者の像は今も南部各州を中心に多数存在しており、その像の撤去がしばしば問題となります。

****KKKがデモ行進、南北戦争将軍の像撤去計画に抗議 米****

米バージニア州シャーロッツビル(で8日、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」と支持者らが、南北戦争で南部連合(を指揮したロバート・E・ リー将軍の像の撤去計画に抗議するデモ行進を行った。
 
バージニア州当局は言論の自由を理由に、悪名高いKKKのデモを許可した。デモ隊は南部連合の旗を掲げたり、KKKを特徴づける白いずきんをかぶったりして行進した。
 
現場ではこのデモに反対する抗議行動があり数百人が参加。KKKのデモ隊に向かって「レイシストは帰れ!」などと叫んだ。デモ隊とこれに反対する抗議行動の参加者らは、金属のバリケードと警官隊によって隔てられていた。
 
極右勢力はシャーロッツビルを含め米国各地で、ドナルド・トランプ大統領の就任を契機に活気づいたと批判されている。

オルト・ライト(オルタナ右翼)、またはジェネリック白人至上主義者集団のKKKは、保守勢力の立場から南部連合旗や、奴隷制度があった時代を想起させる南部諸州の像などの保護を新たな大義名分に掲げている。米国ではこうした像を時代遅れでおぞましい人種差別主義の象徴と見る向きが多く、公共の場所から撤去しようとする動きが出ている。
 
KKKは全盛期の1925年に会員数が400万人に達したが、米国の過激思想の監視や調査を行っている人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」によると、近年その数は、南部の保守的な地域を中心に5000~8000人とされている。【7月9日 AFP】
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人種差別を象徴するKKKなどが登場するあたりに、単に“地域の誇り”では済まされない、基本的価値観の違いが背後に忍び込んでいることをうかがわせます。

日本的な良識からすれば、頭の尖がった白装束のKKKなんて映画や小説の中だけのようにも思われるのですが、現実にはいまだに一部の人々の間で生き続けているようです。

****クー・クラックス・クラン(KKK*****
アメリカのメディアでは未だにKKKとして統一団体のように紹介されるが厳密に言えばKKKの全国組織は前述のように1927年の時点で崩壊している。

現存するKKK系の団体に横のつながりはほとんどなく(組織によってはライバル意識すらある場合がある)、中央組織のようなものも存在しない。

しかし一方で、徹底した地下組織化による中央組織・連絡協議会的組織の温存の疑いや、点在する表面上の小組織の細胞組織化(アルカーイダ系各種テロ組織やネオナチ各種団体を例にとれば分かる通り、一部組織の違法活動発覚で組織全体が芋づる式に検挙される危険性の回避に役立つ)工作の疑いも持たれ続けている。【ウィキペディア】
******************

差別の心情は殆どの人の心の闇に広く存在します。しかし、それは克服すべきものとの理性も働きます。

従来は、KKK的な差別主義は口にすることが憚られるところがありましたが、今もトランプ政権を支える白人至上主義者とも言われれるバノン氏や、KKKの元最高幹部デービッド・デューク氏らが支持したトランプ政権の誕生、そしてトランプ氏の言動によって、KKK的な主張を隠す必要はないという社会的な風潮が広まっているように見られます。

差別的言動への批判は、ポリティカル・コレクトネスにとらわれたものとして逆に嘲笑の対象ともなります。

リー将軍の像撤去問題や南部連合旗の問題は、歴史認識の問題であると同時に、心に潜むダークなものどう向き合うのかという問題でもあります。

****ミニ・トランプ”が知事選に出馬。「リー将軍像を取り戻す」公約の意味は****
19世紀のアメリカ南北戦争は、現在に続く北部=合衆国と、奴隷制存続を訴える南部=連合国が激突した内戦です。あれから約150年たった昨年の米大統領選で、ドナルド・トランプは米社会の“分断”を煽(あお)って勝利を収めましたが、その深刻な余波が訪れ始めています。

当時、南部連合の軍司令官を務めたロバート・E・リーという人物がいます。彼は南北戦争以前には合衆国軍の大佐でしたが、郷里バージニアが合衆国脱退を決めると(奴隷制には反対しながらも)強い郷土愛から南軍の指揮官となり、北軍を最後まで苦しめました。「リー将軍」の愛称で今も多くのアメリカ人、特に南部の白人から尊敬されています。

地元バージニアなど南部諸州には彼の名を冠した公園や銅像・記念碑などが無数にありますが、近年はそれを撤去する動きが広がっています。リー将軍を“顕彰”することは人種差別を助長しているのではないか、というのがその理由です。

大きな契機となったのは、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で発生した銃乱射事件でした。襲撃犯の男が白人至上主義者で、南軍の象徴である南部連合旗を“信奉”していたことが判明し、各地の南部連合旗撤去と並行して、「リー将軍をたたえること」に対する反対運動も拡大したのです。

しかし、白人至上主義者や一部の保守層はこの動きに危機感を抱き、「黒人による歴史修正だ」と反発しました。“被害者たる黒人の目を通じた歴史”しか語ることが許されないのはおかしい―と。

もちろん、歴史に対する姿勢として、現在の価値観に合うものしか残さないというのは過剰です。白人であれ黒人であれ、大人が子供に「過去にはこういうことがあった」と語り継ぐことも必要でしょう。

ただ、リー将軍や南部連合旗の存在が白人至上主義者の“よりどころ”となっているのも事実で、リー将軍をたたえる年に一度のパレードには、ネオナチや南軍兵士のコスプレをした連中も集まってくる。こうした“差別の源泉”を断つための対処療法として、仕方なくリー将軍の痕跡を撤去しているという事情もあるのです。

最近も、バージニア州シャーロッツビルの市議会でリー将軍の銅像撤去が決定されたのですが、その過程で象徴的な動きがありました。

トランプ大統領を後押しする極右メディア「ブライトバート・ニュース」が、撤去賛成派の黒人議員をひどい人格攻撃で執拗(しつよう)に非難。今年行なわれる同州知事選に出馬予定の、“ミニ・トランプ”とも呼ばれる泡沫(ほうまつ)候補もこれに便乗し、リー将軍像を取り戻すとの公約を掲げているのです。

彼はつい先日も、「俺はリー将軍をたたえるために『リー公園』に行く」とわざわざ宣言し、撤去賛成派のデモ隊との衝突をスマホ動画で生中継。「こんな罵声(ばせい)を浴びせるヤツらから、民主主義を守らなければいけない」と、もっともらしく語りかけるフェイスブックの投稿には、保守層から「いいね!」の嵐……。

トランプ大統領やブライトバート・ニュースが罪深いのは、「アメリカ人の本音」を盾に人間の差別意識をあぶり出し、社会の分断を深めたこと。これはそう簡単に元に戻せるものではありませんが、どう落とし前をつけるつもりでしょうか?【4月3日 モーリー・ロバートソン氏 週プレNEWS】
*********************

“被害者たる黒人の目を通じた歴史”しか語ることが許されないのはおかしい・・・・というのはもっともな言い分ではありますし、学問・研究の場では異なる視点からの分析も必要でしょう。

ただ、社会的統合の過程としての政治の場にあっては、被害者の心情は最大限に配慮されるべきもので、いたずらに加害者の立場からの論点を主張することは、不毛な対立を煽るだけの結果になります。

学問・研究の場で議論された異なる視点からの分析を被害者が受け入れる心の余裕が生まれるまで、時間をかけて待つ必要があるでしょう。

2015年サウスカロライナ州銃乱射事件で広がった撤去運動
また、異なる視点からの主張に差別感情のようなダークなものが忍び込んでいるとしたら、そうした主張は否定すべきものになりますし、その“拠りどころ”となっているシンボルへの厳しい規制が必要になります。たとえ、“地域の誇り”としての一面があるにしても。

それにしても、「こんな罵声(ばせい)を浴びせるヤツらから、民主主義を守らなければいけない」云々は、同じような発言をつい最近も日本国内で聞いたような気がします。

****米ニューオーリンズ市、人種差別的モニュメントの撤去開始****
米ニューオーリンズ市は24日、1874年に白人至上主義者グループによって警官と州兵が襲撃された事件を記念して1891年に建造されたモニュメントを撤去した。治安上の理由から、撤去は予告なしで夜間に行われた。

市は「多様性、一体化・寛容」(diversity, inclusion and tolerance)のメッセージを発信する方針で、その一環として、この像を含む4つのモニュメントの撤去を予定している。

ミッチ・ランドリュー市長は記者団に「この像は、白人至上主義者による警官襲撃を賞賛するために建造された。4つの像のうち、米国とニューオーリンズを強めている価値観に最も激しく挑戦するものといえる」と語った。

市長は作業員に対する激しい脅迫があるとして残りの3つの像の撤去日程を明らかにしていないが、南北戦争時代に南部の「アメリカ連合国」を率いたジェファーソン・デービスの像と、軍人のロバート・E・リー将軍、およびP・G・T・ボーリガード将軍の像の撤去が決まっている。【4月25日 ロイター】
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こうした撤去運動のきっかけとなったのは、前出【4月3日 週プレNEWS】も指摘しているように、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で発生した銃乱射事件でした。

****GoogleやAmazonなどが次々と南部連合国旗を問題アリとして取り下げた理由とは****
南北戦争中に使用されていた南部連合国旗が、アメリカのAmazonやGoogleショッピング、オークションサイトのeBayで販売数が爆発的に増加する現象が発生した後、南部連合国旗関連の商品が取り下げられるという事態が発生しました。この背景には2015年6月17日に起きたある事件が潜んでいます。

1861年から1865年まで4年間続いた南北戦争は奴隷制度の維持を主張するアメリカ南部と、奴隷制度の撤廃を主張する北部の間で起こった戦争です。奴隷制度の継続を目指す南部連合が使用していた旗が南部連合国旗で、アメリカの白人至上主義を唱える秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」が儀式の際に使用することもあります。

このことからアメリカでは南部連合国旗が人種差別の象徴ともいえる存在になっているのですが、Business Insiderが2015年6月23日にショッピングサイトのAmazonを調べたところ、南部連合国旗の売上が24時間以内に3000%以上増加するという、異常ともいえる事態が発生していました。

では、どうして南部連合国旗の売上が爆発的に増加したのかというと、その原因は6月17日にアメリカ南部のサウスカロライナ州チャールストンで発生した銃乱射事件にあります。同事件は、アフリカ系アメリカ人が通うエマニュエル・アフリカン・メソジスト・エピスコパル教会に男性が突然乗り込んで銃を乱射し、アフリカ系アメリカ人の女性6人と男性3人の合計9人が死亡した事件です。

事件が発生した翌日、警察当局はチャールストン近郊に住む21歳のディラン・ルーフ容疑者を逮捕。報道されているところによれば、ルーフ容疑者は人種差別的な感情を持っており、ブログに「種の戦争」という名前の戦争を起こす要望をつづった文章を公開していたとのこと。

また、奴隷制度の象徴でもある南部連合国旗を身に付けた写真をブログやFacebookに複数枚公開していたことも判明。警察当局は同容疑者の逮捕時に事件がヘイトクライムであると断定しています。


そして、事件直後からルーフ容疑者が身に付けていた南部連合国旗の販売数がAmazonやeBayなどのオンラインショッピングサイトやオークションサイトで爆発的に増加。この事態を重く受け止めた各社はすぐに南部連合国旗関連商品の取り下げを発表しました。

また、Googleも検索ワードに応じた商品を掲載するサービスのGoogleショッピングから南部連合国旗関連商品を取り下げることを発表し、各社がそろって人種差別行為に対する強い反対の意志を示しました。(後略)【2015年6月24日 Gigazine】
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事件が起きた米南部サウスカロライナ州では、州議会の敷地内に南軍旗が掲揚されていましたが、事件後、軍旗を撤去する法律が成立しました。

以前からアフリカ系米国人を中心に議会敷地からの撤去を求める声が上がっていましたが、「南軍旗は南部文化の象徴」と主張する人々の声にかき消される形で掲揚が続いていました。【2015年7月10日 CNNより】

こうしたリー将軍像や南部連合旗の撤去を求める動きがある一方で、冒頭記事にあるようにトランプ政権成立に後押しされる形でKKKのような極右主張も表面化しており、両者がせめぎあっているアメリカです。
コメント (1)
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