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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コンゴ民主共和国  武装勢力、エボラ出血熱、さらには「はしか」「マラリア」 そして先進国の「無関心」

2020-01-11 23:43:12 | アフリカ

(コンゴ紛争を戦った子ども兵達【2016年05月31日 原貫太氏 HUFFPOST】)

【武装勢力による暴力が日常化 国連は「人道に対する罪」にあたるとする報告書】
アフリカ中央部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)では、1996年には大虐殺で知られる隣国ルワンダの混乱と連動する形で第1次コンゴ戦争が、1998年から2003年にかけてはツチとフツの民族対立や資源獲得競争を原因とするアフリカ周辺国を巻き込んだ「アフリカ大戦」とも呼ばれる第2次コンゴ戦争(死者600万人!)が戦われましたが、内戦終結後も主に東部中心に反政府武装勢力が跋扈して極度に治安が悪い状況が続いています。

****武装勢力構成員と疑われた2人、群衆にリンチされ死亡 コンゴ****
コンゴ民主共和国東部ベニで11月30日、過去1か月間に100人超の市民を殺害した武装勢力の構成員と疑われた2人が、群衆にリンチ(私刑)を受け死亡した。AFP記者が明らかにした。
 
殺害されたのは男性1人と女性1人。民間人の服装をしていたが、所持していたかばんの中からは弾薬が見つかった。

AFP記者によると、2人は数十人の群衆から、ウガンダのイスラム過激派とつながりを持つ武装勢力「民主勢力同盟」の構成員と糾弾され、私的制裁を加えられたという。(後略)【2019年12月1日 AFP】
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****コンゴ東部で住民22人殺害 反政府勢力か、エボラ熱流行地****
エボラ出血熱が流行するコンゴ(旧ザイール)東部のベニ周辺で14〜15日、武装勢力が村を襲撃し女性や子どもを含む少なくとも22人を殺害した。反政府勢力「民主同盟軍」(ADF)の犯行とみられている。ロイター通信が15日、地元当局者の話として報じた。
 
ADFはコンゴ軍が掃討作戦を本格化した10月末以降、報復攻撃を繰り返している。治安が急速に悪化し、計約180人の住民が殺害されたとの情報もある。

エボラ熱の流行は昨年8月に始まり2200人以上が死亡。ADFの攻撃で医療活動が妨げられ、感染者は増加傾向に転じている。【12月16日 共同】
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こうした犠牲者が絶えない状況に、国連も「人道に対する罪」にあたるとする報告書をまとめています。

****コンゴで「人道に対する罪」2年で700人余殺害 国連報告書**** 
民族対立が長年続くアフリカ中部のコンゴ民主共和国で、特定の民族を標的に2年間で少なくとも700人余りが殺害されたとして、国連はこうした行為が「人道に対する罪」にあたるとする報告書をまとめました。

アフリカ中部のコンゴ民主共和国では豊富な地下資源をめぐる利権や民族対立などを背景に、長年にわたって紛争が続いています。

こうした中、OHCHR=国連人権高等弁務官事務所は10日、報告書をまとめ、コンゴ民主共和国の北東部では特定の民族が迫害を受けていて、去年までの2年間に700人余りが殺害され、およそ140人が性的暴行を受けたとしています。

また報告書では民家に火が放たれたり、幼い子どもたちが攻撃の標的にされたりしていて、迫害は計画的かつ広範囲に行われていることなどから、「人道に対する罪」にあたると警鐘を鳴らしています。

こうした迫害によって2018年以降、およそ5万7000人が隣国ウガンダに難民として避難したほか、55万人以上が国内での避難生活を余儀なくされています。

OHCHRはコンゴ民主共和国の政府などに対して民族間の融和政策を推し進めると同時に、すべての国民が安心して暮らせるよう治安当局の強化を行い、迫害を行った当事者に対する捜査を実施することを求めています。【1月11日 NHK】
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コンゴで性暴力の被害に苦しむ人々の治療に当たってきたデニ・ムクウェゲ医師に対し、2018年のノーベル平和賞が授与されましたが、性暴力が日常ともなっているコンゴにあっては、“140人が性的暴行”という数字は、桁違いの“氷山の一角”にすぎないでしょう。

【治安の悪さと重なるエボラ出血熱の脅威 進むワクチン開発】
更に悪いことには、前出の記事も触れているように、この武装勢力が跋扈する地域はエボラ出血熱の感染拡大地域とも重なっています。

****エボラ出血熱と紛争 二重の命の危険にさらされる人たち 日本も知るべき不条理****
(中略)
■エボラ出血熱と武装闘争
エボラ出血熱の流行が続くコンゴ民主共和国の東部地域は、複数の武装勢力による紛争が長年続き、治安の悪化が著しい。

外国人への不信感も強く、感染の可能性があっても外国のNGOが設置した治療施設を頼らない住民も多い。

NGO職員らも武装勢力の標的となり、英BBCによると2019年1月以降、7人が死亡、58人が負傷した。こうした紛争がエボラ感染への対応に大きな影響を及ぼしていると問題になっている。

世界保健機関(WHO)によると、18年8月の発生から19年12月18日までに3351人が感染し、2211人が死亡。約3分の1が治療施設外の場所で亡くなっており、ほかの住民への感染リスクを高めているとされる。【1月11日 GLOBE+】
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上記にもあるように、NGO職員らも武装勢力の標的となる治安の悪さ、住民の外国人への不信感もあって、エボラ対策が十分に実施できない状況にもあります。

それに加え、WHOのワクチン供給に関する姿勢にも問題があると、国境なき医師団(MSF)は批判しています。

****コンゴ民主共和国のエボラワクチン「不十分」、国境なき医師団がWHOを非難****
緊急医療援助団体「国境なき医師団」は(2019年9月)23日、エボラ出血熱の流行で2100人以上が死亡したコンゴ民主共和国におけるワクチン支給が十分でないとして、世界保健機関を非難した。

MSFオペレーション事務局のイザベル・デフォーニ局長は、「現在抱えている主な問題の一つは、WHOによってワクチンが支給されているが、危機的な状況にある患者のほんの一部しか保護されていないという事実だ」と指摘した。
 
コンゴでは昨年8月8日以降、約22万5000人が独医薬品大手メルク製のエボラワクチンの接種を受けた。しかしMSFは「接種を受けた人数は依然少なすぎる」と指摘している。
 
デフォーニ氏は「現状では毎日ワクチン接種を受けているのは50人から1000人だが、最大2000人から2万5000人が受けられるはずだ」と訴えた。
 
さらにMSFは、「保健省と連携してワクチン接種の機会を拡大させようとMSFでは努力しているが、WHOによるワクチン供給の厳格な制限が立ちはだかっている」とし、「いまだこうした制限が課されている理由は不明だ」と述べ、現在のワクチンは「安全性と有効性が立証されている」と主張した。
 
一方、WHOはワクチン支給の制限について否定し、流行を止めるために「可能な措置は全て」とっていると主張している。 【2019年9月23日 AFP】
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なお、エボラワクチンに関しては、上記メルク社のものに加え、米製薬・日用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が開発した新たなエボラワクチンも昨年10月から投与が始まっています。

先行しているメルク社ワクチンとの関係については“差し替えではなく、これを補完するもの”(MSFのプロジェクト・リーダー)【2019年11月28日  国境なき医師団】とのことです。

J&J製の新ワクチン投与が遅れた背景には、エボラ熱対応への不信感がはびこる地域で新薬を導入するのはリスクを伴うとするコンゴの保健相の拒否があったようですが、保健相辞任で投与の道筋が開けたとのこと。【2019年9月24日 AFPより】

予防・治療法がないと恐れられたエボラ出血熱ですが、“WHOのテドロス事務局長は「エボラ出血熱はいまや、予防や治療が可能になってきている」とコメントしています。”【2019年11月16日 NHK】とのことです。

【エボラ以上の犠牲者を出している「はしか」や「マラリア」】
しかし、メディアに取り上げられる機会も少なくない上記エボラ出血熱より更に犠牲者が多いのが“はしか”だそうです。「世界最悪のはしか流行」(WHO)とも。

****はしかの死者6000人超に、「世界最悪の流行」 コンゴ****
中央アフリカのコンゴ民主共和国(旧ザイール)で、猛威を振るうはしかのために命を落とした人が6000人を超えたことが分かった。世界保健機関(WHO)が9日までに明らかにした。

WHOは7日の声明で現状について、「世界最悪のはしか流行」と指摘。各国機関が連携して対策のための支援を強化するよう呼びかけた。

WHOによると昨年以降、はしかの疑いのある症例がおよそ31万件報告されている。ただ対策に充てる資金が依然として足りておらず、感染拡大を抑え込むうえでの「大きな障害」になっているという。

WHOは国際社会と連携して5歳未満の子ども1800万人にワクチンを接種したが、日常的に予防接種を実施している地域はまだ限られているのが実情だ。報告される患者の4分の1は、5歳未満の子どもが占める。

感染を食い止めるため、WHOはこれまで2760万ドル(約30億円)を拠出したとしているが、6〜14歳の子どもへのワクチンプログラムといった対策を実施するにはさらに4000万ドルの資金が必要だという。

はしかは感染力が強く、せきやくしゃみによって感染が広がる。コンゴではエボラ出血熱でも過去2番目の患者数・死者数を記録する被害が出た。
医療システムへの根強い不信感と一部地域での武装集団による争いなどが障害となり、各保健機関はこれらの感染症の対策に苦慮している。【1月9日 CNN】
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もっと言えば、エボラ出血熱やはしか以上に慢性的な犠牲者を出している感染症があります。マラリアです。

****エボラだけではない、コンゴの住民を苦しめる恐るべき感染症の数々****
(中略)
2歳以下の子どもの“最大のキラー”はマラリア
現地では熱が出ると、どのような疾患が考えられるか。その筆頭はマラリアである。

マラリアは蚊を媒介とする病気だが、首都のキンシャサにおいても、また地方の診療所でも、熱があると、まずはマラリアと診断される可能性が高い。本来ならば、確認のための検査をする必要があるが、そのためには患者が検査費用(約5ドル)を負担する必要がある。
 
多くの患者は、その費用を負担できないので薬だけを希望し、多くの医師もマラリアの薬を処方する。マラリアは、エイズ、結核とともに世界の3大感染症の1つである。
 
(中略)コンゴ民主共和国では、年間2500万人がこの病気にかかり、4万6000人が死亡している(推定2017, WHO Malaria Report)。
 
(中略)マラリアは2000年までは、世界で年間100万人から200万人もの死亡者が出るということで“世界の課題”であったが、2003年に開始された3大感染症対策のための基金(グローバルファンド)による世界規模の対策により激減している。
 
アフリカにおいても、特に住友化学が開発した薬を浸透させた蚊帳の普及が対策として進められるようになるとともに、簡易検査により早期診断がつけやすくなったこともあり、マラリアにかかる人、死亡者が減少している。

熱帯熱マラリアの場合には、手遅れになる前に薬を飲むこともやむを得ない。大人は何度でもマラリアにかかり、症状も軽いことが多いが、2歳以下の子どもの場合、最初にかかったときの死亡率が高い。(中略)

「感染症の宝庫」と呼ばれるコンゴ民主共和国 エボラの終結に向けてもう一歩
コンゴ民主共和国は「感染症の宝庫」と呼ばれ、新たな感染症が出てくる地域であるとともに、これまでも人類の多くの人々が苦しめられてきた感染症であるマラリア、エイズ、結核、はしか、コレラなどの疾患が、まだ解決されていない国である。
 
広大な国土、熱帯雨林が広がる地域、医療サービスがまばらで不十分である中、エボラという致死的な疾患の流行が襲った国、その中でも、地域、地方の医療従事者は、懸命に子どもたちの命を救おうと診療にあたっている。

国際社会としても、そのようなコンゴ民主共和国への支援は必須であろう。【2019年12月20日 コンゴ民主共和国保健次官付顧問・JICA・国立国際医療研究センター医師 仲佐 保氏 DIAMOND online】
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【武装勢力の資金源、児童労働などを支える先進国の消費行動と「無関心」】
医療体制の拡充を阻んでいる大きな要因が最初にとりあげた武装勢力跋扈による治安の悪さですが、そもそも武装勢力が存在するのは豊富な地下資源の故であり、この地下資源は日本の市民生活と密接に関連しています。

****死者540万人以上-日本のメディアは報じない、コンゴ紛争とハイテク産業の繋がり****
世界最大とも言われるコンゴ民主共和国の紛争の大きな要因を担っているのが、現代の私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォンを始めとする電子機器だ。

死者540万人以上―。
アフリカ大陸中央部に位置するコンゴ民主共和国(Democratic Republic of the Congo/以下コンゴ)の紛争は、周辺国を巻き込みながら、15年以上に渡り、第二次大戦後に起きた紛争としては世界最多である540万人以上もの犠牲者を産み出している。

シリアやウクライナ、パレスチナなどの紛争が各種メディアによる報道を占める中、コンゴの紛争はこれほどの規模であるにもかかわらずメディアが取り上げることは極まれであり、特に日本においては、この紛争の存在すら十分に知られていないのが現状である。

この「無関心」が、同国の人道危機を更に深め、紛争下に暮らす人々を更なる不条理な苦痛へと追いやっている(関連記事:死者540万人以上―日本では報道されない、忘れられた世界最大の紛争(コンゴ民主共和国))。

その一方で、この世界最大とも言われる紛争の大きな要因を担っているのが、現代の私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォンを始めとする電子機器だ。

これら電子機器には、コルタンやタンタルなど大量のレアメタル(希少金属)が使用されている。このレアメタルがコンゴの武装勢力の資金源となっており、紛争の規模を広げ、そして長引かせている。

先進国の「豊かな生活」は、コンゴに生きる人々の犠牲の上に成り立っていると言えるだろう。(中略)
 
スマートフォンとコンゴ紛争
今日でも、コンゴの東部地域では豊富にレアメタルが採掘されている。例えば、電子回路のコンデンサに使われているタンタルという鉱石の推定埋蔵量の6割以上はコンゴに眠っていると考えられており、またコルタンの埋蔵量の6割から8割もコンゴに存在すると言われている。

近年では、スマートフォンやタブレットなどの情報電子機器が発達してきたことにより、世界的に需要が急増しているレアメタル。

先進国でこのレアメタルの需要が高まれば高まるほど、武装勢力により多くの資金が流れ込み、紛争による犠牲者が増え続けるという構造が出来てしまっている。(中略)

また、レアメタルを発掘する鉱山では、深刻な児童労働も報告されている。武装勢力は子供たちを勧誘、または誘拐し、崩落の危険性も高い狭い地下道の中で働かせている。7歳の子供までもが働かされているという報告も存在する。
 
(中略)UNICEF(国連児童基金/ユニセフ)の調査によると、コンゴ南部の鉱山での児童労働の人数は、2014年で約4万人と報告されている。(中略)
 
「紛争鉱物」問題改善に向けた取り組み
これまで述べてきたように、コンゴ紛争とハイテク産業、また我々が日々使う電子機器は密接に関係している。今あなたがこの記事を読むのに使用しているスマートフォンやタブレット、ノートパソコンが、コンゴの人々の犠牲によって製造されたものかもしれない。私たちも、コンゴ紛争と無関係ではないのだ。

いわゆる「紛争鉱物」問題の改善は、我々消費者の意識と行動が大きく関係している。例えば、可能な限り電子機器の使用期間を延ばし、レアメタルの需要を下げる事も、この問題改善に向けた第一歩となる。(中略)

「消費者の意識と行動」に関連する、実際の法的な動きも存在している。2010年7月には、アメリカでドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法(ドッド・フランク法)が成立。

このドッド・フランク法では紛争鉱物に関する特別な規定が儲けられており、アメリカの上場企業は自社製品に使っている鉱物が、コンゴ国内、またその周辺の武装勢力が管轄下に置く鉱山に由来するものかどうかを示さなければならないとされた。

一方で、(最悪の労働形態であったとしても)一連の取り組みが鉱山で働く人々の仕事を奪う事にも繋がるという見方もあり、仕事を失った人々への雇用機会創出など、国際機関・NGOなどによる包括的な取り組みもまた必要となってくる。
 
比較的欧米のニュースメディアはコンゴ紛争、また同国の政治や人道危機を取り上げることが多いが、日本のメディアが取り上げることは極稀だ。「グローバル」と声高々に叫んでおきながら、日本の産業とも関係するコンゴの危機が日本で報じられることはほとんど無い。

かつてノーベル平和賞受賞者のエリ・ヴィーゼル氏は、「愛の反対は憎しみではなく、無関心だ。」と言った。グローバル化が極度に進展した今日、地球の裏の出来事が、他人事では無くなってきている。【2016年05月31日 原貫太氏 HUFFPOST】
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イラク  今後の不安定要素となる民兵組織 低下するアメリカのプレゼンス

2020-01-10 22:42:02 | 中東情勢

(イラクの首都バグダッドで米国とイランの介入に抗議する学生(1月5日)【1月7日 WSJ】)

【イラク 自制を求める指導層 リーダーを爆殺されたイラク民兵組織が不安定要素に】
アメリカによるイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官殺害、および、それに対する報復として、イラク国内で米軍が駐留するアル・アサドとアルビルの2カ所の空軍基地を、イランが十数発の弾道ミサイルで攻撃した件については、全世界がその成り行きを注視していましたが、イラン・アメリカ双方とも全面的な戦争は望んでおらず、イランの攻撃も意図的に米軍の人的被害を回避するようなものであったことなどから、双方ともこれ以上の軍事的エスカレーションはしないということで、一応の落ち着きを取り戻している・・・という話になっているようです。

イラン側は国内向けに大きな人的被害をアメリカに与えたとプロパガンダし、アメリカ・トランプ大統領は再選に向けてオバマ前政権とは異なる強い対応でソレイマニ司令官殺害という大きな成果を得たことをアピールするという形で、双方が自分に都合のいいようにこの件を扱うのでしょう。

もちろんこれで収まった訳ではなく、イラン・アメリカの対立は火種としてそっくりそのまま残っていますので、いつまたどういう形で噴き出すのかは予測できません。

イランについては、今回の件で体制側は国内の求心力を高めた側面もありますが、落ち着けば、また現行政治状況への国民の不満が再燃することもあり得ます。

イランによって誤って“撃墜された”とも言われるウクライナ機の問題も、イランにとっては今後の足かせになります。

アメリカも親イラン・反米的な組織の敵意を掻き立てたことで、標的とされる危険性は高まっており、今後トランプ大統領が望むような中東からの撤退(現在は一時的に増派していますが)がスムーズに進むかどうか不透明です。

上記最後の視点の関係になりますが、イランの米軍への弾道ミサイル攻撃が現地時間8日午前1時半頃でしたが、同日8日の深夜0時直前にはバグダッドのグリーンゾーンにロケット弾が2発撃ち込まれています。

****バグダッドでロケット弾、グリーンゾーンに2発 犠牲者なし****
イラクの首都バグダッド中心部の旧米軍管理区域(グリーンゾーン)に8日、2発のロケット弾が撃ち込まれた。グリーンゾーンには政府機関の建物や大使館などがあるが、イラク軍によると、死傷者は報告されていない。

現在のところ犯行声明は出ていない。

警察関係者はロイターに対し、少なくとも1発のロケット弾が米国大使館から100メートルのところに着弾したと語った。(後略)【1月9日 ロイター】
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犯行声明は出ておらず、その組織による攻撃だったのかは未だ不明です。

アメリカによるバグダッドでの爆殺はイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官だけが取り沙汰されていますが、一緒にイラクの民兵組織のトップであるアブ・マハディ・アル・モハンデス司令官も殺害されていますので、イラク民兵組織内にはアメリカへの敵意が高まっていると推測されます。

ただ、イラク指導層としては、アメリカとイランのゴタゴタにイラクがこれ以上巻き込まれるのは御免だ・・・という思いもあってのことでしょうが、イラク民兵組織にも自制を呼びかけています。

****イラクのシーア派指導者、民兵に自制促す 米イラン対立緩和で****
イラクで強い影響力を持つイスラム教シーア派指導者のサドル師は8日、イランと米国双方が緊張緩和の姿勢を示したことを受け、イラクが直面する危機は終わったとの考えを示し、民兵組織に攻撃を控えるよう呼び掛けた。

トランプ米大統領は8日、米軍による革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害に対するイランの報復攻撃で米国人の死傷者は出なかったと明らかにした。また必ずしも軍事力を行使する必要はないと述べた。

サドル師は声明で、イラクの主権と独立を守れる力強い新政府が今後15日間で組織されるべきだとした。
一方、外国軍の撤退を求める考えを改めて表明。「政治や議会、また国際的な対応が尽くされるまで、イラクの各派に慎重さと我慢強さ、軍事行動の自制、一部のならず者による過激な発言の停止を求める」と促した。【1月9日 ロイター】
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****イラクのシーア派最高権威シスタニ師、米・イランの攻撃応酬を非難*****
イラクのイスラム教シーア派の最高権威であるシスタニ師は10日、イラクでの米国とイランの攻撃の応酬を非難、米国とイランの対立でイラクおよび地域の地政学的状況が悪化していると警告した。

(中略)シスタニ師は、(アメリカ・イランのイラクを舞台とした)一連の攻撃は主権の侵害だとし、いかなる外国勢力もイラクの運命を決定することは許されないと主張。

「力と影響力を持つ異なる勢力が行き過ぎた手法を使うことは、危機を定着させ解決を阻むだけである」と述べた。

「直近の危険で攻撃的な行動は、イラクの主権を繰り返し侵すもので、(地域の)状況悪化にもつながっている」と指摘した。

シスタニ師の言葉は、シーア派の聖都カルバラでの金曜礼拝で代理人によって伝えられた。【1月10日 ロイター】
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アメリカにしても、イランしても、主権国家イラク領内で爆殺したり、ミサイルを撃ち込んだりと好き勝手にふるまっており、イラクからすればとんでもない話でしょう。「やるなら自分の国でやってくれ」というのが、まっとうな反応でしょう。

イランも、落ち着きかけた状況を再度悪化させることは“今は”望んでいないでしょう。

ただ、イラク民兵組織がこれで矛を収めるのかは不明です。

****米イラン対立、イラクの民兵勢力が不確定要素に *****
ドナルド・トランプ米大統領が8日、米国とイランは全面衝突を避けようとしていると表明してから数時間後、バグダッドでは民兵が2発のロケット弾を発射し、在イラクの米大使館で警報のサイレンが鳴り響いた。 
 
8日夜のこの砲撃による被害はほとんどなかった。しかし、こうした攻撃は、イランと協力関係にあるイラクの民兵グループが依然として、米国とイランの対立を激化させる役割を演じる可能性があることを示している。 
 
民兵グループは、バグダッドでの3日のドローンによる攻撃への報復として、今もなお米国の犠牲を求めていることを明確にした。 
 
米国の攻撃で殺害されたのは、イランで最も重要な軍指導者のガセム・ソレイマニ司令官1人だけではなかった。イラクの民兵組織のトップであるアブ・マハディ・アル・モハンデス司令官も同時に殺害された。

モハンデス氏は、イラクにおけるイランの先兵として民兵組織を指揮する重要な役割を果たしていた。これら民兵組織は公式にはイラク治安部隊の一部とされているが、しばしば独自の計画を追求する。 
 
イランはこれまでにも、地域の代理勢力としてこれら民兵を利用し、イラン政府と直接結び付けることができないような攻撃を仕掛けたことがあった。イランは、レバノン、イエメンなどでも同様の代理勢力を利用している。 
 
こうした民兵グループがどう動くのかは、現時点でははっきりしない。一部は、モハンデス氏殺害への報復としての攻撃を続けるかもしれない。あるいは、対米圧力の継続を望むイラン国内強硬派の意向を受けて行動し、新たな報復合戦の激化を招くかもしれない。 
 
ロンドンのシンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」で国防・軍事分析の研究を進めているヘンリー・ボイド氏は次のように話す。「より広い地域で、よりあいまいな形でのイランによる報復が、より長期にわたって続くと依然予想している。反撃力の持続を示すよう求めるイラン政府への広範な圧力は続いている」 
 
(中略)トランプ氏はイランが「休戦」を望んでいるようだと語った。 だが、イランとイラクの親イラン組織にとってのより長期的な目標は、イラクから米軍を追放することだ。 
 
ある民兵組織の司令官であるカイス・アル・カザリ氏は、イラク議会が5日に米軍の追放を支持する決議を行った直後に米国が軍の撤退を拒否したことにより、「抵抗勢力」は米軍のプレゼンスを終わらせるために行動し、統一戦線を張らざるを得なくなったと述べる。 
 
同氏は声明で、「最初のイランによる反撃は、殉教者であるソレイマニ司令官の暗殺を理由にしたものだ。今度は、殉教者であるモハンデス氏の暗殺に対してイラクが反応する番だ」と指摘。「イラク人は勇敢で熱狂的なため、反撃の規模がイランのものを下回ることはないだろう」 
 
これは強がりに近いかもしれない。イラクの民兵組織は、イランが今週攻撃で使用したような弾道ミサイルも高度な武器も持っていない。 
 
しかし、米国人を殺害する能力は間違いなく持っている。実際、先月にはロケット弾攻撃により、イラン北部の基地で働いていたイラク系米国人の契約業者が殺害された。このロケット弾攻撃は、ソレイマニ、モハンデスの両氏殺害につながる軍事的緊張激化のきっかけとなった。 
 
加えて、アナリストによると、イランはイラクの親イラン組織の一部に短距離弾道ミサイルを提供している。これは既に米国とイスラエルの大きな懸念となっており、イスラエルは親イラン組織の武器庫の一部を標的とした空爆を行っている。 
 
イラクの民兵組織は、先月の在バグダッド米大使館の襲撃も主導した。これを受けて、トランプ氏は2人の司令官を標的としたドローン攻撃を命じた。 
 
米当局者は、イランがイラクの民兵組織に行動を抑制するよう助言していることを示す前向きの兆候が得られていると述べる。 
 
マイク・ペンス副大統領は8日夜のCBSニュースで、「われわれは、イランがまさにそうした民兵組織に米国の標的や民間人に対して行動しないようメッセージを送っているという前向きな情報を得ている。われわれはそうしたメッセージが響き続けることを望んでいる」と述べていた。 
 
イランとしてもイラクの民兵組織の行動を抑制するための動機があるかもしれない。トランプ政権は、イラク内における親イラン武装組織の活動に直接責任があるのはイランだと繰り返し主張してきた。 
 
イラクの親イラン・イスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」は、「実現可能な最良の結果は敵対する米軍の追放だが、それを達成する」ために過剰に反応しないよう呼び掛けている。KHはイラク内の米駐留軍に対して多くの攻撃を仕掛けてきたと米国が非難している組織だ。

イラク国会最大の政党連合に属するシーア派指導者ムクタダ・サドル師もまた8日、彼を支持するメンバーに対し、駐留米軍を追放するあらゆる政治的な選択肢を使い果たすまで、いかなる軍事行動も取らないよう要請し、自制を促した。

同氏は米軍によるソレイマニ司令官の殺害に際し、シーア派の反米強硬派民兵組織「マフディー軍」を再び活動させる考えをほのめかしていた。
 
8日にバグダッドの米大使館の敷地内に着弾した2発のロケット弾について、どの組織も声明を出していない。しかし、民兵組織は、KH指導者のモハンデス氏がソレイマニ司令官とともに殺害されたことに対し、報復する方針を明確にしていた。同氏は複数ある民兵組織に関する権限の一元化と統合を目指していた。
 
民兵組織アサイブ・アル・アル・ハク(AAH)グループのリーダーであるカザリ氏は、(中略)同事件への関与を否定した。(中略)

それとは別に同じグループの幹部であるジャワド・アルトレイバウィ氏はイラク国営通信に対し、ロケット弾は単独の行動である可能性があると述べた。(中略)ただし、同氏は、同グループが行動した場合、その内容は「極めて厳しいもの」になるだろうと述べた。
 
アナリストでアブドルマハディ首相の元顧問、ライス・ショッバル氏はロケット弾攻撃について、自分たちの存在を示すことを望んでいるより小規模な組織による攻撃かもしれないと指摘した。

ソレイマニ司令官、モハンデス氏が殺害されたあと、黒い戦闘服を着て武装する小規模グループが、自分たちは新たな抵抗勢力であることを誇示するような映像が何本か流れている。
 
ショッバル氏は「そうしたより小規模な組織にとって、イラク現政権の弱体化は、他国との問題を引き起こすことで自分たちの存在を示す上で極めて好都合になっている」と話す。【1月10日 WSJ】
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【低下するイラク・中東におけるアメリカの存在感 更に低下加速も】

一方、イラク議会が米軍撤退を正式に求めたことは、イラクにおけるアメリカの存在が軽い物になっていることを示しています。そのことは、長期的にみて、イラクへのイランの浸透が更に進むことにもつながるとの指摘も。

****イラクで軽くなった米国の存在 イランとの覇権争いに影****
米・イラン対立の最前線となっているイラク。米国とイランは、2003年のイラク戦争以降、不安定化した同国を勢力圏におさめようと争ってきた。
 
米国は1980年代、中東有数の産油国イラクを、イランに対する防壁とみなしてきた。反米を掲げるイスラム教シーア派の政教一致体制が79年のイラン革命で誕生。米国は、80〜88年のイラン・イラク戦争でイラクを支援した。
 
この構図を崩したのが2003年のイラク戦争だ。フセイン政権が打倒され、同政権下では低い地位に甘んじていたシーア派が、戦後政治の主導権を握った。宗教的につながりの深いイランは、労せずしてイラクに浸透する好機を得た。以降、イラクをめぐる覇権争いはイランのペースで進んでいるといっていい。
 
トランプ米政権は、影響力を保持したまま兵士を帰還させる「名誉ある撤収」を目指しているが、イラン革命防衛隊の司令官殺害はその足かせとなる可能性がある。

司令官殺害を受け、イラク国会は米国を含む外国軍の駐留終了を求める決議を採択した。法的拘束力がないとはいえ、イラクで米国の存在が軽くなっていることは否定できない。米軍撤収後の課題である「イランによるイラク浸透の抑止」はいっそう困難になった。【1月10日 産経】
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ただ、イラク国内での抗議行動の矛先はイランにも向けられており、今回の騒動もあってイラクがイランと距離をとるようになる可能性もあるように思われます。

中東から手を引きたがっているトランプ大統領のもとで、イラクおよび中東における米軍撤退・アメリカのプレゼンス低下が更に加速するとの指摘も。

****緊迫イラン情勢、米軍駐留の行方は**** 
トランプ氏は中東増派の方針だが、長期的には米軍プレゼンス縮小も
 
(中略)だが長期的には、いま作用している力学は反対の効果をもたらし得る。中東における米国のプレゼンスはすでに後退が始まったが、それが加速するかもしれない。 
 
イラク議会は自国領土でイランの司令官が殺害された予想外の空爆に怒りをあらわにし、イラク駐留米軍の撤退を求める決議案を可決した。

この決議に強制力はないため、米軍が無条件にイラクを離れるわけではない。米国は過去16年間にイラクに多額の資金を投じ、多くの若い兵士も犠牲になった。

イラクの政治では現在、親イランのイスラム教シーア派が圧倒的な力を持つが、スンニ派の相当数とクルド人勢力は依然、シーア派組織を抑えるために米軍の駐留を望んでいる。 
 
ただ、米軍に対する敵意の芽生えは、多くのイラク人が米軍を友好的パートナーというより外国の占領軍と見るようになることを意味する。

このためイラクの親イランのシーア派から攻撃されたり、イランの民兵のあからさまな報復の標的になったりするリスクが強まる。こうした状態に踏みとどまるのは困難だ。 
 
トランプ氏はその隣国シリアで米国のプレゼンスを大幅に縮小する決断を下し、米国が中東から手を引きたがっているとの観測が既に強まっている。イラクの米軍が身構える中、シリアでプレゼンスを維持するのは一段と困難になるだろう。シリアに残る米兵はイラクにいる同胞からの支援に頼っているためだ。(中略)
 
トランプ氏は以前から、シリアのみならずアフガニスタンやイラクからも米軍を撤退させたい意向を明確に示してきた。さらに、サダム・フセイン政権打倒を目指した2003年のイラク戦争はそもそも重大な過ちだったと常々考えている。

トランプ氏がこうした感情に突き動かされているように見える限り、微妙な連鎖反応が起こり得る。サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする米国の友好国は、米国が駐留より撤退に強い関心を持っていると感じ始めれば、イラン政権との融和に動く可能性がある。イラン指導部は早くもそうした印象を醸し出そうと努めている。(中略)

目下のところ、多くの連鎖反応がイランに追い風となっている。司令官殺害によってイランでは、米国の制裁による経済の痛みに向かっていた大衆の怒りの矛先が、宿敵である米国そのものへと移った。 
 
隣国イラクでは数週間前、国内へのイランの過剰な影響力に抗議するデモが行われたが、デモ参加者は今や米国の影響力に対して抗議している。イラン指導部はソレイマニ司令官の殺害を理由に、物議を醸す核開発プログラムでウラン濃縮の強化を正当化している。 
 
イラン指導部が賢明であれば、過剰に反応して現時点で米国の大規模な報復を招くことは避けるのが望ましいと考え、こうしたすう勢が続くか様子見しようとするかもしれない。 
 
米国では、バラク・オバマ前大統領がイラクからの撤退に熱心で、実際に2011年に一度は米軍を完全撤退させた。つまり、政治的には共和・民主両党ともそうした方向に流れている。

重要な疑問とは次のようなものになるかもしれない――米国はこの先に待ち受ける困難な日々を通して、中東を安定化させる長期的なプレゼンスを維持する覚悟があるだろうか。【1月7日 WSJ】
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インド  モディ首相が目指すインドとは? 危険にさらされる少数派の生きる権利

2020-01-09 22:50:52 | 南アジア(インド)

(インド首都ニューデリーで、与党支持者らを前に「生粋のインド人なら心配ない」と演説するナレンドラ・モディ首相(2019年12月22日撮影)【12月23日 AFP】 でも「生粋のインド人」って何よ?)

【市民法改正 一皮むけば露骨なイスラム教徒排除とヒンドゥー教徒優遇の策】
インド・モディ政権による市民法(国籍法)改正は、昨年12月17日ブログ“インド ポピュリズムに乗る第2期モディ政権のもとで、多元的国家からヒンドゥー至上主義国家へ”でも取り上げたように、インドの国家建設時の理念であった宗教にとらわれない多元主義・世俗主義から少数派を排斥するヒンドゥー至上主義へと舵を切る大きな問題をはらんでいます。

****スラム排除を見せるインド市民権法改正****
インドで市民権法の改正がなされ、大規模な抗議運動を引き起こす事態となっている。市民権法の改正は12月9日に下院で可決された。上院では与党インド人民党(BJP)は過半数を持たないが、11日に可決された。
 
改正法の何が問題なのか。現行法は不法入国者とその子供たちが市民になることを禁じているが、改正法では、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンの近隣3国から2014 年までに不法に入国した難民(数百万人と言われる)に市民権を与える。

しかし、ヒンドゥー教徒、シーク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒、ゾロアスター教徒が対象で、イスラム教徒には適用されない。それで、イスラム教徒を不当に差別するものではないかとの強い批判、反発が出ている。

インド政府は抗議運動に対し、集会禁止、インターネットの閉鎖などの強権的手段で抑え込もうとしている。
 
市民権の要件に宗教が持ち込まれたのは初めてのことだという。インドの世俗主義に反すると言われても仕方ない。

既に最高裁判所に訴えが出ている。1月には審理が始まるらしいが、最高裁判所が憲法に違反するもとしてこの改正を斥けることが好ましい結果だと思われる。憲法14条は「国はインドの領域において何人に対しても法の前の平等と法による平等な保護を否定してはならない」と規定している。
 
インド政府の説明では、アフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンはイスラム教の国なのだから、イスラム教徒が迫害される筈はないとして、イスラムの難民を市民権の対象から除外することを正当化しているようである。

しかし、それは恐らく建前上の説明であって、これは、インドをヒンドゥーの国に衣替えするというBJPが追求する長期目標の一環を成すプロジェクトであろう。
 
もう一つ、市民権法の改正は市民登録制度というBJPの別のイニシアティブと切り離し得ない関係にあるようである。

市民登録制度はアッサム州から始まった。その狙いは、バングラデシュからの難民の流入に腹を立て、彼等を追い出すことにあった。

昨年8月には作業が終了した。必要な書類を提示し得ず市民権を登録し得なかった者は190万人に上るが、案に相違して、3分の2はバングラデシュ出身のヒンドゥー教徒だったらしい。つまり、ヒンドゥー教徒を優遇しようとして、かえってヒンドゥー教徒に不利益を与えたことになる。

今回の市民権法の改正によって、これらのヒンドゥー教徒は救われることになる一方、イスラム教徒は追放されるか収容所送りとなる。

アミット・シャー内相は、市民登録制度を2024年までに全国で実施するとしているので、当然のことながら、全国のイスラム教徒はどうやって市民権を証明するかの恐怖に駆られることになる。
 
以上のように、アッサム州など東北部から始まった抗議運動は反難民感情(従ってヒンドゥー教徒の難民をも敵視した)に根差したもののようであるが、それが、イスラム教徒の差別に焦点を当てた全国的な抗議運動に発展した模様である。
 
市民権法改正は、難民に対して度量の大きなところを見せたかの如く装いながら、一皮むけば露骨なイスラム教徒排除とヒンドゥー教徒優遇の策だった。

こういう道をインドは選択すべきではない。「自由で開かれたインド・太平洋」という構想のパートナーとして、日本も米国もインドを重視している。

インドは、特定の宗教を弾圧するような、中国まがいの行動を取るべきではない。ワシントン・ポスト紙の12月24日付社説‘India’s protests should be regarded as a moment of truth for Modi’は、モディ首相は市民権法の改正に対する抗議の声に耳を傾け、改正を放棄すべきだ、と主張する。

また、フィナンシャル・タイムズ紙の12月22日付け社説‘India is at risk of sliding into a second Emergency’は、インディラ・ガンジー政権下の1975-77年以来の非常事態令に至る恐れがあると警告している。インドはこの種の政策が持つ対外的な意味合いをもう少し慎重に考えるべきであるように思われる。【1月9日 WEDGE】
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【「有効な経済対策を打ち出せていない」モディ政権は国民の不満をそらすために対イスラム強硬策】
国際的には上記のようにインド民主主義を変質させると非常に評判が悪い施策ですが、国内でもヒンドゥー教徒を含めた大きな抗議運動にも直面しています。

モディ首相は昨年10月2日、マハトマ・ガンジーの生誕150年に合わせて演説し、一般家庭にトイレが普及して屋外排せつがなくなったと宣言、自らの実績を誇りましたが、ガンジーが心血を注いだイスラム教徒との融和に関しては触れることはありませんでした。

そもそも、ガンジーを殺害したのもヒンドゥー至上主義の民族義勇団(RSS)メンバーですが、同じRSSメンバーでもあるヒンドゥー至上主義者のモディ首相がガンジー生誕記念日に出席することすら奇妙なことです。
ガンジーが目指したインドと、モディ首相が目指すインドは明らかに異なります。

ただ、国内多数派ヒンドゥー教徒においてはモディ政権の反イスラム施策を歓迎する空気が強いのも事実でしょう。

第2次モディ政権にあっては、単に上記市民法改正だけでなく、唯一イスラム教徒が多数派を占めるジャム・カシミール州の自治権剥奪、最高裁が聖地にヒンズー教寺院の建設を許可といった、反イスラムの流れが顕著です。

モディ政権としては、なかなか改善しない経済運営への国民不満をそらす意味合いから、こうした多数派からの支持を得やすい反イスラムの流れを強める動きがあるように見えます。

****モディ政権、イスラム圧迫強める 自治権剥奪、国籍付与除外―広がる批判・インド****
ヒンズー至上主義を掲げるインドのモディ政権は2019年、少数派イスラム教徒を標的にした強硬策を相次いで打ち出した。

8月にイスラム教徒が多く住む北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪し、12月には、不法移民に国籍を与える措置の対象からイスラム教徒を除外する決定を下した。

宗教的に中立な世俗国家であると定めた憲法に違反するとして、政権の姿勢に反発する声が広がっている。

 ◇ヒンズー教徒も非難
モディ政権は12月、イスラム教徒を除く不法移民に国籍を与える国籍法改正案を国会に提出、成立させた。モディ首相は同法の目的について、イスラム教徒が多数派を占める周辺各国で迫害を受けた少数派を受け入れるためだと説明し、「1000%正しい」法律だと主張。

これに対し、「宗教に基づく差別だ」として全国各地で抗議行動が起こり、AFP通信によると、治安部隊との衝突などで少なくとも25人が死亡する事態となった。
 
モディ政権への批判はヒンズー教徒の間にも広がっている。首都ニューデリーでデモに参加したヒンズー教徒の学校職員サフー・シンさん(44)は、「私たちは(歴史的に)仏教徒のチベット難民も、ヒンズー教徒のスリランカ難民も受け入れてきた。なぜイスラム教徒だけだめなのか。宗教の平等を保障する憲法に反する」と憤る。
 
カシミール地方の自治権剥奪では、隣国パキスタンからの越境テロを防ぐ治安強化が名目となった。政府は決定に際し兵士を大量に動員し、地元政治家を拘束して大規模な抗議活動を抑え込んだ。通信や交通も規制され、病院への通院など日常生活に支障が生じ、5カ月近くたってもインターネットの遮断は続く。
 
「現代でネットを5カ月も使えないことを想像してほしい」。一時拘束された前州議会議員ムハンマド・ユースフ・タリガミ氏は電話取材に窮状を訴え、「侵害されている住民の日常生活を戻すよう政権に要求する」と強調した。

 ◇経済停滞、軟化の余地乏しく
モディ政権は2月、イスラム教を国教とする隣国パキスタンを根拠地にする過激派のテロへの報復として、パキスタン領内で軍事作戦を行った。

経済成長の鈍化を背景にした支持率低下に苦しんでいたモディ政権だが、対外強硬策は有権者の支持取り付けにつながり、4~5月の総選挙では与党インド人民党(BJP)が単独過半数を獲得した。
 
専門家は「総選挙中もネット上で、インドのイスラム教徒とパキスタンを同一視する書き込みが多く見られた」と述べ、イスラム教徒敵視の風潮が強まったと分析する。
 
ただ、インド経済の停滞傾向は続いており、19年7~9月期の成長率は前年同期比4.5%と14年のモディ政権発足前の水準まで落ち込んだ。「有効な経済対策を打ち出せていない」(外交筋)現状では、モディ政権は国民の不満をそらすために対イスラム強硬策を取り続けるという見方が根強い。【1月6日 時事】
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【インドにとって致命的な分断深刻化】
こうしたモディ政権が進める反イスラムの風潮はインド社会に致命的な分断をもたらします。

****ヒンズー過激派が大学襲撃=イスラム差別抗議に反発か―インド****
インドの首都ニューデリーにある国立ネール大が襲撃され、学生と教員計30人超が負傷する事件があり、同国の主要メディアは7日、ヒンズー過激派グループが犯行を認めたと報じた。

ネール大では、ヒンズー至上主義を掲げるモディ政権による少数派イスラム教徒差別に対する抗議行動が起きており、グループはこうした動きに反発したもようだ。
 
事件は5日に発生。覆面の集団が大学構内に侵入し、鉄の棒やハンマーで学生らを殴打した。過激派「ヒンズー・ラクシャー・ダル」は声明で「ネール大は反国家活動の温床だ。容認できない」と述べ、メンバーが襲撃を行ったと主張した。【1月7日 時事】 
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ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立が激化すれば、インドの安定成長など吹き飛んでしまいます。

【抗議拡大はモディ首相にとって想定外?】
モディ首相は、問題がこれほど大きくなるとは思っていなかった・・・との指摘も。

****インド首相と与党、見誤った国籍法への反発の大きさ****
インドでイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える改正国籍法への抗議活動が急拡大したことはモディ首相にとって想定外だった。ヒンズー至上主義を掲げる与党・インド人民党(BJP)は国民の怒りを鎮めるのに腐心しており、デモの長期化を予想する声もある。

改正国籍法はアフガニスタン、バングラデシュ、パキスタンを逃れインドに不法入国した移民に国籍を与えるが、イスラム教徒だけは除くものだ。これに対し、イスラム教徒を差別し、信仰の自由や政教分離をうたう憲法に違反するとの非難の声が上がっており、宗教を問わず、学生や政治家、市民団体がデモを繰り広げている。

デモ隊と警察の衝突で、これまで21人以上の死者が出ている。

BJPのサンジーブ・バルヤン議員はロイターに「デモは全く想定してなかった。私だけでなく、他のBJPの議員らもこれほどの怒りは予想できなかった」と語った。

モディ氏が掲げるヒンズー至上主義はヒンズー教徒が国民の8割超を占めるインドで受け入れられてきた。今春の総選挙でBJPは前回の選挙よりも議席数を伸ばし、再び単独過半数を得て圧勝した。

改正国籍法への国民の怒りは、政府が景気減速や雇用喪失という問題に対処する代わりに多数派支配主義的政策を推進している現状に対する不満を反映している。

BJPの別の議員3人と閣僚2人はロイターに対し、国民との対話を開始し、改正国籍法への不満を解消するために党支持者を総動員していると明かした。

同法に対してイスラム教徒からの多少の反発には備えていたが、大半の大都市で約2週間続いている大規模なデモは想定外だったと認めた。

国内第2の実力者とされるシャー内相は24日のテレビ番組のインタビューで、イスラム教徒が懸念すべき理由はないとの見方を改めて示した。

別の閣僚は「私たちは悪影響を最小限に抑えようとしている」と指摘。BJPとその協力政党は、同法が差別を意図したものではないと訴える取り組みを開始したと述べた。

<独裁的なやり方>
印シンクタンクCSDSのサンジャイ・クマール所長は「人々が改正国籍法に抗議するだけでなく、モディ首相の独裁的なリーダーシップに不満を爆発させているのは明白だ」と指摘。

「経済的な危機もデモを促す要因となっている。デモが短期間で終息するとは思わない」とした。

モディ政権は8月、インドで唯一イスラム教徒が過半を占めるジャム・カシミール州の自治権はく奪を決めた。

11月には最高裁が、16世紀に建てられたイスラム教のモスク(礼拝所)が右派の暴徒によって1992年に破壊された土地に、ヒンズー教の寺院建設を認める判断を示した。モディ政権はこの決定を歓迎した。

今回の改正国籍法で少数派のイスラム教徒を排除する政府の姿勢が一段と鮮明になった。

最大野党の国民会議派はデモを後押ししている。同党の幹部、Prithviraj Chavan氏はロイターに「インド史上初めて宗教に基づいて法律が策定された」と指摘。「インドをヒンズー第一主義の国にしようという与党の戦略が裏目に出た」と述べた。【12月26日 ロイター】
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【脅威は性的マイノリティにも “生粋のインド人”とは何か?】
モディ政権の進める市民登録制度は、宗教だけでなく性的マイノリティにとっても脅威となっています。

****国籍喪失に怯えるインドのトランスジェンダー 「不法移民対策」が脅威に****
インドのデリーで法律を学ぶトランスジェンダー(性別越境者)の女性、ライさんは今、これまで強いられてきた性自認をめぐる多くの闘いに加え、新たな脅威にさらされている。ヒンズー至上主義・民族主義を掲げるナレンドラ・モディ政権の新法と政策により、国籍を失う恐れがあるのだ。
 
インドでは現在、不法移民対策を名目に制定された新法と全国規模の国民登録簿作成に対する抗議が広がっている。公的な書類で男性とされているライさんも、トランスジェンダーの人々が国籍を失うことになると懸念し、新法と登録簿に反対している。
 
ライさんが感じる恐怖には根拠がある。昨年8月に発表された北東部アッサム州の国民登録簿からトランスジェンダー約2000人が除外され、将来の不安に見舞われていることだ。9月には、この措置をめぐり最高裁判所に申し立てが行われている。
 
インドでは2014年、トランスジェンダーを「第3の性」と認める画期的な最高裁判決が下されたが、トランスジェンダーの人々はしばしば社会の辺縁に追いやられ、売春や物乞い、単純労働で生計を立てざるを得ないことが多い。
 
トランスジェンダーの人々は自身の家族による差別をはじめ、保守的なインド社会でただでさえ厳しい差別に遭ってきたが、現在は新法によって新たな危険にさらされると感じている。
 
ライさんはAFPに対し、「私たちの中には、家を追い出されたり、虐待を受けて家から逃げ出したりして、身元を証明する書類がない人が多い。トランスジェンダーの人たちにどうやって市民権を証明しろというのか」と訴えた。
 
モディ政権は昨年の選挙で国民登録簿の作成を公約に掲げており、これが実行された場合、ライさんたちは家族の元に書類を取りに戻らざるを得ない。しかしライさんは「大半の場合、トランスジェンダーのコミュニティーや個人にとって、家族は最初に虐待を受けた場所だ」と指摘する。
 
トランスジェンダーのメーキャップアーティスト、トゥルシ・チャンドラさんも、地方の実家へ書類を取りに戻ることを恐れている。チャンドラさんは「私が家を出てデリーに来たのは、家族から私が恥だというような目で見られたからだ」と語り、今は家族と全く連絡を取っていないと明かした。
 
さらにチャンドラさんは、トランスジェンダー女性の友人が書類を取りに実家に帰ったところ、「男性のふりをして女性と結婚するよう強いられた」と語った。
 
インドでトランスジェンダーの人々は「ヒジュラ」と呼ばれる。人数に関する公式統計は存在しないが、推計では数百万人とされている。
 
トランスジェンダーのLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)権利活動家、リトゥパルナ・ボラさんは「トランスジェンダーの人々にとっては、出生時に決められた書類上の性別と名前を変更することすら困難だ」と指摘する。
 
ボラさんはAFPに対し、保健・医療や生活、結婚に関する基本的な権利さえ認められていないのに、「この国の国民であることを改めて証明しなければならない今、そうした権利をどうやって主張すればいいのか」と訴えた。 【1月2日 AFP】
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モディ首相は、イスラム教徒らに心配しないよう呼び掛けたとされています。

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・・・・数千人の聴衆から「モディ!モディ!」と声が上がるなか演説したモディ氏は新市民権法に触れ、イスラム教徒に対し、生粋のインド人であるならば「心配する必要はまったくない」と語り掛け、「この土地の息子であり、先祖が母なるインドの子であるイスラム教徒ならば、心配する必要はない」と述べた。(後略)【12月23日 AFP】
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“生粋のインド人であるならば”・・・誰がどのように判断するのか、支持層の意向に迎合するような恣意的な運用がなされないのか・・・非常に危ういものを感じます。

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台湾  「蔡英文再選」後の中国・習近平政権の対応は?

2020-01-08 23:04:43 | 東アジア

(太鼓や銅鑼を鳴らす男衆に先導されて台湾の神様「七爺八爺」が登場し、選挙集会は熱気を帯びた=台北市で2019年12月28日、福岡静哉撮影【1月2日 毎日】 台湾では選挙は一種のお祭りのようでもあります)

 

【香港問題への中国・習近平政権の強硬姿勢で、再選に向け優位に立つ蔡英文総統】

あと数日後の11日には、台湾総統選挙及び立法委員選挙が行われます。

これまでのところ、少なくとも総統選挙に関しては、中国と距離を置き、台湾の独自性を主張する現職・蔡英文総統が圧勝する予想となっています。

 

一時は民進党候補にすらなれないのでは・・・という状況でしたが、この1年のV字回復はひとえに中国・習近平政権の香港問題への対応によるものです。

 

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台湾の政治的趨勢が中国に有利に傾いていたのはそんなに昔のことではない。

 

2018年11月の統一地方選では、対中融和路線を取る野党・国民党が、全22県市のうち15の首長ポストを獲得。与党・民進党の蔡英文総統は、大敗の責任を取って党主席を辞任した。これで20年1月11日の次期総統選で蔡が再選を果たす見込みは一気に低下したかに見えた。

 

ところがこの1年で、世論の風向きは大きく変わった。11日の投票日を前に、蔡の支持率は他候補を大きく引き離しており、余裕で再選を決める勢いだ。

 

16年の総統就任前から中国と距離を置いてきた蔡だが、この形勢逆転について感謝する相手がいるとすれば、中国の習近平国家主席だろう。

 

蔡の人気が復活したのは、半年以上にわたり混乱が続く香港に、台湾市民が自分たちの未来を重ね合わせたからだ。

 

「一国二制度」の形骸化に抗議する香港市民に対して、中国政府はあくまで強硬な姿勢を維持。それを見た台湾市民は、中国が台湾にも提案する「再統一モデル」である一国二制度を決して受け入れてはならないと決意を新たにした。【1月14日号 Newsweek“「蔡英文再選」後の台湾はどこに”】

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【立法委員選挙は、小政党の動き、特に「4年後」を見据えた郭台銘氏の動きにも注目】

立法委員(国会議員に相当)の方は、二大政党以外の小政党の動きもあって、まだ不透明さが残っています。

 

****台湾総統選まで1カ月 蔡氏リード、同日の立法委員選も焦点****

台湾の総統選は来月11日の投票まで1カ月を切った。再選を目指す蔡英文総統が選挙戦を優勢に進めており、焦点は同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選で、与党、民主進歩党が過半数を維持できるかに移ってきた。

 

二大政党の対立を横目に、今回の総統選への出馬を見送った柯文哲台北市長が率いる台湾民衆党など、小政党の争いも激しさを増している。

 

蔡氏の世論調査の支持率は、香港情勢が悪化した夏以降、対抗馬の野党、中国国民党の韓国瑜高雄市長を下回る例がない。

 

民進党が11月中旬から始めたテレビCMは総統選向けではなく、蔡氏の声で「あなたの一票で『一国二制度』にノーを。民主と進歩を国会の多数に」と立法委員選の支持を呼びかけている。

 

一方、支持率が低迷する国民党の韓氏は11月末、「世論調査の多くは偽物だ」と主張。支持者に対し、調査に「蔡氏支持」と答えるよう求める奇策に出た。調査を混乱させ、劣勢ではないと強弁する策だ。

 

立法委員選でも、国民党は11月中旬発表の比例名簿で、香港警察への支持を表明した人物を上位に登載し批判が噴出。

 

前回選で大勝した民進党は苦戦が伝えられ過半数割れの予想もあったが、比例区の投票先で国民党を逆転する調査も出てきた。

 

一方、小政党では、柯氏が11日、2024年の総統選への出馬に意欲を表明した。民衆党の比例票の底上げが狙いとみられる。

 

国民党の予備選で敗退し離党を表明した鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は、柯氏の民衆党に加え、宋楚瑜主席が総統選に出馬している親民党の比例名簿にも自身の側近を押し込むしたたかさを見せている。

 

二大政党が拮抗する中、小政党の「第三勢力」がどの程度、議席を確保するかも注目されている。【2019年12月11日 産経】

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鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は、「4年後」を見据えた動きとか。

 

****動く鴻海・郭氏、「4年後」視野? 次回総統選へ「第三勢力」づくり****

来年1月11日の台湾総統選への立候補を見送った鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘氏(69)が、総統選と同じ日にある立法院(国会)選挙で存在感をアピールしている。

 

無所属や小政党の候補者を支援して既存の2大政党と異なる「第三勢力」をつくって、2024年の次回総統選の足場にする狙いとみられる。(中略)

 

郭氏はその後、豊富な資金力を生かして、総統選立候補を模索していた台北市長の柯文哲氏(60)が結成した新党・台湾民衆党や、既存の小政党・親民党の立法会選比例名簿に、鴻海関係者らを送り込み、台湾各地で遊説を続けている。

 

台湾の国会にあたる立法院(定数113)の現有議席は、民進党68議席、国民党35議席。民進党は総統選では蔡氏が優勢だが、昨年の統一地方選で大敗しており、立法院選では各地で接戦が予想されている。

 

郭氏は2大政党双方の過半数割れとともに、キャスティングボートを握る第三勢力づくりをめざしている。

 

その先ににらむのは4年後の総統選だ。郭氏は23日、地元テレビのインタビューで立候補を見送ったことについて「本当に後悔している」と打ち明けた上で、「台湾人民が私を必要とするなら、私は常にともにある」と強調した。(後略)【12月30日 朝日】

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選挙戦終盤にきて、郭台銘氏の軸足は側近が名簿の上位に載っている親民党に支持を絞った様相にもなっているようです。

 

****台湾、小政党が台風の目に? 立法委員選、二大政党過半数割れも****

(中略)小政党が議席を伸ばせば、どの政党も過半数に届かない可能性がある。

 

その急先鋒(せんぽう)が、昨年8月に台湾民衆党を設立した柯文哲(か・ぶんてつ)台北市長だ。二大政党は「(中国との)統一、独立問題にとらわれている」として、どの政党も過半数に満たない状態こそが「台湾を再始動させられる」と訴える。支持者は中間層の若者が多く、民進党は陣営票の流出を警戒する。

 

総統選に宋楚瑜(そう・そゆ)主席が立候補している親民党(現有3)は終盤、国民党支持層に狙いを定めた。国民党の総統予備選で敗れた鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は4日、「比例は親民党に」と支持を表明。

 

郭氏は側近を民衆、親民両党の比例名簿に押し込んでいたが、側近が名簿の上位に載っている親民党に支持を絞った。柯、郭両氏とも次期総統選に意欲があるとされ、立法院の議席を足掛かりにしたい考えだ。(後略)【1月7日 産経】

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なお、“中国とのサービス貿易協定締結に反対する14年春の「ヒマワリ学生運動」から派生した左派系「台湾独立」派の政党・時代力量は存亡の危機にある”【同上】とも。

 

【与党・蔡英文政権は「反浸透法」で中国の選挙干渉を排除】

一方、選挙戦を優位に進める与党・民進党は、中国の選挙干渉などに対抗する「反浸透法」を成立させ、反中的な流れを維持したい構えです。

 

****台湾・蔡英文政権、総統選前に中国の干渉警戒 介入防止法成立へ****

2020年1月11日投開票の台湾総統選を前に、蔡英文政権が中国からの選挙干渉に対する警戒を強めている。

 

立法院(国会)で過半数を占める与党・民進党は、選挙干渉などに対抗する「反浸透法」を会期末の31日に成立させる構え。対中融和路線を取る最大野党・国民党は激しく反発しており、審議は大荒れとなりそうだ。

 

中国から台湾の親中派勢力への資金援助などの選挙介入疑惑は、これまでも台湾メディアなどで相次いで報じられてきた。蔡政権は、国民党に有利となるような選挙介入を中国から受けることを強く警戒する。

 

蔡政権が立法院に提案した「反浸透法案」は、「敵対勢力」からの指示や資金援助を受けて、台湾で選挙や政治献金などに関与したりフェイクニュースを拡散したりした場合、5年以下の懲役などを科す内容。名指しは避けたが「敵対勢力」は中国を想定する。

 

国民党は「あらゆる個人・団体が『敵対勢力との結託』とみなされて立件される恐れがある」(馬英九前総統)などと強く反発している。これに対し民進党は「国民党が反対するのは中国と協力したいからだ」(陳亭妃立法委員)などと攻勢を強めている。【12月28日 毎日】

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結局、同法案は国民党の立法委員らが議場内で「悪法」「新たな戒厳令だ」などと記した横断幕を掲げ、座り込みをするなどして抵抗しましたが、予定どおりの12月31日、中国と対立する与党・民進党の賛成多数で可決しました。

 

【「蔡英文再選」後の台湾、特に、習近平政権の対応】

でもって、若干気が早いですが、蔡英文総統の再選という予測を前提に、「蔡英文再選」後の台湾はどうなるのか?という話。

 

総統選勝利で勢いづく独立派の動き、台湾支持の姿勢を強めるアメリカの動向・・・そうした動きをにらみながら、中国・習近平政権が(米中戦争の危険は避けながら)どのように対応するのか・・・。まずはアメリカ大統領選挙の行方を見守る形になるでしょうが、その後もしばらくは慎重姿勢を維持すると思われます。

 

*****「蔡英文再選」後の台湾はどこに*****

香港デモをきっかけに一気に勝利へと近づいた蔡総統

統一を迫る中国の習近平はトランプの大統領選をにらみつつ、台湾独立派の影響力拡大を「三面作戦」で封じ込める

 

(中略)新年早々、台湾統一に向けて基本方針を示した習だが、少なくともあと4年は、反中的な台湾政府を相手にすることになりそうだ。しかも地政学的環境は一段と厄介になっている。その最大の要因はアメリカだ。

 

米中関係が悪化するなか、アメリカは台湾への外交的・軍事的支援にこれまでになく前向きになっている。1978年の米中国交正常化合意により、少なくとも表向きは中国との関係を台湾よりも優先してきたアメリカだが、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、この合意を破綻させかねない措置を相次いで取ってきた。

 

例えば18年2月、米議会は台湾旅行法を圧倒的多数で可決し、米台両国の政府職員の相互訪問を解禁。同年8月にはトランプ政権が、中国と国交関係を樹立するために台湾との断交を決めたエルサルバドルを厳しく批判した。

 

さらに19年12月にトランプが署名した2020会計年度の米国防権限法は、サイバーセキュリティー分野における台湾との軍事協力や合同軍事演習まで提唱している。

 

独立派の勢力拡大は確実か

いずれも象徴的措置にすぎないが、中国指導部は激怒している。それでも習は、これまでのところアメリカを非難するだけで、具体的な報復措置は取っていない。むしろ中国政府が懸念しているのは、アメリカの政策が台湾政治に与える影響だ。

 

蔡は中国との統一にはあくまで反対の態度を維持しているが、中国政府を刺激するような言動は避けてきた。だが、今回の総統選に圧勝すれば、台湾の政治的ダイナミクスは大きく変わる可能性がある。

 

例えば民進党内の独立派が、この勢いに乗じて独立の姿勢をもっと明確に打ち出すべきだと、蔡に圧力をかけるかもしれない。

 

アメリカの対中強硬姿勢を、台湾が中国に対してもっとケンカ腰の姿勢を取ることへのゴーサインと受け止める可能性もある。

 

その結果、台湾が明らかに独立に向けた積極的行動を起こせば、中国政府は厄介な対応を迫られることになる。

 

今年はアメリカも大統領選挙の年だから、中国が台湾に軍事的な脅しをかければ、トランプは強気の(ただし攻撃的ではない)対応を取る誘惑に駆られるだろう・・・台湾の独立派はそう踏んでいる。

 

だから彼らは、国歌の変更など、台湾の法的地位を変更する試みと解釈できるような措置を蔡に迫る可能性がある。

 

こうした微妙な措置は、中国政府にとってはストレートに対応しにくい。中華民国から台湾共和国に国名       を変えるなら、中国政府として絶対容認できない一線を越えた行為と言えるが、国歌の変更はそこまであからさまではないからだ。こうした揺さぶりをかける独立派の勢力拡大が、第2次蔡政権にとって大きな試練になるのは間違いない。

 

現実主義者の蔡は、国歌変更のような象徴的な措置は中国を刺激するだけで、台湾にとっては本質的な利益にならないことを理解している。

 

それよりも蔡が最優先課題に掲げるのは、台湾経済の競争力強化だ。だが中国との関係が悪化すれば、台湾経済がダメージを受け、蔡政権に対する世論の風当たりが強くなるのは間違いない。

 

習は国家主席就任以来、国内外で次々と議論を呼ぶ措置を取り、リスクのある決断もいとわないという評判を確立してきた。だが台湾に関しては難しい舵取りを迫られている。

 

黙っていれば、国内の批判派から弱腰と見なされる恐れがあるが、大規模な軍事演習を実施するなどして台湾に脅しをかければ、ほぼ確実にアメリカの介入を招くだろう。

 

96年の台湾海峡危機で米申がにらみ合ったときには、中国は米海軍に深刻な打撃を与えるような海軍力・空軍力を持ち合わせていなかったが、今回は違う。20年の危機はより危険なものになり得る。(中略)米軍と中国軍が問近でにらみ合えば一触即発の危険性が一気に高まる。50年代後半の台湾海峡危機以来の事態だ。

 

当然ながら米中はどちらも今年こうした事態が勃発することを望んでいない。米政界は超党派で台湾を強力に支持しているが、台湾問題で中国と壊滅的な戦争に突入することなど誰も望んでいない。回避可能な戦争であればなおさらだ。

 

習にしても台湾に対して強硬なレトリックを使いはするが、米軍との直接対決に発展しかねないリスクがある以上、軍事行動は何としても避けたいだろう。当面危ない橋を渡る可能性はないとみていい。

 

今後2年程度、習は2期目に入る蔡政権に現実的な対応を取る公算が大きい。米政界の動きを気にする必要があるからだ。取りあえず今は米大統領選の行方が読めないため慎重にならざるを得ない。

 

米大統領選の投票が行われる11月3日まで習は事を荒立てまいとするだろう。下手に動けば軍事衝突の危険性が増すのは分かり切っている。中国が挑発的な行動を取ればトランプは支持基盤受けを狙って強硬姿勢を見せつけようとするからだ

 

投票が終わって米政界の今後がある程度見通せるようになっても、習はしばらく様予見を続けるだろう。

 

トランプが再選されれば、米中関係が悪化し続ける可能性が高くなる。政治的なコストを気にする必要がなくなれば、トランプは貿易戦争を再開しようとするだろうから、習はトランプに対中攻撃の口実を与えるような言動を慎まざるを得ない。

 

民主党候補が勝てば、習はなおさら慎重になる。台湾問題で対米関係がこじれ、ホワイトハウスの新しい主人と敵対するような事態は避けたいからだ。

 

習は軍部を完全に支配下に置いているし、自分を批判する者がいたら汚職を口実に収監できる。米大統領選が終わった後も政権内部の強硬派を抑え込めるだろう。

 

習の忍耐と胆力が試される

こうした事情から、習は台湾に対して今後2、3年は基本的に、16年に打ち出した三面作戦を続ける可能性が高い。

 

まず外交面で台湾への締め付けを強める。16年に蔡政権が発足して以降、中国は各国に台湾と断交するよう精力的に働き掛けてきた。今や台湾と国交がある国はわずか15カ国。中国は今後、この15カ国も自陣営に引き入れようとするだろう。なかでも目を付けているのは中国との関係改善に大乗り気なバチカン市国だ。

 

また、中国は台湾を一層孤立させるため、外交力にものいわせてあらゆる種類の国際機関への台湾の参加を妨害するだろう。

 

軍事面では、最終的に武力カードを使うことも視野に入れた準備を加速させるはずだ。台湾が正式な独立に踏み切る可能性をゼロにするには、軍事的な脅威という抑止力が必要だと中国の指導部は考えている。

 

そのため南東部沿岸への短距離弾道・巡航ミサイルなど攻撃兵器システムの配備は着実に進む。台湾周辺での海軍と空軍の大規模な演習も頻繁に実施されることになる。

 

三面作戦のうち、中国が最も先を見越した攻勢に出るのは経済面だ。習と指導部は中台の経済関係の強化が長期的には中台統一を強力に推し進める原動力になると確信している。

 

台湾の有権者は心情的には独立を望んでも、現実問題として経済的な生き残りを選ばざるを得ないからだ。台湾経済の中国依存そのものが独立を阻む要囚になる。昨年11月に中国が台湾の企業と個人に対する優遇策を発表したのもそのためだ。(中略)

 

二面作戦が今後数年で成果を生むかは疑わしい。しかし米中関係が急速に悪化し、中国が取れる有効な選択肢が限られている今、現実路線と強硬路線の中問を行く習の戦略は最も無難なアプローチとみていい。

 

平和的な中台統一の夢が絶望的なまでに遠ざかっても、忍耐強く微妙なバランスを保って米中激突を避けること。習は今後数年間、その胆力を試されることになる。【1月14日号 Newsweek日本語版】

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イラン・ソレイマニ司令官爆殺およびその後の緊張を主導する「トランプ流」

2020-01-07 23:08:59 | イラン

(ペルシャ帝国の栄光を偲ばせるペルセポリス遺跡 ここもトランプ大統領の報復対象52カ所に入っているのでしょうか?)


【「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそこんなことができたのだろう」】

1月3日ブログ“アメリカ トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応

1月5日ブログ“イランのソレイマニ司令官殺害 米国防総省も衝撃を受けたトランプ大統領の決定

に引き続き、ソレイマニ司令官殺害の件です。

 

****ソレイマニ司令官の故郷、追悼の市民転倒で30人死亡 イラン****

米軍の攻撃で殺害されたイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の故郷である同国中部ケルマンで7日、遺体の埋葬と追悼のために集まった市民が折り重なるように転倒し、英BBC放送は地元メディアの報道として少なくとも30人が死亡、40人以上が負傷したと伝えた。

 

イラン国営メディアは、「数百万人」が追悼集会に参加したとしている。(中東支局)

*********************

 

痛ましい事故ですが、ソレイマニ司令官に対するイラン国民の思いを物語るものでもあるでしょう。(後述するように、必ずしも彼を好意的に見る人々だけではありませんが)

 

トランプ大統領は司令官を“世界随一のテロリスト”と呼んでいますが、イランにおいては“とりわけソレイマニ将軍は国際的な知名度を持ち、日本でいうなら「乃木大将」「東郷元帥」「山本五十六」といったイメージに近い、アイドル的なイランの国家英雄です。”【1月6日 伊東乾氏 JBpress】とも。

 

その“アイドル的なイランの国家英雄”を、戦争状態でもないのに、いきなり爆殺してしまった今回の作戦。

 

*******************

・・・・ロサンゼルス近郊にあるレッドランド大学のB教授(西洋哲学史)は開口一番こう吐き捨てるように言った。

「弾劾裁判を粉砕するために打ったギャンブルだ。トランプ大統領は『国の一大事だから上院での弾劾裁判など止めてしまえ』と米国民に言わせようというのだろう」(中略)

 

「ソレイマニ司令官はホメイニの超側近。百戦錬磨の将軍だ、米国で言えばパットン将軍のような存在だったらしい」「それを無人飛行機(ドローン)発射のロケット弾で「敵の将軍」を木っ端みじんに葬り去る」

 

「軍士官学校を出て、軍歴を重ねてきた職業軍人は、他国の将軍をこんな不名誉な殺し方はしないだろう」

「戦場での戦闘経験のない、徴兵忌避を続けた、金儲けにしか興味のない人間だからこそ、こんなことができたのだろう」・・・・【1月7日 高濱 賛氏 JBpress】

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【書簡下書きが流出?】

イラン側の報復の懸念は当然として、イランの影響力が強い周辺国、更には核合意をめぐる欧州を巻き込んだ問題ともなっています。(中東情勢が不安定化すれば石油供給に大きな支障が出る日本も、関係国でしょう)

 

****【米イラン緊迫】イラク、欧州も巻き込み情勢複雑化****

米国とイランの対立激化は、米軍が駐留するイラクやイラン核合意の当事国である欧州諸国も巻き込み、中東情勢をいっそう複雑化させそうだ。

 

イラクでは、イスラム教シーア派大国イランによるシーア派勢力との連携を背景に、米国を排除する動きも表面化してきた。

 

イラクのアブドルマハディ暫定首相は3日、米軍が首都バグダッドでイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害したことについて「イラクの主権に対する言語道断の侵害だ」と非難。

 

暫定首相はイラクでの司令官の追悼行事にも参加した。イラク国会は5日、外国軍部隊の駐留終了を求める決議を採択したが、投票に参加したのはシーア派系の議員が主体だ。

 

決議に法的拘束力はないが、トランプ米大統領は同日、イラク政府が駐留米軍の撤収を正式に求めてきた場合には「厳しい制裁を科す」と警告。

 

実際に撤収することになれば、米国がイラクに建設した空軍基地の建設費用を支払わせるとも語った。米軍が影響力を失えば、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が再び台頭する懸念も強まる。

 

イランはイラクのほか、レバノンでもシーア派民兵組織に資金や兵器を供与、シリア内戦では軍事顧問を送るなどしてアサド政権を支援してきた。

 

周辺国に親イラン勢力を植え付ける「シーア派の弧」と呼ばれる戦略で、中心となって進めたのがソレイマニ司令官だとされる。イランが自国の影響圏とみなすこれらの国では、スンニ派など他宗派の国民が反発を強めている実情もある。

 

イランは5日、核合意の履行を放棄する第5段階で無制限にウラン濃縮を行う方針を示し、米国との緊張関係に拍車をかけた。

 

合意から離脱した米国の制裁再開で経済が悪化する中、支援策を一向に打ち出せない英仏独にしびれを切らし、「合意崩壊」の危機をあおる狙いがある。

 

英仏独は核合意の維持を図りつつ、イランの弾道ミサイル開発などでは米国と懸念を共有しているため、今後困難な立場に置かれる恐れがある。【1月6日 産経】

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こうした状況で、奇妙な文書が問題となっています。

 

*****国防長官、米軍のイラク撤収否定=書簡下書き流出で混乱****

エスパー米国防長官は6日、国防総省で記者団に「イラクを去るなどという決定はない」と述べ、米軍のイラク撤収を否定した。

 

これに先立ち、米軍がイラク軍に撤収を通知する内容の書簡が流出し、波紋を広げていた。複数の米メディアが報じた。

 

流出した書簡では、イラク議会が5日に米軍主体の有志連合の撤収を要求する決議を採択したことを受け、「われわれは撤収を命じた主権的決断に敬意を表する」と明記。「イラク国外への退去を安全かつ効率的に行うため」、今後数日から数週間はバグダッド市内でヘリコプターの飛行が増えると通知した。

 

駐留米軍幹部が差出人だったが、署名はなかった。

 

米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は書簡流出を受け、「下書きが誤って送付された」と釈明。「稚拙な文章で米軍撤収をほのめかしてしまっているが、事実ではない」と強調した。【1月7日 時事】 

***********************

 

真相はわかりませんが、“書簡下書き流出”の結果として“混乱”が生じているのではなく(もちろん、結果としての混乱も生じてはいますが)、書簡下書きが流出するほどの混乱状態がすでに現状としてあるというべきでしょう。

 

トランプ大統領は往々にして異なる方向性の言動を示すため、対応するスタッフ・部下にも混乱が生じることがある・・・との背景説明も。

 

【「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」】

もっとも、イラク駐留米軍については、トランプ大統領は明快に否定しています。

 

****イラクが米軍撤退要求なら「過去にない厳しい制裁」「建設に何十億ドル」******

米国のトランプ大統領は5日、イラク駐留米軍に関し、「イラクが我々に撤退するよう要求すればイラクに対し、過去にないような厳しい制裁を科すことになるだろう」と記者団に語った。

 

イラク国民議会が駐留米軍を含む外国軍の全面撤退を求める決議を採択したことを踏まえた発言だが、制裁をちらつかせたことでイラク側の更なる反発も懸念される。

 

トランプ氏は、イラクにある空軍基地について「建設するのに我々は何十億ドルも払った。この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とも述べた。米軍など各国軍はイスラム過激派組織「イスラム国」掃討のため、イラクの同意に基づいて駐留している。【1月7日 読売】

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反発するイラクを口汚く恫喝することで、事態が更に悪化する・・・云々の話もさることながら、「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」という発言には、「カネのことしか頭にないのか?まるでそこらのチンピラみたい」という印象も。

 

イラクおよび中東の安定に果たす駐留米軍の役割を冷静に訴える・・・という対応はできないのでしょうか?

 

なお、イラク情勢については、下記のように緊迫しています。

 

***********************

イラクでは現在、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討のため、約5千人の米軍が駐留している。イラクは2年前にIS掃討作戦の終結を宣言したが、テロ攻撃は続き、イラクシリアには数万人規模の戦闘員が潜伏しているとの推測もある。米軍が果たす役割は大きく、撤退すれば影響が出るのは確実だ。

 

一方、イラク治安当局によると、ソレイマニ司令官が3日に殺害された翌日から、首都バグダッドの米大使館周辺や、米軍が駐留するイラク軍の基地付近にロケット弾が連日撃ち込まれ、イラク人数人が負傷している。

 

親イランのイスラム教シーア派武装組織の「報復」との見方が広がっており、米国の関連施設を直撃すれば、情勢のさらなる悪化は避けられない。【1月7日 朝日】

*********************

 

一方、米軍もイランへの警告をこめて、イラン対応の態勢を強化しています。

 

****米軍、中東に4500人増派 イランの報復に備え、B52も****

トランプ米政権は6日、イラン精鋭部隊司令官殺害への報復に備え、中東地域での米軍の態勢強化を加速させた。

 

エスパー国防長官は記者団に「いかなる不測の事態への備えもできている」と強調。米メディアによると、米軍が基地を置くインド洋のディエゴガルシア島にB52戦略爆撃機6機を派遣するほか中東に約4500人増派する準備も指示した。

 

国際社会では米イラン双方に緊張緩和を求める声が強まっており、トランプ政権も本格的な衝突は回避したい考え。エスパー氏は対話の用意があるとしつつ、イランの対応次第では「強硬に対処する」と述べ、報復を思いとどまるよう警告した。【1月7日 共同】

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【国際法無視のトランプ流本音発言】

そうしたなかで、トランプ大統領の“本音”発言が国際法違反として問題視されることにも。

 

****イラン文化財への攻撃示唆したトランプ米大統領に批判殺到****

アメリカのドナルド・トランプ大統領がイランの文化財への攻撃を示唆したことに、世界各国で批判が高まっている。

 

米軍は3日、イラン革命防衛隊の海外作戦を担当した精鋭「コッズ部隊」を長年指揮してきた、カシム・ソレイマニ指揮官をバグダッド空港の近くでドローンによって殺害。トランプ氏はその後、イランが報復として「アメリカ国民を拷問したり、障害を負わせたり、爆弾で吹き飛ばしたり」した場合は、イランの文化を含む52カ所の標的を攻撃するとツイートした。

 

これに対し国連教育科学文化機関(ユネスコ)やイギリスのドミニク・ラーブ外相などは、文化遺産は国際法で守られていると指摘している。

 

アメリカとイランは共に、紛争中であっても文化遺産を保護するという国際条約に署名している。文化遺産を標的にした軍事攻撃は、国際法上では戦争犯罪となる。

 

トランプ氏は4日の時点で、「これは警告だ」と大文字で強調しながら、米軍がイラン国内の52カ所の施設を「標的にした」とツイートした。

 

「もしイラン政府がアメリカ人やアメリカの資産を直撃するなら」、米軍は「非常に素早く、かつ非常に強力に、イランとイランの文化にとってきわめて高レベルで大事な標的、イランそのものを攻撃する」と続けた。

 

マイク・ポンペオ国務長官はこの後、アメリカは国際法にのっとって行動すると、トランプ氏の発言を和らげようとした。

 

しかし大統領は5日、記者団に対してあらためて、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。こちらの人間を拷問して一生の傷を負わせても許される。路肩爆弾を使ってこちらの人間を吹き飛ばしても許される。なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」と強い調子で述べた。

 

ホワイトハウスのケリーアン・コンウェイ上級顧問は6日、トランプ氏は文化遺産を攻撃すると言ったのではなく、「質問を投げかけただけだ」と発言を擁護した。

 

コンウェイ氏はさらに、「イランには、文化遺産とも言える戦略的軍事施設がたくさんある」と述べたが、その後、イランが軍事的標的を文化遺産に偽装しているという意味ではないと釈明した。

 

マーク・エスパー国防長官は、米軍が文化施設を標的にすることはあるのかという質問に、「武力紛争の法に従う」と答えた。

 

さらに、それは「文化遺産を標的にするのは戦争犯罪に当たるため」、攻撃を否定する意味かと聞かれると、「それが武力紛争の法だ」と述べた。

 

ツイートに対する反応は?

(中略イランのジャヴァド・ザリフ外相は、トランプ氏の言い分は過激派組織ISが中東で貴重な遺跡などを次々と破壊して回ったのに似ていると批判した。

 

ISは中東の各地で文化遺産への攻撃を行っており、シリアではパルミラ遺跡を破壊した。またアフガニスタンでは、バーミヤンの仏教遺跡群が反政府武装勢力タリバンによって破壊され、世界最大の大仏が姿を消した。【1月7日 BBC】

*****************

 

BBCは、このイラン文化施設攻撃発言の影響は小さくないとの指摘も。

 

****<解説> 文化遺産への脅迫でイラン人が結束 ――サム・ファルザネフ、BBCペルシャ語****

ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。ソーシャルメディア上では、司令官の死を悼む人と祝う人もいた。

 

ツイッターでは特に、この分裂が激しかった。ソレイマニ氏殺害に怒る人は「ストックホルム症候群」だと批判された。その一方、殺害を擁護する人は裏切り者とレッテルを貼られた。

 

しかし、トランプ大統領がイランの文化遺産を標的にするという脅しをツイートすると、イラン人は反トランプで結束した。

 

文化遺産には宗教的ものもあれば、そうでないものもある。しかし宗教を信じているかどうかに関わらず、イラン人はみなその歴史的遺産を誇りに思っており、トランプ氏の脅しに反発した。

 

国内のイラン人と国外に移民したイラン人の溝を埋めるのに、愛する過去を攻撃されるほどのものはないだろう。

イランのザリフ外相はこの機を捉え、シリアで数々の文化遺産を破壊したISにトランプ大統領をなぞらえ、ツイートを連投している。【1月7日 BBC】

*********************

 

ソレイマニ司令官について“国民的英雄”という書き方をしてきましたが、イラン国内政治にあっては、自由を求める民衆を圧殺する側の保守強硬派の象徴でもあることが、“ソレイマニ司令官殺害のニュースが広まると、イラン人はすぐに分裂した。”という指摘になります。

 

ただ、その分裂の度合いについては多くを知りません。

これまでは民衆弾圧の象徴とみられていても、アメリカによって爆殺されたとなると、その評価・風向きが変わることは十分にあり得ます。

 

いずれにしても、意見が割れる部分のあるソレイマニ司令官爆殺にくらべ、イラン文化への攻撃明言は、より一致団結した反発を生むとの指摘です。

 

2017年7月にイランを観光した際に出会った方は、イラン現体制には批判的で、「イランはイスラムではない」とも。

その言葉が意味するのは、イランのアイデンティティはイスラムにあるのではなく、それ以前のペルシャ帝国以来のイランの輝かしい歴史・文化にあるということです。

 

そうした考えの人々にとっては、イラン文化への攻撃はソレイマニ司令官爆殺以上に許しがたいものになるでしょう。

 

「この金が払い戻されない限り、米軍は撤退しない」とか、上記イラン文化遺産攻撃発言とか、トランプ流本音の政治は、国際政治を良識を欠いたレベルに貶めているようにも思えます。

 

ついでに言えば、「向こうはこちらの人間を殺しても許される。・・・・なのにこっちは向こうの文化遺産を触っちゃいけないって? そういうわけにはいかない」という発言は、バーミヤンの大仏を破壊したときのタリバンの発言によく似ています。

 

「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】

 

私はこのタリバン発言に少なからぬ共感を禁じえません。ですからトランプ発言についてもしかりです。

ただ、居酒屋談義ではなく、一国の最高指導者として「どうなのよ?」という問題です。

 

チンピラのような物言い、居酒屋談義のような物言いがトランプ大統領が人々を惹きつける所以でもあるのでしょうが、それで一国・世界の政治が動くことの問題は?・・・という話です。

 

いずれにしても、トランプ大統領の決断・発言は、体制への不満が抗議デモとして噴出していたイランの一致団結に大きな効果をもたらしているようです。

 

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中国  違法建築物撤去命令に垣間見える、共産党政権下の「私有財産制」の危うさ

2020-01-06 22:57:09 | 中国

 (取り壊される陝西省秦嶺国立公園の高級別荘=中国中央テレビから【2019年1月27日 陳言氏 J-CASTニュース】)

 

【陝西省国立公園内の違法建築問題 「生態環境保護」と「地方政府の汚職摘発」という建前のもと、党内権力闘争の側面も】

 

****中国共産党、陝西省元トップの党籍剥奪…習主席の意向か「中央決定重視せず」****

中国共産党の汚職摘発機関・中央規律検査委員会は4日、陝西省トップだった趙正永元党委員会書記が、「党中央の決定や手配を重視しなかった」などとして党籍剥奪処分にすると発表した。

 

国営中央テレビによると、習近平国家主席は、趙正永氏が書記だった2014年以降、省内の国立公園で違法に建てられた多数の別荘を取り締まるよう6回にわたって指示したが、地元政府は18年まで本格的な対応をとらなかった。これが習氏の怒りを買ったとみられている。習氏の意向が働いて今回の処分につながった模様だ。

 

香港紙・明報は、別荘の多くは最高指導部メンバーの趙楽際・中央規律検査委書記が陝西省党委書記だった07〜12年に建てられたことから、地元政府は習氏との間で板挟みだったと伝えている。

 

趙楽際氏は今回、習氏の意向を受けて元部下である趙正永氏を処分せざるを得なくなったとみられる。党関係者の間では習氏と趙楽際氏の間で不仲説が流れている。【1月5日 読売】

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この案件は、以前から報じられていたもので、1年前の2019年1月には下記のようにも。

 

****習近平、面従腹背を許さず 「ゆかりの地」陝西省元トップに鉄槌****

中国国内では年明けから、新たな権力闘争を予感させる動きが起こっている。

 

2019年1月15日、共産党中央指導部は西北部・陝西省のトップを2012年から4年間務めた趙正永・前同省共産党委員会書記を「重大な規律違反の疑いで取り調べている」と発表した。陝西省の多数の党・政府の高官も処罰されているようだ。国立公園内に違法に建てられた多くの高級別荘が事の発端とされる。

 

木で鼻をくくったような......

発表に先立つ1月10日ごろ、中国・中央テレビの前触れ報道が始まった。

 

同省の省都・西安市の秦嶺国立公園に多くの別荘が建設されたが、現在はすべて取り壊された――。秦嶺は国の環境保護区域にあり、元々住んでいた農民の住宅以外、マンションや別荘を建てることは固く禁じられている。

 

(中略)習近平総書記にとって陝西省はゆかりの地。文化大革命時代にそこに下放された経験があり、そもそも父・習仲勲の出身地だ。

 

その省都近くに違法に建てられた高級別荘には、2014年から注目していたようだ。この年5月、習氏は「環境保護のため」、秦嶺の別荘を取り締まるよう指示。

 

だが、省の党委員会は「秦嶺には202棟の別荘が建っているが、主に農民が勝手に建てたもの」という調査結果を出した。

 

習氏は同年、もう一度取り締まりを発出。だが、省の党委員会は「別荘の問題は既に解決済みだ」という木で鼻をくくったようなコメントをメディアで発表するのみだった。

  

 2017年5月、習氏は中央政治局の集団学習の場で、秦嶺の別荘問題をとりあげ、語った。「急がねば、またしっかり取り締まらなければ環境破壊の問題は絶え間なく起こり、中国の生態系悪化の趨勢を根本から転換することは難しくなる」。さらに昨年7月にも、習氏は秦嶺の別荘問題をとりあげた。(中略)

 

業を煮やしたように

(中略)この問題で、習氏は当初、「環境保護のために取り締まれ」と指示していた。だが昨年7月に業を煮やしたように、いささか怒気混じりにこう語った。「まず政治規律の点から取り締まり、面従腹背を許すな」

   

中央テレビの報道でも、「政治の決まり」が強調されている。共産党総書記の指示を聞くことなく、党規約に違反した者たちが処分されたというわけだ。では、なぜ、趙・前陝西省党書記らは習氏に、面従腹背の動きを続けたのか。それが今後の見どころである。【2019年1月27日 陳言氏 J-CASTニュース】

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“なぜ、趙・前陝西省党書記らは習氏に、面従腹背の動きを続けたのか”・・・その権力闘争的な側面にについては、以下のようにも。

 

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習近平の直接の指示で行われたこの別荘強制撤去事件は、「生態環境保護」と「地方政府の汚職摘発」という建前があり、また背後には、元陝西省書記で元政治局常務委員兼中央規律検査委員会書記の“趙楽際おろし”という習近平の党内権力闘争の側面もあった。

 

秦嶺北麓は国家公園に指定される重要な生態保護地区で、2003年に陝西省はこの地域でいかなる組織、個人も一切、不動産開発をしてはならないとし、2008年には秦嶺環境保護条例を制定した。しかし実際は2003年以降、別荘開発が行われており、その背後には陝西省党委員会ぐるみの汚職があった。

 

環境保護・生態保護に力を入れている習近平は2014年、この問題に初めて言及し、2019年1月までに違法建築別荘1194棟を洗い出して1185棟を撤去、9棟を没収し、4557ムー(約3万アール)相当の土地を国有地として回収。

 

この問題に関わった陝西省長の趙永正は失脚し、大量の陝西省、西安市の官僚が処分された。そして今行われている四中全会で、ひょっとすると当時の陝西省書記であった趙楽際にまで累が及ぶか否か、というところまで来ている。

 

趙楽際は共産党のキングメーカー、長老・宋平派閥に属しており、習近平の父、習仲勲と昵懇であったこともあって、第19回党大会では習近平の後押しで政治局常務委員入りし、王岐山の跡を継いで中央規律検査委書記についた。

 

だが、宋平と習近平の関係が険悪になるにつれ、習近平の趙楽際に対する風当たりは強くなっていた。秦嶺北麓の別荘強制収用はそのこととも関係があると言われていた。【2019年10月31日 福島 香織氏 JB Press】

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趙楽際氏は、習近平主席への権力集中を実現するうえでの最大功労者・王岐山の跡を継いで中央規律検査委書記に抜擢されるぐらいですから、習氏の信頼が非常にあつかったと思われます。

 

“2012年の第18期中央委員会全体会議における政治局委員および中央書記処書記への選出・任命、それからの組織部長への任命は、驚きをもって「黒馬」(ダークホース)と評された。もちろん習氏による抜擢によるものと周囲に受け止められている。”【ウィキペディア】

 

問題となった違法な別荘の多くは趙楽際・中央規律検査委書記が陝西省党委書記だった07〜12年に建てられたものとのこと。

 

しかし、その習氏と趙楽際氏の関係が悪化したようです。そこらあたりが、習氏が秦嶺北麓の違法建築を問題視したこと、再三の習氏の指示にもかかわらず地方政府が動かなかったことの背景にあるようですが、中南海の出来事の詳細はよくわかりません。

 

なお、趙楽際氏については、青海省および陝西省における経済運営手腕が高く評価されていました。問題となった秦嶺北麓の違法建築も、そうした積極的な経済運営の一環ではあったのでしょう。ただ、環境保護にも積極的だったとも。【ウィキペディアより】

 

【党・政府によって恣意的に運用される「私有財産制」】

上記の陝西省・秦嶺北麓の違法建築の問題は、習近平政権の環境保護政策、地方政府の汚職体質、習氏と趙楽際氏の関係の文脈で語られることが多いのですが、より広い視野で見れば、違法建築の撤去命令は地方政府の新たな「錬金術」、さらには共産党体制における私有財産のあり方に話が及ぶとの指摘も。

 

****中国北京市、またも強制立ち退き 郊外戸建に住む中所得者が対象****

中国北京市はこのほど、違法建築物として郊外の住宅を取り壊すことを決定し、住民に立ち退くよう命じた。住宅の所有者らは18日、合法的に物件を購入したとして鎮政府の前で抗議デモを行った。(中略)

 

北京市昌平区崔村鎮政府17日の通知書によると、香堂村の工業園小区にある40棟の住宅が違法建築物であるとし、住民に対して18日内に撤去するよう指示した。「撤去しなければ、鎮政府が強制的に取り壊す」という。立ち退きの補償金も支給しないとした。

 

18日、千人以上の住民が崔村鎮政府の前に集まり、「立ち退きに反対」などのスローガンを叫び、抗議活動を行った。

米ラジオ・フリー・アジア(RFA)22日付によれば、ある男性の住民は、抗議者の前に現れた韓軍・鎮党委員会書記に対して、「20年前の物件購入契約書に村、鎮、区の3つの役所の認印が押されているし、国土局のハンコもあるのに、なぜ数日内に立ち退きしなければならないのか?契約書がここにあるのに、路上生活しろとはあまりにも理不尽だ」と怒鳴り付けた。

 

しかし、崔村鎮政府は19日に新たな公告を出し、10の地区、総面積約3万平方メートルの物件が、許可のないまま建設されたため、条例に違反したと述べた。

 

該当する10の地区には、3階建ての戸建てを含む約3800棟の住宅があり、1万人以上が住んでいる。(中略)

 

村民はRFAの取材に対して、周辺の他の鎮でも同様の立ち退きが行われていると話した。北京市当局は、この方法で土地を再収用してから、不動産開発企業に譲渡し、新たな分譲物件を建設する計画をしているという。

 

北京市トップの蔡奇氏は2017年11月にも、違法建築物の取り締まりと称し、厳しい冬の中で多くの出稼ぎ労働者に立ち退きを命じた。市民や知識人から批判が噴出した。

 

今回立ち退きの対象になった住民が大紀元に提供した情報では、北京市昌平区政府が来年1月4日までに実施する立ち退き計画によって、数十万人の住民が影響を受けるという。

 

同住民は「2年前に北京市政府は、家屋や工場などを取り壊し、300万人の『低端人口(低所得者)』を追い払った。冬を迎える今、当局は今度はわれわれ『中端人口(中所得者)』を追い払おうとしている」「大規模な取り壊しで、郊外に住む公務員や中間層、海外帰国者、元党幹部らはみんなホームレースになる」と嘆いた。【2019年10月29日 大紀元】

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****「違法建築だから退去せよ」中国で私有財産権の危機****

毛沢東の土地改革が繰り返されるのか?

 

ローンを組んだり退職金をつぎ込んだりして購入した不動産が、ある日突然、違法建築なので撤去します、出ていきなさい、と通知されたらどうだろう? そんなことあり得ない、と不動産所有者の権利が比較的強い日本人なら思うが、これが今、北京でまさに起きている現実だ。

 

北京郊外で起きた別荘所有者たちのデモ騒ぎは、よくよく考えてみると、中国経済の暗雲到来を示す不気味なシグナルではないか。(中略)

 

習近平派の官僚政治家が指揮

(中略)RFAの取材で明らかになったのは、この別荘地強制撤去計画は、習近平派の官僚政治家、蔡奇・北京市書記が自ら指揮していること。

 

今回、強制撤去された土地は来年(2020年)1月1日の新土地管理法執行までに更地にされ、競売にかけられること。昌平区はテストケースであり、これが成功すれば、この手法は全国に広がるらしいこと、である。

 

昌平区では少なくとも百善鎮、流村鎮、南口鎮、十三陵鎮などの別荘地が撤去対象になりそうだという。こうした政策によって不動産を没収される不動産所有者は少なくとも全国で数十万戸単位になるのではないか、という噂も広がっている。

 

新たに財政収入が見込める手段

前述したように、昌平区の不動産所有者は主に都市部の小金持ちだ。彼らはみな不動産購入証明を持っており、昌平区政府機関の認可印も押されている。(中略)これら不動産販売価格の5%がインフラ建設費用、管理手続き費などの名目で鎮政府に納められていた。

 

あらためて言うまでもなく、地方政府のこれまでの財政収入の大半が、農地の再開発から生まれてきた。農村の集団所有の土地を郷・鎮政府、あるいはそれ以上の上級政府が、そこに住んでいる農民を追い出し、強制収用する、あるいは低い補償金で収用し、デベロッパーに譲渡あるいは貸し出して再開発し、これを都市民に高く売りつけてきた。地下鉄など公共交通の整備とセットにして付加価値を上げることもあった。

 

この過程で、日本の地上げ屋も真っ青なアコギな強制土地収用が行われることもあった。村民が出稼ぎに行ってしまい、人が住まなくなった農村宅地を再開発した、というケースもあるが、強制収用は農村の“群衆事件”(暴動)の原因の上位でもあった。

 

ただし、現在は大都市・中都市周辺の農村宅地はだいたい再開発が進み、新たな農村宅地の強制収用は難しくなってきている。

 

早い話が、地方政府としては、ちょうど新しい土地管理法(以下「新土地法」)が施行されるタイミングで、すでに再開発した別荘地などを没収し、強制撤去して再開発すれば、また新たに財政収入が見込める、ということなのだ。

 

別荘の強制撤去の嵐が吹き荒れるか?

一旦、再開発され分譲された別荘地の強制撤去問題として思い出すのは、陝西省西安市郊外の秦嶺北麓別荘・強制収用事件だ。(中略)

 

この事件は陝西汚職と権力闘争の面が強調されて報じられてきたが、よくよく考えてみれば、別荘購入者たちはきちんと契約書を交わし、金を払い、合法的に別荘を所得していた。だが彼らの財産所有権は、習近平の掲げる“エコ(生態環境保護)は正義”という思想と“強権”の前に完全に吹っ飛んでしまっている。

 

この別荘所有者の多くが党の高級官僚であったこともあり、庶民から見れば、ざまあ見ろ、という感じだろうが、同じ論法をあらゆる別荘地、再開発地に当てはめれば、こんな恐ろしいことはあるまい。

 

この秦嶺別荘事件を踏まえて今年5月、国務院は全国違法別荘問題精査整理プロジェクトアクション電話会議を開き、この問題に関する国務院通知を行った。この通知が今回の平昌区の別荘没収通知につながっている。習近平の「生態文明思想」の指導のもと、全国で別荘の強制撤去の嵐が吹き荒れるかもしれない。

 

問題はこうした別荘の持ち主が、必ずしも汚職官僚だけではない、ということだ。昌平区の別荘地などは、都市の中間層が所有者の主流ではないだろうか。

 

つまり、「生態文明」を建前にすれば、一般庶民が虎の子を投じて取得した私有財産をいくらでも政府が奪えるという前例を昌平区の件は作ろうとしている、ということではないか?

 

これは1946年から共産党が行った「農地改革」の建前のもとの地主からの土地・財産略奪のマイルドな再来、と見る向きもある。

 

結局、得をするのは地元共産党政府

もう1つ注目すべきは、来年1月1日から施行される「新土地法」の意味合いだ。

 

この法律が施行されると、農村が集団所有する農村宅地の使用権を自由に譲渡・売却できるようになるため、農民たちの土地の権利、私有財産権を強化するものと歓迎されていた。だが、少なからぬ農村政府、鎮政府はすでに農村宅地に住宅や別荘を建てて、都市民小金持ちに分譲してきた。

 

現在、農村に多くみられる「別荘地」などの不動産は、農村の集団所有の土地の上に建てられ、不動産権は上物の「小産権房」と呼ばれる物件に限定される。これは土地使用権とセットで売り出される「大産権房」よりも値段が安く、都市中間層が購入しやすかった。

 

現行の土地法では、農村宅地は農民に居住する権利があるだけで、その土地の使用権自体は譲渡できない。だが、大都市の住民は異常な不動産高のせいで郊外に住宅や別荘を欲している。一方、農村は貨幣経済の浸透のせいで、現金収入が欲しい。

 

双方の希望を満たす形で、大都市周辺には、土地は農村の集団所有のまま、上物は都市民個人が購入するといういびつな不動産所有(小産権房)形態が急速に広がったのだ。

 

昌平区崔村鎮のケースでは 20年前、村の党幹部がこうした小産権房を都市の小金持ちに売りつけ、鎮の財政収入源にした。この財政収入モデルは当時「社会主義新農村模範」などともてはやされたものだった。

 

だが、来年(2020年)1月1日からの新土地法が施行されると、土地の使用権そのものが他者に譲渡できるようになる。ならば、それを機に土地使用権と上物をセットにしてより高額に競売できるではないか。

 

折しも習近平の「生態文明思想」を打ち出せば、ほとんどの農村・別荘地が違法建築とこじつけられる。

 

農民の土地に関する権利を強化するとされる新土地法だが、結果的には中間層市民の私有財産権を踏みにじるために利用され、「結局、得をするのは地元共産党政府」という話ではないか。

 

市場主義経済と決別するシグナルか

中国の土地・不動産問題は複雑だ。目下、都市部の不動産の高騰はバブルとみられ、そのバブルがそろそろ弾けるとの懸念が強まっている。

 

同時に、そうした不動産が立っている土地は公有地である。不動産と土地の使用権がセットとなっている「大産権房」であっても、その土地使用権期限は開発開始から住宅地70年、商業用地40年といった期限がついている。

 

土地使用権期限は購入時期や不動産が商業区か社区(住宅区)にあるかによってかなり差があり、浙江省温州市などの早期の再開発地域などではそろそろ使用権期限切れになる土地もある。

 

期限切れが来た時の対応法は地域によってまちまちだ。更新料支払いによって使用権延長を認めるところもあるが、将来、法律一つで、いつでも国や機関、地方政府に土地使用権の返納を求められることもあり得るということが、今回の昌平区の件でうかがえる。

 

中国の人口の半分近くは不動産など私有財産をほとんど所有していない農民だ。彼らは一部の不動産所有者に対しては「腐敗やずるいことをして蓄財している悪い奴」というイメージを抱いている。かつて地主から土地を没収したように、都市の小金持ちから不動産を没収することは、中国共産党がかつてやってきた、きわめて社会主義的な施策と言うこともできる。

 

だが、もし、こういう手法を習近平政権が取り続けるようであれば、それは中国が市場主義経済と決別の方向に舵を切る、というシグナルかもしれない。

 

そうなれば、中国経済がさらに減速するだけでなく、財産を奪われる側の中間層の不満と抵抗が社会の安定にどれほど影響を与えるかについても注意する必要があるだろう。【2019年10月31日 福島 香織氏 JB Press】

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イランのソレイマニ司令官殺害 米国防総省も衝撃を受けたトランプ大統領の決定

2020-01-05 22:35:25 | イラン

(ソレイマニ司令官の娘の1人はロウハニ大統領に、父の死に対する復讐はいつになるのか尋ねた【15日 BBC】)

(米軍の空爆で死亡したイランのソレイマニ司令官やイラクの親イラン武装勢力のムハンディス副司令官の棺と、それを取り囲む人たち(4日、イラク・カルバラ)【同上】)

 ロウハニ大統領としては、何もしないわけにもいかないでしょう。

 

【他の選択肢をより受け入れやすくための非現実的な選択肢のはずが・・・】

一昨日ブログ“アメリカ トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応”でも、今後戦闘状態を誘発しかねない、また、中東情勢の悪化という日本など世界に大きく影響することにもなりかねないイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害という決定について、トランプ大統領がどれほどの検討・熟慮をしたのか疑問がある旨を書きましたが、「決断」に至る経緯は下記のようにも。

 

****司令官殺害、トランプ氏が決断するまで 国防総省に衝撃****

米軍が、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官(62)を殺害したことで、両国の間の緊張が高まっている。

 

トランプ米大統領は、ソレイマニ司令官の殺害をどう決めたのか。米メディアは相次いで、トランプ氏が急に決断し、政権内にも驚きが広がった様子を伝えている。

 

ソレイマニ司令官が「米国の外交官と軍人を攻撃する計画を進めていた」ため、「防衛措置として攻撃した」というトランプ政権の説明にも疑義が生じている。

 

イラクでは数カ月前から、米軍などがロケット弾攻撃を受けており、米側は親イラン派の武装組織が行っていると抗議してきた。12月27日、イラク北部のロケット弾攻撃で米国の民間人1人が死亡、米軍兵士4人が負傷したことで、一気に緊張が高まった。

 

ニューヨーク・タイムズによると、この攻撃を受け、米軍幹部らはソレイマニ司令官の殺害を「最も極端な選択肢」としてトランプ氏に提示した。

 

国防総省は歴代大統領に非現実的な選択肢を示すことで、他の選択肢をより受け入れやすくしており、今回もトランプ氏が選ぶことは想定していなかったという。

 

実際、トランプ氏は昨年12月28日に殺害計画を拒否し、親イランの武装組織に対する空爆を承認した。だが、数日後に在バグダッド米大使館が親イラン派に襲撃される様子をテレビで見たトランプ氏はいらだち、その後に司令官殺害を決断した。国防総省幹部らは衝撃を受けたという。

 

ワシントン・ポストによると、国防総省幹部らは何らかの軍事行動を求めていた。昨年6月にイランが米軍無人機を撃ち落としたり、昨年9月にサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けたりした後、米側が何ら報復をしていないことをトランプ氏に伝え、「何もしなければ、イランは何でもできると考えてしまう」と訴えたという。

 

トランプ氏も、無人機撃墜に報復をしなかったことをめぐる批判的な報道が気になり、「弱腰」と映ることを懸念していたという。ただ、同紙も司令官殺害が「非常に大胆で、我々の多くを驚かせた」という政権高官の言葉を伝えた。

 

同紙によると、殺害計画の決定後、米当局は司令官の動きを追い、バグダッド空港の付近で攻撃することが最適だと判断した。1月3日の攻撃の直前、トランプ氏はゴルフリゾートで最終承認をしたという。

 

CNNは、攻撃直前まで政権内で攻撃の法的根拠をめぐる議論が続いたと伝えている。トランプ氏は3日の会見で「米国の外交官と軍人に対する切迫した、邪悪な攻撃を計画していた」と述べ、阻止するために司令官を殺害したとした。

 

だが、CNNは「政権は具体的な脅威を明らかにせず、法的な根拠もはっきりと示していない」と指摘。こうした点については、米議会からも疑問が出始めている。【15日 朝日】

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大統領の決定に国防総省が「衝撃」を受けたとのことですが、他の選択肢をより受け入れやすくための非現実的な選択肢を苛立つ大統領が選択し、それが「了解しました」と実行される・・・・その実態にアメリカならず世界の人々が「衝撃」を受けます。

 

****猛反発、読み違い?****

(中略)ただ、ソレイマニ司令官の殺害は、もともと本格的な対米衝突を望んでいなかったイランを追い込み、想定以上のリスクを背負った可能性がある。

 

イランのラバンチ国連大使は3日、米CNNの取材に「戦争行為だ」と反発し、報復の「軍事行動」に出ると宣言。ホワイトハウス元当局者は「トランプ氏は、イランがここまで激しく反発するとは予想していなかったのではないか」と話した。

 

今後、衝突は収束できるのか。ブッシュ(子)、オバマ両政権で、中東問題を担当した経験を持つ民主党のスロトキン下院議員はツイッターで、両政権もソレイマニ司令官の殺害を検討しながら、報復や長期的な対立を考慮し、見送ったと指摘。(後略)【15日 朝日】

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前回ブログでも書いたように、ソレイマニ司令官は大統領をもしのぐ国民支持があり、体制内の実力者でもあります。その人物を殺害して「ここまで激しく反発するとは予想していなかった」というのも理解できな話です。

 

【攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのか?】

トランプ大統領の決定には、国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声も出ています。

 

****イラン司令官殺害、米政府の法的根拠に疑問の声****

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を空爆して殺害したことについて米政府は、自衛行為だと正当化し、国際法に違反しているとの非難や、法律の専門家や国連の人権関係者の懸念をかわそうとしている。(中略)

法律の専門家からは、イラク政府の同意を得ずにトランプ大統領がイラク国内で攻撃する法的権限があったのか、また攻撃は国際法と米国内法に照らして合法だったのかを疑問視する声がでている。

イラクのアブドルマハディ首相は攻撃について、米軍のイラク駐留を巡る合意に違反していると指摘。またイラク国内の複数の政治勢力は米軍の撤退を求めた。

国連憲章は他国への武力行使を原則として禁止しているが、当該国が領土内での武力行使に合意した場合は例外としている。専門家によると、イラクの同意を得ていないことから米国は攻撃を正当化することは難しいという。

国際法が専門のイェール大学ロースクールのウーナ・ハサウェイ教授はツイッターで、公表された事実からみると今回の攻撃が自衛行為であるという主張は「支持されないようだ」とし、「国内・国際法いずれに照らしても根拠は弱い」と結論付けた。

国防総省は、「今後のイランの攻撃計画」を抑止するためソレイマニ司令官を標的にしたと指摘。トランプ大統領は、司令官は「米国の外交官や兵士への悪意のある差し迫った攻撃を画策していた」と述べた。

テキサス大学オースティン校ロースクールのロバート・チェズニー氏(国家安全保障法が専門)は、国連憲章上の問題を巡る政権のよりどころは自衛と指摘。「アメリカ人殺害作戦の計画を受け入れれば、それに対応する権限が与えられる」と述べた。(中略)

米国とイラクが2008年に調印した戦略的枠組み合意では、イラクの「主権、安全保障、領土の保全」に対する脅威を抑止するために緊密な防衛協力をうたったが、米国がイラクを他国攻撃の拠点として使用することは禁じている。

国際法のこれまでの基準からみて、脅威にみあった対応を必要に迫られて行う場合、国家は先制的な防衛が可能だ。

司法管轄外の処刑に関する国連特別報告者のアグネス・カラマード氏は、攻撃がこの基準を満たしているかどうか疑問を示す。

 

ソレイマニ司令官を標的にしたことは「差し迫った自衛のため事前対応というより、過去の行為に対する報復のように見える」と指摘。「このような殺害への法的根拠は非常に狭く、適用するのは想像しがたい」と述べた。

米民主党議員はトランプ大統領に対し、ソレイマニ司令官による差し迫った脅威について詳細を提供するよう求めた。

上院情報特別委員会の副委員長である民主党のマーク・ウォーナー議員はロイターに対し、「脅威があったと信じているが、どれだけ差し迫っているかという点は答えがほしい」と述べた。

米国内法からみたトランプ大統領による司令官殺害の権限と、議会に事前に通知せずに行動すべきだったかどうかについても疑問が示されている。

法律の専門家は、最近の米大統領は民主・共和問わず、標的の殺害を含む一方的な武力行使の可能性を拡大解釈しており、歴代政権内の法律専門家により支持されてきたと指摘する。

今回の場合の自衛論の論拠は、米国人を攻撃するという差し迫った計画に関する具体的な情報を政府が公表することにかかっているといえる。(後略)【15日 ロイター】

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“米国人を攻撃するという差し迫った計画”云々は、結局のところ後付けの理由・言い訳に過ぎないように思えます。

 

【「アメリカの35の重要施設」に対し「52の目標を選定」】

今後のイランがどうでるのかはよくわかりません。

恐らく、イランにとっても司令官殺害は想定外の事態で、どの程度の強度の報復で対応すべきか迷いがあるところでしょう。

 

イランとしてもアメリカと大規模な軍事衝突に至ることは避けたいところでしょうから。

イラン国民にも、「アメリカに死を!」という大きな声(いつものことですが)がある一方で、戦争への不安も広がっています。

 

****イラン、緊張激化に不安広がる 「戦争は嫌だ」市民の願い切実に****

イラン革命防衛隊の精鋭部隊のソレイマニ司令官が米軍の空爆で殺害されたことを受け、イランの市民の間では両国の対立激化が紛争に発展するのではないかとの不安が広がっている。「戦争は嫌だ」。家族を、友人を、暮らしを守りたいとの願いは切実さを増している。

 

首都テヘランの主婦マンスレさん(64)は198088年のイラン・イラク戦争を体験、貧困の中で辛酸をなめた。「私は戦争が何をもたらすのかよく分かっている。大災難だ。何としても回避してほしい」と訴えた。

 

テヘラン市内では至る所にソレイマニ氏の肖像や追悼の黒い旗が掲げられ、沈鬱な雰囲気に包まれている。【15日 共同】

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****情勢緊迫 イランが繰り返し報復宣言 米大統領が強く警告 ****

アメリカがイランの司令官を殺害し、イランが3日間の喪に服すると表明してから2日たちました。この間、イラン側が繰り返し報復を宣言しているのに対し、トランプ大統領は報復に出れば激しく反撃すると警告し、情勢は緊迫しています。(中略)

イランの最高指導者ハメネイ師は、国民から英雄視される司令官の殺害を受けて、国を挙げて3日間、喪に服すると表明し、2日がたった5日には葬儀が営まれました。

またイラン国民の間ではアメリカへの怒りが高まっていて、ハメネイ師をはじめ政権の幹部は繰り返し報復を宣言し、革命防衛隊の幹部は「アメリカの35の重要施設を狙うことができる」と述べました。

さらに4日にはイランと強いつながるのある武装組織「カタイブ・ヒズボラ」が「5日の夜以降、アメリカ軍基地から1キロ以上離れるべきだ」とする声明を出し、アメリカ軍への攻撃を示唆しました。

これに対しトランプ大統領は4日、ツイッターでイランが報復に出た場合、直ちに激しく反撃するとしたうえで、すでに攻撃対象として52の目標を選定し、「目標のいくつかはイランとイランの文化にとって非常に重要なものだ」として強く警告しました。さ

らに4日深夜にも「私が強く忠告したのにもし彼らがまた攻撃してきたら、今までやられたことがないほど激しく攻撃する」、「われわれの軍事装備は世界最高かつ最大で、イランがアメリカの基地やアメリカ人を攻撃すれば、ためらいなくそれらを送り込む」と立て続けに投稿してけん制しました。

イランではアメリカによる殺害の発表から丸3日がたったあとの現地時間の6日にも喪が明ける可能性があり、イラン側がどのような報復に出るのか、情勢は緊迫しています。

 

アメリカ 増派部隊が出発

AP通信などによりますと、アメリカ国防総省がイランとの緊張の高まりを受けて増派を決めた部隊の一部が4日、クウェートに向けて出発しました。

出発したのはアメリカ南部ノースカロライナ州を拠点とする陸軍第82空挺師団の数百人の兵士で、国防総省が4日に配信した映像では、兵士たちが装備の点検をしたり、航空機に搭載したりする様子が確認できます。

 

民主党 攻撃の判断に疑問 追及の構え

トランプ大統領の指示でアメリカ軍がイランの精鋭部隊の司令官を殺害したことに対し、野党・民主党は攻撃の判断に疑問を呈し、追及の構えを見せています。

民主党のペロシ下院議長は4日、法律の規定に基づき、政権側から軍事力を行使した際の報告を受け取ったとしたうえで「報告の文書からは攻撃を決定したタイミングや方法、そして正当性に関して、深刻で切迫した疑問を感じた」と述べ、攻撃の判断に疑問を呈しました。

そして「今回の攻撃は議会との協議も、軍事力の使用許可も、明確で適切な戦略の説明も、ないまま実施された」と述べ、政権側に説明を求めるとして判断の経緯や根拠などを追及する構えを示しました。

また大統領選挙の民主党の有力候補、バイデン前副大統領は3日、アイオワ州の演説で「現政権は最大限の圧力をかけてイランの侵略を阻止し、核合意でうまく交渉するとしてきたが、どちらにも失敗した。そして司令官を殺害しイランからの攻撃を防ぐというゴールを定めたが、この行動はほぼ確実に反対の影響を与えるだろう」と述べて、司令官の殺害がさらなる攻撃を引き起こすと批判しました。

アメリカではことし11月の大統領選挙に向けて選挙戦が本格化していて、今回の司令官殺害とイランとの緊張の激化が選挙戦の行方にも影響を与える可能性があります。

 

イラン軍司令官「米に反撃を実行する勇気ない」

イランのメディアが5日に伝えたところによりますと、イラン軍のムサビ司令官は「ソレイマニ氏の殺害は節度のない、許しがたい行為だ」と述べて、アメリカ軍の攻撃を改めて強く非難しました。

そのうえで、トランプ大統領がイランが報復に出た場合は、52の目標を選定して、直ちに反撃するとしていることについて「アメリカには実行する勇気がないと思う」と述べてけん制しました。(後略)【15日 NHK】

********************

 

「アメリカには実行する勇気がないと思う」・・・・相手の出方に対する読み違えから、緊張が次第にエスカレートして戦争へ・・・というのは、古今東西の戦争の歴史が示すところです。

 

イランの言う「アメリカの35の重要施設を狙うことができる」が何にを示すのかは知りませんが、トランプ大統領の「52の目標」については、“トランプ氏は、標的の52カ所について、1979年の在テヘラン米大使館人質事件で444日間にわたり人質となった米国人52人と同じ数だとし、「ハイレベルな場所」や「イランやイラン文化にとって重要な場所」が含まれるとした。「米国はこれ以上の脅しはいらない!」ともつづった。”【15日 朝日】とのこと。

 

アメリカの執拗なイラン嫌悪の背景に1979年の在テヘラン米大使館人質事件のトラウマがあると私は思っていますが、ここにきてまた事件の亡霊がさまよっているようです。

 

それにしてもこの緊張状態において、人質の数だか何だか知りませんが、言葉遊びのような真似はやめて欲しいものです。

 

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「ストの国」フランスでの異例の長期交通ストライキ 「不便」への国民の不満は?

2020-01-04 21:23:48 | 欧州情勢

(3日、フランスで、交通ストライキの影響で閉鎖された地下鉄の入り口の前を歩く人たち=AP【1月4日 東京】)

【1か月を超える交通スト 政権と労組の体力勝負へ】

昨年12月18日ブログ“フランス 年金改革に反対する5日からの交通スト、いまだ収束せず クリスマス突入か”でも取り上げたフランスでの、年金改革をめぐる昨年末からの交通ストライキは、クリスマス突入どころか年が明けても止まず、1月4日で31日目に入っています。

 

現在の日本とは異なり、ストライキがごく一般的にみられるフランスでも、さすがにこれほど長期化した交通ストはないようです。

 

“交通機関のストは、給与体系など待遇改善を求めた一九八六~八七年の二十八日間が過去最長だった”【1月4日 東京】

 

マクロン政権と労働組合側の体力勝負の様相を呈しています。

 

****大規模ストで大混乱!正念場のマクロン政権*****

年の瀬を襲ったフランスの大規模ストライキ。首都パリの都市機能がマヒし、経済への影響が懸念されるなか、ストの拡大・継続により、正念場を迎えたマクロン政権の今後を展望する。

―パリは“通勤交通戦争”状態―
フランスの首都パリの路上ではいま、毎朝のように大渋滞が起きている。主要道路は、車が全く動かないことも珍しくない。立ち往生したり、無理な割り込みを試みたりするドライバーには、他の車から容赦ない罵声が浴びせられることもしばしばだ。

また、地下鉄はほとんどの路線がストップし、バス停は、山のような人だかりで、乗るときに罵り合いやケンカが始まることも珍しくない。

都市機能がマヒし、公共交通機関のストップにいらだつ大勢の市民。これが現在のパリの姿だ。

―“ストの国”仏でも異例の大規模スト―
パリに大混乱をもたらしているのは、政府の年金改革に反対するストライキだ。12月5日に、フランス最大の労働組合の一つが呼びかけて実施したストには、政府発表で80万人が参加した。

この結果、高速鉄道の9割が運休し、エールフランス航空が、中・近距離路線を中心に大幅に運航を取りやめた。またエッフェル塔やオルセー美術館が閉鎖。ルーブル美術館も営業時間の短縮を余儀なくされ観光にも深刻な影響が出ている。

労働者の権利意識の強いフランスでは、もともとストやデモは日常茶飯事。「フランス人が好きなものは、サッカーとデモとストライキ」などと揶揄されるほどだ。しかし、そんな“スト大国”フランスでも、今回の規模は異例。スト慣れしているはずの社会に大きな混乱が広がっている。

―労働者の怒りを買う年金改革とは―
労働組合の激しい怒りの対象となっているのはフランス政府の年金改革だ。政府は現在、業種ごとに42種類ある年金制度を一本化し、受給開始年齢を、62歳から64歳に引き上げようとしている。

現行の制度で、公務員は、一般の民間企業の労働者に比べ、最大で2倍近い年金を受け取れたり、重労働とされる鉄道や海運などの労働者は、通常より10年以上早く退職し年金を受け取れたりするなど優遇措置がある。

 

こうした手厚い優遇制度を支えるための財政支出は、フランスのGDP全体の約14%に上り、OECD(=経済協力開発機構)の加盟国の平均7.5%をはるかに上回っている。

年金改革は、財政を圧迫する優遇措置をやめ不公平の是正をめざすものだ。しかし、これまで恩恵にあずかってきた労働者たちは、「既得権益」を守ろうと必死の抵抗を続けている。

改革への逆風が吹き荒れるなか、マクロン政権は12月11日、新たな制度を段階的に実施し、当初の計画より幅広い世代を適用除外とするなど一定の譲歩を示した。

しかし、改革の本筋を変えない姿勢に、組合側は、「国民をバカにしている」と猛反発。ストの無期限延長を決定した。さらに、これまでストを控えていた別の大手労働組合も、「政府は越えてはならない一線を越えた」と反発し、ストへの合流を表明するなど、混乱は拡大・悪化の様相を見せている。

―鬼門の年金改革。「黄色いベスト」運動の合流でさらなる混迷へ?―
今回のストをみると同じフランスで1995年に起きた大規模ストがオーバーラップする。当時のシラク政権が発表した年金改革案に対し、交通・エネルギー・通信など広範な公共企業の労働者が猛反発。3週間以上続いたストで、パリは大混乱に陥り、改革は失敗に終わった。

 

今回、労働組合は当時のストを意識して、政府に圧力をかけており、撤回を求めて長期間の闘争も辞さない構えだ。

さらに混迷に輪をかけそうなのが、「黄色いベスト」運動のストへの合流だ。去年、燃料税の値上げをきっかけにフランス全土に広がった反政府デモ「黄色いベスト」運動。開始から1年以上がたち当時の勢いはないが、今回のストによる社会の混乱に乗じて抗議活動を再び活発化させようとしている。

―改革後退ならマクロン氏の権威失墜も―
「黄色いベスト」運動がピークだった1年前、マクロン大統領は「金持ち優遇」との激しい抗議デモに直面。燃料増税の凍結に加え、最低賃金の引き上げなどを国民に約束した。こうした譲歩により、財政負担は、日本円にして1兆円以上増加したという。

マクロン大統領は、就任当初、国民に痛みを伴う改革を速やかに実行し、国内に投資を呼び込むことでフランスを成長軌道に乗せ、国民に改革の成果を実感させることを目指していた。

しかし、「黄色いベスト」運動に対する妥協で、マクロン「改革」は挫折。今回もストに屈して、年金改革を撤回することになれば、2回連続の譲歩となり、改革からの後退を強く印象づけることになる。改革を旗印にしてきたマクロン政権の存立基盤は大きく揺らぎかねない。

また、イタリアなど、加盟国の債務削減が課題となっているEU(=ヨーロッパ連合)において、けん引役を担うマクロン大統領は、各国に財政規律の順守を求める立場だ。フランスの財政赤字がさらに膨らむことになれば、EU内でのメンツを保てなくなるだろう。

厳しい状況のなか、マクロン大統領は、退任後から支給される大統領特別年金(日本円で月額約75万円)を歴代大統領で初めて辞退する意向を表明。自ら身を切る覚悟を示してまで、ストの一時休止を求めたが、事態が収まる気配はない。

一方、世論調査では、当初、7割近くの国民がストを支持していたが、混乱が長引くにつれて支持が減少するなど、国民がうんざりし始めていることをうかがわせる。


実は、6割以上の国民が「年金改革は必要」と考えているというデータもある。そこからは、自分の受給額は維持したいが、このままの制度では、立ち行かないことを認識している多くの国民の姿が浮かび上がる。


しかし、現状では、こうした声はストの混乱にかき消され、表だっては、ほとんど聞こえてこない。事態の打開策が見えないなか、国民にねばり強く説明を重ね、改革を支持する民意を少しずつ掘り起こすことしか手だてはないのかもしれない。

マクロン政権は、2020年1月末に年金改革法案を提出し、夏までの法案成立をめざしている。国民生活や経済の混乱という窮地のなか、このまま改革姿勢を貫けるか、それとも、譲歩か。2020年は、マクロン大統領にとって非常に難しい政権のかじ取りを迫られる年となりそうだ。【1月3日 日テレNEWS24】

***************

 

マクロン政権側の「正念場」は上記のとおりですが、正念場なのは組合側も同様でしょう。

日本でかつて「スト権スト」を構えながらも敗北した労働側が、それを機に衰退していったように、これだけのストを構えて成果を得られなかった場合のダメージは労組側にとっても深刻なものになるでしょう。

 

そのため、マクロン政権、労組側、お互いに引くに引けないチキンレースともなっています。

 

【「不便」への「ぼやき」「苛立ち」はあっても、労働者の権利への表立っての批判は大きくならないフランス社会】

チキンレースの行方はわかりませんが、興味がもたれるのは、これだけの「不便」に対し一般国民がどのように思っているのかという点です。

 

上記にもあるように、年金改革の必要性は国民の6~7割が理解しているとも。

しかし、表だって労組側への「ストをやめろ!」との批判の声は大きくなっていないようです。

 

一方で、日本ではストライキどころか、「利用者に迷惑をかける」ということで、元日休業さえままならぬ状況が。

 

****元旦に休んで何が悪い!少しはフランスのストを見習うべき。元日は労働禁止でどうか:コンビニ営業問題****

元旦のコンビニ影響が問題になっている。

セブンイレブンでは、コンビニの24時間営業問題の議論のきっかけをつくった店のオーナーの、契約解除を決定。ファミリーマートでは、本部本部社員が店舗業務を代行する制度をつくった。

 

怒りが収まらない。元旦に休んで何が悪い! 元日にすら休めないなんて、家族と一緒にお雑煮を食べてお屠蘇を飲んでゆっくりできないなんて、会社は鬼である。非道である。人権侵害である。元日だけじゃない。3が日は、有無を言わさず全部休みにするべきである。

 

もちろん、例えば神社やお寺の門前町などが「ぜひとも、かきいれ時の元旦に営業したい」というのならすればいい。でもそうではないのに、なぜ元旦に開ける必要があるのだろうか。利用者の便利? 「正月3が日くらい我慢しろ~っ!」と叫びたい気持ちだ。

 

ここで問いたい。

利用者の方々、「あなたの『不便』は、人様のお雑煮とお屠蘇のお正月を犠牲にしなければならないほどのものなのですか?」。

 

非道な企業の方々、「あなたは、人様のおせちを囲む家族団らんを犠牲にしてまで、『金もうけ』が大事なのですか?」。 (中略)

 

元旦を休むのは人間の超初歩的な権利であり、日本の伝統であり、人手不足の問題じゃないでしょう!と言いたい。

ここで、目下ストライキ中のフランスと比較せずにはいられない。

 

フランスのストライキとは

フランスは今ストライキをやっている。年金改革に反対しているのだ。

目玉はあまりにも複雑化した年金制度を一本化すつためであり、フランス人の7割以上が制度の調整には賛成している。この制度改革で今までの恩恵を受けられなくなる人達や労働組合が、主に反対運動をしている。

 

ストライキでは、毎日大変不便な目にあっている。なにせ大半の列車や地下鉄が運休したり、運行時間や運行本数を制限したりしている。通勤通学には、いつもよりも2倍か、それ以上の時間がかかるので、朝早く家をでなければならない。

 

パリの街では、歩いている人が圧倒的に増えた。自転車やキックボードの数も増えた。見知らぬ人同士の自動車の乗り合いも増えている。

 

フランス人の偉いところは、みんなこの不便さに耐えて、じっと我慢しているところである。

 

人々もメディアも同じである。このような「労働者が権利を求める運動」そのものを、表立って批判することは、日本人から見たら「無い」といっていい。そういう社会なのだ。「権利を求める運動は必要だ。そのためには、自分に関係なくても、不便は我慢する必要がある」というのが、社会のコンセンサスなのである。

 

そして、デモやストなどを行った後に、政府と代表者が交渉を始める。こういう形が定着している。いわば儀式のようなものだ。

 

すごいなあと関心している。批判はないのか?


批判の形は、表立っては「ぼやき」と「商業に与える影響が大きい」というものとなる。

 

人々のインタビューでは「自分はこんなに不便を強いられている。疲れました」というのはOK。しかし「他の人のことも考えてほしい」「ストは迷惑だ」「ストをするな」とは決して表立っては言わない。(中略)

 

ニュースでも毎日「いかに経済に与える影響が大きいか」を報道している。でも、収入源で困っている業界の人も「こんなに困っている。このままでは店が立ち行かない」「雇用に響いてしまう」とは言うが、「ストをやめてくれないと本当に困ります」「他の人のことも考えてほしい」「いくらなんでもやりすぎです」とは決して言わない。

 

こうして労働者側には人々の無言の支援が常にあり、政府(や資本家)に圧力が加わっていき、交渉の力となる。政府側は、ストが長引くことによる世論の微妙な変化(「いくらなんでも、そろそろストをやめてほしい」という気持ち)を見ながら、どこまで妥協するか、どこを妥協しないかを探っていくのである。

 

表立っては言われない批判とは

筆者がストが始まったころ、すぐに友人たちから聞かれた、あまり表立っては言われない人々の不満は、「あのひとたち、ストをしたって仕事に行かなくたって、給料は減らないもんな」という皮肉であった。

 

特に今回年金削減の対象となるのは、今まで優遇されてきた公務員(またはそれに準じる立場の人)が多い。フランスは公務員天国で、ストをしている立場の人ですら、フランスの公務員は恵まれているとわかっている。

 

普通の人は、最初の数日はともかく、ストがあって会社に行かなければ、その分給料が減らされてしまう。あるいは有給を使うことになる。だから行かなければならないのだ。(ただしフランスでは、病欠の場合は3日を越えると国民保険から保証金が出る)。

 

だからやっぱりというべきか、最近のニュースでは「あの人達はどうやって仕事を休んでストをしているのか」という内容が報道されている。何でも「病欠」扱いの人が結構いて「ただでさえ大赤字の国保が、さらに出費を強いられている」という論調となる。これは直接の批判ではなく、間接的な批判という形である。

 

今回のストは大変大きく、不便はいつもの比ではない。ストは長引き、来年も続けるという。クリスマスと年末年始で、人々は帰省したり旅行したり移動の多い時期である。ニュースは毎日、「今日の運行状況」を報道している。

 

しかし、それでも「労働者の権利」のほうが大事なのだ。それを要求する人々には、自分には直接関係ないことでも、社会は黙ることで理解を示す、そして黙って耐えるのがデフォルトなのだ。

 

日本と比べずにはいられない。日本はなんと労働者の弱い国なのだろうか。

元旦すら休めないなんて、なんて非人間的なのだろう。元日を休む権利を要求しただけで契約終了だなんて、搾取にもほどがある。(中略)

 

そこで(ちょっと極端な)提案である。

◎元日は法律で労働禁止。

◎2日と3日を国民の祝日にする。

ただし働きたい場合は、届けと許可を得なければならないことにする。元日を休みたい人が許可を得るなんて、逆だと思う。デフォルトが間違っている。(中略)

 

企業は、金を搾り取りたいというよりも、サービスを減らしたら競争相手に負けてしまうのが怖いのはわかっている。だから「みんなで休めば怖くない」を実践するしか方法がないと思う。業界協定でもいいが、法規制するのが一番確実だと思うが、いかがだろうか。【12月30日 今井佐緒里氏 YAHOO!ニュース】

**********************

 

最近メディアを賑わせているカルロス・ゴーン被告の不法出国問題。

 

もちろん日本としては腹立たしい話ですが、ゴーン被告の側からすれば、容疑自体に対する意見の相違の他、保釈中も妻に会えないなどの日本司法制度への不満があり、その根底には個人の権利に関する認識の違いがあるのでしょう。 

 

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アメリカ  トランプ大統領指示で国民的英雄ソレイマニ司令官を殺害 注目されるイランの対応

2020-01-03 23:08:45 | イラン

(イランの最高指導者ハメネイ師(左)とソレイマニ将軍(2015年3月)【2018 年 2 月 21 日 WSJ】)

 

【「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた」米国防総省】

正月早々、アメリカ・トランプ大統領が非常に思い切った作戦に出たことは報道のとおり。

 

****米軍、イラン有力司令官殺害=トランプ氏指示、イラク空爆―ハメネイ師「厳しい報復」****

米国防総省は2日夜、トランプ大統領による指示で、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表した。ロイター通信によると、米軍はイラクの首都バグダッドで空爆を実施。

 

ソレイマニ司令官とイラクのイスラム教シーア派組織「カタイブ・ヒズボラ(KH)」の指導者アブ・マフディ・アルムハンディス容疑者が死亡した。

 

ソレイマニ司令官が率いるコッズ部隊はイラン革命防衛隊で対外工作を担う。KHもイラン革命防衛隊の支援を受けている。米軍がソレイマニ司令官らを殺害したことで、米イラン間の対立が一層激化する恐れがある。

 

AFP通信によると、イラン革命防衛隊も声明を出し、バグダッドの空港で現地時間の3日午前、米国による攻撃によりソレイマニ司令官が死亡したと発表。イラクのシーア派武装勢力の連合体「人民動員隊」の報道官は、空港で車列を標的にした空爆があったと指摘した。

 

ソレイマニ司令官殺害を受け、イランの最高指導者ハメネイ師は3日、ツイッターに投稿し、米国を念頭に「手を血で汚した犯罪者を待っているのは厳しい報復だ」と宣言。イラン全土が3日間喪に服すと発表した。イランのザリフ外相もツイッターで「極めて危険で愚かな緊張の拡大だ」と非難した。

 

米国防総省は声明で、「米軍は大統領の命令で、海外展開する人員を守るために決定的な自衛行動を取った」と表明。作戦内容の詳細は明かさなかったが、「イランの今後の攻撃計画を抑止することが目的だった」と説明した。

 

米軍は先月末、KHが駐留米軍基地を攻撃したとして、イラクとシリアにある拠点5カ所を空爆した。イラクでは少なくとも戦闘員25人が死亡したとされ、在イラク米大使館前で大規模反米デモが起きるなど緊張が高まっていた。

 

エスパー国防長官は2日、国防総省で記者団に、イランと親イラン派がさらなる攻撃を計画している兆候があると述べ、自衛のためには先制攻撃も辞さないと警告していた。【1月3日 時事】 

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イランに対するトランプ大統領の嫌悪感は今に始まった話ではありませんが、年末からのシーア派民兵らによる在イラク米大使館前での大規模反米デモにはイランに対する強い苛立ちを見せていました。

 

****トランプ氏、イランは「大きな代償」=米軍、中東に750人増派****

トランプ米大統領は31日、イラクの首都バグダッドにある米大使館がデモ隊から投石などを受けたことについて、「米国の施設が損害を受けたり、人命が失われたりした場合、イランが全責任を負う」とツイッターに投稿した。その上で「とても『大きな代償』を払うことになる! これは警告ではなく脅迫だ」と強くけん制した。

 

トランプ氏はこれに先立ち、イランが大使館前のデモを扇動していると非難していた。

 

イランをめぐる情勢が不安定化する中、エスパー米国防長官は31日、中東地域に兵士約750人を増派すると表明した。声明で「米国の人員と施設に対する脅威が増していることを受けた適切な予防的措置だ」と説明。今後、さらに増派する可能性も示唆した。【1月1日 時事】 

****************

今にして思えば、この段階ではすでに、作戦の準備が進んでいたのでしょうね。

在イラク米大使館前で大規模反米デモの方は、“バグダッドからの報道によれば、デモ隊は同日(1日)、イスラム教シーア派武装勢力の連合体「人民動員隊」の呼び掛けに応じ、米大使館前から撤収した。”【1月2日 時事】ということで、少し落ち着きを取り戻すのかと思っていましたが・・・。

 

アメリカ側はあくまでも「予防的措置」だったと主張しています。

 

****司令官殺害 アメリカとイランはどう主張したか ****

(中略)

米国防総省「この先のイランによる攻撃防ぐため」

声明では「大統領の指示を受けてアメリカ軍は海外に駐留する人員を保護するために断固たる防衛的措置を取り、アメリカがテロ組織に指定しているイランの革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した」として、攻撃はトランプ大統領の指示によって行われたとしています。

そのうえで声明では「ソレイマニ司令官は、イラクや周辺地域でアメリカの外交官や軍人を攻撃する計画を進めていた。彼は過去、数か月にわたり、イラクの基地をねらった攻撃を画策し、アメリカ人やイラク人を死傷させた。また、今週起きたバグダッドのアメリカ大使館の襲撃を承認していた」と批判しています。

そして「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた。アメリカは、国民と国益を守るために世界のどこにおいても必要なあらゆる措置を取る」と警告しています。(後略)【1月3日 NHK】

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【国民からの信頼のあつい「英雄」の死】

今回のアメリカの攻撃が衝撃なのは、殺害されたイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が大物中の大物だからです。

 

単に肩書・役職の上で高い地位にあるということではなく、文字どおりイランの「英雄」であり、大統領以上(おそらく最高指導者以上)に国民から信頼を寄せられていた人物でした。

 

「予防的措置」とは言いつつも、そうした「英雄」をいきなり殺害してしまうというところが、「非常に思い切った作戦」と感じた所以です。

 

ソレイマニ司令官については、これまでも折に触れ取り上げてきましたが、2018年2月23日ブログ“シリアでのクルド人勢力と政府軍の共闘 背後にイランの同意 イランの影響力拡大を警戒するイスラエル”で紹介した、下記記事が彼の存在感をよく示しています。

 

****イラン国民に人気高まる将軍、その正体とは ****

米当局者はテロ支援者だとみなすが、イラン国民は英雄視する

米当局者たちは、イラン革命防衛隊(IRGC)の精鋭組織「コッズ部隊」の司令官を務めるカセム・ソレイマニ将軍をテロ支援者とみなしており、数千人に上る米軍兵士や中東同盟国の兵士の戦死の究極的な責任者だと考えている。

 

だが多くのイラン人は、ソレイマニ将軍が中東地域で影響力を増大させつつあるイランの顔であり、外国からの侵略を防御するための最善の人物だとみている。

 

ハッサン・ロウハニ大統領の支持率が低下しているのとは対照的に、ソレイマニ将軍への国民の注目度は急上昇している。

 

米メリーランド大学が最近行った調査によると、イラン人のうち、同将軍を「非常に好意的」に見ているとの回答は64.7%に上った。これに対し、ロウハニ大統領への好意的な見方は23.5%にとどまった。この数字からは、イランの中東での戦争の立役者が、同国で最も人気の権力者であることがうかがえる。

 

これは、イランが中東で自国の影響力保持に取り組んでいることに国民の支持が集まっていることの表れだ。(中略)

 

ソレイマニ将軍は現在60歳。イランが進めるイラクでのシーア派民兵の武装化やアサド政権への支援を代表する顔であり、イランで最も有名な人物の1人だ。

 

前線を訪れる際にはカメラマンたちが随行する。白いひげと白髪が特徴的な同将軍は、イラクやシリアの民兵たちとの自撮りにも応じている。ユーチューブには、同将軍に敬意を示す動画が数多く投稿されている。

 

同将軍が率いるコッズ部隊は国外での作戦を担当し、最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師の直属部隊だ。イラン革命防衛隊(IRGC)は国内で政治的弾圧の過去を持っているが、ソレイマニ将軍の人気から若干の恩恵が受けられるとみられる。それは、IRGCの影響力を抑えようとするロウハニ大統領の試みを阻止する一助になるだろう。(中略)

 

米国は2007年、コッズ部隊をテロ支援組織に指定。イランがイラクやシリア、レバノン、イエメンでシーア派民兵集団に資金や装備などを提供する工作の背後にいる重要人物として、ソレイマニ将軍を特定した。

 

イランは数々の拠点を設け、自分たちに忠誠を誓う集団を支援することで、隣国イラクからの軍事的脅威を防ごうとしている。また、テヘランからレバノンの地中海沿岸につながる回廊を作ろうとしており、それによって陸路で武器や人員などを補充する構えだ。

 

イラン国内でソレイマニ将軍は、過激派組織「イスラム国(IS)」を国境に近づけないようにしたとして高く評価されている。メリーランド大の調査によると、シリア内戦勃発から7年がたった今、イランがISと戦う集団への支援を増やすべきだと考えるイラン人は55%に上っている。支援を減らすべきだと答えた人はわずか10%だった。

 

多くのイランの指導者には汚職疑惑がつきまとうが、ソレイマニ将軍は富を避け、イラン・イスラム共和国のためなら進んで殉教者になるというイメージを打ち出してきた。

 

国際問題を専門とするワシントンのシンクタンク「アトランティック・カウンシル」の非常勤フェローであるアリ・アルフォネ氏は、「ソレイマニ氏を公の場に登場させることは、中東におけるイランの戦争に世界中のシーア派教徒を動員しようとする作戦の1つだ。この種の英雄をイラン体制は必要としている」と述べる。

 

IRGCの評判は、2009年の反体制運動弾圧を受けて下がっていたが、財政的には、バラク・オバマ前米大統領時代に科された米国主導の制裁からかえって恩恵を受けた。IRGCはイランの治安組織を牛耳っていたため、外国企業が撤退した空白に入り込むことができたのだ。建設、空港の運営や文化面の投資といった活動により、IRGCは有力な政治勢力になっている。

 

ソレイマニ将軍は政治的争いから一線を画し、大統領選への出馬要請を無視してきた。だが、シリアやイラクで外交的なアプローチを取ろうとするロウハニ大統領らの試みには手厳しく反応している。外交では「国防の殉教者」の仕事をなし得ないと言うのだ。

 

シリアでは、ソレイマニ将軍はアサド体制の生き残りに貢献してきた。例えば2013年、アサド大統領が化学兵器を使用したとしてイラン政府が同盟関係を断ちたがっているように見えた時、将軍はレバノンのシーア派武装組織ヒズボラの戦闘員2000人に動員を要請し、シリア政府軍が要衝クサイルを奪還できるようにした。それがシリア内戦の転換点になった。

 

イラクでは、シーア派民兵を武装化し、PR工作を展開して個人的な信奉者を構築することによって、戦場を支配すると同様に政治も支配するよう努めた。(中略) 

 

ペトレイアス氏はメールで「こうした民兵組織は、イラクなどでの多くの米国人の死亡に責任があり、米同盟国などのはるかに多くの兵士の戦死や市民の犠牲に責任がある」と述べた。 

 

米国の懸念の兆候として、マイク・ポンペオCIA長官は昨年12月、ソレイマニ将軍に送った書簡で「(同将軍の部隊)管理下にある勢力によってイラクにある米国の権益が攻撃を受けたら」、同将軍が説明を負わねばならないだろうと警告した。 

 

ハメネイ師の側近によれば、ソレイマニ将軍は「私は(ポンペオ長官の)書簡を受け取らないし、読まないだろう。こうした人々に何も言うことはない」と語ったという。【2018 年 2 月 21 日 WSJ】

********************

 

上記記事は2年ほど前の記事ですが、“マイク・ポンペオCIA長官は昨年12月、ソレイマニ将軍に送った書簡で「(同将軍の部隊)管理下にある勢力によってイラクにある米国の権益が攻撃を受けたら、同将軍が説明を負わねばならないだろうと警告した。”という警告のとおりになったように見えます。

 

それも、“書簡を受け取らないし、読まないだろう”というソレイマニ司令官に、手紙に代えて爆弾を届ける形で。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も真っ青の“プレゼント”です。

 

上記記事が報じられた後の2年間で情勢が変わったところもあります。

 

アメリカの制裁で経済的苦境にあるイランでは昨年11月、ガソリン値上げを機にイラン全土で反政府デモが起き、これを厳しく鎮圧する当局によって、多大な犠牲者を出す混乱がありました。

 

そこではソレイマニ司令官指揮する革命防衛隊がイラン周辺国に資金を注ぎ込んでいることへの強い反発・不満が噴出しました

 

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イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。

 

中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

 

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

 

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。【2019年11月29日 BBC】

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また、上記【WSJ】にもあるように、外交を重視する穏健派ロウハニ大統領と強硬派革命防衛隊を率いるソレイマニ司令官は政治的には対立関係にもありました。

 

しかし、“アメリカの汚い攻撃”で殉死したら「英雄」です。

アフガニスタン復興支援で自民党政権とは全く異なる立場にあった中村医師も、「殉死」すれば手のひらを反すように「英雄」「偉人」として旭日小綬章が授与されるぐらいですから。

 

【報復に備えるアメリカ 成り行きを注視する世界】

これからイランがどのような報復措置に出るのかが世界中で注視されています。

イランもアメリカと正面からことを構えるのは得策ではないでしょうが、感情的なものは損得の判断を超えることもあります。

 

****「疑いなく反撃する」 イラン司令官殺害、米に報復示唆****

(中略)ソレイマニ司令官は、イランの最高指導者ハメネイ師に近い要人。イラン側は激しく反発し、米国への報復を示唆している。両国間の緊張は一気に高まり、直接の軍事衝突にも発展しかねない情勢だ。(中略)

 

殺害を受けて、ハメネイ師は3日間の服喪期間を設けると明らかにし、「偉大な司令官の血で染まった手を持つ犯罪者たちは激しい報復を受けることになる」と声明を発表。イランのロハニ大統領も、「恐ろしい犯罪に対して、イランは疑いなく反撃する」とした。(後略)【1月3日 朝日】

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****イラン司令官殺害、首都で追悼式 「米国に死を」敵意あおる****

イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官殺害を受け、首都テヘランや司令官の故郷などイラン各地で3日、追悼式典が開かれた。

 

参加者らは「米国に死を」とスローガンを唱え、米国への敵意をあおった。国営テレビは画面の左上に黒い帯を表示して弔意を示した。

 

国営イラン放送は3日早朝から司令官殺害に関連するニュースを流し続けた。号泣する高齢男性や、「ソレイマニ氏はわれわれの心の中で生き続ける。米国に反撃する」と訴える中年女性らのインタビューを伝えた。

 

国際協調に重きを置くロウハニ大統領も「イランは、必ず復讐を行う」とする声明を出した。【1月3日 共同】

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アメリカは報復措置を懸念して、イラク国内のアメリカ国民に直ちに国外に退避するよう求めています。

 

****司令官殺害 イラクの米大使館 米国民に“直ちに国外退避を” ****

アメリカ軍によるイランの革命防衛隊司令官の殺害に対し、イランが報復を強く警告するなか、イラクの首都バグダッドにあるアメリカ大使館は3日「イラクで緊張が高まっている」として、イラク国内のアメリカ国民に対し、直ちに国外に退避するよう求めました。

 

米大使館「航空便が望ましい 無理ならば陸路でも」

このなかでアメリカ大使館は「航空便で退避するのが望ましいが、それが無理ならば陸路でもほかの国に出るべきだ」と呼びかけています。

アメリカは、イラク国内で首都バクダッドに大使館を、また北部アルビルと南部バスラに領事館を置いているほか、アメリカ軍の部隊をイラク軍の基地などに展開させています。【1月3日 NHK】

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混乱を懸念して原油価格は4%ほど上昇しています。

万一の事態になれば、中東に石油を頼る日本も大きな影響を受けることにもなります。

 

英独仏は緊張緩和・自制を呼びかけています。ただ、「英雄」を殺害されたイランとしては「何もしない」という選択肢はないでしょう。

 

トランプ大統領の「決断」で世界は正月早々非常に厄介な状況となっています。どこまで検討・熟慮された「決断」だったのか疑問がありますが。

 

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移民・難民を阻む現実政治の壁、「無関心の壁」

2020-01-02 23:22:49 | 難民・移民

( イラク北部バルダラシュの難民キャンプに逃げてきたクルド人難民=20191128日、篠田航一撮影)【12月30日 毎日】)

 

【彼らは世界中で「無関心の壁」に突き当たっている】

人は、単にどこに生まれたのかという個人の力では如何ともしがたい理由で、その人生は苛酷なものになったりもします。

 

****ローマ教皇、移民のために祈り 「無関心の壁」と指摘 ****

ローマ教皇フランシスコは25日、カトリックの総本山バチカンにあるサンピエトロ大聖堂のバルコニーで、クリスマス恒例のメッセージを読み上げた。

 

教皇は「安心な生活を求めて母国を出ざるをえない」人々のために祈りを捧げ、彼らは世界中で「無関心の壁」に突き当たっていると述べた。

 

「不正義が彼らに砂漠や海を旅させ、そこを墓場にしている。不正義が、非人道的な難民収容所で彼らに、言語道断の搾取や、あらゆる形の隷属を強い、暴力や残酷な仕打ちにあわせている」(教皇)。

 

教皇は難民や移民への支援を教皇として最も重要な任務の1つに掲げており、2016年には、当時、大統領選の候補として移民の母国送還と国境の壁の建設を主張したドナルド・トランプ米大統領について「キリスト教徒らしくない」と述べた。

 

また同年、ギリシャのレスボス島の移民キャンプを訪れた際には、3組のシリア人家族をバチカンの難民として受け入れるためローマに連れ帰った。

 

クリスマスのメッセージは、中東など世界の紛争地について幅広く触れるのが恒例になっている。【2019 年 12 月 26 日 WSJ】

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【アフリカから欧州 「西方ルート」が増加】

よりよい生活を夢見て危険な旅に出て命をおとす人々は、いまだ少なくありません。

初期のトルコからギリシャへ入るルートがふさがれ、リビアからイタリアに渡るルートも取り締まりが厳しくなり、西アフリカからスペイン・カナリア諸島を目指す「西方ルート」が今増加しているとのことです。

 

****移民船沈没で62人死亡 西アフリカ沖****

西アフリカ、モーリタニアの沖合で4日、移民が乗った即席の船が沈没し、少なくとも62人が死亡した。欧州への密航者が増加する西アフリカ沖ルートでの事故としては今年最悪のものとなった。

 

船はスペインのカナリア諸島を目指す途中、岩に衝突して転覆。83人が自力で岸に泳ぎ着いた。

 

モーリタニア内務省が4日夜に行った発表によると、移民らは同じく西アフリカにあるガンビアの首都バンジュールからスペインへの密航を試みていた。(中略)

 

同当局者がAFPに語ったところによれば、船は西サハラとの境界線に近い町、ヌアディブの北約25キロの場所で岩に衝突して浸水し、沈没した。船から岸までは遠くなかったが、波が荒く接岸できなかったという。

 

生存者らはIOMに対し、沈没時、船には少なくとも150人が乗っていて、女性や子どももいたと話している。モーリタニア内務省も、船には150人から180人が乗っていたと説明。その大半が20歳代だったとしている。

 

IOMの統計によると、今回の死者数は「西方ルート」と呼ばれる航路での事故としては今年最多で、移民の水難事故としては世界で6番目に多い。

 

リビアから欧州を目指す航路は当局が取り締まっており、近年は西アフリカ諸国からカナリア諸島を目指すルートでの渡航が増加。IOMによると、同諸島に向かう途中で死亡した人は昨年1年間で43人だったが、今年はこれまで確認されているだけで158人前後に上っている。 【2019年12月6日 AFP】AFPBB News

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【シリア トルコに入れないイドリブ難民 故郷に帰れないクルド人難民】

一方、シリアなど紛争国では、戦闘から逃れる避難民が。

シリアでは、反体制派最後の拠点イドリブに対する政府軍・ロシアの攻撃が激化したことで、避難民が急増していますが、その向かう先であるトルコも今以上の難民受け入れを拒んでおり、国境は閉じられています。

 

行き場を失った人々を、更に飢えと冬の寒さが苦しめています。

 

****爆撃激化で23万人以上が避難 シリア北西部****

シリア北西部イドリブ県では、政府軍とロシアによる爆撃から逃れるためここ2週間で約235000人が避難する事態となっている。激戦地の町に通じる道路は27日、民間人で埋め尽くされた。

 

AFP特派員によると、現地では家族連れの民間人たちがマットレスや衣服、家電製品と共にピックアップトラックに乗ってイドリブ県南部から避難。その大半は、北方のより安全な地域へと向かった。

 

内戦開始から8年が経過したシリアでは、イドリブ県が反体制イスラム過激派の最後の主要拠点となっている。今年8月には停戦協定が結ばれていたが、シリア政権軍は今月中旬以降、同盟関係にあるロシア軍と共に同県南部での爆撃を強化。

 

国際社会は緊張緩和を要請しているものの、イドリブ県で続く今回の攻勢により、多くの民間人が死亡している。

 

国連人道問題調整事務所によると、今月1225日の2週間で235000人以上が避難。最も多くの避難民が出ているのはイドリブ県南部の町マーラトヌマンで、町は「ほぼ無人」になったという。

 

OCHAの報道官デービッド・スワンソン氏は27日、今月イドリブ県南部から避難した人々の8割以上は女性と子どもだと述べた。

 

イドリブ県北部ダナにある避難民キャンプに最近到着した5児の母は、顔を覆ったベールから疲れた目をのぞかせながら「キャンプには住めない。雨はとても強いし、暖房や服、食べ物も必要」と語った。 【1228日 AFP】

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23万人という数字は日増しに増えていると推測されます。

 

政府軍・ロシアの攻撃は今も続いており、下記記事では避難民の数は40万人以上とも。

 

****イドリブ情勢(シリア)****

シリア北西部のイドリブでは、昨年末から政府軍機とロシア機の激しい空爆と、それに援護された政府軍等の攻撃が続いていて、40万以上とされる避難民がトルコ国境向けて非難していますが、al sharq al awsat net は、シリア政府は虐殺をもって2020年の幕を開けたとして、政府軍等及びロシア機の激しい攻撃、特に民間人に対する攻撃を伝えています。


・政府軍はイドリブの東部に対する地対地ミサイルが1日、学校に落下して、シリア人権監視網によると、児童4名、婦人2名を含む8名が死亡し、16名が負傷した由。


・また同じく1日、政府軍機がイドリブ南を空爆し、31~1日にかけてはロシア軍機が、イドリブ周辺で22回の空爆をこなった由(後略)【1月2日 「中東の窓」】

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同じシリアでは、昨年10月のトルコ軍の侵攻によってクルド人の避難民も多数発生していますが、政府軍の駐留によって帰還も難しくなっています。

 

****クルド難民「徴兵」恐れ帰還できず 狙われる若者 アサド政権、戦闘員「受け入れ用意」****

トルコ軍によるシリア北部のクルド人勢力への攻撃を受け、シリアのクルド人住民が隣国イラクに押し寄せている。

 

大規模な戦闘は収まったが、かつてのクルド人居住地域には現在、アサド政権軍が駐留を始めている。「帰ればアサド政権に拘束され、徴兵される」との理由でシリアに戻ることを拒む若者も多く、帰還のめどは立っていない。

 

イラク北部クルド自治区バルダラシュ。山岳地帯の一角に、国連や地元クルド自治政府の支援で設置された難民キャンプがあり、敷地内に数百の白いテントが並ぶ。

 

「トルコ軍は昼夜なく町を空爆した。学校に向かう路上には黒焦げの遺体が転がっていた。今もあの光景が夢に出る。戦闘再開の恐れもあり、もう戻りたくない」。シリア北部ラス・アルアインから10月中旬に家族と共に逃げてきた高校生、ハジャールさん(17)は振り返る。

 

だが帰還を拒否する理由として「アサド政権軍に拘束された友人もいる。戻って徴兵されるのが怖い」(25歳の男性)といった声も目立った。

 

トルコ軍は10月9日、テロ組織とみなすシリア北部のクルド人勢力への軍事作戦を開始した。それまでは現地の駐留米軍が過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦でクルド人と連携していたため、米国の同盟国・トルコは大規模攻撃を控えてきたが、米軍が撤収を始めたことから、トルコはこの機会を利用して攻撃を開始。10月17日に停戦が実現したが、散発的な衝突はその後も続く。

 

一方で今回のトルコ軍の攻撃は、2011年から続くシリア内戦の構図も変えた。従来、アサド政権と反体制派の戦闘に対し、シリア北部を支配するクルド人勢力は「中立」を保ってきた。

 

だがトルコ軍のシリア領内侵入を「主権侵害」とみなすアサド政権が「自国民のクルド人保護」を名目に10月中旬からクルド人支配地域に進軍したのだ。

 

「町には続々と政権軍がやって来て、クルド人の若者を探していた」。テントの中、電気ストーブで暖を取っていた50代の女性が話した。アサド政権は18歳以上の男性に2年程度の兵役を課しているが、内戦で多くの兵士が死傷。シリア国防省は既に国営シリア・アラブ通信を通じ、「新たにクルド人戦闘員を受け入れる用意がある」との声明を出した。

 

山岳地帯の難民キャンプは冷え込みが厳しく、衣類や防寒具も不足しているが、「ここでは徴兵されないだけまし」との声も聞いた。

 

クルド自治区の難民支援NGO「バルザニ慈善財団」によると、バルダラシュのキャンプに逃げてきたクルド人難民は11月末時点で約1万6000人。「戦闘再開の恐れ」「徴兵」という懸念材料を前に、大半の難民は帰還のめどが立っていないという。【12月30日 毎日】

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【トランプ政権による「メキシコ待機政策」で行き場を失う人々】

メキシコでもアメリカに入れず行き場を失った移民が。

 

****行き場を失う移民 移民大国アメリカの行方*****

2020年のアメリカ大統領選で、国境・移民政策が重要争点のひとつになるのは間違いない。トランプ大統領は、2019年もメキシコとの国境沿いで取り締まりを強化し続けてきた。自らのウクライナ疑惑が注目されている間もだ。

2020年、トランプ大統領が再選に向けて不法移民対策の実績を声高に強調する姿が浮かぶが、国境沿いでは行き場を失った移民が漂流し、トランプ政権の政策は非人道的だとの批判が高まっている。

国境に移民を寄せつけない“メキシコ待機政策”
カリフォルニア州と接する国境の町、メキシコ・メヒカリ。去年10月、多くの移民が滞留している施設があるとの情報を得て、その場所へと向かった。(中略)

ここは「移民の宿」と呼ばれる一時的な宿泊場所だ。元々は廃虚となっていたホテルで、今、民間の支援団体が運営してホンジュラスなど中米出身の移民らを受け入れている。給湯設備などは使えないものの、雨や風をしのぐ最低限の生活場所となっていた。

「冷蔵庫など足りない物はたくさんあるが、寄付でなんとかやりくりをしている」と語る運営責任者自身も、かつては移民だったという。

そんな施設に2019年、入居を希望する移民が急増した。その背景にあったのは、トランプ政権による「メキシコ待機政策」だ。

2018年、中米出身者らによる大規模移民集団「キャラバン」がアメリカ国境へと押し寄せた。これを受けてトランプ大統領は、入国して移住するための手続きをさらに厳しいものへと変更。

 

それまで審査中の移民はアメリカ国内で待機することができたが、逃走のおそれがあるなどとしてメキシコ側に送り返して審査の順番待ちをさせるようにした。

シラキュース大学の調査によると、これまでに送り返された移民は5万6000人に上る。「不法移民はアメリカへの侵略者」だとするトランプ大統領としては、移民らの一時滞在をメキシコ側に押しつけた形だが、一方のメキシコ政府も受け入れ態勢は整えられていない。

そのため民間団体のシェルターや教会などが受け入れを担っているが、収容可能人数を超えているとの指摘もある。メヒカリの「移民の宿」には、取材で訪れた時点で約330人が滞在し、6畳ほどの部屋を5人ぐらいで使用していた。

ここで出会ったホンジュラス出身の女性は、約3か月前から7歳の娘と2人で滞在していた。犯罪集団のギャングによって母国の治安が悪化し、娘により良い教育を受けさせようとアメリカに入ったが、当局に審査日までメキシコで待つよう指示されたという。

女性は、当局から渡された審査の呼び出し状を大切に持っていた。「再び送り返されることになってもメキシコで待ち続ける」。娘の前では笑顔で振る舞うが、1人で応じたインタビューでは「母国にも戻れず不安」だと涙を浮かべた。

約1か月後、女性は審査を受けた。しかし入国は認められず、再びメキシコ側に送り返され「移民の宿」へと戻ってきた。

「移民の宿」の運営責任者は「滞在している移民の中には5回目の審査を待っている人もいる」と話す。送り返される移民の増加や滞在期間の長期化で物資不足が深刻になるなど、受け入れが限界に近いという。

この「メキシコ待機政策」は、単にメキシコ側で待たせるだけではなく審査自体も厳格化されている。先のホンジュラス出身の女性の場合、アメリカの当局側が求める迫害を受けた証拠を示すことができなかったとみられる。

さらに取材を通してわかったのは、そもそもアメリカの当局がどのような書類を求めているのか、移民らが把握できていないということだ。犯罪集団に命を狙われていると訴える移民らだが、シラキュース大学によると、送り返された約5万6000人のうち、これまでにアメリカで保護されたのはわずか100人あまりだという。

この政策に対し、カリフォルニア州の移民支援団体ボーダー・エンジェルの幹部は「移民らは命の危険から逃れてきたのに、再び厳しい環境へと追いやられている。安全に暮らす権利を奪う非人道的な政策だ」などと強く批判し、次の大統領選で大きな争点になると考えている。

「壁をつくる」実現困難公約めぐり論戦必至
トランプ大統領は再選に向けて、この「メキシコ待機政策」などを持ち出し、不法移民を寄せつけない安全な国境を実現しているとアピールする可能性がある。

ただ、国境・移民政策においては頭の痛い状況も抱え続けている。前回の選挙で看板公約にした「国境の壁」の建設が思うように進んでいないのだ。

3000キロあるメキシコとの国境沿いに不法移民や麻薬の密輸対策で壁を築くものだが、アメリカのメディアによると十分な建設予算がいまだに確保できておらず、建設できても一部分にとどまる見通しだという。

移民大国アメリカはどこへ向かうのか。2020年の大統領選で、移民の受け入れと「国境の壁」をめぐって激しい論戦が繰り広げられるのは必至だ。【1月1日 日テレNEWS24】

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もちろん、「国内にも支援を必要としている者が多数存在する。国家は自国民を優先すべき」というのは現実論でしょう。

 

ただ、そうであるにしても、移民・難民など追い返せばいい、死のうがどうなろうがしったことではない・・・・というのであれば悲しい感も。

 

どこまでなら対応できるのか、何ができるのか・・・そういう方向で現実的対応を模索することはできないのか・・・

 

 

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