孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  コロナ禍のもとでの総選挙 選挙から排除されるイスラム教徒 中国マネーの影

2020-10-21 23:22:52 | ミャンマー

(ネピドーで9月27日、NLDの32周年式典にフェースシールドをつけて出席したアウンサンスーチー氏 【10月20日 朝日】)

 

【総選挙 コロナ禍の選挙運動制限を利用するスー・チー与党】

世界が注目するアメリカ大統領選挙は11月3日に迫っていますが、ほぼ同時期の11月8日にはミャンマーの総選挙も行われます。

 

8月22日ブログ“ミャンマー総選挙  陰りが見えるスー・チー人気 ロヒンギャ対応では軍政と同じとの批判も”でも書いたように、ノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チー国家顧問は、ロヒンギャ難民問題をめぐり国際的な評価はがた落ちになったものの、国内では今も根強い人気を誇っています。

 

ただ、前回総選挙時の圧倒的人気とは様相も異なります。

 

新型コロナで選挙活動が制約されるなかで、スー・チー氏は政権党および圧倒的知名度の強みを最大限に活用して勝利を目指す戦略のようです。

 

****「与党有利で不公正」批判 ミャンマー、コロナ下に来月総選挙*****

ミャンマーの総選挙が11月8日に実施される。前回は軍の政治支配に終止符を打つ歴史的な転換点となったが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で、街頭活動がままならない中での選挙戦になった。

 

圧倒的な知名度を誇るアウンサンスーチー国家顧問が率いる与党が優勢を保っているが、野党勢力からは「公正な選挙戦ができない」と批判の声が上がっている。

 

「選挙はコロナとの闘い以上に、ミャンマーの将来にとって重要だ」。スーチー氏は9月下旬、与党・国民民主連盟NLD)のオンライン会議で訴えた。野党側は再三、延期を要求したが、政権側は予定通り選挙を実施する構えだ。

 

8月中旬までミャンマーの累計感染者は数百人で推移したが、移動制限などを緩めた途端に感染者が急増した。最大都市ヤンゴンなどで外出を禁止する措置を取ったが、感染拡大のペースは落ちていない。都市部などで街頭での選挙活動が規制され、NLDが数万人の支持者を集めた5年前とは対照的な光景が広がる。

 

前回の総選挙では、民主化運動の指導者だったスーチー氏が率いるNLDが大勝し、軍の政治支配が半世紀以上続いていたミャンマーの歴史を変えた。

 

今回は5年間のNLDの実績が問われ、最大野党で国軍系の連邦団結発展党(USDP)や、少数民族政党がNLDにどこまで迫れるかが焦点だが、選挙運動が十分にできないことへの野党側の不満は強い。

 

選挙運動がままならなければ、圧倒的な知名度のスーチー氏が率い、国営メディアなどを通じて政策も訴えられる与党に有利に働くためだ。

 

NLDからたもとを分かった民主派の人民先駆者党(PPP)や、軍人出身のシュエマン元下院議長の連邦改善党(UBP)などの新党も苦しい選挙戦を強いられている。都市部はNLDの大票田のため地方での得票が勝負どころだが、移動制限で現地入りすら難しいのが実情だ。

 

 NLD、進まぬ2大公約

歴史的な政権交代を果たしたNLDだが、2大公約だった「少数民族和平」と「憲法改正」はこの5年でほとんど進んでいない。

 

多民族国家ミャンマーでは長年、少数民族と国軍の内戦が続く。前回選挙で少数民族勢力は、和平の進展を期待して多くがNLDを支持したが、和平交渉は停滞。今回は一定数がNLDに見切りをつけ、地元の少数民族政党に投票するとの見方が出ている。

 

憲法改正でも苦戦している。NLDは今年1月、国会の議席の4分の1を軍人に割り当てている現憲法の「軍人枠」などの改正案を提出したが、軍人議員らの反対で否決。総選挙を前に改憲の意思をアピールするのが精いっぱいだった。

 

スーチー氏はこの間、現在も政治に強い影響力を持つ国軍を刺激しない政権運営に終始した。少数民族和平や憲法改正で協力を得るためだったとみられるが、言論の自由を後退させたと指摘されている。

 

一方で、長年にわたり民主化運動を率いてきたスーチー氏の人気は根強い。民主活動家で、1988年の民主化運動にも参加したジーミー氏は「民主主義のために今後もNLDを支援し続ける」と期待を寄せる。

 

国際社会から厳しい批判を浴びている少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害問題は、選挙の争点にはなっておらず、与党側にとってマイナス要因にはなっていない。

 

ミャンマー現代史に詳しい根本敬上智大教授は上下院664議席で、NLDは前回より議席を減らしつつも、過半数を維持するとみる。「投票率は下がると思うが、『スーチーしかいない』という、半ば消極的な支持でNLDが勝つだろう」と分析する。【10月20日 朝日】

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【選挙から排除されるイスラム教徒、ロヒンギャ】

東京でも“在外投票が3日、東京都内のミャンマー大使館で始まり、早朝から数百人が列を作った。名古屋の名誉領事館と合わせ約8千人が14日までに投票する見込み。投票した人からは「改革を続けてほしい」と、民主化の前進を願う声が聞かれた。”【10月3日 共同】

 

しかし、国内少数派のイスラム教徒、特に問題となっているロヒンギャなどは、選挙に参加できない者が多いという実態も。

 

****投票したい…選挙から除外されるイスラム教徒ら ミャンマー****

ミャンマーのメイ・タンダー・マウンさんは、11月の総選挙で初めて投票するのを心待ちにしていた。

 

しかし、マウンさんは「イスラム教徒だからという理由で、身分証明書を取得できていない」と話す。身分が証明できなければ、投票はできない。

 

マウンさんの身分証明書を取得しようという試みは、地元当局によって1年以上にわたり妨げられてきたという。一方、仏教徒はこのような問題とは無縁だ。

 

マウンさんの故郷ミャンマー中部のメティラは、2013年に仏教徒とイスラム教徒の衝突の傷痕が今も残っている。

 

仏教徒が多数を占めるミャンマーでは、2011年の民政移管後から2度目となる総選挙が11月8日に行われる予定だ。アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟が再び政権を握るとみられている。

 

今回の総選挙では、バングラデシュの難民収容所や、ミャンマー国内の避難民キャンプや村に閉じ込められているイスラム系少数民族ロヒンギャの選挙権はほぼ全員剥奪される見込みだ。

 

ミャンマーには、ロヒンギャ以外にもイスラム系民族がおり、人口の約4%を占めている。このようなイスラム系民族は、理論上は市民として認められているものの、実際の扱いは異なっている。

 

「学校、職場で差別されている他、公職への就業機会にも違いがあり、反イスラム感情は絶えず存在する」と話すのは、ヤンゴンを拠点に活動するアナリストのデービット・マシソン氏だ。

 

また、身分証明書を取得できたとしても、民族を記載する欄があるため苦難は続く。イスラム教徒の身分証明書には、主に南アジア出身であるという偽の民族が記載されることが増えている。

 

約25万人いるヒンズー教徒も「混血」と記載されるという、同様の問題に直面している。

 

■「最も好ましくない」民族

だが、最も好ましくないとされる民族は、主に迫害を受けているロヒンギャを指す蔑称として使われる「ベンガル人」だ。

 

2017年8月のミャンマー軍の弾圧によって75万人のロヒンギャが、ミャンマーのラカイン州からバングラデシュに逃れた。この弾圧は、国際司法裁判所がロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判を開くきっかけにもなった。

 

ミャンマー国内では今も約60万人のロヒンギャが暮らしているが、市民とは認められず、権利も剥奪され、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが「アパルトヘイト」と呼ぶ状況で暮らしている。

 

マシソン氏によれば、最近ではイスラム教徒が「ベンガル人」として登録させられる事例が全国で相次いで報告されているという。

 

同氏は、NLDは「支持者の多くが問題視していない人種差別的な制度を修正するよりも、重要なことがある」と考えていると非難した。

 

イスラム教徒のマウン・チョーさんは、軍事政権の時代よりもイスラム教徒に対する差別はひどくなっていると指摘する。イスラム教徒は「失望し、意気消沈して」おり、自身の多くの知り合いは、現政権に幻滅し、総選挙では投票しないと決めていると述べた。 【9月15日 AFP】

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「ベンガル人」として登録すると、生粋のミャンマー国民とは異なる海外から移民扱いにもなります。

仏教徒以外をミャンマー国民から排除しようという試みでもあり、ロヒンギャ弾圧と根を同じくする問題です。

 

【ロヒンギャ迫害の国際司法裁判】

そのロヒンギャ問題については、上記記事にもあるように国際司法裁判所においてロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判が行われており(訴えたのは西アフリカ・ガンビア)、昨年12月、スー・チー氏本人が出廷し、ほぼミャンマー国軍を擁護する主張に終始したことも話題になりました。

 

その後の話は聞いていませんが、進行中であるのは間違いないようです。

 

****ロヒンギャ迫害の国際裁判参加=カナダとオランダ、原告支援****

カナダ、オランダ両政府は2日、共同声明を出し、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害をめぐる国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)での裁判に参加すると発表した。ジェノサイド(集団虐殺)があったとしてミャンマー政府を提訴している原告のガンビア政府を支援する。

 

声明では、残虐行為の責任を追及しジェノサイド条約を守ろうとするガンビアを称賛し、「全人類に関わるこうした努力を支えるのは、われわれの義務だ」と強調。特に性的暴力に関連する犯罪行為を重視して協力する方針を示した。また、ほかの条約締約国にも支援を呼び掛けた。【9月3日 時事】 

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どういう経緯でガンビアが表に立っているのかは知りませんが、やはり批判の主体である欧米が前面に出るべきでしょう。

 

この問題でのミャンマー、そしてスー・チー氏への批判は未だ収まっていません。

“ミャンマー軍兵士、動画でロヒンギャの大量殺害告白 人権団体が主張”【9月10日 CNN】

“スーチー氏、人権賞グループの活動資格失う 迫害黙認で”【9月10日 朝日】

 

【中国マネーで進む開発 環境問題などで政権が住民と中国の板挟みになることも】

今日目にした記事は、中国の影響に関するもの。

軍事政権時代、欧米からの制裁を受けていたミャンマーは中国に接近しました。

 

民主化によってその影響は薄れるように思えたのですが、昨今のロヒンギャをめぐる欧米との対立、ミャンマーを「一帯一路」の要として重視する中国の対応もあって、やはり中国の影響は色濃いようです。

 

****急増バナナ園、中国マネーの影 ミャンマー北部、健康被害の懸念****

ミャンマー北部のカチン州で、急拡大するバナナ農園に地元の人々から反対の声が高まっている。実質的に農園を運営するのは中国企業。土壌や水の汚染、住民の健康被害が報告されているなかで、ミャンマー政府の対応は――。

 

 ■農薬散布「焼けるような痛み」

3~4メートルほどの高さのバナナの木が生い茂る。濃緑の大きな葉に遮られ、昼なのに暗い。カチン州ワインモーでは至るところにバナナ農園が広がっている。

 

ただ、働き手を取り巻く環境は過酷なようだ。2年間、農園で殺虫や除草などの仕事をしているタンラーさん(38)は、農薬や殺虫剤をまく時期に毎日のように、体全体に焼けるような痛みを覚える。

 

毎日12時間働き、賃金は夫と合わせて月16万チャット(約1万3千円)。昨年出産した男児の腹からは腫瘍(しゅよう)が見つかった。「農薬との関係はわからないが、家族全員の体がむしばまれている気がする」

 

カチン州の環境保護団体のブランアウンさんは「バナナ農園では大量の農薬や化学肥料が使われ、住民は日常的に汚染された水を飲み、農作業で体を壊す人もいる」と訴える。住民と環境保護団体が協力して州政府に訴えているが、ブランアウンさんは「役人は面会すら拒み、我々の意見を聴こうとしない」とため息をつく。

 

収穫されたバナナはほぼ全てが中国に輸出される。8年前から農園で働くアウンサントゥンさん(36)は「収穫期にはトラックに乗った数百人の労働者がやってくる。収穫されたバナナは中国国境に消えていく」と話す。

 

カチン州政府などによると、2006年ごろ、中国との国境付近で盛んだったアヘン用のケシ栽培を減らすため、政府の支援でキャッサバやバナナなどの栽培を増やそうとしたのが始まりだった。次第に、ミャンマーと中国の合弁企業が運営する農園が増え、14年ごろからは急増した。ワインモーではいま、東京都世田谷区と同程度の60平方キロにまで広がった。

 

 ■「合弁」名乗り、登録すり抜け

カチン州政府によると、同州でバナナ農園を経営する企業が40社以上ある。いずれも社名はミャンマー語だが、「中国企業の隠れみのだ」と地元の僧侶、アシンビジャヤ氏は指摘する。

 

住民から健康被害などの相談を受けてきたアシンビジャヤ氏は「中国企業は名目だけの代表者にミャンマー人を据えて『合弁企業』と名乗り、外国企業に必要な登録をすり抜けている」と言う。18年5月には政府が州議会で、当時バナナ農園を営んでいた45社のうち44社は「適切な登録をしていない」と認めた。

 

農園で中国人の通訳をしているザウンイワルさん(44)は「各農園では1~2人の中国人が農薬散布や収穫時期を指示し、ミャンマー人は従うだけ。中国人は農園近くに住み、本国と連絡をとって収穫量などを調整する。ただ、農薬散布時は健康被害を気にしてか、中国に帰ってしまう」と話した。

 

農園運営企業の一つ、「グランド・エートゥット」の営業責任者エートゥット氏が取材に応じた。「バナナ農園の農薬が環境に負担をかけるのは他国でも起きていること」と主張し、政府への登録については「手続きに時間がかかっているだけ。我々は合弁会社で、外国企業ではない」と釈明した。

 

一方、州政府農業大臣のチョーチョーウィン氏は取材に、「無登録の運営企業があるのは確かだが、適正な登録を促すなど対応している。環境被害を示す明確なデータはない」と話した。

 

 ■国境の州、混乱の歴史と事情

「バナナ問題の背景にはカチン州の複雑な現状がある」と、キリスト教徒の多い同州で大きな影響力を持つカチンバプテスト教会のカラム・サムソン氏(59)は話す。

 

カチン州では、少数民族武装勢力のカチン独立機構(KIO)が多くの地域を実効支配し、政府側も手出しができない。「混乱に乗じてKIOとつながりを持つ中国企業が入り込んできた」とサムソン氏。難民キャンプなどに逃げた住民の土地が次々とバナナ農園にかわったという。

 

ミャンマーと中国との関係も影響する。ワインモーには、ミャンマー軍事政権(当時)と中国企業が36億ドル(約3700億円)で合意したが、環境問題などを理由に建設が凍結された大規模水力発電所、ミッソンダムがある。

 

「建設再開を求める中国に『負い目』を感じ、強い態度に出られないミャンマー政府の姿勢がバナナ問題にも影響している」とサムソン氏は語る。

 

地域の貧困問題も背景にある。カチン州のジャーナリスト、ランカウン氏(27)は「バナナ農園をなくしたら職にあぶれる人が続出し、さらに貧困が進む。まず地域の和平を成し遂げ、中国やKIOに左右されないカチン州独自の産業を生み出さなければ、問題はずっと続く」と話した。【10月21日 朝日】

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中国の問題だけでなく、少数民族問題、さらには貧困問題も絡んだ状況のようです。

 

チャイナマネーによるミッソンダム建設については“ミャンマー北部カチン州でのミッソンダム開発計画を再開するのか、それとも最終的に中止とするのか。ミャンマー政府としてはインフラ開発が遅れているだけに、中国からの資金的な援助は喉から手が出るほど欲しいが、環境破壊を懸念する地元住民の反対を押し切るほどの勇気もない。しかしいつまでも放置しておくわけにはいかず、決断の時期が近づいている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)”【2019年6月18日 SankeiBIz】という、中国と地元住民の板挟み状態が続いているようです。

 

ミャンマー中部で開発中のレパダウン銅山(ミャンマー国軍と中国企業の合弁事業)で、公害を懸念して閉鎖を求め居座る地元. 住民や僧侶たちのキャンプを警察当局が強制排除したように、この種の開発事業に関しては開発を優先させる傾向にあるスー・チー政権です。それは、スー・チー氏としては国民生活向上を最重視していることの表れでもあるでしょうが。

 

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インドネシア  中国は最も影響の強い国 日中を両天秤にかけた外交政策も ODAが腐敗の温床にも

2020-10-20 23:23:39 | 東南アジア

(2019年4月、日本の外務省前でインドネシアへの石炭火力発電所建設に日本政府が援助しないように求めるインドラマユ県の住民【10月20日 JBpress】)

 

【菅外交 「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に向けて連携強化を狙う】

菅首相は初の外国訪問としてベトナムに続きインドネシアを訪問しています。

 

今回の両国訪問の狙いについては“一連の外遊日程で海洋進出を強める中国を念頭に、安倍前政権から引き継いだ「自由で開かれたインド太平洋」構想の推進に向けて連携を深めるのが狙いだ。コロナ禍で傷んだ経済の回復に向けて互いの協力も求める。”【10月18日 朝日】とされています。

 

****菅首相 インドネシア到着 ジョコ大統領と首脳会談へ****

就任後、初めて外国を訪れている菅総理大臣は、20日午後、次の訪問国インドネシアに到着しました。このあと行われるジョコ大統領との首脳会談では、安全保障分野での連携の強化を目指すほか、新型コロナウイルスの影響を踏まえた財政支援や、看護師などを対象に入国制限を緩和する方針を伝えることにしています。(中略)


ASEAN=東南アジア諸国連合の大国であるインドネシアは、基本的価値を共有する戦略的パートナーだとしていて、会談では、中国の海洋進出など地域の諸課題に連携した対応をとることを確認したい考えです。

さらに、外務・防衛の閣僚協議、いわゆる2+2の早期開催を確認し、防衛装備品の移転に向けた協議の加速化を図るなど、安全保障分野での連携強化を目指す方針です。

一方、インドネシアは、新型コロナウイルスの累積の感染者数が東南アジアで最も多く、経済に大きな影響が出ていることから、数百億円規模の円借款を行う方針を伝えるほか、看護師や介護士を対象に日本への入国制限を緩和する方向で一致したい考えです。

 

日本とインドネシア

世界第4位の2億7000万の人口を擁するインドネシアは、経済成長も堅調で、日本にとって重要な投資先の1つとなっており、首脳級をはじめとするハイレベルの交流を通じて、経済的な結び付きを強めてきました。

外務省によりますと、インドネシアへの日本からの投資額は、2016年以降、50億ドル前後で推移していて、去年はおよそ43億ドルと、シンガポール、中国に次いで3番目の投資国となっています。

また、日本はODA=政府開発援助の最大の供与国で、2018年度までの累積でおよそ5兆円の円借款などを行い、インドネシアの経済成長を支援してきました。

インドネシアからみても、日本は、輸出が中国、アメリカに次いで3番目、輸入も中国に次いで2番目に多く、重要な貿易相手国となっています。

一方、伝統的な親日国であるインドネシアでは、日本語を学ぶ人が70万人余りと世界で2番目に多く、日本は、2008年に発効したEPA=経済連携協定に基づいて、看護師と介護士の候補生を去年までに2780人受け入れてきました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ことしの受け入れは一度も行われていません。【10月20日 NHK】

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【失敗したコロナ対策 日本支援に期待 ただし中国・日本を両天秤にかけて】

インドネシアは今月15日、新たに4411人の新型コロナウイルス感染者が確認され、これにより累計の感染者は34万9160人とフィリピンを抜いて東南アジアで最多となっています。また、死者は累計で1万22268人。

 

なお、新型コロナに関しては、“3月2日、国内で初のインドネシア人の感染者2人が報告され、感染国の「仲間入り」となった。その際、政府はマレーシア在住の日本人女性からの感染の可能性が濃厚であると発表して、インドネシア国民の「日本人批判」が一時的に高まった。”【7月16日 大塚 智彦氏 現代ビジネス】という経緯があります。

 

その後も、ジョコ大統領は3月13日の閣議の席で「最近のコロナ感染には海外から持ち込まれるケースが増えている」とも発言しています。

 

こうした「日本人」「海外」に責任転嫁するような姿勢に見られるように、国内コロナ対策がうまくいっていない、その結果、東南アジア最大の感染国となっているインドネシアとしては、中国、そして日本から支援を引き出したい思惑があるとも指摘されています。

 

****成果を急いだ菅総理、外交デビューは苦さ満点****

(中略)
10月に入っても、コロナの感染者と死者数は急増を続けており、ジョコ政権の最大かつ最も困難な政治課題となっているのだ。

 

インドネシアの日刊最大紙『コンパス』が7月発表した国民に対するコロナ対策に関するアンケートでも、「政府や閣僚のコロナ対策に不満」との回答が約90%にも達した。

 

被害拡大の根本的な要因は、「専門家の意見を無視したジョコ大統領やインドネシア政府の経済を優先した失策にある」としている。

 

政府のガバナンスの欠如が被害を拡大させたと批判され、医療従事者の200人近くが命を落とすという医療崩壊の現実にも直面している。

 

こうした背景から、日本の対コロナ支援を目的とした巨額ODAは、ジョコ大統領やインドネシア政府にとっては、喉から手が出るほどに待ち望んでいた手っ取り早い、“現金支給”という対症療法なのだ。

 

インドネシア政府が抱える根本的な問題を解決するどころか、ODA供与が感染拡大を助長する可能性もある。

 

また、インドネシアは、中国の科興控股生物技術「シノバック・バイオテック」が、11月から2021年3月までインドネシア国営製薬会社「ビオ・ファルマ」に、4000万人分のワクチンを供給することで中国政府と合意している。

2021年4月以降も同年末まで、インドネシアに優先供給を続けるという。

 

インドネシア政府は中国との共同開発というが、「中身は中国主導のワクチン開発におんぶにだっこ状態」(インドネシア主要メディア編集者)。

 

とはいえ、ジョコ大統領は、中国からワクチンの提供を受け自社で生産するビオ・ファルマの研究所を自ら視察するほどの熱の入れようだ。「1億人分の生産能力がすでにあり、12月までに2億5000万人分に引き上げる」と豪語している。

 

中国とワクチン開発、供給契約を締結しながら、日本の無償や超低利のODA供与も狙うインドネシア。両国を手玉に取ろうとする二枚舌外交が透けて見える。(後略)【10月20日 末永 恵氏 JBpress】

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【高速鉄道でも中国・日本の両国から利益を引き出そうとする動き】

中国と日本を両天秤にかけて・・・という話では、高速鉄道もその類かも。

 

日本と中国が激しく受注を争った高速鉄道は中国が受注しましたが(その際、菅氏が激怒したとか)、中国の工事は大幅に遅れており、インドネシア側では再び日本の参加を求める声も出ているようです。

 

****菅首相とインドネシアの「5年前の因縁」 初外遊で「高速鉄道」問題に新展開あるか****

(中略)インドネシアは15年、日本と中国が受注を競っていたジャワ島の高速鉄道について急に条件を変える形で中国側の提案を採用し、官房長官だった菅氏がジョコ大統領の特使に対して「まったく理解することはできない。極めて遺憾だ」などと厳しく非難した経緯がある。

 

その後、高速鉄道の建設は遅れ、日本を再参画させるべきだとの声も浮上。日本は振り回される形になっている。菅氏のインドネシア訪問で、事態が動くかも焦点だ。

 

日本案不採用伝えに来た大統領特使に「まったく理解することはできない。極めて遺憾」

ジャワ島の高速鉄道は、首都ジャカルタと西ジャワ州バンドンの約140キロを結ぶ計画。

 

15年3月にジョコ大統領が来日した際、安倍晋三首相(当時)は高速鉄道整備のために約1400億円の円借款供与を表明したが、15年9月初めに、インドネシアは高速鉄道の計画自体を白紙にし、より費用が安い「中高速鉄道」にすることを表明。9月中旬には中国側が新たな提案を提出し、9月末にはインドネシアが中国案の採用を決めていた。

 

当時官房長官だった菅氏は、一連の経緯に強い不快感を示していた。インドネシアのソフィアン国家開発企画庁長官が15年9月29日、ジョコ大統領の特使として首相官邸を訪れ、日本案の不採用を菅氏に伝えた。菅氏はこの日行われた定例会見で、面会の様子を説明。終始不快感を隠そうとしなかった。(中略)

 

実際、工事は遅れに遅れている。15年時点では15年に着工し19年に開業する計画だったが、起工式が行われたのは16年1月。20年9月時点の現地報道では、完成は23年にずれ込む見通しだ。

 

ジャカルタ・ポストによると、ハルタルト経済担当調整相は20年5月30日にオンライン会見で、ジョコ大統領が

「経済性を高めるために路線をバンドンで終わらせるのではなく(第2の都市)スラバヤまで延ばし、共同事業体に日本を加えることを指示した」ことを明らかにするなど、事態は混迷を深めている。

 

日本は別の「在来線高速化計画」に署名

高速鉄道計画とは別に、日本とインドネシアは19年12月、ジャカルタとスラバヤを結ぶ約730キロの在来線を高速化するための基本計画に署名している。中国が受注した高速鉄道計画では新たに路線を建設するのに対して、日本が携わる高速化計画では、すでにある路線に新車両を導入したり、設備を改良したりする。

 

日本が一度は撤退した「高速鉄道」と、日本が高速化を進める「在来線」は線路の幅も運行システムも異なるため、事業を一本化するのはきわめてハードルが高い。

 

5年前の出来事はインドネシア側の記憶にも刻まれているようだ。(後略)【10月19日 J-CASTニュース

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【巨額ODA供与が腐敗・汚職の温床にも】

新型コロナ対策にしても高速鉄道にしても、日本からの巨額のODA供与が伴うことになりますが、同様に日本資金が絡む問題に、石炭火力発電事業支援の問題もあります。

 

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(中略)さらに、日本のODA供与がインドネシアにもたらす問題は、コロナや高速鉄道の問題だけではない。

 

インドネシア最大の環境保護団体「ワルヒ」などが19日夜、菅首相のインドネシア訪問を機に、菅首相やジョコ大統領宛てに、建設費が2000億円を超える西ジャワ州インドラマユ県での石炭火力発電拡大計画への抗議声明を発表し、日本政府や日系企業の同事業からの撤退を訴えた。

 

反対の理由は、「インドネシアでは電力不足でなく、すでに電力過剰で新たな発電所は必要でない」「ODAは、我々子孫に至るまで借金を課すことになり、経済的繁栄を阻害する」「既存の発電所からの住民の健康被害などが報告されている」「同計画は、座礁資産になるリスクを抱えている。パリ協定目標達成には、 2040年までに途上国も石炭火力発電所の完全停止が求められているからだ」などだ。

 

ODA事業として日本が進める石炭火力発電事業は、インドネシアの電力需要に相応することを目的とし、日本にとってインフラ輸出の目玉事業でもある。

 

しかし、インドネシアでは近年、電力需要が減り、それどころか電力供給過剰の問題が課題となっている。まして、コロナ後に需要はさらに鈍化すると見られているのだ。(中略)

 

現在、日本政府はエンジニアリングサービス借款貸付契約を締結し、一部、融資を実施しているものの、建設事業本体への融資は「インドネシア政府から正式なODA援助要請は来ていない」(前述の外務省渡邊課長)という。

 

オランダのアムステルダムにも拠点を構え、日本のODA開発事業に詳しい国際環境NGO「FoE Japan」の委託研究員・波多江秀枝氏は、次のように指摘する。

 

「PLNは、電力不足に陥ると主張しているが、現在すでに電力過剰の状態に陥っている。さらに、同社の資料を基に分析すると、逆に今後10年ほどは30%から45%の供給過剰になる」

 

「日本の公的資金で援助され、最大出資者として丸紅、東京電力グループや中部電力らが参画しているインドネシアの西ジャワ州チレボン県で進められている石炭火力発電所拡張計画では、地元の知事らが約4700万円の贈収賄容疑で逮捕され、ほかに約15億円の用途不明資金疑惑も浮上し、検察の捜査が進んでいる」

 

「中国主導で進められたインドラマユ県の他の石炭開発事業計画でも、地元の知事が汚職で逮捕された。海外の援助を受けたプロジェクトがインドネシアで進められるとき、もたらされる資金が現地の汚職の源になる傾向が強い」

 

実際、日本のインドネシアに対するODAは、これまで開発援助に参画した日系企業に巨額の利益をもたらしたが、一方で日本からの資金が、1960年代から30年にわたり長期独裁政権を敷いていたスハルト政権の汚職と腐敗を巨大化させる要因の一つにもなった。(中略)

 

今回のインドラマユ県の日本のODA事業に関する抗議、撤退要求声明は、まさに日本のODA支援が、インドネシアへさらなる支援が必要か、再考の余地を示している実例ともいえる。

 

前述の外務省国別開発協力第一課の渡邊課長は、 「公的資金が汚職や腐敗に流用されないよう厳選な審査をする。審査次第では、ODA供与は見送る可能性がある」としている。

 

世界銀行は、今年7月、インドネシアを上位中所得国として認定した。日本がODA対象の基準とする一人当たりの国民総所得(GNI)も大幅に上昇中だ。ODAから“卒業”できるのではないか。

 

菅首相の外交デビューは、皮肉にも、ODA外交の問題点を露呈する結果にもなりかねないのだ。【前出 10月20日 末永 恵氏 JBpress】

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【国内では汚職捜査を弱体化させる政治的動き】

ODAが現地の腐敗・汚職につながる・・・珍しい話ではありませんが、汚職大国インドネシアでは、国民の期待を担って汚職追及の最前線に立ってきた組織の弱体化が進んでいます。

 

****インドネシアで汚職捜査機関が弱体化、落胆する国民****

インドネシアで公務員の汚職事案を専門的に摘発する国家機関「国家汚職撲滅委員会(KPK)」が存続意義を失いそうな事態に陥っている。

 

KPKとは、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権の“負の遺産”である「汚職・腐敗・親族重用(KKN)」の残滓を軍や警察が払拭できていない中で、悪弊根絶のため、国民の期待を一身に受けて設立された捜査機関だ。

 

その期待に応えるように、2003年の設立以来KPKは、現職閣僚、国会の議長や議員、地方政府首長、地方議会議員、国営企業幹部、在外公館大使、政府機関・官庁幹部などの公務員による贈収賄事件を次々と摘発して、国民から拍手喝采を浴びてきた。

 

軍や警察が過去のKKNを依然として引きずり、権力者の汚職や犯罪着手に躊躇する中、逮捕権、公訴権を持つKPKは、麻薬捜査に当たる「国家麻薬取締局(BNN)」と並んで「インドネシア最強の捜査機関」と称されるばかりか、警察や軍の腐敗構造にさえも果敢にメスを入れてきた。

 

ところが最近、そのKPKから、国民に人気のあった報道官を含めて30人以上の大量退職者が出ていることが分かった。

 

さらにマスコミ報道で広く知られるようになった元警察幹部だったKPKトップの倫理規定違反には「訓告」という大甘な処分が下されたこともあり、少し前から囁かれていた「KPKの弱体化」がいよいよ現実のものになってきたとの印象を国民は感じ取り始めている。(後略)【10月6日 大塚 智彦氏 JBpress】

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脛に傷持つ政治家が多い中で“ゴルカル党やジョコ・ウィドド大統領の後ろ盾でもある最大与党「闘争民主党(PDIP)」の国会議員を中心に、強大化したKPKの権力に「一定の歯止めをかけること」が画策され、「汚職撲滅法(KPK法)改正案」が国会で審議されることになった。”

 

“こうした動きにジョコ・ウィドド大統領は、拒否権発動を含む強い態度を示さず、「国会が決めることに大統領はあまり口を挟むべきではない」ともっともらしい態度を示して、一部の変更を求めるに止まった。実質的には「KPK弱体化の黙認」でしかなく、昨年9月、KPK改革法案は、国会議員のペースであれよあれよという間に採択・成立してしまった”【同上】とのこと。

 

【「われわれは騙されて反中キャンペーンに乗せられたくない」】

なお、中国を意識した「自由で開かれたインド太平洋」構想に関しては、中国との関係が強いインドネシアは微妙な立ち位置。

 

****インドネシア、米国の哨戒機給油要請を拒否=関係筋****

米国が今年、インドネシア領内に哨戒機P8を着陸させ給油する許可を要請したが、インドネシア政府が拒否したことが関係筋の話で明らかになった。

4人のインドネシア政府関係者によると、7月と8月に米政府高官から国防相と外務相に対し何度か働き掛けがあったが、ジョコ大統領が拒否した。同国は長く外交政策における中立を保ってきたため、インドネシア政府は米国の要請を驚きを持って受け止めたという。

P8は南シナ海での中国の軍事活動を監視する上で中心的な役割を果たしている。

インドネシアのルトノ外相は9月上旬に行われたロイターのインタビューで、同国は一方の側に付きたくないとし、米中の緊張の高まりや南シナ海の軍事化を警戒していると述べている。

元駐米インドネシア大使のディノ・パティ・ジャラル氏は「(米国の)非常に強引な反中政策」はインドネシアと地域を不安にさせているとの見方を示した。

「(米国の政策は)場違いとみられている。われわれは騙されて反中キャンペーンに乗せられたくない」とし「経済的関係が深く、中国はインドネシアにとって世界で最も影響の強い国だ」と述べた。

ワシントンのシンクタンク、米戦略国際問題研究所(CSIS)の東南アジア担当アナリスト、グレッグ・ポーリング氏は哨戒機の着陸を求めたことについて、不器用な行き過ぎたやり方と指摘。「米政府当局者がインドネシアのことをいかに理解していないかを示している」とし、インドネシアにとって国内に米軍を受け入れることはできないと述べた。

軍事アナリストによると、米国は最近、P8の運用でシンガポール、フィリピン、マレーシアの基地を使用した。【10月20日 ロイター】

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インドネシア国内では海外投資を呼び込んで雇用を創出することを目的にジョコ政権が成立を急いできた雇用創出オムニバス法に抗議する大規模デモが激化していますが、そのあたりは長くなるので別機会に。(ただ、今回の菅首相の訪問目的でもある日本との関係強化にも影響する話でしょう。)

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中国から見た日本の現状 「失われた20年」への分析 問題点に対する耳を傾けるべき指摘も

2020-10-19 22:52:41 | 中国

(1972年 日中国交正常化交渉を行う田中角栄、毛沢東、周恩来【2017年9月29日 東洋経済online】)

 

【「失われた20年」への高い関心】

中国の日本に対する関心は相当に高いようで、新型コロナのために往来が途絶えている現在も、中国メディアの日本に関する記事を毎日多数目にします。

 

単に関心があるだけでなく、日本に対する理解も深まっており、そのことは今後の日中関係の基礎ともなるものでしょう。

 

今日は、最近のそうした日本関連記事からいくつかを。

 

****この20年、日本の平均収入が増えないどころか減ってしまったのはなぜか=中国メディア**** 

中国のポータルサイト・百度に18日、日本の平均年収が20年前からほとんど変わっていない理由について紹介する記事が掲載された。

記事は、日本の国税庁による調査データで、1999年の日本の平均年収が461万円だったのに対し、20年後の2019年における平均収入が436万円と25万円少なくなっていると紹介。

 

「この状況は世界的に見ても珍しい」とし、中国の北京市ではこの20年間で平均年収が8倍近くになっており、ほかの地域も北京市ほどではないものの、20年で平均年収が下がる現象は起きていないと伝えた。

その上で、日本で20年にわたり平均年収がほぼ横ばい状態、さらにはやや減少する事態が発生した理由として3つの点を挙げて説明している。

 

まず1点めは非正規雇用者の増加とし、日本では1994年に労働者派遣法が改定され、「年功序列、終身雇用」という日本企業の伝統に風穴が開いて以降、企業が人件費コストを下げる目的で続々と契約社員やパートタイム従業員といった非正規の雇用契約を結ぶようになり、今では非正規雇用者の比率が全体の50%を占めるようになったと紹介。非正規雇用者が増えたことで、平均年収の増加が止まったとの見方を示した。

2点めでは、製造業の競争力減退を挙げた。日本のいわゆる「失われた20年」は、中国をはじめとする新興国が急速に成長してきた20年であり、製造業の分野では新興国の追い上げによってかつて日本が持っていた優位性が徐々に失われ、激しい競争に晒されることになったために、従業員の給料もおのずと伸び悩む結果になっているとした。

そして3点めには、日本人の性格的な部分に言及。日本では「従順」や「忍耐」が一種の教養とされ、給料が上がらないからといって騒ぎ立てれば「他人から無教養な人間だとみなされることになる」と説明したうえで、従業員がストライキやデモを起こして給料増を強く主張するケースが少ないことも、収入が頭打ち状態になっている要因の一つであると論じている。【10月19日 Searchina】

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1点目、2点目はほぼ妥当でしょう。

3点目は、いかにも中国らしい見方で面白いです。

 

日本への関心が高い中国メディアですが、なかでも日本の「失われた20年」は、「本当に“失われた”と見ていいのか?日本を侮ってはいけない」といった観点から、非常に高い関心をよんでいます。

 

*****日本は20年を失ったのか? むしろ「成熟した20年間」では?=中国****

中国では盛んに強調される日本の「失われた20年」。

 

しかし、実際のところ日本はこの20年間、何かを失ってばかりだったのだろうか。中国メディアの今日頭条は10日、「日本は本当に20年を失ったのか」と題しつつ、日本の経済成長率は確かに低迷しているが、実際はより成熟した20年間だったのではないかと論じた。

記事は「失われた20年」が実は日本にとっての「成熟するための20年」だったと主張する根拠として5つの要因を挙げている。

 

まず1つは、国の経済を理解するのによく使われる「国内総生産(GDP)」だ。日本は現在も世界で3番目にGDPが大きい経済大国であると指摘。成長率も世界的に見ればまずまずだとしている。

 

また、中国の経済成長率と比較することが多いが、「中国は山を登っている最中なのに対し、日本はすでに登頂した状態」なので、比較すること自体がナンセンスだとも主張している。

2つ目は「物価と収入のバランス」だ。日本は物価が安定していて収入もまずまずで、生活を楽しむゆとりがあると紹介。この点、中国は物価の上昇に収入が追い付かず、生活が苦しくなっているようだ。

 

3つ目は「インフラがより整備されたこと」。特に電車など公共の交通機関は極めて便利だと称賛している。

4つ目は「産業転換を成功させたこと」。日本は中国の誤解とは裏腹に、川下産業を切り捨て利益率の大きい川上産業へと計画的に比重を変えてきたと伝えた。

 

5つ目は「医療レベルが高く、社会保障制度が整ったこと」。平均寿命が高く、米国のような高額の医療費や欧州のような効率の悪さがないと評価した。

 

最後の6つ目には「貧富の差が小さい」ことを指摘している。 

日本は確かにこの20年以上、経済成長率はあまり高くはないが、決してこの時間を浪費したわけではないようだ。中国では、日本の経済成長が止まったかのように見えたことで安心していたのだろうが、「失われた20年」さえ最大限活用してしまう日本は、やはり恐ろしい国なのかもしれない。【10月15日 Searchina】

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なお、中国人・メディアが頻用する「恐ろしい」という言葉は、“驚嘆すべき”という意味合いが強いとか。

 

また、日本の対外純資産の多さに着目した記事も。

 

****日本の「対外純資産」に驚愕! 海外に「日本をもう1つ」作るつもりか? =中国****

2020年5月に財務省が公表したところによると、日本の対外純資産残高は前年比23兆円増の364兆5250億円で、29年連続で世界最大の対外債権国となった。

 

こうした事実を踏まえ、中国メディアの今日頭条はこのほど、「失われた20年は単なるパフォーマンスだったのか」と題する記事を掲載した。日本は海外への投資によって「海外にもう1つの日本を作り出そうとしている」と伝えている。

日本経済はよく「失われた20年」と形容されるが、記事は「日本はこの20年で失ったものもあるが、得たものもある」と指摘。

 

バブル崩壊を機に、貿易立国から投資立国へと転換し、企業には積極的な海外投資を奨励してきたと紹介した。投資先は中国、東南アジア、米国、欧州など様々で、日本は「資産を世界各国に分散させようとしている」のだという。

日本は海外にどれだけの資産を有しているのだろうか。記事は、2019年の対外資産残高は約1098兆円にのぼり、日本の国内総生産(GDP)の約2倍だと紹介。「日本が2つあるようなものだ」といかに海外に投資しているかを伝えている。また、対外負債を差し引いた対外純資産残高は約364兆円だと指摘し、これは2位のドイツの1.2倍、3位の中国の1.5倍に当たると説明した。

こうした海外資産のおかげで日本は豊かさを保っており、国民もその恩恵にあずかり、日本国内にも多くの資産があると主張。

 

実際、金融広報委員会による「家計の金融行動に関する世論調査(2019年)」によると、2人以上世帯の金融資産の平均値は1139万円となっている。そのため記事は、「海外資産の蓄積と個人の金融資産に注目すれば、失われた20年の中でなぜ日本経済の実力と豊かさが先進国の中で上位なのかがよく分かる」と主張した。

いわゆる「失われた20年」の期間、日本がずっと世界最大の対外純資産国の座を維持してきたのは、それだけ「20年間に得てきたものも大きかった」表れと言えるのかもしれない。【10月15日 Searchina】

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こうした日本に対する冷静な分析から、“日本の国力は非常に強い”という見方も。

 

****日本の国力を冷静に考えてみた・・・「非常に強いと思った」=中国メディア****

国際関係において、ある国が持つ様々な力の総体を「国力」と呼ぶが、その定義は様々あって定まっておらず、関係する要素も多くある。中国メディアの百家号は16日、日本と中国の国力の差について分析する記事を掲載した。総合的に見ると日本の国力は非常に強いとしている。

記事がまず比較したのは「軍事面」だ。中国はすでに2隻の空母を就役させているが、日本には「準空母と呼ぶべき艦艇が6隻もある」と主張し、しかも最新の装備を搭載していると指摘。

 

日本は特に対潜水艦能力に優れ、世界一とも言われているほか、通常動力型潜水艦は静かで優秀だと伝えた。また、戦闘機ではF35によって大幅に戦闘能力が向上しており、戦車では90式戦車が非常に優れていたと称賛している。

 

しかも、こうした軍備を民間企業が研究開発し製造できる能力を有していることに「戦時には決して甘く見ることのできない力となる」と論じた。

軍事面以外でも、日本は「教育面」で中国の先を進んでいると記事は分析。日本の教育はアジアでもトップクラスだが、中国の優秀な大学は人材流出が激しいと嘆いている。さらに「科学技術力」でも日本は毎年のようにノーベル賞受賞者を輩出しており、ハイテク分野で日本は「数十年の技術の蓄積により、今でも世界をリードしている」とした。

最後に記事は、ここ数年で中国は「確かに力を付けてきた」としながらも、中国ネット上ではまるで中国が世界一にでもなったかのように思い上がった声が多く見られると指摘。「本当の世界一は自分で吹聴するものではない。自信を持ちつつも差を直視し、幻想を捨てて努力を続け、全体的な実力をさらに上げていくべきだ」と結んだ。

確かに中国では自画自賛の報道が多く、日本を評価して自己過信を戒める記事は珍しいと言えるだろう。このように中国が謙虚な姿勢を見せるようになった時こそ、日本としては真に警戒すべき時なのかもしれない。【10月19日 Searchina】

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日本からすれば、軍事力はもちろん、経済力だけでなく最近では技術力でも日本は中国に置いていかれつつあるのでは・・・という感がありますが。

 

【深まる相互理解は正常な関係構築の第1歩】

対立的に見れば“中国が謙虚な姿勢を見せるようになった時こそ、日本としては真に警戒すべき時”なのかもしれませんが、「真に相互理解に基づく正常な関係が構築できる時」でもあるでしょう。

 

日中関係であまり知られていない側面としては、以下のような面も。

 

****中国が「日本国債」を大量に買い進めている理由=中国メディア*****

ここのところ、中国による日本国債の購入が急増している。2020年4月から7月にかけて、中長期債の買越額が1兆4600億円と、前年同期比3.6倍に膨らんでいるという。

 

7月には2017年1月以来の月間最高記録を更新したほどだ。中国メディアの百家号は15日、「中国はなぜ日本の国債を大量に購入しているのか」と題する記事を掲載した。

中国は、日本国債の購入を増加させている一方で、米国債の保有量を減少させているが、記事は日本国債の購入に「政治的目的」はないと主張し、これまでの米国債への過剰な依頼を見直し「リスクを分散させた」ととらえるほうが正確だと指摘している。

リスクを分散させるには、日本国債は絶好の投資先だという。記事は、日本経済は1990年代中ごろから停滞しているものの、日本国債は安定していたと指摘。利回りがほとんどゼロに近いとはいえ、それでも安全な投資先に変わりはないとした。

また、この時期に日本国債の購入が急増していることについて記事は、「新型コロナウイルスも関係している」と分析。世界的に債権の利回りが低下したことで日本国債が相対的に魅力的になったと主張。日本の名目GDPは、2020年は4.5%減が見込まれているが、2021年には2.5%増と予想されており、この数字は大幅に後退すると思われる米国よりも良いとした。

中国が日本国債を購入しているのはリスク分散という観点もあるだろうが、その背後には米国との対立激化を理由とする米国債の保有量の減少という事実も関係しているのではないだろうか。【10月19日 Searchina】

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中国が日本国債を大量に保有するということは、場合によってはそのことをカードとして使用して日本への圧力をかける・・・といった可能性もありますが、基本的なところで言えば、日本がコケたら中国は大損するという一蓮托生の共存関係が強まると理解すべきでしょう。

 

何よりも、厳しく敵対していたら、国債購入という形で資金提供することもないでしょう。

 

【日本の抱える問題点への指摘も】

単に「日本は“恐ろしい国”だ」という話だけでなく、日本の抱える問題点に関する視線も。

 

****ノーベル賞受賞ならず、日本はなぜこれほど焦っているのか―中国メディア*****

2020年10月19日、環球時報は、今年のノーベル賞の科学系部門で日本人が1人も選ばれなかったことについて「日本はどうしてこんなに焦っているのか」とする評論記事を掲載した。

記事は、2013年にノーベル化学賞を受賞したマイケル・レヴィット氏が「ノーベル賞は、その国が30年、または40年前に何をしていたかを教えてくれる」と語ったことを紹介し、日本が1960年代の高度成長期に研究投資額を大幅に増やすとともに、企業や研究機関の人材を確保すべく理工系学生の拡大計画を打ち出すなどの取り組みを進めてきたことを伝えた。

そして、日本が現在ノーベル賞で見せている「爆発力」の源泉が、知識や人材の長期的な積み重ねと伝承にあるとするとともに、科学者のゆりかごである大学も大きな役割を果たしてきたと解説。

 

特に8人のノーベル賞受賞者を輩出している京都大学は、「自由な学風」と「ナンバーワンよりオンリーワン」という2大ポリシーを持っており、この伝統的な学風が、数多くの創造的な研究を奨励し、ノーベル賞受賞につながる成果を生んできたのだとの見解を示した。

記事はその上で、日本では近年科学分野における憂慮の声が日増しに高まっていると指摘。2017年に英国の雑誌ネイチャーが日本の科学論文数の減少、研究能力の低下を提起したところ、日本国内で大きな反響があり、「科学立国の危機」「ノーベル賞が取れなくなる日本」など強い危機感を示すような報道や書籍をいたるところで見かけるようになったとしている。

また、自然科学系の博士課程生が大幅に減少し、次代を担う研究人材が枯渇状態にあること、海外留学が減り、高等教育が「ガラパゴス化」の危機に瀕していること、さらに長期的な景気低迷により研究費が減少し、基礎研究に投入する資金が不足しているために、国立大学さえもが十分な研究を行えない状況になっているなど、日本の科学研究には問題が山積していることを伝えた。【10月19日 レコードチャイナ】

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まっとうな指摘でしょう。

 

日本を旅行した際、あるいは日本で暮らしてみたときの日本への印象については、相変わらず“清潔だ”“生真面目だ”“細部に配慮が行き届いている”等々の印象が語られていますが、中には以下のような声も。

 

****<ボイス>日本は弱者に冷たい社会になるのか?―入管職員の罵声で感じたこと****

日本で暮らす中国人から、外国人留学生に対する日本人の無理解を嘆く声が出ている。神戸大学の博士課程で日本の古典文学を学んだ張さんは入国管理局で目撃した光景に衝撃を受け、日本には弱者に優しくない社会になってしまう懸念があり、弱者のために声を発する人が見当たらない社会は怖いとSNSに投稿した。

日本は「単純労働者は受け入れない」を建て前としてきた。しかし実際には、いわゆる外国人研修生や留学生などの「外部からの安い労働力」が、日本社会を支える力になっていることは否定できない。

張さんは、「最近は日本のスーパーや飲食店などではベトナム人留学生が頑張っている姿をよく見かけます」と紹介し、中国人留学生も同様だったと指摘。「日本経済を支えている途上国から来た留学生たちを忘れてはならない」と主張した。

張さんだけではない。「中国人留学生は日本社会に貢献してきたはずだ」と考える中国人は多い。本稿筆者も、同様の話をしばしば聞いた。「留学生活を続けるためには、バイトに精を出すしかない。勉強の時間を確保するために睡眠時間を削ることになる」状況になり、「自分は日本に、安い労働力を提供しているだけの存在ではないか」と考え込んでしまったことがあるという中国人もいた。

張さんは最近になり入国管理局で目にした光景で、心を痛めている。ある国の留学生が、留学生ビザの延長は認められたが「資格外活動許可」は与えられなかった、つまりアルバイトが認められないことになったという。張さんによれば、期限内に申請しなかったことが原因であるかもしれないという。

とすれば、本人にも問題があったことになるが、入管職員はその留学生に、アルバイトをしなければ生活できないなら、「母国に帰れ!」と怒鳴ったという。

百歩譲って、その留学生には規則上、“制裁措置”を加えざるをえなかったとしよう。しかし、この発言はひどすぎるのではないか。外国人留学生とは本来、“知日派の卵”であるはずだ。日本や日本社会のすべてを称賛してもらうことは不可能だろう。ただ、日本をよく知る外国人が増えれば、誤解に起因する不毛な対立を少しでも減じることができるのではないか。そのことは日本の国益にもかなうはずだ。外国人留学生に対する心ない罵詈雑言は、そんな芽を摘んでしまう恐れがある。

張さん自身も、「お金がないのに、何で留学?」と言われたことが何度もある。口には出さなかったが、「えっ!? 貧しい人は教育を受ける権利はないの?」と思ったという。

張さんはさらに、「裕福な家に生まれるか、貧しい家に生まれるか」は、自分自身で選べないと指摘。途上国から来た留学生は、自らの努力で現状を変えようとしている称賛すべき存在であるという考えを示した。

張さんはまた、「爆買い」をする外国人観光客を大歓迎する一方で貧しい留学生に冷たいようでは、日本は弱者に優しくない社会になってしまうと懸念している。さらに、弱者のために誰も声を発することのない社会は怖いと主張した。【10月19日 レコードチャイナ】

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多くの問題を抱える中国にそんなこと言われる筋合いはない・・・という議論は今わきに置いて、その指摘するところには耳を傾けるべきことが含まれているかも。

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スウェーデンの緩い新型コロナ対策 「失敗」評価から、現時点では「成功」評価に変わる

2020-10-18 22:25:16 | 疾病・保健衛生

(問題児のはずのスウェーデンが勝者に【10月18日 デイリー新潮】)

 

【6月時点での厳しい評価 「失敗」とも】

欧州各国が新型コロナ「第2波」に襲われていることが連日報じられています。

 

****欧州で“第2波”1日15万7千人超の感染****

ヨーロッパでは新型コロナウイルス感染の「第2波」が深刻化しています。

フランスでは17日一日あたりの新型ウイルスの感染者数が過去最多を更新し、3万2000人を超えました。

パリなど9つの都市圏では午後9時から午前6時までの間、原則外出が禁止され、飲食店は早々と店を閉じていました。

このほか、イギリスやスペインなどでは1万人を超える日が続いています。16日のヨーロッパ全体の感染者数は15万7000人を超え、春の第1波ピーク時の4倍近くとなっています。【10月18日 日テレNEWS24】

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そうしたなかで風向きが変わってきたのは、厳しいロックダウンなどとらない独自の対応で「第1波」では「失敗」の評価が広がった北欧・スウェーデン。

 

6月頃の評価は、おおむね下記のような「失敗」を指摘するものでした。

当時、近隣諸国に比べて人口当たりの死亡率がはるかに高く、ロックダウンしていなくても経済的には打撃が大きく、集団免疫も獲得されていないとされていました。

 

****スウェーデンのコロナ対策、「賭け」は失敗か *****

スウェーデンは新型コロナウイルスの感染阻止へ向けた強制的なロックダウン(都市封鎖)を見送った。だが、そうした判断を主導した疫学者が初めて、もっと強力な措置を講じていれば死者の数を抑えることができたかもしれないと認めた。 

 

世界各国が新型コロナのパンデミック(世界的大流行)対策として経済・社会活動を厳しく制約する中、経済活動の継続を重視したスウェーデンは、都市封鎖が経済に不必要な打撃をもたらしたと批判する欧米関係者から模範とみなされていた。 

 

だが、スウェーデンでは工場やバー、レストランなどのビジネスが営業を続ける中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者数は近隣諸国を大きく上回り、今や死亡率は世界でも上位に入る。 

 

一方、輸出主導型のスウェーデン経済にとって、貿易相手国が閉鎖措置を講じたことが大きな打撃となった。スウェーデン国立銀行(リクスバンク、中央銀行)は今年の国内総生産(GDP)が最大10%減少し、失業率は10.4%まで上昇すると予想している。 

 

隣国のデンマークが他の欧州諸国に国境を開放したにもかかわらず、スウェーデンに対しては感染者数の多さを理由に国境を閉じたままにしていることも、経済の逆風となっている。 

 

スウェーデン政府の対策を率いてきた疫学者のアンデシュ・テグネル氏は、同国が取ってきた緩やかなアプローチについて、より厳しい、他国に近い戦略にすべきだったと語った。 

 

テグネル氏は3日、公共ラジオに出演し、「仮に同じ疾病が発生し、今のような知識があれば、スウェーデンがこれまで行ったことと、世界が行ってきたことの中間的な措置を取ることになるだろう」と述べた。 

 

スウェーデンの公衆衛生当局によると、新型コロナによる国内の死者は3日時点で4542人となっている。ジョンズ・ホプキンス大学が集計したデータによると、人口当たりの死亡率は世界でもとりわけ高く、住民10万人当たり43.2人に達している。デンマークは同9.9人、フィンランドは5.8人、ノルウェーは4.4人で、こうした近隣諸国に比べてもはるかに高い。 

 

今のところスウェーデン当局とテグネル氏からコメントは得られていない。 

 

ウイルスは高齢者の介護施設に入り込み、死者が急増した。政府によると、COVID-19関連の死者のうち、5割近くは高齢者施設で発生した。 

 

評論家のポーリーナ・ヌーディング氏は、テグネル氏とそのチームがようやく、世界の一部専門家が予想していたような戦略の失敗に気づいたと指摘する。 

 

「だがそれを認める発言は、スウェーデンが方針を変えない限りほとんど価値がない。スウェーデンの戦略は科学的に誤った想定に根ざしていたが、他国は当時、既に入手可能だったデータに基づき、より良い戦略を選択したために比較的良好な結果になったということを、テグネル氏はいまだに認めようとしない」と述べた。 

 

テグネル氏はなお、長期的に新型コロナの集団免疫を獲得しつつ、ビジネスの営業を継続し、医療崩壊を回避する上で、自主的なソーシャルディスタンシング (社会的距離の確保) が正しい措置だったとの見解を維持している。 

「もちろん、スウェーデンでわれわれが実施したことには、改善の余地がある」 【6月5日 WSJ】

**********************

 

上記の他、下記のように散々な評価です。

“都市封鎖なしでも経済に大打撃 スウェーデン”【6月12日 AFP】

“フィンランドが観光目的の国境再開、スウェーデンは除外”【6月12日 AFP】

“スウェーデン、抗体保有率6.1%どまり 「集団免疫」の獲得遠く”【6月19日 ロイター】

“「最も評判の良い国」スウェーデン、コロナ対策で評価が低下”【7月2日 AFP】

“スウェーデン第2四半期GDP、前期比8.6%減 過去最大の落ち込み”【8月6日 ロイター】

 

【それでも変えない政府方針】

ただ、(良し悪しは別にして)「凄い」のは、これだけ世界中から叩かれ、嘲笑されても方針を変えなかったこと。

 

****スウェーデン首相が自国独自のコロナ対策擁護、正しい選択と強調****

スウェーデンのロベーン首相は21日、新型コロナウイルス感染拡大対策として他の多くの欧州諸国同様に厳格なロックダウン(都市封鎖)を採用しない決定を下した政策は正しい戦略だったとして擁護した。

スウェーデンでは5800人以上の新型コロナ死者が出ており、同国に比べてはるかに厳しい封鎖を実施した近隣のノルウェー、デンマーク、フィンランドより死亡率が大幅に高くなっている。こうしたことから、政府の政策に対する疑問の声が多数上がっている。

ロベーン首相は、ダーゲンス・ニュヘテル紙とのインタビューで、スウェーデンは正しい選択をしたと言明。「個人を保護し、感染拡大を抑制するなど、われわれが採用した戦略は正しかったと信じている」と述べた。

首相は、「最も議論の対象となり、他国と異なる政策として我が国が取った措置は、学校を休校にしなかったことだ。現在では、かなり多くの人がわれわれは正しかったと考えている」と述べた。

スウェーデンは社会的距離(ソーシャルディスタンス)に焦点を合わせた自主ベース中心の政策を取り、公共の場での集会制限や、高い死亡率が見られた介護施設を隔離するなどの措置にとどめている。同国の死亡率は近隣諸国より高いものの、英国やスペインほどの被害は出ていない。

さらに、欧州の多数の地域で移動などの規制緩和に伴い感染拡大が見られる中、スウェーデンではここ数週間、感染者数も死者数も減少している。

首相はまた、感染抑制策として他国が行なっているマスク着用義務化をしないとする公衆衛生局の決定を擁護。「同局の見解で、かつ私もまったくそうだと思うのだが、マスクは主要な防具とはなり得ない。引き続き重要なのは、社会的距離と検査、追跡だ。感染抑制には、これらを重視しなければならない」と述べた。【8月24日 ロイター】

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マスク着用については、“スウェーデンの公衆衛生当局は、マスクは社会全体に使用を奨励するほどウイルスの感染抑制効果がなく、ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)と手洗いを順守することの方が重要だと主張している。”【9月9日 AFP】という考え。

 

結果、“混雑した場所で口や鼻を覆うことを世界の大半の国が受け入れている一方、スウェーデンではバスや地下鉄の乗客、食料品の買い物客、登校する生徒たちの中にマスク姿はほとんど見られない。”【同上】

 

****マスク着用に「ノー」を貫く、スウェーデンの新型コロナ対策*****

(中略)

■「科学を信頼?」

好ましい傾向にある今、スウェーデンの公衆衛生当局はマスクに対する立場も含め、自国の戦略を変える理由はないとしている。

 

政府の感染症対策を率いる疫学者のアンデシュ・テグネル氏は、ウイルスに対するマスクの感染拡大抑制効果は科学的に証明されておらず、ずさんな使用では益よりも害をもたらしかねないと指摘する。

 

同氏は最近、記者団に「少なくとも3つの膨大な報告書が、世界保健機関、欧州疾病予防管理センター、WHOが引用した英医学誌ランセットから発表されており、そのすべてが科学的証拠は弱いとしている。われわれが独自の評価を実施したのではない」と語った。

 

英バーミンガム大学応用衛生研究所の所長で疫学者のKK・チェン氏はAFPの取材に、そのような論法は「無責任」で「意固地」だと述べ、スウェーデンに戦略を変えるよう呼び掛けている。「もしも彼が間違っていたら、命が犠牲になる。だが、私が間違っていたとしても、何の害もない」(後略)【同上】

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【変わる風向き 現時点では「成功」の評価も】

風向きが変わり始めたのは、8月・9月。

 

“フランス、オランダ、ドイツ、ベルギー、スペイン、イタリアなど欧州の多数の国で感染の再増加しているのと対照的に、スウェーデンの感染者数は望ましい減少方向に向かっているように見える。

 

1日当たりの死者数は4月にピークとなった後、現在は2、3人となり、新規感染者数は6月初めから着実に減少している。患者1人から感染が広がる人数を示す実効再生産数は、7月初めから1未満に抑えられている。”【同上】

 

でもって、今日見た記事が下。「成功」とのこと。

 

****スウェーデンが「集団免疫」を獲得 現地医師が明かす成功の裏側****

グローバルに多様性が求められる昨今でも、こと危機下においては、自分流を貫くのは難しい。周囲に足並みを揃えないと、日本の自粛警察が典型だが、圧力がかかる。しかも、圧力をかける側も付和雷同なだけで、根拠が薄弱な場合が多いからやっかいだ。

 

それは国家レベルでも起きる。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ヨーロッパの多くの国がロックダウンを導入した際、スウェーデンはそれを回避した。その独自路線は当初から物議をかもし、死者数が増えると失敗の烙印を押され、自国のノーベル財団や医師からも批判された。

 

ところが、同国のカロリンスカ大学病院に勤務する宮川絢子医師は、「スウェーデン当局は、集団免疫を達成しつつあるという見方を発表しています。最近、若者を中心に陽性者数は増加傾向にあるものの、重症者数や死者数の推移が落ち着いたままであることも、その状況証拠になっていると思います」と話す。

 

そうであるなら非難されるどころか、フランスやスペイン、イギリスなどで感染が再燃するなかでも、泰然としていられよう。すなわち、問題児のはずのスウェーデンが勝者になったことになる。

 

新型コロナウイルスに感染しての死者数は、たしかにスウェーデンでは、最近あまり増えていない。累計5899人で(10月15日現在)、ピークの4月には1日100人を超えた日も4回あったものの、8月はひと月で78人、9月は54人とかなり落ち着いており、9月下旬以降はゼロという日が目立っている。

 

結果として、7月以降は国内の死者数全体が、例年とくらべてむしろ少ないほどだ。掲載の表は人口10万人あたりの死者数を週ごとに算出したものだが、9月第3週は13・9人と、ここ数年で最も少なくなっているのである。

 

スウェーデンの人口は1035万人だから、6千人近い死者数は、絶対数として少ないとはいえない。しかし、人口4732万人のスペインにおける3万2千人、同6706万人のフランスにおける3万2千人、同6679万人のイギリスの4万2千人とくらべ、多いわけではない。

 

しかも、ロックダウンを実施したこれらの国が、いま感染の再燃を受け、再度のロックダウンを検討し、部分的にはすでに導入していることを思えば、スウェーデンに分があるとしか言いようがあるまい。

 

では、スウェーデンではどんな対策が講じられ、なにが起きたのか。いまも日ごとの感染者数に一喜一憂する日本とは、人々の意識をはじめ、どう異なるのか。それを辿ることで、このウイルスの性質も、われわれの向き合い方も、いっそう明瞭になるに違いない。

 

情報が隠されていない

スウェーデンでは、感染のピーク時にも国民生活にほとんど制限を加えなかった、と誤解している人もいるが、そうではない。宮川医師が説明する。

 

(中略)集会の制限が象徴するように、スウェーデンの対策の肝はソーシャルディスタンスである。カフェやレストランは、営業を停止させられたり、自粛を求められたりせずにすんだが、「レストランでも間隔を空けて座るという対策が、来年夏まで延長され、立食形式も禁じられたまま。症状があれば自宅待機、という対策も続いています。しかし、マスクはほとんどの人が着けていません。マスクを優先してソーシャルディスタンスをとらなくなれば、そのほうが問題だ、という考えによるものです」(中略)

 

スウェーデンの規制のあり方は、強制を伴うロックダウンは行わず、自粛要請にとどまった日本の対策と近い――。そう気づいた方も多いのではないか。もちろん、違いはある。

 

「日本と大きく違ったのは、学校を休校させたかどうか、です。スウェーデンでは子どもが教育を受ける権利が重視され、家庭環境に恵まれない子どもが登校できなくなることで起きる弊害が考慮されました。一斉休校になれば、医療従事者の1割が勤務できなくなるという試算もあり、高校や大学は遠隔授業になっても、保育園や小中学校は閉鎖されませんでした」

 

ほかにも日本と似て非なる点が指摘できるが、それは、実は根源的な違いかもしれない。

「日本では“自粛警察”のようなものがあったと聞きます。スウェーデンでもごく初期には多少あったようですが、現時点ではまったくありません」

 

これは国民の意識の差だが、背景には、当局の姿勢の違いがありそうだ。

「悪いデータもよいデータも公開され、情報が隠されていないことが、国民の安心につながっていると思います。死者数が増えているときでも、手を加えていない生データが毎日公開されます。

 

陽性者数だけが問題になることはなく、PCR検査数が増加して陽性者数が増えたときは、“重症者と死者は減っているので問題ない”という説明が当局からありました。

 

別のときには、“陽性者が増えたのは10代後半〜40代で、リスクグループである高齢者の陽性者は減っているので問題ない”という説明もなされました。アンケートによれば、当局の対策は7割程度の国民に支持されています。

 

死者数を見ず、陽性者数ばかり気にする国もあり、ノルウェーなども陽性者数が増えてかなり騒いでいて、そういう状況は日本にも見られます。死者数にフォーカスするスウェーデンとはだいぶ違います」

 

状況を正しく把握できれば、自粛警察のような不毛な行動は防げるわけだ。

 

死者が多いのは別の原因

東京大学名誉教授で食の安全・安心財団理事長の唐木英明氏は、「スウェーデンの新型コロナ対策には、重要なポイントが二つあると思います」と、こう説明する。

 

「一つは、国家疫学者であるアンデシュ・テグネル氏が、しっかりと対策方針を立てて政府に助言し、政府はそれを最大限実践していることです」

 

宮川医師の言葉で少し補足すれば、「ロックダウンには、はっきりとした学術的エビデンスがない」というのが、テグネル氏の主張だった。「対比されるのがイギリスのジョンソン首相で、最初はスウェーデンに近い緩い対策を打ち出しながら、世論に押されて方針を変更してしまいました。」(中略)

 

もっとも、スウェーデンの対策は必ずしも集団免疫獲得を狙ったものではない旨を、宮川医師は説く。

「長期間の持続が困難なロックダウンは避け、ソーシャルディスタンスをとりながら高齢者を隔離し、医療崩壊の回避を狙ったのです。6月時点で、ストックホルムでの抗体保有率は20%程度でしたが、新型コロナに対し、感染を防いだり軽症化させたりする細胞性免疫が存在する可能性が次々と報告され、公衆衛生庁は7月17日、“集団免疫がほぼ獲得された”という見解を発表しました。これはいわば副産物です」

 

いずれにせよ、収束にいたる最短の道を歩んでいることは間違いない。

「今年第1四半期(1〜3月)のGDPは、ユーロ圏で唯一プラス成長。第2四半期の落ち込みもマイナス8・6%と、EU諸国一般ほどは、経済への打撃は受けませんでした」

 

それでもノルウェーの死者数は275人、フィンランドは345人なのにくらべ、スウェーデンは犠牲が大きすぎたという指摘もある。だが、『北欧モデル』の共著もある日本総合研究所の翁百合理事長が言う。

 

「(中略)死者が多かったのは、むしろ介護システムの問題です。(中略)そういう構造的な問題があったのです」

 

テグネル氏が「守るべき高齢者を守れなかった」と言うと、スウェーデンの敗北宣言のように報じられたが、実際には、介護システムの問題を悔やんでの発言だったという。

 

(中略)そして、スウェーデン在住者の実感を漏らす。

「ロックダウンは副作用がかなり大きく、経済的ダメージのみならず、長期的には精神面も含め、健康に悪影響を及ぼして命にかかわってきます。また、センシティブで難しい問題ですが、ロックダウンで失われる命は、若い世代のほうが多いでしょう。年齢に関係なく命は等価だという意見もありますが、予後が悪い高齢者と、これから社会を背負っていく若い人が同じであるとは、簡単には言い切れないと思います」

 

(中略)医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏が言う。

「スウェーデンは結果的に利口な対策でしたが、4〜5月の時点ではわからないことだらけで、イチかバチかの側面があったでしょう。それに日本とは社会的背景も国民性も異なるので、日本も真似をすべきだったとは言い切れません。

 

しかし、データが揃いつつあるいまは違う。冬に向けて第3波がやってきたとき、また緊急事態宣言、外出自粛や休業要請というのは合理的ではありません。ロックダウンをしなくても収束に向かい、集団免疫も得られることが、スウェーデンのデータからわかるし、そもそもこのウイルスは、日本人には大きな脅威にならないことがわかっている。

 

外出自粛で感染防止に執心するだけでなく、たとえばステイホームの結果としての孤独が、自殺が増えるという最悪の事態に発展していることも考えるべきです」

 

スウェーデンの新型コロナ対策の背後に感じられるのは、このウイルスとは長い付き合いになるという覚悟と、そうである以上、無理は禁物だという大人の判断だ。結果として、無用に追い詰められる人は少なくなる。表面的には日本と似た緩い対策を支える精神の違い。日々の感染者数に一喜一憂する日本が学ぶべきはそこにあろう。【10月18日 デイリー新潮】

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もっとも、“スウェーデンでコロナ感染が再拡大、首相が警戒の緩みを警告”【9月25日 ロイター】とも。

“テグネル氏は記者団に、「緩やかだが、確実に誤った方向に向かっている。秋にみんなが職場復帰したときに起こり得ると議論していた事態だ」と述べた。”

 

再び評価が変わることもあるのかも。

「ブレないのがいい」という話でもないでしょう。ブレない結果、屍累々では意味ありません。

では、どうあるべきなのか・・・わかりません。

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アゼルバイジャンとアルメニア 停戦合意後も続く戦闘 後ろ盾国トルコ・ロシアの思惑

2020-10-17 23:14:59 | 欧州情勢

(アゼルバイジャン西部ギャンジャで17日、現場で捜索、救出活動が続く中、破壊された自宅跡に立つ女性(中央)=ロイター【10月17日 朝日】)

 

【停戦合意後も続く戦闘】

ロシアの仲介で10日に停戦合意が発効したとされる、アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領のナゴルノ・カラバフ地域をめぐる争い・・・・容易には鎮火しそうにありません。

 

****揺らぐ停戦、ロシア火消し アゼルバイジャンとアルメニア****

アルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領のナゴルノ・カラバフ地域をめぐり、両国の停戦合意が履行できるかどうか瀬戸際に立たされている。

 

発効から3日経過した13日も戦闘が続き、双方の非難が収まらない。和平協議再開に向け、ロシアなど関係国は沈静化に努めるが、先行きは不透明な状況だ。

 

「我々の情報では、攻撃を決めたのは(アルメニアの)パシニャン首相本人だ」。アゼルバイジャンのアリエフ大統領は12日、テレビのインタビューで語気を強めた。

 

前日に同国西部ギャンジャで集合住宅が爆発で崩壊。同政府はミサイル攻撃によるもので、市民10人が犠牲になったとしている。タス通信によると爆発は停戦合意の発効から14時間後の11日午前2時に起きた。建物は崩れ残ったのは壁一つ。数百メートル離れた場所でも窓ガラスが割れたという。

 

アルメニア国防省はただちに関与を否定した。逆にナゴルノ・カラバフの東側境界線上の複数の場所に攻撃を仕掛けているとしてアゼルバイジャンを非難。インタファクス通信によると、パシニャン氏は12日、「停戦は存在しない」とも述べた。現地からの報道では、境界近くの拠点をめぐる衝突が13日も続いた。

 

両国ともかつては旧ソ連の共和国。アゼルバイジャン内の自治州でありながらアルメニア系住民が多数を占めたナゴルノ・カラバフは、1991年のソ連崩壊を前に独立を宣言。

 

独立を支持するアルメニアとアゼルバイジャンとの軍事衝突が本格化した。この紛争の停戦は94年に成立したが、先月27日に勃発した衝突はそれ以来の規模だ。

 

今回の停戦は10日未明に決まり、同日正午に発効。アゼルバイジャンのバイラモフ外相は合意後「政治解決は支持するが、軍事的手段で領土を回復する権利を持ち、いつでも行使できる」とした。

 

94年以来アルメニアはかつての自治州の範囲を越えてアゼルバイジャンの国土の10%以上の地域を実効支配する。アリエフ氏は90年代初頭に採択されたアルメニア軍撤退を求める国連安保理決議が実行されていないとし「力による解決」の正当性を主張してきた。

 

今回の停戦合意では欧州安保協力機構(OSCE)で続く和平協議を再開させることも盛り込まれた。ただアゼルバイジャンを支援するトルコはこれまでの協議を批判しており、停戦履行が滞ればその枠組みも崩壊しかねない。

 

停戦協議を仲介したロシアは緊迫化する状況の沈静化に努めている。ラブロフ外相は12日、停戦がプーチン大統領とアリエフ氏の合意にもとづくものだったことや、トルコも停戦を支持したと強調。「停戦履行のための課題はわずかだ」と語った。【10月14日 朝日】

**********************

 

軍事的には、ナゴルノ・カラバフ地域を死守しようとするアルメニア軍に対し、これを奪還しようとするアゼルバイジャン軍の方が優位にあるとも言われています。

 

そうした軍事的優位を実現し、アゼルバイジャンを強気にさせているのが文化的・宗教的に近く、「虐殺問題」で同じようにアルメニアと敵対するトルコの支援。

 

ロシア仲介の停戦合意についても“アゼルバイジャン当局幹部は、「遺体や捕虜の交換のための人道的な停戦だ。(本当の)停戦ではない」とし、同国政府としてはナゴルノカラバフの支配権を取り戻す取り組みを「やめる考えはない」と述べた。”【10月11日 AFP】と、強気の姿勢を変えていません。

 

トルコも同様姿勢でアルメニアのナゴルノ・カラバフ地域からの撤退を求めています。

 

****停戦は恒久解決にならず=トルコ、アルメニアに撤退要求****

トルコ外務省は10日、声明を出し、係争地ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの停戦について「捕虜や遺体の交換のためで、恒久的な解決策に代わるものではない」と指摘した。その上で、ナゴルノカラバフを実効支配するアルメニアに対する「最後の機会だ」と述べ、直ちに係争地から撤退するよう要求した。

 

トルコは「同一民族の兄弟国」と見なすアゼルバイジャンの後ろ盾。声明では「トルコはアゼルバイジャンが受け入れられる解決策のみ支持する」とも強調した。【10月10日 時事】 

********************

 

【戦闘拡大で後ろ盾となっているロシア・トルコを巻き込む可能性も】

戦火が拡大し、全面的な戦争状態ともなれば、アルメニアと軍事同盟関係にあるロシア、アゼルバイジャンを支援するトルコを巻き込む事態ともなりかねません。

 

アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対するミサイル攻撃に対し、アゼルバイジャン側もアルメニア国内軍事施設を攻撃破壊したとしています。

 

****アゼルバイジャン、アルメニア国内を攻撃 紛争拡大の恐れ****

アゼルバイジャンは14日、アルメニア国内からアゼルバイジャンの都市を攻撃していたミサイル発射装置を破壊したと発表した。係争地ナゴルノカラバフをめぐる両国間の紛争に地域大国のロシア・トルコを引き込む恐れを高める展開だ。

 

ナゴルノカラバフをめぐり2週間にわたり続いている戦闘では、これまでに数百人が死亡。先週にはロシアの首都モスクワで停戦合意が交わされた後も衝突は続き、合意は形骸化している。

 

アルメニアは国内の軍展開地が攻撃を受けたことを認めたが、同国軍によるアゼルバイジャン領土への攻撃はなかったと主張。アルメニア側もアゼルバイジャン国内の軍施設に対する攻撃を開始する可能性があると警告した。

 

アルメニア外務省はその後、アゼルバイジャンが停戦を拒否していると批判。アゼルバイジャンがトルコの支援を受けてアルメニアを攻撃し、紛争地域の「拡大」を企てていると主張した。

 

アルメニアはロシアが主導する集団安全保障条約に加盟しているが、ロシア政府はこれまで、同条約はナゴルノカラバフには適用されず、アルメニア領土のみが対象となるとして介入を拒否してきた。

 

アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノカラバフは1990年代のソ連崩壊時に起きた紛争以降、アルメニア系住民によって支配されている。アゼルバイジャンは同地の奪還を目指す意向を繰り返し表明。ナゴルノカラバフの独立宣言を承認している国は今のところない。

 

アルメニアのニコル・パシニャン首相は14日、北部・南部の各前線で分離派の部隊が撤退を強いられたと認め、状況は「非常に深刻」だと表明。国民向けテレビ演説で、「われわれは敵を阻止するために団結し、カラバフの独立を実現しなければならない」と呼び掛けた。 【10月15日 AFP】

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【アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対する攻撃 アゼルバイジャンは「報復」表明】

17日、アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャに対する、11日に続く更なる攻撃があったとされています。

 

*****アゼルバイジャン第2の都市にミサイル、民間人に被害*****

アゼルバイジャン第2の都市ギャンジャで17日未明、複数の民家がミサイル攻撃で破壊された。同国とアルメニアの係争地をめぐる3週間におよぶ紛争はいっそう激化している。

 

ミサイル攻撃があった時、多くの住民は就寝中だった。ギャンジャにいるAFP取材班は、建物群ががれきの山と化し、人々が泣きながら現場から逃げる様子を目撃した。バスローブやパジャマ姿の人も見られ、多くは室内用のスリッパを履いたままだったという。(中略) 

 

イルハム・アリエフアゼルバイジャン大統領のヒクマト・ハジエフ補佐官はツイッターで、第1報として「民家20軒以上が破壊された」と明かした。

 

ギャンジャでは11日に別の住宅地がミサイル攻撃を受け、民間人10人が死亡していた。 【10月17日 AFP】*******************

 

こうなると“アゼルバイジャン政府はアルメニア側からスカッド・ミサイルが撃ち込まれたと主張。(アゼルバイジャンの)アリエフ大統領は17日、「これは戦争犯罪だ。国際社会が罰しないなら、我々が戦場で答えを出す」と述べた。”【10月17日 朝日】と、戦火拡大に歯止めがかからなくなります。

 

軍事的には劣勢とされるアルメニア側が、アゼルバイジャンの都市攻撃で戦火を拡大させる意図はよくわかりません。

 

****南コーカサス紛争****

(中略)ganjaがミサイル攻撃を受けていることは事実のようですが、この町はナゴルノカラバッハから離れていて、報道では特に軍事的に重要ではないとのことですが、アルメニア軍が繰り返し攻撃している理由は不明です。

一つの可能性としては、ナゴルノカラバッハでの戦闘がアルメニア側に不利に進んでいるので、第2戦線と言うか、離れた場所で攻撃し、ナゴルノカルバッハ地域に対する圧力を軽減することでしょうか?

もう一つは人口比率からも、長期間の戦闘はできないため、国際社会に対してアルメニアの決意を示し、その介入と停戦の実施を求めるシグナルと言うことです。

いずれにしてもトルコは非難していますが、民間目標に対する攻撃に対して、米仏等があまり反応していないのは興味深いところです。(後略)【10月17日 中東の窓】

*********************

 

なお、“ロシアのノーボスチ通信によると、アルメニア国防省は同国領からの攻撃も同国軍の空爆も行われていないとして関与を否定している。”【10月17日 朝日】とのことです。

いくら何でも、アゼルバイジャン側の自作自演ということはないでしょうが・・・。

 

【微妙なロシアとトルコの関係 本音では関係悪化は望んでいないのでは】

双方の後ろ盾となっているロシアとトルコの関係も微妙です。

 

ロシアとしては、シリアやリビアでもトルコと利害が対立するものがありますが、一方で、それだけにトルコとの関係が決定的に悪化することは望んでいないでしょう。利害対立はあるものの双方がなんとか協調して枠組みを維持できる状況を保ちたいところ。

 

エルドアン大統領の“新オスマン主義”で欧米と対立することも多いトルコも、アメリカを敵に回してまでロシアのミサイルを導入し、欧米をけん制するというように、ロシアとの関係は維持したいところでしょう。

 

****トルコでミサイル実験か=ロシア製S400の可能性****

トルコ軍は16日、同国の黒海沿岸地域で、ミサイルの発射実験を行ったもようだ。ロシア製の地対空ミサイルシステム「S400」が使用された可能性もある。

 

S400であれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるロシア製兵器導入を深刻視する米国などが強く反発するのは避けられない状況だ。

 

トルコ当局はこれより先、「発射訓練」を行う予定があるとして、特定の空域、海域に入らないよう警告のメッセージを出していた。ロイター通信などによると16日、対象地域でミサイルが発射されるのが映像で確認された。【10月16日 時事】 

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なお、アメリカはトルコのアゼルバイジャン支援を批判しています。

 

****ナゴルノ紛争でトルコ批判=ポンペオ米国務長官*****

ポンペオ米国務長官は15日、米テレビのインタビューで、アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突について、アゼルバイジャンの後ろ盾のトルコが「リスクを高めている」と批判した。その上で外交交渉を通じた事態の平和的解決を呼び掛けた。

 

ポンペオ氏は「トルコがアゼルバイジャンに資源を提供し、現地での戦力を強化している」と述べ、第三国の介入に反対すると強調。劣勢の伝えられるアルメニアが「アゼルバイジャンの行為を防御できるようになり、停戦が機能することを望んでいる」とも語った。【10月16日 時事】 

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また、東地中海問題で“トルコのガス田探査船、東地中海で作業を開始”【10月14日 ロイター】ということで、今後欧州のトルコ批判・圧力が強まることが予想されます。

 

そうした情勢で、アゼルバイジャンに深入りしてロシアを敵に回すことになれば、トルコとしては周りは敵だらけという状況にもなりますので、そうしたことはエルドアン大統領も望まないのでは。

 

当然ながらプーチン・エルドアン両大統領の間では協議がなされています。

 

****ナゴルノカラバフ紛争解決目指す トルコ、ロシア首脳が電話会談****

トルコのエルドアン大統領は14日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、アゼルバイジャンとアルメニアが衝突するナゴルノカラバフ紛争に関して協議した。従来の国際的な枠組みのほか、関係国との2国間の枠組みを通じて問題の「永続的な解決」を目指す考えを伝えた。トルコ大統領府が発表した。

 

アゼルバイジャン支持のエルドアン氏は、アルメニアが「(係争地)占領を恒久化しようとしている」と改めて非難。同紛争の平和解決を目指し、トルコもメンバーの欧州安保協力機構(OSCE)内の「ミンスク・グループ」の枠組みに加え、関係国との2国間協議に意欲を見せた。【10月15日 共同】

***********************

 

もっとも、今回のギャンジャへのミサイル攻撃のような形で現地情勢が緊迫化すると、プーチン・エルドアン両大統領の思惑にもかかわらず事態が制御不能的に拡大する危険もあります。

 

何としても「失地回復」したいアゼルバイジャンとしては、頭越しにトルコとロシアが手打ちするようなことは不快でしょう。

そうさせないためには、中途半端な手打ちができないように事態を悪化させる・・・という可能性も。あくまでも可能性の話です。

 

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マレーシア  新型コロナ禍でも続く権力闘争 「裏切り」「多数派工作」、ドラマのような展開にも

2020-10-16 23:30:02 | 東南アジア

(握手するアンワル氏(左)とマハティール氏(右)【2018年5月17日 WSJ】 

アンワル氏はマハティール氏が選挙で首相に返り咲いた1週間後に釈放されたましたが、その当時の写真でしょうか?

長年の敵対関係を超えて握手した両者ですが、(大方が予想したように)再び権力をめぐるライバル関係に戻ったようです。)

 

【「裏切り」「多数派工作」・・・情勢は不透明】

マレーシアの政治情勢については、アンワル元副首相が議会の過半数の支持を獲得したとして政権を求めている話など、9月27日ブログ“マレーシア 進む巨大汚職疑惑の「幕引き」 アンワル氏、議会多数派獲得として政権を要求”で取り上げました。

 

その後も、いまだ不透明な情勢が続いています。

 

マレーシアでは超高齢のマハティール前首相が(選挙当時、「同性愛」という政治的冤罪とも思える罪で拘束されており、表に出ることができなかった)旧敵アンワル元副首相と手を組む形で、弟子筋にあたるナジブ元首相を追い落とし政権を獲得しました。

 

その際、2年以内にマハティール氏から政界復帰した本来の野党勢力指導者アンワル元首相に禅譲することになっていましたが、その禅譲スケジュールが明らかにされないなかで、マハティール氏を支持する勢力とアンワル元副首相を支持する勢力の間でギクシャクした状況に。

 

マハティール氏はいったん辞任して、態勢の立て直しを図ろうとしましたが、その間隙をつく形で、腹心のムヒディン・ヤシン氏がマハティール氏を裏切って野党勢力(ナジブ元首相の勢力)と結託、国王に「下院の過半数の支持」を集めたと申し出る形で政権を奪取。

 

汚職疑惑などで選挙で敗退したはずの野党(旧与党・ナジブ氏支持)勢力は選挙を経ずに権力に復帰。

ドロドロした韓国ドラマのような展開となっています。

 

*****マレーシア、ムヒディン前内相が新首相に マハティール暫定首相の腹心が野党と協力****

マレーシア王室は2月29日、アブドラ国王が野党勢力から支持を受けるムヒディン・ヤシン前内相(72)を、新首相に任命したと発表した。

 

与野党代表らや下院議員らの意向を確認した結果、ムヒディン氏が憲法で定められた「下院の過半数の支持」を集めたと判断したとみられる。3月1日に宣誓式が行われる。

 

マハティール暫定首相(94)は首相復帰を目指していたが、与党連合内の内紛に足をすくわれ、かつての腹心に敗れた。

 マハティール氏が率いる与党連合は2018年5月の総選挙で1957年の独立以来初の政権交代を実現。しかし、首相に就任したマハティール氏からアンワル元副首相(72)への政権禅譲を巡り連合内が分裂。マハティール氏は2月24日に辞任し、国内政治は混乱に陥っていた。

 

ムヒディン氏は、マハティール氏が所属する「マレーシア統一プリブミ党(PPBM)」の党首で、マハティール政権で内相を務めていた。ムヒディン氏は当初、マハティール氏の首相復帰を支持していたとみられるが、最終的に野党勢力と手を結んだ。

 

与党連合は29日に新首相候補をマハティール氏に一本化して政権維持を狙っていた。【2月29日 毎日】

*********************

 

しかし、ムヒディン支持勢力も過半数をわずかに超える程度で不安定、今回その一部が「多数派工作」でアンワル元副首相支持に寝返ったということで、今度はアンワル元副首相が首相任命を国王に求めているという状況です。

 

なお、マハティール前首相は、さすがに95歳という高齢ということで首相復帰をあきらめ、引退表明しています。

 

****マレーシアで政治混乱、収束見通せず 「裏切り」に多数派工作で対抗****

マレーシアで、政治混乱が深まっている。マハティール前首相が2月に辞任した後、後継を巡って権力闘争が発生。

 

マハティール氏を裏切り、野党側と手を結んだムヒディン内相(当時)が首相に就任したが、ムヒディン氏に憤るマハティール氏、アンワル元副首相らが議会で多数派工作を仕掛けるなど、混乱の収束は見通せない。2023年に予定される下院選が前倒しされる可能性も取り沙汰されている。

 

「下院議員の過半数の支持を確保した」。アンワル氏は今月23日の記者会見でそう主張し、アブドラ国王に近く謁見することを明らかにした。

 

憲法は、国王が下院議員の過半数の信任を得ていると判断した議員を首相に任命すると定める。

 

アンワル氏は過半数の詳細を明らかにしていないが、国王が認めれば新首相に任命される可能性がある。だが国王は健康上の理由から面会を見送っており、謁見が実現するかは不透明だ。

 

ムヒディン首相はすぐに声明を発表し、「憲法で定められた手続きを踏まない限りは、ただの主張に過ぎない」と強く反発した。

 

(中略)マレーシアでは、首相に議会の解散権がある。政治混乱が続く場合、下院が解散されて選挙が前倒しになる可能性がある。

 

26日に投開票された東部サバ州の議会選では与党側が勝利しており、地元メディアでは「ムヒディン首相が勢いに乗って解散に踏み切るのでは」との見方も出ている。

 

95歳のマハティール氏は26日に記者会見し、高齢を理由に23年の下院選には出馬せず、議員を引退する意向を表明した。だが、選挙が前倒しされた場合の対応は明言していない。【9月30日 毎日】

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国王も、何等か政治的思惑があるのか、ドロドロした権力闘争に巻き込まれたくないのか、病気を理由にアンワル氏の拝謁を拒否していました。

 

****マレーシア国王は病院に、首相任命巡り1週間は拝謁は許されず****

マレーシアのアブドラ国王は、病院の観察下にあり1週間は誰にも拝謁を許すことはない。王宮関係者が25日明らかにした。

国王はほぼ儀礼的役割を担っているだけだが、議会での多数派を得ていると判断すれば首相を任命することができる。

マレーシアの野党指導者であるアンワル元副首相は23日、議会で多数派を得たとし、新政権の樹立を目指す考えを表明した。

アンワル氏は22日に国王との謁見を予定していたが、体調不良で国王が病院に運ばれたため取りやめとなっていた。【9月25日 ロイター】

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10月13日、ようやくアンワル氏は国王に拝謁することになりましたが・・・・

 

*****マレーシアのアンワル氏、過半数議員の支持主張も個別名は挙げず*****

マレーシアのアンワル元副首相は13日、国王と面会し、下院(定数222)議員のうち120人からの支持を得たことを示す文書を提出したことを明らかにした。

アンワル氏はムヒディン首相からの政権奪取を目指している。

アンワル氏は国王との面会後、記者団に対し「与野党の双方に対し、国王が憲法に基づく責任を果たし、文書を吟味して、党幹部に見解を求めることに備えておくよう、強く求める」と述べた。

ただ王宮によると、アンワル氏は国王に対し支持を表明した個別の議員名は開示しなかったという。王宮は国王とアンワル氏との会談後に声明を発表し「アンワル氏は、支持を表明した下院議員の数は示したが、その主張を裏付ける議員名簿は提出しなかった」とした。

国王はアンワル氏に対し、憲法に基づいた法的手続きを尊重し、従うよう伝えたという。【10月13日 ロイター】

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「下院の過半数の支持」を獲得したというのがそれほど明確なものではないのか、何らかの理由で議員名をだせないのか・・・

 

【本来は、政争に時間を費やしているときではないコロナ禍】

政局は混とんとしていますが、新型コロナの感染拡大で、本来は政争どころではない状況にもなっています。

 

****マレーシア、コロナ再拡大でも「首相」巡り政争****
(中略)アンワル氏は(国王との)面会後、記者会見し「過半数を大きく上回る議員の支持を確保している」と改めて主張した。

 

王室側も13日に声明を発表し、アンワル氏が支持議員の数を提示したと認めた。ただ、議員名を明記したリストは示さなかったため、「国王は憲法に示された法的手続きに従うようアンワル氏に忠告した」という。

 

過半数の支持を得たことを証明するには、議員リストの提示が必要だとの見解を示したとみられる。アンワル氏が国王の支持を得るには、支持議員リストを改めて提出するか、下院でムヒディン首相の首相不信任案を可決するなどして、過半数の支持を裏付ける必要がありそうだ。

 

仮に国王がアンワル氏の主張を受け入れなかったとしても、与野党の議席数が拮抗する状況は変わっておらず、ムヒディン政権は薄氷の政権運営を引き続き強いられる。

 

ムヒディン氏は13日、「私の今の関心は新型コロナ対策と経済の運営だ」と述べ、政争と距離を置く姿勢を強調した。

 

マレーシアでは12日の新規感染者が563人に上るなど、新型コロナの感染が再び広がっている。政府は14日から2週間、首都クアラルンプールやスランゴール州に地域間の移動などを禁止する活動制限令を出す。

 

3月中旬に最初の活動制限令を全土に適用した際は、経済活動が収縮し、4~6月期の経済成長率は前年同期比でマイナス17.1%まで落ち込んだ。

 

こうした状況下での政治の混乱は、国民の生活にも悪影響を及ぼす。マレーシア王室は13日の声明で「国王は(感染拡大の現状を)懸念し、全ての国民に落ち着くよう忠告した」と説明した。

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国王も、新型コロナ禍の状況での政争とは距離を置く姿勢を示しています。

 

****マレーシア王宮、コロナ制限で全会合延期 政争巡る決定先送り****

マレーシア王宮は、新型コロナウイルス流行に伴う制限令を受け、14日以降の全ての会合を2週間見合わせる。王宮関係者が明らかにした。野党を率いるアンワル氏が新政権樹立を目指していることを巡り、国王の決定が先送りされる公算が大きい。

アンワル氏は13日、国王と面会し、下院(定数222)議員のうち120人からの支持を得たことを示す文書を提出したことを明らかにした。同氏は自らが議会の「信任」を得たとしてムヒディン首相の辞任を求め、新政権の樹立を目指している。今後の政局混迷打開に向け、国王の判断が焦点となっている。

国王はアンワル氏の主張を確認するため主要政党の党首と会談する予定だったが、首都クアラルンプールおよび隣接するスランゴール州で14日から2週間の部分的なロックダウン(都市封鎖)措置が取られた。

王室の会計監査官はロイターに対し、新型コロナ感染者が増える中、CMCO(条件付き活動制限令)により王宮のロックダウンが実行されたことを明らかにした。制限令が解除された後に各党首との新たな会談日程を設定するとした。

マレーシアでは13日、新型コロナを巡り、660人の新規感染者と4人の死亡が報告された。累計の感染者は1万6880人、死者は163人。【10月14日 ロイター】

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****マレーシア国王、政治家に交渉を通じた問題解決を要請****

マレーシアのアブドラ国王は16日、国内の政治家に対し、政局の不透明感をこれ以上長引かせてはならないと主張、憲法で定められた法的な手続きと交渉を通じて問題を解決するよう呼び掛けた。

同国ではムヒディン首相と、野党連合を率いるアンワル元副首相が権力闘争を続けている。

マレーシア王室は「国王は最近の国内政治情勢を踏まえ、政治が二度と再び不透明になることがないよう、国民、特に政治家に協力を呼び掛けた。私たちはすでに様々な問題、新型コロナウイルス流行の脅威による厳しい未来に直面している」との声明を発表した。

アンワル元副首相は今週、国王と面会し、過半数の議員の支持を確保し政権を樹立できると説明したが、その後は新型コロナの移動規制により、面会がキャンセルされている。

国王は通常、儀礼的な役割のみを担うが、過半数の支持を得られると考える人物を首相に任命できる。(後略)10月16日 ロイター】

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【マハティール氏「どちらも支持しない」】

こうした状況で、マハティール氏はムヒディン首相とアンワル氏のどちらも支持しないとのこと。

 

****マレーシア、「アンワル首相」でも政治混迷続く=マハティール氏****

マレーシアのマハティール前首相(94)は16日、ロイターとのインタビューに応じ、野党連合を率いるアンワル元副首相が政権を樹立できるほどの支持を議会から得られているかどうかは疑問だとしつつ、たとえ得ているとしても政治の行き詰まりは続くと述べた。

アンワル元副首相は13日、国王と面会し、過半数の議員の支持を確保し政権を樹立できると説明した。

同国ではムヒディン首相とアンワル氏が権力闘争を続けているが、マハティール氏はどちらも支持しないと語った。

マハティール氏は、たとえ新たな首相が誕生してもマレーシアでは変化する政党連合の影響を受けやすい状況は続くと指摘。「そのためどちらにしても状況は非常に不透明であり、政治空白の状況が生まれるだろう」と述べた。【10月16日 ロイター】

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前回ブログにも“アンワル氏は(ナジブ政権当時)与党に対抗する立場で、華人など少数派民族の支持を背景にしてきましたので、既得権益を維持したい多数派マレー系住民の支持は薄く、マレー系住民を支持基盤とする(旧与党)UMNOの一部議員も取り込んで政権についても、マレー系とその他の間のバランスで厳しい政権運営も予想されます。”と書いたように、アンワル氏が政権獲得しても不安定な状況が続くという認識は、マハティール氏の指摘するとおりでしょう。

 

ただ、現在の混とんは、(首相に復帰して権力から離れ難くなったのか)マハティール氏がアンワル氏への禅譲約束の履行を明確にしなかったところから始まっているとも言え、上記インタビューはいささか他人事のような言い様にも聞こえます。

 

「そのためどちらにしても状況は非常に不透明であり、政治空白の状況が生まれるだろう」・・・・また、権力への復帰を考えているのでしょうか。現在95歳、生涯現役・・・かな?

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中国  チベット・ウイグルなど「同化政策」の軋み

2020-10-15 23:02:53 | 中国

(漢族が経営するカフェに改装されたモスク。礼拝所だった広間は休憩所になり、観光客がお茶を飲んだり、寝転んだりしていた=5日、新疆ウイグル自治区・カシュガル【10月15日 朝日】)

 

【中国外務省報道官「チベットは中国という大きな家族の一部で、平和的な解放以来、経済成長をおう歌してきた」】

米中の対立が強まる中で、チベットや新疆ウイグルをめぐる民族文化否定・宗教弾圧・人権問題もアメリカ側の中国批判の一つのカードになっています。

 

そのため、中国側もアメリカの対応に敏感に反応するようです。

 

****米国のチベット担当調整官任命、中国が内政干渉と非難****

米政府がトランプ政権発足以来、空席となっていたチベット問題を担当する特別調整官を任命したことについて、中国政府は15日、米国はチベットの不安定化をもくろんでいると非難した。

ポンペオ国務長官は14日、同調整官にロバート・デストロ国務次官補(民主主義・人権・労働問題担当)を指名したと発表した。デストロ氏は国務次官補を兼務する。

中国外務省の趙立堅報道官は定例会見で「チベットを巡る問題は中国の内政問題で外国の干渉は許されない」と主張。チベット問題調整官の任命は中国の内政問題に干渉し、チベットを不安定化する狙いがあり、断固として反対すると述べた。

趙氏は「チベットの全ての民族グループは中国という大きな家族の一部で、(1950年の)平和的な解放以来チベットは経済成長をおう歌してきた」とし、チベットでは誰もが信教の自由と人権が完全に尊重されていると強調した。

しかしダライ・ラマらは中国の統治について「文化的虐殺」に等しいと非難している。【10月15日 ロイター】

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中国からすれば“平和的な解放以来チベットは経済成長をおう歌してきた”という話になるのでしょうが、“中共軍は1959年3月から62年3月までに中央チベットにおいて、死亡・負傷・捕虜を含めて93,000人のチベット人を殲滅”【ウィキペディア】というチベット動乱の記憶はどこかに飛んでしまったようにも。

 

それはともかく、中国側は経済成長を強くアピールしています。

 

****チベットは「貧困脱却」と宣言 区都ラサで自治区トップ****

中国チベット自治区のトップ呉英傑共産党委員会書記とナンバー2のチザラ主席が15日、区都ラサで内外メディアと記者会見し、中国で最も貧しい同自治区は基本的に貧困状況を脱却したと宣言した。

 

同自治区のトップ2人が現地で会見するのは比較的珍しい。

 

チベットは、31ある省・直轄市・自治区の中で唯一、自治区全体が特別貧困地区に指定されている。「脱貧困政策」に取り組んだ結果、自治区内の74の貧困県・区にいる62万8千人は平均年収が9328元(約14万6千円)となり「全員貧困から脱却した」とした。呉書記は「習近平総書記の特別な配慮があった」と繰り返し礼賛した。【10月15日 共同】

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ツートップそろっての異例の会見というのも、昨今の欧米からの批判を強く意識したものでしょう。

 

【中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性】

マクロ的に見れば「経済成長」は間違いないではないのでしょうが、その恩恵の相当部分がチベットに大挙龍してきた漢族のものになっていること、そして何より宗教をはじめとした伝統的な民族文化が否定されていることへの不満がチベット族住民には大きいと思われますが、そうした「同化政策」を中国側がどのように理解しているのか?

 

****〝新疆化〟するチベット、同化政策進める中国の論理****

9月22日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「新彊モデルがチベットに来ている。北京は悪待遇を否定しているが、監視されない訪問者を禁止している」との社説を掲載し、対ウイグル弾圧のやり方がチベットにも適用されている、もしそうでないのなら、外からの人が自由に状況を見えるようにせよ、と中国を批判している。

 

この社説は、中国がウイグル人に対して行っていることをチベットでも行っていることを告発したものである。チベット人「弾圧」の様子は、チベット入域が厳しく制限される中、外からはなかなか窺い知ることができない。

 

アドリアン・ゼンズは、中国の諸文書、メディアの報道をよく調べ、今回のジェームスタウン財団の報告書をまとめたが、こういう地道な作業は重要である。

 

彼の報告書を読んだが、チベットで新彊におけるウイグルに対する施策と同じことが行われているとまでは言えないように思われる。

 

新彊では、警備の強化された強制収容所のようなものがあるが、チベットの「職業訓練所」はそれほどのものではない。新彊では、ウイグル族の若い女性に不妊手術が行われている(中国政府は否定せず、本人の希望によるとしている)との報道があるが、チベットについてはそういうことは報道されていないし、ゼンズも言及していない。

 

中国側の文書で明らかなのは、中国政府がチベット人を労働力として利用することに大きな関心を有しており、そのためにチベット人の意識を変えて、工場などでも働くように仕向けたいと考えていることである。

 

それでイデオロギー教育や中国語教育を行い、愛国心を高めようとしている。中国政府はそれがチベット人の貧困状況の改善のためであると主張している。

 

中国は、今の傾向が続くと労働力不足に直面することは明らかであり、余剰農村人口の利用を考えることは当然であろう。しかし、チベット人の自発性、文化等を尊重したうえで行うべきことであり、強制的にそうすることはよろしくないだろう。

 

中国は、漢民族が90%以上を占めるが、少数民族も50以上いる。中国人は自治区その他で少数民族の文化尊重などを掲げているが、同化政策と少数民族の文化尊重の間のバランスが最近、同化政策に力点をおくように変化している嫌いがある。内モンゴル自治区の小学校では中国語で教育するなどはその表れだろう。

 

一度中国人とチベット問題を話し合った際、先方からあなたは原始奴隷制支持者ですかと言われたことがある。中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性がある。

 

チベット情勢についても、今後、注意を払っていくべきだろう。【10月14日 WEDGE】

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“中国人の文化的優越感は極めて強く、それゆえに文化破壊に至る政策を「善意」で押し付ける危険性がある”・・・・いろんな政治的判断・思惑があるにせよ、根底に「未開の蛮族に優れた漢文化を広めてやる、それのどこが悪いのか?」という、中華思想的な発想があるのではないかとも推察されます。

 

当事者に「罪悪感」がないだけに厄介でもあります。

そのため、中国側からすれば、欧米からの批判に対する苛立ちで下記のような反応にもなるのかも。

 

****中国への否定的な見方が増加、「中国が何か間違ったことをしたのか」と中国紙編集長****

2020年10月8日、米華字メディア・多維新聞は、日本や欧米諸国で中国に対するネガティブな評価が急速に高まっていることに対する、中国紙編集長の意見を報じた。

記事は、米世論調査機関のピュー・リサーチ・センターが6月から8月にかけて14カ国で実施した調査で、いずれの国でも中国に否定的な見方をする人の割合が過半数に上り、日本、スウェーデン、オーストラリアは80%以上、最低だったイタリアでも62%に達したことを紹介した。

その上で、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報の胡錫進(フー・シージン)編集長が微博上で「これは米国政府が極端なやり方によって世界を分断、分裂させた結果だ。中国は何か間違ったことをしたのか、戦争を仕掛けたり他国の内政に干渉したりしたとでもいうのか。そんなことはしていない。われわれは誠実に、そして努力して自らを発展させ続け、世界との友好を進めてきた。それにもかかわらず、西側の政治、世論のエリートたちは中国を攻撃し、西側市民の中国に対する認識を毒化させていったのだ」と論じたことを伝えている。

また、米国が新型コロナウイルスの世界的な流行に対し中国が責任を負うべきだとの態度を示し、新疆ウイグル自治区や香港の問題で中国がさまざまなレッテルを張られ、中国による有効な方法を用いての解決が妨げられていることについて胡氏が「西洋のエリートたちが気に食わないならそれで結構。われわれは自らのやり方で生活する権利を完全に持っている。中国国民の幸福が、この国の最高目標なのだ」との考えを示したと紹介した。【10月8日 レコードチャイナ】

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【新疆ウイグルで進むモスク破壊 漢族経営のカフェ転用も】

伝統的民族文化の否定、同化政策の押しつけを新疆ウイグル自治区で見ると、多くのモスクが破壊・転用され、漢族によるカフェとして使用されるようになっているものもあるとか。

 

****壊されるウイグルのモスク カフェに改装、寝転ぶ観光客****

中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区で、イスラム教の礼拝所(モスク)が相次いで閉鎖されたり、カフェに改装されたりしている状況を記者が現地で確認した。

 

オーストラリアの研究機関は、衛星写真などで調べたモスクの60%以上が破壊されたりダメージを受けたりしたと指摘。ウイグル族住民の信仰や文化を危機に押しやる行為との批判が出ている。

 

新疆の最西端の街、カシュガルでウイグル族が暮らす旧市街。10年ほど前までは、およそ1キロメートル四方の範囲にれんがや土壁でできた古い街並みが残っていたが、近年開発が進み、国家指定の重点観光地に造り替えられた。

 

それでも土産物屋や飲食の露店が並ぶ通りから横道に入ると、ウイグル族が暮らす居住区が残る。複数の住民によると、旧市街のあちこちにあった小〜中規模のモスクの大半が、この2〜3年で閉鎖されたという。

 

今月初め、居住区を歩くと、茶色いれんが造りで、モスクに特徴的な丸いドームがそびえる建物があった。しかし最上部にあったイスラム教のシンボルの新月は取り外され、カフェに改装されていた。

 

中に入ると、かつて礼拝所だったじゅうたんが敷かれた広間は休憩室として使われ、漢族とみられる観光客がお茶を飲み、寝そべっている人もいた。関係者によると、経営者は広東省から来た漢族で、改装して昨年5月に開業したという。

 

近くの住民は、モスクが飲食店や休憩所として使われている様子を「見たくない」と言って顔を背けた。周辺のモスクもほとんど閉鎖されたといい、「外で礼拝するのは怖いので、家族みんな自宅で拝んでいる」と話した。

 

この店から徒歩1分ほどの距離にあるモスクも、塔の一部が壊され、カフェに改装された。しかし、欧米から来た観光客が昨年、ツイッターで写真をつけて批判的に投稿。それがきっかけになったのか、昨年から閉店したままだという。

 

居住区の東側にある別のモスクは、新月の装飾があった2本の塔が壊され、観光客向けに翡翠(ひすい)を売る土産物屋に改装され、福建省出身の店員が働いていた。旧市街地ではこの3カ所を含む小~中規模のモスク6カ所をまわり、うち5カ所が閉鎖されていた。

 

モスクをカフェに改装した漢族の経営者は取材に、建物は地元政府から賃貸を受けていると説明した。モスクは党や政府が管理し、閉鎖後は別の用途として貸し出しているとみられる。

 

同様の動きは新疆各地で起きている模様だ。豪政府系のシンクタンク、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は9月に報告書を公表。新疆にある約2万4千のモスクから約530カ所を抽出し、衛星写真などを分析した結果、2017年以降、約330カ所が破壊されたり改造されたりしていると指摘した。ASPIは安全保障やサイバー攻撃などでも中国に批判的な報告書を出している。

 

英紙ガーディアンと英国の調査報道機関も約100カ所のモスクを衛星写真などで調べ、16年以降に二十数カ所が破壊されたとの分析を明らかにしている。

 

ウイグル族との民族対立が深まるなか、中国政府はイスラム教への管理を強め、宗教の「中国化」を唱える。

 

新疆の共産党機関研究者は15年、「新疆のモスクの数は正常な宗教活動に必要な数をはるかに超え、分裂主義や過激派の活動拠点になっている」と報告。相次ぐモスク閉鎖の背景には、こうした政権側の認識もあったとみられる。

 

ASPIの報告について、中国外務省の汪文斌副報道局長は9月25日の定例会見で、「ASPIは外部から資金援助を受けて、反中国のでっち上げ報告をしている。新疆の宗教と人権は十分に保障されている」と否定した。

     ◇

 〈ウイグル族をめぐる問題〉 

新疆ウイグル自治区にはトルコ系でイスラム教を信仰するウイグル族が多く暮らし、その人口は2018年現在、新疆全体の50%強の約1270万人を占める。

 

政府の民族政策などへの反発からしばしば対立が起き、2009年にはウルムチ市でウイグル族と漢族が衝突して2千人近くが死傷。これを機に警察署や市民などが襲われる事件が相次いだ。

 

政府はウイグル独立を目指す過激派勢力の犯行として弾圧を強化し、ウイグル族住民への統制も強めた。米国務省などは中国当局が新疆各地に造った「収容所」で100万人以上の住民を拘束していると指摘。中国政府は職業訓練施設だと否定している。【10月15日 朝日】

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【チンギスハンに関する展覧会へ中国圧力】

最近は、内モンゴルにおける中国語教育拡大で、同様の「同化政策」が問題となっていることは、9月10日ブログ“中国・内モンゴル自治区における中国語教育強化 反発する住民 共産党政権の内外統一運動への警戒感”でも取り上げました。

 

****中国が圧力「チンギスハン」を削除せよ 仏博物館、企画展延期に****

モンゴル帝国の創始者チンギスハンに関する展覧会を計画していたフランスの博物館が12日、中国当局が検閲を試みたとして展覧会を延期すると発表した。

 

仏西部ナントにある歴史博物館は、中国・内モンゴル自治区フフホトにある内モンゴル博物館の協力を得てこの企画展を準備してきたが、中国国家文物局が当初の案に変更を求めてきたために問題が生じた。

 

ナントの博物館によると、要求された変更点には「新たな国家観にとって有利となる、モンゴル文化に関する偏った書き換えが顕著な要素が含まれていた」という。

 

具体的には「チンギスハン」「帝国」「モンゴル」といった言葉を展覧会から削除するよう要求され、さらに同展に関するテキスト、地図、パンフレットおよび宣伝に対する監督権も求められたという。同博物館ではこの企画展の開催を3年以上は見送るとしている。

 

今回の騒動は、中国がモンゴル民族に対する強硬姿勢を強める中で起きた。ナントの博物館は、「今夏、中国政府がモンゴル民族への態度を硬化させたこと」が展覧会延期の一因となったと説明している。

 

博物館長のベルトラン・ギエ氏は、「われわれが守る人間的、科学的、倫理的価値観の名の下、今回の展示をやめる決定を下した」と述べた。

 

仏シンクタンク、戦略研究財団のアジア専門家、バレリー・ニケ氏は、「中国政府は、公式の国家観と一致しない歴史観を禁止しており、国外でも同じことをしようとする」と解説した。

 

同シンクタンクの研究員、アントワーヌ・ボンダス氏はツイッターへの投稿で博物館の判断を支持し、伝えられている中国の要求は「常軌を逸している」と批判した。

 

来週から開幕するはずだった企画展は今年、すでに新型コロナウイルス流行の影響で半年ほど延期されていたが、今回の一件で「2024年10月までは延期せざるを得ない」と博物館は述べている。 【10月14日 AFP】

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チンギスハンに関する展覧会で“「チンギスハン」「帝国」「モンゴル」といった言葉を展覧会から削除するよう要求”というのは「なんのこっちゃ?」という感がありますが、要するにチンギスハンをモンゴルンの民族的英雄のように取り上げるのは許さないということでしょう。

 

その意味では、例えばアメリカ南北戦争で南軍を率いたリー将軍を英雄視するような企画に対し、アメリカ・リベラルが「現在の国家間にそぐわない」と反発するようなものか?

 

そう考えれば、それほど突拍子もない話でもないのかも。

 

チンギスハンの取り扱いの「微妙さ」を認めるなら、モンゴル語、イスラムモスク、ダライ・ラマの扱いについても「微妙」な部分があることを認める必要もあるのかも。

 

そうであっても「強制収容所」やモスク破壊を是とすることにはなりませんが。

「同化」と「統合」は別物でもあります。

バランス感覚の問題か・・・と言えば、あまりに曖昧・無意味な言い様でしょうか。

 

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タイ  高まる王室改革要求 14日、首相辞任・王室改革を求める大規模な反政府抗議デモ

2020-10-14 23:02:22 | 東南アジア

(14日、タイの首都バンコクで、政府庁舎近くに集まり、プラユット政権の退陣を求める学生ら【10月14日 読売】)

 

【王室改革も議論される反政府抗議デモ】

タイのプミポン・アドゥンヤデート前国王が死去してから13日で4年を迎え、首都バンコクでは政府関係者や学生らが参加する式典が行われました。

 

国民から敬愛を受けていたプミポン国王ですが、現在のワチラロンコン国王は数々の奇行、贅沢な国外での生活、膨大な資産・・・等もあって、一部では民心が離れつつもあり、軍事政権の流れをひくプラユット政権に対する民主化運動において王室改革も言及される事態となっていることは、これまでも取り上げてきました。

(9月18日ブログ“タイ 王室批判が拡大するなかで、19日に大規模抗議集会 戒厳令、首相辞任、クーデターの噂も”など)

 

****敬愛の対象・タイ王室から民心が離れつつある理由****

(中略)そのタイで異例の事態が起きている。学生たちを中心に抗議デモが相次ぎ、20日には首都バンコクで王宮に向かって大規模な行進が行われた。地元メディアによると、その参加者は約5万人とされる。

 

そこでもっとも驚かされること――というより前代未聞なのは、現政権への批判に加えて、王室改革を叫んでいることだ。

 

国歌演奏中の「咳払い」も不敬罪に

国王を国家元首とする“王国”であるタイには「不敬罪」がある。

 

例えば、映画館で映画が上映される前には国歌と国王の映像が流される。観客は立ち上がってこれを静聴する。ある日本人がこの最中に痰が絡んだことがあった。それだけでたちまち警察に連行されてしまった。(中略)

 

もっとも、行きすぎた不敬罪の適用には、西洋諸国からの批判の声もあるが、それだけタイの人たちは国や国王を尊んでいた。それも4年前に崩御したプミポン前国王は、国民から敬愛されていた。

 

第2次世界大戦が終結した翌年、1946年に即位したプミポン前国王は、自ら土地や農業の改革をはじめ、王妃と全国を視察して歩き、国民との接点を多く持ったことから、国王としての尊敬と信頼を集めるようになった。

 

政情不安が続き、クーデターが繰り返される国内政治に、直接介入することはなかったが、それでも国内が混乱する事態に接すると、積極的な言動で沈静化を図っている。

 

有名なのは1992年の軍事クーデターのあとの流血事件の仲介だ。民主化を求めるデモ隊に軍が発砲して300人以上の死者が出ると、前国王は王宮に双方の指導者を呼び出し、双方を諫めて事態を終息させている。

 

「情勢不安になっても、国王が“お前たち、いい加減にしなさい”というふうに、なだめることで、この国はいつも落ち着きを取り戻す」

 

数十年、バンコクに暮らす在留邦人が語った言葉だ。それだけ国民に対する影響力も大きかった。そんな国王が2016年に崩御するまで70年間も在位していた。

 

前国王は国民からの敬愛を集めていたが

ところが、それこそ不敬罪にあたるから現地でも声を潜めるが、遠回しに言えば、「商売に成功した大旦那の2代目がどら息子」という話は日本の落語にもよくある筋書きで、王位を継承したワチラロンコン国王の評判は、前国王の存命中から聞いていた。前国王亡き後の混乱を予測する声すらあった。

 

日本の主要メディアも不敬罪を怖れてか、報道はほとんどされていないが、よく知られているのは奇行だ。

 

現国王は3回の離婚をしている。そのうち元ストリッパーとされる3番目の妻を、愛犬の誕生パーティーにおいて、人前で裸にさせている映像がネット上に流出している。4年前には、ドイツの空港で短いタンクトップの下の刺青がはっきりとわかる写真がメディア配信されている。飼っていたプードルに空軍大将の称号を与えたことでも知られる。

 

昨年7月には30歳以上も離れた元看護師の女性に陸軍大将と「高貴な配偶者」の称号を与え、一夫一妻制が長年続いた王室で、事実上の側室にすると、その3カ月後には「不誠実で恩知らず」として称号を剥奪。ところが、先月にこれを取り消している。

 

1年の大半を海外で過ごすとされ、それまで王室財産管理局が運用していた王室の資産が、2018年に70年ぶりに改正された法律で「財産は国王の意思によって運用される」とされた。傍から見れば、やりたい放題だ。

 

岐路に立たされるタイ王室

プミポン前国王の時代にはあり得なかった王室批判のデモ。王室を批判するというよりは、先王と比較して燻っていた現国王への不満に火が付いた、と見たほうが正しい。いまのところ不敬罪を楯に、現政権もデモに厳しい姿勢では臨まない。

 

現在の首相は、2014年の軍事クーデターを指揮したプラユット司令官がそのまま首相の座に就き、昨年の総選挙を実施したあとも、再び首相に選出されている。

 

形式的には民政に移行したが、議会は軍部の意向が反映されやすい構造で、総選挙では反軍政を掲げる「新未来党」が議会の第3党に躍進するも、憲法裁判所から解党を命じられている。

 

こうしたことから、プラユット政権を独裁として、繰り返されるデモではプラユット首相の辞職と軍政下で制定された憲法の改正を叫び、8月のデモから王室改革を求める声が加わった。20日の大規模デモでも、集会参加者はその3つを叫び、警備の警察にワチラロンコン国王あての公開書簡を手渡している。しかし、現国王に期待できるだろうか。

 

20日のデモ行進参加者5万人には、タクシン派も加わったと報じられている。

 

サッカー欧州リーグのチームを買い取るほどの富豪としても知られるタクシン元首相は、2006年に国連総会に出席するためニューヨーク滞在中に軍事クーデターが起き、帰国できなくなった。

 

地方を優遇するいわゆる“ばらまき政策”に、都市部の富裕層やインテリ層から不満が噴出していたり、汚職の疑惑が後を絶たなかったりした。

 

その後、赤シャツを着たタクシン派と黄色いシャツを着た反タクシン派に国内は二分され、反タクシン派が座り込みをはじめたスワンナプーム国際空港が機能停止に陥るなど国内が混乱した。

 

やがてタクシン元首相の妹のインラック女史が首相に就くも、両派による混乱は止まず、治安悪化の恐れがあるとして、2014年の軍事クーデターにつながっていく。タクシン・インラック兄妹はタイの検察当局から訴追されているが、現在も海外逃亡中だ。

 

タクシン派がバンコク市内で抗議活動をするときには、優遇されて人気の高かった地方から人が集まってくる。それも「バンコクに入るところでカネを渡している」と現地で聞いた。

 

プミポン前国王は名指しこそしなかったものの、タクシン元首相の金満体質を嫌っていたとされる。

 

いまの議会では憲法改正へ向けた動きもあったが、少数政党が濫立するなかで、それも頓挫しかけている。

 

このまま抗議活動が続いても、前国王のように事態を収拾する存在はいない。いまの国王に期待したところで、矛先はそこに向かっている。時代は着実に変化している。【9月23日 青沼 陽一郎氏 JBpress】

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反政府抗議デモの拡大を受けて浮上した(小幅な)憲法改正論議も先送りされています。

 

****タイ国会、憲法改正論議11月に延期 デモ参加者「時間稼ぎ」と反発****

タイの国会は24日、憲法改正に関する議論を11月に先送りすることを決めた。タイでは若者らによる反政府デモが拡大しており、軍事政権下で公布された憲法の改正は、デモの要求の柱だった。デモ参加者は「政権による時間稼ぎだ」などと強く反発している。

 

反政府デモでは、憲法改正や軍を基盤とするプラユット政権の退陣、絶対的な権威を持つ王室の改革などを求めている。政権はデモを沈静化するため、憲法改正に前向きな姿勢を見せていた。

 

国会での憲法改正論議は9月23日に始まり、24日に改正憲法の草案を作るメンバーの選出方法や改正の進め方など6案の採決が見込まれていた。だが与党は、各党で構成する委員会で意見を調整する必要があるとして、採決の延期を決めた。

 

現行憲法は軍が全上院議員を事実上任命できるなど、軍の政治への影響力を維持する内容で、民意が反映されないとの批判が高まっている。市民団体は憲法改正を求めて約10万人分の署名を集め、国会に提出している。

 

24日は国会前で反政府集会が開かれ、約1000人がスクリーンに映し出された審議の中継を見守った。採決延期を受け、参加者は政権を強く批判。反政府活動により力を入れる構えを見せている。【9月26日 毎日】

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【14日 大規模な抗議デモで緊張高まる】

こうした状況の中で、今日、プラユット首相退陣や王室の制度改革などを求める大学生主導の反政府デモが首都バンコクで始まり、緊張が高まっています。

 

****タイで大学生主導の反政府デモ…首相辞任、王室の制度改革要求****

タイのプラユット・チャンオーチャー政権の退陣や王室の制度改革などを求める大学生主導の反政府デモが14日、首都バンコクで始まった。王室を擁護するグループもデモに反発して集まり、情勢は緊迫化している。

 

デモはバンコクの民主記念塔周辺で展開され、参加者の一部は、「雨傘運動」と呼ばれた香港の民主化運動との連帯を示すために傘を掲げるなどして、「プラユットは出て行け」と叫び続けた。

 

政権側は、ワチラロンコン国王が宗教行事出席のために近くを通過することから、1万5000人規模の警官隊を動員し、厳戒態勢を敷いた。

 

大学生らは、軍主導の政権を率いるプラユット首相の辞任や憲法改正、軍とつながりのある王室の制度改革を要求している。

 

特に、絶対的な権威とされる王室への言及は過去に例のないもので、国内で議論を巻き起こしている。主導者の一人で弁護士のアノン・ナムパー氏は「要求が一つでも受け入れられるまで、デモを続ける」と主張している。

 

タイでは、2014年の軍事クーデターを主導し、約5年続いた軍事政権の暫定首相も務めたプラユット氏が、民政復帰を目指した昨年3月の総選挙後も首相の座にとどまり、軍主導の強権統治を続けている。【10月14日 読売】

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“デモ隊は民主記念塔を出発し、首相府方面へ約2キロ行進した。記念塔付近はワチラロンコン国王の車列が通過するため、王室を支持する多数の市民が道路脇に集まっていた。”【10月14日 時事】

 

“デモ隊と王室支持派が一時衝突し、けが人も出ている。(中略)デモ行進のルートの一部は国王の車列も通過する予定があり、王室支持派や大勢の警察官が沿道に集まり、緊張感が高まっている。”【10月14日 FNN プライムオンライン】との報道もありますが、この時間になっても、それ以上の混乱を伝える報道はありませんので、大きな混乱にまではなっていないでは・・・と推察されます。

 

民主記念塔付近での集会の様子を写したYouTubeがありました。

10/14最新!【緊急LIVE】タイ・バンコク民主記念塔での大集会が大変なことに。。。)

以下、上記動画より。

(3本指を突き上げて、抗議の意思を表す人々)

 

(赤い帽子、シャツはタクシン派とのつながりでしょうか?全体的にはそうした者はごく一部のようです)

(道路わきには黄色シャツの人々 ワチラロンコン国王の車列を歓迎するために集まったと思われます)

(グレーの制服は警官 およそ1万5000人が警備に動員されたとか)

 

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キルギス  続く政治混乱、その背景と静観するロシアの事情

2020-10-13 22:31:38 | 中央アジア

(【10月13日 GLOBE+】)

【政治混乱続くキルギス】

旧ソ連のアゼルバイジャン、アルメニア両国の紛争をなんとか仲介して停戦を合意させたロシアですが、停戦がスタートする10日、係争地ナゴルノカラバフの主要都市ステパナケルトでは“10日午後11時半(日本時間11日午前4時半)ごろ大きな爆発音が7回あり、空襲サイレンが鳴り響いた。”【10月11日 AFP】という状況。

 

アゼルバイジャンを強硬に支援するトルコの対応もにらみながら、ロシアとしては停戦維持(実現?)に苦慮しているようです。

 

****アゼルとアルメニア、戦闘継続 ロシアは停戦順守訴え****

ロシア政府は12日、アゼルバイジャンとアルメニアに対し、係争地ナゴルノカラバフをめぐる停戦合意を即ちに順守するよう求めた。両国の間では同日、激しい戦闘が起きており、停戦合意には暗雲が立ち込めている。

 

アゼルバイジャンとアルメニアは10日、モスクワでの協議で、人道的停戦で合意したが、その後も現地では衝突が相次ぎ、合意は形骸化。両国は12日、互いの違反行為を非難した。

 

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はモスクワでアルメニアのゾフラブ・ムナツァカニャン外相と会談後、「われわれは、採択された決定が両国により順守されることを求めている」と述べた。

 

前線からほど近いアゼルバイジャンの町バルダのAFP特派員によると、現地では12日午前に砲撃音が鳴り響き、午後にはさらに激しさを増した。

 

砲撃を逃れた多数の住民が身を寄せているアゼルバイジャンの村オトゥジキレルで取材に応じた女性は、2週間前に自宅にロケット弾が撃ち込まれて以降、幼い子どもたち3人が夜眠れずに「起きては泣く。死んだ人たちが出てくる悪夢を見る」と語った。

 

ナゴルノカラバフの主要都市ステパナケルトのAFP写真記者は、ハドルトの方向から砲撃音が聞こえてきたと話している。 【10月13日 AFP】

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同じく旧ソ連ベラルーシではルカシェンコ大統領への市民の抗議が続いていますが、ロシアとしては当面。ルカシェンコ大統領の「剛腕」に任せた様子。

 

一方、これまた同じ旧ソ連のキルギスの混乱は相変わらず。

 

*****キルギス議会、新首相にジャパロフ氏を選出 大統領は辞任へ*****

中央アジアの旧ソ連構成国キルギスの議会は10日、ポピュリスト政治家で首相代行に任命されていたサドウイル・ジャパロフ氏を首相に選出した。緊急会合で議員の過半数が、ジャパロフ氏の立候補を支持した。

 

ジャパロフ氏は、ソオロンバイ・ジェエンベコフ大統領が「2〜3日以内に」辞任するとの見通しを示した。ジャパロフ氏によると、ジェエンベコフ氏はジャパロフ氏と面会した際、内閣と行政府を承認してから大統領を辞任する意向を示したという。

 

10日の緊急会合で議会の副議長は、ジェエンベコフ氏が辞任すればジャパロフ氏が大統領代行になるとの認識を明らかにした。議長は現時点で空席になっている。

 

首都ビシケクでは、ジャパロフ氏の支持者数百人が路上に出て首相選出を祝福した。

 

1週間前には4日の議員選の結果に反発した野党支持者らが街頭デモを行い、警察と衝突。少なくとも1人が死亡し、1000人超が負傷した。

 

頑固な国家主義者と評される元議員のジャパロフ氏と、アルマズベク・アタムバエフ前大統領は6日未明、野党支持者らによって他の有力政治家らとともに収監先から解放された。

 

ただ、アタムバエフ氏は10日、ビシケク郊外の拠点を捜索された後に警察と治安部隊によって再拘束された。国家保安当局は、大規模な騒乱を計画したとの新たな疑いでアタムバエフ氏を拘束したことを認めた。 【10月11日 AFP】

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****新首相選出、採決の「正当性」に異論噴出…キルギス首都に再び非常事態宣言*****

政情が緊迫する中央アジアのキルギスで、議会が10日、サディル・ジャパロフ元議員(51)を新首相に選出した採決の「正当性」に異論が噴出している。ソロンバイ・ジェエンベコフ大統領は12日、首都ビシケクへの非常事態宣言を再び発令した。情勢は混迷を深めている。

 

ニュースサイト「アキプレス」などによると、ジャパロフ氏は大統領の与党会派など61議員の賛成で新首相に選ばれた。1院制の議会の定数は120人で、憲法が規定する「過半数の賛成」をクリアした形だ。

 

だが、ジャパロフ氏を推さなかった野党系議員や法律学者は、61人のうち10人が賛成の意思表示を委任して欠席したため、「無効だ」と反発している。

 

ジャパロフ氏は、2013年の人質事件に絡んで服役中だったが、野党勢力による抗議行動に乗じて6日に解放された。こうした経歴が新首相の人選を巡る野党勢力の分裂を招いていた。【10月12日 読売】

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【「裏庭」でのキルギス混乱をロシアが静観している事情】

ただ、こうした混乱にもかかわらず、ロシアの表立った動きはなく静観の構え。

 

キルギスの混乱は多くの報道はなされるものの、混乱の背景などよくわかりませんでしたが、下記記事の解説でようやく事情が少しわかりました。

 

また、ロシアが静観している理由も。

 

****激動のキルギス情勢を読み解く3つの視点****

ユーラシアで相次ぐ大事件

(中略)そうした中で、中央アジアに位置するキルギスの政変は、ベラルーシとあまりにも対照的な展開を辿ったことから、注目を浴びました。

 

選挙の不正に憤って野党・市民らが立ち上がったという点では、両国とも同じでした。

しかし、キルギスではデモ隊が政府庁舎を占拠し、当局が議会選挙結果の無効を認めるとともに、内閣も交代するという事態にまで、一気に突き進みました。「ベラルーシでは10万人が2ヵ月かけてもできなかったことを、キルギスでは5,000人が一夜にしてやってのけた」などと言われています。(中略)

 

今後キーパーソンになっていきそうなジャパロフ氏は北部のイシククル州出身で、現在51歳。

 

これといった資源や産業のないキルギスにおいて、イシククル州にあるクムトル金鉱は唯一のドル箱企業となっているわけですが、ジャパロフ氏はその経営のあり方や環境破壊を批判し、国有化すべきだというのを持論としています。

 

このように、キルギス政変の「スピード感」は際立っているわけですが、当然のことながら、「キルギス国民は優秀でベラルーシ国民は駄目だ」などという単純な話ではありません。

 

キルギスでは過去15年で実に3度目とも4度目とも言われる「革命」であり、政変の敷居があまりに低いのです。今回の暴動でも政府庁舎があっさりと陥落しており、こうなるとむしろ、国家が国家の体を成しておらず、いわゆる「失敗国家」、「崩壊国家」の範疇に属すのではないかと考えてしまいます。

 

一方、ベラルーシではルカシェンコが周到に築き上げてきた権力構造と暴力装置があり、野党・市民がそれを実力で覆そうとするのはあまりに無謀です。

 

ベラルーシでは、デモ隊が一線を越えれば、直ちに治安部隊による殺戮が始まり、さらにはロシアの武力介入を招く公算も大きいので、市民側は平和的な抗議行動に徹してきたわけです。

 

キルギス情勢はきわめて流動的です。近くやり直しの議会選挙があるはずですし、場合によっては大統領選挙も前倒しで実施されるかもしれません。ですので、今回のコラムではキルギスの政情に関し、目先の動きを追うのではなく、情勢を読み解く上で鍵となる3つの視点について解説してみたいと思います。

 

第1の視点:北部と南部の相克

キルギスという国では、地縁、経済的利害などで結び付いたいくつかの「閥(クラン)」が割拠し、それらが合従連衡することが、権力闘争の基本となっています。

 

政党も、政策理念というよりも、閥の利益を代表するために存在しているようなところがあります。(中略)

ルカシェンコが一元的な権力体制を築き、また国内の地域差なども比較的小さいベラルーシとは、似ても似つかないのです。

 

そして、キルギスの閥力学は、突き詰めて言えば、北部と南部の対立に集約されます。(中略)

 

北部と南部では、歴史的な遺恨もなきにしもあらずで、文化・風習・方言などの違いもあります。北部が工業化されロシア語化されているのに対し、南部は農業を主体とした伝統的な土地柄だと言われます。

 

したがって、北部の社会が個人主義的なのに対し、南部では人々の絆がより深いとされます。そして、普段はそれほど意識されていなくても、今回のような選挙、政変という緊張した局面になると、南北の対立構図がお決まりのように前面に出てくるようです。

 

キルギスの歴代大統領は、基本的に、南北いずれかの利益を代表していました。

 

初代のアカエフ(在位1990-2005)は学者出身であり、最初は中立的な存在としてトップに押し上げられたものの、北部に依拠するようになり、最後は南部の諸閥を主力とする連合勢力によって倒されます。その跡を襲ったバキエフ(在位2005-2010)は、南部の代表でしたが、結局は北部を主力とする広範な連合勢力に倒されました。

 

その後、オトゥンバエワ(在位2010-2011)という短い中継ぎ的な大統領を挟んで、バキエフ打倒の先頭に立った北部のアタンバエフ(在位2011-2017)が大統領に就任しました。

 

彼は6年の任期を務め上げたあと、当国では再選が禁止されているため、子飼いの南部人ジェエンベコフ(在位2017-)に大統領の座を禅譲しました。南北の融和を図りつつ、首相の権限を強化して、自らは首相に転身し、実質的に最高権力者に留まるつもりだったのです。

 

ところが、鈍重な田舎者だと思われていたジェエンベコフは、大統領に就任するや意外な権謀術数の才能を見せ、アタンバエフの首相就任を阻んだだけでなく、同氏を汚職および職権濫用のかどで逮捕してしまったのです。

 

ジェエンベコフ大統領はその後、政権の要職に南部の同郷人を次々と起用し、北部人の不満を招いていました。そこへ持ってきて、今回の議会選挙では、現政権寄りの政党ばかりが大勝する露骨な結果が出て、北部を中心にジェエンベコフ体制への反発が爆発したのでしょう。

 

その際に、首都ビシケクは北部なので、南部寄りの政権に反対するデモ参加者を動員しやすいという要因もあったようです。

 

キルギスにおける権力は、閥の利益のバランスの上に成り立っているため、特定の勢力が突出しすぎると、均衡を回復しようとする力が働き、それが南北対立という形になって表れます。

 

10月4日の議会選に端を発するキルギスの政変は、いくつかの要因が複合的に作用したものでしたが、やはり南北対立の要因は今回も重要だったと思われます。

 

第2の視点:貧困と社会問題

(中略)旧ソ連のユーラシア諸国では概して、所得水準が低い国ほど外国での出稼ぎ収入に依存する度合いが大きくなっています。その双璧がキルギスとタジキスタンであり、両国の出稼ぎ依存度は世界屈指の高さです。

 

上述のクムトルにおける金採掘を除くと、キルギスの経済活動で本格的に稼げるのは、中国から輸入した物資を他のロシア・ユーラシア諸国に転売するビジネスくらいです。

 

国内に良い働き口が少ないので、多くの国民はロシア(一部はカザフスタンも)での出稼ぎ労働に従事することになります。キルギスの労働人口は250万人ほどですが、普段はその3分の1近くがロシアで働いていると言われています。

 

しかし、本年は新型コロナウイルスの蔓延で、ロシアで働いていたキルギス人の多くが帰国を余儀なくされました。国内で仕事は見付からず、人々が政府に雇用創出を求めても、政府としても打つ手はなし。

 

一方、キルギスの医療は以前から問題を抱えており、コロナ禍にはまったく対処できませんでした。最新のデータでは、COVID-19感染確認数は約5万人、死亡者は約1,000人となっており、人口650万人の国なのに、日本とそれほど変わらない数字になっています。しかも、これらの数字は過少報告であるという疑いも指摘されています。

 

キルギスの政治評論家ノゴイバエワは、キルギス社会の矛盾が今回の暴動に繋がっていった経緯を、次のように論じています。

 

「それでなくても錯綜したキルギスの経済、政治情勢が、コロナによってさらに深刻化した。汚職は限度を超えるようになった。教育、経済、文化など、あらゆる活動に大きな打撃が生じている。

 

コロナがなければ社会はまだ我慢できたかもしれなかったが、コロナによって体制の様々な問題、たとえば医療問題などが露見した。ロックダウン後は、経済が抜き差しならない状態となった。非常事態があまりに長く続いている。人々はさらに貧しくなった。

 

そうした中、選挙戦が始まると、豊富な資金力のある正体不明のオリガルヒ政党が跋扈した。キルギスでは選挙は常に汚かったが、今回は特にあからさまな買収、不正が横行した。

 

ただ、パンデミックに際してのボランティア活動もあり、この間に青年の政治参加が活発化し、政党への参加もあった。事前の世論調査では、議席を獲得してもおかしくないリベラル政党がいくつかあった。ところが、蓋を開けてみると、露骨に買収をしていたオリガルヒ政党が上位に進出し、青年たちはショックを受けたのだ」

 

 

ロシアの政治評論家グラシチェンコフも、コロナ禍において、キルギス国民が「社会国家」を要請するようになったにもかかわらず、実際の政治のありようがその期待からかけ離れていることが、今回の大規模な抗議運動をもたらしたと指摘しています。

 

第3の視点:ロシアをはじめとする大国との関係は?

ウクライナやベラルーシは、ロシアと欧州連合(EU)の狭間に位置しているため、両国で政治変動が起きれば、国民の本来の思いとは別に、どうしても東西地政学の力学に巻き込まれてしまいます。

 

それに対し、中央アジアのキルギスはEUとは地理的に隔絶しており、政治・文化的にも欧州とは趣が異なるので、キルギスとEUが戦略的に提携するというのは考えにくいことです。

 

したがって、キルギス情勢に影響を及ぼす主要な外部勢力としては、まずロシアがあり、そして中国があり、さらにはアメリカもかかわってきます。

 

かつては、大国の利害の交錯が、キルギスの政権交代に影響したこともありました。(中略)

 

他方、近年では中国が一帯一路政策を引っ提げて中央アジアへの関与を強めており、キルギスでも中国への依存度が高まってきました。

 

キルギスもスリランカのように中国の「債務の罠」にはまりつつあるとの指摘があり、「このままでは中国への債務を領土で支払うはめになるのではないか」といった不安説もささやかれているようです。ちなみに、2020年6月時点で、キルギスの政府対外債務残高の43.2%が中国輸出入銀行に対するものでした。

 

そうした中、興味深いのは、キルギスのある専門家が、「我が国はユーラシア経済連合に加盟しているので、状況はスリランカなどとは異なる」と力説していることです。

 

ロシア主導のこの経済同盟については、(中略)経済統合の目覚ましい成果は見て取れません。ただ、貧しい小国キルギスにとっては、中国に飲み込まれないためにロシアの後ろ盾は死活的に重要であり、旗幟を鮮明にするためにもロシアの経済ブロックに加わっておくことは必須なのでしょう。

 

今回のキルギスの政変劇で、きわめて特徴的なのは、この国に小さからぬ利害関心を抱いているはずのロシアが、泰然と構えていることです。

 

かつては米軍基地の問題でバキエフ排除に加担したロシアですが、今回の政変劇でいずれかの勢力に与することはなかったようです。

 

その背景として、キルギスのロシアへの依存度はあまりに高く、どの勢力が政権に就こうと、必ずロシアとの友好関係を主軸とせざるをえないという確信が、ロシア側にはあるようです。

 

実際、ジャパロフ新首相も就任後に、「ロシアはこれからもキルギスの主要な戦略的パートナーであり続ける」と明言しています。【10月13日 GLOBE+】

********************

 

旧ソ連の国々のなかでもひときわ貧しく、ロシアへの出稼ぎ者の送金でなんとか生活しているような立場上、ロシアを離れることはあり得ない・・・ということで、ロシアはキルギスの混乱については「静観」の構えと言うことのようです。

 

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中国との関係 欧州では強化する国も アジア・アフリカではなお強固 欧米での好感度は悪化

2020-10-12 23:40:44 | 中国

(米調査機関ピュー・リサーチ・センターが、日米欧など14カ国で6〜8月に実施した中国に対する好感度に関する世論調査 青線は否定的、緑線は肯定的な者の割合)

 

【人権問題 中国批判国増加も、支持国も依然として多数】

中国のウイグル、チベット、内モンゴルにおける文化的民族浄化とも言われるような統治、香港の直接統治への動き、台湾への圧力・・・等々、その強権的な姿勢には、日本を含めた欧米諸国の価値観とのズレが見られます。

 

特に人権に関する認識には大きな差がありますが、中国と対立を強化するアメリカは、対中国けん制のカードとしても活用しているようにも。

 

****ウイグル・香港問題 国連で非難の応酬 「中国が脅しと圧力」「幸せ享受している」****

米ニューヨークの国連本部で6日に開かれた国連総会第3委員会(人権)で、ドイツのほか日米英仏など39カ国が「中国新疆ウイグル自治区の人権状況と最近の香港情勢に重大な懸念を抱いている」と非難する共同声明を発表した。

 

中国は強く反発。パキスタンなど55カ国、キューバなど45カ国がそれぞれ逆に中国を擁護する共同声明を発表し、人権問題をめぐって会合は紛糾した。

 

英国のアレン国連代理大使は記者団に、中国が「経済協力を巡る脅しも含めて非常に大きな圧力」を複数の国にかけたと明言した。

 

外交筋によると、中国はオーストリアに対し、欧米諸国などの共同声明に賛同すれば北京の大使館の移転先用地を入手させないと報復を示唆した。人権問題で結束を図る欧州の「分断を図ろうとした」(国連外交筋)。

 

しかし、オーストリアは欧米諸国などが提案した共同声明に参加し、署名した国は昨年より16カ国増えた。

 

欧州諸国は、国連で影響力を高める中国が「新疆問題やチベット問題、香港にとどまらず、内モンゴル自治区でも同化政策を進めるなど人権をめぐる国際法や規範を骨抜きにしている」(国連外交筋)との懸念を強めている。今年の声明では「懸念」の前に「重大な」を付け加え、批判のトーンを強めた。

 

一方、中国の張軍国連大使は、記者団に「英国やドイツ、米国こそ、あらゆる外交手段を使って他国に圧力を加えている。国連という場を悪用して、人権を政治問題化し、対立をあおっている」と反論。「我々は(署名国の)数の多さは競っておらず、主権と領土の保全を守ろうとしている」と述べた。

 

ドイツのホイスゲン国連大使が読み上げた欧米諸国などの声明は、中国が新疆の「再教育施設」に少数民族のウイグル族を収容し、厳重な監視下で強制労働や強制避妊手術を行っていると指摘。バチェレ人権高等弁務官ら国連関係者による視察を直ちに無制限で認めることを求めた。

 

また、中国の香港に対する統制を強化する「国家安全維持法」の施行にも懸念を示し、言論や報道、集会の自由を保障するよう求めた。

 

一方、キューバなど45カ国の共同声明は「中国は、新疆に暮らす全ての民族の人権を守る法律に従い、テロリズムや過激主義の脅威に対抗してきた」と指摘。「人々は平和で安定した環境の下、幸せな生活を享受している」などと中国を擁護した。【10月7日 毎日】

***********************

 

昨年に比べて中国批判声明賛成国が増えたとのことですが、それでも数のうえでは中国支持国が上回っている状況です。

 

昨年の同じような声明採択時のニュースでも感じたのですが、中国の統治、人権侵害には問題があるという主張が当然視される日本にいると、欧米以外の多くの国が中国を支持しているという「現実」を忘れがちにもなります。

 

もちろん、そういう中国支持は、一部の根っからの欧米批判国以外については、多額のチャイナマネーをちらつかせることで買い上げた支持に過ぎない・・・といった反論もあるでしょうが。それにしても・・・といったところです。

 

【欧州 中東欧、イタリア、バチカンなど中国との関係を重視する国も】

中国支持国は、アジアのカンボジアやパキスタンなど、従前から中国が外交上の力点を置いてきたアフリカなどで顕著ですが、欧州にも広がっているようです。

 

****クロアチア首相、ポンペオ米国務長官の前で中国の「一帯一路」称賛―米華字メディア****

米国の中国語ニュースサイトの多維新聞は4日、クロアチアのプレンコビッチ首相が同国を訪問したポンペオ米国務長官の前で中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を称賛したと報じた。

米国務省のホームページに2日付で掲載された情報を引用して伝えたもので、それによると、プレンコビッチ首相は2日、ポンペオ氏との記者会見で、「ポンペオ氏は一帯一路を『帝国を購入する』計画と見ているが、この地域への北京の投資は略奪的であることに同意するか」と問われ、「中国は国際的な行動力を行使できる組織体だ。中国は非常に賢明に、この中東欧諸国との関係、政治的対話、経済的枠組みの形式を考案した」と述べた。

そして、「クロアチアの首相としての最初の任期中に、中国の李克強(リー・カーチアン)首相と6回会談した。この形式がなかったとしたら、少なくとも25年から30年の時間を必要としただろう。このことは、中東欧で中国の関与と存在感が高まっている理由を説明している」と述べた。【10月5日 レコードチャイナ】

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ポンペオ米国務長官の欧州訪問については、クロアチアに先立って、イタリアでも対中国関係が問題になっていました。

 

8月末には中国の王毅国務委員兼外相が欧州を歴訪。イタリアのディマイオ外相は王毅氏と会談し、両国はより緊密な関係を築く必要があると述べています。これがポンペオ米国務長官を苛立たせたと思われます。

 

****米国務長官、イタリアに警告 中国との経済関係や5G技術巡り****

ポンペオ米国務長官は30日、訪問先のローマで、中国との経済関係を巡ってイタリアを警告し、中国の携帯通信技術がイタリアの国家安全保障や市民のプライバシーの脅威だと述べた。

ポンペオ長官はディマイオ外相との共同会見で、「外相と私は中国共産党がイタリアでの経済的存在感を利用して、自らの戦略目的を果たそうとしていることへの米国の懸念について長時間話し合った」と指摘。

また、イタリア政府に対し、中国共産党とつながりがあるテクノロジー企業がもたらす国家安全保障と市民のプライバシーへのリスクを慎重に検討するよう求めたという。

ディマイオ外相は、イタリアが中国の次世代通信規格「5G」技術に関する米国の懸念を認識しており、「安全保障に対処する際に全ての国が直面する責任を十分に認識している」と述べた。

一方、ローマ教皇庁(バチカン)は同日、10月1日にバチカンを訪問するポンペオ長官からフランシスコ教皇への謁見要請があったものの、拒否したと明らかにした。11月の米大統領選を控え政治利用される可能性を回避したという。【10月1日 ロイター】

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最後のバチカンに関してもポンペオ米国務長官は、司教任命権をめぐるバチカンの対中国宥和姿勢に批判的です。

 

****バチカンは中国の宗教弾圧に「真剣な」対応を、ポンペオ氏求める****

米国のマイク・ポンペオ国務長官は9日、中国の宗教弾圧の問題に「真剣に」取り組むようローマ教皇庁(バチカン)に求めた。ポンペオ氏は先週ローマを訪れたが、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇との会談は行われなかった。

 

福音派プロテスタントで中国に批判的な立場を取るポンペオ氏は、ラジオのインタビューで、ドナルド・トランプ大統領が11月の大統領選で取り込みを図りたい保守的なカトリック信者らが英雄視するヨハネ・パウロ2世に言及し、「欧州で自由を生み出し、旧ソ連を解体させ、旧ソ連に抑圧されていた人々に自由を与える重要な役割を果たした」と主張。

 

また、フランシスコ教皇を念頭に「われわれには今、同じような道徳の証人が必要だ」と述べ、「ローマ教皇は世界の善のための強力な力であり、真剣で思慮深く、教皇が固く持つ信念と一致したやり方で、このことを話してもらう必要がある」と強調した。

 

バチカンはフランシスコ教皇がポンペオ氏と会わなかったことについて、選挙期間中の国の高官と会うことは控えていると説明。また、中国と開かれた関係を築こうとするフランシスコ教皇の姿勢に対し、ポンペオ氏が公然と非難したことに驚いたとしている。

 

公式に無宗教を国是とする中国政府は、宗教信仰を厳格に管理している。だが、バチカンが中国と2018年に結んだ合意の下、フランシスコ教皇は中国側が推奨した司教を任命する権限を再び得た。

 

ポンペオ氏はローマ滞在中、在バチカン米大使館が主催したシンポジウムで「すべての宗教指導者が宗教弾圧に対抗する勇気を見いだす」よう呼び掛けた。 【10月10日 AFP】

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【アフリカ諸国 依然として高い中国への好感度】

一方、中国にとって金城湯池でもあるアフリカ諸国の中国支持は、アメリカや日本で強い「債務の罠」批判にもかかわらず、いまだ固いようです。

 

****アフリカにおける中国の評判は驚くほど永続的―仏メディア****

フランスの月刊誌、The Africa Report(電子版)は11日、「アフリカにおける中国の驚くほど永続的な評判」とする記事を掲載した。

中国紙・環球時報(電子版)が14日、その内容を要約して次のように伝えている。

権威ある世論調査機関のアフロバロメーターが5年前に、アフリカ大陸への中国の関与に関してアフリカの人々の意識調査を行って以来、アフリカのほとんどの国で、中国に対する肯定的な見方は、その当時の状況を維持しているかまたは上昇している。

アフロバロメーターが調査した18カ国全体で、アフリカにおける中国の経済的および政治的影響力について好意的な見方をしている人の割合は59%に上っている。これは特に現代においては尋常ではない数字だ。

この数字は、アフリカにおける中国の存在を非難する多くのアナリストがアフリカの民意を誤解していることを示している。

 

(西側の)メディアやSNS上では「債務のわな」や移民労働者、新植民地主義、偽造品などをめぐる議論が絶えないが、多くのアフリカ諸国における中国の好感度は驚くほど永続的なものであることをデータが示している。

米国政府と対中タカ派が過去10年にわたり「債務のわな」を持ち出して中国を批判してきたことの有効性について、重要な教訓がある。研究は、そうした批判が全く機能していないことを示している。

 

そうした人々は、新たな戦略を見つけなければならない。多くの人にとって課題となるのは、アフリカの人々が自国での中国の存在についてどのように感じているかを正確に理解できない可能性がある「埋め込まれた物語」に常に疑問を投げ掛けることだ。【9月15日 レコードチャイナ】

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【アジア カンボジアのフン・セン首相「他の国で中国ほど積極的に支援を申し出る国はなかった」】

アジアにおける中国支持国の代表格がカンボジアのフン・セン政権。

 

米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は10月2日、衛星写真の分析に基づき、カンボジア南西部にあるリアム海軍基地で米国が建設した施設が破壊されたことが確認されたと発表。周辺の土地を中国政府とつながりのある中国企業が借り上げており、CSISは中国が軍事利用するとの疑念を強めるものだと指摘しています。

 

****中国、カンボジアの海軍基地の拡張支援****
中国がカンボジア南西部にあるリアム海軍基地の拡張を支援していることがわかった。国有エンジニアリング会社の中国冶金科工集団が同基地拡張プロジェクトに関わっており、中国による軍事利用の懸念が指摘されている。(中略)

 

カンボジア海軍の高官は日本経済新聞の取材に、中国の基地拡張プロジェクトを認めている。バン・ブンリエン海軍副司令官は小型船舶しか進めない現在の水域をより深くするための作業をしていると説明し、さらに「中国は基地内に船体修理の施設を造る工事を支援してくれている」と語った。ただ、同氏は中国軍が関与しているとの見立てを否定している。

 

中国冶金科工集団は16年、ウェブサイト上で同年6月にカンボジア国防当局と港湾拡張を進めるための協力枠組み協定を締結したとする声明を発表した。(中略)

 

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはカンボジアが中国に同基地の軍事利用を認める代わりに、中国がインフラを整備する秘密合意を結んだと報道している。CSISは「リアム海軍基地の施設は小型巡視船を収容することしかできないため、大規模な港湾開発には注意が必要だ」と指摘している。【10月6日 日経】

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フン・セン首相は、中国支援で改修工事が進むリアム海軍基地について、中国が独占的に利用することはないと反論。

 

****カンボジア海軍基地、中国専用ではない フン・セン氏****

カンボジアのリアム海軍基地で、米国の支援で建てられた施設が破壊され、中国の支援で改修工事が進められる中、フン・セン首相は7日、同基地を中国が独占的に利用することはないと述べた。

 

リアム海軍基地は、タイ湾の要地にあり、各国が領有権を激しく争う南シナ海に容易にアクセスできる。

 

フン・セン氏は、首都プノンペン近郊にある中国人所有のテーマパークの開園式に出席。「他の国々も寄港や給油、カンボジアとの(合同)軍事演習実施の許可を求めることができる」と述べた。(後略)【10月8日 AFP】

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フン・セン首相は更に、カンボジアは中国の「衛星国」ではないとも強調しつつ、「他の国で中国ほど積極的に支援を申し出る国はなかった」とも。

 

****「中国の衛星国」批判、首相が反論****

カンボジアのフン・セン首相は7日、カンボジアは中国の「衛星国」ではないと強調した。中国からインフラ整備などの分野で多くの支援を受けていることについては、同国が最も積極的な支援の姿勢を表明した結果と説明している。クメール・タイムズ(電子版)などが8日に伝えた。

 

フン・セン首相は、「中国による融資でカンボジアでは道路の建設などが順調に進んでいる。日本や韓国の支援で建設された道路や橋もあるが、中国の援助はさらに大きい。他の国で中国ほど積極的に支援を申し出る国はなかった」と指摘。

 

中国からの多大な援助を一方的に取り上げて、「カンボジアを中国の衛星国」と見なす見解は妥当ではないと不快感を示した。(後略)【10月9日 NNA ASIA】

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アジアで、もうひとつの中国と関係が深い国がパキスタン。

そのパキスタンで、中国発の短編動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)の使用が禁止されましたが、これは欧米におけるように、情報が中国に流れる云々の視点ではなく、その内容が「低俗」だとするパキスタンの宗教的価値観によるものです。

 

【欧米では新型コロナ対応の影響で中国への感情悪化 中国メディア「西洋のエリートたちが気に食わないならそれで結構」】

上記のような中国に好意的な国々の動向の一方で、最近、欧米各国や日本の中国に対する国民感情は悪化しているという調査結果が。

 

****中国の好感度、軒並み悪化 日米欧など14カ国で****

米調査機関ピュー・リサーチ・センターは10日までに、日米欧など14カ国で6〜8月に実施した世論調査で、中国に好意を持っていないと答えた人が70%を超え、大半の国で好感度が大幅に下がったと発表した。

 

新型コロナウイルス対応への不満が影響。習近平国家主席に対する評価も軒並み悪化した。

 

オーストラリア、英国、ドイツ、オランダ、スウェーデン、米国、韓国、スペイン、カナダでは、中国への否定的な回答が10年以上前に調査を始めて以降、最も多かったという。

 

コロナ感染拡大を巡る海外の批判を強硬な態度で受け付けない外交姿勢がイメージ悪化につながった可能性がある。【10月10日 共同】

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新型コロナについて言えば、確かに中国の情報隠蔽という問題は初期段階でありましたが、各国における感染拡大はそれぞれの国の国内対応や国民意識の問題が大きく、中国のせいにするのは責任転嫁のようにもおもいますけどね。

 

中国メディアは、こうした欧米の反応に切れています。

 

****中国への否定的な見方が増加、「中国が何か間違ったことをしたのか」と中国紙編集長****

2020年10月8日、米華字メディア・多維新聞は、日本や欧米諸国で中国に対するネガティブな評価が急速に高まっていることに対する、中国紙編集長の意見を報じた。

(中略)中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報の胡錫進(フー・シージン)編集長が微博上で「これは米国政府が極端なやり方によって世界を分断、分裂させた結果だ。中国は何か間違ったことをしたのか、戦争を仕掛けたり他国の内政に干渉したりしたとでもいうのか。そんなことはしていない。われわれは誠実に、そして努力して自らを発展させ続け、世界との友好を進めてきた。それにもかかわらず、西側の政治、世論のエリートたちは中国を攻撃し、西側市民の中国に対する認識を毒化させていったのだ」と論じたことを伝えている。

また、米国が新型コロナウイルスの世界的な流行に対し中国が責任を負うべきだとの態度を示し、新疆ウイグル自治区や香港の問題で中国がさまざまなレッテルを張られ、中国による有効な方法を用いての解決が妨げられていることについて胡氏が「西洋のエリートたちが気に食わないならそれで結構。われわれは自らのやり方で生活する権利を完全に持っている。中国国民の幸福が、この国の最高目標なのだ」との考えを示したと紹介した。【10月8日 レコードチャイナ】

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まあ、こうした自己を顧みることのない尊大な大国主義が欧米で嫌われていることでしょう。

 

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