孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

新疆ウイグル自治区へのバチェレ国連人権高等弁務官訪問 中国に利用されただけに終わる懸念

2022-06-20 23:36:12 | 中国
(国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR) のバチェレ代表(左)が訪れても、中国共産党は全く異なる「人権」概念を掲げる【5月30日 WEDGE】)

【人権弾圧の実態を明らかにした「新疆公安ファイル」】
中国の新疆ウイグル自治区における少数民族の人権弾圧に関して、先月(5月)大きな出来事が二つありました。

一つは中国当局から流出した新疆ウイグル自治区に関する数万点の内部資料が5月24日、米団体により公開されたこと。資料には数千枚の写真や公文書が含まれ、同自治区でウイグル人などの少数民族が暴力的な手段で収容された実態が改めて浮き彫りとなりました。

資料は、匿名の人物が新疆の公式データベースをハッキングして入手し、米NPO「共産主義犠牲者記念財団」に所属するドイツ人研究者アドリアン・ツェンツ氏に提供したもので、後述する二つ目の大きな出来事であるミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問中に公開されました。【5月25日 AFPより】

****流出した「新疆公安ファイル」独自の人権概念掲げる中国****
近年日本でも注目されるようになった中国・新疆ウイグル自治区における人権抑圧の問題は、当面ロシアのウクライナ侵略の陰に隠れた感があるものの、依然として深刻である。

このような中、5月23日から28日まで、国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR) のバチェレ代表が中国を訪れたが、それと前後するかたちで日米欧のメディア連合から「新疆公安ファイル」が公表され、ウイグル族などイスラム教徒の少数民族への弾圧の生々しい実態が改めて示された。

果たして中国は、人権抑圧の証拠を前にして自らの問題を認め、自発的に少数民族や国際社会との関係を改善する方向に動くのだろうか。結論から言えば、少なくとも現在の中国共産党(以下中共と略す)政権が続く限り、それは決してあり得ない。何故なら中共は今や、全く異なる「人権」概念を掲げ、外界との合意可能性がかつてなく薄れているからである。

改めて明らかになる凄惨な弾圧
今回公表された「新疆公安ファイル」(中略)の中では、例えば2016年8月から昨年末まで中共新疆ウイグル自治区委員会書記(=新疆の最高権力者)を務めた陳全国が17年5月に放った「海外からの帰国者は片っ端から拘束せよ」「(拘束対象者が)数歩でも逃げれば射殺せよ」といった発言が強く目を惹く。

また、趙克志・国務委員兼公安相が「過激な宗教思想の浸透が深刻なグループは、新疆に200万人いる」と認識していた点が注目される(毎日新聞、22年5月24日)。

17年以後、新疆で明らかに異常な事態が起こっていることは、米国ラジオ自由アジア(RFA ) やBBCを中心としたメディアが辛うじて現地から入手していた情報、そして国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ) 及び米国ニューヨーク・タイムズが19年11月16日にスクープした新疆秘密文書から明らかになっており、筆者(平野)のみたところ、今回明るみになった内容は必ずしも目新しいものではない。

とはいえ、大量の被害者の写真データや個人情報、そして弾圧に関わった指導者の具体的な発言によって、弾圧の経緯や実態をより詳細に補強できるようになったという点で大きな意味がある。(後略)【5月30日 WEDGE】
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この件に関しては5月24日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 「発砲しろ」・・・「再教育施設」の戦慄の実態 「新疆公安ファイル」公開”でも取り上げていますので、今回は詳細はパスします。

中国側は、「嘘やデマの流布では世の中の人を欺くことはできない」(中国外務省 汪文斌報道官)と無視する姿勢です。

【バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問 「調査が目的ではなかった」とするも中国のプロパガンダに利用されただけとの批判も】
この「新疆公安ファイル」の公開は、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官による新疆訪問中に行われました。

バチェレ氏の訪問について中国政府は「交流と協力推進が目的」であり、米欧などが指摘する人権問題に対する「調査」ではないと強調しており、バチェレ氏の訪中は中国側のプロパガンダに利用されるだけに終わるのでは・・・という懸念が強くありました。

アメリカ国務省のプライス報道官は「中国が新疆ウイグル自治区の人権状況について、完全かつ操作されていない検証を行うために必要なアクセスを認めるとは思っていない」として「深く懸念している」と語り、そうした懸念を中国とバチェレ氏側に伝えたとのこと。【5月21日 ロイター】

「新疆公安ファイル」の公開は、中国側の意に沿う形で行われるバチェレ国連人権高等弁務官訪中を牽制する意図もあったようにも思えます。

常識的に考えても、中国側が完全にコントロールする状況での訪中で中国側に不都合な事実が明らかにされることは期待できません。

バチェレ氏は訪中後の記者会見で、中国政府に対し対テロ政策を国際的な人権基準に基づいて見直すよう促したこと、また、中国政府との間で高官による定期的な戦略対話を設置することも明らかにしています。
しかし、中国の人権侵害を糾弾する発言はなく、「新疆公安ファイル」に触れることもありませんでした。

****国連人権弁務官、新疆訪問「調査ではない」 人権団体は批判****
国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官は28日、物議を醸している新疆ウイグル自治区訪問について「調査ではなかった」と説明した。中国当局に対しては「恣意(しい)的で無差別な」取り締まりを回避するよう求めた。

国連人権高等弁務官の訪中は17年ぶり。中国の馬朝旭外務次官は「前向きで具体的な成果」があったと主張した。これに対し、人権活動家やNGOは、バチェレ氏の発言は中国にプロパガンダ上の大きな勝利をもたらしたと反発している。(中略)

今週訪中したバチェレ氏は、かねて計画していたウイグル自治区訪問を実現。日程最終日のこの日、中国国内で記者会見し、中国当局や市民団体、学者と「率直」に話す機会を得たと述べた。

中国政府に対しては、新疆での取り締まりにおいて「恣意的で無差別な手段」を用いないよう強く求めた。同時に「過激主義に基づく暴力行為」により被害がもたらされていることも認識していると語った。

その上で「今回の訪問は調査ではない」と強調。新疆では、国連が手配した面会相手に「当局の監視を受けずに」会えたと説明した。

バチェレ氏は、自治区の区都ウルムチとカシュガルで刑務所やかつての再教育施設、観光地のカシュガル旧市街、テロ対策の展示施設、綿花畑などを視察。カシュガル刑務所では受刑者に面会し、控訴審が行われる刑務所内の法廷も見学したとし、「非常に開放的で透明性が保たれた」視察だったと評した。

人権団体から強制再教育施設だと指摘されていた「職業訓練施設」について、自治区政府はバチェレ氏に対し「解体された」と語ったという。ただ、同氏としては「全面的な評価はできなかった」と述べた。

中国政府は2019年、「職業訓練施設」から全訓練生が卒業したと発表した。これに対し人権団体は、収容者の多くが工場に移されて強制労働をさせられたり、自治区内の他の刑務所に再収容されたりしているとの見方を示している。

バチェレ氏は記者会見で、自治区内の人権侵害に関する国連報告書の公表が遅れていることについては言及しなかった。

記者会見を受け、バチェレ氏を批判する声が相次いだ。
亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」の広報担当者ディルシャット・ラシット氏は「国連人権理事会のためにバチェレ氏が唯一できる意味ある行動は、辞任することだ」と主張。米国在住のウイグル人活動家ライハン・アサット氏は「完全な裏切りだ」とツイッターに投稿した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルのアニェス・カラマール事務総長は「国連人権高等弁務官の訪問に関しては、政府高官との写真撮影や中国国営メディアによる発言の操作が特徴的だ。容易に予想できたにもかかわらず中国政府のプロパガンダにまんまとはまってしまった印象がある」とする声明を発表した。 【5月29日 AFP】
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【国連内部からも批判 報告書は発表前に中国政府と共有とのことで懸念も】
中国の意に沿うような言動のバチェレ氏への批判は国連内部からも。
各国の人権状況を調べる40人余りの国連の特別報告者らが6月10日、「(中国当局には)懸念にこたえようとする姿勢が見えない」と批判する声明を出し、少数民族が強制収容されているとされる施設への訪問も含めて、透明かつ完全な調査の受け入れを求めました。

声明は、中国政府との対話の意義を認めつつも、「ウイグルやチベット自治区、香港などの状況を至急調べる必要性を代替するものではない。深い懸念は拭えない」とし、国連の調査への全面的な協力を要求しています。

バチェレ国連人権高等弁務官がまとめている自治区の人権状況に関する報告書をめぐっても懸念が。

****発表前に中国政府と共有か 不安広がるウイグル国連報告書****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区を視察したバチェレ国連人権高等弁務官がまとめている自治区の人権状況に関する報告書をめぐり、専門家らが内容を不安視している。

バチェレ氏が視察中、同自治区で拘束されたウイグル族らから話を聞けなかった上、発表前の報告書を中国政府と共有する方針も判明。中国側の圧力を受け、報告書が中国の意向に沿った内容になることが懸念されている。

バチェレ氏は5月23〜28日に訪中し、滞在中に同自治区の刑務所や多数のウイグル族らを収容した「職業技能教育訓練センター」だった施設を訪れた。だが、同氏は訪中最終日の28日のオンライン記者会見で、調査よりも中国との交流を重んじる姿勢を強調し「中国側に融和的」(欧州メディア)などと非難された。

そんな中、バチェレ氏は今月13日、視察内容を踏まえて作成している報告書について「自治区での人権状況に関する評価を進めている」とし「事実関係のコメントを得るために(報告書を)発表の前に(中国)政府と共有する」と述べた。

この発言を受け、一部の人権専門家は中国が同国の意向に沿うように報告書の修正をバチェレ氏に求める恐れを指摘。ウイグル人の人権専門家、アジズ・イーサ・エルクン氏は「中国の利益にかなう報告書になる可能性があり、信頼性が低く偏った内容になるだろう」との見解を示した。

懸念が強まっているのは、国連機関主導の報告書が「中国寄り」の内容になった前例があるためだ。
世界保健機関(WHO)は昨年3月、新型コロナウイルスの起源解明のため中国湖北省武漢市で調査を行った国際調査団の報告書を公表したが、「武漢起源」説を否定したい中国の考えを尊重する見解が目立った。発表前に中国当局と報告書の内容を調整したため、中国側の主張に押し切られたとみられている。

また、バチェレ氏は視察中、中国の人権侵害を証明するだけの証拠を集められておらず、中国の主張に逆らえない恐れがある。英紙ガーディアン(電子版)は16日、同氏が同自治区を訪問中、政府の役人の監督下にあり、拘束されたウイグル族やその家族らと話せなかったと報じた。

自治区の人権問題を調査するウイグル人研究者は「バチェレ氏本人が報告書で踏み込んだ内容を書けないことを自覚している」と推察した。(中略)

一方、中国はバチェレ氏の訪中を積極的に宣伝工作で活用している。中国共産党の理論誌、求是(同)は今月15日の記事で、習近平国家主席が訪中したバチェレ氏とのオンライン会談で「中国が、人権の全方位的な擁護と保障に力を尽くしているという原則的な立場を表明した」と訴えた。

報告書への警戒も強めており、中国紙の中国青年報(同)は16日、「バチェレ氏に米英などが頻繁に圧力を加え、できるだけ早く新疆の人権報告を出すように求めている」と指摘。「一部の西側諸国と政治屋は新たな『新疆カード』を切ったようだ」と非難した。【6月18日 産経】
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“バチェレ氏は13日、1期目の任期が終了する8月末で退任する意向を表明。報告書は退任までに公表するとした。退任は「個人的理由」としたが「報告書の内容を非難される前に退く姿勢を見せた」(英人権専門家)との見方もある。”【同上】とも。

バチェレ氏は南米チリの政治家で、世界史上初の自由選挙による社会主義政権を樹立し、軍事クーデターに倒れたアジェンデ元大統領の党でもあるチリ社会党に属し、2006年からと2014年からの2回、チリ大統領を務めています。チリ史上初の女性大統領でもあります。

また、2010年には国連の新組織国際連合女性機関の初代事務局長に任命され、2期目の大統領復帰をはさんで、2018年8月、グテレス国連事務総長より国際連合人権高等弁務官に指名されています。

****「中国は人権基準を満たしている」──プロパガンダに加担した「人権の守護者」****
<元チリ大統領で、国連人権高等弁務官のミシェル・バチェレ。中国・新疆ウイグル自治区を訪れ、習近平の喜ぶ発言だけを残して、8月末での退任を表明。なぜ最後に汚点を残したのか?>

国連人権高等弁務官と言えば、世界における正義と市民的自由の守護者の1人だ。
ナバネセム・ピレイ(在任2008~14年)は、北朝鮮による「人道に対する罪」に関する国連調査の道筋をつけた。ザイド・ラード・アル・フセイン(同14~18年)は、ミャンマーのロヒンギャへの残虐行為について国際刑事裁判所に付託することを求めた。

だが、18年9月に就任した現職のミチェル・バチェレは違う。彼女は中国が新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧している問題を不問に付した。
バチェレは先頃、再選は目指さず、1期目が終わる8月末で退任すると表明した。

国連人権高等弁務官は道徳的なリーダーであることを期待される。世界各地の人権侵害を白日の下にさらし、外交官や政治家に政策面での交渉をさせることが責務とされる。

だがチリの元大統領であるバチェレには、その役割がのみ込めなかったようだ。彼女は自ら中国政府との交渉役となり、国連機関における告発者および道徳的良心の中核としての責任を忘れてしまった。

バチェレは就任以来の4年間を、訪中実現のための交渉に費やした。今年5月に訪中が実現したことには、中国に批判的な活動家も文句は言えない。中国政府によるジェノサイドへの批判が高まる新疆ウイグル自治区を訪れたのだから、それなりの意義はある。

だが問題は、訪問の時期と性格、そして結果だ。これらはバチェレの任期の最終盤に大きな汚点を残した。

まるで習政権の広告塔
バチェレが訪中最終日に行った記者会見は驚くべきものだった。彼女は「反テロリズム」や「脱過激化」など中国政府が使う表現をそのまま口にし、「多国間主義」のために中国が担う役割をたたえ、貧困撲滅策の成果を大げさに述べた。彼女は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に操られる「役に立つ愚か者」になっていた。

記者会見で彼女は、中国の医療の国民皆保険や「ほぼ皆保険」である失業保険、男女平等の推進策を持ち上げた。だが蔓延する性暴力、強制される不妊手術や人工妊娠中絶、人身売買に拷問、そしてジェノサイド疑惑などには一切触れなかった。奴隷労働の横行についても何も言わず、それどころか強制労働を続けている中国企業を「人権基準を満たしている」と称賛した。

最も奇妙だったのは、中国で「市民社会の各団体、学者、地域社会や宗教界の指導者」と会ったという発言だ。誰のことを指しているのか。中国の市民団体は大半が閉鎖され、大半の学者が黙らされ、地域社会や宗教界の指導者は多数が獄中にいるというのに。

訪中のタイミングは、中国で新型コロナ対策が改めて強化された時期に重なった。中国はバチェレの行動を制限する口実を手にし、最終日の記者会見もリモートで行われた。

仮にタイミングがよかったとしても、バチェレが新疆ウイグル自治区の強制収容所に自由にアクセスできるとは思えない。コロナ対策の下では残虐行為の実態に触れる機会は、ほぼなかっただろう。

今回の訪中は「調査が目的ではなかった」と、バチェレは言い続けている。これが腑に落ちない。バチェレは4年前から調査の実現を訴えていた。それなのに、今回は調査が目的ではないとわざわざ主張するのはなぜか。国連人権高等弁務官事務所による新疆ウイグル自治区の人権状況に関する報告書の公表を遅らせたのはなぜか。それこそが「調査」報告書ではないのか。

人権専門家が総出で非難
(中略)
バチェレの訪中は「新疆公安ファイル」の流出と重なった。これは、新疆ウイグル自治区の収容所の内幕を伝える文書や発言、写真や動画から成る大量のデータだ。バチェレはこのファイルについて全く触れなかった。

国連の40人余りの特別報告者は6月10日、中国に対し、「国連の人権システムに全面的に協力」することと、「中国における重大な人権侵害と基本的自由の弾圧の申し立てを受けた独立した専門家」による完全な調査の受け入れを求めた。バチェレの身内である国連の人権専門家が、彼女を暗に批判したことになる。

この声明の前に、世界各国の学者40人がバチェレの中国訪問を非難し、記者会見での発言に「極めて困惑した」と述べ、報告書の発表を求めた。6月8日には、ウイグル、チベット、香港などの人権保護活動を代表する230以上の人権団体が、バチェレの辞任を求める共同声明を出した。

バチェレの信用は地に落ち、取り返しのつかない汚点を任期にもたらした。彼女も就任後しばらくは、香港での警察の横暴やミャンマーでの残虐行為について明確に発言していたのだが、今回の訪中の大失敗で全てを台無しにした。

もしかするとバチェレはそれに気付き、周囲から押し出される前に、自ら飛び降りたのかもしれない。【6月20日 Newsweek】
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バチェレ氏としては、先ずは対話の糸口をつくることに意義を見出したのか・・・そのあたりの心境はよくわかりません。

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ロシアへの制裁は失敗か? 今後は大きな負荷にも 一方、欧米には“返り血”“支援疲れ”も

2022-06-19 22:21:59 | 国際情勢

(好調なエネルギー収支がロシアの政府支出や緊急用資金を支えている 一方、IIF(国際金融協会)はロシア経済が今年は15%、2023年も3%のマイナス成長になると予想。それによって約15年分の経済成長が消し飛ぶとみている。【6月17日 WSJ】)

【原油価格高騰と緩やかな制裁ペースがロシア経済への打撃を遅らせている】
17日、プーチン大統領は「サンクトペテルブルク国際経済フォーラム」で演説し、欧米が制裁によってロシア経済を崩壊させようとする試みは失敗したと主張、制裁はむしろ欧米の経済に打撃を与えていると語りました。

また、食糧危機やエネルギーの問題は欧米の誤った経済政策によるもので「ウクライナでの特別軍事作戦は何の関係もない」と強調しました。【6月18日 TBS NEWS DIGより】

****プーチン氏、西側の制裁は「狂って考えなし」だと ロシア企業には国内投資求める****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、ウクライナ侵攻を受けて西側がロシアに科している制裁は「狂っているし、考えなしだ」と批判した。他方で大統領は、ロシア企業に国内事業を継続するよう求めた。

サンクトペテルブルクで開かれた毎年恒例の国際経済フォーラムに出席したプーチン氏は、「ロシアに対する経済的な電撃戦は当初から、成功するわけがなかった」として、西側の制裁はロシアよりも制裁する側の当事国にとって「大きな打撃」になっていると述べた。(中略)

しかし、ロシア国内ではすでに政権関係者から、西側の制裁でロシア経済に深刻な悪影響が出ているという警告が出ている。ロシア中央銀行のエリヴィラ・ナビウリナ総裁は16日、「ロシアの国内総生産(GDP)の15%」が国際社会の対応に脅かされていると述べた。

ナビウリナ総裁はさらに、「前のようにはならないのはだれの目にも明らかだ」とサンクトペテルブルクの会議で発言し、急速な回復については否定的な見通しを示した。「外部の状況は当面、あるいは永遠に、変化してしまった」と総裁は述べた。

17日にはロシア最大手銀行のズベルバンクが、ロシア経済が2021年の水準に回復するには、10年以上かかるかもしれないと警告している。

しかし、プーチン大統領は経済フォーラムで前向きな発言を続けた。多くのロシア企業が国外事業に注力しつつあるという指摘もある中、プーチン氏はロシア企業に国内事業を継続するよう呼びかけた。
「国内に投資してもらいたい。自宅の方が安全だ。聞く耳を持たなかった連中は国外で何百万も失っている」と、大統領は述べた。

プーチン氏はさらに、ウクライナとの戦争が続くことで世界的な食糧難が起きるという懸念について、ロシアは穀類や肥料の輸出を大幅に拡大する能力があると主張。穀類の輸出高だけで約5000万トンまで増やせると述べた。

ウクライナはロシアと同様、世界有数の穀類生産国だが、黒海沿いの港湾がロシア軍によって封鎖されているため、大量の穀類が輸出できず、滞留している。【6月18日 BBC】
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ロシア経済が欧米側の当初の目論みとは異なり、少なくとも現在は意外なほどダメージが小さく済んでいることは事実です。
ただ、長期的に見た場合、ロシア経済の将来は非常に厳しいものが予想されることも多くの者が指摘するところです。

“プーチン氏はロシア企業に国内事業を継続するよう呼びかけた”というあたり、プーチン大統領としても追い詰められていると言うか、少なくとも余裕がある訳でもなさそうです。

“従来の主張の繰り返しが目立ち、ウクライナ侵攻をめぐり、新たに打つ手が限られていることも浮き彫りになった。国民に向け、欧米の制裁は効果が無いとも訴えたが、国民の侵攻への支持低下を指摘する声も出ている。”との日本メディアの指摘も。

日本を含めた欧米側も、かつてない厳しい制裁をロシアに課しているにもかかわらず、あまり効いていないようにも見える誤算が。制裁はエネルギー価格高騰によるロシアの増益によって相殺されているとも指摘されています。

ただ、長期的にはボディブローのように制裁はロシア経済に負荷をかけていくであろうことも予想されています。

****対ロシア制裁、まだ効かないのはなぜ****
原油価格高騰と緩やかな制裁ペースがロシア経済への打撃を遅らせている

ロシアに対する制裁は、エネルギー価格高騰という予想外の恩恵によって相殺され、十分な経済的痛みを与えられずにいる。ロシアの戦争遂行努力を妨げ、ウラジーミル・プーチン大統領を交渉の席に着かせる狙いはうまくいっていない。

ただ、この「耐性」は長続きしないと見られている。年内に深刻な景気後退が始まり、貧困が拡大し、経済的潜在力が長期的に低下すると多くのエコノミストが予測している。

今のところ、制裁を科すペースが遅く、ロシアの経済安定化への取り組みが成功し、石油・ガス輸出を継続できていることが、同国に与える打撃を和らげている。(中略)

(国際経済フォーラムで)16日に発言した経済担当のロシア高官らは前向きな姿勢を貫きながらも、同国経済が直面する長期的な問題を認めた。(中略)

経済的な耐性がある限り、ロシアは自国の石油・ガス供給に依存する欧州諸国に圧力をかけられる。今週、ロシア国営企業ガスプロムがドイツとイタリアへのガス供給量を削減することで、ロシアはその影響力を見せつけた。ドイツのロベルト・ハーベック経済相は「不安をあおって価格をつり上げる戦略」と断じた。ロシアはすでにポーランド、ブルガリア、フィンランドへのガス供給を停止している。

欧州はエネルギー面のロシア依存脱却に躍起となるが、ロシアは世界的な価格高騰のおかげもあって毎日何億ドルもの石油・ガス販売収入を得ている。欧州が段階的な禁輸を進める中、ロシアは輸出する石油の一部をインドなどのアジア諸国に振り向けている。

その結果、ロシアの対外貿易の指標である経常収支の黒字額は、今年1月~5月に約3倍増の1100億ドル(約14兆5600億円)に達した。このまま行けば今年は過去最高の経常黒字となる見通しで、ロシアは準備金を相当積み増せる。ロシアはこの潤沢な資金を緊急時に備えるためではなく、経済の下支えに使っている。(中略)

IIFの試算によると、資源価格が高止まりし、ロシアがこれまで通り石油・ガス輸出を続けるならば、ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性がある。これは西側の制裁で凍結されたロシアの外貨準備の額にほぼ匹敵する。

西側諸国にとっては、ロシアへの締めつけを強めるほど、消費者物価の急上昇に直面する自国経済の巻き添えリスクが高まるという現状がある。リスクとのバランスを図るため、西側諸国はエネルギー関連の制裁に慎重にならざるを得ない。欧州連合(EU)がロシア産石油の90%の輸入停止で合意したのは大きな一歩だが、この措置が完全に効力を生じるのは今年末だ。

プーチン氏は、西側が仕掛けた経済の電撃戦は失敗したと主張し、制裁の経済的影響を小さく見せようとしている。だが短期的な危機を回避できたのは、ロシア中央銀行が迅速に策を講じたことによるものだ。

ロシア中銀のエルビラ・ナビウリナ総裁は16日、「状況は非常に複雑で、非常に困難だ。絶えず変化している」と述べた。「外部環境は長い間ずっと変化している。永遠ではないとしても」

一方、西側が科す制裁の影響は一様ではない。金融セクターの制裁――ロシアを世界的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、ロシア中銀との取引を禁じるなど――は即効性があるものの、マクロ経済に影響が出るのは時間がかかるとアナリストは言う。

「経済制裁は一夜にしてロシアの行動を止めることはできない。行動を続けることで支払う代償を引き上げるのが狙いだ」とIIFの報告書は指摘した。「その代償は最終的に、ロシアのウクライナに対する戦争が法外に高くつく水準に達する可能性がある」

それがいつ頃になるかは不明だが、すでに将来の経済停滞の輪郭は見え始めている。
ロシアでは物価高騰の影響で、今年1-3月期の実質可処分所得は前年同期比で1.2%減少。貧困率も上昇した。輸入部品の不足で、自動車工場は稼働停止に追い込まれた。(中略)

ロシア政府は、外国製品を国産品に置き換える輸入代替策を一段と強化している。だが過去の実績からみてこの政策が実際に機能する証拠は乏しい。政府当局者は、ロシアが欧米の製品やノウハウを入手できなくなることに適応するまでには時間がかかると認めている。

経済への影響は今年下半期に拡大する見通しだ。アナリストの予想では、これまで横ばいだった失業率が今秋には上昇するという。ロシア事業の縮小を表明した1000社余りの外資企業の多くは、労働者に賃金を払い続けている。

「夏から秋にかけてロシア経済の問題点が、徐々にではあるが増大するだろう」と(ドイツ国際安全保障問題研究所のロシア経済専門家)クルーゲ氏は語った。

IIF(国際金融協会)はロシア経済が今年は15%、2023年も3%のマイナス成長になると予想。それによって約15年分の経済成長が消し飛ぶとみている。ロシアの今年の国内総生産(GDP)の落ち込みをより控え目に予想するアナリストもいるが、それでも10%程度は減少する見込みだという。

ロシア中銀のアナリストは、今後経験するのは「産業化の逆行」だと話す。すなわち、より前の段階の技術を生かした経済成長だ。

ロシアの飛び地カリーニングラードに拠点を置く自動車メーカー、アフトトルの工場では、それが現実のものとなっている。同社はシボレーやBMWの自動車を組み立てていたが、「困難な経済状況」を受け、先月から一時帰休の対象となっている労働者に農地を提供し、ジャガイモの栽培を始めた。【6月17日 WSJ】
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【対ロシア制裁の“返り血”に苦しむ欧米には“ゼレンスキー疲れ”も】
ウクライナでの戦争は長期化しそうです。

****ウクライナでの戦争「数年続く」 NATOトップ警告****
北大西洋条約機構のイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、独紙ビルトに19日に掲載されたインタビューで、ウクライナでの戦争は「数年間続く」恐れがあると警告した。

ストルテンベルグ氏は、「数年間続くことをわれわれは覚悟しなければならない」とし、「たとえコストが高くついたとしても、ウクライナへの支援を弱めてはならない。軍事支援だけでなく、エネルギーや食料の価格高騰についてもだ」と述べた。 【6月19日 AFP】
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時間とともに制裁が与えるロシアへの打撃は大きく、明確になってくるであろう・・・という話の一方で、時間ともに欧米側が受ける制裁の“返り血”も大きくなり、また、欧米の“支援疲れ”で足並みの乱れも目立つようになってくるであろうことも予想されます。上記ストルテンベルグNATO事務総長の発言も、そうした懸念を踏まえたものです。

ロシア経済が予想外に堅調なのと同様に、戦局の方も「欧米から提供される武器が揃う6月中旬以降に、反転攻勢に出る」というウクライナ側の予定に反して東部におけるロシアの攻勢にウクライナの苦戦が続いています。

欧米側には“ゼレンスキー疲れ”“ウクライナ疲れ”の様相もあって、武器支援も順調ではないようです。

****ウクライナに武器が届かない!?欧米に漂う“ゼレンスキー疲れ”とは・・・【報道1930】****
これまで西側諸国から、ウクライナに大量の武器が供与されているように見えた。だが戦力を集中する作戦に出たロシアは、いま優勢に立っているように見える。

ウクライナ大統領府顧問は5月、「欧米から提供される武器が揃う6月中旬以降に、反転攻勢に出る」としていたが、すでに6月中旬。この戦況はなぜなのか。

ここへきてウクライナから西側に武器供与を求める声が強くなっている。武器は西側から届けられるのか・・・。西側に吹き始めた風を読み解いた。

■「ドイツは圧力をかけられ、それに屈したという印象を与えたくない」
(中略)
ZDF・ドイツ第2テレビ ヨハネス・ハーノ特派員
「西ドイツだったエリアと東ドイツだったエリアでかなり差があり、西側はとにかくウクライナを支援すべき、武器も供与すべきという意見。一方、東側の場合どちらかといえば武器供与についてもEU加盟についても反対意見が多い。(中略)旧東ドイツエリアはロシアと一緒に育ったという感覚で親近感が強い。東ドイツの人にとってロシアは兄弟のような存在で、反ロシア的なことに対して結構反感が強い」

加えてショルツ首相の所属する社会民主党は反戦的思考で、戦争に関わること自体、積極的ではないことも一因とした。

だが、これらの理由とは全く別にゼレンスキー政権への反感もあるとハーノ特派員は言う。確かにゼレンスキー大統領はドイツに対して武器供与が他の国より遅かったと名指しで批判している。さらに・・・

「駐独ウクライナ大使のメルニク氏は、結構ドイツに批判的なことを言って、ドイツ国内で反感を買った。プレッシャーのかけ方が強すぎる。要するにドイツはメルニク大使に圧力をかけられ、それに屈して武器を提供するいう印象を与えたくないのです」

■ウクライナ支援のジレンマ?「ロシアの核使用も現実味を帯びてくる」
武器供与に二の足を踏む国はドイツばかりではない。フランスでは、ウクライナに対し、自走りゅう弾砲“カエサル”を供与しているが、ある議員は「フランス軍はカエサルを64両しか持っていない」、またある議員は「我々の戦争ではない」などから武器を供与している場合ではないと述べている。

こうした動きは何を意味するのだろうか?

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「フランスが自国防衛に数が足りなくなるから供与したくないというのは言い訳っぽい。ドイツもそうですけれど、西ヨーロッパの大国は、ロシアとはいずれどこかで手打ちになるんだから、戦後のことを考えると完全にどっちかに肩入れしたくないんじゃないか」

また、ヨーロッパの国々は、強力で大量の武器をウクライナに送ることには別の懸念を持っていると話す。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「ウクライナをどんどん支援することは、物理的には可能だと思うんです。でもそれによってウクライナが急速にロシア軍を駆逐して、ゼレンスキーが目指す2月24日のラインまで押し戻すことが現実味を帯びてきた時、今度はロシアの核使用も現実味を帯びてくる、というジレンマもある・・・」

■“ゼレンスキー疲れ”の言葉が持つ意味 情報戦の可能性も…
ウクライナ支援について、各国の思惑に揺れる中、新しい言葉も聞かれ始めている。それが“ゼレンスキー離れ”だ。(中略)
アメリカ・ブルームバーグが次のように報じた。
「“ゼレンスキー疲れ”の恐れがある。経済が弱まり兵器が不足する中で、ゼレンスキー大統領が兵器などを要求し続けることに西側指導者が疲れてしまう危険がある」
アメリカの世論調査でも共和党支持者の中で、“ウクライナ支援は過剰だ”と思う人が、3月の13%から5月には27%に増えている。

西側の武器供与が始まってしばらくは、自分たちが提供した武器によってウクライナが押し返したことが報じられたが、最近ではロシアの優勢が伝えられる。すると西側には“もっと送らなければ”という気持ちの反面、あまり効果は見られないという気持ちが芽生える。加えて当初から供給し続けている対戦車ミサイル“ジャベリン”などは、すでに在庫がなくなりつつある。

そこにゼレンスキー大統領からの強い要求が続く…次第に支援する側が疲弊していくということは確かに考えられる。が、一方で情報戦への懸念もある。(中略)

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「この戦争は長引くと思う、その中で“疲れ”があるかもしれない、ゼレンスキーの物言いにイライラすることもあるかもしれない。でも、侵略した結果、望み通りになりましたっていう履歴は残してはならない。うんざりしながらも付き合っていく…まぁコロナ対策に似た部分があるんじゃないかと思いますね」(中略)

防衛研究所 高橋杉雄 研究室長
「(中略)ワシントンポストもウクライナの記事がどんどん小さくなっているし、後ろの方の面に行っている。ゼレンスキー疲れする前に、戦争自体に注意がなくなってきているのではないか。(ゼレンスキー疲れを)ゼレンスキー批判みたいに捉えると、ロシアの情報戦に乗せられていく可能性もあるので注意が必要」(BS-TBS「報道1930」 6月15日放送より)【6月19日 TBS NEWS DIG】
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“ゼレンスキー疲れ”を増幅させるのが、欧米が受ける対ロシア制裁の“返り血”

****ロシア、欧州向けガス輸送量を次々削減 「政治的に利用」の声も****
ロシア国営ガス大手ガスプロムは16日、海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」経由でドイツなど欧州各国に送っている天然ガスの輸送量を減らした。ドイツなどは、欧州のウクライナ支援に不満を持つロシアが、ガスを「政治的に」利用していると非難している。

ガスプロムは14日、ドイツへの輸送量を約4割減らすと発表。翌15日には、16日からさらに2割削減して通常の約6割減となる日量6700万立方メートルにすると表明していた。

影響はドイツ以外の国々にも及んでいる。ロイター通信などによると、イタリアのエネルギー大手エニは、ガスの輸送量が通常より35%減少したと発表。スロバキアやチェコのガス会社も約3割減ったという。

ガスプロム側は輸送量の減少について、ノルドストリームに関連するプラント設備を修理をした後、欧米による制裁の影響で設備の輸送が遅れていると主張している。(後略)【6月17日 毎日】
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アメリカはガソリン価格高騰でバイデン政権が苦境に立たされていることは、一昨日の17日ブログ“アメリカ ガソリン価格高騰に苦慮するバイデン大統領”でも取り上げたところ。

ロシアも欧米も長期化ともに苦しさも大きくなります。
ロシアはプーチン大統領の意向が大きなウェイトを占める政治体制ですし、当事国ですから“なりふり構わず”ということになりますが、欧米・日本は「他国のことに、どうしてそこまで・・・」という声があるなかでの対応が苦しいところ。

“侵略した結果、望み通りになりましたっていう履歴は残してはならない”という考えを再度国民と共有する必要があります。

それを国民に訴えるのが政治家の役割ですが・・・今の痛みに苦しむ国民にそのように訴えることは、選挙には有利にならないかも・・・・というあたりが重視されがちなのが欧米・日本の政治状況です。“民主主義国”が強権支配国家に翻弄されがちな理由でもあります。
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カンボジア  地方選挙圧勝でフン・セン「世襲」へ 中国の影響を最も受けている国

2022-06-18 23:17:22 | 東南アジア
(リアム海軍基地(2019年)【6月16日 Newsweek】)

【当然のごとく与党圧勝】
フン・セン首相・人民党による実質的な一党支配状態が続くカンボジアでは6月5日にコミューン(地域行政区)の評議員を選ぶ地方選挙が行われました。

2017年6月の前回選挙では野党・救国党が躍進し、約3割の行政区で第1党になりました。
しかし、危機感を抱いたフン・セン政権側は国家反逆罪の疑いで救国党のケム・ソカー党首を逮捕。同年11月には、政権の意向を受けたとみられる最高裁が救国党の解党を命じています。

こうして野党勢力を排除して行われた2018年の総選挙では、フン・セン首相率いる与党・人民党が下院の全議席を独占することに。

今回地方選挙で、救国党に代わって野党側の中核となったのがキャンドルライト党。

以前からあった野党ですが、解党された救国党のメンバーらが加わり、与党側の汚職や強権的な振る舞いに反発や恐怖心を抱く市民らの受け皿として急成長したということで、今回の選挙に立候補した17政党の約8万6千人のうち、人民党の約2万8千人に次ぐ約2万4千人の候補を擁立して戦いました。

野党キャンドルライト党の選挙活動に対しては“当然のごとく”当局から圧力があり、党員逮捕、選挙活動妨害のほか、選挙管理委員会はキャンドルライト党の100人以上の候補者資格を剥奪しています。

一方、フン・セン首相は長男フン・マネット陸軍司令官を次期首相候補に選んで「世襲」を目論んでいますが、今回選挙をその「世襲」への国民のお墨付きを得る機会と位置づけています。

****「自動的権力委譲でない」と強調 長男を後継者でカンボジア首相****
カンボジアのフン・セン首相は27日、オンラインで講演し、与党カンボジア人民党が首相の長男フン・マネット陸軍司令官を後継者として選んだことについて、6月の地方評議会(議会)選で人民党が票を集めれば国民が認めたことになるとの考えを示した。「自動的に権力は委譲されない」と強調した。地元メディアが伝えた。(後略)【5月27日 共同】
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したがって、フン・セン首相としては何が何でも「圧勝」する必要がありました。

結果は・・・“当然ながら”与党圧勝でした。

****カンボジア地方選、与党「圧勝」 首相の座 世襲へ前進 野党、選挙活動の妨害非難****
5日に投開票されたカンボジアの地方行政区の評議会議員を選ぶ地方選挙で、在任約37年のフン・セン首相が率いる与党の人民党(CPP)が「圧勝」した。野党勢力に対する締め付けが影響した格好だ。

2023年に予定される下院選挙でも勝利し、長男のフン・マネット陸軍司令官への首相ポストの世襲を着実に前進させる構えだ。

6日までの複数の現地メディア報道によると、CPPは首都のプノンペンのほか大半の州の行政区で過半数の得票を集めて第1党になった。同党のスポークスマンは、全体の99%の行政区で第1党になるとの見方を示し「国民がCPPを支持した結果だ」と主張した。

CPPは、新型コロナウイルスのワクチン調達などで感染拡大を早期に抑え、経済再開を進めた実績などをアピール。野党への圧力を強めて選挙戦を有利に進め、約7割の行政区で第1党だった17年の前回の地方選結果を大きく上回った。

新潟国際情報大学の山田裕史准教授は「野党勢力に対する分断や圧力に加え、CPPの圧倒的な資金力と動員力が、選挙結果に表れた」と分析する。

地方選挙で与党のCPPが勝利したことで、フン・セン氏は長男のフン・マネット氏への世襲を進めていく構えだ。5月に開かれた国際交流会議「アジアの未来」に出席したフン・セン氏は交代時期は明言しなかったが、「選挙でCPPが敗北したら、(マネット氏は)後を継がない」と述べ、選挙結果を重視する姿勢を示していた。

一方、野党勢力は惨敗した。前回の地方選で躍進した後、政権の影響を受ける最高裁の命令で解党させられた旧最大野党、救国党(CNRP)の流れをくむキャンドルライト党は大半の行政区で候補者を擁立したが、思うような選挙活動ができなかったもようだ。同党は6日の声明で「選挙はカンボジアの人々の意思を反映していない」と述べ、与党による妨害活動を非難した。

選挙管理委員会はキャンドルライト党の候補者、100人以上の出馬を認めず、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は「野党候補を標的とした脅迫、妨害に悩まされた」との声明を出している。

今回の地方選には与野党合計17の政党が参加。郡や市などの地方自治体の下にある1600超の行政区で約1万1600議席を争った。選挙管理委員会によると、投票率は約78%になるとしている。野党支持者の一部が棄権にまわったとみられ、約90%だった前回選挙を下回った。6月下旬に最終的な選挙結果が公表される。【6月7日 日経】
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【野党も善戦のようにも・・・】
与党・人民党側は“99%の行政区で第1党になる”との見方を示していますが、議席数でいうと与党側が約80%、キャンドルライト党が18%という結果のようです。正式結果は26日に発表されます。

****【カンボジア】与党、地方選の議席80%超を獲得と発表****
カンボジアのフン・セン首相率いる与党の人民党はこのほど、5日に実施された地方評議会(議会)選挙の結果について、全国1万1,622議席の80.7%を既に獲得したと述べた。正式な開票結果は、国家選挙管理委員会(NEC)が26日に発表する予定。クメール・タイムズ(電子版)が9日伝えた。  

選管委は7日夜、速報として人民党の得票数は最大530万票、最大野党のキャンドルライト党は160万票と報じた。人民党の主張はこの速報値と一致しているもようだ。  

人民党の広報官は、「全国1,652カ所の地方評議会のうち1,648カ所で第1党となる票を獲得した」とコメントした。同党が示したデータによると、キャンドルライト党の獲得議席は2,199議席で、評議会4カ所で第1党となる見込み。旧最大野党カンボジア救国党の元国会議員チブ・カタ氏らが設立した新党は6議席を獲得したとみられる。【6月10日 NNA】
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ライバル野党党首を逮捕して解党してしまうようなフン・セン政権のもとで戦われた選挙戦ですから、与党圧勝は当たり前、野党キャンドルライト党が18%の議席を獲得というのは“善戦”のようにも思えますが・・・

与党圧勝しか報じないメディアのなかで、ロイターがそのあたりに触れていました。

****カンボジア地方選、与党圧勝も新党が健闘****
カンボジアで5日実施された地方議会選挙は、フン・セン首相率いる与党カンボジア人民党(CPP)が地滑り的勝利を収めた。ただ新党も予想以上に健闘した。

選挙管理委員会の6日の発表によると、ほぼ全ての開票が済んだ段階で、CPPは1万1622議席の80%を獲得した。新党キャンドルライト党は18%。

CPPは選挙前は95%の議席を有していた。
投票率は77.91%。

キャンドルライト党は、前回の議会選前に裁判所から解党命令を受けた野党カンボジア救国党(CNRP)の流れをくむ。CNRP党首だったサム・ランシー氏は、ここ数年事実上一党体制だったがキャンドルライト党が民主主義の復活を成功させたとツイッターに投稿した。【6月6日 ロイター】
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【中国の影響を最も受けている国の中国海軍基地建設問題】
カンボジアは中国の影響を強く受けており、ASEANにあってはフン・セン首相は中国の代弁者・代理人的な様相もあります。

****中国の影響を最も受けている国、3位タイ、2位シンガポール、1位は?―台湾研究機関****
台湾の研究機関、ダブルシンク・ラボ(台湾民主実験室)がこのほど発表した「中国指数」によると、世界で中国の影響を受けている上位3カ国は、1位がカンボジア、2位がシンガポール、3位がタイだ。

中国紙・環球時報が28日、シンガポール紙ザ・ストレーツ・タイムズの報道として伝えたところによると、同指数は、比較可能なデータを使用し、メディア、外交政策、学界、国内政治、経済、技術、社会、軍事、法執行の9つの領域にわたる99の指標から、アジア、欧州、オーストララシア、アフリカ、南北アメリカなどの36カ国・地域における中国の影響度を測定したもの。(後略)【4月29日 レコードチャイナ】
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そんな“中国の影響を最も受けている国”カンボジアに中国が海軍基地を建設しても、これまた“当たり前”と驚きもしませんが・・・。

****カンボジアに中国海軍施設か 米紙報道 「極秘裏に」建設****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は8日までにカンボジア南西部のリアム海軍基地内に中国が極秘裏に海軍施設を建設していると報じた。

中国やカンボジアは報道内容を否定したが、リアム海軍基地は南シナ海に近く、中国軍が利用するとの観測が絶えない。アフリカ東部ジブチに次ぐ中国軍2カ所目の海外拠点となる可能性があり、各国は動向を注視している。

同紙が6日、西側政府関係者の話として伝えた。施設の詳細は不明。中国当局者は同紙に対して、中国軍が基地の一部を使用することを認めたが、科学者も使うため軍事目的に特化していないと説明している。

報道を受け、中国と関係が悪化するオーストラリアのアルバニージー首相が海軍施設建設への憂慮を表明するなど警戒感が広がる。

カンボジア政府報道官は、中国と同基地で船舶修理工場の整備事業などに着手することは認めたが、中国軍が独占的に使用することは否定した。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は7日の記者会見で、「リアム海軍基地の再建はカンボジア海軍の能力強化を目的としている。米国はカンボジアの立場に耳を貸さず、悪意のある臆測を繰り返している」と批判した。

リアム海軍基地をめぐっては、米紙ウォールストリート・ジャーナルが2019年、カンボジアが支援の見返りに中国との間で基地の軍事利用を認める協定を結んだと報じた。カンボジア政府は20年には同基地内にあった米国の支援で建設された施設を取り壊しており、米国が不快感を示していた。【6月8日 産経】
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フン・セン首相と中国の関係を考えると、中国の海軍基地の一つや二つあっても“当たり前”のことで、そんな騒ぎ立てることかな?・・・という感も。

****こっそりカンボジアに拠点を作った中国人民解放軍に、慌てるアメリカ****
<中国軍がカンボジア海軍の基地使用に関する密約を結んだと報じられるも、作戦上のメリットは少なく、単なる政府高官と政商の癒着にすぎない。それでも、なぜアメリカは焦るのか?>

秘密合意があるのか、ないのか。カンボジア南西部に位置するリアム海軍基地の拡張工事をめぐり、欧米メディアの報道が過熱している。

6月8日の着工式で、記念の鍬く わならぬシャベルを入れたのは、カンボジアのティア・バン副首相兼国防相と、中国の王文天(ワン・ウエンティエン)駐カンボジア大使だった。カンボジア政府は近隣で海水浴に興じる2人の写真も公開しており、中国との良好な関係をアピールした。

これにいきりたっているのがアメリカだ。2019年にウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、中国は拡張工事を支援するだけでなく、中国軍が同基地を使用する密約を結んでいると報じたのを皮切りに、同基地は中国がアジアの海を支配するための新たな足掛かりになるという報道が盛んになった。

実際、6月6日付のワシントン・ポスト紙は、中国が「自国軍専用の海軍施設をカンボジアに建設している」と報じた。そして匿名ではあるものの中国政府筋が、「基地の一部」が「中国軍」によって使われることを認めたとしている。ただしこの人物は、基地は中国軍の「専用」となるわけではなく、研究利用もされる予定だと述べたという。

カンボジア政府のパイ・シパン報道官はAP通信に対し、基地の拡張は「中国とカンボジアの協力関係」の表れだが、カンボジアは外国の軍隊の駐留を認めないと断言した。ティア・バンも着工式で、「カンボジアは自衛能力を高める」と述べるにとどまった。

作戦上の利点は少ない
カンボジア政府寄りメディアのフレッシュニュースによると、中国は基地に新しい桟橋を2つ建設しつつ、中型船が利用できる水深を確保する浚渫(しゅんせつ)工事を行う。軍服3万6900着をカンボジア海軍に提供する計画もある。

とはいえ、中国軍のものとされる施設の面積はわずか0.3平方キロ。ここに軍事的プレゼンスを築くことで中国がどれほど恩恵を得るのかは謎だ。南洋理工大学S・ラジャラトナム国際研究大学院のジョン・ブラッドフォード上級研究員は今年2月、「中国にとって作戦上の新しい利点は少ない」と指摘している。

真実はどうあれ、欧米メディアの過熱報道は、アメリカの外交政策の失敗という視点を欠いているようだ。WSJの記事が出るまで、カンボジアは総じてアメリカの外交政策で忘れられた存在だった。

1992〜93年に国連の監視のもと一党独裁から多党制に移行して以来、アメリカはカンボジアを戦略的重要性の低い国と見なしつつ、「民主主義の拡大」という理想の押し付けに終始してきた。

フン・セン首相とカンボジア人民党は、そんなアメリカの真意を疑っていた。フン・センは、ベトナム戦争時代に米軍の絨毯(じゅうたん)爆撃を目撃し、80年代にはアメリカ主導の経済制裁も経験した。彼がアメリカに背を向けて中国に傾くことは、合理的に予測できた。

カンボジアに中国の軍事的プレゼンスが構築されるとすれば、それは中国政府とカンボジアの悪徳エリート層の利己的選択であるのは間違いない。だがそれは、アメリカの30年にわたる対カンボジア政策の失敗も意味している。【6月16日 Newsweek】
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アメリカが「人権」「民主主義」を掲げれば、そうした価値観を共有しないフンセン・カンボジアやミャンマー軍事政権、軍事政権が出自のタイ・プラユット政権などが中国に近づくのは道理でもあります。

問題は、そうした強権支配的な政権にもアプローチして、関係を維持するかどうか・・・そこは悩ましい問題。
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アメリカ  ガソリン価格高騰に苦慮するバイデン大統領

2022-06-17 23:36:58 | アメリカ
(【5月27日 ALJAZEERA】1ガロン(約3.8ℓ)当たり5ドルというのは全国平均で、高いカリフォルニアは平均6ドル そうなると日本より高いという異例の事態  ワシントン・ポストによれば、ガソリン価格があまりにも高いため、思うように給油ができないドライバーが増加し、道路で立ち往生するケースも多くなっているとのこと)

【(満タンにするのに)前は80ドル(約1万円)くらいだったけど、30ドル(約4000円)上がった」】
新型コロナ禍後の需要回復、供給・物流対応の遅れ・混乱、ウクライナ情勢などで世界的にエネルギー・食料品などの価格が上昇する傾向にありますが、日本も上昇傾向は同じです。

****4月の物価上昇率、7年ぶり2%超 エネルギー価格高騰で****
総務省が(5月)20日発表した4月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.4となり、前年同月比2.1%上昇した。

消費増税の影響があった15年3月(2.2%)以来、7年1カ月ぶりに2%を超えた。資源高で電気代やガソリン価格などエネルギー関連が大きく上昇した。原材料高で食料品も上がった。

2%は、日銀が目標としてかかげている。米欧も同様の水準をめざしている。物価がこのペースで安定して上がることで、企業収益の拡大や賃上げにつながり、経済が活性化する好循環が生まれると考えられている。

日本の場合、物価上昇圧力は弱く、外的要因に左右されやすい。上昇率が2%に達するのは、消費税を8%に上げた14年4月からの1年間を除くと、世界的な資源高だった08年9月以来、13年7カ月ぶりとなる。

今回、生鮮食品も含む総合指数が2.5%上がった。消費増税の影響があった時期を除くと、1991年12月以来の高い上昇率になった。(後略)【5月20日 日経】
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近日中に発表される5月の数字は、おそらくもっと高くなるのではないでしょうか。
ただ、その意味合いはともかく、欧米に比べるとだいぶ上昇は緩やかです。

****5月の米消費者物価、前年比8・6%上昇 40年ぶり伸び率更新****
米労働省が10日発表した5月の消費者物価指数は前年同月に比べて8・6%上がり、約40年ぶりの高さを記録した3月の上昇率8・5%を超えた。

燃料費が再び上昇し、食料品など幅広い品目で値上がりした。米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレを抑え込むため、金融引き締めを急ぐ可能性がある。(後略)【6月10日 産経】
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****ベーグル&コーヒーが“2500円” 物価高騰で27年半ぶり大幅利上げ アメリカ****
アメリカの中央銀行にあたるFRB(=連邦準備制度理事会)は、約27年半ぶりに0.75パーセントの大幅利上げを決定しました。食料品などの記録的な物価上昇に歯止めはかかるのでしょうか。
   ◇
(中略)ベーグルのサンドウィッチにコーヒーを足した値段が19ドルと、一食でなんと、日本円で2500円以上するようになったのです。その理由は、原材料の値上げでした。

小麦粉の価格高騰などで、1.4ドルだったベーグル単体の値段も、少しずつ値上げしました。15日も、さらに値上げに踏み切り、急きょ、赤いペンで書き足して1.75ドルから1.95ドルになりました。(中略)

アメリカの消費者物価指数は、先月、前の年の同じ月に比べて8.6%上昇しました。中でも高騰が著しいのがガソリンで、48.7%も上昇しました。

ガソリンスタンド客  「(満タンにするのに)前は80ドル(約1万円)くらいだったけど、30ドル(約4000円)上がった。これは高い」

アメリカでは、物価が上昇するインフレに歯止めがかかりません。そこで、アメリカの中央銀行にあたるFRB(=連邦準備制度理事会)が打ち出したのが、通常の上げ幅の3倍にあたる0.75%という、政策金利の大幅な利上げです。
FRB パウエル議長  「労働市場は非常にひっ迫し、インフレ率はあまりに高すぎるため、政策金利を0.75%引き上げた」
この規模の利上げは、1994年11月以来、約27年半ぶりです。

市場関係者は「インフレの先行き不透明感は払拭(ふっしょく)できない」としていて、金融緩和を続ける日本とアメリカの間で金利差が広がることで、円安がさらに進む可能性があるとみています。
松野官房長官は「日本経済や世界経済にどのような影響が生じるか、引き続き注視する」としています。【日テレNEWS】
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ガソリン価格については下記のような状況で、6月の消費者物価指数も更に上昇しそうです。

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(消費者物価指数上昇の)牽引要因の一つと言われているのはガソリン価格で、アメリカ自動車協会の数字では、5月のガソリン価格は1ガロン当たり平均4.37ドル。

これ、トランプ政権時は2.5ドルから3ドルのものがここまで上がり、前年比で言うと48.7%上昇、そして今6月10日現在では、1ガロン当たり5ドルに迫っています。と言うことは6月のCPIも更に悪化する、という可能性を示唆しています。【6月17日 MAG2NEWS】
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【中間選挙を控えるバイデン大統領 プーチン大統領や大手石油会社をやり玉に】
これまでも何回も書いているように、苦戦が予想されている中間選挙を控えるバイデン大統領にとって、車社会アメリカにおけるこのガソリン価格の上昇がウクライナ情勢などより有権者の暮らしに直結し、選挙結果を左右する非常に厄介なものになっています。

バイデン大統領の支持率も物価上昇によって低下傾向にあります。

****バイデン氏支持率39%、3週連続低下で過去最低迫る=ロイター/イプソス調査****
14日公表のロイター/イプソス調査によると、バイデン米大統領の支持率は39%と3週連続で低下し、5月に記録した就任以来最低の36%に迫りつつある。不支持率は56%だった。

バイデン氏の支持率は昨年8月からずっと50%を下回ったまま。このままでは11月8日の議会中間選挙で与党・民主党が上下両院の少なくとも一方で多数派を失う恐れがある。

民主党員のバイデン氏支持率は昨年8月が約85%だったが、今回は74%まで下がった。野党・共和党の同氏支持率は11%と、8月からほとんど変わっていない。

今年に入ってバイデン政権に打撃を与えているのは、ロシアのウクライナ侵攻に伴うガソリン高や新型コロナウイルスのパンデミックの影響が尾を引くサプライチェーン(供給網)混乱を背景とした物価の高騰だ。

トランプ前大統領の最低支持率は2017年12月の33%だった。【6月15日 ロイター】
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バイデン大統領は、今のインフレの責任から逃れるために「ロシア・プーチンのせいだ」「大手石油会社が悪い」とさかんに主張していますが・・・やや“苦し紛れ”の感も。民主主義に害をなす“ポピュリスト的な手口”との指摘も。

****高インフレの米国 苦し紛れで大手石油会社を槍玉にあげたバイデンを危惧する理由****
(中略)インフレ抑制を最重要課題として中間選挙に臨む構えのバイデン大統領にとって最悪の展開だ。手詰まり感は否めず、10日の演説で「プーチンのせいで物価が上がり、米国は打撃を受けている」と訴えたが、苦し紛れの言い訳のように聞こえてならない。

バイデン政権にとって最も頭が痛いのは、車社会の米国にとって生活必需品といえるガソリンの価格が連日のように過去最高値を更新していることだ。米国の平均ガソリン価格は11日、史上初めて1ガロン(約4リットル)当たり5ドル(約670円)台となり、1年前に比べて約6割も高くなった。

インフレが続くと今後どのような影響が出てくるのだろうか。
経済学者はインフレの悪影響を過小評価するきらいがあるが、一般の人々はインフレを毛嫌いする傾向が強い。「インフレは自分たちの経済状態を悪くし、将来の計画を立てにくくなる」と考えるからだ(英誌エコノミスト4月23日号)。

「血液」を売る中流家庭
インフレ懸念で米国の消費者景況感は急激に悪化している。
米ミシガン大学が10日に発表した6月の消費者態度指数(速報値)は50.2となり、前月から8.2ポイント低下した。2ヶ月連続の低下で、統計開始の1952年以来最低の水準となった。46%がインフレを景況感悪化の理由に挙げ、特に「ガソリン高騰が重荷だ」と回答している。5月の米国の失業率は3.6%と歴史的低水準となっており、本来なら消費者景況感は落ち込まないはずなのだが、高インフレが足を引っ張った形だ。

物価の上昇が賃金の上昇ペースを上回り、実質賃金が目減りしていることも関係している。米国の時間当たり実質平均賃金は今年3月までの1年間で3%近く低下した。

バイデン政権はウクライナに武器を供与し、戦争を長引かせようとしているが、このことが災いしてインフレが激化、景気が急激に悪くなりつつある。

バイデン大統領は8日夜のABCのトーク番組で「インフレは我々の存在を脅かす災いの元だ」と述べたように、インフレは米国の人々の生活を脅かし始めている。直撃を受けているのは政府からの支援策が期待できない中間層だ。

米国では約700万円の年収で安定した暮らしを送っていた中流家庭がインフレで生活費が不足し、血液中の血漿(けっしょう)を売らなければならない状態に追い込まれているという(6月3日付クーリエ・ジャポン)。(中略)

インフレが生む「憎悪の炎」
インフレの影響は経済面にとどまらない。心理面での影響も見逃せない。人々のインフレに対する意識、特に忌避感が高いことから、インフレ対策にはポピュリズム的な要素が紛れ込みやすい。

ガソリン価格の高騰に対する不満が渦巻く中、バイデン大統領は10日のロサンゼルスの演説で「エクソンモービルなどの石油会社はガソリン価格の高騰につけ込んで『神』よりも儲けている」と批判した。

ガソリン価格が高騰しているのは、需要の回復過程でウクライナを侵攻したロシアへの制裁や精製能力の逼迫などの要因が重なったからだが、バイデン大統領は政権への批判をかわすため、あえて大手石油会社をやり玉に挙げたのだ。

米国人の3人に2人が「インフレを悪化させているのは悪徳企業が便乗値上げをしているせいだ」と考えていることを意識した発言だったのかもしれないが、「非常に軽率であり、後顧の憂いを残すのではないか」と筆者は危惧している。「巨悪を名指して糾弾し、人々の歓心を買う」という物言いはポピュリストの常套手段だからだ。

「インフレは民主主義を衰退させる」との指摘がある(6月6日付日本経済新聞)。
インフレは一部の者だけが恩恵に浴する事態を生み出す。困窮した人々の不満は高まるばかりだが、政府がインフレがもたらす不平等を是正する有効な手段を持ち合わせていないことが多い。

このため人々の不満が政治への不信に変わるのが常なのだが、このような政治状況下で最も活躍するのはプロパガンダを駆使するポピュリストだ。彼らが人々の憎悪の炎をかき立てればかき立てるほど、社会に深刻な分断が生まれる。その結果、民主主義が麻痺してしまうというわけだ。

極端な例としてしばしば取り上げられるのは第1次世界大戦後のドイツだ。ハイパーインフレに見舞われたドイツでは「お金と同様、自分も無価値になってしまった」と人々が絶望し、その後のファシズムの台頭を招いたというのが定説だ。

米国が当時のドイツのような苦境に陥るとは思わない。だが、金融政策など従来のやり方でインフレを抑制することができず、功を焦るあまりバイデン政権がポピュリスト的な手口を多用するようになれば、機能不全が囁かれる米国の民主主義は危機的な状態になってしまうのではないだろうか。【6月17日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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単に石油大手をやり玉にあげるだけでなく、緊急会合に招集して対応を求めています。

****米エネルギー長官、製油業者との緊急会合招集 ガソリン高騰巡り****
米エネルギー省は16日、グランホルム長官が製油業者との緊急会合を招集したことを明らかにした。ガソリン価格の高騰について協議する。

バイデン大統領は15日、石油会社への書簡でガソリンの供給を増やしていないと非難した。

エネルギー省によると、会合では「企業が製油能力と製油量を拡大し、ガソリン価格を近く引き下げる方策について協議」する。

ガソリン価格は原油高を背景に1ガロン(約3.8リットル)=5ドル以上と過去最高値に上昇。
業界団体は設備稼働率94%と、フル稼働に近い状態で生産していると反論している。【6月17日 ロイター】
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選挙対策と言うか、有権者に対し何かしているポーズを示さないと・・・といったところでしょうか。輸出制限の話も。

****ホワイトハウス、燃料輸出制限を検討-ガソリン価格高騰で****
米国で1ガロン当たり5ドルを超えたガソリン価格の抑制に苦慮するバイデン政権当局者は、燃料輸出の制限を検討している。

事情に詳しい複数の関係者が匿名を条件に話したところによると、ガソリンとディーゼル燃料の輸出制限を巡る議論が最近行われており、バイデン大統領は石油会社の利益急増に批判を強めている。輸出制限が検討されているが、石油製品の完全な禁輸にまでは及ばないという。(後略)【6月17日 Bloomberg】
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ただし、これは“禁じ手” 
“バイデン大統領はウクライナでの戦争のあおりを受ける欧州の同盟国のエネルギー供給確保を支援する方針を繰り返し示している。米国が欧州向けディーゼル燃料輸出を制限すれば、ロシア産依存からの脱却を図る同盟国との新たな摩擦が生じかねない。アナリストによれば、輸出制限は長期的にガソリン価格を押し下げない可能性が強い。”【同上】

【中東歴訪でサウジアラビアなどに石油増産を働きかける予定】
より本質的なところでは、産油国が増産しないと今の石油高価格状態は改善しない・・・ということで、人権に関して問題も多い最大産油国サウジアラビアや、あるいは強権支配国家ベネズエラなどへの働きかけも行っていることは、6月7日ブログ“アメリカ・バイデン大統領  原油増産に向けて「人権」では問題国のサウジアラビアとの関係改善模索”でも取り上げました。 

****米バイデン大統領が来月、初の中東歴訪へ サウジでGCC=湾岸協力会議に出席 原油増産を働きかけか****
アメリカのバイデン大統領が来月、サウジアラビアなど中東諸国を初めて歴訪することが発表されました。

ホワイトハウスによりますと、バイデン大統領は来月13日から16日までの日程で、イスラエルとパレスチナ自治区のヨルダン川西岸、サウジアラビアを訪問します。

サウジアラビアではアラブ諸国が加盟するGCC=湾岸協力会議に出席し、エネルギー問題や食糧問題への対応などを話し合う予定で、アメリカでガソリン価格が高騰し政権への批判が高まる中、原油の増産を働きかけるものと見られます。

バイデン政権は人権問題などをめぐりサウジアラビア政府を強く批判していて、ムハンマド皇太子らとの会談の行方が注目されます。また、ヨルダン川西岸ではパレスチナのアッバス議長とも会談する予定です。【6月15日 TBS NEWS DIG】
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ただ、サウジアラビアとの関係改善は、人権問題を重視する立場からは“裏切り行為”ともみなされます。

****米大統領のサウジ行きに批判殺到 首都に「カショギ通り」****
バイデン米大統領の7月のサウジアラビア訪問計画に国内外から批判が殺到している。人権活動家らはムハンマド皇太子の関与が疑われるサウジ人記者殺害事件を不問に付すことになりかねないと反発。米首都のサウジ大使館前の道路は今月、記者の名前を冠した「ジャマル・カショギ通り」と命名され、事件にも改めて注目が集まっている。
 
「バイデンは世界の人権を守るという約束を放棄した。恥を知れ」。ノーベル平和賞を受賞したイエメンの人権活動家タワックル・カルマンさんは15日、サウジ大使館前で開かれた命名板の除幕式で声を張り上げた。【6月17日 共同】
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こうした人権重視勢力はバイデン・民主党政権を支える勢力のひとつですが、今は「人権よりガソリン」というのが中間選挙を控えたバイデン大統領の本音かも。

なお、国際市場への石油供給増加が見込めるイランについては、核合意再建協議が難航しています。

あと、石油生産については下記のような話も。

****リビア産油、日量10万─15万バレルに急減 反トリポリ派の妨害で****
リビア石油省報道官は14日、同国石油生産量が現在日量10万─15万バレルしかないと明らかにした。昨年の実績は日量120万バレル超だった。西部の首都トリポリにある暫定政権のドベイバ首相辞任を要求するグループが石油生産・輸出施設に侵入して妨害活動を続けていることが背景。

報道官によると操業停止によって輸出収入を1日当たり7000万─8000万ドル失っている形。同国最大油田は先週に一時操業を再開したが、再び停止した。立てこもりグループは操業停止する油田をさらに増やす動きにも出ている。(後略)【6月15日 ロイター】
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リビアが日量120万バレル超に回復すれば・・・とも思いますが、リビアの政治混乱が収まる見込みはありません。
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監視社会  中国で「健康コード」を乱用した抗議行動抑圧が物議 「幸福な監視社会」の実態

2022-06-16 22:39:54 | 監視社会
(【6月14日 ANN NEWS】中国・河南省 預金の引き出し停止状態が続く銀行に抗議する市民らが新型コロナウイルス対策アプリ「健康コード」を恣意的に悪用されて連行される事態に)

【中国人の中には、国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」と考える人が一定数いる】
周知のように中国では個人情報が政府によって管理されており、至るところで「身分証」の提示が求められます。

****怖い?安心?中国の徹底した個人情報管理 生まれた日に18桁の個人番号、至る所で身分証の提示****
日本ではマイナンパーカードについて「個人情報を管理されるのでは」との懸念などから普及が進んでいない。一方、中国では生まれた時から個人番号などで管理される。身分証は様々な場面で求められるが多くの国民は受け入れているのが現状だ。中国が進める個人情報の管理は行き過ぎなのか?FNN北京支局の河村忠徳記者が解説する。

中国の個人情報驚きの実態  
FNN北京支局・河村忠徳記者:中国で国民の個人情報がどれほど政府に管理されているかをお伝えします。まずその象徴が身分証です。これは中国の国民全員が16歳になると作るもので、個人番号などの情報が記されています。

そして、登録時には指紋情報と顔写真が撮影されます。この身分証は多くの人が常に携帯していて、実際に至る所で身分証の提示が求められます。

例えば公園に入る際にも「身分証」の提示が必要になります。他にも飛行機や高速鉄道、そして長距離バスの移動、銀行口座の開設、ホテルの宿泊、携帯電話の契約の手続き、学校の入学、就職、結婚届けなど、人生のあらゆる場面で身分証が必要になります。

この「身分証さえ1枚あれば」、ほとんどの手続きができて便利という声もありますが、言い換えると、この身分証によって個人情報が確認されないと、生活できないのが現実とも言えます。

スマホを通じた個人情報管理
さらに、スマートフォンのアプリを使った個人情報の管理も進んでいます。その1つが電子マネーです。中国ではスマホで電子マネーを通じて全ての支払いが完了し、現金を使うことがほぼありません。実際に私も2021年9月に赴任し、今日に至るまで現金を使ったことがありません。こうしたスマホの電子マネーを通じてお金の流れも当局に一目瞭然となっています。

コロナ対策アプリで行動履歴を
また、北京では一般のコロナ対策として、「健康宝」というアプリが導入されています。これはコロナ対策という名目で導入されたアプリですが、人の「健康」だけでなく「行動」まで管理します。

今は、建物などに入るたびにアプリのQRコードの読み取りなどが求められています。ただ、この健康宝には日本のコロナアプリとの大きな違いがあります。それは身分証番号など個人情報と紐付けられていることです。そのため、誰がどの建物に入ったかなど個人の行動履歴が記録され、当局はこれを確認することができるんてす。

生まれた日に18桁の個人番号
このように、中国の国民は徹底した個人情報の管理下に置かれていますが、それは生まれた日から始まっています。中国人は生まれた日に18桁の個人番号が国から与えられ、この番号は一生変わることはありません。そして子どもが生まれた際の「出生届」をどこに提出するかというと、日本では自分が住む最寄りの役所に提出しますが、中国の場合は最寄りの「公安局」、日本でいう「警察署」に提出するんです。

生まれてすぐに個人情報を警察が管理するというのは、日本人にとっては違和感がありますが、これは中国では当たり前のことなんです。ある中国人は、「人間は悪いことをしてしまう生き物で、最初に警察が管理しておけば、悪い事件が起きてもすぐに解決できる」とメリットを語っていました。

確かに、治安の維持という面では役立っているんです。中国では警察が「身分証」の提示を求めた場合、国民は必す応じなけれはいけないと法律で決まっています。

犯罪者の検挙につながることも
これにより、2018年には北京市だけで殺人など様々な犯罪を起こし逃亡していた6000人余りの摘発に繋がったということです。

身分証が捜査に役立った例としては、ほぼ強制的に行われているコロナのPCR検査で、身分証の提示を拒んでいた男がいて、警察が確認すると、実は指名手配中の男だと判明し逮捕されたという例があります。

また、ある女性は、身分証の提出が必要な鉄道に乗る際、偽造した身分証を提示したことで、検挙されました。この女性が、なぜ身分証を偽造する必要かあったのかというと、実は当時交際していた男性に対し、年齢をさば読みしていて、「本当の年齢が分かってしまう正式な身分証を使用できなかった」という事でした。

このように完全に個人のプライバシーが全て筒抜けになる中国の身分証に対して、中国国民はどう感じているのか、街で聞いてみました。

「色々な物を持たなくてよいので便利です。身分証とスマホがあれはどこにも行けます」(中国人女性)
「私は良いと思います。身分証で管理すると、どこかで、事故に遭っても全て判明するので」(中国人男性)

男性が話したように、先月、中国の広西チワン族自治区で起きた旅客機の墜落事故の際、乗客はこの身分証を提示していたことから、すぐに特定に繋がり、家族への連絡もできたと言います。

実際に話を聞いた中国の人たちは個人情報を政府が管理することに抵抗はありませんでした。それはなせかというと、中国人の中には、国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」と考える人が一定数いるからです。

中国では街の至る場所に防犯カメラがあり、地下鉄に乗る時でさえ、持ち物検査がされます。こうした中国の徹底した個人情報管理は、私たち日本人や欧米諸国から見るとマイナスに見える部分がありますが、多くの中国人はこれを社会の安全にとって、「必要なこと」として受け入れています。

では日本は国民の個人情報をどう扱っていくのか。治安の維持や、便利さの一方で、プライバシーが犠牲になることをどこまで許容するのか、日本と中国の政治や社会の体制は違いますが、色々と考える必要があると思います。

加藤綾子キャスター:中国では、徹底した個人情報管理とかが、便利だとか、安全だという認識につながっているんですね。

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏:僕は、この間、マイナンバーカードのアプリを初めてやったんだが、それは便利ですよ、色んなものが、情報があってね。だけどね、今の話を聞いてたら、どっちがいいのかなと思いますよね。こういうカードを見た時に、思い出すのは、エストニア。全員がこういうカードを持っていて、色んな情報が入ってるんですよ。

だけど、エストニアは、面倒な行政手続きから、国民をどうやって解放するか、という観点で作られている。だけど、中国の話を見ると、どうも個人を解放するというよりは、行政が、個人をどこまでコントロールするか、そのために使われているような気がする。そうであれば困るなと思います。

中国人は勝手な人も多いけど、本当の自由を知らないんじゃないですか。本当の自由を知ったら、そんなことは言えませんよ。(イット!4月5日放送分より)【4月5日 FNNプライムオンライン】
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【個人情報を使用した“行政による個人のコントロール”】
個人情報を使用した“行政による個人のコントロール”の実例が問題にもなっています。

****中国当局、コロナ対策名目で抗議活動封じ スマホアプリを悪用か****
中国メディアは15日までに、河南省で預金の引き出し停止が続く地元銀行に抗議する多くの利用者が、新型コロナウイルス対策の名目で行動を制限される事態が起きたと伝えた。

中国で利用が事実上義務付けられている「健康コード」と呼ばれるスマートフォンのアプリを悪用した可能性がある。中国国内からも「防疫措置への市民の支持を損なう」と批判が出ている。

河南省では複数の金融機関が違法に資金を集め、計400億元(約8千億円)規模の預金が今春から引き出せなくなり、利用者らが抗議活動を展開している。

中国メディアによると、このほど抗議のため河南省入りしたとみられる省外の預金者の健康コードが、「感染リスクが高い」ことを意味する「赤」の表示に変化。他の多くの預金者のコードも同様に変化し、専用施設に閉じ込められたり、省外に追い返されたりしたもようだ。

健康コードは、PCR検査の結果や感染拡大地域への滞在歴などから利用者の感染リスクを緑、黄、赤の3段階で表示するスマホのアプリ。自宅や商業施設、公共交通機関に入る際に提示を求められることが一般的だ。「赤」の場合は隔離が求められる。河南省の地元当局は抗議活動を止めるため、利用者のコードの表示を意図的に変えた疑いが指摘されている。

共産党機関紙、人民日報系の環球時報は15日付で「健康コードの科学性、厳粛性を絶対に守らなければならない」と題した論評を掲載。この中で「乱用された可能性があるかどうかは、決して小さな問題ではない」とし、地元当局に早急な調査を求めた。

健康コードは、中国政府のコロナ対策の主要な柱となっている。習近平政権は「ゼロコロナ」政策を堅持しており、対策の正当性に疑念が生じかねないと警戒しているとみられる。【6月15日 産経】
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以前から「健康コード」の緑、黄、赤判断がどのように行われているのか・・・その曖昧さを懸念する声がありましたが、今回は行政によって抗議行動封じ込めに悪用(活用?)された事例のようです。

国家による情報管理のあり方、監視社会の実態を問う非常に憂慮すべき事件で、さすがに政府系メディアが「決して小さな問題ではない」としているように、「乱用」に対する批判はあるようで安心しました。

一方で、当局が積極的に個人情報管理の在り様を個々人に見せつけて、社会コントロールをしようという動きも。

****IP情報を中国SNSへ公開した目的とは?「お前はもう知っている」****
省や直轄市、国名で表示
中国の主要SNSでIP情報が公開されるようになって1か月半が経った。IPといっても、198.51…のようにアドレスとして表示されるのではなく、広東省や北京など省や直轄市単位で表示され、中国国外だと日本などと国名で表示される。

IP情報公開は、4月28日に微博(ウェイボー)で始まり、翌29日にはWeChat(ウィーチャット・微信)、TikTok(ティックトック)の中国国内版である抖音(ドウイン)でも始まった。

中国メディアによると、国が強制したものではないと伝えているが、ほぼ開始タイミングが同じなので、中国政府が主導して始めたと考えて良い。IP情報公開の目的について、ウェイボーは、「悪意あるデマやアクセス稼ぎを減らすため」と説明している。

中国在住者に聞くと、これまでウェイボーで、プロフィール上に日本在住と記載し、日本の情報を発信していた著名なインフルエンサーが、実は日本でなく、中国国内の山東省在住だったことが明らかになった例があるそうだ。

「このタイミングでのIP情報公開が始まったのは、上海のロックダウンが影響していると思われます。『全員の情報を政府は監視しているぞ』との警告もあるのではないでしょうか」(深セン在住者)

というのも中国政府は、わざわざ表示させなくても最初からすべての情報を把握しているからだ。中国は、SNSが登場した当初から利用ユーザー全員のIPアドレスを政府がすぐに確認できる仕組みになっている。中国政府は、登録情報を瞬時に取得でき、公安と連携して簡単に拘束できる体制で監視を強化してきた。

今回、政府が最初から把握しているIP情報をアプリ上に表示させたのは、抑止効果を狙ったものと言えそうだ。【6月16日 コリアワールドタイムズ】
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【改めて「幸福な監視社会」を考える】
冒頭【FNNプライムオンライン】にあるように、多くの場面では国家による個人情報管理は効率・治安などの面で大きなメリットがあります。

しかし、国家がどのような意図で情報管理するのか、情報をどのように使うのか・・・必ずしも“国家や政府は自分たらを守ってくれる「お父さん」や「お母さん」”ではすまないケースも生じます。
ときに、弾圧・抑圧に利用されることも。そうした場合、国民の側には身を守るすべがありません。

そうした中国における情報管理、監視社会を取り上げて3年前に話題になったのが「幸福な監視社会」

****中国人が監視国家でも「幸福」を感じられるワケ
『幸福な監視国家・中国』梶谷懐氏、高口康太氏インタビュー****
アリババの「芝麻信用(セサミクレジット)」などに代表されるように、日常における個人の消費行動が「信用スコア」のレイティング(等級分け)に利用される中国。レイティングが高ければ、様々なサービスを受けることができる特典が与えられることから、スコアを付けることが日常化している。

ここにきて地方政府などが運用する「社会スコア」というものまで登場している。これには交通違反、ゴミの分別などがレイティング対象となり、スコアの悪い人はブラックリストに載せられたり、航空機などの公的サービスが利用できなかったりするなどのペナルティがある。

個人情報によってレイティングされたり、個人の行動が監視カメラで監視されていたりするなど、日本人が聞くと「どうせ、中国は専制国家だから、プライバシーに無頓着で、監視されることにも慣れているんでしょ……」などと思ってしまいがちだ。しかし、実はそうではない。

そんな中国の実態を、中国経済論が専門の神戸大学経済学部教授・梶谷懐さんと、中国問題が専門のジャーナリスト・高口康太さんが現地取材を交えながら執筆したのが『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)だ。お二人に、「監視=幸福」という、一見、相反することがなぜ中国で成立しているのか? 聞いてみた。(中略)

強制ではなく、インセンティブを与える
「社会スコア」が導入されつつあるのも、強制力で従わせるのではなく、お行儀の良い行動をとったほうが「得」というインセンティブを与えることで、自然にその方向に向かわせるという狙いがある。

こうしたことから、中国では「便益(幸福)を求めるため、監視を受け入れる」、「プライバシーを提供することが利益につながる」という考え方が一般化している。

二人はどのような場面でそれを最も実感したのか?
「中国では、医療体制に問題を抱えていました。オンライン診療ができることになったことで、何時間も並んで診察を受けるといったことがなくなりました。サービスを提供しているのは大手保険会社で、個人が差し出す医療情報をビッグデータとして蓄積・解析することでビジネスに活用しています。これにより、迅速かつ低コストで、医療サービスを提供することが可能になっています」(梶谷さん)

「一つだけあげるのは難しいですが、梶谷さんのおっしゃる医療でもそうですし、顔認証だけで様々なサービスが受けられたり、自動車を駐車場に停めても勝手に精算が済んでいたりと、生活するなかでの面倒が日々少なくなっていくのを実感することができます」(高口さん)(中略)

信用スコアはもちろん、QRコード決済など、中国で新しいサービスが急速に普及する背景には、もともとそうしたインフラが整っていないということも関係している。(中略)

日本など先進国だと、先に整ったインフラや規制(ルール)が弊害となって新しいサービスがすぐに社会実装化されることは少ない。米ウーバーのサービスが「白タク」として許可されていないのは、その典型例だ。

「レギュラトリー・サンドボックス方式」と呼ばれる、規制緩和を行って新技術の実証事件を行う仕組みが、イギリスやアジアで導入されているが、中国ではまさにそれを地で行き「先にやって後で許可を得る」という形で、日常的に新しいサービスの試行錯誤が行われている。こうした環境がベンチャー企業を育み、中国発の新サービスを生む土壌となっている。(中略)

新疆ウイグル自治区というディストピア
一方で、デジタル・監視国家の負の側面もある。代表例として本書でも挙げられているのが、ウイグル人の問題だ。彼(女)らは日常生活を監視カメラやスマホのスパイウェアで管理されている。(中略)一般の中国人(漢民族)はこの問題をどのように考えているのだろう。

「私が中国に留学していた際の経験からも、マジョリティである漢民族の中には、新疆人(ウイグル人)は何をするか分からない、怖い人たちだ、という意識があるのを感じました。(中略)ですから、他地域で実施されれば激しい反発が予想される厳しい監視体制も、ウイグル人を対象にしたものである限り、抵抗なく受け入れられている面があるように思います」(梶谷さん)

「やはり、民主主義の欠如ということが問題です。同時に、99%の中国人にとって、そのリスクは捉えられていません」(高口さん)

使い方次第で、ディストピア社会も生み出してしまうが、多くの中国人にとって、それは圏外の問題なのである。

もう一点、不気味さを感じさせるのが、民意を先回りして政策を実行できるという点。
「言論の自由が保障されていないにもかかわらず、買い物の履歴やSNSの発言から情報を収集することで「民意」をくみ取り、それを政策に反映することが可能になっています」(梶谷さん)

「(中略)こうしたシステムを駆使すれば、選挙ではなく、監視によって民意を察知することも可能です。たとえば焼却場の建設計画を進めている時、住民の反発が非常に強く大規模な抗議活動が起きかねないと、世論監視システムが予測します。そうすると、地方政府は先手を打って説得したり、あるいはスピン情報を流したりという対策が打てます。場合によっては建設計画を撤回することもあるわけです」(高口さん)

これまで、社会課題などを議会で議論することで解決するという形をとってきたわけだが、情報を収集して解析すれば、そのような手間のかかる作業をしなくても、多くの人にとっての最適解が出されてしまう。

社会に対して大きな不満を持つことなく(ということは、投票率は益々下がり、今でも少ないデモなどももっと起きなくなる)、無風のまま政府によって飼いならされていく……。

テクノロジーの発達によって人の仕事が奪われるということが話題になっているが、民主主義社会を支える土台においても、人間が積極的に関与しなくてもよい状況が生まれつつあるのかもしれないと思うと、背筋が寒くなる。

中国に限った問題ではない
(中略)「ブレグジット、トランプ大統領の登場などによって、『民主主義って機能しているの?』というイメージを中国人は持っています。人に任せるよりデータに任せたほうが良いのではないかという。日本にも民主主義が機能不全だと考えている人は増えているのではないでしょうか。だからといって、中国と同じになるのがいいとは思いませんが、民主主義をバージョンアップさせるためにも、中国がどう課題に取り組んでいるかを知ることは必要不可欠でしょう」(高口さん)(後略)【2019年8月23日 WEDGE】
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中国  習近平3選をめぐる権力闘争 ゼロコロナ対策による経済減速への不満が習批判へ

2022-06-15 23:34:24 | 中国
(【5月20日 livedoor NEWS】 5月18日、雲南省を視察する李克強首相 このときのノーマスクがゼロコロナ批判として話題になっています。屋内では着けているようですが。)

【共産党大会を見据えた権力闘争 李克強首相を担ぐ党長老・重鎮も】
最近、中国の政治状況でよく取り沙汰されているのが、3選が確実視されている習近平国家主席に対し、経済の減速、コロナ対策、ウクライナ情勢などを理由とした反対勢力の抵抗が強まっているという件。

より具体的には、ひと頃影がまったく薄れていた李克強首相が復権し、習近平主席との間で綱引きが行われているという話。もっとも、中国共産党の権力闘争というのは外部からはよくわかりませんが・・・・。

****習近平、3選に暗雲か。権力闘争&重鎮から異論噴出でピンチ、問われる中国経済失速の責任****
この秋に行われるとみられている中国共産党大会。日程がはっきりしない原因は、習近平国家主席の3選が盤石ではないことが影響しているといいます。(中略)

中国共産党大会の時期でわかる、習近平の安泰度合い
(中略)現時点で中国共産党大会の日程について、中国国営メディアは「今年後半に開く」としか伝えていない。
香港紙の明報は、4月11日付の紙面で「11月開催の見通し」と伝えているが、仮にこれが事実であれば、これまで確実と見られてきた習近平総書記の3選は100%とは言い切れなくなる。(中略)

景気の減速に歯止めがかからない中国
習近平指導部に揺らぎが生じかねない背景はいくつかある。1つは、習近平総書記の3選に、かつて共産党の重鎮だった朱鎔基元首相らから異論が出ている点だ。

不動産大手、IT企業などへの締め付けが主な理由で、習近平総書記の政策が中国経済の減速を招いているとの声は根強い。

恒大集団のデフォルト危機で知られるようになった不動産バブルの崩壊は日増しに深刻化し、住宅価格の下落が止まらない状態だ。この元凶が習近平指導部の政策にあるというわけだ。

事実、4月27日付の英国紙、フィナンシャルタイムズは、中国共産党幹部の間で不動産企業への締め付けを継続するかどうかで意見が対立している、と報じている。 

政治局常務委員の韓正(江沢民派)、政治局委員の胡春華(李克強派)と、政治局委員の劉鶴(習近平の側近)との間で対立があるというのである。単に政策に関する考え方の相違というよりは、共産党大会を見据えた権力闘争の感が強い。

もう1つは習近平指導部による「ゼロコロナ政策」の余波だ。
(中略)上海をはじめ北京でも行われた「ゼロコロナ政策」で、個人消費などの経済活動は大きな打撃を受け、何より市民の間で度が過ぎた政策に対する不満が充満する事態を生じさせている。(中略)

習近平にとって悩ましいウクライナ情勢
(中略)ただ、習近平総書記にとって誤算だったのは、強大な軍事力を誇るロシアがウクライナの善戦を許していることだ。しかも、欧米諸国が手をたずさえ、ここまで大掛かりにウクライナへの軍事支援、ロシアへの経済制裁を実施することは想定外だったろう。

また、アメリカのバイデン大統領が、5月23日、岸田首相との会談で「台湾有事の際は軍事介入する」趣旨の発言をし、翌日のQuad(日米豪印4か国の枠組み)首脳会合で連携強化を打ち出したことについても、「インド太平洋地域に新たなNATOができた」と映ったのではないだろうか。

特に欧米の結束は中国にとって最も望まない事態である。
中国にとってロシアは、アメリカなど西側陣営に切り込んでいく先兵であり、欧米のロシアに対する対応を見て、台湾統一のシナリオを描く腹積もりだったはずだ。

それが、ロシアの疲弊と欧米諸国の結束を見せつけられ、習近平指導部の中でも、「ロシアを支援する派」と「ロシアから距離を置く派」に割れたため、現在はひとまず中間を進んでいるというのが筆者の見立てである。

しばらくは実質的にロシアを支援しながら、国際世論上はロシアとの一体化を避ける作戦を続けることになるのではないか。(中略)

ここで中ロ関係を見直せば、習近平外交の否定につながり、3選に反対する声が高まりかねない。
習近平総書記からすれば、ロシアとウクライナ、どちらが勝利しようと、ロシアがこれ以上疲弊せず、しかもプーチン体制はそのまま続くことがベストなのだ。(後略)【6月5日 清水克彦氏 MAG2NEWS】
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****ほくそ笑むプーチン。米中の内政事情で泥沼化するウクライナ戦争****
(中略)
一方で中国ですが、ここへ来て習近平派と李克強派の政争が、悪い意味で拮抗してきているようです。

「上海のロックダウンは終了」(李)
「いやいやゼロコロナは継続、全員検査は再開」(習)

「中国企業の海外での上場を再度認める」(李)
「いやいや滴滴の上場廃止は予定通り」(習)

「コロナによる失業や、ゾンビ企業対策に公的資金注入」(李)
「いやいや富裕層への攻撃も続行」(習)

というような感じで、両派の政策が全く矛盾するような形で繰り出されているという印象です。そこから透けて見えるのは、「両派の政争は夏を超えて秋まで続く」というイヤなシナリオです。

次期指導部が決まれば、その指導部は現実に直面しますから、可能な政策は狭いゾーンの中での意思決定になります。ですが、ここへ来て、非現実的なもの、中国経済を停滞させるような性格のものも含めて、奇妙な政策がコロコロと繰り出されているのは、その全てが政争に絡んでいるからだと思います。(後略)【6月15日 冷泉彰彦氏 MAG2NEWS】
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【焦点となっているゼロコロナによる経済減速 今更退けない習氏】
ゼロコロナ対策で中国経済が減速していることが、集団指導体制から習近平一強体勢に移行しつつある習氏への権力闘争の争点となっています。

****習近平政権のほころびが見える中国経済の損傷****
エコノミスト誌5月24日号は「習近平はどのように中国経済を損傷しているか、柔軟性を欠く政策が実用主義を圧倒している」との社説を掲げ、習近平の政策を批判している。

社説の主な観察点は次の通りである。

(1)毛沢東の死後、中国共産党は国家統制と市場改革を混合した現実的なアプローチをとってきたが、いま中国経済は危険な状況にある。

(2)直近の問題はゼロコロナ政策だ。2億人以上が制限下の生活を強いられ、経済はふらついている。小売り、工業生産、輸出量、いずれも減った。

(3)習近平の一連の経済政策の背後には、党が指導すべしというイデオロギー上の熱意がある。罰金、新しい規制、粛清の嵐は、国内総生産(GDP)の8%を占める活力あるテク産業を停滞させた。GDPの20%を占める不動産セクターの取り締まりで、住宅販売は4月前年比47%も落ちた。

(4)この40年間で初めて、成長に不可欠な民間セクターの自由化改革が行われていない。

(5)多くの企業がサプライチェーンを中国から遠ざけるようになっている。中国の企業が2030年代にはいくつかの産業を支配するかもしれないが、西側は中国産品輸入により用心深くなっている可能性がある。

この社説は、今の中国の状況を経済面から批判的に描写したものであるが、かなり的を射ていると考えられる。中国経済の今年の成長目標は5.5%前後とされているが、この達成は難しいのではないかと思われる。

政府の大規模な公共投資で成長率を底上げする可能性はあるが、ゼロコロナ政策、それにともなうロックダウン、それに習近平の民間部門への締め付けと、経済の党による指導強調などは非効率な政府部門の肥大化につながるように思われる。

そのうえ、社説では触れられていないが、高齢化と少子化の人口構成の変化が与える影響も考えなければならない。

ワンマン支配の禍根を残す可能性
習近平のワンマン支配の欠点が目立ってきている。鄧小平が集団指導体制を重視し、最高指導者の任期制を導入したのを習近平はひっくり返しているが、将来に大きな禍根を残すように思われる。

ロシア共産党の歴史を見ると、共産党というものは独裁になる傾向が強い。トロツキーがスターリン体制を批判して、「プロレタリアート独裁のプロレタリアートは前衛である共産党にとって代わられ、共産党はその中央委員会にとって代わられ、中央委員会は書記局にとって代わられ、書記局は書記長にとって代わられる」と述べたが、これはなかなかの卓見であったし、事実そうなった。

鄧小平が個人崇拝を排し集団指導を言ったのは、共産党のそういう傾向を踏まえた優れた見解であったと思うが、習近平はこの鄧小平の考えを否定してきている。残念なことであると同時に、習近平の中国には適切なブレーキがないことを踏まえ、相当な注意をもって対峙していく事が必要であると思われる。【6月15日 WEDGE】
*******************

ゼロコロナ政策の成功に自らの指導力や政治的遺産、そして政権の正統性を結び付けてしまった習近平主席としては、今更政策変更できないという事情があります。政策変更は「失敗」を意味し、それは自らの指導力や政権の正統性を否定することになってしまいます。

状況はかつての毛沢東主席の「大躍進」政策の悲劇的失敗にも似ているいますが、その経験で言えば、習近平主席が「大躍進」政策失敗のときの毛沢東主席と同様の手法で危機を乗り越えるのでは・・・・との指摘も。

****お手本は毛沢東──「ゼロコロナ批判」で、ますます意固地になる習近平****
<「自分への圧力が強ければ強いほど、私の決意は固くなる」。秋の共産党大会で異例の3期目を目指す習に李克強首相らが「異論」を唱え始めた。しかし、歴史が繰り返されるのであれば、経済回復した段階で切られる>

上海に、遅すぎる春が来たようだ。新型コロナウイルスの新規感染者を「ダイナミック」に完封するという「ゼロコロナ」政策の下、2カ月以上も続いたロックダウン(都市封鎖)が、6月初めにようやく解除された(ただし、まだ感染の疑いなどで「隔離」中の人が何万人もいる)。

だが、習近平(シー・チンピン)国家主席が喜ぶのはまだ早い。オミクロン株による感染拡大は各地で続いており、自慢の「ダイナミック・ゼロコロナ」政策にはほころびが目立つ。

いつロックダウンが来るか分からず、先が見えないから中国経済は落ち込んでいる。しかも中国共産党の第20回党大会を数カ月後に控えた今、李克強(リー・コーチアン)首相を含む有力者がゼロコロナ政策の有効性への疑問をほのめかし始めた。

この政策への異論を外国人ジャーナリストに語る財界人や公衆衛生の専門家もいる。中国語の外国メディアには、習が党総書記の続投(3期目)を諦めるのではないかという観測も流れている。詳細は不明だが、指導部内が割れている可能性もある。

中国の場合、特定の政策について意見の対立が表面化するのは、党内に権力争いがある証拠だ。共産党の指導部と長老は昔から、党大会の前には北戴河(河北省の避暑地)に集まって事前の調整を行ってきた。その日程はぎりぎりまで明かされないが、たいてい8月に開かれる。そして今回は、そこで「ゼロコロナ」政策の評価が問われる。

具体的には、ゼロコロナ政策が経済の停滞を招いたと李が主張して習を牽制し、後継首相に自分の腹心を据えようとする(あるいは自身の続投を求める)可能性が指摘されている。

党大会までに習が権威を回復し、あっさり3期目を手に入れる可能性はある。もちろん本人はそのつもりでいる。だが中国共産党の歴史に照らすと、そのためには事前に、自分の続投に異議を唱えそうな党幹部や知識人、財界人の口を封じる必要がある。

現時点で、堂々とそんな発言ができるのは旅行予約サイト最大手トリップ・ドットコムを率いる梁建章(リアン・コンチャン/ジェームズ・リャン)など、ほんのわずかな人だけだ。彼らを黙らせ、思想統制を強化すれば、みんな、おとなしくなる。

撤回できないゼロコロナ
今の習は身動きが取れない。ゼロコロナ政策の代償が恐ろしく高いことは承知している。だがこの政策の成功に自らの指導力や政治的遺産、そして政権の正統性を結び付けてしまった以上、今さら放棄はできない。それでは失敗を認めることになる。

それに、この政策を打ち切ることには現実的なリスクが伴う。党内で広く周知された調査報告によると、ゼロコロナを解除した場合は高齢者を中心に150万人超の死者が出る可能性がある。そんな事態は受け入れ難い。

しかも投資や消費に関する経済指標は劇的に悪化していた。だから習は5月5日に党政治局の常務委員全員を集め、ゼロコロナ政策への支持を確認させた。会議後の発表文にはこうある。
「ダイナミック・ゼロコロナ政策を揺るぎなく堅持し、この政策をゆがめ、疑い、否定するような言動とは断固として闘う」

習としては、この「揺るぎなき」声明で支持をまとめたいところだった。しかし現実には、ゼロコロナ政策を「ゆがめ、疑い、否定するような言動」が加速された。

まず、李克強の出身母体である共青団(中国共産主義青年団)の関係者が米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に、今の李には理性の声があると語った。

そして現に、李は5月の会議で習と対照的なスピーチを行った。習はコロナウイルス根絶の必要性を強調するだけだったが、李は経済問題を語り、コロナには触れなかった。ある参加者に言わせれば、李は「全く異なるアプローチ」を見せたことになる。

また中国の公衆衛生当局者の中にも、身の危険を覚悟でゼロコロナ政策に異議を唱える人がいる。
やはり5月に、地方レベルの衛生当局幹部2人が匿名を条件に英医学誌ランセットの取材に応じ、こう語っている。
「今のゼロコロナ政策に異論を唱えれば罰せられる。今の上層部には医療専門家の意見に耳を傾ける者がいない。正直言って屈辱的な状況だ」もう一方の幹部も、ゼロコロナは「費用対効果が悪い。みんな知っている」と語った。

毛沢東の手法を教訓に
中国政治の歴史を振り返れば次の展開、とりわけこの夏の北戴河会議で起きそうな事態の筋が読める。

1959年7月のこと。毛沢東は工業化と農業の集団化を掲げて「大躍進」政策を進めていたが、その結果は悲惨だった。それで当時の国防部長・彭徳懐は毛に私信を送り、政策の再考を促した。彭は「大躍進」を毛の「偉大な業績」と評して敬意を示しつつも、地方官僚が無能なので経済的に「かなり大きな損失」が生じていると進言した。

しかし毛は、この手紙を建設的な批判ではなく、自分への挑戦と見なした。だから党指導部が集まった直後の廬山会議で、毛は彭の手紙を参加者に見せ、賛否を問うた。そして彭を「右派」と糾弾し、その支持者たちを逮捕した。

当時の毛沢東と同様、今の習近平も軍と治安当局を掌握している。だからライバルに対して圧倒的に有利だ。党大会の前に習の続投を阻むシナリオを描きたければ、夏の北戴河会議が最後のチャンスとなる。だが毛の教訓に学んだ習は間違いなく強力に反撃し、早いうちに異論反論の芽を摘むはずだ。

あるいは、経済情勢が安定するまで、何カ月か待つという手もあり得る。この点でも「大躍進」政策の事例が有益な参考になる。

異論を封じた後も、毛は「大躍進」を続けた。経済は一段と混乱し、餓死する人も多かった。結果、劉少奇や鄧小平など、大躍進政策の行きすぎに反対する現実的な指導者たちの影響力が増し、毛の権力基盤は再び危機にさらされることになった。

このとき毛は、自分の招いた経済危機が通りすぎるのをひたすら待ち、その後に反撃に出た。そして劉少奇が「独立王国」を築こうとしていると糾弾し、鄧小平が自分抜きで会議を開いていると非難して排除した。言うまでもないが、こうした権力争いが後の文化大革命につながったのだ。

今回も同じパターンが繰り返されるとすれば、習は経済が回復するまで李らの改革派に経済運営を任せ、回復の兆しが見えた段階で彼らを切るかもしれない。

ゼロコロナ政策に異議を唱える中国政府の関係者や医療専門家は、世論の圧力と経済の現実によって最高指導者の習が考え方を変えてくれる可能性に懸けている。国外の投資家や企業も、そうなってほしいと願っている。

だが中国政治の歴史は、彼らの期待が裏切られる可能性が高いことを示している。
かつて、習は言ったものだ。「自分への圧力が強ければ強いほど、私の決意は固くなるのだ」と。【6月13日 Newsweek】
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【「李昇習降」か「引蛇出洞」か 決着は「北戴河」会議】
一方、李克強首相については、マスクを着けずに地方視察する姿が、習近平氏のコロナ対策への批判だといったことも言われており、官製メディアも李克強首相の言動を取り上げる機会が増えているとか。
「李昇習降」といった言葉も取り沙汰されているようで・・・。

しかし、習近平氏がそうした動きに目立った反撃をしていないのは、反対勢力を隠れている場所からおびき出す戦略「引蛇出洞」ではないか・・・との見方もあるようです。

部外者には何ともわからない権力闘争ですが、7月末から8月初めにかけて党長老らも参加して開かれる「北戴河」会議で方向が見えてくると思われます。
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食糧危機  ウクライナ戦争の長期化で深刻化 頭越しのトルコ仲介にウクライナは警戒感

2022-06-14 22:27:52 | 食糧・飢餓
(【6月13日 産経】)

【長期化する戦争で深まる食糧危機】
ウクライナの戦況については、ここ数日、東部におけるロシア軍の攻勢、ウクライナ側の苦戦を報じるニュースが溢れています。

“ウクライナ軍、東部拠点中心部から撤退=セベロドネツク、近く完全包囲も”【6月13日 時事】
“ロシア軍、ウクライナ東部の要衝都市制圧へ新たな大隊配備を準備か…孤立させるため橋も破壊”【6月13日 読売】
“ウクライナの砲弾不足鮮明に 東部苦戦の主因と米側分析”【6月14日 産経】
“セベロドネツク攻防戦で「恐るべき」人的損失 ウクライナ大統領”【6月14日 AFP】
“ロシア軍、ハリコフで占領拡大 数週間ぶりと英国防省”【6月14日 共同】
“ハリコフ無差別攻撃で数百人犠牲 ロシア軍、クラスター弾使用か”【6月14日 共同】
“「投降するか、死ぬか」親ロ派 “最後の拠点” 橋を全て破壊され…500人が退避困難に ウクライナ情勢”【6月14日 TBS NEWS DIG】

今後の展開はわかりませんが、ウクライナ側が一気にロシア軍を追い出す、あるいは、ロシア軍が内部崩壊するという期待は薄れ、戦闘は長期化するものと思われます。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領はこの苦境をはね返すためには更なる武器支援が不可欠だと、欧米への支援を強く要請していますが、戦争が長引き、その影響が自国に及ぶにつれ、支援する欧米側にも「ロシアへの勝利」よりは「早期の停戦」を優先する考えも強まり、支援国内部に温度差が生じていることはこれまでも取り上げてきました。

さらに世界全体で見ると、有力な穀物輸出国であるウクライナ・ロシアの戦争により、食糧不足・飢餓・食品価格上昇の脅威が現実のものとなりつつあります。特に、ウクライナ穀物の黒海沿岸からの輸出がストップしていることが大きな問題となっています。

****ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表****
国連はウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機をめぐり、世界で16億人が影響を受けていると発表しました。

国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」

国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。

この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。

グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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【制裁緩和に食糧危機を利用したいプーチン大統領】
食糧危機、それに伴う混乱はロシア・プーチン大統領の戦略だとの指摘も。

****途上国を兵糧攻めにしてEUに難民危機を引き起こすプーチンの「飢餓計画」****
<ロシアによる海上封鎖はウクライナ産穀物に依存する国々やEUを巻き込む「飢餓計画」の一環だ>

ウクライナ侵攻中のロシアが黒海を封鎖している問題について、エール大学の歴史学者ティモシー・スナイダー教授はその意図は「難民を生み出すこと」、さらにはEU域内を不安定化させることにあると分析した。
「プーチンの飢餓計画には、ウクライナ産の食糧に依存している北アフリカや中東からの難民を生み出し、EUを不安定化を生み出す意図もある」とスナイダーは11日、ツイッターに投稿した。

ウクライナは世界有数の穀物輸出国だ。ロシアによる黒海の海上封鎖は、ウクライナからの輸入穀物に大きく依存している少なからぬ国々の食糧供給を脅かしている。

スナイダーはまた、もし海上封鎖が続けば「数千万トンに及ぶ食糧が貯蔵庫の中で腐ることになり」、その結果、アフリカやアジアで数多くの人々が「飢えることになるだろう」と警告した。

黒海に面したウクライナ南部オデーサ州のアラ・ストヤノワ副知事も、海上封鎖によってウクライナの穀物が滞留し、世界各地の食糧不足に拍車をかけることになると警告している。

世界に対するプーチンの「恐喝」
「プーチンの狙いは貧しい国々を飢餓に追い込むことだと私は思う。ウクライナの港を封鎖することで、彼は世界を恐喝しているのだ」と、副知事は先月、英紙テレグラフに掲載されたインタビューで述べている。

テレグラフによれば、オデーサを初めとするウクライナの港には通常、1日あたりコンテナ3000個の分の穀物が鉄道で到着し、大型の貯蔵庫に一時保管されるという。

世界では今年に入り、2億7600万人近い人々が深刻な飢餓を経験している。もしウクライナ侵攻が続けば、深刻な飢餓を経験する人の数はさらに4700万人上乗せされるかも知れない。

特に危惧されるのはサハラ砂漠以南の地域だ。
先月、国連安全保障理事会では、ウクライナからの穀物輸出が大きく減少したことで、イエメンやナイジェリア、南スーダン、エチオピアなどの国々が食糧危機のリスクにさらされていると指摘された。

国連世界食糧計画(WFP)も先ごろ、ウクライナの港への封鎖が解かれなければ世界中で数多くの人々が「飢えに向かって突き進む」ことになるだろうと警告を発した。

前出のスナイダーはツイッターで、世界各地で飢餓が起きる懸念も表明した。プーチンは「飢餓計画」に基づき、「欧州における戦争の次の段階として、発展途上国の大半を飢えさせる」準備をするかも知れないと言うのだ。

「プーチンの飢餓計画はあまりに恐しく、理解しがたいものがある。われわれは、食糧が政治における中心課題であることを忘れがちだ」とスナイダーはツイートした。

「何より恐ろしいのは、世界規模の飢餓がロシアの反ウクライナのプロパガンダ活動にとり必要な背景だということだ。実際に大量の死者が出ることが、プロパガンダ合戦の背景として必要なのだ」

飢えた国々で暴動や抗議が激しくなれば、ロシアはそれをウクライナの責任にして占領を正当化するつもりだとスナイダーは書いている。本誌はロシア外務省にコメントを求めたが回答は得られていない。【6月13日 Newsweek】
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ロシア・プーチン大統領としても食糧危機・飢餓の「犯人」扱いされるのは望ましいものではないでしょうから、そこまで明確な意図を持って現在の危機を作り出しているとは思いませんが、この危機を利用して、ロシアに対する制裁圧力を弱めようと考えている・・・ということはあるでしょう。

【ロシア・トルコで話が進む現状にウクライナは反発】
こうしたなか、世界貿易機関(WTO)の最高議決機関となる閣僚会議が12日、スイス西部ジュネーブのWTO本部で4年半ぶりに始まり、ロシアのウクライナ侵攻で懸念が高まる食料危機への対応が協議されました。

****WTO閣僚会議、食料安保巡る合意案議論 インドなど支持留保****
世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は13日、ロシアによるウクライナ侵攻で脅かされる食料安全保障について議論した。食料の供給制約と価格高騰への対策に関する合意を目指したが、インド、エジプト、スリランカが支持を見送ったため、結論を持ち越した。会議は15日まで開かれる。

議論した2つの合意案の一つは、市場開放を継続し、輸出規制を設けずに透明性を高めるという内容の閣僚宣言で、もう一つは紛争や災害、気候変動が直撃した地域で食料支援を行う世界食糧計画(WFP)への輸出制限を禁止する措置で法的拘束力を伴う。

国際通貨基金(IMF)によると、約30カ国が食料品、エネルギー、その他の資源の輸出を制限している。

WTOの報道官によると、エジプト、インド、スリランカ以外の加盟国は合意文書案に支持を表明。食料の純輸入国であるエジプトとスリランカは、食料輸出能力に限界があるとの認定を求めている。

インドは途上国による食料品備蓄について、農家支援に関するWTOのルールの適用除外として容認することを求めている。2013年に時限的に適用除外が認められた経緯がある。ゴヤル商工相は適用除外を得ることが閣僚会議における「最優先課題」だと強調した。【6月14日 ロイター】
*********************

安くなったロシア産石油を爆買いするなど「自国第一」を鮮明にしているインドは、小麦についても5月14日、輸出の一時停止を発表していますが、上記の輸出規制を設けないという議論に抵触しないのでしょうか?

いずれにしても、危機的な現状に対する即効性のある対処法の実現は、黒海封鎖しているロシアの意向にかかっています。
トルコ・エルドアン大統領がここでも仲介に動いていますが、頭越しに決められることへのウクライナの反発もあるようです。

****ウクライナ「排除」に反発 穀物問題で思惑交錯****
ロシアの軍事侵攻を受けてウクライナの穀物輸出が停滞している問題で、国際社会が探っている輸出再開の方策に当のウクライナが神経をとがらせている。

穀物輸出再開の枠組みがウクライナの頭越しに決められたり、ロシアへの制裁圧力が弱められたりすることを警戒しているためだ。世界的な食糧危機の懸念が深まる中、この問題では関係諸国の利害が複雑に交錯している。

「(穀物輸出枠組みの構築に向けた)各国の協議や努力を歓迎するが、前提が一つある。わが国の安全が完全に保証されることだ」
ウクライナのクレバ外相は8日の記者会見でこう力説した。念頭にあったのは同日、穀物問題をめぐってトルコのチャブシオール外相とラブロフ露外相が会談したことだ。トルコはロシアとウクライナを仲介する用意があるとしつつ、米欧などによる対露制裁の解除に賛意を示した。

米欧は世界有数の穀物輸出国であるウクライナをめぐり、輸出拠点だった黒海沿岸の港を海上封鎖しているとしてロシアを批判してきた。これに対してプーチン露政権は、対露経済制裁が世界の食料価格高騰を招いているとして制裁解除を要求している。

露主要銀行を対象とした金融制裁により、米欧が穀物を含む各分野でロシアとの取引を控えている。プーチン政権は、制裁がなくなればロシア自身が穀物輸出を増やし、食料価格を抑制できると主張している。制裁によるロシアの経済的疲弊を待つウクライナにとっては決して容認できない。

プーチン政権は、ウクライナが露占領下にあるウクライナ南東部のマリウポリやベルジャンスクから穀物を輸出するよう水を向けるが、被占領地からの輸出はロシアによる実効支配の既成事実化につながる。

ロシアとウクライナが黒海沿岸に敷設したとされる機雷の除去も難題だ。ロシアはウクライナの機雷を問題視して批判を強めているが、ウクライナとしては、機雷が除去されれば露軍の南部への上陸が容易になってしまう。クレバ外相が「安全の保証」を強調するのはこのためでもある。

トルコは国連とも協力し、ウクライナの穀物輸出に向けた安全な航路の設置を急ぐとしている。だが、具体的な方策はまだ見えてこないのが実情だ。穀物輸出の問題は、今月下旬に予定される先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも主要議題となる。

アフリカ連合(AU)の議長国セネガルのサル大統領は、3日に訪露してプーチン氏と会談し、対露制裁解除の必要性に言及した。アフリカや東南アジアには飢餓や食糧危機への懸念を強めている国が多く、「背に腹は代えられない」との事情でロシア寄りの立場をとる可能性がある。

ウクライナと良好な関係にあったトルコもここにきて、経済や安全保障の観点からロシアに重心を移している感が強い。

トルコ高官が語ったところでは、天然ガスで国内需要の45%、ガソリンで40%をロシア産でまかなうなど、エネルギー面でトルコの対露依存度は高い。シリアやリビアの内戦ではトルコとロシアがそれぞれ敵対する勢力を支援しており、対露関係が悪化すると地域情勢に影響する事情がある。

ロシアが反発しているスウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請でも、トルコはロシアに理解を示して両国の加盟に反対している。【6月13日 産経】
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東部戦況の優勢に加え、石油・ガスで欧州を分断し、食糧でアフリカや東南アジアを引き寄せる・・・となれば、プーチン大統領としては侵攻当初の失敗からやや態勢を立て直すことにも。
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北朝鮮  新型コロナ対策の行動規制で餓死者、農作業にも遅れ 一部規制を緩和して「ウィズコロナ」へ

2022-06-13 22:42:41 | 東アジア
(平安南道南浦市江西区域にある青山里協同農場での「田植え戦闘」(画像:朝鮮中央テレビキャプチャー【6月10日 デイリーNKジャパン】)

【異様に低い致死率など信頼できる数字ではないものの、北朝鮮当局は感染減少を発表】
北朝鮮では新型コロナが急拡大したものの、ここのところは減少傾向にある・・・・と、北朝鮮メディアは報じています。

ただ、鎖国体制の北朝鮮国内の事情は外部からはほとんどわからないなかで、新型コロナに関しては北朝鮮当局も満足な検査態勢がある訳でなく、何をもって新型コロナ感染者としているのかさえ不明確。当事者もよくわかっていないようで、発表も「発熱者」という表現になっています。

****北朝鮮の新たな発熱者 4万人下回る****
北朝鮮の朝鮮中央通信は13日、国家非常防疫司令部の集計として12日午後6時までの24時間に新たに約3万6710人の発熱者が確認されたと報じた。

新型コロナウイルスの感染者とみられる発熱者は4月末からの累計で約446万9520人となった。このうち約440万4210人が完治し、約6万5230人が治療を受けている。  

一時は40万人に迫った新たな発熱者は徐々に減少し、3万人台にまで下がった。  
新たな死者や死者の累計に関する言及はなかった。死者の累計は今月11日時点で72人。  

ただ、北朝鮮が公開した統計は発熱者数に比べ死者数が少なく、韓国情報当局も北朝鮮の統計発表が住民を落ち着かせる目的が大きいとの判断を示しており、統計をそのまま信じるのは難しいとの指摘が出ている。【6月13日 聯合ニュース】
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「発熱者」を症状が出ている新型コロナ感染者だとすると、死者の累計72人は“異様”に少なく、致死率は0.002%・・・・およそ信頼できる数字ではありませんが、北朝鮮はそうした指摘を「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と猛反発しています。

****北朝鮮 コロナ統計の信ぴょう性指摘に猛反発=「荒唐無稽な詭弁」****
北朝鮮の対外向け週刊紙「統一新報」は12日付の時論で、北朝鮮の新型コロナウイルス関連統計の信ぴょう性が低いとの韓国の指摘に対し、「同族対決に血眼になっている南朝鮮(韓国)の保守勢力は共和国(北朝鮮)の現実を歪曲(わいきょく)し、詭弁(きべん)と悪口を毎日のように並べ立てている」と非難した。

同紙は平壌で新型コロナの新たな変異株が見つかる可能性や北朝鮮当局の死者数の統計が実際より低く発表されている可能性が韓国で指摘されていることに、「極度の無知から発した荒唐無稽の詭弁」と批判。「最大非常防疫体系」の実施から1カ月足らずで感染拡大を抑え、新型コロナとの戦いで勝勢を固めていると主張した。

また、韓国の保守勢力が対北朝鮮制裁に追従するだけで飽き足らず、感染症問題までを同族対決に悪用していると非難した。韓国政府が提案した南北防疫協力についても「厚顔無恥で破廉恥」と非難した。

北朝鮮は新型コロナ感染者とみられる新たな発熱者数が先月15日には40万人に迫ったが、現在は4万人台に低下し、死者の累計は72人、致死率は0.002%だと主張している。【6月12日 聯合ニュース】
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北朝鮮のような劣悪な食糧事情で国民の抵抗力が極度に落ちている国、しかもワクチンも未接種で医療体制も貧弱な国で、感染が拡大したにもかかわらず死者が72人というのは到底信じられない数字です。

【逼迫した食糧事情のもとでの行動規制、配給も無し 当然のごとく餓死者が】
まあ、数字はよくわかりませんが、ひとつ容易に推測できるのは、中国に倣ってとられたゼロコロナ政策・隔離政策が峻烈な悲劇をもたらしたであろうことです。

以前のブログでも書いたように、隔離政策のひどい実態が多く報じられている中国は、問題は多発しているにしても、当局に隔離地区に食糧を配布する意思は一応ありますし、その資力もあります。

しかし、北朝鮮は新型コロナ以前から配給も滞り、餓死者がでるような劣悪な経済状況にありましたので、その状況で厳格な隔離政策をとれば、当局には隔離地区に食糧を配布する意思も能力もなく、コロナ犠牲者よりも餓死者の方が現実の問題となることは火を見るより明らかです。

****ロックダウンで追い詰められる北朝鮮の地方住民****
北朝鮮では5月12日、国内での新型コロナウイルス感染者を公式に認めた後、全国的に封鎖令(ロックダウン)を敷き、一切の外出が禁止された。ただでさえ食糧事情が逼迫している中で実施されたロックダウンで、食べ物を入手できずに餓死する人が続出している。

状況の深刻さに、両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)では、ロックダウン措置が一部緩和されたが、深刻なのは恵山だけではないようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

恵山よりさらに奥地の白岩(ペガム)の情報筋は、コロナ感染よりロックダウンにより食べ物が底をつくことへの心配が大きいとし、あちこちから窮状を訴える声が上がっていると伝えた。

市場で商品を販売して、得た利益で食べ物を購入して生計を立てていた人々は、ロックダウンが10日以上となり、手元に食べるものが全くなくなり苦しんでいるが、当局は一切の支援を行っていない。

日が暮れると、村の路地裏では、安全員(警察官)や非常防疫組の目を避けて、メットゥギ市場(非公認の露店)が立ち、野菜や生活必需品などが密かに売られているが、穀物を売っている人はさほどいないという。

人々は挨拶言葉のように「食べ物がなくなって餓死しそうだ」と話を交わしている。情報筋の家には前日の夜、近隣に住む女性が食べ物の無心にやってきたが、分けるほどの余裕がなかったため、手ぶらで帰ってもらうしかなかったと述べている。

市場でコメや食料品を扱っていた人たちは、市場が閉鎖されても在庫を食べて生き延びることができるが、他の品物を扱っていた人たちは、食べ物が全くなく、新聞やテレビで宣伝している非常薬や食糧の配給がいつ行われるのか、気にしているとのことだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)慶源(キョンウォン)の情報筋は、現地が稲作地帯であるにもかかわらず、コメはおろか他の食べ物もめったに手に入らないと伝えた。

市場が閉鎖され、コメが買えなくなったため、稲作をやっている外戚の家で購入したが、1キロに6000北朝鮮ウォン(約120円)で購入。ロックダウンと比べて15%ほど上昇しているが、それでも安く売った、今は在庫がなく売れなくなったと言っているとのことだ。

戦時備蓄用の2号倉庫にある食糧を配給するとの話もあるが、依然として行われておらず、人民班長(町内会長)は、食糧が底をついた「絶糧世帯」のために、町内の家々を回ってトウモロコシ500グラムをかき集めて、分け与えたという。

人々の間では、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」が再来するのではないかと不安が広がっている。【6月4日 デイリーNKジャパン】
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【餓死者に加え、農作業にも遅れ 規制を一部緩和】
北朝鮮当局も、さすがに問題を認識して規制措置の緩和に切り替えたようです。

****餓死者発生でようやく一部緩和された北朝鮮のロックダウン****
北朝鮮が、先月12日に新型コロナウイルスの感染者の発生を公式に認めてから続けられてきたロックダウンが、一部緩和されたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平壌市のある幹部はRFAに対し、先月29日正午から、コロナ最大非常防疫体系が部分解除されたと述べた。同時に、全国の道・市・郡に、現地の事情に応じてロックダウンを緩和せよとの指示が下された。

この部分解除とは、居住行政区域内の一定地域内での移動が可能になったことを指す。これにより、近隣の市場、農場、トゥエギバッ(個人耕作地)などへの移動ができるようになった。

部分解除の理由についてこの幹部は「コロナの感染状況が安全に統制、管理される段階に入ったため」だと明らかにしている。その一方で、発熱患者が引き続き発生しており、隔離施設に収容される人も多いことから、安全に統制・管理しているという当局の話は信じられないとも語っている。

ちなみに、今月5日18時からの24時間で全国で報告された発熱患者の数は6万1730人で、ピーク時(先月14日18時からの24時間)の39万2920人に比べると大幅に減っている。ただ、発熱患者を減らせとのプレッシャーが地方幹部にかけられており、処罰を恐れるあまり、過少報告や虚偽報告が行われているのではないかとの疑惑がある。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋も、先月29日からロックダウンが部分解除されたと伝え、理由はともかく、一般市民は市場へ行くなど経済活動ができるようになったため、この措置を歓迎していると述べた。

この部分解除だが、生活に欠かせない地域への移動を認めるもので、自分の畑や市場への移動を禁止され、食べ物が得られずに飢えた末に死亡する人が複数発生したからだと、背景を説明している。
高原(コウォン)炭鉱などの炭鉱、鉱山地域では封鎖令(ロックダウン)で、住民が食糧を入手できず、餓死者が出たと聞いている。市場や穀倉地帯から遠く離れた炭鉱、鉱山地域の食糧不足が深刻だ」(情報筋)
ちなみに全国に先駆けて、一部の地域では部分解除が行われていたが、その理由も餓死者の発生だ。

ロックダウンに伴う餓死者の発生で、街の雰囲気が悪化したことを受けて、中央では部分的に緩和措置を取ったようだと情報筋は見ている。また、発熱患者の減少も理由の一つに挙げている。

一方、5月に入ってから全国的に行われている「田植え戦闘」に、ロックダウンが深刻な影響を及ぼしているために、緩和措置が取られたケースも報告されている。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、先月25日から、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)の殷山(ウンサン)郡の委員長がメンバー全員に対し、郡内の協同農場での田植え戦闘への動員に参加せよとの指示を下したと伝えた。

これは、ロックダウンにより田植えの遅れが深刻なことを受けた中央の指示に基づくものだ。平安北道(ピョンアンブクド)の情報筋も、定州(チョンジュ)で、女盟員と一般住民に田植え戦闘への動員命令が下されたと伝えた。ただ、この時点では、市場への移動は禁じられており、住民から強い不満の声が上がっていたとのことだ。【6月10日 デイリーNKジャパン】
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北朝鮮では「田植え」への住民動員を「田植え戦闘」と称していますが、新型コロナによる行動規制によって作業が遅れており、将来的な食糧不足・飢餓の脅威が高まっています。

****田植えの遅れに焦る北朝鮮、指示乱発に農民から反感****
韓国の慶南大学国土衛星情報研究所のチョン・ソンハク副所長は、韓国デイリーNKへの寄稿で、北朝鮮の田植えの遅れが深刻な水準にある実態を明らかにした。

チョン氏は、去年と今年の5月20日前後に撮影された衛星写真を比較する手法で、昨年は田植え実施率の全国平均が89.1%だったのが、今年は66.8%にとどまっていることを示した。中でも咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸州(ハムジュ)平野の場合、半分しか終わっていない。

それに危機感を持ったのだろう。政府は全国の農場に対して、矢継ぎ早に様々な指示を下している。しかし、農民からは反発の声が上がるばかりだと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)の情報筋は、今年の農作業をきちんと行い、住民の食糧問題の解決に農場員が先頭に立てという中央の指示文が今月2日に下されたと伝えた。

この手の指示文は、今年に入って既に4回以上も下されている。「農業を改善し食糧問題を解決することは、社会主義強国建設の最も切実な課題だ」などといった内容だ。

これに対し現場の農民からは、「国は必要な営農資材を供給してくれないのに、なぜわれわれだけを痛めつけるのか」などと不満の声が上がっている。金正恩総書記は農業第一主義を掲げ、年初から農業の重要性について説き続けている。肥料や営農資材も全面的に保証すると宣伝しているが、現場に届いたものは何一つないという。

情報筋はまた、少雨の深刻さについても語っている。
「今年は近年まれに見るほどの日照りで、田植えをした田んぼですら干上がってしまい、稲の苗が枯れつつある」
「揚水機など営農資材が絶対的に不足している状況で、農民を追い立てたところで農業がうまくいくわけがない」

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋も、現地に中央からの指示文が下されたとして、その貫徹のために地域の党幹部が農場を回って宣伝扇動活動を行っていると伝えた。

この農場では6月に入っても田植えが終わっておらず、毎朝5時に出勤して、朝会に参加しなければならないが、そのたびに幹部が中央の指示文を読み上げるのを聞かされ、成果を出すよう迫られて不愉快な思いをしているという。

中央は「今年は何がなんでも農業を科学技術的に行い、1ヘクタール当たりの穀物収穫を決定的に高めよ」との指示を出しているが、農民たちは「自然条件が整っていないのに、素手で農作業をしろということか」などと、指示を下すばかりで何の援助もしようとしない中央に対して反発しているという。【6月10日 デイリーNKジャパン】
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【国民の生命を無視する独裁・強権政治の愚かさ、恐ろしさ】
国民が飢餓に脅かされ、実際に餓死者もでる惨状、しかも当局からは何ら支援もなく・・・・というなかでのミサイル連射。日本からすれば日本への脅威云々以前の話として非常識の極みですが、それが北朝鮮の現実。

****北朝鮮のミサイル発射費用 「食糧不足」解決額に相当=韓国研究機関****
韓国政府系シンクタンクの韓国国防研究院が9日までに、北朝鮮が今年ミサイル発射に推定4億~6億5000万ドル(約540億~870億円)を費やしたとする分析結果をまとめた。(中略)

国防研究院によると、北朝鮮は年初から6月5日まで17回(放射砲=多連装ロケット砲=除く)にわたり計33発の弾道ミサイルまたは巡航ミサイルを発射した。国防研究院は材料費を2億800万~3億2500万ドルと推定。人件費を発射費用全体の10~30%、その他費用を同10~20%とし、合計で推定4億~6億5000万ドルを要したと分析した。   

国防研究院はこのミサイル発射費用を新型コロナウイルスのワクチン購入費と食糧購入費に換算した。新型コロナワクチンのうち比較的高額の米ファイザー製品を2000万~3250万回分購入できる。北朝鮮の人口2537万人の79~128%が1回は接種を受けられるという計算になる。製薬会社が人道的な観点から好条件で提供すればより多くのワクチンの確保も可能だ。  

ミサイル費用を食糧調達に充てた場合、51万~84万トン分のコメ(平壌での価格を基準)を購入できる。米中央情報局(CIA)は北朝鮮で今年86万トンの食糧が不足するとみているが、この不足分を補うことができる。【6月9日 聯合ニュース】
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国民の生命を無視する独裁・強権政治の愚かさ、恐ろしさです。

【北朝鮮版ウィズコロナで、中朝間貨物列車の運航再開を要請】
前述のように、餓死者の発生、田植えの遅れなどで、さすがに北朝鮮当局も規制を緩和してゼロコロナから北朝鮮版ウィズコロナへ転換しつつもあるようです。

日本メディアによれば、新型コロナ対策から4月下旬ごろに停止された中朝間の貨物列車の定期的な運行についても、北朝鮮は中国に再開を要望しているとか。

防疫対策として列車の往来を止めるよりも、深刻な食料や医療物資の不足の解消を優先するとの判断があるとのこと。

朝鮮中央通信によると、金正恩総書記は8~10日に開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で「国家防疫事業が重大な峠を越え、封鎖を基本とした防疫から、封鎖と撲滅闘争を並行させる新たな段階に入った」との認識を示しており、規制緩和も貨物列車再開要請も、その方向に沿ったもののようです。

ただ、列車再開に関しては、依然としてゼロコロナを続ける中国側が感染流入を警戒しており、列車運行再開は慎重に対処しているとか。
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ドイツ  ウクライナ問題で、武器供与でもエネルギーのロシア依存脱却でも苦慮

2022-06-12 21:53:54 | 欧州情勢
(【2月17日 東京】)

【戦後の原則を転換して武器供与に踏み出したものの、国内外から不十分との批判も】
ウクライナ戦争は食糧危機という形で世界に大きな影響を与えていますが、特に欧州には、フィンランド・スェーデンのNATO加盟やエネルギーのロシア依存からの脱却という、安全保障および経済両面で大きな変動を強いています。

欧州のなかでもドイツはとりわけ大きな変化に直面しています。

武器供与の面では、「紛争地に兵器を送らない」という戦後ドイツの原則を変え「自衛のため」として殺傷兵器の支援を決めたものの、その対応をめぐって国内的にも、またポーランドやウクライナからも不十分さを指摘される状況にもなっており、ショルツ首相は対応に苦慮しています。

ウクライナのドイツに対する手厳しさの背景には、これまでのドイツ、特に首相率いる中道左派与党、社会民主党(SPD)のロシアとの親密さがあります。

***ドイツ首相、支持急落 ウクライナ対応で迷走****
ドイツのショルツ首相がウクライナ侵攻への対応で迷走し、支持率が急落している。8日の地方選では首相の中道左派与党、社会民主党(SPD)がライバルの保守系野党、キリスト教民主同盟(CDU)に大敗した。15日には国内経済の最有力州で議会選を控えており、連立政権内で緊張が高まっている。

最近の世論調査で「首相に満足」とする回答は39%。3週間で12ポイントも下落した。原因は、ウクライナへの兵器供与をめぐる煮え切らない態度にある。

ショルツ氏は2月末、「紛争地に兵器を送らない」という戦後ドイツの原則を変え、「自衛のため」として殺傷兵器の支援を決めた。その後、米国や東欧が軍用ヘリコプターや戦車など大型兵器の供与に乗り出すと、国内外の要求に押される形で4月末、「ゲパルト自走対空砲50台を供与する」と決めた。

すると、ウクライナ側が「ゲパルトは40年前の兵器ではないか」と反応し、戦車と歩兵戦闘車計180台以上の提供を改めて求めた。ショルツ氏は先週、新型自走砲7台の追加供与を決めたが、ポーランドは戦車200台以上を供与する方針とされ、ドイツの慎重ぶりをかえって際立たせた。

ショルツ氏は8日、第二次大戦終結記念日のテレビ演説で、大型兵器の供与を「注意深く続ける」と表明した。しかし、ウクライナのメルニク駐独大使は「具体的な支援策を示してほしかった」と失望感を示した。

ウクライナがショルツ政権に不信の目を向けるのは、SPDとロシアとの固い絆にも原因がある。
東西冷戦中の1970年代、SPDのブラント西独首相はソ連との対話によるデタント(緊張緩和)を主導し、ソ連の天然ガスパイプライン建設を進めた。

98年に就任したSPDのシュレーダー独首相はプーチン露大統領と親交が深く、退任後はロシア国営石油大手の会長に就任。ロシアのロビー活動に協力してきた。ドイツがガスや石油をロシア産に依存するために、欧州連合(EU)は対露制裁でエネルギー禁輸を即時発動するのが難しくなった。

SPDのシュタインマイヤー現大統領は先月、東欧首脳とともに首都キーウ(キエフ)訪問を計画したが、メルケル政権の外相だった際、親露外交を進めたことから、ウクライナ側に拒否された。

ショルツ氏が「これが支援国に対する態度か」と不快感を示すと、CDUのメルツ党首がすかさずキーウを訪問し、SPDの迷走を浮き立たせた。【5月11日 産経】
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なお、ドイツ連邦議会は5月19日、ロシアのエネルギー大手との関係断絶を拒否するシュレーダー元首相から、特権として与えられていた事務所を剥奪すると発表。

結局、シュレーダー元首相はロシアの国営石油大手ロスネフチの監査役会長を辞任することを余儀なくされています。

ポーランドを介した武器供与もスムーズではないようです。

****ポーランドとドイツ、戦車の「埋め合わせ」交渉難航****
ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は24日、同国がウクライナに戦車を送る見返りに、ドイツがポーランド供与すると約束していたにもかかわらず実現していないことに「深い失望」を表明した。

ポーランドは4月、ウクライナに旧ソ連製戦車「T72」を供与したと発表した、数は明らかにしなかったが、200両以上と報じられた。
 
ドゥダ氏はスイス・ダボスで開かれている世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、ポーランドがウクライナに供与した分の戦車を埋め合わせるとドイツが約束していたにもかかわらず、「守るつもりがないと聞き、深く失望している」と述べた。
 
ポーランド軍は独製戦車レオパルト2を約250両保有しており、報道によると、ドイツからの追加提供を期待していた。
 
チェコは先週、ウクライナに送ったT72の埋め合わせとして、レオパルト2の「A4型」を15両受領したと発表した。

独週刊誌シュピーゲルによると、ポーランドはチェコと異なりレオパルト2の「最新型」を求めていた。しかし、最新型は独軍にさえ十分な数がないため、交渉は行き詰まっていた。
 
アナレーナ・ベーアボック独外相は24日、本件について両国が協議していると述べた。ポーランドのズビグニエフ・ラウ外相も、両国は問題解決に向けて努力することで合意したとしている。 【5月25日 AFP】
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上記記事だけ読めば、旧ソ連製戦車「T72」の見返りにレオパルト2の「最新型」を要求するポーランドも強欲な感じもしますが・・・・実際の詳しい話は知りません。

ウクライナからは厳しいドイツ批判が。

****ドイツ ウクライナ軍事支援、口先だけ? 「大型兵器届かず」と大使が不満****
ドイツがウクライナに供与を約束した大型兵器が現地に届いていないとして、ウクライナ側が強い不満を示している。

ウクライナのメルニク駐独大使は10日、民放ラジオのインタビューで、ドイツからの軍事支援について、「ミサイル発射装置、榴弾砲、歩兵戦闘車や戦車といった大型兵器は、ウクライナ側に全く引き渡されていない」と述べた。現地に届いたのは、携帯式の防空ミサイルや地雷、機関銃などだけだと明かし、「ドイツでは政治家の発言と、実際の行動には大きな格差がある」と批判した。

ドイツは4月末、ウクライナへの軍事支援としてゲパルト自走砲50台の供与を決定。その後、自走榴弾砲「パンツァーハウビッツェ2000」7台の供与も発表した。

しかし、独紙ウェルトは、5月末までにドイツからウクライナに武器が届いたのは2度で、いずれも対戦車地雷などの小型兵器だったと報じており、引き渡しの遅れがドイツ国内でも問題になっている。【6月12日 産経】
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【ドイツ経済を支えてきたエネルギーのロシア依存からの脱却にも苦慮】
エネルギーのロシア依存脱却でも、ドイツは厳しい立場に立たされています。

****ドイツはウクライナ危機で「欧州の病人」に逆戻り インフレともう一つ“爆弾”がある****
欧州連合(EU)の経済大国であるドイツがウクライナ危機のせいで苦境に陥っている。

今年第2四半期のドイツがマイナス成長に陥ることが確実視され、欧州委員会も「19カ国から成るユーロ圏の中で今年の経済成長率がドイツより低くなるのはエストニアだけだ」と予測している。ドイツ、エストニア両国はロシアへのエネルギー依存が高いことが災いして経済成長が妨げられるというのがその理由だ。
 
ドイツはEU全体の経常収支の黒字の過半を占めるなど群を抜くパフォーマンスを示してきたことから「欧州で一人勝ち」と長らく言われていたが、再び「欧州の病人」になってしまうとの懸念が生まれている。
 
1990年に東ドイツ(当時)と統合されたことが重荷となって、ドイツは2000年代初頭まで経済が低迷した。「欧州の病人」と揶揄されていたドイツだったが、安価なロシア産エネルギーを確保することなどを通じて経済を再生させたという経緯がある。
 
ロシアのウクライナ侵攻前のドイツのエネルギー消費に占めるロシアのシェアは高く、最も顕著だったのは天然ガスの55%だ。原油は34%、石炭は26%と続く。
 
ドイツには全長50万キロメートルを超えるパイプラインが張り巡らされ、住宅、工場、発電所などにロシアの安価な天然ガスが供給されていた。ドイツでは1970年代から天然ガスの大部分をロシアから輸入するようになったが、このことが問題になることはなく、むしろ、賢明な戦略だとさえ考えられてきた。
 
シュレーダー元首相とその後任のメルケル前首相もロシアからのエネルギー供給の万全を期す対策に取り組んできた。その象徴と言えるのがロシアとドイツを直接繋ぐ海底天然ガスパイプライン(ノルドストリーム)だった。
 
ノルドストリーム1は2011年から稼働を開始し、110億ドルの事業費を投じたノルドストリーム2も昨年9月に完成していたが、ロシアがドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を承認したことを受け、今年2月にドイツのショルツ首相は「ノルドストリーム2の事業の承認手続きを停止する」と発表した。

ノルドストリーム2は稼働する目途が立っておらず、巨額の負債を抱えたパイプライン運営会社の破綻が取り沙汰されている。

残されたエネルギー政策の選択肢は…
ドイツはロシア産天然ガスを「脱炭素」社会への「架け橋」として重要視していたが、ウクライナ危機でその橋は無残にも壊れてしまった。
 
原子力発電や石炭火力発電の活用に消極的なドイツ政府に残された選択肢は(1)新しい天然ガスの供給元を見つけることと(2)再生可能エネルギーへの移行を加速することだ。
 
ロシア産天然ガスの代替として米国やカタールなどが候補に挙がっているが、天然ガスを液体で輸送することになればコストは格段に高くなる。液化天然ガス(LNG)の輸入に必要なインフラが未整備であることも頭が痛い。
 
風力や太陽光などの再生可能エネルギーについては、環境や野生動物保護団体の反対や行政手続きの煩雑さなどが導入の進展を阻む壁となっている。(中略)
 
不動産バブル崩壊の懸念
(中略)
ウクライナ危機の勃発で競争力を失い、不動産バブルが崩壊すれば、ドイツが「欧州の病人」に逆戻りするのは間違いない。欧州の雄であるドイツ経済が絶不調になれば、ユーロ圏全体の危機にまで発展してしまうのではないだろうか。【6月12日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ウクライナは以前から、ドイツがウクライナを経由せず「ノルドストリーム」でロシアから直接ガスを得ようとする動きを快く思っていなかったので、この機会に厳しい要求をドイツにしています。

****ウクライナ、ドイツにノルドストリーム1の停止・輸送量削減要請****
ウクライナ国営ガス輸送システム運営会社(GTSOU)のマコゴン最高経営責任者(CEO)は27日、ドイツ政府に対し、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」経由のガス輸送を停止するか、大幅に削減するよう要請したと明らかにした。

マコゴン氏は国営テレビに対し、「国営エネルギー会社ナフトガスとともに、ドイツ経済省および規制当局にノルドストリーム1の停止を訴える文書を送付した」と述べた。

同氏は、ウクライナは代替経路の提供が可能で、それを望んでいると付け加えた。

ドイツはロシアが2月にウクライナ侵攻を開始したため、対ロ制裁として進行中だった「ノルドストリーム2」の事業計画を停止。同パイプラインの敷設は昨年終了しているが、一度も稼働していない。

ウクライナは、パイプラインの運用は欧州向けガス供給の安全性強化に寄与するという理由でドイツの法の下で許可されているが、ロシアはその原則に違反していると主張している。

マコゴン氏は「ロシアは昨年、作為的なガス不足を起こし、一方的にルーブルでの支払いを求めポーランド、フィンランド、ブルガリアへの供給を停止した。これらは原則に反している」と発言。さらにウクライナを侵攻していると批判した。【5月30日 ロイター】
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これまでのドイツ経済を支えてきたエネルギーのロシア依存からの脱却に直面するドイツは、いよいよ困った際には「禁断」の石炭にも手をつける覚悟のようです。

****独、休止予定の石炭火力発電所利用へ ロからのガス供給途絶備え****
ドイツ政府は、ロシアからのガス供給が途絶えた場合に備え、今年と来年に休止するはずだった石炭火力発電所を予備施設として利用することを計画している。2024年3月31日までの措置。経済省関係筋が24日に明らかにした。

この計画への参加は任意であり、事業者は燃料を準備し、必要な技術支援を提供するために公的資金から補償を受けることになる。

関係筋は、石炭火力発電所の準備を整えておくことは発電所からの炭素排出増を意味せず、2030年までに発電に石炭を使わないというドイツ全体の目標も変更ないと強調。また、石炭火力発電はガスに比べて比較的安価であるため、この計画は電力価格を上昇させないとも述べた。【5月24日 ロイター】
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武器供与にしてもエネルギーにしても「大変」なドイツです。それだけに「とにかく早く停戦を」というのが本音でしょう。
そのたりで、「ロシアの脅威がなくなるまで徹底的にやるべき」というバルト3国やポーランドとの立場の違いにもなります。
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日本  停滞・衰退する日本経済・社会 「衰退途上国」との指摘も

2022-06-11 23:02:18 | 日本
【衰退途上国であり発展停滞国】
****日本が12回目の安保理入り、外務副大臣「国際秩序の維持と強化目指す」****
日本が国連安全保障理事会の非常任理事国に来年から2年の任期で選出された。これを受け、小田原潔・外務副大臣は9日、国連本部で記者団に、「法の支配に基づく国際秩序の維持と強化を目指していく」と抱負を語った。(中略)

日本は加盟国では最多の12回目の非常任理事国を務める。国連総会で9日に行われた非常任理事国の改選ではマルタ、スイス、エクアドル、モザンビークも選出された。モザンビークと、2002年に国連に加盟したスイスの安保理入りは初めて。【6月10日 読売】
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安保理の理事国の資格といわゆる「国力」は別物ですし、実際、マルタ、スイス、エクアドル、モザンビークなどが選出されるのであれば、日本が選出されるのは何ら問題はないでしょう。

一方で、かねてより日本は「常任理事国」入りを悲願としてきました。
しかし、現実国際政治において「常任理事国」となると、世界への影響力、いわゆる「国力」的なものが要求されます。

20年前、30年前ならともかく、今の日本にそのような「力」があるのか?と問えば、はなはだ疑問のようにも思えます。

「失われた20年、30年」を経て、今や日本は「衰退途上国」になっているとの指摘も。

****20年でGDP世界順位を26位も落としている日本はもはや後進国なのか?****
国内総生産(GDP)はアメリカ、中国に次ぐ第3位に位置する日本。この順位だけ見れば豊かな国と思われがちですが、平均的な豊かさを示す指標として使われる、GDPを人口で割った「一人当たりGDP」でみれば日本は30位。深刻化していることがわかります。(中略)

20年で2位から28位に転落
バブル経済が崩壊した1990年、日本の1人当たり国内総生産(GDP)は2万5,896ドルで世界8位だった。韓国は6,610ドルで42位、日本との差は4倍あった。

2000年、日本の1人当たりGDPは3万9,173ドルで世界2位まで上昇した。韓国は1万2,263ドルで10年ぶりに2倍増えたが、世界順位は35位だった。日本との差も3倍を超えていた。

2021年、日本の1人当たりGDPは3万9,340ドルで世界28位、韓国は3万3,801ドルで世界30位だった。韓国が日本を目前に追い上げることができたのは、1人当たりGDPが20年間で3倍近く増えたためでもあるが、日本の停滞が深刻だったのがより大きかった。

2012年、4万9,175ドルまで増えた日本の1人当たりGDPは、9年ぶりに19%減少した。世界順位が20年ぶりにこのように墜落した国は先進国の中で日本が唯一だ。
世界3大経済大国、先進7か国(G7)の一員である日本内部でさえ、「あっという間に後進国になった」(2021年4月9日、日本経済新聞)や「衰退途上国であり発展停滞国」(寺崎彰情報通信振興会理事長の2021年産経新聞寄稿文)という嘆きが出る理由だ。

国内総生産(GDP)の256%まで増え、G7の中で断然最悪の国家負債比率は、日本の未来も明るくないことを警告している。

デジタル技術力順位27位(韓国8位)、電子政府順位14位(韓国2位)、総合国家競争力順位31位(韓国23位)など未来競争力部門で日本は到底先進国とは言えない成績表をひっさげている。

国際連合(UN)の2021年持続可能な発展達成度でも、日本は19位(韓国27位)と毎年順位が下がっている。
日本経済新聞は「中国がリードしている第5世代(5G)通信規格競争には参入できず、特技だった半導体は米国・韓国・台湾に遅れをとった」として「電気自動車転換がかなり遅れたうえに新再生エネルギー分野は欧州・中国との格差が大きく広がった」と指摘した。

福島原発事故を経験しても「環境後進国」のレッテルを免れなかったという自省も出ている。日本は世界5位の二酸化炭素排出国だが、時代の潮流である脱石炭社会の実現を宣言したのは120番目だった。

1975〜1989年、世界で2番目に多くの新薬を開発した「バイオ強国」の地位を失って久しい。新型コロナウイルス感染症のワクチンを独自開発することに失敗し、日本のワクチン接種率はしばらく世界100位圏に留まった。

日本の近代化と経済成長を牽引した主役と評価される「教育競争力」も揺れている。文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、日本の人口100万人当たり博士号取得者は2008年131人から2018年120人に減った。
100万人当たり博士号所持者が約400人の英国と300人余りのドイツ、韓国、米国を大きく下回った。主要国の中で博士の割合が減った国は日本だけだった。

先進国の脱落を阻止しようと躍起になる日本の足を引っ張るもう一つの後進性は男女格差だ。2021年の世界経済フォーラム(ダボスフォーラム)男女平等指数で、日本は120位(韓国102位)とアラブ諸国を除けば最下位圏だった。

日本の女性国会議員(衆議院基準)の割合は9.67%で世界165位だ。女性医師(21.9%)、判事(22.6%)、学校長(16.4%)の割合も先進国と大きな格差を見せている。

日本の男性労働者の非正規職の割合が22.2%であるのに対し、女性労働者の54.4%が非正規職だ。女性の賃金水準は男性の77.5%で、経済開発協力機構(OECD)平均の88.4%を大きく下回る。

経済官僚出身で2020年まで5年間、日本銀行政策委員会審議委員を務めた原田豊教授は最近、韓国経済新聞とのインタビューで「今日の日本は清朝末期に似ている」と話した。原田教授は「清はアヘン戦争敗北以後70年間何もしなかったが、1911年の辛亥革命で滅亡した」とし、「まともに帰ることのない日本も何もしないまま衰退している」と語った。(後略)【6月10日 MAG2NEWS】
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GDP関連の指標については、現在急激に進んでいる円安の為替レートが反映されると、ドル換算ではさらに深刻・急激な落ち込みになるのでは。

もちろん国力なり国の状態を表す指標はGDPのようなフローの数字だけではありませんので、いろんな角度からみたら「まだまだ日本の力は・・・」という指摘も多々あるのでしょう。

ただ、上記記事にもあるようなIT関連の成長力、教育の現状など経済・社会の多くの面で、あまり楽観的になれない現実があるのも事実でしょう。

【衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?】
それにしても「衰退途上国」・・・・(勘違いだったにしても)「ジャンパン・アズ・ナンバーワン」(社会学者エズラ・ヴォーゲルによる1979年の著書)という言葉が飛び交った時代を知る者としては隔世の感があります。

もちろん、成長することが目的ではなく、要は国民が幸せに暮らせるなら別に「発展停滞国」でもかまわないのですが、現実問題としては、成長で得られるパイの拡大がないと、格差などの内部の歪、国民の間の利害対立は解決が難しく、より深刻なものになりがちです。

上記【MAG2NEWS】では、日本の現状は清朝末期に似ているとの指摘がありますが、かつての豊かな先進国から急速に衰退した南米アルゼンチンになぞらえる指摘も。

****日本が「先進国脱落」の危機にある理由、衰退国家アルゼンチンの二の舞いに?****
19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落したアルゼンチン。日本も同じ道を辿るのか
アルゼンチンは19世紀以降の世界で唯一、先進国から脱落した国家として知られる。農産物の輸出で成長したが、工業化の波に乗り遅れ、急速に輸出競争力を失ったことがその要因だ。国民生活が豊かになったことで、高額年金を求める声が大きくなり、社会保障費が増大したことも衰退につながった。

時代背景は違うが、似た現象が起きているのが現代の日本である。IT化の波に乗り遅れ、工業製品の輸出力が衰退しているにもかかわらず、社会は現状維持を強く望んでいる。この状況が続けば、アルゼンチンの二の舞いになっても不思議ではない。

かつて対照的な立場にあった日本とアルゼンチンだが…
このところ、「日本が先進国の地位から脱落するのではないか」との指摘をよく耳にするようになってきた。数年前からこの問題に警鐘を鳴らし続けてきた筆者としては、世間が現状を正しく認識するようになったことは高く評価できる。
 
だが、国家が一度落ちた経済力を復活させるのは極めて難しいのも事実であり、日本はまさに転落の瀬戸際にある。先進国の地位から脱落した国がどうなってしまうのか、唯一の先例であるアルゼンチンを参考に考察してみたい。
 
社会の近代化が急速に進んだ19世紀以降、先進国として豊かな社会を形成していた国がその地位を失うケースは極めて珍しい。
 
近代資本主義社会は先行者に圧倒的に有利なシステムであり、欧米を中心に一足先に近代化を実現した国は当初から豊かで、その後も豊かな社会を持続している。後発の国はなかなか豊かになれず、先行した国が脱落することもなかった。
 
だが、この常識に当てはまらない国が世界に2つだけある。それが日本とアルゼンチンである。
 
景気循環論で有名なノーベル賞経済学者サイモン・クズネッツは「世界には4つの国がある。先進国と途上国、そして日本とアルゼンチンだ」とジョークを飛ばしたといわれる。アルゼンチンの衰退と日本の成長が異例という意味だが、今では皮肉なことに、後述する理由によって、日本がアルゼンチンに続いて衰退しようとしている。

アルゼンチンの経済規模はタイやマレーシアと同程度
両国の経済レベルに目を向けると、現時点におけるアルゼンチンの1人当たりGDP(国内総生産)は約1万ドルで、日本の4分の1である。東南アジアの新興国としては比較的豊かな部類に入るタイは約7800ドル、マレーシアは1万1000ドルなので、アルゼンチン経済は豊かな新興国と同水準と考えれば分かりやすいだろう。
 
だが、戦前のアルゼンチンは今よりもはるかに豊かであり、先進国とみなされていた。1910年におけるアルゼンチンの1人当たりGDP(90年ドル換算)は3822ドルと、英米仏独4カ国の平均値である4037ドルとほぼ同じ水準となっており、旧宗主国であるスペイン(2175ドル)を大幅に上回っていた。(中略)

戦前のアルゼンチンは日本よりも圧倒的に豊かであり、欧米先進国と同等かそれ以上の生活水準だった。ところが、欧米各国が戦後さらに成長ペースを加速させたのとは対照的に、アルゼンチンの成長は一気に鈍化し、今では完全に衰退国となっている。(中略)

日本とアルゼンチンの状況は実はよく似ている
アルゼンチンと日本は時代背景も産業構造も異なるが、衰退のプロセスはよく似ている。
日本経済は戦後、工業製品の輸出で経済を成長させたが、90年代以降、日本の輸出競争力は急激に衰えた。世界全体の輸出に占める日本のシェアは80年代には8%とドイツに並ぶ水準だったが、現在ではわずか3%台にとどまっている。

日本の製造業が凋落した最大の原因は、全世界的な産業のパラダイムシフトに乗り遅れたことである。90年代以降、ITが急激に進歩し、世界の主力産業は製造業から知識産業に移行したが、日本はこの流れを見誤り、ハード偏重の従来型ビジネスに固執した。

IT化の波に乗り遅れたという点では、国内のサービス産業も同じである。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本におけるIT投資水準は横ばいで推移する一方、米国やフランスは投資額を約4倍に増やしている。

IT化が進まないと業務プロセスのムダが温存され、生産性が伸びない。IT投資を成功させるためには人材投資も並行して行う必要があるが、日本企業における人的投資の水準は先進諸外国の10分の1しかなく、状況をさらに悪化させている。
 
豊かになった国民が社会保障の維持を強く求めていることや、競争力の低下に伴う国産化(工場の国内回帰)への過度な期待、ナショナリズムの勃興など、アルゼンチンと日本の共通点は多い。

日本がこのまま手を打たなければアルゼンチンの二の舞いになる
では、日本がこのまま何も行動を起こさず、アルゼンチンと同じ道のりをたどった場合、私たちの生活はどうなるだろうか。結論から言えば、貧富の差が広がり、激しい格差社会になる可能性が高い。
 
先ほど、現在のアルゼンチンの生活水準は、豊かな東南アジアと同程度であるという話をした。タイやマレーシアの人たちは、今ではかなり豊かな生活をしているので、この程度であれば悪くないと思った人もいるだろう。だがそれは、あくまでも表面的な印象にすぎない。
 
日本がアルゼンチンと同程度まで経済が衰退したとしても、相応の仕事に就き、平均以上の年収を得ている人にとっては、何とか我慢できる生活水準かもしれない。だが、平均値の低下は、大抵の場合、格差の拡大と同時並行で進んでいく。
 
アルゼンチンは経済の低迷によって何度も年金制度の再構築を余儀なくされている。経済が低迷すると、最初に打撃を受けるのは貧困層や高齢者である。
 
国民の所得格差を示すジニ係数を見ると、現在のアルゼンチンは0.43となっており、00年には社会不安の危険水域とされる0.6に近づいたこともある。日本は0.33だが、このまま衰退が続いた場合には、数字が悪化するのは確実だろう。
 
また、日本の相対的貧困率は15.7%と先進国としては突出して悪い数字になっていることはよく知られている。統計が異なるが、アルゼンチンはコロナ危機前の段階で20%台後半となっており、コロナによってさらに悪化したといわれる。
 
アルゼンチンの場合、非正規労働者や自営業の比率が高く、こうした人たちは社会保障の枠組みに入っていない可能性が高い。日本においても同様に、時代に合わない年金制度や非正規社員の増加、貧困化の進展や格差拡大などが問題視されている。これらを放置すれば、日本はよりアルゼンチンに近づくことになる。
 
仮に日本が衰退しても、「豊かなアジア各国と同水準なら良し」とするのか、「激しい格差社会になり果てるのは到底受け入れがたい」と考えるのかは、人それぞれかもしれない。だが平均値の低下というのは、目に見えない部分で、国民に相当な苦難をもたらすことは確かだ。【2月7日 加谷珪一氏 DIAMONDonline】
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【社会の内向きベクトル マスク依存症的現状もそのひとつのようにも】
経済・社会制度に関する議論は多々あるところでしょうが、話は飛躍しますが個人的には、日本が全世界的な産業のパラダイムシフトに乗り遅れている背景としては、「安心・安全」信仰で新しいもの、リスクを伴うものへのチャレンジに消極的な日本社会の風潮があるように考えています。

いつまでもマスクにしがみつく現在の状況も、そんな内向きベクトルのあらわれのひとつのようにも。

****マスクなしの素顔が恥ずかしい? 長引くコロナ、子どもに「依存」広がる懸念 専門家「発育妨げる」弊害訴え****
長期の新型コロナウイルス流行でマスク着用が常態化し、素顔を見せることを恥ずかしがる子どもが増えている。専門家は「コミュニケーションの発達や不登校に影響しかねない」と懸念し、子どものマスク着用の弊害を訴える。

◆オンライン授業なのにマスク着用
3月、東京都内の母親(29)は自宅でオンライン授業を受ける小学4年の娘(10)を見て不思議に思った。自宅ではふだんマスクを外し、以前はオンライン授業も素顔で参加していたが、この時はマスクを着けていた。理由を聞くと「みんな着けているから何となく」。画面の子どもの半数がマスク姿だった。
 
母親は「外でマスクを外していいと伝えた時も娘は恥ずかしがった。以前より素顔をさらすのが不安になっている」と心配する。
 
調査会社「日本インフォメーション」が2月、10~60代の会員約1000人を対象にインターネット調査を実施したところ、「コロナ収束後もマスクを使用するか」との質問に対し、10代は男女ともに約5割が「いつも必ず使用」か「できるだけ使用」と答えた。
 
理由は、10代女性では「かわいい、きれい、かっこよく見える」が最も多く、感染対策と関係がなかった。実際、東京・原宿で尋ねると、女子高校生(17)は「素顔を見せられるクラスメートは5人くらい。今さら外せない」と苦笑した。

◆「マスク依存」はコロナ前からある
「マスク依存の子どもが増えている可能性がある」と警告するのは、赤坂診療所(東京都港区)でマスク依存の患者を診てきた精神科医の渡辺登さんだ。

従来のマスク依存について「人前に立つことを極度におそれる『社会不安障害』のある方らが、表情を隠すために着用していた」と説明する。依存に陥ると意思疎通が難しく、孤立して不登校や引きこもりになるリスクが増えるという。
 
広島県の男子大学院生(23)はコロナ禍前にマスク依存を経験した。「高校入学時に花粉症対策で着用したら、表情を隠せる安心感で外せなくなった」と振り返る。「コミュニケーションに困る」と悩んだ末、大学進学を機に自力で脱却した。国民のほとんどがマスク姿の現状には「望まずに依存する人が増えないでほしい」と願う。
 
渡辺さんは「子どもは顔にコンプレックスを抱えている場合も多い。感染対策のはずが、素顔を隠すことに利点を持つと、将来マスクを外せなくなりかねない」と強調。「感染リスクがない時はできるだけ外させた方がいい」と指摘した上で、「着用をやめるタイミングを政府が示してほしい」と求める。【5月10日 東京】
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