孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  今更ながら銃規制強化問題 議会立法“絶望視” 最高裁、更に後退判断の見通し

2022-06-10 22:19:32 | アメリカ
(全米射撃スポーツ財団(NSSF)によると、アメリカにはテキサス州ユバルデ市内の小学校銃乱射事件で使われたAR-15と同じ型式のライフルが2000万丁も出回っている。
スイスの調査機関スモール・アームズ・サーベイによると、アメリカの一般市民が所有する銃の総数は3億9300万丁で、アメリカの人口(約3億3000万人)を上回っている。【6月3日 BUSINESS INSIDER】)

【“今更の話”ではあるが・・・】
銃社会アメリカの問題は今更の話で、事件が多発すること以上に、そうした事態でも全く改善が進まないことが「信じられない」と言うしかないのですが、“今更の話”でスルーするのも現状を認めたような感もあるので、これまでと同じような話を今回も。

このところアメリカ国内に関するニュースの相当割合が銃乱射に関するもの。

最近急に増えたというより、事件はこれまでも今でも同じように起き続けていますが、5月24日、テキサス州ユバルデ市内の小学校で18歳の男が自動小銃を持って教室内に侵入、児童19人、教員2人らを射殺した衝撃的な事件が起きたせいでメディアの関心が銃の問題に多少なりとも向いているせいでしょう。

最近の銃乱射事件は・・・

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 5月14日、ニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットに18歳の白人男が買い物客を装って訪れ、いきなり所持していたライフル銃を所かまわず発砲、買い物中だった住民10人が死亡、3人が重軽傷を負った。男は、白人至上主義者として知られ、普段から、黒人、ヒスパニックに反感を持っていたという。

 5月24日、テキサス州ユバルデ市内の小学校で、18歳の男が自動小銃を持って教室内に侵入、何の警告もなしにいきなり乱射に及び、児童19人、教員2人らを射殺。犯人はかけつけた警察隊との銃撃戦で間もなく死亡したが、現場には持ち込んだ1600発以上の銃弾と60個の弾倉が残されていた。

 5月31日、同じテキサス州ウェーコの市街で、見知らぬ男が通行人らにライフルで発砲、女性1人を含む4人が被弾、そのうちの1人が病院で危篤状態となった。犯人はそのまま逃走、警察は行方を追っている。 

 6月1日、オクラホマ州タルサ市のメディカルセンター・ビルに車で乗り付けた男が、乳がん治療患者病棟になっている2階に駆け上がり、ライフルとピストルの両方を振りかざしながら乱射を続けた。患者や医療関係者ら4人が死亡したほか、数人が重軽傷を負う騒ぎとなった。

 6月2日、アイオワ州エイムズ市で、教会礼拝の最中に、目の前の駐車場で銃撃があり、容疑者とみられる男を含む3人が死亡した。【6月8日 WEDGE】
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“公営放送「NPR」の集計によると、全米各地における銃乱射事件は今年1月からの5カ月間だけで212件、公立学校を巻き添えにした事件だけでも、27件にも達し、多くの無実の市民が犠牲になっている。”【同上】

更に事件は増え続けています。

****米フィラデルフィア・テネシー州で銃撃、計6人死亡・25人超負傷****
 米東部ペンシルベニア州と南部テネシー州で4日から5日にかけて銃撃事件が相次ぎ発生し、少なくとも6人が死亡、25人以上が負傷した。警察当局が5日、明らかにした。(後略)【6月6日 ロイター】
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****米でまた銃犯罪、メリーランド州の工場で3人死亡 容疑者拘束****
米メリーランド州北部スミスバーグの工場で9日、銃撃事件が発生し、少なくとも3人が死亡、4人が重傷を負った。容疑者は警察との銃撃戦の末に拘束された。(後略)【6月10日 ロイター】
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乱射ではありませんが、痛ましい子供による“誤射”も多発しています。

****2歳児が銃を誤射、父親死亡 米フロリダ州*****
米フロリダ州で先月、両親が放置していた、弾丸が入った銃を2歳の男児が誤って撃ち、父親が死亡する事故があった。地元当局が6日、明らかにした。
 
事故が起きたのは先月26日。オーランド近郊の現場に警察が駆け付けると、男児の母親が蘇生を試みていた。父親は病院に搬送されたが、間もなく死亡した。
 
裁判所に提出された文書によると、父親は銃を入れたかばんを床に置きっぱなしにしていた。男児が偶然銃を手に取り、パソコンでゲームをしていた父親の背中を撃った。
 
一家は両親と、生後5か月の女児を含む子ども3人の5人家族。事故当時、全員が部屋にいたという。
オレンジ郡のジョン・ミナ保安官によると、両親は、育児放棄や薬物使用など複数の罪で保護観察中だった。 【6月7日 AFP】
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どの事件にしても、日本でひとつでもこんな事件が起きれば社会を震撼させるのですが、アメリカでは文字通り“日常茶飯事”。

【規制強化を求める世論はあるものの、議会で規制強化が進まない現実】
バイデン大統領は銃規制強化の必要性を訴えてはいますが、問題は銃規制強化が進まないこと。もっと言えば、国民の多くは銃規制強化を一定に支持していますが、議会は別の論理で動いていること。

****バイデン大統領「教室がキリングフィールドに」 銃規制強化の立法化訴える****
バイデン米大統領は2日、テキサス州ユバルディの小学校で児童と教師21人が殺害された銃乱射事件など多発する銃暴力・犯罪を受けてホワイトハウスで国民向けに演説した。「あとどれだけの虐殺を受け入れようというのか」と述べ、殺傷力の強い銃器の購入最低年齢の引き上げや銃購入者の身元調査の徹底など銃規制強化を早急に立法化するよう訴えた。(中略)

バイデン氏は1日夜の高視聴率時間帯「プライムタイム」を選び、こうした銃乱射の地名や犠牲者数に言及しつつ「毎日どこかの場所がキリングフィールドになっている」述べ、「われわれは今何かをしなければならない」と、子供ら罪のない犠牲を食い止めるため国民的行動を迫った。

バイデン氏は「ユバルディやバファローの遺族がわれわれにしなければならないと話したこと」として殺傷力の高い銃や高容量の弾倉の販売禁止が必要と指摘。困難な場合は購入最低年齢を18歳から21歳に引き上げるべきだとし、銃製造業を法的責任から守る免責廃止なども急務と訴えた。

バイデン氏は、憲法修正第2条(銃を保有・携行する権利)を盾に銃規制強化に抵抗する共和党議員らに対して「第2条は無制限ではない」「共和党上院の過半数は最近の致命的銃乱射の後でさえ立法措置を取りたがっていない」と批判した。

一方、米疾病対策センター(CDC)の発表によると、銃に起因する子供の死亡が近年増加を続け、2020年に、交通事故を越えて19歳以下の最大の死因となったという。

一方、下院司法委員会は1日、「銃から子供を守る法律」として緊急提案された銃規制法案の審議を開始した。上院では、2012年に児童ら26人が殺害されたサンディフック小学校銃乱射事件のあったコネティカット州選出のマーフィー、ブルメンソール両上院議員らが中心となり共和党の一部議員と超党派の協議を開始した。【6月3日 産経】
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****米国民の大半が銃規制強化支持、議会対応には確信弱く=調査****
25日に発表されたロイターとイプソスの世論調査で、米国民の大半が銃規制法の強化を支持する一方、一連の銃乱射事件を受けても議会が対応するとの見方は多くないことが分かった。

調査は940人に実施。前日にはテキサス州の高校で21人が死亡した乱射事件が起きたほか、14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されている。

調査では、回答者の84%が全ての銃器販売での経歴調査を支持。公共の安全に脅威とされる人物の銃を差し押さえる「レッドフラッグ法」を支持した回答者は70%だった。

さらに、銃購入が可能となる年齢を18歳から21歳に引き上げることに賛成する回答は72%だった。

こうした政策は民主党、共和党で一応に大半が支持しており、これまでに公表された調査結果と一致している。

しかし、大半の回答者は議会が行動するとは考えておらず、年内の銃規制法強化を確信しているとの回答が35%にとどまったのに対し、その確信はないとの回答は49%だった。【5月26日 ロイター】
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銃規制強化に踏み出せない議会(特に、共和党)に関して、バイデン大統領は「全米ライフル協会(NRA)が共和党を脅しているからだ」とも批判しています。

****米共和党、全米ライフル協会に脅されている=バイデン大統領****
バイデン米大統領は8日、深夜のトーク番組に初めて対面で出演し、銃規制が進まないのは全米ライフル協会(NRA)が共和党を脅しているからだと発言し、この問題を11月の中間選挙の争点とすべきだと呼びかけた。

バイデン氏は、共和党がNRAに脅されており「合理的な銃規制に賛成すれば予備選で敗退する」と考えるようになっていると指摘。

追加で大統領令を出すことを検討しているが、トランプ前大統領のように大統領令を多用すれば「憲法の乱用」になり、多用は望まないと述べた。(後略)【6月9日 ロイター】
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意地の悪い言い方をすれば、バイデン大統領としては苦戦が予想されている中間選挙に向けて、比較的国民の支持が高い銃規制問題を前面に出すことで形勢挽回を図りたい思惑でしょう。

議会も何もしていない訳でもありませんが・・・・

****銃規制法案がアメリカ下院で可決 党派対立で成立は見通せず****
銃による殺害事件が相次いでいることを受け、アメリカ議会下院で銃を購入可能な年齢を引き上げることなどを盛り込んだ銃規制法案が可決しました。ただ、成立のメドはたっていません。

アメリカ議会下院で8日に可決したのは「子どもたちを守る法案」と呼ばれる銃規制法案で、▼半自動小銃を購入可能な年齢を18歳から21歳に引き上げることや、▼多数の弾薬を装填できる弾倉の販売を禁止することなどが盛り込まれています。

激しい党派対立の中、与党・民主党の議員のほとんどが賛成票を投じたほか、銃規制に慎重な立場を取る野党・共和党からも5人が賛成し、可決しました。

下院の公聴会では8日、テキサス州の銃乱射事件の現場にいた女子児童が犯行の様子を証言するなど、被害者や遺族らが銃犯罪への対策の必要性を訴えていました。ただ、与野党の勢力が拮抗している上院では可決は難しいとの見方が優勢で、与野党による妥協点を見つけるための協議の行方が注目されています。【6月10日 TBS NEWS DIG】
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上院可決は“メドが立っていない”と言うより“上院での可決は絶望視されている”【6月9日 共同】
上院で可決できないのは、民主党内にも規制強化反対議員がいるということでしょう。

それでも、中間選挙で民主党としては「共和党の反対で規制強化が進まない」というアピールを強めたいという戦略でしょう。

【保守化した最高裁 殺傷力の強い銃砲を着衣の下に隠して携行することを認める見通し】
議会だけでなく、トランプ前大統領の判事任命で保守化した最高裁も銃規制強化には後ろ向きです。

****銃規制に背を向ける米最高裁のあきれた〝見識〟****
(中略)
だが最近、それ以上に大きな話題になっているのが、本来、公正中立のはずの連邦最高裁の動きだ。

 米政治メディア「The Hill」は先月30日、連邦最高裁が今月中にも、殺傷力の強い銃砲を着衣の下に隠して携行することなどを厳格に規制してきたニューヨーク州法について、「国民の武器所有権を保証した連邦憲法違反」との裁定を下す見通しだ、と報じた。(中略)

この点に関連して、銃砲所持問題に詳しいカリフォルニア州立大学のアダム・ウインクラー法学部教授は「最高裁が具体的にどこまで踏み込んだ判断を下すか不明だが、一点だけはっきりしていることがある。それは、相次ぐ無差別銃撃事件がますます政治問題化する中で、(最高裁の結果が)連邦議会による銃規制法制化のオプションを奪い取ってしまうことになるという事実だ」と厳しい批判のコメントを出している。

また、デューク大学「銃砲規制法センター」のジョセフ・ブローチャー法学部教授も「これまで、銃砲規制問題をめぐる主たる関心は、連邦議会が、銃砲のタイプも含めどの程度まで所有や携行を容認するかが対象だった。しかし、最高裁が決め打ちすることになれば、銃砲規制のためのいかなる議員立法も無意味なものとなる」と強く警告した。

銃規制だけでない最高裁の政治的な判断
最高裁が、銃規制強化を求める国民の大半の声や専門家の批判に逆らってまでこうした強気の判断に踏み切ろうとする背景には、前政権当時、トランプ大統領が任命し、上院審議で僅少差により承認されたブレット・カバノー、エイミー・バレット両判事に加え、超保守派で知られるサミュエル・アリト判事ら共和党系判事が、かねてから憲法修正第2条をタテに銃規制に反対態度を貫いてきたことが挙げられる。

このうち、カバノー、バレット両判事は、全米に絶大な影響力を持つ「全米ライフル協会」(NRA)との近い関係が以前からうわさわれてきた人物だ。

しかし実は、トランプ前政権以来、公正中立のはずの連邦最高裁が、このように政治色を強めてきたのは、銃規制問題だけに限ったことではない。

全米女性の重大関心事である妊娠中絶問題についても、最高裁は近く、中絶を「合憲」としてきた以前の最高裁判断を覆す裁定を下すものとみられ、大騒ぎとなっている。(中略)

それにもかかわらず、最高裁があえて国民多数の声を無視してまで「禁止」に傾きつつあること自体、司法の最高組織である最高裁が、保守基盤に支えられた共和党イデオロギーの〝温床〟になりつつあることを示している。

下降する最高裁への信頼、三権分立の危機に
この結果、最高裁に対する国民の信頼度も低下しつつある。

伝統ある世論調査機関「ギャラップ」が毎年実施してきた米国の「組織・団体・機関」に対する信頼度調査結果(2021年度)によると、「最高裁を信頼する」と回答した成人は、全体の36%にとどまり、「中小企業」(70%)、「軍隊」(69%)、「警察」(51%)などよりはるかに下回った。

2000年度の同調査では、「最高裁」に対する信頼度は50%に達していたのと比べ、ここ数年、国民の信頼を失いつつあることを示している。これには特に、トランプ前政権当時、同大統領お気に入りの判事3人が最高裁入りしたことが関係していることは、明白だ。

前政権以来、政党間対立色を濃厚にしてきた行政府、立法府に加え、民心からますます離れつつある最高裁――。合衆国が建国以来、誇ってきた三権分立制度は、今まさに危機に直面しつつあると言ってもいいだろう。【6月8日 WEDGE】
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世の中にはいろんな人物がいますので、保守化する最高裁に対し、判事の命を狙うような人物も。

****米最高裁判事「殺そうと」男性を拘束 中絶の合憲性覆す原案に立腹か****
米東部メリーランド州で8日、連邦最高裁のカバノー判事の自宅近くで、銃や刃物を所持した男が警察官に拘束された。米メディアが報じた。男は「カバノー氏を殺害しようと思った」と供述したという。

最高裁では人工妊娠中絶を巡る訴訟の審理が大詰めを迎えている。5月上旬に中絶を合憲とする判例を覆す内容の判決原案が報じられた後、カバノー氏ら中絶に否定的な保守派判事の自宅周辺で抗議活動が起き、当局が警備を強化していた。(後略)【6月9日 毎日】
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もし、最高裁判事が銃乱射で殺害されても、「悪いのは銃ではなく、精神を病んだ人間だ。規制強化ではなく警備強化で対応すべき」という話になるのでしょう。

新疆ウイグル自治区における中国の人権弾圧を批判するアメリカに対し、中国は“米テキサス州の小学校で21人が殺害された銃乱射事件に絡み対米批判を強めている。共産党機関紙、人民日報系の環球時報は31日付の社説で「米政府が、自国の重大な人権問題を具体的な行動で解決するよう求める」と主張した。”【5月31日 産経】とのこと。

中国の主張にも一分の真実があります。

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ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 黒海港湾からのウクライナ食糧輸出再開などトルコ仲介で協議

2022-06-09 23:10:36 | 食糧・飢餓
(ソマリアの首都モガディシオで小麦粉を買う女性ら。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、アフリカ地域では小麦粉の値段が45%上昇している(5月26日、AP)【6月4日 読売】)

【ウクライナ発の食糧危機 世界94か国、およそ16億人が影響を受けている】
ウクライナでの戦争は当事国だけでなく世界全体に多大な影響を及ぼしていますが、現在(というより、侵攻当初からですが)喫緊の課題となっているのが食糧危機の深刻化。

ロシアとウクライナの小麦供給量は合計で世界の約3分の1を占めているほか、ウクライナはトウモロコシ、大麦、ヒマワリ油、菜種油の主要輸出国。また、農作物の肥料に使われるカリウム(ポタッシュ)の世界的な供給ではロシアとベラルーシが合計で40%以上を占めています。

****ウクライナ侵攻で食糧危機深刻化 「世界で16億人が影響」と国連発表****
国連はウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機をめぐり、世界で16億人が影響を受けていると発表しました。

国連 グテーレス事務総長「この戦争は他の危機とあわさり、社会的・経済的混乱を招くような前例のない飢餓や貧困の波を引き起こすおそれがある」

国連は8日、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす食糧やエネルギー、金融危機に関する報告書を発表しました。

この中で、世界94か国、およそ16億人が影響を受けていると指摘。ロシアによる黒海の海上封鎖で、世界有数の穀物輸出国であるウクライナの穀物が輸出できないことが要因の1つとしています。

グテーレス事務総長は、戦時であっても「ウクライナ産の食糧やロシアが生産する肥料が、世界の市場に戻されなければいけない」と強調しました。【6月9日 TBS NEWS DIG】
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【アフリカ連合議長国 穀物輸出「制裁対象から外すべき」】
もともと食糧事情が悪いアフリカや、ウクライナ・ロシアからの食糧輸入に頼る中東などでの影響が特に大きいと見られていますが、そのアフリカ連合(AU)議長国セネガルのサル大統領が6月3日、ロシアを訪問してプーチン大統領とロシア南部ソチで会談し、食糧供給事情の改善を訴えました。

私はてっきり、ロシアに苦情を申し入れに行ったのか・・・と思ったのですが、そんな会談をプーチン大統領が受けるはずもなく、実際のところはサル大統領はロシア産穀物を制裁対象から外すべきとのロシアの主張に沿った考えで、ロシアとしてはアフリカとの深い関係をアピールした場ともなっています。

****穀物輸出「制裁対象から外すべき」プーチン氏との会談で アフリカ連合議長国****
ロシアのプーチン大統領とアフリカ連合議長国であるセネガルのサル大統領が会談し、サル大統領はロシアやウクライナからの穀物輸出のため「制裁の対象から外すべきだ」と語りました。

プーチン氏は3日、ロシア南部ソチでアフリカ連合議長国であるセネガルのサル大統領と会談を行いました。

ロシア プーチン大統領 「我々は常にアフリカの側に立ち、植民地主義との戦いでアフリカを支援してきた」

ウクライナ侵攻をめぐり、アフリカなどで食糧危機への懸念が高まる中、サル大統領は「ロシアへの制裁は状況をさらに悪化させ、食糧安全保障にも影響を及ぼしている。穀物と肥料は制裁対象から外すべきだ」と語りました。

プーチン氏はこれまで穀物などを輸出する用意はあるがそのためには「制裁の解除が必要だ」と主張していて、サル氏の発言はこれに呼応した形となります。

ロシアとしてはアフリカとの関係をアピールし、欧米をけん制する狙いがあるとみられます。【6月4日 TBS NEWS DIG】
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ロシアとアフリカ諸国のつながりはかねてより指摘されるところですが、アフリカ諸国は欧米への不満も強く、国連でのロシア非難決議などでも欧米の主張とは一線を画しています。

****ウクライナ侵攻でもロシアは国際的に孤立していない…新経済秩序が構築される可能性も****
(中略)
前述の(ロシア軍の即時撤退を求める)国連決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、ウクライナを巡る西側諸国とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明した(3月18日付日本経済新聞)。

歴史的にアフリカを搾取してきた西側諸国がウクライナだけに肩入れするのは「ダブルスタンダード」だというのがその理由だ。  

同じく国連決議を棄権した南アフリカのラマポーザ大統領も17日、ウクライナにおける戦争についてNATOを非難し、「ロシア非難の呼びかけに抵抗する」と述べた。  

アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっているが、中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。(後略)【3月26日 デイリー新潮】
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【ロシア・プーチン大統領 「誤った」欧米の経済政策や対ロシア制裁のせい】
とは言え、食糧危機が更に深刻化してロシアの「悪者」イメージが強まるのはプーチン大統領としても避けたいところでしょう。

プーチン大統領は食糧危機はロシアのせいではなく、「誤った」欧米の経済政策や対露制裁のせいだと主張しています。また、ウクライナが黒海港湾からの穀物輸出ができなくなっていることに関してもウクライナ側の機雷設置を非難しています。

ウクライナ国営通信などによると、ロシア軍の黒海封鎖の影響で最大2500万トンの穀物輸出が停滞しており、秋には7500万トンに達する恐れがあるとされています。

****プーチン氏、食料危機は「ロシアのせいでない」 米欧の制裁批判****
ロシアのプーチン大統領は3日、国営放送のインタビューで、ウクライナ侵攻を受けて食料価格が上昇している問題について「ロシアのせいではない」との持論を展開し、「誤った」欧米の経済政策や対露制裁の影響を強調。ウクライナ軍が「港の入り口に機雷をしかけた」とも訴え、ロシア軍による海上封鎖への国際的な非難に反論した。

プーチン氏はインタビューで、新型コロナウイルスの流行後に米国が大規模な金融緩和に踏み切ったことで「食料の価格が上昇した」と主張。

さらに、欧州諸国がロシアとの天然ガス供給の長期契約を結ばなかったことなどによりガスの価格も上昇し、肥料の生産コストも増大したとし、「ロシアの軍事作戦とは全く関係がない」と強弁した。米欧による経済制裁も肥料不足の一因として「近視眼的で愚かな政策」と断じた。

ロシア海軍が展開する黒海の港からウクライナ産の穀物などが輸出できなくなっている問題については、「我々は国際水域の平和的な航行を保証する」と強調。露軍が機雷を敷設しているとされるが、その点には触れなかった。また、ウクライナが周辺国経由で穀物を輸出できるとも指摘し、「穀物搬出に問題はない」とも述べた。

ロシアによるウクライナへの侵攻後、民間の船舶が周辺で砲撃などを受ける被害が相次ぎ、ウクライナの港から外国船が出航できなくなっている。ウクライナや欧米諸国はロシア軍が「船舶の航行を妨害している」と訴えている。【6月4日 毎日】
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【注目されるトルコ仲介の協議】
この状況で、ロシア・ウクライナ双方と関係を持つトルコの仲介外交が注目されており、国連も含めて協議が進んでいます。

****プーチン氏、穀物輸出に「ウクライナが機雷除去」の条件提案…黒海封鎖で世界的食料危機****
穀物大国ウクライナに侵攻しているロシア軍が、輸出拠点の黒海沿岸を封鎖していることに伴う世界的な食料危機の解消に向け国連を交えた関係国の駆け引きが活発化している。

ロシア、ウクライナ両国と関係が良好なトルコが仲介に乗り出している中、セルゲイ・ラブロフ露外相が8日にトルコを訪問することになり、協議の行方が注目される。
 
穀物輸出問題を巡っては、トルコが5月末、自国とウクライナ、ロシア、国連が参加して監視センターをイスタンブールに設置することを提案している。ウクライナのドミトロ・クレバ外相も5月末、有志国の海軍が参加する国連主導の船団結成で海上交易の安全を確保する案を示していた。
 
こうした関係国の動きの中、プーチン露大統領は3日放映の露国営テレビとのインタビューで、穀物輸出を認める条件付きの提案を示した。ウクライナが黒海の機雷を除去することを条件に、南部オデーサ港などを利用しても「安全な航行を保証する」と述べ、南東部マリウポリなどロシアの管理下にある港から輸出する方法にも言及した。
 
同盟国ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案が「一番簡単で安価だ」とし、条件として、欧州連合(EU)の対ベラルーシ制裁解除を挙げた。こうした案は2、3日にモスクワを訪問していたマーティン・グリフィス国連事務次長にも説明したとみられる。
 
プーチン氏は3日、露南部ソチで会談したアフリカ連合(AU)議長国セネガルのマッキ・サル大統領から、深刻な食料危機に向けた対応を求められていた。国際社会でのさらなる孤立につながらないよう調整に乗り出す姿勢を示した模様だ。
 
プーチン氏にとっては、露軍が占拠する港湾でウクライナの穀物を扱うこととなれば、支配の既成事実化につながる。ウクライナやEUが条件付きの露側の提案を受け入れる可能性は低いとみられる。

しかし、ウクライナも穀物輸出の停滞によって深刻な打撃を受けている。今後もトルコなどを巻き込んだ打開策の議論が続くものとみられる。【6月4日 読売】
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【機雷除去をめぐるロシア・ウクライナの対立】
上記にもあるように6月8日、ロシアのラブロフ外相がトルコを訪問し、チャブシオール外相とウクライナからの穀物輸出の問題で協議しています。ラブロフ外相は、これまでのロシア主張に沿って、オデーサにおけるウクライナの機雷除去を求めています。

****ウクライナ穀物輸出 ロシアが「港の機雷除去せよ」 ロシア・トルコ外相会談****
ロシアのラブロフ外相は、ウクライナからの穀物の輸出について、「ウクライナ側が機雷を除去すれば、安全な海上輸送をロシアが保証する」と述べた。

ロシアのラブロフ外相は8日、訪問先のトルコの首都アンカラでチャブシオール外相と会談した。
その後の共同記者会見でラブロフ外相は、ウクライナから穀物が輸出できないため、アフリカを中心に食糧危機が懸念されている問題について、「ウクライナ側が港に設置しているとされる機雷の除去が必要だ」と指摘、「機雷が除去されればプーチン大統領が穀物の輸出を保証する」と述べた。

ラブロフ外相「(解決策は)機雷を取り除くか安全な航路を示すかだ。それ以上は必要ない」

一方、トルコのチャブシオール外相は、穀物輸出の正常化に向け、国連を含めた枠組みを作る必要があると述べた。
また、ウクライナの外相は、海上輸送の安全を保証するというラブロフ外相の発言は信用できないとの立場を示した。【6月9日 FNNプライムオンライン】
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ウクライナは機雷除去すればロシア艦隊がすぐに押し寄せると、除去を拒否しています。

****ウクライナ、オデーサ港周辺の機雷除去せず****
ウクライナは8日、穀物を輸出するために機雷を除去すればロシアの攻撃を受ける恐れがあるとして、南部オデーサの港周辺で機雷掃海を実施しない方針を明らかにした。
 
オデーサ州のセルヒー・ブラチュク報道官はSNSに投稿した動画で「港への出入りを可能にすれば、たちまちロシア艦隊が現れるだろう」と述べた。
 
ブラチュク氏は、ロシア軍がオデーサへの攻撃のチャンスをうかがっており、同市への空挺(くうてい)部隊の降下を想定していると指摘した。 【6月9日 AFP】AFPBB News
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トルコのチャブシュオール外相はロシアのラブロフ外相と会談後、ウクライナや国連も交えた協議を行うことを提案しています。

国連のグテーレス事務総長は人道担当のグリフィス国連事務次長と、国連貿易開発会議のグリンスパン事務局長が交渉に当たっているとしたうえで、「これ以上公の場で話すことは、成功のチャンスを危うくする。数百万人の安泰がここにかかっている。いまは静かな外交が必要な時だ」として交渉の詳細は明らかにしていません。

ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めています。

****「ウクライナの利益、考慮しない合意は拒否」…自国抜きのロシア・トルコ外相会談に反発****
ウクライナ外務省は7日、ロシア軍の黒海封鎖で穀物輸出が停滞している問題を巡り、ロシアとトルコの外相会談を前に声明を出し、「ウクライナの利益を考慮しない合意は拒否する」と強調した。ウクライナは、自国抜きに行われる協議がロシアのペースで進むことを警戒しており、ウクライナを交渉に加えることも求めた。(後略)【6月8日 読売】
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なお、ロシアのショイグ国防相は7日、ロシア軍が制圧したウクライナのベルジャンスク港とマリウポリ港の地雷撤去作業が終了し、穀物輸出を再開する準備が整ったと述べています。

【ベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する方法も】
黒海・オデーサからの輸出が難しい状況で選択肢のひとつにあがっているのが、プーチン大統領が推奨するベラルーシ経由でバルト海から海上輸送する案。ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は自国への制裁が解除されるなら協力するとしています。

****ベラルーシ、ウクライナ穀物の経由認める用意 制裁解除なら****
 ベラルーシのルカシェンコ大統領は、バルト海の港から同国製品の出荷が可能になれば、ベラルーシ経由でウクライナの穀物をこれらの港に運ぶことを認める用意があると表明した。国営通信ベルタが報じた。

主要な穀物輸出国であるウクライナはロシアによる2月24日の侵攻以降、黒海の港を使用できなくなっている。

食料危機が差し迫る中、ベラルーシ経由でのウクライナ産品の輸出は国連が主導する協議で選択肢の一つとなっている。

ベルタによると、ルカシェンコ氏は3日、国連のグテレス事務総長と電話会談し、この選択肢に前向きな姿勢を示し、ベラルーシとウクライナ、および自国の港へのアクセスを提供する用意のある国々の間で協議を行うことを提案した。

その上で、「同時に最も重要なことはドイツやポーランド、バルト三国、ロシアの港がベラルーシ製品にも開放されることだ」と述べた。

主要なカリ肥料生産国であるベラルーシは、2021年から22年にかけて西側の厳しい制裁を受けバルト海を経由した肥料輸出が停止されている。【6月6日 ロイター】
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【今後の食糧生産を危うくするロシア・ベラルーシからの肥料供給停止】
現在の食糧危機を解決するための穀物輸出と同時に、これからの食糧生産を左右する肥料の問題も重要です。

****世界的な食料危機が迫っている、ウクライナ侵攻で肥料が不足****
世界の肥料不足なんて他人事だ。そう思ってはいないだろうか。もしもあなたが北米、ヨーロッパ、中南米、またはアジアでこれを読んでいるならば、今日生きていられるのは化学肥料のおかげである可能性が高い。
 
著名なエネルギー研究者であるカナダのバクラフ・スミル氏によれば、人類の5分の2にあたる30億人以上が化学(窒素)肥料によって生かされている。現在、これらの肥料が足りなくなっており、世界中の農家、肥料会社、政府が、作物収量の激減を避けようと躍起になっている。
 
1年以上にわたって様々な出来事で打撃を受け続けてきた肥料業界にとって、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻はボディブローとなった。オランダの金融大手ラボバンクによると、ロシアは世界の窒素肥料の20%近くを輸出し、制裁を受けた隣国ベラルーシと合わせて世界のカリウム輸出シェアの40%を占めている。欧米の制裁とロシアの肥料輸出規制のせいで、そのほとんどは農家にとって入手不可能になっている。(中略)

コロナで低迷していた産業活動の回復と、世界的な食用穀物の在庫不足が相まって、肥料の需要は一気に高まった。一方、供給側は、次々と起こる異常気象に打ちのめされてきた。(中略)

「それだけではありません」と(窒素肥料製造の世界大手である米CFインダストリーズ(CFI)の上級副社長)フロスト氏は言う。「中国とロシアが肥料の輸出規制を始めたのです。中国は

世界の尿素(窒素肥料の1つ)の10%を輸出していたのに、それがゼロになりました。そこにロシアのウクライナ侵攻が重なり、まさに最悪の状況です」

中南米の状況:世界の食料の一大生産地に打撃
北米の農家は、たとえ大金を払ってでも今季に必要な肥料を手に入れるだろうとフロスト氏は言う。しかし、最も大きな影響を受けるのは中南米の国々だ。特にブラジルは、肥料の約85%を輸入に頼っており、そのうち4分の1はロシアからの輸入だ。
 
ブラジルの農家が肥料を減らし、収穫量が落ちれば、世界の食料供給に大きな影響を与えるおそれがある。米農務省が2022年3月に発表した報告書によると、ブラジルは大豆、トウモロコシ、砂糖、牛肉、鶏肉、豚肉の輸出で世界のトップ3に入る。(中略)

世界の食料供給にとってロシアの肥料は非常に重要であるため、バイデン米政権は3月下旬、一連の対ロシア制裁の中で肥料や農産物を対象外とした。今でも金融制裁は輸送の妨げになっているが、専門家らはこの動きが世界の食料価格の上昇圧力を緩和することを期待している。(後略)【6月1日 ナショナル ジオグラフィック】
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本来であれば、食料価格が上昇すれば生産も拡大し、価格上昇圧力が緩和されるはずですが、肥料価格が上昇していることで生産拡大が阻害され、食料価格上昇も緩和されないという事態も懸念されています。

ヨーロッパのウクライナで起きている危機の連鎖は、食糧にしろ、エネルギーにしろ、グローバル経済の中で生きる今日の世界全体に及びます。

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中南米諸国  メキシコ大統領の米州首脳会議不参加で露呈したアメリカへの反感

2022-06-08 22:49:09 | ラテンアメリカ
(6日、メキシコ南部タパチュラで、対米国境を目指す移民集団「キャラバン」(AFP時事)【6月7日 時事】
こうした移民流入への対策が話し合われるはずの米州首脳会議でしたが、アメリカの主導権への中南米諸国の反発が表面化する流れにもなっています)

【キューバ・ベネズエラとの関係改善を模索する米バイデン政権】
6日に米ロサンゼルスで開幕した米国やカナダ、中南米諸国の首脳らによる米州首脳会議(サミット)にバイデン米大統領が「民主主義の欠如」を理由にキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを招待しなかったことで、メキシコのロペスオブラドール大統領など複数の国の首脳が反発して不参加を表明しており、波紋が広がっています。
(なお、メキシコは地理的には北米ですが、本記事では中南米と一体の国として扱っています。)

その話に入る前に整理しておくと、バイデン政権は一方でキューバ、ベネズエラに対する制裁を緩和して、関係を修復しようともしています。

故カストロ以来の対立が続く共産党独裁キューバとの関係では、オバマ政権時に関係改善の流れが生まれましたが、オバマ元大統領の成果を否定することに異常な執念を抱くトランプ前大統領がこれを覆した経緯があり、バイデン大統領はオバマ路線に戻したい意向です。

ただ、アメリカ国内、特に大統領選挙の結果を左右する激戦州フロリダ州には現在のキューバ体制を否定するキューバ亡命者が多く、与野党双方にこれを支援する政治勢力があり、キューバとの関係改善は政治的には大きなリスクを伴います。

****バイデン政権、キューバ政策見直し 送金・渡航など緩和、トランプ時代から転換****
バイデン米政権は16日、キューバへの渡航や送金に関する制限を緩和するとともに、キューバ人への米国ビザ(査証)発給数を増加させると発表した。昨年の政権発足時から進めていたキューバ政策の見直しを受けた措置。トランプ前政権下での強硬路線からの転換を鮮明にした形だ。

キューバをめぐっては、民主党のオバマ政権が2014年、キューバのラウル・カストロ国家評議会議長(当時)と関係正常化を進めることで合意し、外交関係の再開などが実現した。

しかし、17年に就任したトランプ前大統領が制裁強化に方針を転換。バイデン大統領は就任前、キューバ政策を再び融和路線に引き戻す考えを示していたが、キューバで昨年発生した大規模な反政府デモが同国政府によって弾圧されたことなどを受けて明確な政策変更を打ち出せずにいた。

今回の措置について与野党議員などからは、早くも「独裁政権への誤ったシグナルだ」との指摘が相次いでいる。これに対し米政府高官は16日、米国からの送金がキューバ政府を経由しないようにするなど「人権侵害を助けることにならない方法をとる」と強調した。【5月17日 産経】
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キューバと連携する反米左派ベネズエラ・マドゥロ政権に対しても、ロシア産原油禁輸の代替調達先として産油国ベネズエラからの輸入再開、併せて、対米関係改善を契機に膠着したベネズエラ国内状況を打開することを模索しています。

****ベネズエラ大統領、野党と対話再開へ 米の制裁緩和受け=関係筋****
ベネズエラのマドゥロ大統領が、米国が支持する野党側との協議再開を発表する見通しであることが分かった。米政府が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いたことが背景にある。米政府当局者やその他の関係者が明らかにした。

バイデン米政権は、ベネズエラで操業を続ける唯一の米石油会社シェブロンがマドゥロ政権と協議を再開することを一時的に認めた。ただ、同社に対する限定的な操業許可の更新の是非はまだ最終判断していない。

当局者の1人によると、米政府はさらに、国営ベネズエラ石油(PDVSA)の元幹部でシリア・フロレス大統領夫人のおいであるエリック・マルピカ氏を制裁対象リストから外す構え。

米政府は3月にここ数年で最も高位の代表団をベネズエラの首都カラカスに派遣し、マドゥロ大統領らと会談したばかり。ベネズエラ側は拘束していた米国人2人を釈放した。その後、米政府はベネズエラの野党陣営と協議した上で一連の措置を決めたという。

マドゥロ氏は昨年10月に停止したメキシコでの野党側との対話の再開にも前向きな姿勢を示した。両陣営は早ければ17日にも協議日程を設定するとみられる。野党指導者のグアイド氏を暫定大統領として承認した米国は、対ベネズエラ制裁を大幅に解除する可能性について、両陣営による交渉の進展次第との立場を示している。【5月18日 ロイター】
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【独裁のトロイカであるキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを招待する意図は元々なかった】
バイデン大統領が米州首脳会議にキューバ、ベネズエラを招待しなかったのは、上記の両国との関係改善の流れが変わったというものではなく、もともと招待する考えもなく「それはそれ、これはこれ」という別個の流れのようです。

****バイデンのキューバ規制一部解除の裏側****
バイデン政権は、5月16日、トランプ政権が導入した渡航制限やビザ発給制限、キューバへの送金の制限等を部分的に解除する措置を発表した。

バイデンは、キューバとの外交関係を正常化したオバマ政権の成果をすべて覆したトランプに対し、キューバとの関係を再構築することを公約として当選したわけであるので、本来もっと早期に取り組んで良かったものである。

しかし、党派を超えた対キューバ強硬派の反対や、昨年夏のキューバ政府による街頭抗議活動の弾圧事件、更には、キューバ当局の関与が疑われた米国大使館員の体調不良問題が未解決等の事情もあり、着手が遅れていた。

今回の措置は、トランプの導入した規制を全て撤廃したわけではない。これは、中間選挙を前に、あまりにキューバにとって有利な措置を取れば、強硬措置を求めるキューバ系米国人の多いフロリダ州等での民主党の票に影響することから、米国の利益にもなることが説明できるかの視点から行われた選択的措置と考えられる。
 
バイデン政権は、翌17日には、ベネズエラ産原油に対する規制措置を緩和する措置もとった。具体的には、以前現地で活動していた米国石油企業(シェブロン)に生産再開についてのベネズエラ政府との協議を開始することを許可したもので、石油制裁の緩和に向けた最初のステップと見なされる。
 
そのような方向性は、3月に既に示され、米国は、これを中断しているマドゥーロ政権と反政府側との民主化交渉を再開させる梃子とすると共に、ウクライナ侵攻に対する制裁として輸入を禁止したロシア原油の代替輸入元とする意図があると見られた。

この措置についても、民主化や人権についてマドゥーロ側のコミットが何ら得られる保証がないとして、民主党の人権派や共和党の強硬派から懸念や批判を招いている。
 
これらの措置は、6月6日から予定されている米国がホストする第9回米州サミットへの招待国を巡って米国とメキシコ等のラテンアメリカ諸国との間で揉めている状況の中でとられたが、これは、偶然の成り行きであったのであろう。

このサミットは、バイデンが、ラテンアメリカ外交を再構築する舞台となるはずのものであったが、独裁のトロイカであるキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを同サミットに招待する意図は元々なかったと見られる。
 
ところが、メキシコのロペス・オブラドール大統領は、5月初めのキューバ訪問から帰国の後、すべてのラテンアメリカ諸国が招待されないのであれば同サミットに出席しないとの立場を表明し、これにボリビア、ホンジュラス、カリブ海諸国が同調した。

また、ブラジルやグアテマラもバイデン政権に対する不満から大統領の出席が疑問視されており、米州サミットが成り立つのかという状況に立ち至っている。【6月3日 WEDGE】
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【メキシコ大統領などの不参加の背景に、アメリカへの反発とアメリカの影響力低下】
米州首脳会議は6日から始まり10日まで開かれますが、アメリカとしてはメキシコ国境を通じて流入する不法移民への対策の協議をメイン議題としたい意向です。

この会議に合わせ、メキシコ南部では6日、ここ数年で最大規模のおよそ6000人もの移民希望者の集団がアメリカへ出発しているとのこと。

その移民問題最大の関係国でもあるメキシコのロペス・オブラドール大統領(左派)が参加しないことはアメリカにとっては大きな痛手となります。

メキシコは大統領の代わりに外相が会議に参加し、本人は来月、訪米するということですが、ホンジュラスやボリビアの首脳も欠席、代理が出席するとのこと。更に移民の送り出し国であるグアテマラやエルサルバドルの首脳も欠席する可能性がある・・・。

背景には、この地域を「裏庭」と考えるアメリカと中南米諸国の確執があるようで、そこに中国が絡んで・・・という“いうもの”展開も見えます。

****メキシコ、米州首脳会議欠席 米「裏庭」影響力低下****
メキシコのロペスオブラドール大統領は6日、米ロサンゼルスで同日始まった米州首脳会議を欠席すると発表した。米国が会期中、強権国家のキューバやベネズエラ、ニカラグアを招待しない方針に反発した。

AP通信によると、グアテマラやホンジュラス、エルサルバドルの首脳も欠席する可能性がある。米国が長年「裏庭」としてきた中南米地域での影響力低下が表面化した形だ。

米州首脳会議は10日まで開かれる。各国の首脳や閣僚は6〜7日にロサンゼルス入りし、主な会合は8日から始まる。米国はメキシコ国境を通じて流入する不法移民への対策を協議する意向で、ロペスオブラドール氏の欠席は痛手だ。

会議では新型コロナウイルス危機、ロシアによるウクライナ侵略に伴う食料不足対策なども議論される。

ロペスオブラドール氏は6日の会見で「全ての国が招待されない米州首脳会議などあり得ない」と述べ、エブラルド外相を代理で出席させる意向を示した。ロペスオブラドール氏は7月に訪米し、バイデン米大統領と会談するという。

バイデン政権は「政敵を投獄し、不正選挙を行った権威主義国」を招待しないとしており、民主的な秩序を破る政府を将来の会議に参加させないとした2001年の米州首脳会議の宣言に基づく判断という。

米州首脳会議には、米首都ワシントンに本部を置く米州機構(OAS)加盟国のリーダーが集まる。ロペスオブラドール氏はかねてOASを「米国が中南米に介入する道具」とみなしてきた。

一方、中南米諸国は11年、OASに対抗する形でラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)を設立。ロペスオブラドール氏が昨年9月、メキシコ市でCELAC首脳会合を開催した際、招待状には、「(開催目的は)OASを弱める」と記されていた。

この会合で、ロペスオブラドール氏は「CELACは欧州連合(EU)のような共同経済体を目指すべきだ」と宣言し、中国の習近平国家主席は「最大限の支援」をビデオ演説で約束。ロペスオブラドール氏には中国の力をてこに中南米カリブ海地域での米国の影響力を弱め、域内の自律性を高めようとする狙いがあったとされる。

今回の米州首脳会議欠席の背景にも「中南米諸国の結束を優先する意図」(外交筋)がありそうだ。【6月8日 産経】
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左派のメキシコ・ペスオブラドール大統領とキューバ等との関係、「全ての国が招待されない米州首脳会議などあり得ない」云々はありますが、最大の問題は“主人顔”でふるまうアメリカへの中南米諸国の反感でしょう。
そして、そういう反感を表に出すことを許すまでにアメリカの影響力が低下しているということも。

中南米に左派政権が多いのも、中南米にわが物顔で介入するアメリカへの反感が根底にあってのことでしょう。

ただ、人権・民主主義という観点からすれば、アメリカとしては中南米諸国に対してモノ申すべきことが多いという側面も。

****中南米諸国は報道の自由を抑圧、米国務長官が非難****
ブリンケン米国務長官は7日、一部の中南米諸国で報道の自由を抑圧する動きがあると非難し、記者の殺害が最も多い同地域でメディアの保護強化を目指すと表明した。米州首脳会議を控える中、報道の自由に関するイベントで述べた。

長官は、中南米地域の政府が包括的な法律や監視を通じて報道の自由を奪い、記者に脅威を与えていると指摘。バイデン大統領が民主主義の欠如を理由に米州首脳会議から排除したキューバ、ニカラグア、ベネズエラの3カ国を名指しし、これらの国では独立した報道が犯罪となっていると述べた。

「世界でこれほど記者にとって危険な地域はない」とし、ユネスコ(国連教育科学文化機関)のデータを引用し、今年に入り西半球で少なくとも17人の報道関係者が殺害されたと語った。

「このような犯罪が後を絶たないのは、それを命じ実行した人物がほとんど責任を問われないからだ。それはこうした攻撃が罰せられずに続けられるというメッセージを送ることになる」と述べた。【6月8日 ロイター】
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アメリカ・バイデン大統領  原油増産に向けて「人権」では問題国のサウジアラビアとの関係改善模索 

2022-06-07 22:47:39 | アメリカ
(式典で剣士たちに歓迎を受けるトランプ前大統領【 2017年6月22日 GNV】 人権・民主主義など関心がない者は別として、一部からは「ISのような国家」との評価もある石油大国サウジアラビアとの付き合い方は厄介です)

【カショギ氏殺害やイエメン介入でサウジとの関係が悪化したバイデン人権外交】
アメリカ・バイデン大統領はトランプ前政権に比べて外交において人権・民主主義という価値観を重視する立場をとっています。

そのこと自体は個人的にも賛成しますが、人権・民主主義を顧みない国家が多い現実世界にあっては、人権などの看板を掲げることは外交の自由度を大きく制約し、前政権のような融通無碍な妥協・交渉を難しくする側面があり、「看板」と現実の間でのバランスをとる必要も出てきます。

ウクライナ戦争に伴うロシア産原油の禁輸は対ロシア制裁の中核になりますが、ロシアにエネルギーの多くを依存する欧州の足並みをそろえるためには代替調達先が必要。また、原油市況高騰はロシアの資金繰りを助け、また、アメリカ国内におけるガソリン価格高騰という中間選挙の行方を左右する“一大政治問題”を惹起しています。

そうした状況を改善するためには、最大産油国サウジアラビアの協力が必要になりますが、サウジアラビアは同盟国とはいうものの、「人権」の看板に照らすと極めて問題が多い国でもあります。

****バイデンが危惧。プーチンが触手を伸ばす新たな国、米との関係悪化で最悪の事態も***
アメリカの外交問題の中で、今後の世界秩序形成においても重要で、原油市況のカギを握るサウジアラビア。今アメリカとは史上最悪の関係と言われ、アメリカを完全に無視し、ロシアの国益に繋がる原油市況高騰状態を維持していますが、その関係悪化の原因と今後予想される動きについてお話をしたいと思います。

歴史上最悪の関係修復の為に送り込まれたウィリアム・バーンズ氏
先週アメリカでは、CIA長官のウィリアム・バーンズ氏が、4月中旬にサウジを極秘訪問していたとの報道が注目されました。

バーンズ氏は、外交官出身者として初のCIA長官に就任した方ですが、外交官として最初の赴任地がヨルダンでアラビア語を話すことができ、しかも中東との関係も深いということで、歴史上最悪と言われるサウジアラビアとの関係修復の為に送り込まれたと思われますが、その成果は今のところ不透明という段階です。

アメリカとサウジアラビアの関係
アメリカとサウジアラビアは、1933年の外交樹立以降、一貫して良好関係にありました。サウジにとっては、イランやイエメンなどの近隣諸国との慢性的な軍事緊張の中で、アメリカの軍事支援と資金援助を得ることは極めて重要です。

一方でアメリカとしても、サウジはかつては中東に於ける安全保障の拠点であり、特にイラン革命以降はイスラム原理主義者との闘いに於ける重要なパートナー、事実上の軍事同盟国です。

そして、最大の産油国という見方からすると、歴史的に原油の安定供給と市況安定という意味でも、非常に重要なパートナー国と位置付けてきました。

因みに日本も、原油が輸入品目の中で最大金額の商品、全輸入額の8.2%を占めていますが、その中のなんと40%を、現在サウジアラビアに頼っています。

アメリカとサウジアラビアの関係が悪化した2つの理由
アメリカがバイデン政権下でここまでサウジとの関係をこじらせた理由は大別すると2つです。

1つ目はオバマ政権時から開始された、中東への関与縮小の流れで明らかにアメリカはいくつもの失敗をしています。

イラクからの拙速な撤退、エジプトでのアラブの春への不味い対応、リビア政変時の介入、シリアでのロシアやイランへの主導権を渡した結果の酷い内戦誘発、そして、イランとの核合意締結と、サウジの信用を失墜させるに十分な外交を重ねてきました。

トランプ政権時は友好関係を取り戻しつつありながらも、バイデン政権になるとアフガンからの撤退、イラン核合意の復活画策などでまたアメリカの中東政策は、サウジからの信頼失墜の方向に加速しています。

そして、2つ目は、実質的支配者であるムハンマド皇太子に対するバイデン大統領の「否定」「軽視」にあります。
2018年にサウジ人ジャーナリストのカショギ氏がトルコで殺害された事件ですが、これにムハンマド皇太子が関与しているとバイデン政権は断定し、大きな人権問題だと攻撃していること。

さらに、バイデン大統領は飽くまでも父親のサルマン国王との関係を重視してムハンマド皇太子との関係構築を拒絶してきましたが、これは、カショギ氏殺害事件だけではなく、「史上最悪の人道危機」と呼ばれているイエメン内戦問題、今は完全にサウジとイランの代理戦争となっていますが、こちらも絡んできます。

しかし、ムハンマド皇太子からすれば、自分を認めないバイデン政権に対して、なぜ従わねばならないのかという思いは強く、昨年秋のオースティン国防長官、今年初めのブリンケン国務長官の訪問はキャンセル、3月のバイデン大統領の電話会談は拒否しました。

現在はOPECプラスで協力関係を構築してきたロシアと、今や最大の石油輸出先である中国へとパートナーを変えつつあると言って良いと思います。

サウジアラビアがアメリカに期待してるコト
中露と対立関係にあるバイデン政権は、サウジとの関係修復は絶対条件であって、必死に裏で動いていますが、これが奏功するかどうかはこれからの世界秩序の方向性、そして日本の将来に大きな影響を与えます。

まだ、ムハンマド皇太子がアメリカに期待していることはあり、例えばイエメン内戦への支援、原発などへの開発協力、カショギ氏殺害に関連する自身への訴訟撤回などです。【5月18日 MAG2NEWS】
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上記は、カショギ氏殺害事件へのムハンマド皇太子の関与など、サウジアラビアが抱える人権侵害をいささか軽視した論調ですが、サウジとアメリカのどちらが問題を抱えているかという点は別にして、両国関係がうまくいっておらず、そういうなかでアメリカがサウジアラビアの協力を必要とする状況になっているという点はその通りでしょう。

【原油市況高騰状態緩和のためにサウジとの関係改善を模索するアメリカ サウジ側も改善へのシグナル】
アメリカは上記のウィリアム・バーンズ氏に続き、高官をサウジに派遣しています。

****米高官2人が今週サウジ訪問、地域問題など協議=ホワイトハウス****
米ホワイトハウスは26日、政府高官が今週サウジアラビアを訪れ、世界のエネルギー供給やイラン問題など地域の課題を協議したと明らかにした。

サウジのリヤドを訪れたのは、国家安全保障会議(NSC)の中東政策調整官であるブレット・マクガーク氏と、国務省でエネルギーを担当するエイモス・ホクスタイン氏で、サウジ高官らと協議を行ったという。

ホワイトハウスのジャンピエール報道官は、訪問について「エネルギーの安全保障を巡るサウジとの関わりを見直すもの」だとし、サウジ産原油の輸出拡大要請が狙いという見方を否定した。

さらに、原油関連では石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が独自に決定を下すだろうとし、「サウジアラビアを含む市場環境については、関連する全生産者と協議している」と述べた。【5月27日 ロイター】
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アメリカがサウジアラビアの協力を必要としていると同時に、当然ながらサウジアラビアもアメリカとの関係改善は(実力者ムハンマド皇太子の感情は別にして)望むところ。いくらロシアとの関係が強くなっていると言っても、アメリカ抜きに現在の国際政治・経済は回りません。

そうした状況を反映して、サウジアラビアからも関係改善へ向けたシグナルが。

****サウジ、対米関係改善のシグナル送る 「OPECプラス」増産合意****
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は2日の閣僚級会合で7、8月の原油増産ペースを引き上げることで合意した。バイデン米政権は歓迎する意向を表明、サウジアラビアが合意の取りまとめに貢献したと評価した。

露のウクライナ侵攻後、露産原油の禁輸制裁を打ち出したバイデン政権は、市場安定のため産油国に増産を求めてきた。しかし、サウジや友好国のアラブ首長国連邦(UAE)は露とウクライナの間で中立を維持し、米国の要請にも応じてこなかった。

ロイター通信によると、サウジとUAEを除くOPEC加盟諸国の増産余力は限られている。今回の決定は、米国との間にすきま風が吹いていた両国が関係改善のシグナルを送ったとの見方が有力だ。露は増産ペース引き上げを容認する考えを示し、露産原油依存からの脱却を目指す欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も決定を歓迎すると述べた。

バイデン政権はサウジとUAEのイエメン内戦への軍事介入に否定的で、2021年の政権発足当初に両国への軍事支援停止を表明。その後も反体制サウジ人記者殺害事件で同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子が殺害を承認していたとの報告書を公表するなどして、冷ややかな関係が続いていた。

バイデン米大統領は6月下旬に予定される欧州訪問の際、中東に立ち寄ってサウジなど湾岸産油国の首脳らと会談することを検討している。

ロシアの原油生産量は米欧の制裁により日量100万バレル規模で減少しており、OPECプラスが決めた増産分では穴埋めできない。市場の反応も限定的だ。バイデン氏は中東訪問を通じてさらなる増産を働きかける狙いとみられ、米露の綱引きが活発化しそうだ。【6月3日 産経】
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【バイデン米大統領が7月にもサウジアラビアを訪問か 「人権」と石油のバランス】
上記の流れを受けて、バイデン米大統領が7月にもサウジアラビアを訪問して関係改善を本格化させるのではとの観測が強まっています。

そこでは、冒頭にも触れたように「人権」の看板と石油という現実の間で慎重にバランスをとる必要があります。

****バイデン政権、サウジと関係修復へ 来月にも訪問、「人権外交」から転換か****
バイデン米大統領が7月にも中東を訪問し、冷え込んでいるサウジアラビアとの関係の修復に乗り出すとの観測が強まっている。

ロシアのウクライナ侵攻を一因とする原油高と物価高騰を受け、有力産油国のサウジに増産を働きかけるためだ。バイデン政権は、2018年に起きたサウジ人記者殺害事件などをめぐりサウジに批判的な立場をとってきたが、11月の中間選挙に向けてインフレ対策が最重要課題となる中で外交の方向転換を迫られている。

米NBCテレビによるとホワイトハウスは、サウジに本部を置く湾岸協力会議(GCC)の首脳会合に合わせて来月、バイデン氏が同国の首都リヤドとイスラエルを訪問する方向で調整を進めている。サウジでは実質的指導者のムハンマド・ビン・サルマン皇太子と面会することが検討されているという。

サウジ訪問の可能性が大きな関心を集めるのは、バイデン政権の中東政策の転換を象徴するものとなるからだ。
バイデン氏は20年の大統領選期間中、サウジの反体制記者、ジャマル・カショギ氏がトルコにあるサウジ総領事館で殺害された事件に絡み、「サウジに代償を払わせる」「(サウジは)嫌われ者」だなどと発言。政権発足後の21年2月に発表した報告書では、ムハンマド皇太子が殺害を承認していたと結論付けた。

バイデン政権はこのほかにも、皇太子が主導した軍事介入によって人道危機が深刻化したイエメン情勢でサウジに批判的な立場をとり、サウジが反対してきたイラン核合意の修復も模索。人権問題よりも兵器売却などを重視してサウジと蜜月関係を築き、対イランで強硬路線をとったトランプ前政権とは対照的だ。

しかし、米国内のインフレが約40年ぶりの高水準となり、ガソリン価格の高騰で国民の不満が強まったことで事情は一変。豊富な石油資源を有するサウジなどアラブ諸国との関係強化が重要性を増した。そんな中でバイデン氏がサウジに赴くことは、米国からサウジ側への譲歩を意味する。

バイデン氏自身は今月3日、近く中東を訪問する可能性があることを認め、その場合は地域情勢の安定化が主要議題になると指摘。「大統領として人権問題の見方は変わらない」として、外交方針を転換するつもりはないと強調した。

ただ、喫緊の課題であるエネルギー問題でサウジの協力を取り付けるには、同国の面目を傷つけないことが不可欠。ブリンケン国務長官は1日、サウジ外交では「人権や民主主義(の促進)と、米国民が必要としているものの両方を追い求める」ことが重要だと述べ、これまでよりも人権批判を抑制する姿勢を示唆した。【6月6日 産経】
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【人権・石油以外に米国内政治事情などもあって、より微妙な対キューバ・ベネズエラ関係】
一方、アメリカにとってキューバ・ベネズエラの独裁政権との関係は、「人権」・石油が絡む点では上記サウジアラビアとの関係と同じですが、国内の反キューバ勢力の存在、そのことの「選挙」への影響、更にはメキシコなど他のラテンアメリカ諸国の動きなども加わって、より微妙なものにもなっています。

そのあたりは長くなるので、また別機会に。

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ウクライナ  「戦争の終わらせ方」をめぐる米、独仏伊のそれぞれの思惑

2022-06-06 22:47:47 | 欧州情勢
(発射訓練を行う「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」=米西部ワシントン州の演習場で2011年5月23日【6月1日 毎日】 アメリカのウクライナへの供与でゲームチェンジャーとなるのか?)

【全体像がはっきりしないウクライナ戦争の戦況】
ウクライナでは東部地域を主戦場にした激しい戦いが続いていますが、この地域に集中攻撃をかけるロシア軍の攻勢に対し、欧米からの武器支援を受けるウクライナ軍が一部押し返しているとの情報も。

****東部拠点「5割を奪還」=首都被弾は貨車修理工場か―ウクライナ****
ウクライナ東部ルガンスク州の残る拠点都市セベロドネツクでは、制圧を目指すロシア軍にウクライナ軍が激しく反攻している。ガイダイ州知事は5日、通信アプリに投稿されたインタビューで「市の半分は現在、われわれの軍が支配している」と主張。今月初めにはロシア軍の総攻撃で市の約70%が制圧されたとしていたが、ウクライナ軍が盛り返しつつある。【6月6日 時事】
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戦況は一進一退で素人には(と言うより、“誰にも”と言うべきか)よくわかりませんが、ウクライナ側が欧米からの支援兵器を本格活用するまで持ちこたえられるか・・・それまでにロシア側がどこまで成果をあげられるか・・・という時間との戦いの側面もあります。

ロシアが戦争遂行能力をどこまで維持できるか、逆に欧米側は戦争による自国への経済的打撃をどこまで我慢できるのかという我慢比べの様相も。

それ以上に、そもそも「どこまでやるのか?」というゴールが判然としないろころもあります。

****ウクライナ戦争「どちらが勝利に近いか」を言えない理由****
<開戦から100日が過ぎた。軍事アナリストたちの分析により詳細な戦況は明らかになっているが、戦争の全体像は不透明なままだ>

ウクライナ戦争が始まって既に100日余り。戦争がどこへ向かっているかは、混迷を深めるばかりだ。
2月24日にロシア軍が侵攻を開始した当初は、数日もしくは数週間以内にウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落するという見方が一般的だった。この時点で6月になってもまだ戦闘が続き、ウクライナのゼレンスキー大統領が政権にとどまっていると予想した人はいなかった。

軍事アナリストたちの分析により、現時点でどちらの部隊がどの地域を押さえているかという詳細な戦況は明らかになっている。しかし、アナリストたちも認めているように、戦争の全体像は不透明だ。どちらが勝利に近づいているともはっきり言えない。

その1つの要因は、双方にとっての「勝利」と「敗北」の定義が明確でないことだ。

ゼレンスキーは2月24日より前の境界線が回復されれば、ロシアのプーチン大統領との交渉に応じる用意があると述べている。
ここで言う2月24日より前の境界線の回復とは、ウクライナ領からロシア軍が全て撤退することを意味するのか。その中には、東部のドンバス地方全域も含まれるのか。開戦前に親ロシア派武装勢力が支配していた地域にロシア軍部隊がとどまることは受け入れるのか。また、クリミア半島の扱いはどうなるのか。

一方、プーチンとその周辺は、ゼレンスキー政権を欧米の帝国主義者に操られたネオナチ勢力と非難し、ウクライナが主権国家として存続することに異を唱えている。この姿勢を崩さなければ、プーチンにとってゼレンスキーとの交渉などあり得ない。

プーチンが考える「勝利」とは、ドンバス地方を占領するだけでなく、実質的にウクライナという国を消滅させることを意味するのだ。

いずれにせよ、双方とも差し当たりは戦闘をやめたいと考える理由がない。ロシアもウクライナも、遠くない将来に決定的勝利を収められるかもしれないと期待している可能性があるからだ。

最近、ロシア軍はウクライナ軍の陣地に対してロケット砲による攻撃を強化している。ウクライナ軍のロケット砲はこれより射程が短く、有効な反撃ができていない。

バイデン米大統領は、ロシア軍のものに匹敵する射程を持つロケット砲をウクライナ軍に提供することを表明した。これにより、戦況が大きく変わる可能性がある。

ただし、アメリカからの兵器が到着し、ウクライナ軍がそれを用いるために必要な訓練を終えるまでには、まだしばらく時間がかかる。その間に、ロシア軍の砲撃がウクライナ軍にどの程度の打撃を与えるかが焦点になる。

ロシア側にも不安材料はある。戦争を継続するために不可欠な資源が底を突き始めているのだ。
兵士の数も足りなくなりつつあるし、武器も十分でない(この戦いに投入した戦車の4分の1が既に使用不能になったという)。そして何より士気の低下が深刻だ。

こうした問題点は、プーチン自身よく理解している。最近、軍幹部を少なくとも5人以上解任したことはその表れだ。

しかし、欧米諸国が戦争による経済的打撃に対して我慢の限界に達しつつあることも、プーチンは承知している。
以上の事情を考えると戦争は当分続きそうだ。
この戦争がどこに向かっていて、どちらが勝つのかもまだ見えてきそうにない。【6月6日 Newsweek】
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【ウクライナ「勝利」を支援してきた米・バイデン大統領 「プーチン追放を目指さない」 考えが変わったのか?】
多くの国がウクライナを支援してはいますが、圧倒的影響力を持つのはアメリカの支援です。
アメリカ・バイデン大統領の考え方次第で、この戦争がどのように終わるのかが変わってきます。
一方で、アメリカ・バイデン大統領の考え方はウクライナ現地の戦況によって変わりますし、アメリカ国内事情でも変化します。

基本的には、6月2日ブログ“ウクライナ戦争  議論が出始めた「どのように終わらせるのか?」「落としどころは?」”でも取り上げたように、「勝利」云々よりは早期の停戦を求める独仏に対し、アメリカはウクライナ善戦を背景に、ウクライナの「勝利」(併せて、ロシアの弱体化、あわよくばプーチン失脚)を目指してウクライナ支援を強化している経緯があります。

****米国が新たに見せる「ウクライナ勝利」という目標****
4月25日、キーウ訪問をすませたブリンケン国務長官およびオースティン国防長官はポーランドの国境近くで記者団と会見した。この中で、ブリンケン長官は「ロシアは失敗しつつある、ウクライナは成功しつつある」と述べた。
 
オースティン長官は「彼等(ウクライナ)は勝ちたいという思いでいる。われわれは彼等が勝つことを助けたいという思いでいる。われわれはそのことをやろうとしている」、「ロシアがウクライナに侵攻してなしたようなことを再び出来ない程度にロシアが弱体化することを我々は望んでいる」などと述べた。

そして、ウクライナを助けるために、翌26日にはドイツのラムシュタイン米空軍基地でオースティン長官主催の同盟国・有志国による会合が行われ、ウクライナに対する榴弾砲、戦車など長距離攻撃が可能な兵器を含めこれまで以上に強力な武器支援が申し合わされることとなった。(中略)
 
しかし、オースティン長官の発言は、米国の目標は変わりつつあるのかとの印象を与えた兆候がある。ウクライナの「勝利」を定義しないままでは意味がないが、米国はウクライナが生き残るだけでなく、勝利させることを視野に入れつつあるのではないかとの印象をメディアに与えたようだ。(後略)【5月9日 WEDGE】
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こうしたウクライナ「勝利」(それが何を意味するのかは不明瞭ですが)を目指すアメリカはウクライナ支援を強化してきました。

“米国、武器貸与法が成立 大統領権限を強化、ウクライナに迅速な支援”【5月10日 毎日】
“米、ウクライナ支援へ5兆円予算可決 長期戦視野”【5月20日 産経】

しかし、バイデン大統領は5月31日には、ウクライナにロシア攻撃能力を与えないことを明確にし、「プーチン追放をもたらそうとはしていない」とも発言し、ロシアへの配慮を示しています。

****米国、ウクライナに最新ロケットシステム供与へ 直接介入は否定****
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して「米国や同盟国が攻撃されない限り、米軍部隊をウクライナで戦うために派遣したり、ロシア軍を攻撃したりすることはない」と直接的な軍事介入を改めて否定した。

また「戦争はいずれは外交によって終わるが、あらゆる交渉は地上での(戦闘の)状況を反映するものだ。ウクライナが強い立場で交渉の席につけるように支援する」と述べ、ウクライナに対し、最新の「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」を新たに供与する方針を示した。
 
バイデン氏は、ウクライナ情勢を巡る米国の目標について「ウクライナがさらなる侵略を抑止し、自衛することによって、民主的で独立し、主権を保持し、繁栄したウクライナを実現することだ」と強調した。一方で、「北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの戦争は望んでいない。プーチン氏(露大統領)とは意見の相違があるが、モスクワからの追放をもたらそうとはしていない」として、プーチン政権の転覆が目的ではないと説明した。
 
ウクライナ支援に関しても「国境を越えてウクライナが攻撃することは促さないし、ウクライナに能力も与えない」と強調した。HIMARSは最大射程300キロの砲弾を撃てるが、米政府高官によると、ウクライナに供与する砲弾の射程は最大80キロ程度に抑えた。ウクライナ側も「ロシア領への攻撃には使用しない」と米側に確約したという。(後略)【6月1日 毎日】
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こうしたロシア・プーチン大統領へのアメリカ・バイデン大統領の配慮は、単に過剰にロシアを刺激しないためのものなのか、あるいは、ウクライナ戦争に対する見方の変化を示すものなのか・・・下記は後者の“変化”を指摘する記事です。

****バイデン訪日後に急変。米国がウクライナ援助を“様子見モード”に替えた裏事情****
(中略)
移ろいはじめた各国の思惑―ウクライナ紛争と国際情勢
「プーチン大統領がモスクワに留まることを容認する」「アメリカがウクライナに供与する武器がロシア領内に対して用いられることはない」

今週に入ってバイデン米大統領が突如として打ち出した方針に驚かれた方も多いのではないでしょうか?
根っからのロシアおよびプーチン大統領嫌いで有名なバイデン大統領ですが、この変心とも捉えられる発言に込められた意図はどういったものなのでしょうか。

東京から帰国してから、台湾問題を再度クローズアップさせたり、北朝鮮のミサイル・核開発問題に外交的なエネルギーを割くようになったりと、アメリカ外交安全保障政策の視点の拡大傾向がみられるようになったように思われます。例えるならば、【ロシア・ウクライナ問題と、中国・台湾問題の両にらみ体制の発動】でしょうか。

2月24日にロシアがウクライナ全土に侵攻してから最近まで、欧州各国と連帯を強め、NATOという枠組みを軸にロシア対応をし、外交的なリソースも一気にそちらに集中投入したかのように振舞い、アジアシフトやアフリカ諸国へのコミットメント増大傾向が一旦後退したように見えました。

ただ大方の予想に反してウクライナ“戦争”が長期化の様相を見せると、We stand with Ukrainianという姿勢はアピールし、ロシア嫌いが多いと言われる議会上下院も非常に太っ腹な支援を次々と採択し、ウクライナに提供する武器弾薬のレベルもどんどんアップグレードされ、ロシアとの直接戦争というレッドラインを超える手前まで前のめりになっているように見えました。

しかし、このところウクライナ戦争の長期化に言及する高官の言葉が多く、もしかしたら戦略・アプローチをここにきて変更したのではないかと思われます。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領などからの要請に対して、これまでは驚くほど気前よく応えてきたように見えましたが、先週号でも触れたとおり、アメリカ政府内でもウクライナ政府からの“くれくれ”攻撃にうんざりし、いくら支援してもゼレンスキー大統領やクレバ外相からは「まだまだ足りない」と本気度を疑うような非難をされることに対して、徐々に政府内での“ウクライナ離れ”が始まっているように思われます。

そこにアメリカ国内の人権擁護団体から、ウクライナに対してアメリカなどが供与している武器弾薬がロシアの一般人の殺害にも用いられているとの疑いが投げかけられ、おまけにロシアへの攻撃用にも用いられているとの指摘が寄せられていることに、人権第一を旗印に掲げるバイデン政権としては、イケイケどんどんな支援傾向に少しブレーキがかかったように見えます。(中略)

今週発表されたハイマース(高機動ロケット砲システム)のウクライナへの供与は一見すると、アメリカの軍事支援のアップグレード、言い換えればエスカレーション傾向の継続とも認識できますが、もともとゼレンスキー大統領が要請していたのは射程300キロメートル超のロケット砲であり(その後、「少なくとも100キロメートル射程のもの」と要求を下げた)、ハイマースが80キロメートル射程であることからも、政権と軍部としてぎりぎりの線を模索している様子が覗えます。

そしてさらにハイマースの供与条件として、「ロシア領内への攻撃に使用することは許容しない」との文言が、わざわざ加えられ、ウクライナ政府に対して突き付けたことからも、少しアメリカ政府がロシア・ウクライナ戦争に対する間接介入の度合いを下げたことが読み取れます。

しかし、ロシアとウクライナの戦闘は一進一退を繰り返している膠着状態であることには変わりがなく、ウクライナをロシアによる侵攻から守るのであれば欧米諸国によるさらなる後押しが必要だと考えますが、その“さらなる後押し”を、どうもアメリカ政府はじわりじわりNATOという枠組みを用いて欧州各国にバランスを移し始めようとしているように見えます。

その表れがスウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟への決意をこれでもかというほど持ち上げて、大統領自ら太鼓判を押すというパフォーマンスまで行って、【ロシア対策はやはり元々の設立目的に沿ってNATOに委ねるべきであり、ロシアに対して直接的な安全保障上のリスクに直面する欧州が、それぞれの現実に基づいて対応すべき】というように、【アメリカによる支援】という形式から【NATOを通じた、特に欧州各国による支援】という形態に変えようとしているように思われます。

メインプレーヤーから、様子見モードへの転換とでもいえるでしょうか。

さらに大きな変化の証とも言えるのが、【プーチン大統領がモスクワに留まること(つまり政権と体制の維持)をアメリカは否定しない】という方針転換でしょう。

これは武器供与のエスカレーション傾向が、望まない米ロ直接戦争の引き金になりかねないとの懸念から、態度を軟化させたものと言われていますが、未確認情報ながら伝わってきた内容では、どうも今週、どこかでバイデン大統領とプーチン大統領の間で電話またはオンラインでの会談が行われたらしいとのことです。

真偽のほどは不明ですが、もし正しい情報なら…。いろいろと妄想したくなります。(後略)【6月6日 島田久仁彦氏 MAG2NEWS】
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バイデン大統領の方針には、6月2日ブログでも取り上げたアメリカ国内事情・世論が影響します。
アメリカ世論は、民主主義を守るためのウクライナでの戦争支援よりは、「早くガソリン価格を何とかしろ!」に傾きつつあります。

【早期の停戦を望む独仏伊】
“アメリカからじわりじわりと責任を押し付けられそうな欧州”【同上】は・・・・これも6月2日ブログでも取り上げたように域内で温度差があります。

地理的にも近く、経済的にも深い関係にある欧州は、“ロシアの脅威”を前面に出すにせよ、“ロシアとの関係”を重視するにせよ、アメリカよりは切実です。

“ロシアの脅威”から対ロシア強硬姿勢を貫くポーランドやバルト3国に対し、経済的つながりも強く自国経済への打撃を重視する独仏伊は「停戦」の早期実現を望んでいます。

安全保障の観点からしても、独仏の本音は、ウクライナ戦争後にプーチンという統率者を失った手負いのロシアと対峙するよりは、プーチンにコントロールされたロシアと秩序ある関係を維持したいといったところでしょう。

“すでにショルツ首相(ドイツ)、マクロン大統領(フランス)、ドラギ首相(イタリア)も単独、または共同でプーチン大統領と会談を始めていますし、ゼレンスキー大統領に対しても交渉のテーブルに就く条件の軟化を促しているようです。”【前出 MAG2NEWS】

ウクライナ・ゼレンスキー大統領からすれば、マクロン仏大統領などがウクライナに相談することなく、頭越しでプーチン大統領と「停戦」について語り合うというのは許しがたいところでしょう。

そんなウクライナのフランスへの“怒り”が今日も報じられています。

****ウクライナが反発、仏大統領の「ロシアに屈辱与えてはならない」発言に****
ウクライナのクレバ外相は4日、マクロン仏大統領が「ロシアに屈辱を与えない」ことが重要だと述べたことについて、フランスに屈辱をもたらすだけだと反論した。

マクロン氏は4日付の地元紙とのインタビューで「戦闘が終わった時に外交的手段を通じて出口が築けるよう、われわれはロシアに屈辱を与えてはならない」とし、「仲介者になるのがフランスの役割だと確信している」と述べた。

これに対してクレバ氏はツイッターで「ロシアの屈辱を避けるための呼びかけは、フランスとそれを求める他の全ての国に屈辱をもたらすだけだ」と批判した。【6月6日 ロイター】
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国土を廃墟にしながらもロシアと戦火を交えているウクライナにすれば、「ロシアに屈辱を与えない」云々は後ろから弾を撃たれるようなものでしょう。

とは言え、フランスにはフランスの、アメリカにはアメリカの、日本には日本の立場があるというのも、これまた当然のところです。
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ミャンマー  弾圧姿勢を強める国軍支配 民主派活動家の死刑執行へ

2022-06-05 23:01:07 | ミャンマー
(AAPP(ミャンマー政治犯支援協会)が公表している国軍支配による犠牲者 一番上の1887人が死者、二番目の13959人が拘束者、その下は今も拘束されている者、一番下は解放された者の数の推移【6月4日 Newsweek】)

【野放しのままの国軍による人権侵害】
ウクライナでの戦争は世界が対応すべき重大な問題ですが、その他の多くの紛争・混乱・弾圧がウクライナ問題の陰に隠れてしまっているという問題が起きているようにも。

ミャンマー国軍の力による統治もそのひとつ。
ミャンマーの状況については、4月16日ブログ“ミャンマー ウクライナの陰で忘れられる抵抗 「声明はもういらない。行動を」日本への失望の声も”でも取り上げたところです。

****やりたい放題のミャンマー軍事政権──国際社会はこちらの「惨状」も見過ごすな****
4月4日の朝、ミャンマー南東部カイン州(旧カレン州)のコーカレイ地区で暮らす住民は、激しい砲撃で目を覚ました。ミャンマー軍事政権の政府軍による攻撃だ。

17歳の少女が砲弾に当たって病院に運ばれる途中で死亡し、ほかにも4人が重傷を負った。ミャンマー南東部では、民間人に対する政府軍の執拗で激しい攻撃が続いている。

少数民族カレンの反政府組織カレン民族同盟(KNU)の軍事部門であるカレン民族解放軍(KNLA)によれば、KNLA支配地域のキェイクとパイカルドンは政府軍の戦闘機による攻撃を繰り返し受け、この1カ月でおよそ600人の住人が避難せざるを得なくなった。

ミャンマーでは、こうした痛ましい出来事が相次いで起きている。政府軍は、機関銃や高性能の兵器で民間人の居住地域を攻撃することを躊躇しない。政府軍が化学兵器を用いたという報告もある。

ミャンマーの軍事政権は、罪のない人々を意図的に標的にしている。コーカレイ地区だけでも、3月末までに合計1万2177人が強制的に住居を追い立てられた。

無差別攻撃だけでなく、現金や所持品の没収も
「モンランド人権基金(HURFOM)」は数十年間にわたり、ミャンマー南東部、特にモン州とカイン州、そしてタニンダーリ地域の人権侵害を調査してきた。

同基金によると、昨年2月1日のクーデターで国軍が全権を掌握して以降、民間人への残虐行為が著しく増加しているという。

民間人は、無差別攻撃の標的になっているだけではない。検問所で現金や所持品を没収されることも珍しくない。
軍事政権に奪われたオートバイは少なくとも500台に上る。携帯電話を没収されて、軍事政権に対抗する民主化運動に関わっている証拠がないか調べられることも多い。

所在が分からなくなる人も増えている。人権活動家は攻撃にさらされ、しばしば国外に亡命せざるを得なくなっている。HURFOMによれば、3月末までに67人以上が逮捕され、50人以上が不法に身柄を拘束され、23人が負傷し、8人が死亡したという。

軍事政権の攻撃は子供たちの命も奪っている。3月29日、政府軍とKNLAが衝突した際、政府軍がモン州タトン地区の村を長距離重砲で砲撃した。これにより8歳と6歳の兄弟が命を落としている。

今こそ国際社会が責任を問うとき
このような状況で、国境を越えてタイ領内に逃れる人が再び増加している。しかし、避難民に対するタイ当局の対応は人道的なものとは言い難い。

国境を流れるモエイ川沿いにつくられた仮設の避難所は、大雨で簡単に損壊する。清潔な飲み水と食料が不足しているため、特に子供と高齢者の間で病気も蔓延している。

HURFOMの報告から判断すると、国際社会が厳しい反応を示して介入し、軍事政権の責任を問わない限り、ミャンマー南東部の人権侵害は野放しのままになるだろう。

それでも、アメリカでは最近ようやく、懸案の「ビルマ法」の法案が下院を通過した。この法案は、軍事政権への制裁を強化し、人権団体への支援を拡充させることを可能にするものだ。

世界の国々や国連機関は、ミャンマー軍事政権に対する国際的な武器禁輸、飛行禁止空域の設定、ミャンマーにおける人権侵害行為の国際刑事裁判所への付託に動くべきだ。

国際社会が積極的に行動しなければ、罪なき市民の命が奪われ続けることになる。【4月28日 ナイ・アウエ・モン(HURFOMプログラム責任者)、マギー・クアドリーニ(人権活動家) Newsweek】
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【現地情勢は日本関連事業にも影響】
軍事政権に対し制裁を課す欧米とは一線を画し、ミャンマーに深く関わってきて、経済的つながりも深い日本は、よく言えば軍事政権とも関係を途絶させず、事態の改善に関われるポジションを維持している、悪く言えば、ミャンマーに有する利権を守るため(あるいは、中国にその利権を奪われないようにするため)軍事政権に宥和的対応をしているという独自の立場にあります。

その日本がミャンマーで行っている事業も、国軍と民主派抵抗勢力の抗争の影響を受けています。

****日本支援の鉄道事業中断 爆発相次ぐ、ミャンマー****
日本の円借款で進むミャンマーの鉄道改修事業の一部工区で今年1〜3月に爆発があり、工事が中断していることが29日分かった。けが人はいなかった。

ミャンマー軍政は昨年2月のクーデター前から続く同事業をインフラ開発の柱の一つに位置付けており、民主派武装勢力が妨害を図った可能性が高い。事業の本格再開は安全が確保されてからとなる見通し。
 
ミャンマーでは地方を中心に民主派勢力が国軍にゲリラ攻撃を仕掛け、混乱が続いている。事業主体の国際協力機構(JICA)は「工事の稼働状況に関する回答は差し控えたい」としている。【4月29日 共同】
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****ENEOS、ミャンマーのガス開発事業から撤退****
ENEOSホールディングスは2日、ミャンマーでの天然ガス開発プロジェクトから撤退すると発表した。共同事業者であるマレーシアとタイの企業も先週、撤退を表明している。
 
ENEOSは、傘下のJX石油開発を通じ、ミャンマー南部イエタグンガス田で20年間にわたって操業してきた。このプロジェクトには、日本政府と三菱商事も出資している。
 
ENEOSは、社会問題への対応を含む現在のミャンマー情勢および技術的な評価に基づく採算性を検討した結果、撤退を決定したと説明している。
 
資源エネルギー庁の担当者はAFPに対し、政府もENEOSと同じ立場だと述べた。同ガス田事業は過去10年、生産量が減少していたという。
 
マレーシアの国営石油ペトロナスとタイ国営石油開発PTTEPは4月29日、プロジェクトからの撤退を表明。ペトロナスは子会社チャリガリを通じて41%、PTTEPは19.3%をそれぞれ出資していた。
 
日本はミャンマーの主要な経済支援国で、長期にわたり国軍と関係を維持してきた。昨年2月の国軍によるクーデター後、新規支援の停止を発表したが、軍や警察の個人を対象とした制裁には踏み切っていない。 【5月2日 AFP】
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【国軍、米ASEAN首脳会議に反発 一方、ロシアに接近する国軍】
ASEANは、シンガポールやマレーシア、インドネシアが関与に国軍支配に批判的なのに対し、軍部由来の政権のタイや一党支配のもとで人権問題を抱えるベトナムは内政不干渉を主張するなど、またカンボジアやラオスは中国の影響が強いなど温度差が目立ち、有効な対策が取れていません。

軍事政権に宥和的な議長国カンボジアのもとで、ようやく特使派遣は実現したものの、軍事政権の考えの代弁に終わった感も。

そのASEANもアメリカとの関係もあって、米ASEAN首脳会議においては一応ミャンマー情勢に「深い懸念」を表明していますが、ミャンマーは激しく反発しています。

****米ASEAN首脳会議の共同声明「深い懸念」に、ミャンマー国軍反発「内政干渉、断固拒否」****
ミャンマーの国軍当局は14日、米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)による首脳会議の共同声明に「ミャンマー危機への深い懸念」が盛り込まれたことに反発し、「内政干渉で断固拒否する」と表明した。
 
共同声明は、暴力の即時停止や全当事者間の対話開始など、ASEANの5項目合意の完全履行などを要請。拘束中の全政治犯の解放にも言及し、国軍は「合意内容を超え、受け入れがたい」と訴えた。
 
首脳会議はミャンマー代表不在で開催されたが、国軍は「非政治的な人物を招待され、平等の原則に反するため参加しなかった」とし、ボイコットだったと強調した。
 
一方、会場の米ワシントンで、民主派による挙国一致政府(NUG)の外相ジンマーアウン氏が、シャーマン米国務副長官らと対面で会談したことにも敏感に反応し、「最も強い言葉で抗議する」と批判した。「NUGや関連団体はテロを首謀し、騒動を扇動している」と主張し、NUGを含めた打開策を提唱しているマレーシアなどをけん制した。【5月15日 東京】
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一方、ミャンマー軍事政権は、欧米から同じように制裁を受けるロシアと接近しているようです。
ミャンマー国軍はもともと武器輸入でロシアと親密な関係にありましたが、ここにきて、燃料の輸入や経済協力が加わってきているようです。

3月末、ロシア主導のユーラシア経済連合がミャンマー経済省庁と会談。石油・ガス、肥料、農業機械などの取引が話し合われたようです。

4月末には、ミャンマーの国軍トップ、ミンアウンライン司令官がロシア連邦の一つでトラック製造の大手カマズの本社があるタタールスタン共和国を訪問、その後、カマズがミャンマーでトラック生産をはじめると発表。

5月に入るとロシアからの燃料輸入協議が始まり、国軍系銀行2行とロシアの銀行との提携も発表されています。

【強まる民主派への弾圧姿勢 民主活動家ら4人の死刑承認】
ミャンマー国内では爆発事件も。

****ヤンゴンで爆発、1人死亡=国軍と民主派が互いに非難―ミャンマー****
クーデターで国軍が権力を握ったミャンマーの最大都市ヤンゴンのバス停で(5月)31日、爆弾がさく裂し、国軍によると男性1人が死亡、9人が負傷した。犯行声明は出ていない。

国軍は民主派が結成した「国民防衛隊」が手製爆弾を設置したと主張。これに対し、国軍に対抗して民主派が立ち上げた「国民統一政府」は「国軍は無分別に爆破や市民殺害を続けている」と訴える声明を出した。【6月1日 時事】 
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事件の真相はわかりませんが、民主派側が一般市民を対象にしたテロを行うメリットは思い付きません。
一方AAPP(ミャンマー政治犯支援協会)の発表によれば、国軍支配のもとで、1887人の一般人が殺害され、13959人が政治犯などとして不当に拘束されているとのことです。
【6月4日 “ミャンマー最大都市ヤンゴン中心部で爆発10人死傷の事件について” Newsweek】

国軍側は民主派への弾圧姿勢を強めています。

****ミャンマー国軍、民主活動家ら4人の死刑承認 執行なら46年ぶり****
ミャンマー国軍のゾーミントゥン報道官は3日、テロ行為などにかかわったとして国軍が設置した軍事法廷から死刑判決を受けた国民民主連盟(NLD)元議員らの上訴が棄却され、4人の死刑執行が承認されたと明らかにした。複数の地元メディアが報じた。
 
インターネットメディアのイラワジによると、死刑が執行されれば政治犯としては1976年以来になる。執行日は未定。
 
死刑が承認されたのは、アウンサンスーチー氏率いるNLDに所属していたピョーゼヤトー元議員と、著名民主活動家チョーミンユ氏。いずれも今年1月に死刑判決を受けた。他に国軍への情報提供を疑って女性を殺害したとして有罪認定された男性2人の死刑執行も承認された。【6月4日 毎日】
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“軍事政権のゾーミントゥン報道官はAFPに対し、4人が「刑務所の手続きに従って絞首刑になる」と説明。執行日は未定だとした。”【6月4日 AFP】

【ミャンマー国内情勢以上に忘れられがちなロヒンギャ問題】
以上は、最近のミャンマー情勢でしたが、ミャンマー国内事情以上に国際世論から忘れ去られがちなのが、国軍の暴力・殺戮・レイプ・放火により民族浄化的に隣国バングラデシュに追放されたイスラム系少数民族ロヒンギャの件。

****ロヒンギャ59人、孤島置き去り=密航業者に1人15万円―タイ****
タイ南部の孤島で4日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ59人が見つかった。ロヒンギャらはタイ警察に対し、マレーシアに向かう途中、密航業者に置き去りにされたと話している。
 
子供5人を含む59人は、マレーシアとの国境に近いドン島で発見された。5日に事情聴取したタイ警察に対し、ミャンマーとバングラデシュから178人で出発し、マレーシアの通貨で1人当たり5000リンギ(約15万円)を密航業者に支払ったと説明した。
 
ロヒンギャは2グループに分けられ、119人はマレーシアで逮捕された。59人は密航船の乗員に「マレーシアに着いた」と言われ、ドン島で降ろされたという。【6月5日 時事】
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日本  止まらない少子化 推計より早いペース テクニカルな対処として「卵子凍結」支援の企業も

2022-06-04 23:18:32 | 人口問題
(【6月3日 毎日】)

【国の推計より早いペースで進む少子化】
長期的に見て日本が抱える最大の課題は中国でも、北朝鮮でもなく、日本自体の少子化、高齢化、それに並行して進む社会の活力の低下でしょう。

その少子化の流れが止まりません。

****昨年出生数、過去最少の81万人=人口自然減は60万人超―厚労省****
厚生労働省は3日、2021年の人口動態統計を公表した。出生数は前年から2万9231人(3.5%)減り、過去最少の81万1604人となった。1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す合計特殊出生率は1.30と、前年より0.03ポイント低下。6年連続の減少で、過去4番目の低さだった。
 
死亡数から出生数を引いた人口自然減は、62万8205人と初めて60万人を超えた。婚姻数は前年から2万4391組減り、戦後最少の50万1116組に落ち込んだ。
 
出生数の減少について、厚労省の担当者は「15~49歳の女性の人口が1.8%減った上、20代母の出生率が低下していることが要因」と分析。新型コロナウイルス下で結婚や妊娠を控える傾向にあったことも影響したとみている。【6月3日 時事】
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日本の少子化・人口減少は政府予測を上回るペースで進んでいます。

国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計で出生数に関して、政府が将来計画で通常使う予測値(中位)では2021年に86.9万人、予測値(低位)は75.6万人としていました。現実はほぼこの中間ぐらいで進行しています。

また、中位予測では81万人台の前半になるのは2027年と見込んでいましたので、想定より6年早くそのレベルにまで減少しています。また、日本人の人口が1億人を切るのは2049年と想定されていましたが、それも早まりそうです。

****出生数81万人 国力低下を阻む道筋示せ****
令和3年に生まれた子供の数(出生数)が81万1604人と6年連続で過去最少を更新したことが、厚生労働省の人口動態統計(概数)で分かった。80万人を割るのは時間の問題で、事態は深刻の度を増している。

だが、岸田文雄首相から危機感が伝わってこない。首相は夏の参院選で打開への道筋と人口構造に見合う国の在り方を示すべきである。

女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」も1・3と6年連続で低下した。政府は若い世代が希望通りの数の子供を持てる「希望出生率1・8」を目標に掲げているが、遠ざかるばかりだ。むしろ過去最低である平成17年の1・26に近づいている。

令和24年に高齢者人口がピークを迎える中、社会保障制度の担い手である現役世代の負担が過重になれば、制度の持続性が確保できないばかりか、国力低下に拍車がかかりかねない。

もっとも、出生率が多少上向いたとしても、出産期の女性人口そのものが減少傾向にあるため、出生数が一朝一夕に改善する見込みはない。特効薬はなく、長期戦を覚悟しなければならない。

こうした事態を招いた責任は、社会全体にある。原因として若年世代の未婚化、晩婚化が指摘されるが、その背景には、日本社会を覆う将来の暮らしへの不安があることを忘れてはならない。

第1次ベビーブームの昭和24年の出生数は約270万人で、第2次ブームの48年は約210万人だった。だが、平成に入り長期的な経済停滞に陥った日本社会に、期待された3度目のブームが訪れることはなかった。かつての政府に第3次は来るものと楽観する向きがあったことは否めない。【6月4日 産経】
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まあ、【産経】が憂うのも無理からぬところで、電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏のSNSも話題になりました。

****イーロン・マスク氏が警鐘「日本はいずれ消滅するだろう」加速する日本の人口減をあやぶむ***
米SNS大手ツイッターの買収で合意した電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏(50)が、日本の出生率の低下に「いずれ日本は消滅するだろう」とツイートし、加速する日本の人口減に警告を鳴らした。

総務省が先日発表した2021年の人口推移で人口の減少幅が過去最高となり、死者数が出生数を上回ったことを伝える英語の記事について7日、「当たり前のことを言うようだが、出世率が死亡率を超える変化がない限り、日本はいずれ消滅するだろう。それは世界にとって大きな損失となる」とコメントしたもので、このツイートは米金融系ニュースサイトでも「マスク氏が日本に警鐘を鳴らす」と取り上げられている。

マスク氏はこれまでも、「問題は2050年までに世界人口は高齢化と減少することであり、人口過多ではない」と語り、国連の予想は的外れだと非難するなど、人口減少に警鐘を鳴らしてきたことで知られる。2019年のインタビューでは、今後30年ほどで世界人口の年齢構造は逆ピラミッド型になっていくと述べていた。(後略)【5月9日 日刊スポーツ】
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日本人にとってはマスク氏のツイート内容は“今更”のことで、驚きも何もありません。

なお、マスク氏はその後、日本よりもっと危ない国があることに気付いたらしく、“テスラCEO「韓国、世界で最速の人口崩壊」 低い出生率に警鐘”【5月27日 聯合ニュース】と、韓国についてもツイートしています。

世界銀行が各国・地域の「合計特殊出生率」をまとめたランキング表では、韓国の合計特殊出生率0.84人で200位、香港が0.87人で199位です。日本としては「下には下がある」と、ちょっと安心するところも。

韓国の“合計特殊出生率0.84人”も“今更”のもので、私はいつも「日韓はいがみ合っているが、どうせ両国ともそのうち消滅する国家だ」と言っているところです。

ただ、“消滅する”とばかりも言っておられないので、山ほどある少子化についての議論のなかで、比較的最近目にした大前研一氏の指摘をひとつだけあげておきます。

****「人口減少」過去最大に 日本の政治家が少子化問題を解決できない理由****
(中略)政治家が関心を持っているのは、いま目の前の政治アジェンダだけで、そんなことをやっているとあっという間に選挙が来てしまいますから、オリンピックをどうするかとか、新型コロナ対策はどうするかといった話に終始して、本来なら5年10年かけていろいろ準備して進めなければいけない問題に取り組もうというような政治家はいません。今の政治家たちの政策の時間軸というのは、おそらく数か月程度ではないかと思います。
 
しかし、(中略)この問題の根本的な解決なしには日本の“老衰”はいつまで経っても止まりません。

少子化を加速させる4つの要因
もともとこの問題の背景には「未婚・晩婚化」という著しい傾向が出ていることがありますが、未解決のままとなっています。(中略)

もう1つ大きな問題として、配偶者がいる女性の出生率が低下しつつあります。(中略)

これは結局、結婚していない人が増えているということと、もう1つは晩婚化が進んだことによって高齢出産が増え、年齢的に2人目の子供を産むことができなくなっていると考えられます。
 
また、男性の長時間労働が慣行となっているため、夫が育児参加する率が低く、女性の「ワンオペ育児」が問題になっています。(中略)女性のワンオペ育児というのは、育児、家事に加えて共働きで働いているというケースも出てきています。そうなると、とてもじゃないけれどやっていられないということで、子供2人なんてどだい無理だとなってしまいます。
 
3つ目は、出産・育児支援制度の不備が挙げられます。たとえば、OECD平均ではGDPの2.34%を家族問題に使っていますが、日本はその平均を下回っています。加えて待機児童の問題や不妊治療の所得制限などがあって、出産・育児のために国が全面的に支援するという形にはなっていないと言われます。
 
さらに、もう1つ大きな問題が戸籍制度です。結婚していないカップルの場合、子供が生まれても戸籍に入れられずに「非嫡出子」という扱いになる恐れがあって、妊娠しても結婚していないから子供を産めないとか、産んでも父親の戸籍に入れられないから可哀想だということになります。
 
かてて加えて、新型コロナ禍によって、結婚の件数も大幅に減っている上、妊娠の届け出というのが、前年に比べて5.1%減っています(2020年1〜10月)。つまり、新型コロナ禍で感染リスクを懸念して、結婚・妊娠・出産を控える動きが目立ってきているというのが4つ目の要因です。(後略)
※大前研一『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館)より一部抜粋・再構成【4月29日 NEWSポストセブン】
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出産・育児支援制度の拡充は最低限の取り組みですが、それだけでは限界があり、基本的には男女の育児・家事に関する意識の改革、「非嫡出子」の制度的・社会的容認といった、すでに実態をなくしている「伝統的家族観」からの脱却を進める必要だと考えています。更に人口減を食い止める移民の容認も。

こういう話に批判的な人は、「そんなことしなくても・・・・」といろいろ言いますが、そういう現実離れした言い逃れの結果が今の状況であり、現状を打破するつもりなら、これまでの社会・意識を抜本的に変える改革が必要とも思っています。

ちなみに、少子化は日本や韓国だけでなく多くの先進国が抱える問題。
“イタリア出生数、昨年は1861年の統一以来最低 12年連続減”【2021年12月15日 ロイター】
“子供10人以上なら「母親英雄」…人口減へ危機感、プーチン氏がソ連時代の制度復活”【6月3日 読売】
人類の栄枯盛衰の歴史の一コマか・・・という達観も・・・。

【増加する「卵子凍結」支援】
そうしたなかで、前述のように日本以上に深刻な韓国では子どもを産む女性が減り、たとえ産む意思がある場合でも、住居費と子どもの教育費が高騰しており、財政的な余裕を確保することが先決だから出産を後回しにする傾向が強まっています。

そうした問題へのテクニカルな対処方法として、卵子を凍結して出産のための時間を稼ぐ選択をする女性が増えているそうです。

卵子凍結に関しては、日本でも支援する企業も増えているとか。

****卵子凍結、企業で支援広がる メルカリやデロイトなど***
将来の妊娠・出産に備える「卵子凍結」を支援する企業が増えている。メルカリは5月に卵子凍結にかかる費用を負担する福利厚生制度を正式に導入した。米IT(情報技術)大手に続いて日本でもコンサルや化粧品メーカーなど業種を問わず支援が進む。女性特有の悩みや不安に向き合う制度を導入し、優秀な人材の獲得や定着を促す狙いがある。

メルカリは採卵や凍結保管などに関わる費用の一部を負担する。不妊治療が必要な社員を対象とした妊活サポートの一環で、上限は200万円だ。社員の配偶者やパートナーも支援対象となる。2021年に試験導入していたが、想定以上の需要があったことから正式導入した。

女性特有の悩み
日本生殖医学会によると、不妊の頻度は25歳~29歳で8.9%だが、35~39歳では21.9%まで上昇する。キャリア形成で重要な時期と妊娠適齢期が重なることは、女性特有の悩みだ。将来、子供を持ちたいと考えていてもパートナーがいなかったり、仕事にまい進したい場合もある。

卵子凍結は妊娠の可能性が高い時期に採卵し、将来の妊娠に備えて液体窒素で凍結保存する仕組みだ。検査から卵子凍結まで1~2カ月かかる。クリニックによってばらつきはあるが、一連の費用は平均30万~100万円、採卵した卵子1個につき保管費用が年1万円程度かかる。35歳までに採卵することが推奨されているものの、20~30代には高額で負担が大きい。

年齢が上がると母体への危険性が高まるのは変わらないが、妊娠しやすい若い頃の卵子を妊娠したいタイミングで使える。

一方で卵子凍結は出産を保証するものではなく、身体的な負担もある。日本生殖医学会は13年に加齢などを理由に卵子凍結を容認したが、日本産科婦人科学会の専門委員会は15年に「推奨しない」との見解を示した。

リスクがあったとしても、女性にとって人生設計の選択肢があることは不安の軽減につながる。メルカリは「選択肢の提供で不安を軽減し、思い切り働ける環境を用意することを重視している」と導入の目的を説明する。(中略)

米企業の導入2割
卵子の凍結支援で先行するのは米国だ。14年に米メタ(旧フェイスブック)が導入して以降、IT企業を中心に普及した。20年時点で従業員2万人以上の米国企業の約2割が、卵子凍結を支援している。国の社会保障制度が手薄な米国では、企業が優秀な人材を確保するために手厚い支援に積極的とされる。

労働政策研究・研修機構の調査によると、会社を選ぶ際に福利厚生を重視したかという質問に、20代の女性55%が重視すると応えた。男性より約8ポイント高い。30代でも同様の傾向が見られ、男性より女性の方が会社選びで福利厚生を重視する傾向にある。女性が福利厚生を重視するのは、現状では育児や出産などで女性の負担が大きいためだ。(中略)

遅れる実態把握
卵子凍結をめぐっては、専門家の意見が分かれている。日本生殖医学会は利用者の広がりを受けて、加齢などを理由にした卵子凍結を容認している。2013年にガイドラインを定め、実施施設の要件や採卵時の年齢に関する指針を示した。凍結保存した卵子の使用年齢について45歳以上は推奨できないとし、18年には採卵時の年齢は「36歳未満が望ましい」と明記した。

一方で、日本産科婦人科学会の専門委員会は15年に身体への負担や、高齢出産を招く可能性があるといった理由で「推奨しない」との立場をとった。厚生労働省も健康な女性の卵子凍結を、「医療行為にあたらず推奨できない」としている。

ただ卵子凍結という医療行為自体は国も認めている。がんなどの治療前に卵子を保存する医療目的の場合は、不妊治療として認めており、助成制度もある。利用者の実態把握に向けて、日本がん・生殖医療学会は凍結保存した患者の情報登録システムの運用を1月から始めた。(中略)
適齢期までにパートナーがいなかったり、子供をもつ準備が整わなかったりする場合に備えた卵子凍結は、プレコンセプションケアの一環と捉える動きもある。実態把握を通じて、官民で多様な選択肢を与える環境を整備することが重要だろう。【5月31日 日経産業新聞】
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パキスタン  TTP無期限停戦 シャリフ首相のもとで対米関係改善? 課題は治安と財政・インフレ

2022-06-03 23:05:24 | アフガン・パキスタン
(パキスタン石油ディーラー協会(PPDA)は2021年11月24日、政府が毎月決めるガソリン公定価格では利益が少な過ぎるとして、加盟ガソリンスタンドの全国ストライキを25日から開始すると発表した。これにより、各地のガソリンスタンドは、一部の大手石油流通系スタンドを除いて休業することとなり、ガソリンを求める自動車やバイクで大変な混雑となった。【2021年11月26日 JETRO】)

【TTP 無期限停戦を発表】
パキスタン、アフガニスタンのタリバン、そしてパキスタン国内で反政府武装闘争を行うイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP))」の三者の微妙な関係・・・タリバンを生み育てのはパキスタンの軍情報機関であるが最近は利害が衝突することも、タリバンとTTPは同じイスラム原理主義でつながっている、そのTTPとパキスタン軍は激しい敵対関係にある・・・などの関係については、4月18日ブログ“パキスタン アフガニスタンを空爆 TTPをめぐる微妙な関係”でも取り上げました。

そのなかで、タリバンが仲介してのパキスタンとTTPの停戦がなされたこと、しかしその後、停戦が終了したことにも触れましたが、5月に再びタリバン仲介で停戦が実現しています。

****武装勢力が一時停戦表明 パキスタン、タリバン仲介****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」は18日、同国政府との今月30日までの一時停戦を表明した。TTPと関係が深い隣国アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が仲介し、和平に向けて協議している。協議が進展するかは不透明。
 
タリバン暫定政権のムジャヒド報道官は、首都カブールでTTPとパキスタン政府の協議が行われたとツイートした。
 
双方は昨年11月にもタリバンの仲介で1カ月の停戦に合意したが、TTPが12月に停戦延長を拒否。戦闘が再燃した。パキスタン政府は今回の停戦について確認していない。【5月18日 共同】
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上記停戦は5月30日期限で成立しましたが、更にTTPは停戦を“無期限延長”すると発表しています。

****「無期限停戦」を宣言 パキスタンのタリバン****
パキスタンのイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は2日、アフガニスタンの首都カブールで行われていた和平交渉で「実質的進展」があったとして、パキスタン政府との無期限停戦を宣言した。これまでの停戦合意は5月30日までだった。【6月3日 時事】
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パキスタンでは3~4月に政変が起き、司法を巻き込んだ政治的混乱のなかでカーン前首相が退陣し、ナワズ・シャリフ元首相の弟であるシャバズ・シャリフ氏が首相に選出されています。背景にはカーン前首相とパキスタン政治を左右する軍部との関係が悪化したことが指摘もされています。

****パキスタンで巻き起こる政治的・憲法的危機****
パキスタンは、政治的・憲法的危機に陥っていた。

3月8日、野党がイムラン・カーン首相(当時)に対する不信任動議を提出し、その後の多数派工作により動議可決に必要な過半数の172票を確保したと見られるに至ったが、4月3日、不信任動議で解任されることを嫌うカーンが(過去に任期を全うした首相はいないが、不信任動議で解任された首相もいない)、不信任動議は外国政府の介入によるものだとして動議を却下させ、次いで下院を解散させて選挙に持ち込むことになった。

ところが、4月7日、パキスタンの最高裁判所は5人の裁判官の一致した判断として、カーンに対する不信任投票の却下、下院の解散、および選挙の実施は憲法違反との判決を言い渡した。

これを受けて、下院は――14時間におよぶカーンの党の妨害行動の後――10日の未明に過半数を超える174票をもって不信任案を可決した。
 
次いで、翌11日、カーンの党が退席した下院で、最大野党「パキスタン・ムスリム連盟ナワズ・シャリフ派(PML-N)」のシャバズ・シャリフが首相に選出された。

彼は、かつて3度もパキスタンの首相を務めたナワズ・シャリフの弟である。第二野党「パキスタン人民党(PPP)」のビラワル・ブットー・ザルダリ(元首相ベナジール・ブットーの子息)も当面シャバズ・シャリフに協力する意向のようである。(中略)【4月28日 WEDGE】
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「パキスタン人民党(PPP)」や爆死したブット元首相の名前を久しぶりに目にしましたが、息子が政界で活動しているようです。

【シャリフ新首相 中国との「中国・パキスタン経済回廊」を再生させながら、アメリカとも関係改善を目指す】
カーン前首相がアメリカへの批判的な発言が目立ったのに対し、シャリフ首相は良好な対米関係を築く意向を示しています。同時に、兄のナワズ・シャリフ元首相が始めた中国支援による「中国・パキスタン経済回廊」を推進するのではとも指摘されています。

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70歳のシャバズ・シャリフにカリスマ性はないが、有能な行政官との評はあるようである。軍との関係も悪くない。

彼にとっての緊急の課題は経済の立て直しである。国際通貨基金(IMF)支援プログラムに基づく援助は、カーンが2月にIMFとの事前の了解のないまま燃料と電気の補助金を導入したことで停止されているが、この支援プログラム再生のための交渉も当面の課題である。

中国・パキスタン経済回廊の復活か
中国は今回の成り行きを歓迎しているに違いない。シャバズ・シャリフは「中国・パキスタン経済回廊」を再生させると述べているが――管理の不手際か、それともパキスタンが巨額の債務に怖気づいたのか明らかでないが、カーンの時代に幾つかのプロジェクトが停滞した――このプロジェクトはナワズ・シャリフが首相の時代に始まったものである。
 
ジャバズ・シャリフは、米国との関係を修復すると述べた。少なくともカーン流の過激な反米レトリック(例えば、タリバンがカブールを制圧して米国が支援する政権を倒した日の翌日、カーンは「(アフガン国民は)奴隷の鎖を断ち切った」と述べたことがある)は影を潜めるであろう。しかし、それだけでカーンとの会談を拒んでいたバイデンがシャバズ・シャリフと電話で会談する気になるかは疑わしい。【同上】
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【ウクライナ問題でロシア寄りの前政権からの方針転換】
アメリカとの関係改善はまだよくわかりませんが、ウクライナ支援で前政権とは異なる独自路線を打ち出しています。

****パキスタン新政権 ウクライナに支援物資 前政権との違い鮮明に****
パキスタンで2日、ウクライナに送る人道支援物資の引き渡し式が行われました。前政権がロシア寄りの姿勢を示してきたのに対し、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。引き渡し式は、パキスタンの首都イスラマバードの近郊ラワルピンディの空軍基地で行われました。

毛布や医薬品などの人道支援物資7.5トンを輸送機に積んで、3日、ウクライナの隣国ポーランドに向けて出発するということです。(中略)

パキスタンはこれまで、カーン前首相がロシアの軍事侵攻直後の2月24日にモスクワでプーチン大統領と会談したほか、3月に開かれた国連総会の緊急特別会合ではロシアを非難する決議案の採決を棄権するなど、ロシア寄りの姿勢を示してきました。

一方、ことし4月に誕生したシャリフ政権は、ウクライナを支援する姿勢を打ち出し、前政権とは違う立場を鮮明にしています。【6月3日 NHK】
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パキスタンは中国との関係が強固なことは周知のところですが、その中国がロシア寄り姿勢を維持しているなかでのパキスタン・シャリフ政権のウクライナ支援はやや意外な感じも受けました。

【国内で続く中国を標的にしたテロ】
その中国に関しては、中国の存在感がパキスタン国内で目立つだけに、反政府活動の標的にもなっています。
(パキスタンにおける中国の存在感を個人的に実感したのは、3年前、北部のフンザに向かうためにカラコルムハイウェイを走っていると、工事区間で中国語の道路標識を目にしたとき。中国企業が工事を行っており、中国人・中国車両が行き来しているためです。)

****パキスタンの中国語教育機関で自爆テロ 4人死亡****
パキスタン南部で26日、中国政府が設置した教育機関の近くで爆発があり、中国人職員3人を含む4人が死亡しました。過激派組織が犯行声明を出しています。

ロイター通信によりますと、南部の最大都市・カラチで26日、大学内に設置された中国語の教育機関「孔子学院」の近くで車両が爆発し、中国人職員3人を含む4人が死亡したということです。

その後、パキスタンの過激派組織「バルチスタン解放軍」が、自爆テロを行ったと犯行声明を出しました。

現地の中国大使館は声明で、「テロ行為を強く非難し、両国の犠牲者に深い哀悼の意を表す」とした上で、パキスタン側には「徹底した調査を行い、犯人を厳罰に処すよう要請した」としています。

中国との結びつきを強めるパキスタンには多くの中国企業も進出していますが、現地の中国人を標的にしたとみられるテロ事件も相次いでいて、中国政府と現地の治安当局が警戒を強めています。【4月27日 日テレNEWS24】
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この事件を受けて、シャリフ首相は弔意を示すメッセージを出し、自ら中国大使館を訪れて追悼の意を表明しました。

シャリフ首相は「パキスタンと中国の戦略的協力パートナーシップに損害を与えようとする敵の邪悪なたくらみは、両国の、鋼のように硬い、兄弟のような関係が揺らぐことはなく、両国の協力関係にも影響を及ぼすことはない」と語っています。【4月27日 レコードチャイナより】
その後も、中国を狙った不穏な動きもあるようです。

****パキスタンのテロ対策部門、中国車列を狙う自爆攻撃を試みた女性を逮捕****
パキスタンARYニュースによりますと、パキスタンのテロ対策部門は16日、バルチスタン州のホシャブ地区を急襲し、中国・パキスタン経済回廊沿いの中国車列を狙った自爆攻撃を試みた女性を逮捕し、爆発装置を発見したとのことです。

パキスタンのテロ対策部門は、「この女性は『バルチスタン解放軍』グループのメンバーで、4月26日に発生したカラチ孔子学院の自爆テロ事件の犯人と同じグループに所属していた」と発表しました。

現在、パキスタンはこのようなテロ攻撃に関与する組織のメンバー逮捕を目的とした捜査活動を展開しています。【5月17日 レコードチャイナ】
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TTPとの停戦が本格化すれば、「バルチスタン解放軍」対策も強化される・・・ということになるのかも。

【難題は財政再建・インフレ抑制 IMF支援とはいうものの】
シャリフ首相にとって治安対策以上の難題は経済・財政の立て直しです。

****南アジアで政情不安 財政難、ウクライナ侵攻で物価高****
(中略)
カーン氏は2018年に首相に就任したが、もともと不安定だった経済は好転せず、野党側が批判を強めていた。物価上昇も続き、3月の消費者物価指数は前年同期比で12・7%上昇した。ロイター通信によると、外貨準備は1日時点で113億ドルと1カ月で約50億ドル減少した。
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、原油や食料の国際相場は高値水準が続いている。(後略)【4月13日 産経】
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2019年に決定したIMFからの支援も、一時停滞していましたが、動き出したようです。

****IMF、パキスタンの燃料補助金廃止後に9億ドル支援へ=関係筋****
パキスタンと国際通貨基金(IMF)の支援再開を巡る協議が25日終了し、パキスタンの燃料補助金廃止を条件にIMFから9億ドル超の財政支援を受けるという枠組みで合意した。

カタールの首都ドーハでの協議について直接知るパキスタン関係筋が匿名を条件にロイターに明らかにした。パキスタンのIMF代表はロイターのコメント要請に応じていない。

パキスタンは2019年、IMFから3年にわたり総額60億ドルの財政支援を受けることが決まったが、支援金の約半分をまだ受け取っていない。【5月26日 ロイター】
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パキスタンの実情は知りませんが、一般論で言えば“燃料補助金廃止”というのは市民生活を直撃するだけに大問題になります。国民の不満で政情不安に陥ることも。

公共交通機関の発達していないパキスタンでは、バイクは庶民の足で、ガソリンの高騰はその庶民の懐を直撃します。

シャリフ首相の試練はしばらく続きそうです。
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ウクライナ戦争  議論が出始めた「どのように終わらせるのか?」「落としどころは?」

2022-06-02 23:19:41 | 欧州情勢
(【6月2日 読売】)

【東部・南部に集中するロシア 戦争は長期化の様相も】
ウクライナでの戦況については、英国防省が5月15日に“ロシア軍がウクライナ侵攻時に投入した地上兵力の最大3分の1を失った可能性がある”と明らかにするなど、ひと頃は兵士も武器も不十分なロシア軍の苦境が多く報じられていましたが、最近ではロシア軍の東部での攻勢も。

ロシア軍が東部での攻勢によって態勢を立て直しているのか、南部での反撃も報じられるウクライナ側が欧米から供与される武器を活用して大規模な反転攻勢に出るのか・・・日本などではウクライナに有利な情報やロシアに不利な情報は“希望的観測”も含めて大きく報じられる傾向もありますので、戦局の全体像は素人には判断しかねるところです。

****ウクライナ領土、ロシアが20%を支配=ゼレンスキー大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日、ルクセンブルク議会でビデオ演説を行い、領土の20%をロシアが占領していると述べた。

「われわれはほぼ全てのロシア軍から自国を守らなければならない。戦闘可能なロシア軍の全部隊がこの侵略に加わっている」と指摘した。戦線は1000キロメートル以上に及んでいると語った。【6月2日 ロイター】
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****ルガンスク州、陥落危機 南部ではウクライナ軍反攻****
ロシアによるウクライナ侵攻で、ウクライナ軍参謀本部は1日、激戦が続く東部ルガンスク州の中心都市セベロドネツクの東部を露軍に制圧されたと発表した。

同州のガイダイ知事は同日、同市は完全には制圧されておらず、ウクライナ軍が反撃を試みていると指摘。同国軍がセベロドネツクから撤退した場合でも、隣接する都市リシチャンスクに防御線を構築し、抗戦を続けるとした。

セベロドネツクとリシチャンスクが陥落した場合、同州全域が露軍の支配下に置かれる。露軍は同州を掌握後、隣接するドネツク州の制圧に向け戦力を集中させるとみられている。

現地に部隊を派遣している露南部チェチェン共和国のアラウディノフ司令官は同日、露国営テレビで、ウクライナ軍をセベロドネツク市内の工場地帯に追い込んだと主張。近く同市全域を掌握し、リシチャンスクも近日中に包囲できるとの見通しを示した。

一方、露軍が掌握を宣言した南部ヘルソン州の当局者は1日、ウクライナ軍が反攻作戦で同州北部にある約20個の集落を奪還し、南へ前進していると明らかにした。

米シンクタンク「戦争研究所」は5月31日の戦況分析で、セベロドネツクが陥落した場合でも、戦争の勝敗や戦況に与える影響は限定的だと指摘。露軍が戦略的価値の低いルガンスク州など東部に大部隊を投入している間に、より重要なハリコフ州やヘルソン州で反攻を展開したウクライナの判断は賢明だと評価した。【6月2日 産経】
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ウクライナ側が欧米から供与される武器を活用して大規模な反転攻勢に・・・云々の話はありますが、ロシア側が東部・南部の支配地域の“守り”を固めた場合、その奪還には時間を要する、つまり長期戦の様相が予想されます。

【ロシア軍内・国内の不満】
こうした状況で、ロシア国内がどのようにこの戦争を見ているのか、どのような影響が出ているのか・・・いろいろ伝えられるものはありますが、前述のように、ロシア内部崩壊的な欧米側の“希望的観測”も反映しやすい側面で、どこまでそのような動きが一般的なのか、全体を左右するほどの動きなのか・・・そこらの判断は難しいところです。

そうした面があることを承知で、ロシア軍内・国内の厭戦・反戦ムードを伝える情報をひとつ、ふたつ。

****ロシア軍内で“銃口を向け合う”一部反乱?ロシア兵音声「撃ってみろ…一緒に吹き飛ぼう」 プーチン“盟友”も戦争非難の動き****
ロシア軍の一部で反乱が起きているという情報を、イギリス国防省が明かしました。さらに、ロシア軍の兵士とされる音声からは、末期的ともとれるような状況が浮き彫りになっています。専門家は“内部崩壊”のシナリオもあり得ると指摘しています。

「行かないと撃つぞ!」銃口向けあい軍内部で対立か
これはウクライナ保安庁が公開した、ロシア兵の会話とされる音声です。

ウクライナ保安庁公式Twitterより:指揮官のやつがここに来たんだよ。やつは僕に聞いたんだ。「任務終了まであとどれくらいだ?」って。僕は「20日と少し」と言った。そうしたらやつは「じゃあ、この20日間の内に死んでくれ」って

指揮官への不満を募らせるロシア兵。
ウクライナ保安庁公式Twitterより:うちの大隊は600人いたんだけど、今は215人しかいない。他は死んだか怪我をしている。ほとんど全員が前線に行くのを拒んだ。

すると、ある兵士が、「ほら、殺せよ!」って。そいつは、手榴弾を出してピンを引っ張って言ったんだ、「ほら、撃ってみろよ!一緒に吹き飛ぼう」って。

特殊任務部隊は、僕たちに銃を向けていて、僕たちも彼らに銃を向けたんだ。あと少しで互いを撃ち合うところだった

ロシア軍内部で起きたとみられる、一触即発の事態。
ロシアのウクライナ侵攻から3カ月あまり。イギリス国防省の分析によると、ロシア軍の中級から下級の将校に壊滅的な人的損害があり、さらに、高度な訓練を受けた幹部や権限を持った指揮官が不足して、士気が低下しているといいます。さらに、火炎瓶が次々と投げ込まれ、炎上しているロシア軍の登録・入隊事務所の映像も。

今、ロシア国内ではこうした軍の登録、入隊事務所への襲撃が相次いでいると、ウクラナメディアなどが報じています。一方、アメリカの戦争研究所は、ロシア軍内部で「大統領府が戦争に勝つために十分なことをしていない」という不満が増えているとしています。

ロシア国内だけでなく、軍内部からも戦争継続への反発の声が漏れているような現状。どのように分析すればよいのでしょうか。

フジテレビ・風間晋 解説委員:どれだけ広がっているか、というのは、はっきりしないところがありますが、想定していた以上に戦争が長期化しているということが、様々な不安や疑問などを呼び起こす事態に繋がっていると思います。ですから最大のポイントは、長期化していて、様々な矛盾が表面化してきているということだと思います

そして、批判の声は意外なところからも上がっているといいます。「プーチンの盟友」といわれる宗教指導者も異論を唱えたと報じられているのです。

プーチン氏の盟友…ロシア正教会の総主教も“戦争非難の動き”
その発言をしているのは、5月に行われた戦勝記念日にも参加していた、ロシア正教会のキリル総主教です。
英・ガーディアン紙によるとキリル総主教は、5月29日、モスクワ中心部にあるハリストス大聖堂で「ウクライナ教会が苦しんでいることを私たちは完全に理解している」と述べました。苦境にあるウクライナへ同情するようなコメントと受け取られています。

ロイター通信によると、キリル総主教は元々、特別軍事作戦を支持してきたことで、ウクライナ正教会が決別を表明していたといいます。そんな中で、今回の発言があったというのです。(後略)【6月1日 FNNプラムオンライン】
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****「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」ロシアで高まる不満…プーチン氏が選んだ時の“過去のやり方”とは【報道1930】****
ロシア国内で長引く戦争への不満が少しずつ表面に出て来ている。(中略)

■「国がこんなに秘密を守ろうとしたことはなかった」
今、ロシア国内では戦争への批判はもとより、対外的発言は厳しく統制されている。それでも完全に蓋はできない。それほどに国民の不満は高まっているようだ。番組では、ロシア兵士の母の会の会長を20年以上勤めている女性の切実な声を直接聞いた。

ロシア兵士“母の会” メリニコワ会長
「お話しできる内容は法律により制限されています。(中略)私たちの子どもが捕虜になったのか、死んだのか、行方不明なのか確認できません。(ロシアからは何の情報もないですが)ウクライナは、最初からネット上のサイトで捕虜の写真と書類を公開しています。(中略)」

情報を得られれば捕虜交換のリストに自分の子どもを入れてくれるようウクライナに頼むこともできるし、同じく息子を戦争に出したウクライナの親と連絡を取り合ったりもできるという。兵士の母の会は過去にチェチェン紛争など11回の戦争にかかわってきた。が、今回の戦争はこれまでとは全く違うという。

ロシア兵士“母の会” メリニコワ会長
「国がこんなに秘密を守ろうとしたことは今までありませんでした。情報統制もなかったんです。インタビューでも考えたことを自由に話していました。今は余計なことを言わないようにしています」(中略)

言いたいことが言えない中で彼女は「黙っていてはいけないと思った」と語ってくれた。
この“母の会”は決して反体制側の団体ではなく、むしろこれまでいくつもの戦争で重要な役割を果たしてきた愛国的な団体だ。そこでも今回は不満が高まっている。(後略)【6月1日 TBS NEWS】
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エリート外交官やプーチン政権に近い軍事評論家、親政権派メディアから侵攻への批判も相次いでいるようですが、何度も言うように、どの程度全体に影響がある話なのかはよくわかりません。
“プーチン露政権の「身内」から侵攻への批判続々 統制に綻びか”【5月28日 産経】

【“終わらせ方”に言及したキッシンジャー発言にウクライナ猛反発 同様の温度差はEU内部でも】
一方、欧米側では、長期化しそうなこの戦争を“どのように終わらせるか”についての主張が出始めていますが、それに伴う批判・混乱も。

かつてのニクソン、フォード米大統領時代、米大統領を上回るほどの影響力で国際社会をリードしたことで、私などの世代には“外交のレジェンド”的イメージもあるキッシンジャー補佐官・国務長官(当時)は5月23日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムで講演した際、ウクライナが和平協定の締結にこぎ着けるためには、ロシアが併合したクリミア半島や親露派が支配する東部ドンバス地方をロシアに割譲するべきだという趣旨の発言を行い、ウクライナ側がこれに猛反発しています。

****キッシンジャー氏の発言、ロシアへの領土割譲「容認」と受け止められ波紋…ウクライナは猛反発***
ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官の発言が、ロシアに対するウクライナの領土割譲を容認したと受け止められ、波紋を呼んでいる。ウクライナは猛反発し、ロシアは発言を利用してウクライナに要求を受け入れるよう迫っている。

キッシンジャー氏は23日、世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)でオンライン演説し、「理想的には、(ロシアとウクライナの)境界線を戦争前の状態に戻す必要がある」と述べた。今後2か月以内に和平交渉を進め、停戦を実現するべきだとも主張した。

この発言が、2月のロシア軍侵攻前を指し、2014年にロシアが併合したクリミア半島や親露派が支配する東部ドンバス地方の領土割譲をウクライナに提案したと受け止められた。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日のビデオ演説で、「ロシアへの領土割譲を助言するような人は、そこに住むウクライナ人のことを考えていない」と反論。

ロイター通信によると、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は26日、キッシンジャー氏の発言を受け、「ウクライナがロシアの要求を満たすことを期待する」と述べた。ロシアはウクライナに対し、併合したクリミア半島の主権承認や、親露派支配地域の独立国家としての承認を要求している。【5月28日 読売】
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“どのように終わらせるか”に関する似たような議論はEU内部にもあります。

****「終結のあり方」でEU亀裂鮮明 ウクライナ戦争****
ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、欧州連合(EU)内の対立が鮮明になってきた。
フランス、ドイツ、イタリアの西欧3カ国が「一刻も早い停戦」を目指してプーチン露大統領と対話を再開し、対露強硬派のポーランドやバルト諸国は一斉に反発した。根底には、欧州の安全保障をめぐる考え方の違いがある。

EUは2月以降、ウクライナ支援や対露制裁で歩調を合わせてきた。だが、ウクライナ東部で露軍が攻勢を強めると、「戦争終結のあり方」をめぐって対立が深まった。

マクロン仏大統領は5月初め、約1カ月ぶりにプーチン氏と電話会談した。ショルツ独首相も電話でプーチン氏と話し、28日には3者会談を行った。マクロン氏は「まず停戦。それが、和平に向けた交渉への道」と訴える。

仏独と呼応するように、イタリアは5月、国連のグテレス事務総長に和平案を提出した。伊紙レプブリカによると、▽戦闘停止と非武装地帯の設置▽ロシア、ウクライナが東部の地位などを交渉▽欧州安保をめぐる多国間合意の締結−という内容。ドラギ伊首相は19日、伊上院で「ヘルシンキ宣言」をモデルにあげた。東西冷戦中の1975年、米ソと欧州が安全保障の協力を定めた合意のことだ。

ポーランドのモラウィエツキ首相は危機感を強め、31日の英民放テレビで「この戦争で負けたら、平和は来ない。われわれはプーチン氏の脅しにさらされ続けることになる」と主張。ウクライナの勝利まで支えるべきだと訴えた。

エストニアのカラス首相も仏紙で「軍事解決しか道はない。ウクライナは勝たねばならない」と主張。ラトビアのカリンシュ首相は「間違った信条を持つ仲間がいるのは、問題だ。『とにかく平和を』と考えている。それはプーチン氏の勝利につながる」と仏独伊を痛烈に批判した。

EUを主導する仏独を、東欧が正面から批判するのは極めて珍しい。
背景にあるのは、仏独による過去の停戦仲介への不信だ。2008年のジョージア(グルジア)紛争、14年に始まったウクライナ東部紛争で停戦を優先し、ロシアの隣国への干渉に目をつぶった。その結果が今回の侵攻を招いたと映る。

ロシアに対する認識も全く違う。仏独伊は「欧州安保には、ロシアとの戦略的パートナー関係が不可欠」(マクロン氏)とみなす。旧ソ連の勢力圏にあったポーランドやバルト三国にとってロシアは脅威でしかない。

今回の戦争では、米国が強力な武器でウクライナを支援し、北大西洋条約機構(NATO)が欧州安保の主役として復権。仏独主導のEU独自安保は影が薄くなった。NATOを重視する東欧諸国には大きな追い風となり、仏独伊に対する強気の姿勢を支えている。【6月2日 産経】
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仏独などには戦争や制裁の“痛み”で自国経済への悪影響が深刻化するなかで、「いつまでもウクライナの戦争に付き合ってはいられない。適当なところで・・・」といった“本音”もあるのでしょう。

そのあたりの東欧との差は、ロシアの脅威をどの程度のものとして感じるのか・・・という差に由来するのでしょう。

【アメリカ ロシアへの制裁よりも日常の生活問題を重視する傾向 “落としどころ”は?】
自国経済が優先というのはアメリカ世論も同じです。ウクライナのロシアに対する“民主主義”を守る戦いよりはガソリン価格の方が関心事・・・

****アメリカ国民にシラけムード…バイデン政権はウクライナどころではなくなりつつある****
米国で「経済を犠牲にしてでもロシアへの制裁を続けるべきだ」との意見を支持する人の割合が減ってきている。
 
AP通信が5月24日に発表した世論調査によれば、「米国の最優先事項はロシアに可能な限り効果的な制裁を科すことである」と回答した人は45%となり、3月の55%から10ポイント低下した。一方、「米国経済への損害を抑えるべきだ」と回答した人は増加し、51%となった。インフレの高進に苦しむ中、ロシアへの制裁よりも日常の生活問題を重視する傾向が強まっている。(中略)

バイデン大統領の支持率は昨年8月以降、50%を下回っており、今年11月の中間選挙で民主党が上下両院で過半数の議席を確保できない可能性が高まっている。
 
このことからわかるのは、ウクライナ危機への対応がバイデン大統領の支持につながっていないことだ。米国の大手メデイアは連日のようにウクライナ情勢について報じているが、「多くの米国民はしらけている」と言っても過言ではない。
 
21日にウクライナ支援に約400億ドルを充てる追加予算が成立したが、「ウクライナ支援は過剰ではないか」との声が高まりつつある(5月24日付Forbes)。ロシアが2月24日に侵攻して以来、米国はウクライナに対し既に600億ドル(ウクライナのGDPの半分)もの支援を行ってきたにもかかわらず、明確な落としどころを明示しないバイデン政権に対する不満は募るばかりだ。

「ウクライナ」だけではないガソリン危機
バイデン政権が不人気である最大の理由が物価高にあるのは言うまでもない。(中略)バイデン政権にとって頭が痛いのは、ドライブシーズンを前に国内のガソリン価格が史上最高値を更新し続けていることだ。((後略)【6月2日 デイリー新潮】
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“落としどころ”ということでは、バイデン大統領は「米国はプーチン大統領をモスクワから追放しようとはしない」と明言しています。

****米国、ウクライナに最新ロケットシステム供与へ 直接介入は否定****
バイデン米大統領は5月31日、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、ロシアのウクライナ侵攻に関して「米国や同盟国が攻撃されない限り、米軍部隊をウクライナで戦うために派遣したり、ロシア軍を攻撃したりすることはない」と直接的な軍事介入を改めて否定した。

また「戦争はいずれは外交によって終わるが、あらゆる交渉は地上での(戦闘の)状況を反映するものだ。ウクライナが強い立場で交渉の席につけるように支援する」と述べ、ウクライナに対し、最新の「高機動ロケット砲システム(HIMARS)」を新たに供与する方針を示した。
 
バイデン氏は、ウクライナ情勢を巡る米国の目標について「ウクライナがさらなる侵略を抑止し、自衛することによって、民主的で独立し、主権を保持し、繁栄したウクライナを実現することだ」と強調した。一方で、「北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの戦争は望んでいない。プーチン氏(露大統領)とは意見の相違があるが、モスクワからの追放をもたらそうとはしていない」として、プーチン政権の転覆が目的ではないと説明した。
 
ウクライナ支援に関しても「国境を越えてウクライナが攻撃することは促さないし、ウクライナに能力も与えない」と強調した。HIMARSは最大射程300キロの砲弾を撃てるが、米政府高官によると、ウクライナに供与する砲弾の射程は最大80キロ程度に抑えた。ウクライナ側も「ロシア領への攻撃には使用しない」と米側に確約したという。(後略)【6月1日 毎日】
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過剰にロシア・プーチン大統領を刺激することを避け、外交によって戦争が終わることを可能にするためのものでしょう。もっとも、プーチン失脚・ロシア弱体化に関するアメリカの本音はまた別物かも。
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トルコ・エルドアン大統領  北欧二か国NATO加盟問題で強気姿勢 ロシア・ウクライナ仲介外交も

2022-06-01 22:43:44 | 中東情勢
(【5月17日 TBS NEWS DIG】北欧二か国のNATO加盟に強い言葉で反対するトルコ・エルドアン大統領)

【北欧二か国のNATO加盟阻止で強気姿勢のトルコ・エルドアン大統領】
NATO拡大の非を主張してウクライナに侵攻したロシア・プーチン大統領の思惑が裏目に出て、長年中立的な立場を維持してきたフィンランド・スウェーデンがNATO加盟に舵を切ったこと、しかし、ロシアの孤立化を加速させ、「プーチンの戦争」の失敗を明らかにするものとして欧米の大勢が歓迎するその流れにトルコ・エルドアン大統領が待ったをかけていることは周知のところです。

****北欧2国は法改正の必要も、トルコ外相がNATO加盟巡り言及****
トルコのチャブシオール外相は31日、フィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟申請に関して、トルコの要求を満たして支持を得るためには、必要ならば法改正を行うべきとの見解を示した。

トルコは北欧2カ国について、同国がテロ組織と見なすクルド労働者党(PKK)などに対する支援停止や国内活動の制限、同国がテロ容疑者と特定したメンバーの送還のほか、トルコの反テロ作戦の支援や武器輸出制限の全面解除を求めている。

チャブシオール氏は、先週トルコを訪れた両国の代表団にトルコ側の要求を渡しており、回答を待っていると説明。(中略)

チャブシオール氏は、ストルテンベルグNATO事務総長が3カ国による協議をブリュッセルで開くことを提案していることも明らかにした上で、2カ国から回答があるまでは協議を開いても意味がないとの認識を表明した。【6月1日 ロイター】
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エルドアン大統領が北欧二か国のNATO加盟に異を唱えている理由の中核は両国のクルド人勢力に融和的な対応、トルコへの武器輸出制限にあるとされています。

“PKK(トルコからの独立を目指す少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党」)をテロ組織と位置付けるトルコと、クルド人への同情論が根強い欧米諸国の溝は深い。北欧2国ではクルド人がトルコ当局に弾圧されているとの見方が強く、クルド人難民を受け入れている。トルコは加盟を認める条件としてPKK関係者らの引き渡しを北欧2国に要求するとみられるが、人権を重視する2国は容易に応じない見通しだ。”【5月24日 AFP】

“トルコは2019年、隣国シリアの北部一帯を実効支配する少数民族クルド人の武装勢力「人民防衛隊」(YPG)への軍事作戦を展開。PKKと一体の組織と見なしているが、両国はこれを機にトルコへの武器の輸出を制限していた。”【5月26日 AFP】

【強気姿勢の背景にあるトルコ国内事情 心中には欧州の二重基準への不信感も?】
更に深堀して言えば、エルドアン大統領がこの問題で強気姿勢をとる背景としては、これまでも取り上げてきたように(エルドアン大統領の非教科書的な低金利政策もあって)トルコ国内における通貨安、インフレの進行が改善しない状況があるのでしょう。

****トルコ中銀、22年のインフレ予測を2倍近くに上方修正 42.8%****
トルコ中央銀行は28日、年間インフレ率が6月に70%前後でピークに達し、年末に42.8%前後に低下するとの見通しを示した。

前回の年末予測は23.2%。2倍近くに上方修正したことになる。24年末には1桁台に低下する見通しという。

トルコでは一連の非正統的な利下げとそれに伴う通貨危機でインフレが進行。エネルギー価格の高騰も影響している。(後略)【4月28日 ロイター】
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2023年の選挙を控えて大統領・与党への支持が低下する政治状況で、エルドアン大統領としては国内での失政を“華々しい”外交成果でカバーする必要があります。

北欧二か国のNATO加盟阻止が“華々しい”外交成果となりうるのは、以下のような事情あってのことです。

・トルコ国内の反PKK感情は非常に強く、国内的に反PKKをアピールできる
・ロシアとの関係が非常に深いトルコはウクライナ問題で仲介外交を行っているが、北欧二か国のNATO加盟阻止に尽力することで、ロシアにアピールできる
・シリアでクルド人勢力と連携するアメリカを巻き込んで、アメリカの対応の変更、更にはアメリカからのF-16戦闘機などの武器供与問題を前進させることができる

これは全くの個人的憶測ですが、おそらくエルドアン大統領の心には、トルコのEU加盟問題が長年棚ざらしにされ、まったく現実性が見えないなかで、北欧二か国がNATO加盟しようとすると欧米がこぞって歓迎する・・・そういうダブルスタンダード的な扱いに対する反発があるのではないでしょうか

また、シリアやアフリカからの難民問題で「日頃“人権”だ何だとえらそうなこと言ってるくせに、シリアやアフリカから難民が押し寄せると門を閉ざして、トルコに押し付けようとする」欧州への意趣返しみたいな感情もあるのかも。

【問題を複雑化させるシリア北部への軍事介入計画】
エルドアン大統領は、前述事情のうち最後のシリアにおけるクルド人問題を更に大きくクローズアップさせる戦略です。

****トルコ、国境地帯で近く軍事作戦=NATO問題複雑化も****
トルコのエルドアン大統領は23日、閣議後の演説で、南部の国境沿いで近く軍事作戦を行う計画があることを明らかにした。

シリアのクルド人武装勢力を標的にしたものとみられ、欧米諸国からの反発を招く可能性が高い。スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加盟をめぐる問題もさらに複雑化しそうだ。
 
エルドアン氏はトルコ南部の国境地帯が「頻繁な攻撃にさらされている」と強調した。その上で、脅威に対処するため国境から30キロにわたる安全地帯を築く必要性を訴えた。26日に国家安全保障会議を開いて協議の上、決定を下す見通しという。【5月24日 時事】 
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5月26日、エルドアン大統領が招集した国家安全保障会議は、シリアとイラクに隣接する南部国境地帯での軍事作戦について協議し、終了後の声明で「現在と将来の作戦はトルコの安全保障にとって不可欠だ」と強調しています。

2019年にトルコがシリアに一方的に侵攻した際にも、欧米諸国は反発しています。
この問題はトルコ国内の事情にも大きく関わっています。

****“恐喝外交”トルコの思惑は?北欧2カ国のNATO加盟反対する理由****
ロシアによるウクライナ侵攻は、多くの国に自国の安全保障政策の抜本的見直しを迫っている。北欧のフィンランドとスウェーデンは正式にNATO加盟申請をした。ところが迅速に進むはずだった加盟プロセスを阻止した国がある。トルコだ。

“テロの脅威”強調 シリアへの軍事侵攻を狙う
トルコのエルドアン大統領は5月18日、「この2カ国、特にスウェーデンはテロの温床になっている」と批判し、「だからこそ我々は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟にノーと言う決意を固めたのだ」と述べた。

トルコは、両国がトルコがテロ組織と指定するクルド労働者党(PKK)やギュレン運動(FETO)などのメンバーを匿い支援していること、トルコがテロリストとみなす33人のトルコ送還に同意していないことも批判している。エルドアン氏は「テロリストは返さないのにNATO加盟を要求するのか」と語気を強めた。

NATOへの新規加盟にはNATO加盟30カ国全ての承認が必要だ。トルコは1952年からNATOに加盟している。トルコは「拒否権」を武器に、この機にNATO諸国からありとあらゆる譲歩を引き出そうとしている可能性がある。

そのひとつの証左として、トルコが5月23日にシリア北東部への「軍事作戦」を予告したことが挙げられる。ここは米国などが支援してきたクルド人武装組織シリア人民防衛隊(YPG)が支配する地域だ。トルコは、YPGはPKKの分派にしてテロ組織であり、YPGの存在はトルコの安全保障上の重大な脅威だと主張する。

エルドアン氏はこの「作戦」により、トルコとシリアの国境沿いに30km幅の「安全地帯」を作る取り組みを再開すると述べた。そこに現在トルコに350万人いるとされるシリア人難民のうち、100万人を「自主的に」移住させる計画だ。

トルコは2016年、2018年、2019年と過去3回にわたりシリア北東部に軍事侵攻してきた。しかし米国をはじめとするNATO諸国は、「イスラム国」と戦ってきたYPGを支援してきた背景がある。

トルコが対YPG軍事作戦を開始すると、フィンランドやスウェーデンはトルコに武器輸出禁止の制裁を課した。トルコは両国のNATO加盟に反対する理由のひとつとして、この制裁も挙げている。

要するに今はトルコにとって、NATO諸国、特に米国から批判も制裁もされずにシリアに新たに軍事侵攻する千載一遇のチャンスなのだ。

トルコ国営アナドル通信は5月20日、次のような論説を掲載した。

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟について、トルコの要求は非常に明確だ。2001年9月11日に米国がテロの標的となった際にNATO条約第5条(注:加盟国が攻撃を受けた場合に他の加盟国が反撃する集団的自衛権の行使を定める)が実践されたように、自国を標的とするテロに対して同盟が共通のスタンスをとることをトルコは要求しているのである。

NATO加盟国はトルコにとってのテロ組織であるPKKやYPGに対し、トルコ同様に敵対し、トルコのテロとの戦いを支援しなければならないのだ、とトルコは要求する。

迫る大統領・議会選 国内向けアピールか
ではなぜトルコは、恫喝まがいの外交をしてまでシリアへの軍事侵攻を強行しようとしているのか。それはおそらく、トルコの大統領選挙、議会選挙が2023年に迫っているからである。

ロイター通信は5月6日、「物価高騰でトルコ国民の家計は非常に窮迫しており、来年6月に予定される大統領・議会選で長らく続いたエルドアン大統領の統治時代に幕が下りる可能性も出てきた。実際、世論調査でエルドアン氏の支持率は低下が止まらない」と伝えた。

ウクライナ戦争による原油や食料の高騰は、経済危機をさらに悪化させる可能性が高い。好調な経済を生み出す術のないエルドアン氏は、国民に経済危機を忘れさせ、国家的大義に目を向けさせ、野党からの批判を封じ込める必要がある。過去3回行われたシリアへの国境を越えた「軍事作戦」と「テロとの戦い」が、その点において一定の効果をあげた経緯もある。

シリア北部にクルド人戦闘員の存在しない「安全地帯」を設置することができれば、トルコ国民を安心させることができる。トルコ国内のシリア難民をそこに移住させれば、反難民感情が高まっているトルコ国民を満足させることもできる。

加えて、そこに街を建設しインフラを整備する仕事をトルコ企業にもたらすこともできる。2019年以降、トルコはシリア北部のトルコ支配地域で約5万戸の住宅を建設しており、2022年末までにさらに10万戸の住宅と、学校、病院の建設、各種インフラ整備を目指している。「安全地帯」という名ではあるが、実質的にはトルコの領土拡張に近い。

トルコは実は、外交、安全保障、経済の面において中国とロシアに大きく依存した国でもある。トルコは2013年には中ロが主導する安全保障機構である上海協力機構 の「対話パートナー」となった。NATO加盟国であるにも関わらず、ロシアの地対空ミサイルシステムS-400を導入していることでも知られている。

2020年には中国との通貨スワップ協定に基づき初めて人民元による貿易決済を実行、2021年にはスワップ上限を60億ドルに引き上げた。

NATOにトルコが加盟している限り、トルコが今回のような恐喝外交でNATOを揺さぶり、譲歩を引き出そうとする問題は今後も繰り返される可能性が高い。【6月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
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独裁者・強権支配者の常で、エルドアン大統領も現実主義的な側面と、感情に突き動かされるような側面の両面があります。北欧二か国のNATO加盟問題でエルドアン大統領がどこまで強硬姿勢を貫くのか・・・どこかで妥協するのだろうとの見方も多々ありますが、よくわかりません。

【ロシア・ウクライナ首脳への仲介外交展開 ただ、進展は困難】
エルドアン大統領はロシア、ウクライナ双方の首脳への働きかけを活発におこなっています。
ただ、今のところ成果が期待できる状況にない・・・との見方が支配的です。

****トルコ大統領、プーチン氏に国連交えたウクライナとの協議を提案****
トルコのタイップ・エルドアン大統領は30日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談し、露軍が侵攻を続けるウクライナ情勢を中心に協議した。

トルコ大統領府によると、エルドアン氏はロシアとウクライナが一刻も早く信頼を醸成する必要があると指摘し、イスタンブールで国連を交えた協議の開催を提案した。
 
会談では、露軍による黒海沿岸封鎖でウクライナからの穀物輸出が滞っている問題についても協議した。
露大統領府によると、プーチン氏は、安全な船舶航行に協力する用意は表明しつつ、米欧が対露制裁を解除すれば「ロシア産の農作物や肥料を輸出できる」と述べた。

エルドアン氏はロシアとウクライナ双方の合意を前提にした「監視メカニズム」の設置を提案した。(後略)【5月31日 読売】
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トルコが「監視メカニズム」の役割を担う準備があると述べていますが、その詳細は不明です。ウクライナ・ゼレンスキー大統領にも同様提案を行っています。

****ウクライナ穀物輸出停滞にトルコが解消案…ゼレンスキー氏「感謝」、プーチン氏「トルコと連携」****
トルコのタイップ・エルドアン大統領は30日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と電話で会談した。トルコ大統領府によると、エルドアン氏は、ウクライナの穀物輸出がロシア軍による黒海沿岸封鎖で停滞している問題の解消に向け、国連も参加する監視枠組みの設置を提案した。ロシアの対応が焦点となる。
 
エルドアン氏は会談で、ウクライナが穀物の安全な海上輸送ルートを確保する重要性を強調し、ウクライナとロシアのほか、トルコと国連が参加する監視センターを、トルコ・イスタンブールに設置する案を説明した。

エルドアン氏はロシアとウクライナの停戦協議の継続に「仲介を含む支援の用意」も示した。ゼレンスキー氏はツイッターで、「トルコの支援に感謝する」と謝意を表明した。(後略)【5月31日 読売】
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しかし、黒海港湾からの穀物輸出にしても、停戦にしても難しい状況です。

****トルコがゼレンスキー氏とプーチン氏に“首脳会談”呼びかけも…専門家「時間稼ぎでしかない」停戦交渉は「事実上途絶えている」****
(中略)
■「会談は今後の戦いへの時間稼ぎでしかない」
ホラン千秋キャスター:
まずはウクライナとの電話会談です。その内容について、ゼレンスキー大統領が明らかにしています。「侵略者がもたらす食糧安全保障への脅威とウクライナの港の封鎖を解除する方法をトルコと協議した」ということなんです。

どういうことかと言いますと、ロシアのウクライナに対する侵攻が始まって以降、ウクライナの港湾は封鎖されています。ウクライナ産の小麦はあるけれども、それを安全に輸出するということができなくなっている状況なんです。そのため、安全に港などを通して輸送するための海上ルート確立に向け協議を行ったということでした。

では、その点について、ロシアとはどのような話が行われたのか。電話会談の中でプーチン大統領は、「小麦などの輸送について、ウクライナの港からの輸出も含め、海上輸送を妨げないようにする準備がある」というふうに話したんです。

一見すると協力的なように見えるんですが、「対ロ制裁を解除すれば、ロシアは大量の農作物を輸出できる」とも主張したということですので、なかなか難しそうな状況だなということが伺えます。

さらに最近なかなか耳にすることがない停戦に向けた動きなんですけれども、これに対しては、トルコのエルドアン大統領が「ロシアとウクライナ双方が合意すれば、国連を交えた会談を開催する」というふうに呼びかけたんですが、国連を交えた会談は意味があるのかどうか、停戦に繋がるのかという点について明海大学教授の小谷哲男さんに伺いますと、「ロシアとウクライナにとってトルコとの会談は、今後の戦いへの時間稼ぎでしかない。国連を交えた会談を行っても、停戦する可能性は低い」というふうに指摘しています。 

■停戦交渉は「事実上途絶えている」
井上キャスター:
トルコはフィンランド・スウェーデンのNATO加盟に反対するという立場をとったり、ロシアとウクライナの交渉の仲介を名乗り出たり、何か主導権を握ろうというところがあるんですか。

笹川平和財団 主任研究員 畔蒜泰輔さん:
やはりトルコとしては、欧州とロシアの間で、うまく自国のプレゼンスを高めようという形で、積極的に動いているということだと思います。

井上キャスター:
ロシアとウクライナ、停戦交渉というのは最近なかなか報じられないですが、水面下では行われているんですか、それとも今、途絶えているんですか。

畔蒜さん:
私は事実上途絶えていると思っています。今回のトルコのエルドアン大統領のロシアとウクライナへの停戦の呼びかけも、国連を交えてということであったとしても、明海大学小谷教授が指摘されるように、大きな停戦に向けた動きになる可能性は極めて低いんじゃないかと思います。

井上キャスター:
ロシア・ウクライナ双方ともに有利な立場に立っていないと停戦交渉はしない、そこはまた変わってないですか。

畔蒜さん:
そういうことだと思います。そうだとすると、今の戦況を考えたときには、双方、今、停戦に向けて積極的な意欲があるとはちょっと考えられないということだと思いますね。(後略)【6月1日 TBS NEWS】
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「停戦」はともかく、黒海港湾からの穀物輸出については、ロシアも「世界を飢餓の危機にさらしている」との批判は受けたくないでしょうから、何らかの進展の可能性も・・・と思いたいのですが・・・。
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