家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

三回祈った

2012-09-17 08:16:18 | Weblog
田中泯さんの独舞公演を見に行ってきた。

袋井の楽土舎で19:30から野外舞台で行われた。

舞台といっても通路に急ごしらえされたトタンの壁と鉄鍋で熾された炎そしてその鉄鍋の前に掘られた穴それにつながるロープ。

観客は、それらが見えるトタン葺の屋根の下に長椅子を置いて観る。

もうすぐ公演というときになってトタンがコン コンと鳴り始めた。

雨が降ってきたのだ。

実は主催者も私も雨を期待していた。

去年の公演時も大雨が降り、それはそれは思い出に残る一夜となったからだ。

サクソフォンによるバッハの無伴奏チェロ組曲が聞こえてきた。

炎の向こう側に田中泯氏が帽子を被って座っている。

ゆっくりと暗い空を仰ぎ見て祈る。

いや怖れを表現していたとも思えた。

炎が照らした泯氏の横顔に驚いた。

先日逝ってしまった伯父にそっくりだったのだ。

頬の高さと鋭い目。

泯氏は座っていた木の椅子を炎の中に、そっと置いた。

椅子からも炎が立ち始めた。

両手を合わせて炎に祈る。

雨は益々激しく落ちてくる。

炎は負けずに立ち上がる。

千切れた炎は火の粉となって舞い上がる。

穴からドロだらけの泯氏がロープを伝わって目の前までやってきた。

あの鋭い眼からは正気が失せていた。

助けを求めるようにも見えた。

鉄鍋の向こう側に戻っていった泯氏は年老い小さくなって背の丸みが哀れにも感じた。

だが再びたくましさを増した泯氏は水を鉄鍋の中に投じた。

一瞬にして炎は消え大量の水蒸気が空に向けて解き放たれた。

闇に白い物体が力強く上がって広がり消える。

その水蒸気に祈りを捧げる泯氏。

森羅万象に対して素直に受け入れ怖れをなすが立ち向かう。

自然に対して敬虔な信者であると確信した。

「場踊り」が終了すると空には星が光っていた。

泯氏が育てたジャガイモ「みんじゃが」を買って帰路に着いた。