建長寺には蘭渓道隆の径行像という立ち姿が残されている。明らかに生前描かれた国宝の頂相を元に描かれている。つまりあれが実像だ、という私と想いは同じである。そこで私が制作するとこうなる、という意味でも径行像で行くことにした。鎌倉時代の人物に陰影がある。つまり立体感を伴っている。それでもう充分である。 石塚式ピクトリアリズムだ私の大リーグボール3号だ、と散々はしゃいでいた私であるが、10年あまりの間の話であり、写真から陰影を排除した自由は充分味わった。そもそもそれまで人物像を使って“夜の夢こそまこと”などと言いながら、嘘ばかり描いて来た訳で、それを鎌倉や室町時代を舞台に観て来たような顔をして制作するだけの話である。 それに陰影のない3号を止める訳ではない。『巨人の星』を観ながら、一人に打たれただけなら大リーグボールを使い分ければ良いのに、と小学生の私は思った。