5月28日のNHK「クローズアップ現代」は≪アフリカ“自立の力”を引き出せ≫と題してアフリカ問題を扱っていた。5月8日から5月30日まで横浜市で開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD4)に合わせた企画なのは番組の中で「今日から横浜で開催されるアフリカ開発会議では国際社会の支援を実際の貧困解消にどう結びつけるか、そのための仕組みをどう打ち出していけるかが問われている」と解説していることからも分かる。
テーマは「如何に貧困を撲滅するか」に置いているが、石油資源や鉱物資源の開発とその価格の高騰で急激に経済発展を遂げている国がありながら、その富の配分が偏って却って経済格差が広がり、アフリカ人口の増加の中で貧困人口も増加していることを取り上げている。
これはガバナンスの問題だが、アフリカ第2位の石油産出量を誇り、石油高騰の恩恵を受けて(政府歳入の90%がオイルマネー)07年の経済成長率は21%を記録というふうに急激な経済成長を遂げ、「スーパーリッチ」と呼ばれる富裕層を生み出しているにも関わらずその恩恵が貧困層に全く届いていなくて国民の70%もが貧困生活を強いられているアンゴラの財務大臣は「労働人口の殆どが技術を身につけていないという事実を我々政府は向き合う必要があると考えている」などと他人事のように言っている。
「~する必要がある」とはこれからの課題を示す未来形の言い方であって、現在真剣に取組んでいるという進行形とはなっていない。自分自身、取組みの遅いことに気づいていないのは自民党政府の閣僚と同じく国民の貧困をまともに視野に入れていないからだろう。
首都ルワンダは空前の建設ラッシュに沸いているということだが、中国に油田開発権を売り渡して得た日本円で総額5000億円を超える資金は政府施設や道路の建設に主としてまわされていると番組は紹介しているが、この事実こそ国民の貧困をまともに視野に入れていない証拠となる。
視野に入れていたなら、石油採決権譲渡で得た資金だけではなく、中国の資源狙いの援助資金や投資も人材育成に何ほどかまわしていただろうから、「向き合う必要がある」などと将来的な課題として把えることはなかったろう。
ラッシュの建設現場で働いている中国人労働者とダンプの荷台に建設現場に向かうのだろう、スシ詰め状態で乗り込んでいるヘルメットをかぶった中国人労働者の映像を見せていたが、その映像と共に建設現場では中国人労働者が目立つこと、資材も中国から持ち込まれていること、そのことがアンゴラ人の雇用拡大や格差是正につながっていないこと、アンゴラの市民団体代表が「折角の巨額の援助や投資なのですから、本来なら私たちアンゴラ人への技術移転を進め、雇用の創出につなげるべきです」とつながっていないことを訴えていたことなどを伝えていたが、やはりアンゴラ政府が日本の自民党政府同様に国家のみを視野に入れ、国民を視野に入れていないことの間違いない証拠となる。
貧困層の直接支援はNGO任せで、そのNGO自体が資金難に陥っている窮状にあるということだが、従来の各国のODAが援助対象政府どまりで、農村等の貧困現場まで直接届いていない状況を示している。その教訓・反動から、「欧米では政府を介さずに貧困層に直接働きかけて貧しい人々の経済的自立を目指そうという取組みを行っている」と解説していたが、これも遅すぎる取り掛かりに思える。
番組の後半は貧しい地方に直接入って農家の自立を図る取組みをしているオランダ人やアメリカに本部を置くNPOの成功している活動を取り上げていたが、アフリカ人口の70%が農業人口で、その多くが水不足で満足な農業ができないでいるということ、その延長にある食糧不足と貧困の蔓延といった現状を考えると、自立成功物語は一部にとどまっていることを示している。
2007年4月9日(月)「しんぶん赤旗」が≪温暖化の影響に警鐘乱打 異常気象・水不足・飢餓広がる IPCC報告≫
で<2020年までに7500万人から2億5千万人が水不足に直面。農業生産は多くの国で危機的な状況になり、幾つかの国で降雨に頼る農業は2020年までに生産が50%に落ちます。アフリカは気候変動に対し最も脆弱(ぜいじゃく)な大陸です。>と伝えているアフリカ。
70%が農業に従事していて、その多くが水不足に悩み、その結果の食糧不足・貧困ということなら、何よりも優先的に取組まなければならない問題は水不足解消なのは誰の目にも明らかな事実で、NGOの民間団体だけではなく各国政府も井戸掘りその他の水問題に資金援助と共に人材を派遣しているが、横浜市でのアフリカ開発会議(TICAD4)でも「地下水開発」、「水不足対策」を取り上げているところを見ると、これまでの事業が根本的解決に至る抜本的な方策とはなっていないことを示している。
日付が記入してないから、何年何月何日の記事か分からないが、≪国際水域分野に関するプロジェクト事例 - 水による紛争の防止≫なるHPに<ナイル川流域での協力 10カ国の間を流れる全長7000キロ余りのナイル川は、豊かな文化と歴史をもつ世界でも有数の偉大な自然資源として認識されており、「生命の川」とも言われています。しかし、人口が急増するこの半乾燥地帯では、ナイル川の水に対する需要が高くなる一方、流域諸国ではこうした人口急増への対策がかならずしも優先されていません。
ナイル川の水が干上がった310万平方キロもの土地には、世界の最貧国10ヵ国のうちの6ヵ国が位置しています。最貧困国の大半は、土地と水資源に依存して生計を立てています。ナイル川一帯の流域諸国が水を協同管理すれば、経済面、環境面で国境を越えた大幅な利益がもたらされることは確実です。>という一文が記入されている。
≪青ナイル川流域の水文GIS≫(GIS=地理情報システム)というHPによるとナイルの水を最も多く利用しているのはエジプトで、次はスーダンだということだが、ナイルの水資源利用に関しても格差が生じていて、「6ヵ国」が水不足と貧困に喘ぎ、それらの国々も人口増加の例に漏れず、悪条件に拍車をかけている現状にある。
上記HPは次のことも伝えている。<ナイル川の水利用については1929年のナイル水協定で取り決められたが、エジプトの年間480億m3に対してスーダンは40億m3の利用が認められたに過ぎなかった。残りの320億m3は未配分となった。59年の協定ではエジプトへの555億m3の配分に対し、スーダンには185億m3となったが、他の流域国はこの協定には含まれなかった。
流域各国の人口増加と食料増産その他による水利用の増大は、今後の水紛争の火種となっている。そのため、流域各国は相互利益をもたらす協調的な開発の必要性を認識して、Nile Basin Initiative(ナイル流域先導会議)の設立へと歴史的な歩みを始めた。そして1999年2月に上記流域10カ国の水関係大臣協議会によって、公式に発足し、同地域の貧困との戦いと社会経済的発展のための、ナイル川水資源の有効活用による流域全体としての取り組みを始めた。>――――
水不足に悩むナイル流域最貧国という倒錯的且つ逆説的状況の解決方法は効率よくナイルの水を配分することだが、送水方法は水路を設けるか、石油パイプラインのようにパイプをつなぐ方法が考えられる。水路建設は地面を間断なく掘削していかなければならない分カネと時間がかかるということなら、等間隔に支柱部分を掘削し土台となるコンクリートを打設するだけで済む水パイプライン方式がいいということになるが、別にステンレス等の金属製ではなく内径1メートル前後のコンクリート製のヒューム管をつないでいっても用を足せる。
だが、ナイル流域国だけが水不足が解消してもアフリカ問題の抜本的解決にはならないわけで、ヒューム管仕様の水パイプライン方式を水不足に悩むアフリカ全土に応用しなければならない。これは可能な方法だろか。
あるいは既にパイプライン方式で水資源の配分を行っている国があるのだろうかと思ってインターネットを検索すると、≪ミツカン水の文化センター 水はただではないという文化≫というHPに「トルコの水商売」の小見出しで、トルコが自国の水量豊富な河川からパイプラインをアラブ諸国まで引いて、その水を有料で提供しようと計画を立てアラブ諸国に打診したところ、一旦その水に頼った場合、政治的関係の悪化や値段の高騰等の理由で死命を制約される問題点が存在することから、この「ピースパイプライン」と名づけた「アラブ諸国への水供給プロジェクト」は立ち消えとなったという話を紹介している。「ピースパイプライン」が常に「ピース」を保障するとは限らないというわけである。
記事は<「水は喉から手が出るほど欲しいし、供給は技術的・経済的にも実現可能だけれど、政治的にみて、水の安全保障という観点からはお断りします」という結果になりました。>と書いている。
「技術的・経済的にも実現可能>ではあるが政治的には問題点があるという欠点をクリアするためにはパイプライン方式による「水供給プロジェクト」を一国の経営ではなく、国際社会共同の経営にしてはどうだろうか。
水資源供給国の資本を49%までとし、残りの51%は先進各国政府の資金が分担する。水資源供給国の必要資金は先進国の30年~50年の長期低利の融資によって賄い、水を売った利益の49%の配当分から返済していく。先進国は融資金のすべて、もしくは一部分を内外の私営企業の投資によって賄う。
問題が生じた場合は株主である水資源供給国共々各国政府代表が一つテーブルを囲み、話し合いで相互の利益に適う解決策を探る。
水を買う方は国民個人が買うのではなく、供給を受ける各国政府が政府予算で買い付け、国民には無料で提供することとする。
また水資源は河川や湖、あるいはキリマンジャロの雪解け水が浸み込んだ地下水等のみを利用するのではなく、資源は枯渇するという認識のもと雨量の減少等を原因とした水位低下に備えて臨海各国に海水を真水に変えるより大きな海水淡水化装置を設置し、それをパイプラインで水不足地域に送水する先進国融資のプロジェクトを立ち上げて、供給源を多角化する必要もあるのではないだろうか。
各地域にヒューム管のパイプラインを設置した後、各村のメイン広場まで最小限、柔軟性があって工事が簡単な水道用PP管(ポリプロピレン管)を地下に埋設して水道を立ち上げ、各家庭がそこからバケツ等で蛇口をひねって必要なだけ水を確保することにすれば、水汲みの負担も軽減され、農業にもより簡単に利用できるはずである。
道路とか政府施設といったインフラは必要不可欠ではあっても、まずは底辺で生活する国民の貧困解消を優先課題とすべきで、あちこちに井戸を掘るといったこまごまとしたことよりも、思い切って水パイプラインを張り巡らした方が国家権力による「国民保護の責任」も果たせて抜本的解決になると思うのだが、素人考えに過ぎないだろうか。