8月17日(2011年)の「毎日jp」記事が放射性物質の拡散予測「SPEEDI」(スピーディ)の予測結果を関係機関すべてが避難に役立てようという発想はなかったとする政府の「事故調査・検証委員会」の指摘を伝えていた。
《SPEEDI:予測非公表、「避難活用の発想なし」指摘》(毎日jp/2011年8月17日 15時4分)
東電福島第1原発事故放出の放射性物質を拡散予測する「緊急時迅速放射能影響予測システム」(SPEEDI)の予測結果が事故から約2週間公表されなかった。その背景を政府の「事故調査・検証委員会」(事故調)の調査によってSPEEDIを運用する文部科学省を始め、内閣府原子力安全委員会も、経済産業省原子力安全・保安院も予測結果を避難に役立てようという発想がなかったからだとしている。
「事故調査・検証委員会」は当時の関係者からの事情聴取に基づいて、文科省と安全委は「避難に役立てようとする発想はなかった」、保安院は「データは不十分で公にするには適当でないという認識だった」と結論づけているとのこと。
先ず「SPEEDI」についての説明。
〈SPEEDIは原発事故などの際、放射性物質の放出量などを入力すると、風向きなどの気象条件や地形をもとに拡散状況を予測するシステム。事故発生当初は放射性物質の放出量などが分からなかったため、3者は放出量を仮定し、予測結果を出した。〉
そして結び。〈「公表すべきだ」との批判を受け、安全委は事故から12日たった3月23日、予測結果を初めて公表。水素爆発などが続発した発生当初、住民の被ばくを抑える避難などには生かされなかった。〉――
結果、半径20キロ圏内避難指示範囲外の北西方向の20キロ圏外にまで放射性物質が風に乗って流れたため、指示がないことから避難していなかった住民が無用な被爆を受けたケース、あるいは北西方向に20キロ圏外に避難した住民が却って放射性物質を浴びることとなったとの批判的な指摘を多く受けることになった。
既に広く知られていることだが、約2週間の未公表を当時の細野豪志首相補佐官兼政府・東電統合本部事務局長が5月2日の記者会見で次のように理由を述べている。
細野豪「放射性物質の放出源などが不確かで、信頼性がなく、公開で国民がパニックになる懸念があるとの説明を受けた。公表が遅れ、心からおわびする」(時事ドットコム/2011/05/02-06:19.)
この発言は未公開の理由であって、なぜ避難に活用しなかったかの理由を述べたものではない。パニックの懸念から公開しなかった。それはそれでいいとしても、風向きが北西方向だからとの理由で北西方向20キロ圏外の住民にまで避難指示をなぜ出さなかったのかの理由とはならない。
それが「事故調査・検証委員会」の調査によって、そもそもからして政府のどの機関も予測結果を避難に役立てようという発想がなかったからだと分かった。
では、100億円を超える巨費を投じて開発されという「SPEEDI」は何を目的としていたのかだろうか、インターネットを検索してみた。 《文部科学省原子力安全課原子力防災ネットワーク》
〈SPEEDIとは
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI:スピーディ※)は、原子力発電所などから大量の放射性物質が放出されたり、そのおそれがあるという緊急事態に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度および被ばく線量など環境への影響を、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測するシステムです。
このSPEEDIは、関係府省と関係道府県、オフサイトセンターおよび日本気象協会とが、原子力安全技術センターに設置された中央情報処理計算機を中心にネットワークで結ばれていて、関係道府県からの気象観測点データとモニタリングポストからの放射線データ、および日本気象協会からのGPVデータ、アメダスデータを常時収集し、緊急時に備えています。
万一、原子力発電所などで事故が発生した場合、収集したデータおよび通報された放出源情報を基に、風速場、放射性物質の大気中濃度および被ばく線量などの予測計算を行います。これらの結果は、ネットワークを介して文部科学省、経済産業省、原子力安全委員会、関係道府県およびオフサイトセンターに迅速に提供され、防災対策を講じるための重要な情報として活用されます。
※SPEEDI:System for Prediction of Environmental Emergency Dose Informationの頭文字です〉
放出源情報
原子力施設から報告される放射性物質の放出状況に関する情報。
SPEEDIでは、次のデータ項目を入力します。(原子炉施設の例)
・異常事象発生時刻
・原子炉停止時刻
・放出継続時間
・放出高さ ・サイト名称、施設名称
・放出開始時刻
・放出核種名、放出率
・燃焼度
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ここには〈万一、原子力発電所などで事故が発生した場合〉、〈防災対策を講じるための重要な情報として活用されます。〉と書いてある。
「防災対策」の中には人命救出・救済、避難、生活確保、医療等が含まれているはずだ。
人命救出・救済、避難、生活確保、医療等の迅速且つ的確な対策に役立てる「重要な情報として活用」すると規定していながら、人命救出・救済にも相当する避難に役立てようという発想がなかった。
要するに単に放射性物質の拡散予測のデータを出すだけのハコモノとしての発想しかなかった。
如何なる政策も如何なる政治も最終的には国民の生命・財産を守ることに目的を置いているはずだ。国家を発展させることによって国民の生命・財産を発展させる。国民の生命・財産を向上・発展させることによって国家も向上・発展する。
「SPEEDI」にしても、開発の目的を最終的には国民の生命・財産を守ることに置いていなければ、見せ掛けの宝――空疎なハコモノで終わる。そうではないことの証明として「防災対策を講じるための重要な情報として活用」という一項目を入れたはずだ。
だが、「SPEEDI」の実際的な運用に当って国民の生命・財産を守ることを最終的な目的に置くという発想がなかった。この発想の欠如が結果として、避難に役立てる発想の欠如につながったということなのだろう。
情けない限りだが、そういうことではないか。
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小泉政権時の自己責任の考えが今の政府にも引き継がれているのだろうか。
現在、過去、未来、日本政府は国民の生命財産を守らないし、守ったためしなしかな。