安倍晋三の消費税増税判断に見る第1次内閣の失敗がトラウマ化した、「この道しかない」の信念の程度

2013-08-22 08:12:34 | 政治



 特にそれが消費税増税判断に現れている。

 現行5%の消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法が2012年6月26日午後の衆議院本会議で賛成363票で可決、2012年8月10日夕の参院本会議で民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決、成立した。

 当時は自民党は谷垣禎一総裁だったが、安倍晋三も衆議院で賛成の一票を投じている。そして2012年9月26日、機会あらばと狙っていたはずの自民党総裁に返り咲き、2012年12月16日の衆院選を自民党総裁として戦い、自民党が大勝、首相にも返り咲くことが決定した以上、一国のリーダーとして消費税増税に向き合わなければならない覚悟と責任を負ったはずだ。

 当然、自らの経済政策であるアベノミクスに消費税増税は織り込まなければならない。織り込んで、織り込み済みとなっていたはずだ。

 ところが、増税するか否かの判断に今以て迷っている。企業経営者や大学教授ら計59人で構成する消費税率引き上げの影響を検証する集中点検会合を8月26日~8月31日に開催、安倍晋三はその意見を自らの増税判断材料にするという。

 安倍晋三が恐れているのは消費税増税によって景気が冷え込み、アベノミクスが腰折れになることにあるが、しかしこの恐れは59人の有識者の意見を参考にすることについても、また、アベノミクスに消費税増税が織り込み済みであるはずであることに対しても、あるいはアベノミクスという政策を構想した自らの判断に対しても矛盾することになる。

 確かに消費税増税の実施については、「附則第18条」として、「消費税率の引上げに当たっての措置」、いわゆる「景気条項」が義務づけられている。

 〈消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。 〉云々――

 「名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度」の「望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置」とは、安倍晋三にとってはアベノミクスそのものを指すはずだ。

 いわばアベノミクスは安倍晋三が言っていることが事実なら、日本の成長を取り戻す政策であると同時に、消費税増税を可能とする経済環境をつくり出す政策でもあるということである。例え消費税増税によって景気が冷え込むことがあっても、それが一時的なものでなければ、日本の成長を取り戻すと謳いに謳ったアベノミクスが少なくとも政府税収を増やし、財政運営に自由度を増す消費税増税に負けることになるばかりか、日本の成長を取り戻すという謳い文句自体をウソにすることになる。

 アベノミクスは信念の産物であるはずである。一度首相で失敗している。満を持しての再登板で打ち出した経済政策――日本成長戦略なのだから、なおさらに信念の産物でなければならない。

 2013年6月26日、183通常国会閉会に際しての安倍記者会見。

 安倍晋三「先日のイギリスでのG8サミットでは、日本の経済政策に世界の関心が集まりました。日本は再び世界の真ん中に踊り出すことができる、そう感じたサミットでありました。G8各国がこぞって三本の矢の経済政策を高く評価してくれました。私たちの政策は間違っていない。この道しかない、そう確信をしています」――

 天下の安倍晋三をして「この道しかない」と言わしめているのはアベノミクスに対する信念であるはず。その信念なくして、この言葉は出てこない。

 自民党の7月「参院選公約2013」にも自らの信念を謳っている。

 〈昨年の12月、私たちは「日本を取り戻す」戦いに挑みました。

 「成長する日本」を、「力強く復興を進める日本」を、「日本の領土・領海・領空を守り抜く日本」を取り戻す戦いです。

 政権発足から半年、大胆で次元の違う経済政策「三本の矢」によって、日本を覆っていた暗く重い空気は一変しました。デフレから脱却し、経済を成長させ、家計が潤うためには、「この道しかない」 そう確信しています。〉――

 アベノミクスに対する揺るぎのない信念と自信が露わとなっている。

 2013年7月22日参院選勝利記者会見。

 安倍晋三「昨年、総選挙の勝利について、この場で民主党の間違った政治に国民がノーを突き付けたものであり、国民はまだまだ厳しい目で、自由民主党を見つめている。私はこのように申し上げました。その認識の下、私たちは高い緊張感を持って経済の再生、復興の加速、外交・安全保障の立て直し、教育再生などに全力を尽くして参りました。

 GDP(国内総生産)や雇用といった実体経済を表す指標は好転し、確実に成果はあがっています。この道しかない、この思いを選挙戦で訴えて参りました。そして、昨日、決められる政治によって、この道をぶれずに前に進んでいけと、国民の皆様から力強く背中を押していただいたと感じております。まず自由民主党を応援をしていただきました国民の皆様に心よりお礼を申し上げたいと思います」――

 実体経済を表す指標の好転を受けて、アベノミクスに対する自信をなお一層深め、益々自らの信念を確実視している様子を窺うことができる。

 当然、「この道しかない」の信念の「道」は「この道しかない」のだから、消費税は乗り越えていかなければならない。だからこそ、内政、外交、全般に亘って強気の発言を貫き通してきたのだろう。

 もし消費税増税を乗り越えることができるかどうか不安だというなら、「この道しかない」という唯一絶対性は偽りの姿を露わにすることになる。 

 それがここに来て59人もの有識者を集め、消費税率引き上げの影響を検証する集中点検会合の開催を決め、その意見を安倍晋三が増税判断材料にしようとしていることは、その意見に最終的に従おうと従わなかろうと、安倍晋三は自らの信念を離れたことを意味する。

 要するにあれ程に「この道しかない」とアベノミクスの唯一絶対性を謳いに謳っていた信念に迷いが出たということなのだろう。

 この迷いは何を意味するのだろうか。

 第1次安倍内閣で首相としての国家運営に一度失敗している。当然、失敗の繰返し―― 二度目の失敗は許されない立場に立たされたことになる。

 いわば安倍晋三が首相に返り咲いた時点で既に二度目の失敗は許されないという思いを強くしたはずで、その思いが強ければ強い程、一度目の失敗に対する記憶が強まって、トラウマ化していく。

 だが、本人からすると、ここまで順調にきた。それを遮るものは多くが警告している消費税増税であって、失敗は許されないという思いをここに来て一層強くしたはずだ。

 もし普段の信念、普段の自信が揺るぎのないものであったなら、少なくとも3年間は国政選挙はないのだから、アベノミクスを武器に消費税増税に果敢に闘いを挑んでもいいはずだが、その逆の慎重になっているということは消費税増税でアベノミクスが失敗してはいけないという、信念よりも失敗しないための行動となっていることを意味するはずだ。

 「この道しかない」の信念はこの程度だということである。


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