アイドル女性ストーカー事件:警察の最悪の事態も最悪に近い事態も想定でない危機管理という逆説の滑稽さ

2016-05-23 13:19:58 | 事件


 5月21日午後5時過ぎ、アイドル活動をしている20歳の女性がライブ活動をするために東京都小金井市本町のそのハウスのある建物の敷地内で27歳のファンの男に首や胸などを20カ所以上刺された。

 病院に搬送されたが、意識不明の重体に陥っているという。

 男は現行犯逮捕された。

 以下、各マスコミ記事を纏めてみる。

 犯行の動機はプレゼントした腕時計などが送り返されてきたため、その理由を問い質すためにライブハウスに向かう彼女の後をつけて問い質したところ、曖昧な答だったためにカッとなり、用意していた刃渡り8.2センチの折り畳式ナイフで何回も刺した。

 尾行の様子はJR武蔵小金井駅周辺から現場付近まで一定の距離を置いて歩いてつけていく様子が防犯カメラに写っていたという。

 しかしこの凶行は必ずしも予期できない出来事ではなかったようだ。

 女性のブログやツイッターに男からの執拗な書き込みが続いていた。女性は5月9日、武蔵野署を訪れて男の名前や住所を伝えて、その書き込みをやめさせて欲しいと相談した。

 武蔵野署は書き込みが本人かどうか調査し、確認すると対応、但し確認できたのかどうか、本人に接触していなかった。 

 女性は事件前日の5月20日、武蔵野署に翌5月21日のイベントについて伝えたという。

 と言うことは、万が一の事態を予想していたことになる。

 対して武蔵野署は会場を管轄する小金井署に「女性から110番があれば対応するように」と依頼したという。

 要するに110番があってからの対応のみを決めていた。それで十分と考えていたのだろう。

 当然、ライブ会場には警察官を派遣していなかった。

 このような対応を決めたことに合理的な根拠がなければならない。

 女性が5月9日に武蔵野署を訪れて男の名前や住所を伝えて、女性のブログやツイッターへの執拗な書き込みをやめさせて欲しいと相談し、警察が調査・確認を約束してから、凶行に及ぶまで12日経っている。

 警察は確認が取れたのだろうか。ツイッターは本名を名乗っている場合と名乗らずに自分の好きな言葉や自身を他の物に譬える等の場合がある。ネットを調べてみると、5月21日午後5時過ぎに事件が起き、その夜テレビなどが事件を伝えてから、ネット利用者が検索をかけて見つけ出したのだろう。

 どのようなアカウント名であるかということと5月23日朝の時点で刺された女性との関連でかなりの数の記事が紹介されている。

 アカウント名は現代歌人の和歌の、その名前の歌集まで出版されている一節を使用している。

 つまり2日か3日そこらで見つけ出した。実際には数時間で見つけ出すことができたのかもしれない。

 と言うことなら、警察にしても女性から5月9日の日に男の名前と住所を知らされているのだから、男の書き込みの正確な文言を聞き出していさえすれば、例えアカウント名に本名を名乗っていなくても、時間がかかったとしても何日かで男のツイッターに辿り着くことができたはずだ。

 あるいは書き込みがどれ程の危険性があるかを捜査するためとTwitter Japanに問い合わせれば、元々公開されているツイッターなのだから、もっと手っ取り早く知ることができるのではないだろうか。

 当然、女性の相談からストーカーを疑って、男のツイッターを監視しなければならない。

 果たして監視していたのだろうか。

 5月3日が最後のツイートとなっていて、「震災とかテロとか、関係ない人たちの幸せな暮らしのつぶやきを見ると、嬉しいね。下衆な人間らしくて嬉しいね笑」と書いている。

 関係ない人たちであっても、震災とかテロを真剣に考える人間もいる。だが、人間はそのような状況に置かれなければ、そのことを四六時中考えることはできない。テロや震災の状況下で一日中生活しているわけではないからだ。自身が置かれている状況に応じて考えたり悩んだりする生き物である。

 本人にしても4月27日に刺すことになる女性への返信で、「井上直久さん28日から5/4まで東武百貨店池袋店6階美術画廊で新作発表の個展です。16歳の時に17万円の版画を買って以来、200万以上買ってる作家さん。暇潰しに見に行ってみ?」と、「震災とかテロとか、関係ない」ことを呟いている。

 こういった人間の限定された存在性を思い遣ることもできずに一緒くたに「下衆な人間」と蔑む。

 余程自分が不幸な状況に置かれていて、その反動からか、そうでない人間――社会一般を恨んでいる節がある。

 これは危険な兆候の一つであろう。

 そして5月1日からそれ以前の日付けで、刺すことになった女性に対して『全部返せ』と伝えてね(・ω・)ノまだ返してもらってないものがあるんで、一部しか返って来てないんで、全部返してくださいm(__)m」、「『全部返せ』と伝えてください。『全部返せ』それだけです」、「名前くらい書きなよ。詐欺かと思ったじゃん。お菓子とかお花も返すん?そのうち送られてくるんかな〜。楽しみにしてますね(●^ー^●)時間もお金も返す気なら、ほんまもんの悪意だね。素敵すぎて嬉しいね」と続けて綴っている。

 相手の女性がプレゼントを望んだわけでもないし、二人が様々な物をプレゼントし合うことを許し合っている関係になっているわけでもないし、少なくとも相手がプレゼントし合うことを許し合う関係を望んでいるわけでもないのに時計やその他をプレゼントして、時計を送り返されたからといって、相手が受け取っていいフアンなのか、受け取ってはいけないフアンなのか判断しての返却なのだと考える冷静さを失っていたとしても、相手の女性へのツイートで「時間もお金も返す気なら、ほんまもんの悪意だね。素敵すぎて嬉しいね」と、返却を皮肉っぽい屈折した感情で悪意とのみ解釈している。
 
 当然ここにも恨みの感情がある。それが一過性で消えていく感情なのか、エスカレートしていって、恨みが憎しみに変わっていく感情なのか見極めなければならない。

 プレゼントした物を「時計だけではなく、全部返して下さい」と一度だけ相手のツイッターかブログに書けば済むものを、相手の女性のブログも含めて何度も書き込む執拗さからは後者の疑いが強い。

 4月27日の女性へのツイート 。「今回は何もプレゼント貰えなかったのかな(´-ω-`)yでもまあ欲しくないものを貰ってもまったく嬉しくないよな!(相手の女性は)欲しいものは自分で手に入れたいタイプの人だから、勝手に変なものを渡されても迷惑なだけなんだよな。何も貰えなくて良かったね」

 本心を偽りながら、偽りを恨みの感情で満たしている。4月27日の時点で既に恨みの感情の頭をもたげさせていた。そして全部返させることに拘って、執拗に同じ書き込みを続けた。

 ここに僅かながらだが、エスカレートを見ないわけにはいかない。

 2月3日のツイートは本人の性格が顕著に現れている例の一つであろう。「僕が見ている世界と同じ世界を彼女は見ているのだという過敏な自意識もだらしない程にまた空虚」

 その証明ができないから、「空虚」なのだろうが、どんなに親しい関係にある男女であっても、見ている世界を同じと見ることも欲することも一種の強要であり、自身の見ている世界に相手の女性を独占して、自身と同じ世界を見させようとする自己中心以外の何ものも窺うことができない。

 この自己中心は断るまでもなく、他者存在性の無視によって成り立っている。独占欲そのものが他者存在を無視しなけば、成り立たない。

 他者は他者として尊重することができずに自己中心的で独占欲があり、恨みの感情に取り憑かれやすく、女性のブログやツイッターに執拗な書き込みが続ける。

 例えツイッター等の言葉の表面に現れなくても、その内心に一過性ではなく、十分にエスカレートさせていく余地を見なければならなかったはずだ。

 女性が万が一の事態を予想して武蔵野署にイベントがあることを伝えた以上、最近の若者が簡単に殺意を抱き、簡単に人を殺してしまう社会的傾向をも考え併せて、110番があってからの対応ではなく、イベント会場に一人や二人の警官を張り込ませる方法をなぜ取らなかったのだろう。

 刺された女性自身が最悪か最悪に近い事態を想定して警察に知らせておきながら、警察自体が最悪に近い事態も最悪の事態も想定できなかった、その危機管理という逆説は余りにも滑稽に過ぎる。

 危機管理とは最悪の事態を想定して、想定した最悪の事態が起きないよう、その予防に前以て備えることを言うが、そのためには例え空振りになろうと過剰に反応することが求められる。

 だが、今回のストーカー事件では過剰な反応どころか、110番があるまで待つという最悪の事態想定から程遠い、危機管理とは言えない“ぬるい”危機管理ととなっていた。

 これまでも三鷹ストーカー事件、館林ストーカー殺人事件、市川市ストーカー事件等々、警察は相談を受けていながら、満足に危機管理を機能させることができず、多くの若い女性を犠牲にしてきた。

 ストーカーに関わる危機管理について何も学習していなかったことになる。何度同じことを繰返すのだろうか。

 (青文字個所、5月23日13:19加筆)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 舛添要一のカネの使い道は自... | トップ | 安倍政権・自民党の和歌山県... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

事件」カテゴリの最新記事