町村官房長官が8日夜7時のNHKニュースで民主党小沢代表無投票3選に対して、得意げな様子の自画自賛の薄ら笑いを見せて次のように皮肉っていた。
町村信孝「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想の代表が無投票で、また、選出される。そういう民主党の、体質というものが、本当に国民の期待に添ったものなのかどうなのか、もう少し自由闊達な、政党で、あるのかなーと(得意げな顔、得意げな笑みを見せ)、思っていたんですけどもね、どうもそうじゃないのかもしれませんね」
昨9日の『朝日』も<代表選で政策を内外にアピールし損ねた不安は隠しきれない>ものの、「小沢政権」実現をスローガンに政権交代を前面に押し出そうとしている民主党の様子を伝えた朝刊記事≪「小沢政権」錦の御旗に≫の付属記事≪埋没の不安、なお≫の中で上記町村官房長官の言葉を取り上げている。
自民党総裁選にマスコミの注目が集まって、その陰に代表選がなかった民主党の、いわば「無風」状態が隠れてしまい、マスコミ報道から「埋没」してしまう。そういった民主党の動揺を見透かして自民党が民主党に「口撃」を加えているが、その「口撃」の一例として町村官房長官の記者会見の言葉を載せているのである。
しかし記事は町村の言葉自体に矛盾があることに気がついていない。
2005(平成17)年8月8日、参議院本会議で郵政民営化関連法案が否決されると、小泉首相は衆議院を解散して郵政民営化を問う郵政選挙に打って出たが、衆議院で反対票を投じた全議員に公認を与えず、逆に公認を与えた対抗馬(いわゆる「刺客」)を送って、反対議員の多くを落選させしめ、2005年9月11日投票の第44回衆議院議員総選挙で自民党を歴史的な大勝利に導いた。
だが、小泉首相の後を継いで党内勢力から圧倒的支持と圧倒的期待を受けて自民党総裁に就任、第90代内閣総理大臣に就任した安倍晋三は予定されていた第21回参議院議員通常選挙(2007年〈平成19〉年7月29日投票)対策から小泉首相上程の郵政民営化法案に造反・反対して自民党を除名され無所属で衆院選に当選した議員を各地元に影響力を持っていることと首班指名でも12人が安倍に投票している関係から復党を許可。
だが、安倍晋三が一度は愛人の元に去っていったが、その愛人に捨てられて家に戻ってきた夫の帰宅を許す妻のように「お帰りなさい」と言って何もなかったが如く快く出迎えたものの子供の反発に遭うように、安倍自身も「お帰りなさい」と出迎えはしたが、世論の反発に遭い、就任当初は70%近くあった安倍内閣支持率を50%台に下落させ、参院勝利対策が逆に参院選敗北、与野党逆転状況をつくる一因となる皮肉な現象を生じせしめた「郵政造反組復党劇」は町村信孝が小賢しくも言っているところの「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為とどこに変わりがあるのだろうか。
まさしく「本当に国民の期待に添ったもの」ではなかったというわけである。
いわば、自民党もしてきた「国会対策しかない、選挙しかない」政局行為なのである。
郵政造反議員に対する党除名・非公認、そして棄権議員に対する党公認と引き換えの次回は郵政民営化法案に賛成することを誓わせる「踏み絵」による忠誠要求は少なくとも郵政民営化を実現させるための政策行為であった。だが、それら造反議員の復党は政策行為から離れて、参院選対策、その次の衆院対策という自分に有利な政治情勢をつくり出すための政局行為でしかなかった。町村派領袖・町村信孝は自派出身の総理大臣として安倍一次内閣の「国会対策しかない、選挙しかない」「郵政造反議員復党劇」なる政局行為の一部始終を見てきたはずであり、安倍改造内閣では重要閣僚である外務大臣を務めてもいる。
現在自民党の選対委員長であるが、郵政民営化法案に棄権した古賀誠は小泉首相が解散した総選挙での党公認を得るために棄権議員に要求された、選挙後再度提出の郵政民営化法案への賛成に同意する誓約書を執行部に提出する「踏み絵」を踏むことで
自らが掲げた政策に反する「選挙しかない」政局行為に走って政治家にあるまじき姿を曝している。
自分たちがしてきたことは忘れて、町村は他人だけを批判する。
勿論「国会対策しかない、選挙しかない」政局行動が過去の出来事で終わっていれば少しはいいが、自民党は開かれた党だから民主党のように議論封じをして無投票で党の代表を決めるようなことはしない、総裁選は複数議員が立候補して国民に対してオープンな状態で政策を問うと、さも民主党が閉ざされた党であるかのように言っているが、複数候補者による政策を問うとする今回の総裁選を体よく引き出すこととなった福田辞任のそもそもの動機自体が政策行為ではなく、自民党に有利な政治情勢を策す目的の国会対策・選挙対策のための、町村の言う「それしかない」政局行為ではなかったろうか。
このことは9月2日(08年)当ブログ記事≪福田首相辞任/福田も自民党も公明党も大人の対応を取ることができなかっただけの話で「福田首相は財政規律派であり、麻生は財政出動派という違いを考えると、異なる政治手法の人間、政策が異なる人間に次を「託す」(福田首相「辞任表明」中の言葉)という矛盾を犯すことになる。その矛盾を矛盾でなくす方法が「政権維持」という利害で一致点を見たということ以外にないことになる。」と、その政局行為を既に言及しているが、「支持率が低迷して人気のない福田では次の総選挙は戦えない、国民に人気のある麻生を『選挙の顔』にして戦わなければ、野党に政権を奪われてしまう」といった党内の声に気づいていないはずはない、気づいていた上での福田「辞任」だったはずである。
いわば自民党の多くの声が「選挙の顔」に福田を求めていたのではなく、麻生に求めていた。このこと自体が既に政策行為ではなく、政権維持、議員の身分保全のための「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為に過ぎないなのだが、福田辞任となれば自民党は「次は麻生」の流れとなるのは福田首相自身の承知していた、いわば自民党的予定調和なのだから(何人立候補しようと、最終的には麻生で決定となる出来レースに過ぎないだろう)、当然自らも「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為の範囲内で自作自演した福田辞任、その先の「次は麻生」という流れであろう。
具体的に言うと、財政規律派の福田首相の政策意図になかった定額減税や年内解散を求める公明党と歩調を合わせて「財政より景気」優先の財政出動を策し、ある意味福田首相を追い込んでいた麻生を選択するという福田政策の予定調和の確立に矛盾し、予定調和を壊す類の(幹事長に任命したこと自体が既に福田政策の予定調和を自ら壊す人事であったはずである)「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為だったのである。
単細胞な「神の国」発言の森元首相が無派閥の野田聖子消費者行政担当相に総裁選への立候補を要請したものの、本人に断られたと言うことだが、「福田康夫首相の無味乾燥な話より、麻生さんのような面白い話が受けるに決まっている。わが党も麻生人気を大いに活用しないといけない。『次は麻生さんに』の気持ちは多いと思う。私も、勿論そう思っている」(「毎日jp」)とテレビで発言して「麻生支持」を明確にしているにも関わらず、関係のない人間に立候補を要請する見事な自己矛盾を演じている。
麻生支持自体もそうだが、支持もしていない野田聖子を担ぎ出そうとしたのはマスコミに話題を提供させることで自民党総裁選に世間の注目を集めさせようとする政策次元から離れた、「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為そのものを自己存在証明の十八番としているからだろう。
最高顧問を務めている町村派から自分が麻生支持なのに小池百合子が立候補したのが面白くなくて、同じ女性議員の野田聖子を担ぎ出してお互いの票を侵し合うよう仕向けたい魂胆もあったかもしれない。
いずれにしても町村官房長官の民主党に対する「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想の代表が無投票で、また、選出される。そういう民主党の、体質というものが、本当に国民の期待に添ったものなのかどうなのか、もう少し自由闊達な、政党で、あるのかなーと、思っていたんですけどもね、どうもそうじゃないのかもしれませんね」は自らの足許の党内で、しかも自派出身の総理大臣までが「国会対策しかない、選挙しかない、という、そういう発想」の政局行為に現を抜かしていることには目がいかない、だからこそ自身の発言自体が政策行為を離れた政局行為に属する発言だとは気づかないでいられる、自分の欠点は棚に上げて他人の欠点をあげつらうに等しい客観的判断能力を欠いたご都合主義からの批判としか言いようがない。
客観的判断能力のないご都合主義の資質は事欠かないが、必要とするその逆の資質を欠いている政治家が機会があれば総裁選に打って出て将来の日本の総理大臣になろうと密かに狙っている、その政治家的資質に於ける裸の王様的な逆説性は何と説明したらいいのだろうか。
首相の辞任の背景に麻生への「禅譲密約」があったのかをマスコミは盛んに話題としているが、福田辞任が「次は麻生」の流れとなるのは福田首相自身が承知していた自民党的予定調和であるなら、言葉ではっきりと「禅譲します」と言わなくても間接的禅譲、あるいは暗黙の禅譲と言えるだろう。
この「禅譲」を意地悪く勘繰るとするなら、辞任によって自民党政権に幕を降ろす総理大臣となることを免れたものの、麻生は公明党と組んで福田政権を行き詰まらせた福田政権崩壊を仕組んだ戦犯の一人であり、その恨みから政権交代という猫に、あるいは民主党勝利という猫に鈴をつけるねずみの役目を麻生に密かに譲った「禅譲」と言うこともある。
政権交代という火中の栗を麻生に拾わせてやれと。
日本は性別・職業・収入・社会的地位に関係なく、20歳以上の男女はすべて選挙権を与えられている開かれた選挙制度が保障されている。だが、政治的に開かれているかと言うと、戦後70年近くもなってほぼ自民党一党独裁の開かれていない政治状況を国民は許している。いくら自民党議員が自らの党が国民に開かれている党だと自画自賛したとしても、国民が政治的に開かれていない、自民党のみを政権党だと権威付ける閉ざされた権威主義に囚われている以上、意味を成さない自画自賛でしかない。
政権交代があってこそ、日本は政治的に開かれた国となり、開かれた政治性を持った国民となれる。
麻生は広島市で講演し「総裁選で選ばれる人は衆院選で民主党の小沢一郎代表と戦う人ということを考えてほしい」(「毎日jp」記事)と訴え、石破前防衛大臣も「総裁選挙では、外交や安全保障などについて、自民党が、民主党の小沢代表とどのように戦うのかを強調したい。『勝ち馬に乗りたい』という気持ちがないわけではないが、損得を抜きに国家や国民、党のために全力を尽くしたい」(「NHK」インターネット記事)と言い、ほかの立候補者もテレビで似たようなことを口にしている。
もしそれが人気投票とさして変わらない「選挙の顔」を求める政局行為の否定から真に発した小沢民主党の政策との比較対照でそれぞれの政策の是非・優劣を判断させる政策行為優先の言葉であると言うなら、新総裁が決した時点で新内閣の支持率だ何だかんだとマスコミが騒ぐことになって有権者の意識を誘導することとな首班指名まで持ち込まずに福田首相は解散権を行使して自民党新総裁の政策と民主党小沢の政策を直接戦わせる衆院選に持ち込み、国民に直接政策の是非・優劣を選択させるべきではないだろうか。
そうしてこそ、「選挙の顔」を選択肢とする政局行為を拒否して政策を選択肢とする政策行為を重要視すべきとする麻生太郎の自民党新総裁は「衆院選で民主党の小沢一郎代表と戦う人」という言葉に添って政策対政策の戦いに少しは持ち込めるだろうからである。
石破の「外交や安全保障などについて、自民党が、民主党の小沢代表とどのように戦うのかを強調したい」とする言葉に添って、同じように政策対政策の戦いに少しは進めることができるだろう。
今求められているのは町村が言っているように自民党にはさも縁がないと思わせている政局行為を真に拒絶し、言葉だけのものではない政策行為によって国民の政権選択の判断材料に供することであろう。
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