5日(08年9月)の「NHKニュース」が先月の日朝実務者協議で合意していた拉致問題調査委員会の設置を先送りしたいと北朝鮮側が伝えてきたことを報道していた。
先月の日朝実務者協議での拉致問題調査に関する「北朝鮮側が取る措置」としての合意事項とは、
1.拉致問題の具体的で全面的な再調査を行う。
2.権限を与えられた調査委員会を迅速に立ち上げ、可能な
限り秋までに調査を終了する。
3.調査の進展過程を日本に随時通報する。
日本側が取る措置は、
1.北朝鮮の調査委の立ち上げに並行して、人的交流やチャーター便の往来の規制
を解除する。 (「asahi.com」記事から)
上記「NHKニュース」は関係者の声を次のように伝えていた。
高村外相「新政権が(日朝協議の合意事項の)履行についてどういう考えなのかを見極めるまで、えー、調査委員会の立ち上げを差し控える、そういう連絡がありました」
町村官房長官「そういう対応をするのは、非常に残念な、思いがしております。エエ、いずれ、この、非常に早くですね、引き続き働きかけをしていきたいと――」
中山拉致問題相「政府の方針というのは変わらないのであって、北朝鮮側が早く、このしっかりとした権限・内容、調査の内容も含めて、権限を与えた委員会を設置するようにと、日本のせいにせずに、このことについては進めてほしいと――」
飯塚繁雄拉致家族委員会代表「向こうがこう言ってきたと、ハイ、分かりましたというーな感じに取られがちなんですね。そのとき何で、それじゃ困ると、飛んでもないと、いうことを言わなかったのか。日本政府は、うー、まあ、総理大臣が誰になろうと、日本の立場は変わらないんだから、ああ、即刻帰せ。あるいはその調査委員会、などの動きを我々にはっきりと報告せよと、いうことを強く言わなかったのかなあって――」
増元照明拉致家族会事務局長「日本政府はホントに、あの後手にまわっているか。北朝鮮の対応に対して常に、それに反論したり、対応したりするけれども、先にこっち側から手を打って北朝鮮の動きを促していくことを考えていかなければならなかったんではないかと思います」
拉致された疑いのある市川修一さんの兄、健一氏「約束事は約束事でちゃんとね、履行してほしいということをね、強くメッセージを送るべきですよ。何か北朝鮮に振り回されている、格好でしょ?家族にしてはたまったもんじゃないですよねえ――」
自公政権が誰の内閣になろうと、あるいは政権交代が発生して政権が野党に移行しようとも拉致解決に向けた日本の基本的態度が変わらないのは中山拉致問題相が「政府の方針というのは変わらないのであって」と言っているとおりであって、あるいは飯塚繁雄拉致家族委員会代表が「総理大臣が誰になろうと、日本の立場は変わらないんだから」と言っているとおりであって、そのことは北朝鮮も承知しているはずであるし、高村外務相も町村官房長官も承知事項のはずである。
大体が合意事項自体が前科があることから、北朝鮮側の事情を要因として変わることはあり得ても、日本側からしたら日本の政権の都合で変わるといった内容ではない。
もし日本側が「北朝鮮の調査委の立ち上げに並行して、人的交流やチャーター便の往来の規制を解除する」と約束した措置を政権の変動によって破った場合、日本側は拉致解決に向けた北朝鮮側の約束事項を失うことになる。政権に関係なく継続事項なのは誰の目から見ても明らかなことであろう。
当然外務省は、あるいは高村外相自身が、北朝鮮のように独裁者の恣意によって動く独裁国家とは違って、日本は国民世論に従って動く民主主義国家であって(その国民世論が多くの場合当てにならないのだが)、日本の政府は首相が誰になろうと「拉致解決なくして日朝国交正常化なし」の国民世論の縛りにあっているのだから、拉致解決に向けた態度に変化はない、北朝鮮は「新政権を見極める」必要もないのであって、合意事項を粛々と進めてもらいたいとメッーセージを送ることもできたわけである。
もし北朝鮮側の申し出をただ、ハイ、そうですかと日本の外務省にしても高村外相にしてもストレートに承っただけだとしたなら、両者とも話にならないくらい底なしの無能ということになる。例え無能だとしても、話にならないくらい底なしとまではいかないはずである。
しかし日本の新聞・テレビの報道からは外務省にしても高村外相にしても、北朝鮮の申し出に対する直接の回答としてどのようなメッセージも発したようには見えてこないし、ただ単に、ハイ、そうですかと承った姿しか見えない。
町村官房長官は「そういう対応をするのは、非常に残念な、思いがしております。エエ、いずれ、この、非常に早くですね、引き続き働きかけをしていきたいと――」とは言っているが、直接の回答ではなく、今後の問題――いわば新政権がスタートしてからの問題として扱っている。
家族会にしても日本政府が北朝鮮の言いなりに、ハイ、そうですかとただ承っただけと受け止めたと見たことからの歯がゆい批判となっている。
果して承るだけといった「子供の使い」外交しかできない日本なのであろうか。それ程までに底なしに無能な外交しか演ずることができない日本なのだろうか。
北朝鮮側にしても、日本政府が「拉致解決なくして国交正常化なし」を拉致に関わる基本姿勢としていることは国民世論が仕向けた要求事項・縛りだと承知しているはずだし、当然の結末として日本の政権の変動と拉致解決に向けた日本側の姿勢が基本的には連動することはないと見なければならないはずだが、そうでありながら、日本側の新政権の考えを見極める必要があると調査委員会の設置の先送りを伝えてきたことになり、単なる引き伸ばし作戦に映る。
引き伸ばしに過ぎないとしたら、8月19日当ブログに≪拉致「一旦白紙に戻し、一からの再調査」とは国交回復のための落しどころを探る合作劇ではないのか≫で題名どおりの内容の記事を書き、同様の結論になるのだが、北朝鮮で拉致調査が進展しないのは拉致命令首謀者が金正日であることから(脱北者になりすまして韓国軍を対象としたスパイ活動で韓国捜査当局に逮捕され、先月末に起訴された北朝鮮の女工作員は金正日直接の指令だと自白しているという)、そのことの露見を恐れて新しい事実を出しようがないとしか考えようがなく、日朝双方共にそのことを承知していて、新しい事実を出しようがなければ拉致解決はないのだから、如何に拉致問題をすり抜けて国交正常化に持っていくかが日本と北朝鮮の課題と化し、そのことからの北朝鮮側からの「新政権の履行を見守る」を口実とした拉致問題調査委員会設置の先送りの申し出であり、日本側の何ら反論しない、ハイ、そうですかのストレートの承りといったところではないだろうか。
福田辞任、新政権への移行が単なる口実であるとしたなら、北朝鮮側をして先延ばさせた真の理由はアメリカが北朝鮮のテロ国家指定解除を先送りしたことではないだろうか。核問題の解決によってアメリカにテロ指定国家を解除させ、その先に用意してある対北朝鮮支援の輪から日本だけを孤立させて立場を失わせ、止む無く拉致解決を諦めさせるといったシナリオを描いていたところ、肝心のアメリカがテロ国家指定解除を先送りしてしまった。元々拉致完全解決のシナリオは存在しないのだから(存在していたなら、とっくに完全解決を見ていただろう)、アメリカのテロ国家指定解除先送りに連動させた、多分苦し紛れに一息つくための拉致問題調査委員会設置の先送りといったところだろう。
もし日本が国民世論を無視して政府の都合のみで政治が行えるなら、拉致解決より北朝鮮との国交正常化を優先させて、戦争補償と経済援助を投下する北朝鮮市場に日本の企業を進出させて商機を与え、出したカネ以上に日本が儲けるといったことをするに違いない。アジアの戦後復興に向けて日本が賠償や経済支援と同時に日本の企業を進出させて大いにカネ儲けさせて、その商機によって日本の経済復興・経済発展の果実を手に入れたように。
だが、核問題が解決してアメリカが北朝鮮に対するテロ指定国家を解除した場合は、北朝鮮市場への進出はアメリカや中国、韓国の企業に先を越され、それぞれの援助を食い合うことになる。
北朝鮮 拉致調査委先送り連絡(「NHK」インターネット記事/08年9月5日 12時55分)
高村外務大臣は閣議のあとの記者会見で、先月の日朝実務者協議で合意した拉致問題の調査委員会について、北朝鮮側が、日本側の新政権の考えを見極めたいとして設置を先送りすることを伝えてきたことを明らかにしました。
このなかで、高村外務大臣は、先月の日朝実務者協議で合意した拉致問題の調査委員会について「昨夜、北京の大使館ルートで北朝鮮側から『日朝実務者協議の合意事項を履行する立場であるが、日本側の事情にかんがみて、新政権が、その履行についてどういう考えか見極めるまで調査委員会の立ち上げを差し控える』という連絡があった」と述べました。
そのうえで、高村大臣は「日本側としては、いままで、早く権限ある調査委員会を立ち上げ、秋までには結果を出してくれと言ってきた。生存者を発見して少しでも帰国につながることを期待していたが、そういう連絡があったことは非常に残念だ。これからも早期に調査を再開するよう働きかけていきたい」と述べました。
拉致問題の再調査をめぐっては、先月、中国の瀋陽で行われた日朝実務者協議で、北朝鮮側が、権限を与えられた調査委員会を設置して全面的な調査を迅速に行い、可能なかぎりことしの秋までに調査を終了することなどで合意していました。
北朝鮮が拉致問題の調査委員会の設置を先送りすると伝えてきたことについて、拉致被害者の家族会代表で田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さんは「福田総理大臣の辞意表明を受け、北朝鮮が日本の政局の行方を見極めてくるのではないかと予想はしていたが、残念でならない。わたしたちの手の届かないところで状況が刻々と変わる現状にじれったさを感じるし、拉致問題がこれからどうなるのか不安を感じずにはいられない」と話しています。
また、拉致被害者の家族会の事務局長で、増元るみ子さんの弟の増元照明さんは「北朝鮮が調査委員会の設置を先送りすると言いだすことは福田総理大臣が辞意表明をしたときに予想されたことだ。そうさせないように、日本政府が先手を打たなかったことが問題だ」と話しました。そのうえで増元さんは「今後、政権がどう変わろうと、8月の協議で合意したとおり、速やかに調査委員会を設置するよう北朝鮮に働きかけていくべきだ」と話しました
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