4月10日(2010年)日曜日のテレビ朝日10時からの「サンデー・フロントライン」で福島第一原発の全電源喪失問題を取上げていた。 コーナーの題名は「見過ごされた“危険性” 全交流電源喪失」 このコーナーに入る前に研究者の東電に対する貞観地震クラスの地震の再来、津波の再来の危険性の指摘に対して東電が考慮しなかった、既に広く知られている事実を取上げていた。 武藤栄東電副社長「一部の研究者から貞観津波の大きさを想定するモデルの論文が出ているというふうに理解をしております。このモデルそのものにつきましては統一見解を纏めるには至っていない状況だったというふうに思っています」 要するに大勢意見ではなかった。少数意見に過ぎなかった。 一部研究者とされた産業技術研究所の岡村行信氏。 岡村行信氏「一部の研究者であるというのは、それは、あの、事実ではあるし、統一した見解ではないというのは事実であると思うんですけども、あの、否定する材料は何もなかったと思うんですね。可能性、否定できないものについては、あの、対応するというのが基本的な考え方だというふうに、我々はそう思って、そういう審査を参加してきましたので――」 番組はここで福島原発の全電源喪失について解説。地震で鉄塔が倒壊、外部電源が喪失、津波によって内部電源が喪失、外部から電源車両を集めて試みたがうまくいかず、非常用バッテリーも8時間程でダウン。原子力関係者にとって長時間の電源喪失はまさかの出来事だった。 そもそもからして原子力安全委員会作成の指針が長時間の全電源喪失を想定していなかった。全電源喪失非想定の上に原発安全神話を成り立たせていた。 平成2年(2009年)8月30日原子力安全委員会決定の「発電用軽水炉型原子力施設に関する安全設計審査指針」 「電源喪失に対する設計上の考慮」 「長期間に亘る全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」 とまあ、国は各電力会社に全電源喪失対策はしなくてもよいとのお墨付きを与えた。全電源喪失対策免除の葵の御門の印籠を与えた。党でんとしたら、大いなる力を得た思いがしたに違いない。 1990年当時安全指針作成の作業部会に委員として関わった元原子力安全委員会委員長の藤家洋一氏。 男性記者「17の文字(?テロップには「指針」と書いてあった。)があったことで、全電源喪失への備えが疎かになった?」 藤家洋一氏「それは全くありません、ハイ。それは何を対象に見てきたのですか。今回の事故の合わせますと、津波、津波がなけ、なくて収まる話であれば、ちゃんと収まったと思います。 余震というか、あのー、この間宮城で行った、あの話はですね、確かに1日足らずで復活、復帰するんですよ」 そこでなん、何日も何十日もという時間をかける必要もないでしょ?だからここ(指針)に書かれていることは何も矛盾していない」 余震で停電し、東通原発と女川原発、六ヶ所再処理工場で電源が喪失したが、1日足らずで復旧したから、指針は間違っていないと言っている。 但し津波が発生しないことを前提とした自己正当化に過ぎないから、この自己正当性は当然の如く福島第一原発には通用しない。これが学者の論理だとは驚きである。「津波がなくて収まる話であれば、ちゃんと収まった」。 津波は既に存在した事実であって、その事実は最早消去できない。 2010年5月、衆議院経済産業委員会―― 吉井英勝共産党議員「電源も切断されて、あのー、原発停止となった場合には、最悪で見ますと、どういう事態が起きるとお考えになるのか、伺います」 原子力安全・保安院長「多重防護の考え方に基づいて、その設計がなされまして、それによって安全性を確保しているというところでございます」 吉井英勝共産党議員「最悪の場合に炉心溶融ですね。最悪のとき」 原子力安全・保安院長「あの、最悪と言いますか、あの、まあ、それでも(笑いながら)、そういった事態が起こらないように、あの、設計、工学上の設計、あの、殆んどそういうことはあり得ないだろうというぐらいの安全設計をしているところであるますけども――」 番組のインタビューを受けた吉井議員。 吉井議員「住民の安全・財産を守ろうと思ったら、先ず、そのどんなことがあっても、炉心溶融のようなことはさせちゃならないと。そのために外部電源も内部電源も喪失された場合の対策を考えなきゃいけないじゃないかと――」 ここで番組は2006年の4月開催の第42回原子力安全基準・指針専門部会 耐震指針検討分科会で行われた全電源喪失を巡る議論を取上げる。 石橋克彦神戸大学名誉教授「大地震が原子力発電所を中心とする一帯を襲えば、商用電源の喪失。要するに電気が停まることがかなり長時間予想されます。その場合に早急に修理がなされるかというと、それがなされない可能性も最も高い」 柴田碧東京大学名誉教授「地震による損傷は共通事象。同時多発的である。同時多発性の可能性があることを認識して、その対策を考えなければならない」 だが、こうした危険性の指摘がなぜ見過ごされたのかと番組は問いかけ、この会合に出席した2006年当時原子力安全委員会委員長の松浦祥次郎氏を登場させる。 松浦祥次郎氏「この世にはまさに、あのー、オ、人間でとても想定できないようなことが起こる可能性はあると思います。 で、隕石というのは想定できないわけではないですけども、ヒジョーに確率は少ないわけですよね。それに全部対応しようと思いますとおー、凄い費用がかかる」 あり得ないだろうと思うぐらいの最悪の事態を想定して、そのように想定した事態に備えるのが危機管理だが、原子力に関係する場所に於いては想定する事態は徹底的に尽くさなければならないはずだ。 そう、隕石の直撃をも想定して、そのことに備える対策の構築である。なぜなら、隕石直撃の被害は一般的には局所的である。だが、隕石が原子力発電所を直撃した場合、隕石の被害は局所的ではあっても、原子炉に被害を与えて損傷を与え、放射能が大量に漏出した場合、その被害は局所的ではすまない。 福島第一原発の放射能漏出の比ではなく、その被害が及ぶ範囲も福島第一原発の比ではなく、最悪全世界に影響を与える。 だが、コストを考えて、隕石の直撃を想定外としている。 松浦氏の隕石を譬え話としたこのコスト意識は安全対策を講じる側の人間を律していた危機管理の制約ということであろう。当然、電気事業者側はコストがかからないに越したことはないから、忠実に従い、自発的に指針以上の安全対策を取ることもないし、危機管理意識を働かすこともない。 コストが危機管理に制限を設けていた。現在の原子力安全委員会の斑目春樹委員長もご他聞に洩れずコストを制約とした危機管理に制約されていたことを番組は伝えている。 2007年は浜岡原発差し止め訴訟での被告側の証人。全電源喪失を想定しない理由を次のように述べたという。 斑目委員長「何でもかんでも、これも可能性ちょっとある、これはちょっと可能性がある。そういうものを全部組み合わせていったら、モノなんて絶対造れません。だから、どっかで割り切るんです」 3月22日(2011年)の参議院予算委員会―― 福島瑞穂社民党党首「割り切った結果が今回の事故ではないですか?」 斑目委員長「確かに、あの、割り切らなければ、あの、設計できないというのは事実でございます。で、その割り切った、あ、割り切り方が正しくなかったということも、あのー、えー、我々は十分反省してございます」 今更反省されても、福島の放射能被害者に対して取り返しはつかない。 原発に対する危機管理をコストとの関係から、ある一線で割り切った。だが、その割り切りが裏切られた。しかも被害者は原子力行政を担う役人たち、その他の関係者ではなく、福島県などの一般生活者であり、風評被害を受けたり、放射能汚染に不安を抱えている日本国中の多くの国民である。 原子力の専門家でも「割り切り方」を間違え、裏切られたとなると、絶対正しいと言える「割り切り方」は存在しないことを危機管理上考慮しなければならない。 存在させるとしたら、いくらコストがかかろうと、「割り切り方」の限界の限界を「ヒジョーに確率は少ない」隕石の直撃にまで置いて万全の危機管理体制取ること以外に方法はないことになる。 そこまでコストをかけたなら、「モノなんて絶対造れません」ということなら、絶対正しいと言える「割り切り方」が存在しないことを考慮することと併せて、原発を全廃するしか国民の安全と財産を守る方法はないことになる。 国民が常に安心して暮らす方法は見い出せないことになる。 |
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