玄葉外相の日米地位協定運用見直し発言に見る日本のアメリカに対する歴代政府を受け継いだ従属性

2011-11-27 09:39:01 | Weblog

 今年1月に沖縄県沖縄市で19歳の與儀功貴(よぎ・こうき)氏が米軍属の男性(24)が運転する車に跳ねられて死亡する事故を、「沖縄タイムズ」によると、那覇地検は3月、職場を出てから10分後の「公務中」の事故だったと認定し、日米地位協定に基づいて日本に裁判権がないとして不起訴にした。

 地位協定は公務中の米軍人・軍属による犯罪は米側に第1次裁判権があり、公務外では日本側にあると規定しているとしている。

 裁判権は妥当・公平な判決を持たせた正当な裁判を履行して初めてその権利所有の責任、いわば権利主体としての責任を全うしうる。この条件さえ備えていたなら、地位協定に矛盾はない。

 だが、米側は裁判さえ行なっていなかった。《米軍属の犯罪、裁かれず 06年から裁判権に空白》asahi.com/2011年11月13日3時0分)

 日米地位協定は公務中の軍人、軍属の犯罪について「米軍が第1次裁判権を持つ」と規定。軍人に対しては軍の裁判に当たる軍法会議で処分決定。

 1.1960年、米連邦最高裁で「軍属を平時に軍法会議にかけることは憲法違反」とする判決。

 2.最高裁判決以降、日米両政府はこの判決を尊重。

 3.但し地位協定規定無変更のまま、米軍が軍属に公務証明書を発行しないことによって日本に裁判権を事実上委ねる運用を行う。

 4.2006年から米軍は公務中の軍属の犯罪について証明書の発行を再開。日本の検察当局も「裁判権がない」として公務中の軍属の犯罪については不起訴とする。

 5.法務省調査で、08~10年の3年間に米軍属52人が公務中を理由に不起訴となっている。

 1月の沖縄市の自動車死亡事故を引き起こした軍属もアメリカで裁判を受けてのことではなく、沖縄米軍に拠る運転禁止5年の懲戒処分のみであった。

 公務中とすることで第1次裁判権を有名無実化していた。妥当・公平な判決を持たせた正当な裁判を履行せず、裁判権を蔑ろにし、記事が「空白」と表現している、権利主体としての責任放棄を行なっていた。

 勿論、1960年の「軍属を平時に軍法会議にかけることは憲法違反」だとする米連邦最高裁判決に従っているとされればそれまでである。

 但しそれはあくまでもアメリカ側の都合であり、アメリカ側の権利主張に過ぎない。日本側はアメリカ側の権利に合わせることで、日本側の権利を放棄してきたことになる。

 日本側に第1次裁判権を移せば、「軍属を平時に軍法会議にかけ」ないとする憲法要件まで抹消可能となり、日本側にとっての障害をクリアできたはずだ。軍属を平時に軍法会議にかけることができないなら、日本側に第1次裁判権を移して日本の裁判にかけようと動くことはできたはずだが、動くことはしなかった。
 
 つまり日本政府は公務中の軍人、軍属の犯罪について「米軍が第1次裁判権を持つ」と規定する日米地位協定の改定要求を出すことなく、アメリカの規定に従ってきた。

 言葉を替えて言うと、アメリカ側はこの規定をアメリカ側の利益としていたのだから、日本政府は日本国民の利益を無視して、アメリカの利益を日本の利益としてきたことになる。
 
 何と言う従属姿勢なのだろうか。アメリカの属国と言われる所以である。

 那覇地検の不起訴処分を受けて、遺族が那覇検察審査会に不起訴不服の申立を行い、那覇検察審査会が5月、「起訴相当」の議決を出した。

 多分、日本の利益を実現させるためにではなく、マスコミも伝えていることだが、普天間移設問題で沖縄県民の反対姿勢が強いことから、これ以上沖縄県民世論を硬化させてはまずいと、その観点のみで動いたのだろう、日米両政府は在日米軍の軍属が公務中に起こした重大事件・事故に関して地位協定の運用見直しで合意することとなった。

 その結果、軍属は11月25日、自動車運転過失致死罪で在宅起訴となった。

 だが、あくまでも地位協定の運用見直しであって、決して地位協定そのものの改定ではない。

 つまりアメリカの利益を残して、日本はアメリカ側に残した利益分、自らの利益を削った状態にして置くことを承知した見直しということになる。

 ここにも日本の米に対する従属姿勢を見ることができる。

 次の記事はその観点に添っている。

 《普天間にらみの合意=日米地位協定》時事ドットコム/2011/11/24-22:55)

 記事は冒頭で、〈日米両政府が、在日米軍の軍属が公務中に起こした重大事件・事故に関して地位協定の運用見直しで合意した背景には、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題がある。日本政府としては、基地負担軽減で成果を上げることにより、同飛行場の名護市辺野古移設に向けて前進を図りたい考えだ。〉と解説している。

 11月24日の記者会見。

 玄葉外相「非常に難易度の高い交渉だった。今回風穴を開けた意義は大きい。

 沖縄の皆さまに基地について理解を得なければいけない」

 基地についての理解を得るための運用見直しだとしている。日本国民の権利を守る国益追求を日本側の利益とする、その獲得を目的としたものではないと。

 この文脈での協議だったからこそ、アメリカ側に主体性を置いた条件付きの運用見直しで落ち着いたに違いない。

 〈今回の合意により、被害者を死亡させたり、障害が永続的に残る重い罪を犯したりした米軍属に対し、米国で刑事訴追が行われない場合、日本での裁判が可能となる。しかし、日本で裁判を行うには米政府の「好意的配慮」が必要とされ、個別の事件ごとに米側の同意を得なければならず、米側に裁量の余地を残した。〉・・・・・
 
 常に米政府の「好意的配慮」を條件とするということは日本で裁判を行うには米政府の「好意的配慮」を待つということであり、餌を前にして食べてもいいという合図を待つ犬の飼い主に対する従属性と同様に、ここにもアメリカに対する日本の従属性の存在を見て取らないわけにはいかない。

 記事は最後に今回の運用見直しの過去への遡及(「過去に遡って効力を及ぼすこと」(『大辞林』三省堂)は1月の事故のみで、それ以外は対象外とする運用見直しの合意だと書いている。

 要するに過去の事件・事故に関してはアメリカ側の利益を殆ど手つかずに残して日本側の利益には殆ど目をつぶった1月の死亡事故限定の運用見直しであり、この構造は地位協定を改定しない限り、当然、将来的な事件・事故に関しも反映されることになる。

 だからこそ、米政府の「好意的配慮」が條件づけられたということであり、日本のアメリカに対する従属性に変わりはないことを示している。

 以上、日米地位協定の現状を通して日本のアメリカに対する従属性を書いてきたが、先の玄葉外相の発言自体が日本のアメリカに対する従属性の表現となっている。

 「日米地位協定」に於ける不平等性を根本的に改正するのではなく、運用面でほんの一部常識的な線に持っていくことが「非常に難易度の高い交渉だった」と言っている。この言葉を裏返すと、わざわざ断るまでもなく、日本のアメリカに対する従属性に対応した“難易度の高さ”なのだから、玄葉外相は「非常に難易度の高い交渉だった」と言うことで、自分では気づいていなかったろうが、はからずも日本のアメリカに対する従属性の根深さを言い表していたのである。

 玄葉外相は11月22日、閣議後の記者会見で在日アメリカ軍の兵士などが公的な行事で酒を飲んだあとに起こした交通事故を、「公務中」の事故として、アメリカ側に優先裁判権(1次裁判権)を認めていることについて、「公務中」とは認めない方向で日米地位協定の運用を見直したいという考えを示したという。

 但し地位協定の改定ではなく、運用の見直しとしているところはアメリカに対する従属性から抜け切れていない姿そのものであろう。

 《外相“地位協定運用見直しを”》(NHK NEWS WEB/2011年11月22日 17時51分)

 記事は玄葉外相の発言すべてを地位協定の運用見直しの文脈で伝えている。

 玄葉外相「公の催しで飲酒して自動車運転をしたことが、公務として扱われるのはおかしいと、私はずっと言ってきた。まさに、強い決意で臨んでいる最中だ」

 「強い決意で臨」むべきは国民の正当な権利実現・利益実現の地位協定の改定であって、運用見直しで「強い決意で臨」むとするのは、やはり日本のアメリカに対する従属性から抜け切れていないからに他ならない。

 また「公務中」としてアメリカ側に裁判権が認められていながら、アメリカ国内で裁判が行われない状況に関して――

 玄葉外相「本当にありとあらゆる事態がそれでよいのか、問題意識を強く持っている。日米でしっかり協議するよう、事務当局に、再三、強く指示しており、今、協議中だ」

 玄葉外相の「問題意識」にしても、地位協定の改定ではなく、運用見直しにとどめている点にアメリカに対する日本の従属性を物語って余りある。

 尤もこの従属性は歴代日本政府の従属性をそっくり引き継いだ従属性でもある。


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