08年10月2日の衆参両院本会議での「給油活動」に関わる代表質問への麻生首相の答弁。
「(インド洋での)補給支援活動は継続が必要だ。テロとの戦いは依然継続しており、多くの国々が尊い犠牲を出しながらアフガニスタンでの取り組みを強化している。国際社会の一員たる日本が手を引く選択はあり得ない」(「時事通信社」2008/10/02-20:17))
9月14日午後(08年)名古屋市JR名古屋駅前自民党総裁選街頭演説会。
石破茂前防衛相(インド洋での海上自衛隊による給油活動について)「世界各国がテロと戦っているときに、油が高いからやめると言っていいのか」(「日刊スポーツ」)
「テロとの戦い」云々――
海上自衛隊の補給支援と言うと、政府はその正当性の決めゼリフとして創価学会が右へ倣えの念仏として唱えている「南無妙法蓮華経」と同じく「国際社会がテロとの戦いを続けているときに日本だけがやめていいのか」をバカの一つ覚えのように唱える。
10月7日の火曜日夜7時半からのNHK「クローズアップ現代」が「タリバン復活の脅威 ~テロとの戦い7年後の試練~」を放送していた。
NHKのHPは番組の要約を次のように紹介していた。
「米英軍による電撃的なアフガニスタン空爆から7日でちょうど7年が経つが、一時は殲滅されたと思われたタリバンが、ここ数年、急激にその勢力を拡大している。テロや戦闘に巻き込まれて亡くなった民間人は8月までに1400人を超え、NGOメンバー・伊藤和也さんが殺害された事件は、日本にも衝撃を与えた。なぜ、タリバンは復活したのか。詳細な現地ルポからその背景を探ると共に、国際テロ組織がパキスタンとの国境地帯に流入し、タリバンの活動に影響を与えている実態も描く。米軍は9月、ついにテロリストの温床となっているパキスタン国境の部族地域を攻撃。タリバン側は、パキスタンのアメリカ系ホテルを自爆テロで襲い、死傷者が300人を超える大惨事となった。泥沼化するテロとの戦いはどうなるのか。最前線から報告する。」――
その方向性を示す一つの兆候として10月8日の「毎日jp」記事≪アフガン:タリバンと和解交渉 治安改善策尽き 副大統領「戦闘だけでは勝てず」≫がアフガンの副大統領がテロ組織化したアフガン前政権のタリバンと和解交渉に入ったと伝えている。このことは副大統領が「戦闘だけでは勝てず」と言っていることが示しているように軍事力一辺倒のテロ制圧が効果を見い出し得ていない状況にあることを提示している。
記事の要旨は、タリバンを穏健派▽強硬派▽外国人勢力と分類、穏健派には既に政治参加への門戸を開き、外国人勢力(アルカイダのことを指すのだろう)とは交渉しないを基本姿勢と規定し、オマル師らタリバン強硬派に対しては、武装解除▽憲法(04年制定)やイスラム法が認める女子教育の容認等などを求める一方でタリバンが主張する外国軍撤退などには応じないという姿勢を基本条件に具体的な和解交渉に入っているとなっている。
但し記事は<現時点ではオマル師らタリバン強硬派がこれらの条件を受け入れる可能性は高くない。政府はさまざまなルートを通じて、オマル師との妥協点を探るとみられる。>と交渉の難しさを伝えている。
そして記事は<アフガン政府がタリバン強硬派との和解を模索せざるを得なくなった背景>として、<米軍主導のタリバン掃討作戦が国民の支持を得られず失敗し、タリバンが逆に勢力を回復したことへの危機感がある。副大統領は「支援国の中には、戦え戦えと言う国があるが、受け入れられない」と暗に米国の姿勢を批判。「戦闘だけでは永遠に勝てない。交渉は国造りに不可欠だ」と、国際社会に理解を求めた。
だが、米軍など外国軍抜きにアフガンの治安を維持できないことも事実だ。副大統領は「外国軍の駐留は有益」と語り、駐留米軍の増派計画については「関知していない」と述べ、事実上拒否しない姿勢を示した。>と伝えている。
その一方でアフガン副大統領のアメリカ批判とは異なるアメリカの動きを記事は後段で次のように伝えている。
ブッシュ米政権は<アルカイダと共闘していたイラクのスンニ派武装組織を治安要員として雇用し、「反アルカイダ」に転換させ治安改善に寄与した手法>をアフガンにも適用して<タリバンをアフガン社会に復帰させ、テロ組織アルカイダを孤立化することがアフガンでのテロとの戦いに不可欠との判断に傾いており、アフガン政府とタリバンとの和解交渉を注視している。>と。
さらにゲーツ米国防長官は<タリバンとアフガン政府との「国民和解」が必要との認識に基づいて> 「米軍の増派だけではアフガンの治安安定に寄与しない」と<軍事作戦強化にくぎを刺している>と、その動きを伝えている。
軍事力一辺倒のテロ制圧が効果を見い出し得ていない状況の打開策が妥結が簡単には見込めない旧支配勢力のタリバンとの和解交渉にかかっている――と言うことなら、当面は話し合いによる和解交渉と軍事制圧の二面作戦で臨まなければならない。
ここで問題となるのはアメリカが「テロとの戦い」の重点をイラクからアフガンに移している状況に関してである。2001年9月11日発生のアメリカ同時多発テロを受けて10月7日に開始した英米軍を主力としたアフガン戦争はタリバン独裁政権を倒し、アフガンに平和と民主主義の第一歩をもたらし成功したかに見えたが、テロを手段とした「タリバンの復活」の状況はアメリカが2003年3月19日にイラク戦争に踏み切りサダム・フセイン独裁政権を打倒、イラクに民主主義をもたらしたかに見えたが、宗派間闘争やアルカイダによる外からのテロの激発によって陥ることとなった最悪な治安状況と二重写しとなるもので、アメリカ軍の増派によって治安が回復といっても、テロを根絶できたわけではない。
10月9日の「asahi.com」記事はイラク中部で女性による自爆テロが発生、イラク軍兵士や市民ら計11人が死亡、19人が負傷したとAP通信の報道として伝えているし、10月11日の「47NEWS」はAP通信の報道を「共同通信」が伝える形で、シーア派住民が多数居住する<イラクの首都バグダッドの市場で10日、自動車爆弾が爆発し、13人が死亡、少なくとも27人が負傷した。被害者の中には子どもや女性も含まれている。>と伝えている。
さらに「47NEWS」が昨日10月12日の日付で同じくAP通信の報道を「共同通信」が伝える形でイスラム教スンニ派過激派によるキリスト教徒への襲撃事件が頻発していることを伝えている。
<イラク北部の最大都市モスルで最近、イスラム教スンニ派過激派によるキリスト教徒への襲撃事件が頻発し、地元州知事は11日、この1週間でキリスト教徒約3000人がモスルから近隣地域の教会や親せき宅に避難したと述べた。
11日だけで少なくともキリスト教徒の家3軒が爆破されたという。知事はAP通信に「(国際テロ組織)アルカイダ系組織が背後にいる」と述べた。
2003年のイラク戦争開戦後、イラクではイスラム過激派によるキリスト教徒への攻撃が多発、多数が国外に避難している。>――
このことは宗派闘争・宗派対立が依然として続いていて、決して終息していないことを示し、このような状況を狙った外からのテロも当然存在していることを証拠立てているはずである。
と言うことなら、イラクの治安がある程度回復した、「テロとの戦い」の重点をイラクからテロが頻繁化しているアフガンに移す、そういったプロセスが逆に両国の二重写しを再度イラクに写し返す危険性を当然のこととして考慮に入れなければならないのではないだろうか。
まさしくアフガンにしてもイラクにしても軍事力で制圧できないところへ持ってきて、軍事力が手薄になった状況を狙ってテロ攻撃を激化させる。テロの無限連鎖、「泥沼化するテロとの戦い」なのである。
NHKの上記「クローズアップ現代」≪タリバン復活の脅威 ~テロとの戦い7年後の試練~≫は内戦による灌漑施設の破壊や旱魃によって農業が成り立たなくなった農民の生活は彼らが栽培した乾燥地帯でも育つ芥子(けし)からアヘンを収獲し、それをタリバンが高値で買い取ることで成り立ち、タリバンはそれを高純度なヘロインに精製し外国に高値で売って得たカネで高性能な武器を手に入れ、テロに活用していると伝えていた。
番組の中で農民は他の農作物が栽培不可能な乾燥地帯で唯一可能な芥子の栽培と収獲したアヘンを唯一の買い手であるタリバン相手に取引することは家族を養うために背に腹は変えられないことだと訴えていた。
そう、人間は生活の生きものであり、人間にとって最優先事項は生活を成り立たせることである。芥子を栽培し、アヘンを収獲してタリバンに売って現金収入とする農民を責めることはできない。
だが、農民収獲のアヘンから精製したヘロインがタリバンの資金源、武器獲得原資となっていることが分かっている以上、農民の生活を奪わない形、あるいは農民の生活を保障する何らかの方法でタリバンとの関係を断たせることがテロ攻撃の力を弱めさせ、彼らをして和解交渉を進めさせる条件となることは誰もが認める結論であろう。
その方法とは早急に灌漑施設を整備して芥子以外に換金作物を栽培できるようにすることであるが、それが農民の急場の生活の成り立ちに間に合わないということなら、現在の都市主体の公共事業を農村の灌漑施設建設に集中させて農民をアヘン売買で手に入れるのと同等の賃金でその建設作業員に採用するか、あるいは芥子栽培を続けさせて、灌漑施設が整備できるまで政府がアヘンをタリバンの買値以上の値段で買い取り、モルヒネ等に利用できる部分は利用して後は焼却処分にするといった等の方法が考えられる。
勿論芥子栽培の農村地帯に軍隊を配置してタリバンの妨害テロの警戒に当たる必要が生じるが、その経費や農民の生活維持に投入する資金は国際社会が応分に負担すべきだろう。
現在の世界的な金融危機状況の解決策として金融機関への公的資金の投入の必要性が盛んに言われているが、アフガンに対するコスト負担は「テロとの戦い」に勝利し、世界に平和と民主主義をもたらすための“公的資金投入”だと思えばいい。
あるいは農家への戸別所得補償のアフガニスタン版である。
麻生たちのようにバカの一つ覚えのように「日本だけがテロとの戦いをやめるわけにはいかない」を唱えるだけなのは口では貧困の撲滅を言ったとしても、他人が言っているから自分たちも言っているだけのことで、テロ制圧の主たる方法であった軍事的対応をその効果を検証もせずに従来どおりに無条件に主たる方法とすることを頭に思い描いた「テロとの戦い」に過ぎないだろう。
「テロとの戦い」を言うとき、海上自衛隊によるインド洋での給油及び給水の補給支援活動に限った主張となっていることがそのことを何よりも物語っている。その先にあるのは米英等の軍事作戦だからだ。軍事作戦のみで対応しきれない、そこから一歩でも踏み出さなければならないのではないかという考えが頭にあったなら、補給支援活動のみに拘ることはなく、参議院でのねじれ現象も計算に入れて、そこからの転換を何らか図ったに違いない。
「Wikipedia」はアフガニスタンの経済状況を次のように伝えている。
<現在は歳入の大半を国際援助に依存しており、国民の3分の2は、1日2ドル以下で生活している。旱魃地域ではアヘンの原料となるケシの栽培が盛んであり、政府が対策に当たっているが功を奏していない。幼児の死亡率は1000人中257人と高い。2004年10月のユニセフの報告によると、幼児死亡原因の多くは非衛生的な水の飲料使用による慢性的な下痢である。>
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