「一に雇用、二に雇用、三に雇用」とはさすがに言わなかったが、久々に菅仮免十八番の雇用先行論を聞いた。雇用が経済の成長につながり、財政の再建に貢献するという景気回復のプロセス論である。
6月15日(2011年)の参院東日本大震災復興特別委員会で亀井亜紀子国民新党議員の質問に対する菅仮免の答弁で飛び出した。
亀井亜紀子議員は2007年当選の参議院議員。童顔だから、若いかと思ったら、1965年5月生れ46歳のオバサンに見えないオバサン。持ち時間は10分。
亀井亜紀子「被災地が復興できるかどうか、日本経済が立ち直れるかどうか、政府、具体的には財務省が国民のためにお金を出すかどうかにすべてがかかっています。一次補正のときに国民新党は10兆円規模を主張したが、その一部はファンドにして二重ローンに対応すべきだと主張した。財源は無利子国債を復興債として出す。総理と財務大臣の方針で、国債を一次補正に於いて発行しないことを決めたので、4兆円しかおカネが出てこなかった。
そして今、増税大合唱が起こっている。復興構想会議に於いて、税・社会保障一体改革集中検討会議に於いて、元々増税論者の有識者が多いものですから、増税の大合唱になります。
私は新自由主義に基づく緊縮財政、これが諸悪の根源だと思っていて、そろそろこの経済政策から決別していただきたい。プライマリーバランス黒字化を目指せば、財政再建できるという主張だが、これで財政再建できるのであれば、とっくにできている。
残念ながら、政府はときどきウソをつく。これは故意だと思わないが、政策の修正をしないためにずうっと辻褄合わせが続いてしまう。税収を減らした責任は財務省と内閣府の両方にあると思う。
一番いい例はいざなぎ景気以来の景気拡大を主張し続けたこと。2006年11月、内閣府の月例経済報告で、2002年2月から2006年11月までの58ヶ月間、いざなぎ景気を超えて戦後最長だと主張したが、これは数字のトリックだった。
実質GDP成長率がプラスであるから景気拡大だと主張したのだが、これは譬えれば、1マイナスマイナス5はプラスの6です。マイナス括弧、マイナスは括弧を取ってプラスになるから、それと同じロジックです。
名目成長率、マイナスGDPデフレーター、つまり物価総合指数を引くと実質成長率が出てきます。GDPデフレーターはデフレのときはマイナスですから、括弧の中にマイナス数字が入る。計算すると、実質成長率は高い数字となる。
この数字の読み方は経済成長ということではなくて、デフレがずうっと続いていると解釈しなければいけなかったのに、経済成長しているとずうっと主張していた。
小泉政権はこれを言い続けたが、実際は何が起きたかというと、2000年の末、小泉政権が始まる前は政府債務が368兆だったのに、2006年末には国債で137兆に増えて、541兆になった。
基本的にこの政策が続けられているので、今、政府債務が増え続けている。この政策の失敗を認めないまま、増税によって国民に責任を負わせようとしているのが今の財務省だと思うが、この私の分析に対して、野田財務大臣、与謝野大臣、どのように考えているか」
野田財務相「景気の話は後で与謝野大臣の方からあると思う。委員、ご指摘のとおり、いざなぎ景気というのがございました。私が小学校から中学校、まさに右肩上がりで、よくなっている実感がありました。
一方で今ご指摘のいざなぎ景気を超える景気拡大と言われた2002年1月から2007年10月、これ69ヶ月間ですが、今委員がご指摘のあったデフレ下であったというのは大事なことだと思う。年平均の成長率が2%で、途中で4半期ごとに見ると、いわゆる踊り場になっていることが何回も見られた。なかなか国民が実感を得られたかと言うと、そうではない。
その上で税収の関連のお話がありましたので、平成15年から平成19年にかけての財政状況を見てみると、一般会計の税収は43.8から51兆にまで増えてはいる。ただ平成2年のピークの約60兆円にまでは至っていないということが事実として一つある。
一般会計歳出は83.7兆円から80.8兆円とほぼ横ばいです。
ただ、公債発行額は35兆から25.4兆に減ってはいますけども、累積をしていくと、今ご指摘のとおり、公債残高は421兆から541兆に累増し、厳しい財政状況が続いたのは事実だと認識している」
実質的には経済成長が続いていたわけでなかったから、税収がさして増えているわけではないにも関わらず政府債務だけを増やす政策を続けてきた。「この政策の失敗を認めないまま、増税によって国民に責任を負わせようとしているのが今の財務省だと思うが、この私の分析」をどう考えるかと亀井亜紀子は質問した。
対して次の首相に望まれるだけあって、単に数字を並べて、「厳しい財政状況が続いたのは事実だと認識している」と結論づけたに過ぎない。
亀井亜紀子としては今の野田財務大臣下の財務省が消費税増税を目論んでいる、これまでの政策の失敗を引き継ぐ政策の過ちではないかと、その説明を求めたはずだが、正しいと考えて目指しているなら、その説明責任を果たすべきだが、増税に関しては何も答えていない。
与謝野変節漢「政府が持っている経済政策の、いわば道具立て、これは一つは日銀の金融政策。これは金利を上げる、下げる。あるいはおカネを市場に供給する。あるいは引き上げる、というのが金融政策の側面と。
政府が持っている経済政策としての道具としては、一つは税制、一つは規制緩和、一つは財政出動、この三つしか基本的にはない。
財政出動はバブルが弾けた以降、不景気なときに相当な財政出動をしたが、基本的に日本の経済は強くならなかった。一時的には有効需要が発生したが、それは波及効果がなく、持続性もなかったわけでございます。
小泉内閣になってからは経済に対してやや中立的な財政政策を採ってきた。しかし福田内閣になって、ガソリンが高くなった。こういう原油高に対する補正を組んだ。麻生内閣になって、リーマンショックがあったときに、日本の経済が底抜けしないように15兆円になんなんとする非常に大型の補正を組んだ。
それはそれなりの効果があったが、財政出動によって支えられる経済というのは先ずホンモノではない。やっぱり日本の経済が国際的な競争力を持つこと。それから内需がサービス業を中心としてもう少し生産性が高くなる、内需も高まる。そういう状況でなければならないと思っている。
デフレの要因は様々あるけれども、こういうふうに国境のない経済になると、諸外国の物価安、諸外国の賃金安が当然日本の物価、日本の賃金に反映してくるという避け難い現象が起きていると思います。
しかしインフレというのは、大変住み心地の悪い、勤労者の実質的所得も、あるいは貯蓄をしている方々の貯蓄も破壊する。そういう大変な悪質性のものとなり得るわけで、その点は十分注意をしながら、インフレとデフレを論じていかなければならないと思っている」
与謝野肇が政治家を辞めて高校の教員程度の評論家になったことを知らなかった。政府が持っている経済政策としての道具立てはどうのこうの、デフレ、あるいはインフレはどういったことだ、こういったことだといったことを解説するのが政治家の務めではない。
解決策を提示し、提示した解決策で解決を図るのが政治家であるはずだ。このような発言自体が与謝野の限界を既に示しているのではないだろうか。
与謝野は「小泉内閣になってからは経済に対してやや中立的な財政政策を採ってきた」とのみ小泉内閣の経済政策を端折って説明しているが、与謝野は2005年発足の第3次小泉改造内閣時代に金融・経済財政政策担当の内閣府特命担当大臣を務めている。
2001年4月26日から2006年9月26日まで続いた小泉内閣は2002年2月から2007年10月まで続いた、亀井亜紀子が質問で取上げている戦後最長景気にほぼ重なる。
この景気拡大期は周知のことだが、個人所得が伸びなかったことに伴って個人消費が低迷した、一般国民には実感なき景気と言われた。但し一般国民には実感はなかったことに反して大企業は大いなる実感を持つことができた景気拡大であった。大企業は軒並み戦後最高益を手に入れたのだから。
その結果として生じた、全般的な小泉内閣の経済政策がもたらすこととなった貧富の格差拡大であり、地方と都市との格差拡大であった。
与謝野が金融・経済財政政策担当の内閣府特命担当大臣として貢献しなかったとは言えない、一般国民には縁のなかった景気ゆえの貧富の格差拡大ということであろう。
与謝野は麻生内閣と福田内閣でも経済政策担当の特命担当大臣を務めている。だが、両内閣の経済政策は任期が短かったこともあるが、見るべき効果を上げることはできなかった。
だとしても、与謝野自身は豊富な経済閣僚の経験を持つ。その豊富な経験が言わせた最高の知見なのだろう、「日本の経済が国際的な競争力を持つこと。それから内需がサービス業を中心としてもう少し生産性が高くなる、内需も高まる。そういう状況でなければならないと思っている」と、日本経済回復の具体的な方法論ではなく、単に解説するだけの一般論を描いて見せている。
これまで与謝野も含めて誰もが目に見える具体的な成果を上げることができなかったのだから、当然の一般論なのかもしれない。
亀井亜紀子「私は10年デフレは財政出動によってしか解決しないと思っております。モノと貨幣のバランスに於いて貨幣が足りない、投資が足りない、おカネがまわっていないということが先ず原因だと思う。
デフレ下で増税してはいけないというのは国民新党にとって常識なのだが、菅総理大臣は就任したときにデフレから脱却しなければいけないということを強調していたが、デフレのときは増税してはいけないという認識は総理にはないのか、このバカ野郎が(とは言わなかった)」
我が日本の菅仮免がいよいよ大トリとして登場。
菅仮免「今の二人の大臣の話を聞きながら、ま、私もこの間、デフレの問題を考えてきた。デフレの原因は何か。一言で言えば、モノで使うよりもカネで持っていた方が安心だと、この状態が今の日本に於けるデフレだと思う。
おカネを持っていた方が安心だという人から何らかの形で強制的にと言いましょうか、使わせる方法は国債で借りて、使うか、あるいは税で以って使うかだと思う。
私はこの前の(自民党内閣のという意味か)財政政策は基本的に間違っていたと思うが、それは何が間違っていたのか。財政出動が大きかったから、小さかったからじゃなくて、使い道が間違っていたと。
つまりは雇用を生み出すような方面に使わなかったことが結局のところ間違っていたと。つまり雇用というものは必ずそこに、例えば失業率が低下をし、新しい人たちが給料を貰いますから、新しい消費が生れる。そういう形で全体として需要が不足しているのがデフレのもう一つの側面でありますから、それをカバーしていくことができるわけです。
ですから、私は財政によくおっしゃるように、確かに増税がいいとか悪いとか議論をすれば、それは誰も増税が好きなわけではない。しかし私が考えるのはデフレのもとに於いては何らかの形でそれが将来の、国債だって将来は償還しなければいけないわけだから、何らかの形でおカネを動かす必要があるわけだから、使い道を間違っていないようにしていけば、雇用を中心にした需要の拡大を大きな柱にしてやってきたつもりです」
「一言で言えば、モノで使うよりもカネで持っていた方が安心だと、この状態が今の日本に於けるデフレだと思う」とはなかなか見事な経済論だが、「モノで使うよりもカネで持っていた方が安心」だとする、いわばデフレで物価が安くてもカネを出して買うことを控える状況とは個人所得上昇の保証がないこと、あるいは不景気でいつリストラに遭うか分からないことによる個人所得そのものの保証があやふやだといった状況を前提としているはずで、会社の経営と個人所得が低迷した状態で悪循環していることに原因があることへの視点を欠いたまま堂々と自らの経済理論を述べている。
亀井亜紀子「時間ですので、これで終わりたいと思います」
時間など図々しく無視して、「雇用を生み出すような方面」にカネを使えば間違いない、「雇用を中心にした需要の拡大を大きな柱にしてやってきたつもりです」と言っているが、就任から今日までの1年間にどの方面にどう使ったのか、1年間の成果は何かあるのか追及すればよかったが、2007年当選の参議院1期生のせいか、すんなりと引っ込んでしまった。
政治は結果責任である。「やってきたつもりです」では済まされない。「やってきた」ことの成果が能力発揮の証明となり、業績とすることができる。
菅仮免は首相就任後、雇用を生み出す方面として盛んに介護や林業・農業を挙げて、「一に雇用、二に雇用、三に雇用」とバカの一つ覚えの呪文のように唱えていた。
多分、その成果なのだろう、リーマンショック後の派遣切りで仕事を失った大量の派遣契約労働者が少なからず介護職や林業・農業に就職したが、これは単なる人材の移動に過ぎなかったから、全体としてプラスとなる雇用とは言えない。
但し与謝野変節漢が「財政出動によって支えられる経済というのは先ずホンモノではない」と批判しているエコカーや家電エコポイント制、エコ住宅等の財政出動によって統計上は一見完全失業率が少しは持ち直したように見えたものの、個人消費は低い水準のままだし、大学生の震災前に当る今年2月1日時点の就職内定率は過去最低の前年同期比2.6ポイント減の77.4%(asahi.com)といった貧弱な雇用状況にあり、対して高校生の場合は僅かに改善していたが、低い給与の人材に集中した雇用と見ることができ、全体として見た場合、決して褒められた雇用状況とは言えないことからすると、どこにどう使ったのか、「雇用を中心にした需要の拡大を大きな柱にしてやってきたつもりです」が成果として見えてこない。
だが、菅仮免が首相就任の2010年6月前後からの日本の景気の回復軌道はリーマンショックからいち早く立ち直った中国を中心としたアジアの外需に主として牽引されもので、アジアに引き続いた欧米の景気回復が後押しした欧米向け外需が併せてもたらし、財政出動政策による内需を従とした国内生産の増加であり、企業収益の改善だったはずだ。
但し国内生産の増加と企業収益の改善に必然的に伴う雇用の改善、完全失業率の持ち直しは大学生の震災前の時点での就職内定率が過去最低であることから分かるように正社員向けのものではなく、震災の影響から立ち直ってホンダ自動車が1000人の期間工を採用し、富士重工が400人の採用に踏み切る採用状況が示しているように現場従業員向けの雇用が主体ということであろう。
《ホンダ:期間従業員1000人採用へ 生産急回復で》(毎日jp 2011年6月16日 18時28分)は書いている。
〈ホンダは4月、埼玉製作所に勤務する期間従業員約600人を順次削減し、9月中にゼロにする方針を決めていたが、6月下旬に生産がおおむね正常化する見通しとなったため撤回する。すでに契約を満了した人についても、本人の意向を確認して再度契約する方針。〉
常に調整を受ける状況にある期間工員となっていて、実労働に於けるそのときどきの雇用状況に大きく影響を与える存在となっている。
また、外需に牽引される日本の景気が常態となっていることから見ても、決して「雇用を中心にした需要の拡大を大きな柱にしてやってきた」政策の恩恵を受けた雇用とは言えない。
それをさも「雇用を中心にした需要の拡大を大きな柱にしてやってきた」ことが成果を挙げているかのように言うのは盗人猛々しいとしか言いようがない。
菅仮免は震災対応でも遅滞と混乱を招いているにも関わらず、「政府を挙げてやるべきことはしっかりやってきていると、そのように考えておりまして」と盗人猛々しいウソ偽りを平気で口にしているが、そのことが教えてくれる、例の如くにやってもいないことをやっていると言っているに過ぎない奇麗事と、奇麗事を言うしかない無能を曝け出しているに過ぎない。
「菅の顔を見たくないのなら、この法案を通してくれ」とか、ピースサインを見せて悪乗りしている場合ではない。サルでも反省する自身の無能の反省を示すべきときがきている。
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