誰もが当たり前のこととして考えていることだろうが、確かに事故原因究明は省いてはならない。それがイージス艦乗務員の如何なる怠慢・杜撰さから発生した衝突事故であり、結果として如何に緊張感を持たない弛緩した欠陥組織だったと世間に暴露することになったとしても、それらが影響して肝心の救助の場面でも事後処理動作が十分に機能しなかったことが判明するとしても、組織を覆っている正真正銘の中身=現場組織の体質を明らかにしなければならない。明らかにすることによって得たそこにあった“事実”が「再発防止策」の一助になるからだ。
事故そのものの原因解明の次に原因の由来――いわば現場組織の体質の由って来る素因の解明を持ってこなければ、組織改革につながらない。悪しき体質を組織の中に抱え、それを慣習化させ放置してきた制服組・背広組等の上層部の体質である。指示・指揮に油断や過誤がなったか、機械化していなかったか、現場を統率する能力に欠けていたのではなかったか等々である。
もし上記そういうことであったなら、現場組織の体質が現場のみにととどまらず、防衛省全体の体質の問題となる。それをも解明することによって、成果を挙げることができるかどうか別問題であるが、少なくともどういった内容でどうすべきかの防衛省改革の方向性は見い出すことはできる。
成果を挙げることができるかどうかは別問題と言ったのは、権威主義性に主因があると気づかない以上、成果を挙げることはできないと見ているからだ。成果を挙げることができるなら、潜水艦「なだしお」の事故後、改革の成果を挙げていたはずである。
上の指示・命令に機械的に従う権威主義性を行動様式としている間はそれぞれが自発行為、あるいは自己責任行為とはならない。上の命令・指示に対して疑問があったなら、こうすべきではないか、ああすべきではないかと自分の考えを言うだけは言う。そういった姿勢のみが自己行為を自発行為とし、自己責任行為とする。自発行為とは上からの命令・指示に機械的に従うのではなく、例え上の命令・指示であっても、自分で考え、自分でどうすべきかを決めて行動すること言う。自分自身の行為とする以上、常に否応もなしに責任は付随するし、付随させなければならない。
原因究明が単に衝突事故に至った原因だけを明らかにし、その点でのみの過失を問い、責任を問うだけで完結する、あるいは防衛省の事故後の対応と情報公開の拙劣さを批判を受けたという理由でおまけにつけて責任を問う処理で完結するなら、現場と防衛省を含めた組織全体の体質の追及を省略することとなり、体質は温存され、改革は表面的な形式で終わりかねない。
ということなら、原因究明もさることなら、組織上の「体質」がどうなっているか、徹底的に究明することにもウエイトを置かなければならない。いわば現場の体質に問題があったなら、そのような体質を許し放置してきた防衛省の体質をも俎上に上げて、改革の矛先としなければならない。
果たしてそういう方向に進んでいるのだろうか。
確かに石破大臣は防衛省改革を唱えてはいる。「内局と各幕僚監部を統合・再編する抜本的な改革構想を提示」(≪覚悟の石破氏 かばう首相 『辞めて喜ぶのは防衛省』『組織改革が大事』≫08.3.1東京新聞から)しているそうだが、石破防衛大臣の共謀も疑うことができる内局のイージス艦の不始末を隠蔽する方向の情報操作が「説明の二転三転」といった形で、あるいは事実がありながら説明せずにおく情報隠蔽が時間が経過してから後付の説明で明かすといった形で露見しているのである。現場の漁船灯火の視認が「2分前」から「12分前」に変転したことなどと合わせて考えると、どうしても同じ体質を持った防衛組織と把えなければならないはずだが、石破の改革論には口では色々と言っているだろうが、自身の行動自体にも目を向けなければならない体質を問う確固たる視線がない。
もし同じ体質を共有しているということなら、同じ体質の「内局と各幕僚監部を統合・再編する」こととなって、「抜本的改革」が「抜本」ではなく、本質問題を省略した形だけをいじる改革となる可能性大である。
イージス艦「あたご」が潜水艦「なだしお」を教訓とし得なかったように、次の何かが
イージス艦「あたご」を教訓とし得ない事態が起こり得ることも予想できる。
石破防衛相は29日(08年2月)午前の閣議後の記者会見で、<「いつでも(事故の責任を取って辞任する)可能性がある。危機管理をやっている者、国務大臣を預かる者はいつも、そういう決意を持って臨まなければ仕事にならない」>と<自らの進退について、原因究明や自衛隊・防衛省改革にメドがついた時点で判断する考えを表明した>(≪石破防衛相、原因究明や改革にメド時点で進退判断≫08.2.29/「読売新聞」から)と述べているということだが、そのような形式の辞任は自衛隊・防衛省双方の体質を問わずに逆に隠蔽する辞任となり、情報隠蔽や情報操作への自身の関わりをも無化する体裁のいい政治決着ともなり得る。
現場共々、防衛省内に於いてどのような情報操作があったのかなかったのか、どのような情報隠蔽があったのかなかったのか、その方向に向けた究明を省いたまま、「原因究明や自衛隊・防衛省改革にメドがついた時点で判断する」といった自分で自分の花道を用意するような「体裁のいい政治決着」の辞任にさせてはならない。
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